叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

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過激な戦術指南

 実戦での勉強を一通り終えたリツカは、今度は座学をすることになった。

 ライダーが「自信はありませんが座学に移ろうと思います。」と口にした途端にマシュはきらきらと目を輝かせながら、机と椅子を用意してスタンバイした。一体何が、彼女をそこまで突き動かすのかは分からなかったが、しかし、勉強は大切だと思ってリツカも椅子を持ち運ぶ。

 必要のないはずのギルくんも一緒になったのは何故だろうかと疑問を抱きながら、けれども人が多ければ多いほど学校のようで気持ちが落ち着く。

 

 

「前提として、まず私は所謂『当たって砕けろ(斬って進む)』のスタイルを主とします。」

 

 

 ホワイトボードの前に立たされた彼は、ぴんと背筋を伸ばして言った。ド直球な告白である。とんでもない告白でもあった。

 

 

「その為、戦術については教えの場に立つのは不向きなので、出来れば聞き流す程度にとめておいてください。いずれ戦術の詳しい方が現れるかもしれませんし、小さな英雄王に伺うのも一つの手です。むしろそう言ったことは、彼の方が詳しい。」

 

 静かにそう話したライダーは、それでも否定がなかったどころか、全力で受け入れの体勢をとられたことに困惑した。知っていることを教えるのはやぶさかではないけれど。

 リツカたちが彼から目を離さなかったのをみて、それから親友と同じ気配を持つ少女の輝かしい瞳をみて、気持ちを取り直す。姿勢を正した。腕を覆う武装を解くと、意外としなやかな筋肉がのった、それでも予想よりかはほっそりとした腕が見える。鎧も軽装になっているものの、兜を取らずとも良い程度の軽装に留めた。

 一応は失礼に当たるだろうからと、先ほどライダーが兜を脱ごうとしたのだが、エミヤとアーサー王に手伝ってもらいながらも全然抜けなかったので、そういう宝具なのだろうと納得した。

 否、宝具の能力は『被っていると姿の認識が記憶に残らなくなる』類のようなので、脱げはするのだろうけれど。何かしらの理由でとれなくなった、と考えた方が正しい。マーリンの術であることは違いないので、取れたら不都合が起こる―――と言ったところだろう。素顔を明かせぬイコール、正体を明かせぬ理由に繋がることだろうから。

 

 

「戦術とは、戦闘において部隊――――リツカで言えば、サーヴァントなどを効果的に運用する技術・学問のことをさします。魔術の類ではありませんが、一朝一夕で学び、身につくものでもありません。」

 

 

 気長にやりましょう。という遠回しの激励。それを受けて止めて、リツカは深く頷く。少年からの首肯を認めたライダーは、記憶を手さぐりに掘り起こしながら言葉を続けた。

 

 

「軍事学において戦術学とは戦闘を認識・解釈し、そして、判断するために必要な理論的枠組みを備え、また戦闘において勝利を獲得するために戦力を配置。……このように戦闘力を最大化し、戦闘行動を指揮する上で不可欠な実践的役割を担っています。」

「え、ええっと?」

 

 

 当然だと思った。これについてライダーもまた、ケイ卿から教わった当時は大きく首を傾げてなんのことだと困惑したことだった。戸惑ったリツカへ、例題を挙げる。

 

 

「……例えば、『与えられた任務をどのように理解するのか』。ということ。」

 

 

 それは第一に大切な、認識と解釈を指す。

 

 

「もしも、」

 

 

 あくまでも、もしも、の話。

 

 

「命じられたものと違うことをしてしまったら? 無力化することが正しき命で、倒すことではなかった場合―――無力化した後で情報を引き出すのか、仲間に加えるのか、”その後(ミライ)”はどうするつもりだったのか。」

 

 

 倒してしまったらサーヴァントは、座に帰る。戦力強化になるはずが、弱体化を招くことにもなりかねない。取り返しのつかないことになりかねないのだ。

 

 

「解釈の違いは命令を歪めてしまうもの。なので、任務を与えられたら、まず第一にすべきことは、上司に何を命じられたか(・・・・・・・・・・・)をしっかりと理解すること(・・・・・・)だと私は認識しています。」

 

 

 たとえば、”討伐し、帰還しろ”と命じられたときには、討伐を優先とし、帰還し報告するまでが任務であると認識するように。つまるところ、帰還を含められた時には“生還”すること。負傷しようとも生きて帰る、までが重大な任務であることを頭に入れておかなくてはならないのだ。

 

 

「上司に何を命じられたか、しっかりと理解する……」

 

 

