叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

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山のような指南

 一戦目。ライダーが敵役で指南。

 アーチャーのサーヴァントが有利に事を運べるように、トリスタンの相談から感じ取った立地条件や戦術のアレコレを実際に見せながら勝負。最初は見取り稽古のようなものであったが、途中からギルはマスターである立香の指示に従って行動するようになり、敗北。

 

 

「負けちゃいましたけど、はじめてのわりには的確な判断でしたよ。あとは視野を広げて経験を積むこと、ですね。」

「は、はい! ありがとう、ギルくん。」

「では次は僕と組もうか。」

「えはぁ……い!」

 

 

 返事のような、悲鳴のような。真正面からアーサー王による笑みを受けた立香は挙動不審になりながらも再び身構えた。

 ただ棒立ちするだけではなく、戦況を見ながら行動すること。最初にライダーから教わったことを立香は忠実に守り、サーヴァントたちの戦闘から離れて身を隠したり、飛び交う障害物をよけたりと大忙し。避けきれなかったらサーヴァントを呼ぶ、と緊急時の対応も学び、マスターとしての勉強を続けるのだ。

 だって、そうでもしなきゃ生き残れないし、未来に進めない―――そうでしょ? 何処かゲームの世界だとかファンタジーだとかで現実逃避は混じっているものの、立香の根は前向きな男子高校生なのである。

 

 そうして行われた二戦目は、幼き英雄王が敵役を担った。

 アーサー王。セイバーのサーヴァントが有利に立てる条件と戦術を実際に見せてもらって、戦闘終了後の質疑応答。あれはなに、これはなに、あのタイミングであれをしたのは何故。質問を矢継ぎ早にする立香に、うんうんと頷きながらアーサー王は答える。

 唸りながら両手で顔を覆った立香を見かねて、休憩を挟むことにした。食料の備蓄はあるが、畑は全滅。今後のことを考えると抑えるべきと分かってはいても、一般人の感覚が邪魔をする。エミヤの調理してくれたサンドイッチを一人で頬張るのもなんだったので、多めに作ってもらってみんなで食べたのだ。

 そのときですらライダーは兜を脱がずに食事するという器用なことをしていたので、露になった口元だけを凝視してしまったのは言うまでもない。形のよい薄い唇から覗く鋭い歯が、上品な雰囲気を感じさせるそことのギャップ激しく噛み千切る。感動してしまった。

 不意に、立香は零した。なんとかなりそうな気がしてきたのだ。その感覚が大事だから忘れぬように、とそれぞれの英霊たちから励ましを受ける。

 

 

「セイバーの指示は、一対一っぽくなるからなんとか出来そうかもしれない……」

「そうなのですか?」

「う、うん。あの、ゲームで……あっ」

 

 

 彼らの生きるための術をゲームに例えるのは流石に失礼だっただろうかと顔を伺い見る。かの騎士王は気にした様子もなく、構わない、と口にした。

 

 

「君の分かりやすいものがあるのだろう? ならそれに落とし込んでしまえばいい。君が生きる為の術を覚えることこそが、目的なのだから。」

「ひぇ、王子様。いや、王様。はい、えっとターン制RPGなんですけど、それだと一対一で。コマンドで指示を出して攻撃したり、防御したりするから……なんかわかりやすくて…」

「良いと思いますよ。あなたは軍師ではないのですから、無理のない程度に知識を取り込めるのであればそちらで学ぶといいでしょう。息抜きにもなるようだ。」

「ふむ……。それなら現代に遊びに行った時に……」

 

 

 幼き王は宝物庫を開き、目的の内容を探る。

 受肉した際に電気店などへ足を運び、ありとあらゆるものを購入した過去を持つ。その為に、更新された宝物庫には現代のアレコレがたくさんあった。そうして取り出されたのは、ポケット型の召喚獣を使役する物語。剣と盾をモチーフとしたそれの舞台は、アーサー王の故郷である。わざわざシリーズまで選んで取り出したそれを立香へ持たせる。

 ぱっ、と立香の表情が華やぐ。交互にゲーム機とギルの顔を見やり、にこりと笑みひとつで肯定を受けた彼は大はしゃぎ。全身で感謝を示すそれを、幼き王は良しとした。

 

