叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

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汝らの剣とならん

 立香は声に従った。おぼろげに浮かび上がる輪郭をなぞるように、青を強く祈る。清廉の青、無垢の白、悪鬼を滅する銀。あらゆる色を浮かべて、ただ強く祈る。

 

 

 

―――天体を観測する我らが機関カルデア。

 

 

 

―――世界の未来を拓く鼓動に応える英雄たちよ、その名を示せ。

 

 

 

―――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

 

 

 先ほどよりもイメージを鮮明にしていく。エクスカリバーが相手なら、同じエクスカリバーを。一周まわって敵から味方に回ってくれるかも。召喚に集中するマスターへ攻撃が集まる。当然だ、無防備な状態の見るからに戦えぬボスが居たらそこから狙われるなんて分かり切ったことだ。

 岩壁を蹴りつけて鎖を放ちからめとる。シャドウサーヴァントに襲われそうになった立香を守るように、身を翻したのはキャスターと召喚されたばかりの少年王だった。

 

 

 

 

―――聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 

 

―――誓いを此処に。

 

 

 

―――我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 

 

 

 火のルーン魔術と宝具の数々が激しく撃ち合われる中、最悪な事態を招く。流れ弾がマスターである立香がいる場所へ飛んで行ってしまったのだ。

 鎖で弾こうにも、今以上の実力を出せばマスターである少年の身に負荷がかかりすぎる。すでに身を削らせているというのに、まだ無垢なる民にそのようなことを強いらねばならぬ事態を起こすとは。こぼれた舌打ちと同じ気持ちに、キャスターは焦りを滲ませた。

 

 

「何やってるんですか!」

「悪ィ!」

 

 

 

―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!

 

 

 

 光の渦から風が吹きすさぶ。風に覆い隠された何かが振り上げられ、目前まで迫った凶器が儚く消し飛ばした。

 

 

「―――…僕はセイバー。君を守る、」

 

 

 キャスターの心配は杞憂に終わる。おさまりきらぬ光の輪から抜け出した青年騎士は悠々と風の剣を持ち上げて、マスターを背に庇った。何事かと瞬時にあたりを見渡し情報収集をしつつ、同じサーヴァントを見かけても斬りかからぬことから同じように聖杯からの知識はあるのだろう。

 

 

「サーヴァントだ。」

 

 

 あの太刀筋、あの剣の在り方には、見覚えがあった。しかし、あの青年騎士(・・・・)は目に見えて分かるほどにキャスターの知る彼女(・・)と色々と違う。

 

 

「ふ、ふぉぉぉぉぉぉお……!? な、なんか強そうな人が来たぁぁぁあ……!? あ、あ、ぉぁあありがとうございます!!」

 

 

 興奮のまま立香は思わず土下座した。平伏したとも言う。

 何なら実はギルくんのときにも似たような反応をしたのだが、今回はそれぞれ戦闘中であることも相まって止める間もなかった。

 

 

「先輩!?」

「坊主!?」

「ま、マスター!?」

 

 

 物理的に低姿勢をとるマスター・立香の身体を支え起こしたセイバーの顔は、すっぽりと前髪辺りまでを覆うフードで隠れてしまって見えなかった。どうしてだろう。首を傾げる立香の疑問に、セイバーは微笑んだ。

 

 

「ああ、実は隠蔽の魔術が施されてあるんだ。」

 

 

 やや嬉しそうなのはなぜだろう。そんな立花に気づくとセイバーはわずかに嬉しそうな雰囲気を醸しだしながら、『息子が僕のためと言って作ってくれたものだからね。』と理由を告げた。それすら宝具認定とされる代物なので、彼の息子は相当な腕前の技師だったようだ。

 戦闘を軽く切り上げてからの会話に入り、恐る恐る説明をしようと口を開けばすぐさま得心得たりと頷きが返ってくる。「大丈夫、通常の聖杯戦争とは違うものだと理解しているよ。」それを理解したうえで召喚に応じてくれたセイバーのサーヴァントは、状況把握のためにオルガマリー所長から説明を受けて疑問を幾つか解決してから断言した。

 確かにそれは約束された勝利の剣、対するはアーサー王だろう、と。何処か確信めいた言葉にオルガマリー所長ともども首を傾げれば、蒼銀の鎧をまとう青年はそのフードに隠しきれぬ美貌に笑みを浮かべて、『直感』だよとさらりと告げた。