 自分の中でかみ砕こうとする彼に、言葉を重ねる。畳みかけるようにして、認識の一つだけを植え付けておく。確実に、必ずは、ただ一つを守ってもらえるように。

 

 

「リツカとレディマシュの場合、あなた方は何をするつもりですか。」

「ぐ、グランドオーダー?ってやつで、世界を取り戻す、こと?」

「取り戻すためには何が必要ですか。」

「え、ええっと、カルデアと、カルデアの皆さんと、ドクターと、ダヴィンチちゃんと…サーヴァント?」

 

 

 うろうろと目をうろつかせながら指折り数えて施設と人の名をあげて、英霊の召喚をあげる。

 

 

「なれば、サーヴァントを召喚するには?」

「お、俺が必要……?」

「ええ、そうです。契約者の存在なくして英霊は存在できない。だからこそ、お二人の最優先事項は『無事に生きて帰ること』、それがあなたに科せられた命令と考えるべきでしょう。」

「生きる、こと? えっと、特異点を探すとかじゃなくて?」

 

 

 じゃなきゃ世界は救えないんでしょ? と目をぱちくりと不思議そうにする彼に、ライダーは魔術師としての無力さやら世界を救うための心得を無情にも現実を叩きつける。

 

 

「特異点を探すことは、あなたには困難だ。それはカルデアの職員の仕事ですから。―――現状、リツカの存在を欠いては、聖杯探索は不可能。だからこそ、カルデアまで生きて帰ることこそが最も優先すべき事項と判じました。

 リツカの仰る特異点探索は……現地で異変を探すことと言うのであれば、第二の指令と言えるでしょうが……。ああ、こちらのことだったのですね。」

 

 

 それ! と立ち上がったリツカの様子に納得した。それでも第一のことではないんだ、と席に腰かけ直したリツカに幼き英雄王は同意する。

 

 

「サーヴァントが特異点で倒された場合カルデアに帰還できるシステムのようですが、マスターやレディ……“あなた方”はそうではありませんから。」

「ええ、生身の人間です。世に生きる、人間です。今を生きる人間です。たとえ、サーヴァントと言う泡沫の幻(英霊)と融合しようとも。人類最後のマスターと呼ばれようとも。人間なのです。」

 

 

 違う赤を宿した瞳が交差する。

 けれども今は、リツカを優先した。

 

 

「しつこいようですが、繰り返します。心身ともに記憶が刻まれるまで。―――命があれば動けます。命を落とせば未来はありません。単純なことです。『生きること』。

それがあなた方の根本的に下されたオーダー(命令)なのだと、私は考えます。」

 

 

 頼まれたのは世界の修復。人理崩壊をとめること。なくすことだ。

 しかし、ライダーは無機質ながらに柔らかな雰囲気を持った声で二人に告げる。世界を救うことではなく、すべきこと、本当に下された命令は『生きること』なのだと。目を合わせる。兜の中からわずかに見える紅色の瞳は強い意志を感じさせた。

 遅れてやってきたクー・フーリンはその様子に、ふむ、と頷く。

 

 

「……要するに死ななきゃ大丈夫ってことか?」

「大雑把ではありますが、そうですね。心と体が死ななければ、明日を掴むことを諦めず逆境に抗うならば問題ないという事になります。」

 

 

 彼らは戦士ではないんですよと言わんばかりの呆れたような眼差しが痛い。しかし、当たらずと遠からず。

 今のところ、あの坊主の心の崩壊は心配ないだろう。ライダーが上手い具合に解しているからこそ、その心配がなくなったとも言うが。

 ライダーが召喚される前の坊主の顔色は、死に体だった。幼き英雄王やセイバー、クー・フーリンが召喚されたときはやや興奮したようだったが恐怖心がなくなったわけではなかった。

 あのライダーが召喚されたのは、アーサー王同士の聖剣がぶつかり合った瞬間。光り輝く聖剣の光に導かれるよう彼は現れ、美しい巨大な鳥に跨って宙を舞い、強敵を倒す。その後は勢いで圧倒されるようなやり取りがあったと聞くが、あの強気な嬢ちゃんがカルデアに戻っていないところを見ると殺されたか、あるいは事故で死んだか。

 

 それだけでは少年は折れてしまっただろう。

 

 だが、現実にあの少年と盾の嬢ちゃんはライダーへ懐いている。疑う余地もなく、それはライダーの働きによるものなのだろう。感情表現が滅法へたっくそではあるが、不器用ながらにも、その性根を全面に出ている。つまるところ、“騎士”。善性だ。

 

 