 程よく休憩を挟み、三戦目。

 ランサー、アサシン、バーサーカーが不在なので動き方をなぞるだけならばと。ライダーが召喚した武器は槍だった。ほう。クー・フーリンは目をつりあげて愉快気に笑った。

 

 

「え、ライダー。槍も使えるの!?」

「ええ、私は様々な武や魔に手をつけて学んできました。アサシンには適正がありませんので、なんとも言えませんが……。気配遮断スキルを所持していますから、模擬戦程度は真似ることが出来るかもしれません。」

「す、すごい……!」

 

 

 異形の軍勢を退けるために、一時期ローマの皇帝と共闘を組んだ時に必死になって身につけた技術である。何がどうしてそうなったのか。アルトリウス・ペンドラゴンの輿入れが無理ならば一夜だけでもと望まれた王を守るべく、身につけた技術であった。以降、客室ですら息を潜めて御身をお守りし、ある程度の指導をしてから王を連れてキャメロットへ帰還したのだ。

 あれも英霊の資格はあるのだろうけれど、出来ることなら顔を合わせたくない。特にアーサー王との邂逅は回避させるべきだろう。

 アサシンクラスに適性がないのは、あの頃に一度たりとも暗殺系の任務を受けなかったから。異形の化け物を相手にブリテンを守るべく活動するライダーの名は知れ渡り、もはや顔を隠して行動したとて名声で存在が隠しきれなかったことも起因し、アーサー王もそう言った任務を回すことがなかったこともある。暗殺者として名を馳せるほどの実績は当然なく、だからこそ、適性は皆無なのだ。

 槍術の特徴。弱点、基本。それぞれを立香へ教えるようにライダーは獲物を振るう。そこからマスターの指示つきでギルと模擬戦し、マスター側の敗北。

 本来のクラスでなかったにしろ、”現在も生きる人間”を相手取っては不利だった。とは言え、獲物の相性というものはある。懐に入り込まれては、弓の本懐を成し遂げられない。見事潜り込んで突き刺し、躱し、受け流してみせたライダーの動きは観客であるはずのクー・フーリンも思わず高揚を覚えるほどだ。

 

 

「うーん、相性が悪かったかなぁ」

「相性?」

「あらら、知らなかったの? 仕方がないですねー、ボクが教えてあげます。サーヴァントにはクラスが存在するってことは知っていますよね?」

「う、うん。えーっと、七クラスあるんだっけ? あれ、マシュは?」

「彼女のクラスは特別なものですから。七クラスで合ってますよ。」

 

 

 基本的には、と口の中でギルは答える。エクストラクラスなるものがあるようだけれど、今はまだ置いておいても良いだろう。

 

 

剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)はご存じですよね?」

「うん。セイバーはアーサー王で、アーチャーがエミヤさんとギルくんで、ライダーがライダーで……。あとキャスターってクー・フーリンの兄貴のことだよね。」

「そうです。ばっちりですね。じゃあまずは僕のアーチャーから教えてあげます。」

 

 

 剣、弓、槍をまとめて、三大騎士クラスと呼ばれる中の一角。アーチャークラスの配属基準は狙撃兵装の有無によるもの。アーチャーとは、レンジャーやハンターのことでもあるため、知恵と機転で困難を乗り越える英雄に馴染みがある。

 概念としては“撃つ”ということに由来するクラスのため、弓兵とはいうものの、飛び道具であれば弓、銃、砲、スリングなどなんでもかまわない。

 その証拠に。

 

 

「あそこの贋作者さんも、弓兵とは名ばかりの戦闘をするでしょう?」

 

 

 たまに弓で矢を撃つが、基本的には双剣を振るうことの多いエミヤは否定できない。僕も宝物庫から直接撃ちますし、としれっと言ってのける辺り、事実のみを告げているようだが。というわけで、撃つ概念さえあればなんでもアーチャー!という認識を立香が得て、アーチャークラスの説明は終わった。

 次はスキルである。サーヴァントして備わる、クラススキル。パッシブのようなもの? と立香が尋ねれば、そんなものです、とギルはニコニコ頷く。

 アーチャーが有する固有スキルは2つである。魔術に対する抵抗力“対魔力”、そして、何より重宝すべきはマスターからの魔力供給を絶ってもしばらくは自立できる能力“単独行動”。

