晴れ渡る空のような瞳が、ゆっくりと沈むのを見た。
とっさに少年のフォローをしようと開きかけた唇は言葉を探してはくりと震えて、行き場をなくした呼吸が空気に溶ける。どんな言葉を掛けようにも、魔術師ではない少年を自分たちの都合に巻き込んでしまったことに変わりはないとマシュの冷静な部分が訴えたからだ。
魔術は神秘であり、神秘は忘れ去れてゆくものであり、人目につかぬものであるからこそ神秘である。隠し続けたそれを無理矢理に押し通し、隠すべき相手を
魔術師協会にとっては、今回の出来事は不本意な事故だったとしても禁忌。どうにか挽回できなければ、カルデアは崩壊し、カルデアスは押収されてしまうだろう。
カルデア関係―――つまるところ、魔術関係の記憶を丸っと消すためにはカルデアに帰還する必要があり。帰還するためには、一般人に触れさせてはならぬはずの魔術。それも、
という
悪感情を敏感にキャッチした少年の精神がボコボコに落ち込み、
「どうして……」
「どうして!? どうして、って、今、そういったの!? そんなの決まってるでしょう!?」
どうしてこんなことに? どうして自分が? どうしてかえれないの。かえりたい。理不尽を目の前にして、少年が思わずこぼした言葉を拾ったオルガマリー所長は叩きつけるように言った。だが、何が決まってるというのだろう。
「ッあなたが、この子のマスターだからよ! ”カルデアのマスター”は、現在あなたしかいないの! だったら、あなたがやるのは当然でしょう! わたしにそれができれば苦労はないのよ! なんで、あなたなんかに、マスター適性があって!」
そんなものは当然なんかじゃ、と泣きたくなる感情を堪える。オルガマリー所長のぼろぼろになった爪が見えたからだ。
はた、と目が合う。気まずげにオルガマリー所長の方から視線が逸らされて、誤魔化すように咳払いを一つ。そして、どちらともなくお互いに姿勢を正した。オルガマリー所長も、理不尽な運命にもまれる人なのだと親近感が生まれてひとりだけではないのだと心にゆとりが出来る。
「……―――いえ、取り乱しました。ともかく、良いですね? 此処からはわたしの指示に従ってもらいます。あなたは、わたしの護衛をなさい。その子に指示を出して、役目を果たすのです。」
「は、はい。」
でも、指示を出してくれるなら。まだ、なんとかなるかもしれない。嫌だと言いたくなる恐怖をぐっとこらえて、無言でうなずく。オルガマリー所長だって怖くないわけない。さっきだってあんなにも取り乱して悲鳴をあげるほど怖がってたんだ。じゃあ、男である自分が此処で挫けて折れるわけにはいかないだろう。
綺麗なお姉さんと、可愛い女の子の前で。ちょっとでも格好をつけたいと思うのは、男の性である。すでに泣いて弱音をわんさか吐き出してしまったあとだけれど。
「……話はまとまったようですね。では、回線を開きます。」
あからさまと言うほどではなかったが、マシュが安心したように胸を撫でおろしたのが見えた。心配をかけてしまった、と眉を落とせば柔らかな眼差しを返してくれる。
わざわざ会話が終わるのを待っていたのだろうマシュが、回線を開く。ぼんやりとした青色でドクターの姿が映し出された。
『こちらカルデア管制室。キミたちがポイントに到着したことを確認した。マシュ、君の宝具を地面に設置してくれるかい。それを目標にしてレイラインを安定化させる。』
「わかりました」
レイラインってなんだろう。ほーぐ? ふぉーぐ?ってなんだろう。
ドクターの言われるままにマシュが盾を地面にかかげると、空間が固定され、通信も補給もできるようになった―――らしい。ふうん、と聞く。実際に物資補給をしたわけではないし、魔術初心者である立香には、空間が固定されたと言われても理解できないからである。
『オーケー、これで―――』
不意に、切り裂くような女性の声がした。
オルガマリー所長からだった。
「なんであなたが仕切ってるのロマニ!? レフは!? レフはどうしたのよ!?」
割り込むように体を通信機の前に持ってきたオルガマリー所長の様子に、ドクターがじわじわと目を見開き、硬直した。しんじられない、と言った風貌だ。
『ええええ!? 所長!?生きていらしたんですか!? あの爆発の中で!? しかも無傷!? どんだけ!?』
「どういう意味ですか!? いいから、レフはどこ!? どうして、医療セクションのトップでしかない貴方がその席に座っているの!?」
そしてどちらも叫んだ。幻影の騎士は微睡みの中に揺蕩いながら、現実を傍観者のように見つめることしか出来なかった。
『っそれは―――!』
