愛馬は「カラドリウス」―――そも、馬ではなく巨大な魔鳥なのだが。
モルドレッドは母の友人から与えられた何処で捕まえたのか不明な魔鳥を乗りこなし、故郷の空を駆った。カラドリウスに騎乗し、戦場を自由自在に舞う。馬ではなく、鳥である理由は一度だけ乗せてもらったことのある騎士たちは理解した。
上空の空気は冷たかったけれど、それでも美しいものが見える。我らの故郷が見えた。たとえ何が攻めて来ようとも、何があろうとも、崩れることなき我らが愛する故郷。
我らの一等愛しき白亜の城が。太陽の光を浴びて、雨の粒を浴びて、風を浴びて、大自然の吹きすさぶ嵐を前になお、悠然と佇む白亜のなんと美しきことか。
「それに、彼は夜目が効く。」
何より移動が一等早く、野生の勘が冴え渡る。
そんな相棒のおかげで、モルドレッドは窮地に及んだ仲間の危機を誰よりも早く感じ取ることが出来る。カラドリウスを相棒として迎えたモルドレッドだけの特権だ。
素晴らしきことだろう。晴れ晴れとする声色を受けた騎士たちは、兜ごしにモルドレッドの笑顔を幻視した。それは、かすかに口角が上がって目元が柔らかくなる程度の、へたな微笑だったけれど。モルドレッドのはじめての笑顔だった。「卿は人助けをするときが一番輝きますね。」そう言ったのは、友人のどちらだったか。
しかし、そんな言葉にモルドレッド卿は普段通りの表情で返した。思わぬ不意打ちのカウンターを受けた騎士たちは、揃って壁に手をつきながら呻くことになる。純粋なる少年騎士からの猛攻である。一撃必殺を連続して撃ち込んだ。効果は抜群であった。
「我が生き甲斐とも言えましょう。」
「民草が笑顔になると王がお喜びになる。」
「無論、貴卿らも。」
「俺にはそれが、一等嬉しいんだ。」と。
さて、そんなモルドレッド卿の愛鳥カラドリウスと言えば、モルガンが連れて来たカラドリウスに驚愕した弓兵が語らった伝承がある。
その伝承とは、神獣であることだ。
神の御使いであるカラドリウスは
その存在の確認が取れただけでも歴史に名を残すべきことであったが、モルドレッドはそれをしなかった。そもそも、モルドレッドとて生涯の中でカラドリウス以外の似たような魔鳥は見たことがなかったから、たった一羽の相棒であること以外はどうでもよかったのだ。
全体に白っぽく、けれども首の周囲、尾の付け根、足は漆黒を纏う。目は極端に小さくつぶらで可愛らしく、嘴も堅く小さめ。その嘴で何度も仲間を咥えるようにして救ってきたことか。
首によく分からぬ生物の書かれた袋をぶら下げ、稀にその袋が痙攣するのだが。そんな伝承として伝えられる
喜びをもたらす意味の名を与えてくれた相棒を、伝説はただ愛した。そして、反転、理屈、屁理屈、転換を重ねながら、演算を開始する。
自らの生命を犠牲に人から神へと転じようとした王をヒトの世に留まらせた
けれども、今までは上手に付き合ってくることが出来たのだから、その原理を劣化するけれど、真似ることは可能である。彼の身を蝕む“痛みを病”と認識し、カラドリウスは大きく吸う。
―――伝承は“生”を謳う。
首元にぶら下げる袋が大きく痙攣し、黄金に輝く卵が産まれた。まさしく伝説そのものだと花の魔術師は微笑みながら一連の動作を見届ける。
―――相棒、おたべ。
―――これをおたべ。
―――君の
黄金の卵を叩き割って出てきた粒を嘴で挟む。薄く開かれた口に小さな粒をコロリと転がして、再生がはじまった肉体に達成感を得る。そうだ、君は元気であるべきだ。
また僕の名前を呼んでおくれ。君がつけてくれた、名前を。不器用な君の声で、僕はただそれが聞きたい。またその瞳に僕を映しておくれ。不浄を焼き尽くすような瞳が、篝火のように宿るのがただ見たい。