 

 

「ああ、狙撃手は標的が的に入るまで三日三晩、狙撃ポイントから動かないのもザラだからな。」

 

 

 離れて行動する作戦を取る場合、アーチャーほど適任なクラスは居ないだろう。敵陣を探りに行く場合は、アーチャーか、アサシンを推奨する。アサシンが居る場合は“気配遮断”なるものが有利に働くため、アサシンを。

 ふんふん頷きながらメモ帳にペンを走らせる立香を見て、ギルは再びクラスを説明する。一度で覚えられる子ではないでしょうから、と何処か楽しそうだった。

 

 剣を操る近接攻撃に特化した最優の剣士の英霊(セイバー)

 弓を操る遠方攻撃(物理)に特化した弓兵の英霊(アーチャー)

 槍を操る中接攻撃に特化した最速の槍兵(ランサー)

 騎乗し乗り物を操る移動を自由にする騎兵(ライダー)

 闇夜に紛れ独特な個性的な武器を持つ暗殺者(アサシン)

 魔術を操る魔術系統に特化した魔術師(キャスター)

 狂化して全能力値が引き上げられた狂戦士(バーサーカー)

 マシュ・キリエライトのみに付与され、名乗ることの許された、盾兵(シールダー)

 

 現段階で正確に判明するクラスを簡単に説明し、メモ帳は文字で埋められる。時間は緩やかに過ぎ、時計の針は夜を指していた。

 それでも勉強会を続けるものだから、見かねたエミヤが手頃なサンドウィッチを作ってシミュレーションルームまで運んできてくれたのだ。

 

 

「エミヤ……。これはなんですか。見慣れないものもあります」

「どれだ? …ああ、それはツナサンドだ。ツナ缶を使ったサンドイッチのことをツナサンドと称することが多いな。」

「ほう……。おお、これはまた美味だね…。」

 

 

 化け物討伐で得た幻想種の肉やら、戦場ばかりで野菜などはポテトばかりが多かった。野生は畑の荒れ具合やらキャメロットの開拓やらで忙しく、あまり触れることの出来なかった分野である。つまりは、野菜の種類を増やせなかった。

 マーリンの協力を得てなんとか別の野菜を栽培することも出来たが、如何せん数が少なすぎて民草全員に配布することは叶わなかったので、戦場に持ち込み気力を持ち直すために、異形の化け物のそれらを使って料理を揮う。それが多かった。

 円卓の騎士とその王と身バレしているので、食事情にピンと頭に浮かんだのだろう。優雅においしいものもあったけれど、基本的にはまあまあ…。エミヤは何とも言えない表情をして既視感を覚える食事スタイルの二人を見つめ、呆気にとられるマスターへと視線を向けた。

 

 

「よ、よく入るね二人とも……」

「愛馬を呼ぶ際に魔力を大幅に使ってしまったようなので体が補給しようとしているようです。我が王はおそらく戦闘時に宝具を二度、解放しているからでしょう。」

 

 

 食事のほかには体液による摂取なる手段があるが、一般人の男子高校生には酷だろう。カルデアの畑については、場所の確保のために瓦礫の撤去作業ぐらいならば手伝える。片づけ終わったら施設内部の瓦礫を撤去しに行く予定だから、アヴァロンにその身を置き去りにしたためか、それとも全力を出したからか、魔力巡回に誤動作を起こす身は食事を要するのだ。

 

 

「個人的にも食事は好きなので……」

 

 

 けれども、それは言わぬまま、ぽつりとライダーは言った。零された言葉には料理をつくったエミヤの顔を破綻させる威力があった。

 見るからにデレっと崩れた英雄の顔がある。まるで息子が初めて嫌な食べ物を好きだと言ったときのような母親の顔で、なるほど、母親のような人、と納得した。その隣ではアーサー王がコクリと頷きながら、ドラゴン狩りに行くかい、と聞いている。現代のヒトには厳しいだろうと、ライダーが返すとそうかなと首を傾げて食事に戻っていた。そんな二人の様子に心なしかマシュが嬉しそうに見えた。

 立香は騎士王、ライダー、マシュをまとめて「円卓組」と呼ぶことにして。その円卓組の、あまりにも和やかな可愛らしき光景に胸を押さえながら悶絶した。

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