一瞬の間が空き、ドクターは現在のカルデアを語った。
オルガマリー所長の求めたレフ教授は、カルデアの廊下で会った茶髪の紳士だろう。問題のその彼は、管制室でレイシフトの指揮を執っていた。
『どうにも……――――柄じゃないんですが、他に人材がいないんですよ。』
故に、生存は絶望的であろう事から、生き残った正規スタッフは20人にも満たず、現在カルデアは非常に人員不足である事。
カルデアは機能の八割を失って、スタッフは総出で、カルデアスとシバの維持、レイシフト装置の修理を行っているという、―――まるで地獄のような現実だった。
あんなにたくさん居たのに、急を要するほどの人員不足の発生。残った職員が総出でやっていると言っても、かなりの時間がかかるだろう。外部との連絡が立て直せることが出来れば、そのまま補給要請を行い、立て直しするというのが今後のプランだった。
おそらくは、現段階で考え得る限りの最善策なのだろう。何処からも文句という文句が出なかったことや最善策が飛び出さなかったことで、無意識ながらに感じ取った。何も知らない、魔術に関して素人である立香でもそう思うのだから、組織を統括するオルガマリー所長もよく分かっているのだろう。
ひとまずは状況を飲み込むことにしたようだった。責任者であるオルガマリ・アニムスフィア本人が特異点に居る以上、どうしようもないということでもあるからだ。
「―――納得はできませんが、そちらは任せます。こちらは、特異点Fの探索を開始します。」
「フォウ、フォーウ。」
「それにしても、どこまで行っても焼け野原ね……。」
オルガマリー所長の言うように、この辺りは火が鎮火しているが、それでも焼け野原でまったくと言っていいほど生命の痕跡はない。まるで、最初から大量の焔と骸骨や害獣ばかりが跋扈する世界のようだった。けれど、今はそれが有り難いと思う。
平和な世界で生きてきた立香には現状も苦しかったのに、もしも、死体なんてものがあったら、まともに歩けなくなっているところだ。普通の精神であれる自信がなかった。骸骨の群れはやけにリアルだったし、たぶんきっとホンモノなのだろうけれど。無意識に視点をゲーム感覚で俯瞰することによって若干のメンタルチェックを回避したのはさておくべきだろう。
深く息を吐きだした立香に気づき、マシュは補給物資を取り出した。白亜の縁を彩る新緑が美しい小さなティーポットと、同じデザインのカップだ。
「先輩、お疲れではありませんか? お茶にしましょう。」
「……大丈夫だよ、マシュは? うん、ありがとう。」
「はい。戦闘が怖いくらいで、身体は万全です。大丈夫です。先輩は、この春ナンバー1のベストマスターですから、わたしは、大丈夫です。……どうぞ、ドライフルーツです。」
「はは……そっか……。…いただきます。」
表情をひきつらせながら少年は受け取る。最初に補給してもらった物資は、ドライフルーツと紅茶だった。アールグレイだっけ。イギリスでは当たり前のように名を見かける名前―――のようなイメージがある。
焼け野原でのティータイムに洒落込むオルガマリー所長とマシュにやや驚きながら立香もひと息に混ざった。心なしか張り詰められた糸がほぐれ、ホッとする。紅茶を一杯飲み終え、カップを転送ポットに入れると消えた。それに感動を覚え、そんな一般人らしい少年の姿にオルガマリー所長は溜息をつき、目線を二人に向ける。
散々な態度をとってきた自覚がある分、魔術へ悪感情が見えなくて安心した。精神状態は早急にカウンセリングが必要でしょうけれど。彼も、魔術師たちが世界救済をうたって結成した
「さて、休憩はこれくらいでいいでしょう。小休止程度ですが、状況が状況ですからあまり長く休んでもいられません。あと魔術師についての質問も帰還してから受け付けます。」
「は、はい!」
「よろしい。まず、これからのプランですが、この特異点Fを調査し、こうなってしまった原因を探ります。具体的には―――」
たどたどしくはあるけれど、オルガマリー所長に従順な姿勢を見せるのは好感が持てた。ぴん、と人差し指を立てながら今後のプランを説明しようとしところで。「フォォォウ…」小さな獣が身を低くして唸る。威嚇行為だ。
『いますぐそこを離れるんだ! 生体反応がある、サーヴァントだ! 今の君たちの戦力では、サーヴァント戦はまだ早い!』
遅れて味方の声が、警告が入った。
詳細を決めようとしたところで邪魔が入った。ゲームのような感覚でやれば確実に死ぬ。それはなんとなく肌身で感じる。逃げることも不可能だ、戦わなければ死ぬ。さっきのように―――!