美しい花々が咲き誇る塔の下でカラドリウスは翼を折りたたむ。最愛の相棒の眠りに寄り添う形で、ただ彼が目覚めるまで待つことにしたのだ。
―――記憶が再び反芻する。
■―――
ある昼下がりのことだった。
燃やすと言ったから、ベディヴィエール卿が預かることとなった日記を返却しようと、キャメロットへ帰還したモルドレッドへ手渡したことが始まりであった。
友に預けた半生。持ったままでは今後のことが生きづらくなるような気がするから、やはり燃やすのだと言う彼になんだかもったいないような気がして引っ込めて。そんなベディヴィエールの様子に、今までの秘密主義を何処へやったのかモルドレッドが言ったのだ。
「我が歩んだ道に恥ずべきことは何もない。不義の子であることが周知となってしまった今、隠す必要もなくなった。見るか?」
そんなことを口にしながら王の御立場が不利なものとならぬよう、毎日のように『自分は王の子ではありません。』と否定するのは何処の誰なのだろうか。
それとて恥ずべき行動ではないと言いきるのだから、円卓に迎えたばかりの宣誓を忠実に守る姿にあらゆる意味で胸を打たれる。彼の口から否定が出るたび、アルトリウス・ペンドラゴンの背に暗雲が立ち込めるのだ。
それに気づかず堂々たる態度で『王に私のような息子がいては大変でしょう。』と否定するモルドレッドに心の中で同意する。確かに大変だろう。他者に対しては敏感なのに、自分のことに関しては鈍感な息子がいては。
心配されても首を傾げ、自分の怪我にもとことん無頓着で誰かに手当てされるまでは気づかぬ始末ともなれば気苦労は耐えんだろう。
実際、モルドレッドが遠方まで調査、討伐など行く際には必ず二人のお世話役として騎士が選抜されるようになったのだ。
一般騎士では足手まといになるので、とモルドレッドからやんわりとお断りしてしまう故に、同伴者は円卓の騎士となってしまうのだが。
ベディヴィエール卿には、その苦労ですら、今は嬉しく感じる。王の機微には敏感に反応する感情を自分にまわせと説教を喰らわせてやりたかった。モルドレッドとしては、なんだかよく分からんがそう行動すると王がちょっと喜ぶ程度の認識なので、なんとも言えなくとも。
結局、興味に負けて日記を読ませてもらうことにした。
ベディヴィエールは、キャメロットにある彼の自室にお邪魔する。背を預け合うようにして、中身を読み進めると驚愕の内容ばかりであった。流石はアーサー王の嫡男、と称賛したくなるような武勇伝の数々である。
「も、モルドレッド卿! じ、実際には今までドラゴンをどれほど倒されたのですか?」
日記が途中で討伐記録に変わった部分のことだろうか、とモルドレッドは首を捻る。詳しくは分からないがそこに記載がある通りだ。
「―――……今まで食べたものの数なんか覚えてるわけないだろ。」
むつりとした表情と。ワイバーンも竜種だと言われたときの衝撃が綴られた日記を見下ろして、ベディヴィエールは悟りを得たものの微笑みを浮かべた。モルドレッド、ちょっと天然気質。
怒ってませんよと微笑むと強張った彼の肩からも力が抜けた。悪いことはしていないつもりだと訴える紅を肯定する。しかし、本人ですら覚えられぬほどの討伐数は、報告に上げるべきだろう。証拠の品として日記があるならば、功績として数えられるはずだ。
武勲を立てることの喜びを知りながらも、それのために騎士であるわけではないから必要ないと言ってしまうのだろうけれど。
円卓加入からの日記を見る限りでは、既に数十頭は大型のドラゴンを倒し、それらは全てモルドレッド卿が愛用する武器や防具として新調したようだった。
