叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

35 / 66
とあるカウンセラーの話

 人理焼却より暫く。訓練した日々は決して無駄ではなかったと言えるだろう。

 マスターとしての働きをかろうじて行えるようになり、それ以前として、生き残るために多少の殺気やら圧やらを前にしても足を動かせる程度には成長した。程度、と言うけれど、一般の出の子どもであることを踏まえるとかなりの成果だ。

 おはよう、と朝をはじめる挨拶の合間に、あの冬木で怯えた表情をした少年とは思えないほどの活発的な笑顔がある。翳りも憂いも感じさせず、この非凡だけれどカルデアでは平凡な日々を当たり前として受け入れることの出来る少年の顔だった。

 世界を救わんとする最後のマスター。そんな壮大な英雄像はまったく見えないけれど、職員たちはそれでいいのだと胸に零す。

 子どもに重荷を背負わせる大人が何処にいるのだと、過去を生きた英雄からそう叱られた日の出来事は鮮明に思い出せた。

 

 それは、瓦礫撤去をしている最中のことであった。

 作業中だった職員の一人が、その日はもう休むからと挨拶しに顔を出した少年に対してキツく怒鳴りつけてしまったのだ。誰もかれもが余裕はなく、現状を打破できる唯一の希望は正真正銘の一般人ともなれば不安と焦燥感に駆られてしまってもおかしくはない。

 なかったのだけれど―――オルガマリー所長が不在な理由を子どもに押し付けた魔術師側の主張だった。理不尽を理不尽で押さえつけるような暴力()だった。

 

 魔術師同士の戦場を知らぬ少年に、その力があるのだから戦うのは当然だの、マスターであるがゆえにあらかたの作業に参加しなくても良いとはイイ身分だの。世界の終わりを目の当たりにし、その神秘を学んできた精鋭だったからこそ陥る絶望が聞くに耐えぬ八つ当たりを生んだのだ。

 オトナに怒鳴りつけられて身を縮こまらせる少年に見かねて、その間へ割って入ったのは幼き英雄王だった。諭すように、導くように、彼は言った。

 

 

 

―――次なる未来を担う子(・・・・・・・・・)なのでしょう。

 

 

―――責任を押し付けることが、あなたの今するべきことですか。

 

 

 

 覚えのあるフレーズだった。馴染みのある言葉だった。

 職員の半分も年を重ねてはいない子どもを相手であることを遠回しに。本来であれば、職員の子どもと同じほどの年頃の少年である。

 魔術回路を持たずに生まれた娘は、現当主である祖父母から激しく嫌われて、家では針の筵。居心地が悪そうに過ごす娘のために功績をあげ、居場所を作ってあげようとカルデアに就職したのだ。

 そんな、娘と。同じ年頃。魔術回路を持たぬ故に、非魔術師―――すなわち、一般人としての日常に身を置く娘と、同じ景色を知る者。

 

 詳しく身の上を聞けば、カルデア側の不備である。勝手に行動した職員たちによる献血と称した詐欺にあって、誘拐された身。完全なる一般人で、ただの被害者。

 世界滅亡に立ち会ったその子は、君が何もしなければ世界は滅ぶ、と嫌な現実を突きつけられて。世界を救うとか、誰かの為とかではなく、あの日々を恋しく思って前に進むと決めた。

 狼狽える職員にライダーは純粋な疑問を投げかけた。ただの疑問であるがゆえに、職員は返答をとても悩んだ。

 

 

 

―――この時間を、如何に使われるおつもりなのですか。

 

 

 

 生き残った。自分だけ。家族の中では、自分だけが生き残ってしまった。肩身の狭い思いをした一人娘の為のはずの行為は、自分だけが生き残るという結果を残して。

 赤に笑みを乗っけたギルはゆうるりと小首を傾げて、そうですよね、とそれを後押し。どうぞ答えて、と言葉をこぼす。

 

 

 

―――死への恐怖を理解出来ぬ、とは申し上げません。

 

 

―――ですが、彼に“やるべきことを為せ”と言うならば、

 

 

―――あなたもその技術を燻ぶらせている時間はありませんよ。ミスター。

 

 

 

 藤丸 立香は、拙くとも前に進むため、戦う技術を学び始めた。学び舎で習う勉学とは違い、模擬線とは言え戦場に身を置きながらの実践を積んでの学習。流れ弾は何度も顔の横を過ぎ、命の危険は数え切れぬほど経験してきた。

 

 

 

―――それに、

 

 

―――あなたにも未来をともに迎えると誓った仲間が居るでしょう?

 

 

 

 恐怖で押し潰されそうなとき、不安で前に進めなくなったとき。仲間の姿が励みになる。同じ志を持つ仲間であるからこそ、窮地こそ支え合うことが出来るだろう。

 経験者の言葉ほど重みのあるものはなく、その職員はカウンセラーとして職務を引き受けた。魔術師として名を馳せながら、彼は表の世界で小さな精神病院を営む医者だったのだ。

 カウンセラー、カウンセリングルームの開放を達成したライダーには感謝の言葉が送られる。けれど、変わるきっかけはギル殿でしょう、と言って取り合ってはくれなかったが。世界滅亡の危機を救済する作戦の要。キーとなる少年の精神状態を把握できる環境が出来上がったところで、聖杯探索の始動―――“特異点”の探索が、此れより始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。