叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

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なれば一会を言祝ぎ

 あの後、自分たちよりも確実に現状を詳しく知るであろうキャスターを連れて、ひとまず冬木の学校で休息を得ることとなった。移動した先で立香たちの情報交換が、ドクターロマニとキャスターの間で行われる。

 休息の指示を受けて、立香は椅子に腰かけぐでっと机にうつ伏せた。見知った構造の、廃墟となった状態には胸に来るものはあるけれど。それでも日本を感じられるそれに心が落ち着くものだ。

 

 彼らの情報交換はしばらくすると終わりを迎えたようだった。

 それで分かったことは、三点ある。キャスターがこのセーハイセンソーの参加者だったという事で、まず一つ。セイバーのサーヴァントに倒されたサーヴァントは黒くなって、溢れだしてきた異形と共に何かを探索し始めたという事で二つ。セイバーを倒し、キャスターが勝利することが出来たら、この特異点という場所における問題が解決するだろうという事で三つだ。

 

 

『なるほど。あなたはここで行われた聖杯戦争唯一の生存者なのですね。』

「まあ、そういうことになる。」

 

 

 聞き慣れない言葉にのそりと顔をあげた。ところで、セーハイセンソーって何なのだろう。サッカーで言うところの、ワールドカップのトーナメントなの?

 立香の素朴な疑問には、マシュが首を左右にブンブン振った。あ、違うんだ。嗚呼、気の遠くなるような話が現実味を帯びてきたような気がする。

 一応は、やるべきことまで一気に分かったのだから。えっと、つまり召喚獣―――サーヴァントの最強決定トーナメントであるってことだろうか。なんか違うけど、一概に違うとは言えない認識が立香の中に出来上がった。そして文字は、聖杯戦争である。

 

 

「というわけで、目的は一致している。」

「なるほど、手を組むということね。あなたはセイバーを倒したいけれど戦力が足りない。」

「ああ、そういうこった。利害は一致しているしな。」

「いいわ。手を組みましょう。――新人君、キャスターはあなたに任せます。」

「えうっ!?」

「あなたマスターでしょう。サーヴァントの一人や二人、うまく使って見せなさい。」

 

 

 素っ頓狂な声をあげた立香に、オルガマリー所長が呆れた声を出した。

 ずっとくすぶる感覚は魔術師と一般人の相違なのだろう。―――……使う、だなんて。だって、そんな。人間と同じ見た目をした召喚獣ってことだ。立香の中では、そうだ。

 戦術も戦法もまともに分かりませんが、と言わんばかりの立香の表情にオルガマリー所長は溜息をつく。一般人に任せること事態が不安なのに、と爪を噛みながら石を拾っては何かの魔術を込める作業を始めた彼女を横目に立香はキャスターへ視線を向ける。フード越しだけど、ニカッと人の好さそうな笑みを浮かべる男性に、接しやすそうだと胸を撫でおろした。

 使うって言葉はなんとなく嫌だったから、先生だとか、先輩だとか、尊敬できる人って認識することにした。昔のえらい人たちなんでしょ、という感覚である。

 

 

「未熟者だけど、よろしく。キャスター。……キャスターって呼び方でいいんだよね?」

「応、よろしく頼むぜマスター。呼び方も好きにしてくれや。」

 

 

 それじゃあ。握手を求めて令呪の刻まれた利き手を伸ばした。ぴくりと眉を吊り上げて、それからにかりと笑み一つ。握手だな、と応じてくれたことが、立香の心に安堵を呼んだ。

 平和に生きる穏やかな象徴には、英霊たちは弱いのだ。あんな風に打算もなく、あなたを信用しますだなんて利き手を差し出された日にゃ堪ったもんじゃない。しかも、魔術師の生命線である令呪の刻まれた手を。敵か味方も分からぬキャスター相手に当然のように。

 その手を差し出す意味の知らぬ存ぜぬはさておきとしても、嬉しい誤算であった。気持ちの良い共闘の約束を交わしたところで、キャスターは杖をくるりと回して肩に担ぐ。

 

 

「んじゃ、目的の確認と行こう。アンタらが求めているものとオレが目指す場所はおそらく一緒だ。セイバーの根城だな。この土地の心臓部といっても過言じゃねえ。」

『セイバーは城を構えているのか…。』

「まあ、そんなところだ。道筋は教える。いつ突入するかは、そこのボウズ次第だ。」

 

 

 分かった、と立香は強く頷く。タイミングを見計らって入ればいい。そう、小学校の頃に苦戦した大縄跳びのように―――!!