モルガンからの仕送り、と花の魔術師がふざけて持ち込んだ木箱の受取人がすべてモルドレッドであったことから、おそらくは、そうだったのだろう。マーリンはともかくモルガンの術が施されたそれらは、鍛冶屋の元をそれらが離れた瞬間のほんの数時間程度の出来事である。
母親であるモルガンと違い、宮廷魔術師であるマーリンは、息子だと分かってからそわそわするアーサー王の為にモルドレッドへのサービスとしてドラゴンを倒すたび届けられる新たな武器に恩恵が与えられるように術を施しているのだが。
槍は二、剣は三、斧は一、鞭は一、爪が二、盾が二、その他にもまだまだバリエーション豊富なもので、モルドレッドの『武に関する天賦の才』を見た瞬間でもあった。
当の本人がしれっと誰もを圧倒するような力をつけてくるので、気が付けば『嫉妬するのも馬鹿らしくなるほどの全自動世界破壊兵器』レベルにまで成長している。ランスロット卿と良い勝負だろう。とはいえ、モルドレッドは大型、人外特攻なので競う部分が違った。
「……流石ですね。友として誇らしく思います。」
「それはこちらのセリフです。あなたがアルトリウス王を支えてくれるから、私は白亜の城から遠く離れた場所でも力を揮える。」
奇しくも、それは最期のときにかわした言葉と同じ意味を持つものだった。懐かしく感じるそれを抱きながら、彼は責務を全うしたのだろうと安心感でモルドレッドの意識は揺蕩う。
■―――
兜を装備したままの時代の、ガラハッド卿が健在の頃の話だった。
白銀の髪を二つに結って下ろす菫色の騎士。ベディヴィエール卿は意外そうに目を瞬かせて、黄金色に輝くスープを飲んだ。
「
「ええ、とても。……モルドレッド卿の母上が考案されたレシピなのですよね?」
ほかほかに温まって、さらには味も良く、心なしか気分が安らぐようだった。とろりとした食感がまたパンと合うのだ。
人に感動をもたらすドラゴンのスープ。素晴らしき名。なるほど、と頷いたのは隣で同じく味見と称してコップに注がれた黄金色のスープを飲むガラハッド卿だった。
今日一日で消化しきらねばならぬ竜の素材で作った料理の数々は、このあとで出すもの。勤務中の食事をとらない生真面目なガラハッド卿は、香りに気になりながらも一向に近寄っては来なかった。しかし、視線は気になったモルドレッドはその真面目さを逆手にとって『王にも食してもらう予定故、味を見てくれないだろうか。』と仕事の一環として誘ったのである。
モルドレッドが親しくする人間は極めて少数側の人数で、よく共に遠方まで戦場を駆け回るベディヴィエール卿、彼の一番の親友であるトリスタン卿、意外と気が合うガラハッド卿、世話焼きのケイ卿以外では、なかなか他者とコミュニケーションをとっている様子が見受けられなかった。
敬愛する王とは会話に弾むときと、まったくの無言のときと温度差は激しいのだが、それは王の悪評が少しでも流れる事態を許さぬモルドレッドがそうならぬように生粋の騎士であらんと己を御するからだろう。母親がモルガンであることが露呈してからは、余計に。
それを聞くたびにトリスタン卿は口癖をハープとともに零し、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。あなたは必要とされる存在ですよ、とは何度口にしたことか。王の悪評を許さぬ彼は、己の存在を許さないのだろう。
「ええ、此れならば王もお喜びになるでしょう」
「だが安定して収入できる食料にはならんのが残念だ…。」
それに、と二人の騎士は顔を見合わせる。
白亜の城。その庭に撃ち落とされたままの黄金色の竜の屍を思う。あんなに巨大な敵であれば数頭狩れば民は飢えずに済むかもしれないが、それではモルドレッドの負担になる。大型の竜を倒せるものは、まだアーサー王とモルドレッドの二人だけなのだ。