「―――ッ無理よ!」
オルガマリー所長の声と共に、壁が崩壊した。
庇われながら。相手を認識した瞬間、殺されてしまうと、直感的に、本能的に理解した。あんなものに人間が勝てるはずがない。一般人だからこその叫びだった。
軽く考えてはだめだ。コレは紛れもなく現実なのだから。オルガマリー所長が言ったように、マスターとしての手腕を揮えるのは自分だけなのだ。マスターって言われても分からなかったけど、とりあえずマシュとの繋がりを大切にしなくちゃ。逃げる? 彼女なら一人程度を運ぶことは出来るだろうけど、”戦闘しながら”では無理だろう。
あの存在はアレは完全に、自分と立つ場所が違う。肌がピリピリと痛むほど濃厚な死。黒衣の暗殺者であった。ぞぞぞと肌が泡立ち、吐き気を催すほどの邪悪。
黒い影のようで、絶望の塊から産まれた泥のような漆黒のそれ。人間の形を保つだけの土塊でありながら、立っているだけでも分かる濃密な死の感覚が、それにはあった。
何故分かるのかと言われても、漠然と”そう”であるとしか言えないほど。目の前にいられるだけで、いつ自分が死んでもおかしくないのだと悟って―――意識が呑み込まれるようだった。だが、誰かが諦めるなと囁く。
「マシュ、戦いなさい! 同じサーヴァントでしょう!」
「――……はい、最善を、尽くします……!」
気の重たそうな彼女は身の丈よりも大きな盾を構え、立香を見やる。戦うことをこわいと言った彼女は、誰よりも前に立って。その華奢な体で二人を隠そうとしてくれている。
誰かに押し付けるのも良くない、だって、彼女だって怖がってるんだ。嗚呼、そうだ、自分も。自分も一緒に―――あの瓦礫の中での出来事のように、彼女と一緒に居るって決めたのだから!
「先輩―――いえ、マスター、どうか指示を。先輩の、マスターの指示があれば、勝てます。」
「わかった……!」
立香は答えた。お互いに命を預け、預かる関係で、とても責任重大だった。どちらも身を削ることとなる。退けば死だ。少年は彼女の問いに答えて、言葉に応えて、現状に堪えた。
投擲される短剣を弾く金属音の重い音。競り合う金属の擦りあう音色は、まるで少年の心のようであった。大地を踏みしめ踏ん張る足音はアニメーションを見るかのように現実味がなく、はじける小石が顔や体にあたって痛みを現実として教えてくれる。
盾を振りかぶった際に響く、骨身を砕く歪な音。とどめとばかりに震える少女の咆哮。どれもこれも燃える世界に振り落とされてから聞くようになったものではあるが、どれだけ耳にしても馴染むことはなかった。
「畳みかけて! 今だ、突進だ!相手の態勢を崩して!」
「はいっ!」
思わず悲鳴を上げたくなるそれらに立香は耐えて、耐えて、耐え続けた。今はただ、石のようにかたい男を目指す。だって、活路を見出すには外からの指示を挟む必要があったから。
「反撃させないで! 盾をぶん回すんだ!がれきを巻き込んで視界を遮って!」
「は、い! ――――や、あああっ!」
うっかりぶん回しだ、と口を滑らせなくて良かった。現実逃避を交えた現状把握。最後に畳みかけたマシュの一撃がサーヴァントの心臓部分。
レイカクというものを砕き、暗殺者のサーヴァントが消滅する。粒子となって消えた姿に、ぶわりと汗が噴き出した。手汗がひどい。呼吸もあらい。恐怖でめまいがする。何なら胃もむかむかして、先ほど飲み食いしたものすべて吐き出しそうだった。横文字を借りるなら、コンディションは最悪である。
マシュも荒呼吸のまま、しかし、身の安全を第一に考えなくてはならないドクターは現実を突きつけた。最悪な現実である。現状としてはどうにも出来ないこと。
倒したサーヴァントと同じ反応が向かってきている、だなんて。―――先ほどのアレと同じ。一体だけでも大変だったのに二体目が立て続けにやってくるとか地獄である。
オルガマリー所長に撤退を命じられ、それに乗っかる。少しでも遠くに離れなければと慌てて逃げようと踵をかえしたところで、背後からサーヴァントの声がかかった。正直、寿命が縮まったかと思った。否、実際に縮んだに違いない。
「さん、…っさん、たいも……!?」
「マスター!」
マシュが盾を構えて立香を背に庇った。