 まったくもって大きく違いがあるが、そうやってふざけなければやってられない。今にも泣きだして両手をあげて放り出したくなるほどに緊張感で息詰まりそうなのに、真面目になんてやれば精神がボッキリ折れる自信がある。そんなところで自信を持ちたくはなかったが、自己分析はたぶん大事なことだろう。

 

 

「……それでも戦力的に不安を感じるわね。 そうだわ、あなた。聖晶石を持ってるかしら?」

「聖晶石…―――あ、綺麗な石のことですか?」

 

 

 マシュが骸骨兵や害獣を倒すたびに落とした七色の結晶のことだろうか。確かめるように結晶を取り出すとオルガマリー所長は頷く。流石の一般人でもそれは知ってたわよね。と言われたけれど―――それは違うのだ。

 敵からドロップしたアイテムだから重要なのかなって、なんとなく拾ってただけで。と言えば、オルガマリー所長は疲れたように肩を落とした。

 すらりと伸びた銀髪が、彼女の首の揺れに応じて左右に揺れる。…そうよね、そうだったわね。拾ってくれていただけでも、とりあえずは良かったわ、とオルガマリー所長からフォローのような言葉を受けた。

 聖晶石とは高濃度の魔力の結晶のことである。そして、簡潔に言ってしまえば、『英霊を召喚する際に必要な媒介』であると説明も加わる。その真横では、マシュが盾を地面におき、宝具を触媒に召喚サークルが設置していた。

 正直、素人魔術師である立香には、触媒とか召喚サークルとか宝具と言われてもさっぱり分からなかったが、それはオルガマリー所長が詳しく細かく説明してゆく。

 そうしてオルガマリー所長から何度も説明を受けるうちに、あれ、と思った。なんだか身に覚えのある文明のような気がしたのだ。特にゲームで。もぞもぞと口の中で言葉を転がして、専門用語の乱発に目を白黒とさせる。

 

 

「これは……カルデアにあった召喚実験場と同じ……」

『シキュー、シキュー。もしもーし! よし、召喚サークルは無事に設置できたみたいだね! じゃあ、聖晶石を召喚サークルの中央に投げ入れてみて。キミの力になってくれる英霊や概念礼装が来てくれるはずだよ。』

「英霊は……サーヴァント……。ガイネンレーソー?」

「英霊に装備させる……あなたで言うところの、礼装よ。」

 

 

 召喚サークルやカルデア式英霊召喚について説明を受けた立花はゴクリと喉を鳴らす。なんとなく雰囲気で理解したが、それはつまり―――ガチャ、なのでは…? と立香は思った。

 そう思って説明を再び噛み砕きながらオウム返しにすると、先ほどの亀のような理解速度から一気に加速した。正解である。これもう完全にガチャだ。

 それなら出来そうかも。そんな思考が今の彼の脳には渦巻き、誰しもが一度は燃やすガチャ闘志に立香も目覚めた。けれども、召喚ってどうやるんだろう。出でよ、とか言うのかな。

 もたもたと盾の周りで歩き始めた立香の様子に気づき、オルガマリー所長は額に手を当てた。そうでした。一般人、召喚の口上知らない。カルデアは一般的な聖杯戦争とは異なり、人類史を守るための契約を結ぶものである。一般的とは言ってはなんだが、聖杯戦争へ参加するための口上を知っていたとしても今回に限っては無意味と化す。

 聖杯を求める意味も性質も異なるために、契約内容―――口上を変えねばならない。同意したものだけが、術式を通ってカルデアという機関と契約を結ぶのだから。

 

 

「……仕方がありません。48番(魔術師)―――こほん、フジマル(一般人)。わたしの言葉に続きなさい」

「は、はい!」

「天体を観測する我らが機関カルデア。世界の未来を拓く鼓動に応える英雄たちよ、その名を示せ。」

「え、っと……」

 

 

 盾に手をかざしながら、立香はオルガマリー所長を真似た。拙く紡がれる言葉ではあるが、魔術師としての一歩を踏み出した。

 

 

 

―――天体を観測する我らが機関カルデア。

 

 

 

―――世界の未来を拓く鼓動に応える英雄たちよ、その名を示せ。

 

 

 

―――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

 

 

―――聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 

 

―――誓いを此処に。

 

 

 

―――我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 

 

 

―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!

 

 

 

 熱くなる。令呪が熱く鼓動するかのようだった。立香の声も次第に大きくなる。今の状況を打破できる力を強く望んだ。

 

 教わったばかりの相性を頭に浮かべる。

 セイバーが相手ならばアーチャーが有利に立てるのだと、キャスターの言葉を疑わず、ただただ状況を打破できるサーヴァントを強く、激しく、望む。どうか。お願いです。自分は何の力もない人間だからこそ、助けてほしい。かえりたい、という気持ちが呼応する。

 突如、眩いほどの光が円を描き、10枚のカードが立花の手元に現れた。令呪が刻まれたと言うのか、浮かび上がったと言うべきか。その手が熱を持ち、オルガマリー所長に教わるまま魔力を込めるとカードから変化する。

 完全にこれもうガチャじゃん……!? 一気に現実逃避が加速した。

 

「わっ!?」

 

 

 一枚、二枚、三枚、とまとまって一つの絵をかたどった。弓をつがえた人の絵。輝く輪を纏いながらカードは等身大と思わしきまでに成長し、中から人が舞い降りる。

 にこやかな赤色。短い金髪を揺らした、現代風の美少年。現代っ子の服装に身を包んで、とてもではないが戦えるとは思えない。自分よりも年下の少年を戦わせるのか。ただでさえ少女を前線に立たせるような鬼畜野郎なのに。無理じゃん……と絶望から膝を折りかけた少年(マスター)の一挙一動を理解した上で、黄金の少年は無知なる子(庇護すべき民)と認識し、にこりと笑った。