加えて、不要に竜を狩っては生態系が歪むとかなんとか花の魔術師の言葉もある。こちらに関しては、ドラゴンの肉を食らおうとする人間は多くとも、その肉を捌き切るだけの力を持つ人間が存在しない。ほぼ無傷。マイナスゼロで事を片付けられる騎士はおそらくモルドレッドと、ドラゴンの頭の名を冠するアーサー王のみなので心配はないだろう。また、王は責務を全うせねばならぬ。故に、必然的にドラゴンを狩るとすれば騎士だ。
ガヴェイン卿やランスロット卿も候補に上がる。どちらも騎士としてかなりの腕前だが、竜相手では不利な身だった。そのため単騎で、それも周囲に被害がなく終わらせられる人物が―――モルドレッドが選ばれることとなるだろう。無論、調理まで。
今回の此れは、不採用になったドラゴンで食料を賄おうと口にしたモルドレッドの『ドラゴン料理』の試食会―――のようなものだ。(本人曰く)負担になるようなものではない。
せっかく活きの良いドラゴンを綺麗に狩り落とせたし、おいしく料理します。とやや普段よりも輝かしいモルドレッドに胸を打たれたアーサー王が企画。騎士たちの親睦を深めるための会に出す『ドラゴンの肉を使った』食事の用意を、モルドレッドが一任されたのである。
流石に一人では大変だろう。とベディヴィエールが側に置かれたが、基本的に味を見るだけの仕事なので、任を受けたベディヴィエールは正直拍子抜けだった。
しかし、と。
厨房でやや生き生きとした様子で肉を捌くモルドレッドを間近で見られる特等席。それを得られただけでも良しとしましょう。手伝うと言ってもほぼ出来上がる料理を待つだけのベディヴィエール卿は用意した大皿を並べて微笑んだ。
「…おや、昼寝をする場所を探していたら―――そのような場にあやかる機会を得られるとは。…友よ、あなたの手料理は絶品です。また口にすることが出来ようとは、私は嬉しい。」
「トリスタン卿! ああ、ぜひ味わってくれ。王も食されるから、」
「ええ、詩を口ずさむように言葉を。」
その日の晩は、ベディヴィエール卿、ガラハッド卿、トリスタン卿の手を借りて準備した竜の肉をふんだんに使った豪華な料理が庭に並んだ。
酒を飲んで、料理に舌をおどらせ、トリスタン卿の歌で踊る。当初の目的、親睦を深めることは見事に成功し、アーサー王は姉の子どもの手料理を口にすることが出来たのだった。
―――…
記憶と意識が交差する。
敬愛する王、親愛なる友、守るべき同胞や民草の存在。我らが故郷、白亜の城。それらが全身を巡るような記憶を受けて意識が覚醒した。
咳き込んで、目を覚ました。―――……ぼやける視界に広がるのは、一面の花。花、花、花、花花花。普通の花ではなく何かしらの魔力で繁殖する花と考えた方が良さそうである。どこか見覚えのあるそれは母の統治する塔のよう。此処はまさか理想郷アヴァロンなのか。立ち入ったことがなくても、その香りには覚えがあった。
魔力の密度が非常に高く、傷ついた肉体を癒すには心地良いとまで感じる。と寝ぼけた脳が、場所を理解したところで目を瞬かせる。―――…何故?
「ようやくお目覚めかい、モルドレッド卿。」
「………、…?」
柔らかそうで、まったく何も抱いていない声がした。だれ、だったか。ぼんやりと瞳を向けると、銀髪の男はわざとらしく仰け反った。
「おぉっとぅ!? 忘れられてしまったのかな!? 私だよ、花の魔術師マーリンだぞぅ!?」
嗚呼、そうであった。まーりん。花の魔術師。しかし、それ以上に気になることがある。我が肉体は死したはず、我が魂は還ったはず。その感覚は確かにあった。けれども、モルドレッドは何故まだ生きていると思えるのだろう。
死したはずの人間が蘇生されるなど到底ありえぬこと、それが夢魔であるマーリンであっても不可能。であれば、―――……何故?