崩れた瓦礫を弾きながら、開けたそこにはやはり死があった。バーゲンセールすな、と軽口を叩きたくなるほどのそれはただの現実逃避で。
サーヴァント一体だけでもマシュが全力で戦って勝てるかどうかギリギリという相手が三体だなんて―――もはや、圧倒的戦力の差に
眼前にあるのはただ、迫りくる死だけだった。そこに、あまりに隔絶した実力があると逃げるという行動を人間は放棄する。逃げることすら不可能であると、本能が悟るのだ。
だからといって戦うかというとそうではない。(それでも戦わなきゃ死んじゃう)そんなことできるはずもない。(こんな理不尽なやつ!)逃げず、戦いもできず、ただできることは震えて最後の瞬間を待つことだけ。(死にたくない…!)もはや、ただの人間には、それ以外にできることなどありはしない。
―――本当にそうかい?
絶望と抗争の繰り返しの中、誰かの声がした。
見知らぬ青年の、どこか柔らかくて気高い声だった。幻聴だろうか。
「マスター!」
マシュが呼ぶ。立香を呼んだ。
意識が戻る。震える少年のそばに、誰かが支えてくれる気配がした。応援するような微笑みを受けたような気がした。
「っマシュ、俺たち……戦おう!」
少年は背を伸ばした。
生き残る為のこと。だから、立香はそれに答えてみせた。
「あなた正気!? 戦うって、どうみても勝ち目なんてないじゃない!」
「それでも!」
「はい。それでも。戦うしかないのです。死中に活を求める他ありません。マスター、指示を! マシュ・キリエライト、全力で、マスターのオーダーを完遂します!」
マシュが決死の突撃をしようとした、その瞬間―――焼け野原に声が響く。先ほど立香の頭に立ち寄った青年のそれとはまったくべつの、やけに凛とした、飄々とした、男の声だ。
「なんだ。小娘かと思えばきちんと兵じゃねえか。なら、手助けしねえわけにはいかねえな!」
ゴウッと音と共に燃え尽きる敵。
それと同時に、青いフードをかぶった男が現れた。影に隠れた黒いサーヴァントではない。マシュと同じ、通常のサーヴァントだ。
「そら、構えなそこの嬢ちゃん。腕前は、そこらのヤツらに負けてねえ。」
「は、はい!」
「――――で、そこのボウズがマスターか。」
まるで槍を振り回すように杖を振った男が、立香を見た。
理性を宿した獣のような赤い目が、敵の攻撃を燃やしながらマスターを観察。そして、フード越しに頭部をガシガシとかき、こりゃ難儀だなと言った。
「……アー、なるほどな。…なら指示は任せる。オレはキャスターのサーヴァントだ。故あって奴らとは敵対している。敵の敵が味方とは限らんが、そこは、アレだ、助けたってことで信用しちゃくれないかね。」
「はい!」
助けてくれる大人だと認識した立香は、二つ返事で信頼を寄せた。コイツは一秒で人に騙されるタイプのお人好しである。ウッソだろマジかよ。
キャスターのサーヴァントは秒速でマジモンの信頼を寄せた少年に目をひん剥き、けれども、知名度やら信仰やらが強さに直結する英霊の身には少年の素直な気持ちが心地良かった。
初めてお目にかかるタイプのマスターだねェ。仮契約をしてくれるとのことなので。熱くなる手の甲を掲げ、キャスターとマシュに向かって立香は叫んだ。
―――まずは兵士を鼓舞するんだ。
―――戦う為の活力を。
―――生きる為の勇気を。
声に従って。倒すと言うにはまだ経験不足。
だからこそ、立香が言えるのはただ一つ。勝ちたいという希望をのせるのでも、勝とうと自身を鼓舞するのでもなく、相手を疑わずただ一つの信を寄せる
「勝つぞ!」
「はい!」
「応ッ!」
勝つぞ、と勝利を疑わぬ声で拳を上げられりゃァ戦士としての本能がくすぐられるってモンだ。だが、坊主はそれでいい。心地の良いスポーツ競技を前にした時のような鼓舞ではあったが、戦士の鼓舞にも足り得る声だった。何時だって、守るべきものために身体張るのが誰よりも強い戦士ってモンよ。
キャスターが器用に槍のように扱って杖を構える。チアダンスのようで、そうではない。湧き出る敵を木が絡み、火が纏い、様々な自然の恵みが厄災となって相手に降りかかる。
マシュは弱った彼らに一撃を加え、完全に無力化するまで盾で殴る。ただひたすら角度を変えて殴る。強弱を加えて殴る。あらゆる方向から殴る。炎の後から追撃するかのように殴る。ひたすら殴る殴る殴るッ!!!!