 見上げるような立香からしてみれば目元辺りからは影で見にくいが、その美貌やカリスマ性は見えていた。ほうほう、と頷きながら納得していると、聞き覚えのない声が背後から襲われる。

 

 

「―――その通りだ。 騎士の王と誉れ高い、アーサー王の持つ剣だ」

「!?」

「アーチャーのサーヴァント!?」

「おう、言ってるそばから信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを護ってんのか、テメェは。」

「……ふん、信奉者になった覚えはないがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ。」

 

 

 目元をバンダナのように赤黒い布で覆った褐色肌の青年―――腕や頬、目に見える至る所に影が落ちて、瞳からも理性を奪わんと溢れる漆黒。理性のある、アーチャーのシャドウサーヴァントの登場にそれぞれが戦闘準備に入るも。

 

 

「ようは門番じゃねぇか。何からセイバーを護っているかは知らねえが、ここらで決着をつけようや。永遠に終わらないゲームなんざ退屈だろう? 良きにつけ悪しきにつけ、駒を先に進ませないとな?」

「その口ぶりでは事のあらしまは理解済みか。 大局を知りながらも自らの欲望に熱中する……魔術師になってもその性根は変わらんと見える。文字通り、この剣でたたき直してやろう。」

 

 

 打てば響く太鼓のような会話の打ち合い。お知り合い? と聞きたくなるような雰囲気は、煽るキャスターが仲間へ欲求を唱えたことで終わりを告げる。

 

 

「ハッ、弓兵がなに言いやがる。ってオイなにぼんやりしてんだお嬢ちゃん。相手はアーチャーだ。アンタの盾がなきゃ、オレはまともに詠唱できねえんだが」

「あ、…は、はい!すみません、何故か気が抜けていました! ガードならお任せください!」

 

 

 風を纏った剣―――見えない剣を構えたまま青年は大きく腕を振るった。途端、洞窟内に暴風が吹き荒れ、弓と魔術が使い物にならなくなる。

 

 

「マスター、安全な所へ。」

「う、うん!」

 

 

 セイバーの声に反応した立香はオルガマリー所長を連れて、なるべく盾になるような大きな岩陰の後ろへと身を隠した。セイバーはそれを背に、その前にはキャスター、マシュと並んでマスターの安全確保を優先にしつつ、シャドウサーヴァントを見つめる。

 シャドウサーヴァントが放った白き剣を盾で弾き、キャスターの杖の先端から火が迸る。シャドウサーヴァントはそれを黒き剣で弾き、空いた手に弾いたものと同じ剣を手にした。

 

 

風王結界(インビジブル・エア)!」

「くっ!?」

 

 

 セイバーの持つ姿のない剣はシャドウサーヴァントの感覚を狂わせるには丁度良かった。迫る剣の位置が、掴めない。剣技を受けて採寸を測ることすらままならず、セイバーは構えを解かぬままマスターの守備へとまわった。しかし、キャスターにとってはそれが丁度良かった。

 ヤツとは決着をつけたかったんだね、とニヒルに笑うと杖を槍のように構え、突っ込んで行ったのである。同時に、セイバーの正体が把握できた。強運持ちかよ、坊主は。

 

 

「君は賢者になったのではなかったのかね!?」

「生憎と、性分は変わんねえもんなんでなァ!」

 

 

 高速に切り合う青と赤。それを、呆気なく蹴散らしたのはセイバーであった。マスターを安全な場所へとやったのは守るためでもあったが、半分ほどは牽制である。

 

 

「―――……力を借りるよ、我が息子よ。 咆えろ、雷鳴の如く!! 風王の咆哮(ペンドラゴン)!」

 

 

 竜巻が二人の英霊をあっけなく吹き飛ばした。ちょっと本気の戦闘に洒落込もうとした矢先にコレである。キャスターは不服だったが、カルデア側の目的は目前。かの青年騎士が守護すべくは男二人の決闘現場などではなく、平和の象徴である少年たち。大聖杯を守るセイバーを、討って特異点を一刻も早く修正することだ。