「不思議そうだなぁ。普通は両手放しで喜ぶもんじゃあないかい?」
愛馬のカラドリウスが、一度きりの奇跡で蘇生してくれたのだと言った。では、その相棒は。無事なのか。不安に駆られたモルドレッドの頭部に、ふわりと柔らかな羽毛がめり込む。
「カリス……!」
「キュウ。」
震える声で、相棒の名前を呼ぶ。応えるように、羽毛がぶるりと震えた。すこしばかり動きづらく感じる肉体を強引に動かそうとすると、その羽が震えてモルドレッドの身体を支えた。
嗚呼、と言葉にならない声が零れる。縋りつくようにその身体へと腕を伸ばせば、相棒は全身で受け入れてくれた。最期に自由を告げてやれなかったことが心残りだったのだ。
だが、彼が此処に居ると言うことは。せっかくの自由を棒に振ってでもモルドレッドのことを選んでくれたことを示す。ずっと側に居てくれたことへの喜びと、再会できた歓喜で胸がいっぱいになる。
「うんうん、仲良きことは美しきかな。それで、奇跡的に死者の国から生還したボロ雑巾のような君を、我らの王様がアヴァロンへ引きずり込んだんだ。」
そうしてしばらく時を忘れるように抱きしめ合うようにした一人と一羽だったが、マーリンの言葉で最初の姿勢に戻る。カラドリウスこと、カリスの腹に背を預けてゆったりと座り込んだ。
蘇生しきらぬ身ゆえか、モルドレッドは威烈な雰囲気の合間にぼんやりとした様子を見せる。そうして理解しきれなかった騎士に向かってマーリンは隣を見るように促した。
モルドレッドが真横を見れば青き鎧を纏った、敬愛すべき王がそこには眠っていた。愛するべき父親でもある彼の、横たわった姿に自身を襲う倦怠感やら痛みやらを無視して無理矢理に身体を起こした。小手やら手袋やらを外して口元に手をかざす。息はある。―――……顔色も、あのカムランの地で見たときよりも色づき、今にも動き出しそうでもあった。
けれども、魂を感じられず、モルドレッドは衝撃を受けた。決して死したのではなく、ただ眠っているようだと感覚で分かるけど。その魂は別の場所にあるように見えたモルドレッドはマーリンへと視線を向けた。
「王は……!」
「命は助かったよ、君とベディヴィエール卿のおかげでね。でも、彼は、世界の為に、その骨身を粉にして、英雄の欠片となり、
神とならんとしたアルトリウス・ペンドラゴンの抑止となったのは紛れもなくこのモルドレッドである。そんな彼が、お前の敬愛する王は世界のために身を投じたと言われて大人しく出来るはずもなく、ここぞとばかりにふらふらしまくるマーリンを押し倒し、顔の横に剣を突き立てた。
見るからに冷や汗を流すマーリンは、その実、内心ではなんとも感じていない。モルドレッドが万全な調子であったのなら、からかうように「乱暴なことをするねえ」と言ってのけさえするのだろうけれど、今の彼は手負いの獣と変わらぬそれだ。
だからこそ、剣を突き立てたままマーリンへ向かって低く唸るように一言。彼が望む世界を切り開くことこそが、彼の騎士となった我が身の為すべきことである。未だそこへ至らぬのであれば、なおのこと剣として振るわれるべき身。モルドレッドは、唸るように言った。
「私を使え。」
アルトリウス・ペンドラゴンが世界のために身を投じたと言うのであれば、それに付き従い、時には諫めることも家臣の務め。あの無茶を繰り返す心優しき王の側に、優しさを与え続けた隻腕の騎士は居ない。であらば、それまではせめて。
―――…誰かのために人間性を捨て去ろうとした王を引き留めるのは、カムランでしかと果たしたモルドレッドの役目である。
せっかく斬ったはずの繋ぎが再び結ばれたことも気になるし、他の円卓が集うまでの間、やはりお側に控えておくべきだろう。何より、自分は
その後、マーリンはあれこれと何かしらを弄って、モルドレッドの意識は薄れてゆく。生きたままの神秘を纏うものを英霊の座に押し込むのは困難なのだけれど、とぶちぶち愚痴るマーリンの足元にあらわれた獣が噛みつき、作業速度が上昇した。小動物に嫌われるなんて―――なんというかマーリンらしいな、と思った。
カリスの身に全身を預ける形でモルドレッドの身体から力が抜ける。次に目が覚めたときには王の側だろう。それ以外にはありえない。「もしかして、私円卓にボコられる?」 そんなマーリンの言葉を耳に―――世界は暗転した。
――――……そうして白亜の騎士たちは、新たな運命に身を投じる。
「まぁ、でも、今度こそ、バッドエンドに一直線じゃなくて、ハッピーエンドに向かって頑張っておくれよ。私は君のことが嫌いではないからね。」
小さな獣は脛を齧った。
オマエが島流しさえしなけりゃあの子はあんなに一直線に地獄へ進んで行かなかっただろうよ。人の感情を糧に成長する獣は、ケッ、とつばを吐き出して彼らの背を追った。
さあ、ハッピーエンドまでの道のりには、あんなろくでなしなんかじゃなくてボクが一緒に行ってあげる。今度こそ、自分の幸せというものを掴んでごらん。王様も、君もね。
ぴょんと紫をくゆらせた銀色を跳ねさせて、獣はアヴァロンから消えて世界の壁を越えた。
―――Fate/Grand Order