「次に必要なのは地形による不利・有利性の理解です。」

「地形? あ、転んだら危ないから?」

「それもあります。」

 

 

 あえて相手を転ばせる、なんて戦術もあるようだが。

 

 

「『どの地域が戦闘において非常に重要なことであるか』ということですね。例えば、路地裏に多数を連れ込んで一列に整ばざる得ない状況(・・・・・・・・・・・・)を作って一人ずつ確実に仕留める方法など…」

「あ、それはなんとなく分かるよ! 右翼の陣とか、名前があるんだったよね? 戦術ゲームにあったのを覚えてたんだ。」

 

 

 故に、鎧で覆われながらもリツカが恐怖せずに遠慮しつつもああいった態度をとるのだろう。とクー・フーリンは思った。

 

 

「レディマシュ、あなたはどうですか。」

「ええ、なんとなくですが、勉強をしたことがあるので分かります。」

「こちらは経験がものを言います。訓練しましょう。では、次のステップに進んでも問題なさそうですね。…次は『敵は次にどのような戦闘行動に出るのか』ということです。」

「それって予想をすればいいの?」

「予想だけではありません。行動を予測し、『現状で自分の戦力をどのように配置すべきか』や『どのようなタイミング』『どのような攻撃を用いて攻撃すべきか』も重ねて考えることが必要になりますね。この辺りを考えるの苦手なので、」

「なので?」

 

 

 ただのバーサーカーソウル。神だろうが運命だろうが倒せばよかろうなのだ精神。完全に感覚派の回答である。善性に負けず劣らず、やんちゃ坊主ではあるようだが。

 

 

「……ぶん殴ればなんとかなる。」

「そ、そっかぁ……」

 

 

 カリッとシャープペンシルで書き込むリツカの姿をみたライダーはその手元を覗き込む。次の瞬間、『サーヴァントとして翻訳できる程度にはわかるはずだが』、とクー・フーリンは彼の行動に驚かされた。

 ライダーが首を傾げたので、どれどれとアーサー王が覗き込んだところで彼も首を傾げたのである。珍しい文字だね、と。感心したように『ああ、噂のニホンゴか』と続けた。

 

 

「おいおい、サーヴァントとして最初に基礎言語翻訳は送られてくるはずだぜ?」

「特殊な召喚だからでしょうか。私は自分が習った言語しか書けませんし読めません。」

「会話は出来てるよね…?」

「それは、教わった時期があったからかもしれませんね。花の魔術師に言葉を学んだことがあるのですが……一時だれとも会話が出来なくなってしまった時期があったので。何の言葉を教わったのかすら分かりませんが。」

「僕はカルデアに来る前に花の魔術師にある程度のことは教わったからね。会話が問題なくなる程度には鍛えられたと思うよ。」

 

 

 要するに、勉強した結果である、と。

 

 

「言語を翻訳するのとて微量ではありますが魔力を消費します。リソースの節約を心掛けるのであれば必要な事かと。」

「まじか……」

 

 

 ぼそりと呟くクー・フーリンの言葉にライダーは首を傾げた。大の男がやっても可愛らしさの欠片も感じねえんだよ、そう言わんとして思わず黙る。クー・フーリンと不思議な因縁を持つ、あの赤色の外套の男と、アーサー王が満足そうに頷いていたからだ。

 気遣えるとは流石は我が子、と言わんばかりの。母親面をする顔見知りのアーチャーの様子に黙るしかなかった。

 

 

「ところで、普段の槍はどうしたんだねランサー。筋力も普段よりも衰えているようだが、年かね?」

「サーヴァントに年もくそもねえだろうが!! オレは、今回、キャスターとして召喚された、って、だけ、だ!!」

 

 

 ぷすと嗤ったアーチャーの言葉にキャスターは切れ気味に叫んだ。

 そんな様子にリツカは目を瞬かせ、けれども地形に置いての有利性と不利を細かに教わった。そこだけは何故か完璧に説明されたので何かあったのかなと気にする少年へ、『ドラゴンを狩る際に必要な事だったので』と短く返す。

 飛行するドラゴンを撃ち落とすための地形や、ドラゴン肉を柔らかくする調理段階飛ばしの倒し方また地中に潜るドラゴンの倒し方など。主にドラゴン系統に関する倒し方などをレクチャーしてしまった。

 あとは軍勢をどう一閃するか。ということであるのだが、正直、本当に参考にならなかった。ほぼ全力でぶっ放せば倒れる―――とのことである。そんなわけねぇだろ、とキャスターは言いたくなったが、確かにそう言った事例はある。

