叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

42 / 66
ちーすとちーず

 フランスを愛し、フランスに愛された乙女がドレスの裾をはためかせながら水晶の馬に、大樹の枝にぶら下げたブランコのごとく腰かけて、戦場を駆け回る。

 マリー・アントワネット王妃による「あなたの身の心も手に入れてみせるわ!」という大胆な発言より開戦された、黒き魔女との激闘は、已然として継続。維持をするのも大変で、苛烈な猛攻によって瓦礫が雨のように飛び交う。戦場も戦況も落ち着くどころか激しさを増すばかりで、立香の目の前で花火が散った。

 

 

「は、はぁ……は、ぁ……はぁっ…」

 

 

 フランスの旗って、火花散るほど鍔迫り合いできるんだ……。

 現実逃避も兼ね備えた状況把握は、少年マスターのやわらかな平和な世界を踏みつける。疲労が蓄積され続けるジャンヌ・ダルクとマシュを横目に、少年英雄王と騎士王の目配せを覗き見て一時撤退を読んだライダーは笛を吹く。

 

 

 

―――ィィインッ

 

 

 

 気高き嘶きをあげながら愛馬のハウオリとフェリチタが雄々しくその場に顕現し、王妃の馬が屍兵やワイバーンを踏み抜くさまを真似っこして、魔物を相手に躊躇なく蹄を落として苦戦を強いられることなく倒す。流石はモンスターバスターである主人を持つ騎馬である。慣れたもんだ。

 馬車の中に投げ込むようにして乗車した? させられた? マシュたちとは逆に、王妃の絢爛豪華な馬車には立香が乗せられてあった。攻撃される前に王妃は自らの輝きを見せつけてサーヴァントたちを遠ざける。

 

 

「此処は戦場ですもの、語らいはこのあたりで。貴女は世界の敵、なのでしょう?」

 

 

 それだけで、竜の魔女は笑みを濃くする。結構よ、と朗らかなほほえみを浮かべる白百合の王妃は変わらずうつくしき微笑を携えて、片手をふわりと広げて言った。

 

 

「では、何はともあれ――――まずは貴女が殺めた人々への鎮魂が必要不可欠。お待たせしました、アマデウス。機械みたいにウィーンとやっちゃって!」

「任せたまえ。」

 

 

 舞台は整った。彼女の馬車から顔をのぞかせた色白な男は、恭しく頭をたれながら王妃の命を聞きとして受け入れる。瓦礫の影から現れた芸術的な格好をした男性が宝具を開放し、それは一つの音楽となって、激しくバーサークした彼らの聴覚を揺らした。

 

 

「ああっ!!」

「くっ、重圧が……!」

「なんて壮麗で邪悪な音でしょう!」

 

 

 違う。

 

 

 

―――あなたも、××××の■■さまなのね?

 

 

 

 目の前の景色と、脳裏の景色が、被らない。

 これは、違う。

 

 邪悪で、卑劣で、下劣で、そのはずなのに。

 違うと脳が訴える。目の前で嫋やかな微笑みで身を飾る乙女。それは(かのじょは)、それが居るべきは、銀が踊るようなこことは違うはずだ(剣先ではない)、と疑念が首をもたげるのだ。

 頭に浮かんだ言葉を拒絶するかの如く焼け付くように、己の中の記憶が焦げ付くかのように、何かを火種にくべてバーサク・セイバーの意識は燃える(・・・)。自分の、理性が、知性が、英霊としてあるべき垣根が、かろうじて残るはずの■■としての本能が、燃え続けてしまう。

 

 

「宝具、『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』―――――」

 

 

 大きな波のような音が、再び襲ってくる。

 記憶に浮かんだのは、あるはずのない邂逅。召喚されたばかりのバーサク・セイバーと、木陰でうっかりと顔を合わせてしまった白百合の乙女との。

 

 

 

―――あなたも、××××の■士さまなのね?

 

 

 

 昔は自信満々に答えることができたはずなのに、光栄だと胸を張って誇れたはずなのに。今は、遠く。雑音が混じる。この、雑音が痛みとなり、バーサク・セイバーの精神を苛んだ。

 

 

「隙を見せたな」

「ぐあっ!」

 

 

 バーサク・セイバーは”守らなければ”と本能のままに、竜の魔女の前に踊り出て、剣先に炎を纏わせ剣をぶつけ爆発を引き起こした。

 真横からぶち抜かれたかのような衝撃波をもろに吸収した彼は吹き飛び、動けるようになるまでは時間がかかるだろうことが予想できる。チャンスを逃すわけにはいかない。マリー・アントワネット王妃と目を合わせて、彼女は「よくできました」とばかりに微笑む。

 

 

「それではごきげんよう皆様。オ・ルヴォワール!」

 