 事情を受けて時間がないと理解したうえでの戦闘だったのなら悪いことをしてしまったと、剣を握りしめながらの発言にはキャスターも降参するしかない。

 

 

「やれやれ、わかってるっての。」

 

 

 特に、マスターになったばかりの少年。アレの精神はそろそろ限界を超えるだろう。

 その前に心のケアをきちんと受けなければ世界を救うどころじゃなくなる。キャスターは不服であることを隠さずに、粒子となって消えたアーチャーの残留を見届けて先頭を歩く。安全を確認するとセイバーは立香を手招き、まるで護衛するかのように横に付き添って歩き始めた。

 

 

「あ、あの、セイバーさん……」

「マスター。僕のことは呼び捨てで構わないよ。」

 

 

 実に爽やかな笑顔である。王子様がそこに居た。ギルくんとは違う王子様だ。

 しかし、立香にはとてもではないが呼び捨てに出来るほどの度胸を持っていなかった。見るからに雲の上の存在である彼に対して呼び捨てし、あまつ馴れ馴れしく接するなど無理がある。正直、今の段階でもハードルが高すぎて泣きそうだ。

 威圧感があるわけではない。ただ単純に人間として何故か跪きたくなるのだ、彼には。それが一般人ならではの感覚。立香は正しく一般人であった。

 

 

「あ……」

「マスター。もうすこしあとで、僕の真名を教えよう。今話してしまえばきっと君を混乱させてしまうかもしれないし、僕と彼女(・・)の間で存在を反発し合う可能性もあるし、落ち着いて会話できる場所があるのであればそこで話し合った方が長く話し合えるからね。」

 

 

 疑問の先を答えられ、立香は黙って頷く。心なしかマシュの後姿が嬉しそうに見えるから、彼女と融合した英霊に関係のあるサーヴァントなのだろうか。

 それでも一歩進むたび全身に伸しかかる重圧は近づき、セイバーやマシュは黙ってそれぞれの武器を構えた。

 マシュは、自分のことをサーヴァントと融合したデミ・サーヴァントだと言った。融合した英霊の意識は消えたのではなく、マシュの中に確かにある。じゃあ、あの様子は―――マシュの中にいるサーヴァントが、嬉しいと感じているのだろうか。足を踏みしめるたびに近づく恐怖を抑えながら、奥を見た。砕けた大きな卵の殻ようなものがあった。

 大聖杯―――超抜級の魔術高炉のようだと信じられないものをみたと言ってオルガマリー所長は大聖杯を見上げた。禍々しく渦巻く魔力。呼吸すら苦しく感じるほどの威圧は、そこから溢れ出ているようだ。

 ドクターロマニの調べによれば、制作はアインツベルンという錬金術の大家である。魔術教会に属さぬ、人造人間(ホムンクルス)だけで構成された一族。ある意味の禁忌よ。とオルガマリー所長が告げて、立香は目を丸くした。

 ホムンクルスとは、アニメや漫画で見聞きしたことはあれど実在するものだったとは。くらりとする。最初から現実離れした世界であったけれど、さらに遠のく気がした。

 

 

「―――…待ちな。やっこさんのお出ましだぜ。」

 

 

 キャスターが解説を遮り、カルデア一行の足を止めさせる。険しい色を宿した彼の目線を追えばそこには圧倒的な恐怖の塊が居た。

 それは、ヒトの形をした何か(・・・・・・・・・)であった。目が合う。「う、ェっ…」胃の中身が逆流してくるような感覚に襲われて、衣服の腹を掴んでひたすら呼吸を繰り返す。

 かつて王であった頃の側面が強く出るならば、決してそうはならなかったであろう側面。あんなふうに人の意識を魅了するでも、安心させるでもなく、ただただ恐怖を与えるだけの、ヒトならざる者になどにはならなかったはずだ。恐怖という恐怖をかき集めて凝縮したような存在であった。青年騎士はあったかもしれない己の側面に、小さく息を呑んだ。

 あまりの恐怖に脚が震える立香を支えながら、小さな少年のガワを被った英雄は一歩だけ前に立つ。何処に居ようとも倉庫に蓄えた武器を取り出して攻撃することは可能だから、子どもの見た目をした己がマスターである少年の心の安定剤になるための一歩だった。

 

 