 ライダーは一撃必殺系を多く持っているようで、サーヴァントとして召喚されたが故に、世界から抑止をかけられてそれらは限られた数しか使えなくなっているらしい。威力さえも落ちたとつぶやく彼の背中は少し寂しそうだった。大抵の敵は簡単に倒せる、その発言をされたかのようで心強くもあったが。

 

 

「ああ、そうですね。究極の二択も戦術には欠かせません。

『圧倒的劣勢な状況において、退却と防御、どちらを選択すべきか』。そのタイミングと選択を見誤れば、全滅は免れないでしょう」

 

 

 常に王は苦しみに耐えながらもそれを選び続けられた、立派な方です。と自慢するように付け加え、リツカを見下ろした。だからと言って自分のすべきことを失うのは本末転倒ですが。そう言って少年と少女の頭を撫でる。

 

 

「サーヴァントとの連携をどのようにとるべきか、それもあなたには必要な知識や経験となってくるでしょう。英霊たちの弱点、強み、それを理解し、組み合わせるのは召喚者であるリツカ。あなたしかいません。」

「……ッ」

「―――これではプレッシャーになってしまいますか。ええ、では言い換えましょう。……学校でいうところの、ハンチョウ、というもの。それとも部長? それではありませんが、認識としてはそれが近いのかもしれない。班員の長所を活かす為に、班員のことを知る。効率的に進む為に、地図に書き込む。そう言ったこと、それに近いこと。」

 

 

 青ざめた顔色に、赤みが戻る。それならば、とコクコク頷くから。

 ライダーは、あっさり己の弱点を晒した。

 

 

「私はドラゴンや異形には強く出ることが出来ます。“人外特攻”というやつです。逆に守るべき民や王、友には理由がなければ刃を向けません。向けられません。おそらく私自身が、斬り殺されようとも、この剣を抜けない。」

 

 

 あの日、太陽の騎士に刃を向けたのだって。あれは、人の形をした神の端末であったから。乗っ取られてしまったそれは、人だと判ずることは出来なかった。―――その証拠に、”彼が帰ってきた”と感じたら刃をおさめたが。

 リツカのメモ帳に ライダー『人型以外は有利』と記入されるが、そうではない。

 

 

「リツカ、私のステータスを見ましたか?」

「え、まだ見てないよ。」

「そこに私の弱点と強みが記載されているでしょう。そちらを見てからメモを取った方がよろしいかと」

 

 

 言い換えてしまえば。人間であろうとも、“王”を含めた“守るべきもの”への害を感じたとき。害悪と感じた敵対生物であれば、容赦なく斬り捨てる冷酷さも持ち合わせているのだ。

 ライダーにとっては王が全て。王が望むのであれば、殺しであろうと、破壊であろうと喜んで行うだろう。しかし、あくまでもそれは王が望めば、の前提があってこそ成立する。あの優しき王がそれを望むはずもなく、そう言った絶対的な信頼を置ける人だからこそ、ライダーは王への尊敬を抱き続ける。

 故に、ライダーは王が望まなければ(・・・・・・・・)、人を殺さないし破壊もしない。

 

 

 『全て我が王の御心のままに(イエス、マイ ロード)』。

 自身の欠点であり、利点。相性はアーサー王によって決定されるというサーヴァントスキル。通常時の彼であればそんなものは付与されなかったが、サーヴァントとして意識が魔力を纏って(・・・・・・・・・)召喚された以上、この世界に抗えず付与された制御するための特典だった。

 説明する時間が惜しかったので端折ったが、いずれは説明しなくてはならない。その前にあの花の魔術師が来て説明してくれると有り難い。自分たちも内容の理解は出来ていないのだから。

 

 

「あとは伝言をどのように伝えるか」

「伝言?」

「ええ、正しく、ヒトの心に伝わるように。ヒトを動かすのはヒトの言葉――心です。故に言葉をその場に合ったように使わなければ反乱を起こすきっかけを作るかもしれませんし、…望まぬ結果を導き出すかもしれません。」

 

 

 強く噛みしめて頷くリツカの様子を見やりながら、ライダーはケイ卿から教わった己の知る限りの基礎をきっちり二人に教える。分からなければ二人から質問、ライダーがそれに答え。

 実戦を望めば、ロマニにレベル操作を任せてシュミレーションルームでの戦闘に教えた一端を入れて実演してみせて。恐怖を感じれば、恥じることはないと言って励ます。恐怖を感じながらも盾をふるおうとする少女にその本質を尋ねて考えさせて。本来の在り方を導くように、盾を、彼もまた揮ってみせて訓練の時間は過ぎて行った。

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