 

 軽やかに先陣を切って駆け抜けたのは彼女の馬車。

 そして続くようにライダーのチャリオット・アーサーが走る。ライダーは素早くフェリチタに飛び乗って、アーサー王はハウオリの背に跨って戦場を離脱。

 遠ざかるそれを見たジャンヌ・ダルク・オルタは冷静にバーサーク・ライダーを呼ぶ。あなたの馬なら追いつけるでしょう、と静かな声で彼女に追撃命令を下し、残されたバーサーク・サーヴァントたちにもそれぞれ自由に暴れるよう命を下すと、彼女は本丸へと踵を返すのであった。

 

 水晶の馬が追い付ける程度に風に溶け込まんとする加速を続け、さっさと尾行をまいたライダーはゆっくりとゆったりと減速し、森奥の開けた場所で停車した。

 チャリオットから降りたマシュは地脈の反応を端末で観測し、近くに盾を突き立てる。魔力の安定化を図る為に、地脈の接続を試みるのだ。とは言え、接続が完了するまでの待ち時間はヒマだからとレオナルド・ダ・ヴィンチちゃんがサーヴァントのクラス、そして相性について解説がほのぼのと行われる。

 しかし、それはギルくんに教えてもらったばかりの内容で、きょとんと目を瞬かせた立香だったが復習も大事だと頷き真剣に話を聞く。

 戦場では掛けボタンを一つでも間違えれば悲惨なのだから、今のうちに頭の中に叩き直しておくのも必要だろう。先ほどの惨状、あれを見て、軽く記憶の一部があやふやになる程度にはショックを受けた少年マスターなりの考えだった。

 

 

「……先輩、地脈の確保、無事成功しました。」

「あ、ありがとう、マシュ。見た目でわかるものじゃないんだね、地脈の確保って。こう、黄色いオーラがぶわわってしてるのかと思ってたや。地だし。」

「!? ご、ご期待に沿えずっ」

「え? あっあぁご、ごめんそうじゃなくて! ほんとあの、ほんとにっゲーム脳でごめん!」

 

 

 冬木ではじっくり見る機会もなかったし、どんなふうに接続ないし設置されるのかなって。ただ純粋にそんなことを考えての発言だったのだが、魔術師としては(ある意味では)考え無しとも言える。

 

 

「しっかし、坊主。オマエさんひょっとして魔力を色でとらえてんのかい。」

「えっ、そういうわけ、じゃ…ない、とも言いきれない、のかな? どうなんだろう、魔術については勉強し始めたばかりだからどんな風に見えるのが一般的なのか、わ、分かんない。」

 

 

 もしょもしょと指先をつつき合わせながら小声でそんなことを告白した少年マスターをフォローするかのように、少年英雄王は微笑みながら簡潔にケースを紹介した。

 

 

「魔力って通常、目に見えるものではないのですよ。よっぽど目が良いか、それとも相手の力が強くてすごいのかってことになるんです。」

「へ、へえー…。」

「マスターはどんなふうに見て、感じてるんですか?」

 

 

 気になります、とマシュの言葉に少年マスターは慌てて顔の前で手を振った。期待をされても困る。なんといってもちょっと前までは一般人のぺーぺーだったのだ。

 

 

「あ、えっと、色で見てるっていうか、なんていうか、こんな感じの色してそうって……マシュの盾、なんか今めちゃくちゃ青かったなーみたいなかんじ? だからちゃんと色がぶわわって溢れてるように見えてるってわけじゃ、え、でもこれって見えてるのかな!?」

 

 

 感覚の説明を事細かに出来るはずもなく、知った語彙を引っ張り出して懸命に説明する。なんとなく、だけで終わってはいけないような気がしたから、頑張ってみたものの中学生を通り過ぎて小学生レベルの語彙に低下したような気もする。でも、もともとこんなだったような気もするので、諦めて言語をかき集めて言葉にした。

 

 

「データの粒子のようなものでもありますから、青くても不思議はありませんが…。」

「そうですね、あなたは魔力の性質(オーラ)を視覚的に捉えるのではなく、自己認識の中にある当てはめやすい情報―――つまり、色彩の雰囲気で感じ取ることができるタイプなのかもしれません。」

「鍛えて自分でコントロールできるようになれば、危機を察知しやすいという利点が生まれます。人はそれを、勘、と呼ぶこともありますが。」

 

 

 オルレアンの乙女、少年英雄王、赤雷の騎士と順に予想と補足を付け足す。勘が鋭いことは悪いことではないから重宝してくれとエミヤが追撃し、見識を増やす講座を増やすこととになった。