「ボクの前に出ないようにしてください。巻き込んでしまいますから。」

「は、はい!」

 

 

 ギルくんの庇護がただ有り難かった。まともな言葉も発せなくなった立香に、ただの少年であることを改めて認識した。魔術師だって恐怖するだろう、あんなの。

 流石に厳しかったかと首を捻り、震えながらでも立ち上がろうとする姿勢にニカリと笑った。それで良し。よかねェが。キャスターは本来の獲物である槍のように杖を持って構え直した。ルーン魔術を使うキャスターと名乗りはするものの、ランサーでの召喚ばかりだったし、基本的には詠唱を必要としない男だ。

 故に、キャスターとして現界するクー・フーリンとしては、どう上手く立ち回るかで術者としての技量が試されるのだが…。意外なことに、盾を構える少女は戦えるようだった。側に立ち、風を纏った剣をふるう“騎士”のおかげか。

 冷や汗を浮かべながら、彼女はドクターと言葉を交わして情報を得んとした。信じられない、と言った表情を隠さぬまま、マシュは問う。だって、この身が―――強く叫ぶのです。“あれは自分の王ではない”のだと。

 

 

「……ですが、なんて魔力放出……。あれが、本当に、あのアーサー王なのですか…?」

 

 

 王であることに変わりはなくとも、“違う”と違和を訴えるのです。肯定してほしくなかったけれど、何処かで納得しなくてはならなかった。

 

 

『ああ、そうだろうね。彼女の持つのは確かに聖剣だ。』

 

 

 反対に、どうしてだか側の騎士を感じるたびに身体が、心が、歓喜する。まるで、そう在るべくしてそうなったような。―――……そう、彼の騎士だと訴える。

 マシュの縋るような無言の訴えかけを、肯定するように、褒めるように、細められる瞳が、マシュの心を落ち着かせた。

 マシュの言葉に聖剣を解析した結果、肯定しながらドクターは首を捻る。だけど、彼女……、冬木のアーサー王とほぼ似た数値のサーヴァントが近くにいる……?

 どちらも同じ結果を叩き出すのだから、どちらも本物だろう、間違いなく…。じゃあ、いったい誰が―――思考の波に飲まれそうになるドクターの意識を呼び戻したのは、例の化身であった。

 

 

「―――ほう。面白いサーヴァントがいるな。」

 

 

 凛とした声が響く。じろりと睨みつけるような瞳であったが、ただの一瞥。

 彼女の声に驚愕の色を浮かべたのはキャスターであった。

 

 

「テメエ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

「ああ。何を語っても見られている(・・・・・・)。故に、案山子(カカシ)に徹していた。」

 

 

 冬木の聖杯戦争。その行く末を“見る”ものとは、カルデアのこと―――ではなさそうだった。カルデアのことを示すのであれば、案山子に徹するなどとは表現しないだろう。案山子とは、畑を荒らす害獣を追い払うもののことを示す。もしくは、見掛け倒しの存在。

 言葉を掛けるのは、何か目的のあってのことかと警戒を露わにしたキャスターは、彼女の視線がある人物たちに注がれていることに気づく。そして彼女は―――アーサー王は、瞳孔を見開きながら冷酷な笑みを浮かべた。

 

 

「―――だが、面白い。その宝具は面白い…! 構えるが良い、名も知れぬ娘。異なる私(・・・・)。その守りが真実かどうか、その剣技の輝きを、この剣で確かめてやろう!」

 

 

 聖剣を構えたアーサー王に空気が戦闘時のソレへとガラリと変貌した。空気が先ほどよりも、ずっと重たくなる。

 上から叩きつけられたかのようなそれに崩れ落ちそうになる足を鼓舞し、支えてくれるギルに礼を告げながら立香は懸命に立ち上がった。こんな状態では足手まといにしかならないけど、それでも、出来ることをしなくてはならない。

 

 

「来ます―――マスター!」

「……ッうん、マシュ! ギルくん! セイバー!」

「はい! マシュ・キリエライト、出陣します!」

「任せてください!」

「勝利を君に。」

 

 

 

―――此処に、アーサー王との開戦が幕をあげた。




2024.05.14 誤字報告ありがとうございました。確認させていただいたのですが、ここは変更なしのままでいこうと思います。詳しくは活動報告書にて。
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