 

 

「こんにちは、マスター。ボクにたくさん助けてほしいんですよね? 任せてください。ボクのことは…そうですね、気軽にギルくん、と呼んでくださいね!」

「わあ……」

 

 

 戦慄く立香にギルガメッシュ―――こと、ギルくんは微笑んで見せた。

 大人のボクほどではありませんがそれなりに戦えますよ、と。獰猛な獣と同一視するには品があるソレに、立香の心は落ち着く。でも大人のボクってなんだろう。サーヴァントの紹介システムを理解しきれていない立香は、最盛期で召喚されるという事実が頭から抜け落ちていた。

 ぽけえ、とぼうぜんと見つめた立香は、「あ、イヌさんじゃありませんか。」とにこやかに頼れる兄貴分へと辛らつな言葉を投げかける少年を見て察した。つわものである。

 キャスターをマスコット扱いするってことは、彼の方が魔法少女……否、魔法使い。そしてキャスターは、魔法少女のおともだと認識したのだ。

 

 

「―――よし、ギルくん。心強い! 俺、魔術師としてはからっきしだからたくさん教えて!」

「ふふ、もちろんいいですよ?」

「先輩!?」

 

 

 急激にモチベーションを持ち直した立香の様子にマシュが驚く。何なら土下座しそうな勢いだったのを、慌てて阻止した。流石に汚染された大地に平伏すのは身体に悪い。キャスターの導きに従って、フユキの土地の心臓部分へと向かった。

 召喚に応じてくれたギルへの説明も欠かさず。拙くしどろもどろになりながら、懸命に自分の理解がある部分だけを説明してマシュに補足してもらう。

 大丈夫、マスターの祈りをしっかり聞き届けて召喚に応じましたからあらかたの事情には理解がある。キャスターが表情を引きつらせる中、ギルくんは鎖を召喚して敵を撃破した。マスターのメンタルはうなぎ登り滝登り。ギルくんサイコー! あとでしっかりメンタルケアしてあげてくださいね。ドクターはひやりとしながら了承した。

 長い洞窟は暗く、その上さらに敵も現れる。先ほどの害獣や骸骨兵など足元にも及ばぬ、シャドウサーヴァントなる黒く染まったサーヴァントたちの襲撃は苛烈だった。

 

 アーチャーのサーヴァントに襲われたときなど、何度も死んだかと思った。

 ギルくんがホウグとやらで打ち返してくれたおかげで何ともなかったが、しかし、殺気の籠った一撃、一撃は重たい音を立たせる。弾かれようともそれは立香の耳に何度も届いたのだ。

 

 

「大聖杯はこの奥だ。ちぃとばかり入り組んでいるんで、はぐれないようにな。」

「天然の洞窟……のように見えますが、これも元から冬木の街にあったものですか?」

「でしょうね。これは半分天然、半分人工よ。」

「ほへえ。すごいですね。」

 

 

 旅はまだ始まったばかり。メンタルケアのほかに、メンタル強化訓練を行う必要があるだろう。彼自身が壊れてしまわぬように。

 気の抜ける立香は、もう結構限界なのだと分かる。ドクターか、ほかの職員へ手配するよう指示を出して、オルガマリーは説明を続ける。

 

 

「魔術師が長い年月をかけて拡げた地下工房です。……それよりキャスターのサーヴァント。大事なことを確認していなかったのだけれど―――、セイバーのサーヴァントの真名は知っているの? 何度か戦っているような口ぶりだったけど。」

 

 

 オルガマリー所長の言葉にキャスターは表情に真剣みを帯びさせ、瞳を鋭くした。応、と肯定する。宝具を食らえば誰だって真名……その正体に突き当たるほど強力なものだ。

 

 

「他のサーヴァントが倒されたのもヤツの宝具があまりにも強力だったからだ。」

「強力な宝具ですか? それはどういう―――」

「王を選定する岩の剣のふた振り目。おまえさんたちの時代において最も有名な聖剣―――その名は―――約束された勝利の剣(エクスカリバー)、だ。」

 

 

 それを合図にするかのように、シャドウサーヴァントが増えて襲ってきた。

 キャスターの発言にオルガマリー所長は悲鳴を上げそうになるが、ぐっと堪えた。無理もない。冗談にも程がある、かの有名なアーサー王と敵対しなくてはならないのだ。

 オルガマリー所長にせっつかれるように戦力強化のためにサーヴァントを狙って、立香は新たな聖晶石をマシュの盾の内側に広がる召喚サークルに投げ入れて、覚えたての言葉を唱える。当面の方針で戦えるサーヴァントを増やす指示を受けたのだ。

 

 

 

―――(ぼく)を呼んで。

 

 

―――きっと助けになるから。

 

 

 

 混沌とした燃える大地の中、立香はその声だけがよく聞こえていた。

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