その瞳は彼女の優しい紫ではなく、凛とした薄紫に染まって先ほどまでの少女の雰囲気はなく、さながら一人の騎士のような迫力を醸し出していた。
「ルーン魔術、ならドルイドか……」
「ルーン魔術? ドルイド?」
「あなた、そんなことも―――いえ、一般人ならば知らなくて当然ね。あなたの一件は、完全にこちらの落ち度でもあるし……バックアップは手厚く……ハァ…。」
オルガマリー所長が詳しく説明してくれた。
ルーン魔術とは、ルーン文字を用いた魔術だという。それぞれのルーンごとに意味があり、強化や発火、探索といった効果を発揮する。組み合わせによってはスゴイ魔術を使えるのだとも。ものすごくファンタジーな魔術なのだ。
「しかも、あれただのルーンじゃないわ……。原初18のルーン魔術、だなんて」
原初? ゲンショのルーン魔術、うん、意味が解らない。だが、しかし、とても強力な術であることはわかった。だって、目の前で、実践でその強さが発揮されている。
ルーンが刻まれれば燃え上がり、敵が消え失せた。その間の前衛はマシュ。やっぱりRPGのようなバランスが生まれたからだろうか。後衛が出来たことに戦闘でより余裕が生まれて、前よりも楽に戦えているように思えた。
指示らしき指示などもともと出せなかったが、あっちから武器が飛んできただとか、あっちに敵が隠れているよだとか、とりあえず敵の動きを知らせるだけにした。下手に素人である自分が戦術やら戦法に口を出しては逆に調子を狂わせるだけだろうと思ったからだ。
サーヴァントの戦いに、人間が介入できるはずがない。オルガマリー所長は立香よりも魔術に関してなんでもできる人間だが、そんな彼女ですら介入は不可能である。そう思うと、奇妙な仲間意識が芽生えた。
「よっし、終わりだ。よく頑張ったな嬢ちゃん」
「は、はい、ありがとう、ございます……」
戦闘が無事に終了し、こちらに向かって来るキャスターに対しての感想をオルガマリー所長が聞いてきた。
奇妙な連帯感を彼女も感じたのか、距離が先ほどよりも近くなっている。正直、オルガマリー所長ってナイスバディな美人さんだからそんなにくっつかれると自分も男だし、と立香は煩悩を払うためにキャスターを見た。
「どう、って言われても……えっと、……えーっと、あっ! ら、ライダーキックとか出来そうですよね! なんか兄貴肌って感じがして、こう、物語の中盤とかで主人公のピンチを助けてくれるヒーロー的な……なんかかっこいいなって」
「ド素人に感想を求めたわたしが悪かったのかしら……」
小さいころにヒーローショーで見た、まるでヒーローのような人だと。英霊とは、過去の英雄であるからして、実際に少年の見聞きした通りなのだが。サーヴァントのことを魔法少女と勘違いしている彼には通じない。キャスターのことを男性型の魔法少女―――魔法使いのことなんだ!と妙な納得をしてしまったばっかりに通じなかった。
故に、興奮気味に、そんな変な言葉を返してしまったのは許してほしいと思った。崇高な感想を求められても、そっち方面は自分にはさっぱりなのだから。