 騎士ばかりでは偏りすぎるため、こちらはライダーたちとは無関係とまでは行かずともほどほどに距離をあけての講座となるだろう。主にとある騎士による人間の血と欲求による暴走を突き詰めたような騎士物語を聞かせるには、些か少年たちの精神的な衛生に悪い。

 

 

「ふふ、では落ち着いたところで、改めて自己紹介をさせていただきますわね。わたしの真名はマリー・アントワネット。クラスはライダー。」

 

 

 どのような人間なのかは各々の感覚と話し合った言葉の中から探してほしい、と華やかな笑顔で伝えてくるマリー・アントワネット王妃に少年マスターはたじたじになった。

 だって、その名前だけでわかってしまった。正体は、教科書の人である。伝説だったり歴史書だったりする本の登場人物。過去に存在したとされる偉人。

 かの有名なフランスの王妃。最近ではアニメや漫画、さらには歌となって名が知られる時が経った今でもなお、世界に愛される少女。

 召喚された理由は不明だが、フランスが滅びゆく中それを救わんと立ち上がってくれるのなら手を貸すと。貸してくれるというのだから、猛烈にモチベーションが上がった。

 

 

「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。僕も彼女と右に同じ。恐らくは―――」

「えっすげー! 音楽の教科書の人(モーツァルト)だ!」

「そう、モーツァルト(音楽の教科書の人)として有名なんじゃいかな、僕は」

 

 

 うふふ、あははとそれぞれから朗らかな微笑みで首肯を受け、少年マスターは仔猫のように肩を跳ねさせて頭を下げた。ご、ごめんなさい、と気まずげに視線を逸らそうとする素直な反応にはフランス組はニコニコと笑みが浮かぶばかりである。

 もちろんバッハやベートーヴェンも居るが、その中のひとりで挙げられるのがモーツァルト。正式なフルネームまでもをテストで書かされた記憶があったからの叫びで恥ずかしかった。

 

 数多くあった芸術家の一人。

 それがモーツァルト――――ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトである。故に彼自身、英雄として、英霊として召喚された理由がさっぱり分からなかった。英雄、というものは危機に対し、勇猛果敢に立ち向かった勇者のなれの果てだと頭の片隅では解釈があったからだ。

 悪魔の嗜む音楽が気になった、悪魔の奏でる音楽が気になった、それ故に、魔術には多少心得がある。ただそれだけで、見るからに戦闘向きではなさそうなサーヴァント。

 

 

「あ、こ、これは失礼いたしました! わたしは、マシュ・キリエライトと申します!先輩の後輩で、こちらは先輩のリツカ・フジマルさんです。」

「ふ、藤丸 立香です!よろしくお願いします! えっと、他には、サーヴァントのセイバー、アーチャーのギルくんと、同じくアーチャーのエミヤさん、それから―――」

 

 

 アマデウスは片手をあげ、立香の言葉を止めた。

 

 

「ああ、ライダーは知っているとも。戦場ながらに音にかきつぶされることなく、凛とした声が僕の耳にも届いていたさ。」

 

 

 ニコニコとした顔で言った。

 どうやら好意的に見られているらしいと分かったが、和気藹々と挨拶をかわすその後ろでは、マリー・アントワネット王妃らしからぬ挨拶が流行って―――――流行って?―――――いた。

 びっ、と人差し指と中指を合わせてチェックマークのような指の形を作り、弾いている。流れるようなウィンクは優美で完璧なのに、手元のそれとセリフで台無しだ。

 

 

「ち、チィーッス!シクヨロ! あ、あら。もっと庶民に近づかなければならないのかしら…。アマデウス、チィーッス!」

「チィーッス!いいねマリア、今後はそれで頼む!百年の恋もサッパリ冷めそうだ!」

 

 

 試し打ちよろしく妙にずれた挨拶をするマリー・アントワネット王妃とそれを受け入れ喜ぶヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

 その様子を横目にマシュは驚いたように目を見開き、サーヴァントは聖杯から現代社会のアレコレを提供されるのだと思い出し、やや納得する。しかし、それにしても奇妙な情報を教本としたようだ。

 

 

「ライダーさん! チィーッス!」

「……ちーず…?」

 

 

 物凄く真面目に返答した。なぜ、と言わんばかりであるが、返しも不思議だ。彼女が求める挨拶の返しは黄色い三角の乳製品ではない。

 

 

((ちがうよ……!?))

「もっと元気に言うのかしら。ねえ、ライダーさんどうかしら?」

「私には、その挨拶は分かりかねます。」

 

 

 マリー・アントワネット王妃はやや不満げだったが他のサーヴァントたちの反応をみて、確かにそうかもしれないと頷く。それもそうですわね、とふんわりと笑って普段の彼女の言葉に戻る。

 立香は意外とライダーって天然入ってたんだなあ、と温かいまなざしで見つめた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。