叛逆の騎士≠   作:夜鷹ケイ

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まどろみに閃光奔る

 アマデウスの反応、そしてライダー含むサーヴァントたちの反応で、決して『チィーッス』が淑女のする挨拶ではなかったと知ったマリー・アントワネット王妃は気を取り直して、フランスの聖女を見つめた。

 

 

「……私は聖女ではありません。」

「ええ。貴女自身がそう思っている事はみなわかっていたと思いますよ。」

 

 きっぱりと口癖のようになりつつある、聖女ではない発言。それにマリー・アントワネット王妃は微笑み、頷く。

 生き方は確かに真実だった、それでフランスが救われたのもまた事実。死して尚、人々に愛される聖女の名を口にするマリー・アントワネット王妃と、フランスの王妃にそこまで賞賛されて頬を赤らめるジャンヌ・ダルクに芸術家は空気を変貌する一言を零す。

 火刑に処され、竜の魔女が現れたわけだが。と区切って、マリー・アントワネット王妃を見る。良いところしか見ないのは、彼女の悪い癖のようだ。

 そして、やや説教するように発言された言葉にマリー・アントワネット王妃は狼狽えながらも実演した。叱るのも必要、と言われただけだったはずなのだが、彼女の口からはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを罵倒する言葉の数々が飛び出したのである。

 

 そして、ジャンヌ・ダルクは自分の在り方を語った。

 彼女が自ら抱える最も大きな罪だと言ったのは、己の行いの後にどれほどの犠牲が出るのかを全く考えずに動き続けた事である、と。それ故に、己は聖女ではないのだと、静かに語った。

 納得したようにマリー・アントワネット王妃が声を零し、名の呼び方を問う。では、ジャンヌと呼んでも良いかしら。猫が鈴の音を転がしたような可憐な乙女の声がした。

 ジャンヌはそれを承諾し、また次にかけられた言葉に驚きながらも王妃のおねがいを聞く。何もかもを許されたような気がした。自責はあれど、―――今だけは、今この時だけは、ただ一人の村娘として。愛しき母国の王妃にかしずく人間のひとりであってもよいのだと、言われたような気がしてジャンヌはひっそりと旗を握りしめる。

 

 

「っ!」

「ジャンヌさんも感じましたか!」

「―――――気配を感じました。戦闘態勢に移ります。レディマシュ、ミセスマリー、申し訳ありませんがリツカの護衛をお願いします。」

 

 

 マスターを守らせることは、生ける人であるジャンヌを守ることにもつながる。険の帯びた光の粒子を引き抜きながら迅速な判断による対応は、まだ続く。

 

 

「囮になります。障害物が多く狙撃が困難となっておりますが、ギル殿、恩師よ、狙撃は可能でしょうか。」

「誰にモノを言ってるんですか、当然できるに決まってるでしょう?」

「ふ、私も眼は良い方だからな。心配など不要さ」

 

 

 それを確認したライダーは二振りの槍を手に持ち、木の腹に足を添えた。セイバーはダメ。ライダーは保温。ならばと、取り出したのは、槍であったようだ。

 

 

「では、そちらは(・・・・)お願いします。私は遠方から迫りくるワイバーンを倒してから合流します。」

 

 

 トンッと軽く、本当に軽く、木の腹に添えた足を動かすとみるみるうちに遠ざかり、ライダーの姿は見えなくなった。それに驚く立香にアーサー王は笑って、『今の彼はランサーだよ』と口にする。

 

 

「宝具の名は、すべて倒した竜の名だが――――あの二振りの槍だけは違うんだ。」

 

 

 友人の名前が、そこにある。戦場で失われんとした友を守るために振るった槍だからこそ、そのような名になったのだろうと、王は言った。

 

 

「友……?」

「ああ、かの宝具の名は―――――――」

 

 

 遠くから膨大な魔力が跳ね上がって、高圧縮されてゆく菫色の粒子に目を丸くする。聞こえないはずの、ライダーの声が聞こえた。

 リリンと耳奥を揺らす鈴のように、静かな拒絶の色を見せる。『王よ。少年魔術師に名乗れぬ事情があるのです。今はまだ、真名を明かすような行動はおやめください。』、と。

 短く謝罪し、膨大な魔力が暴風として吹き荒れる場所へと目を向けた。マスターである立香からの魔力提供どころか、カルデアからの電力変換を行われた魔力も受け取らずに存在を保持する(・・・・・・・・・・・・・・・・)アーサー王とライダーには驚愕の連続だ。

 アーチャーのような単独行動スキルがあったとしても、現界できるのはたったの二日。無理な戦闘をすればさらに期間は狭まるが、しかし、多めにみても二日程度なのだ。

 パスは繋がれてるものの、と立香は体内に流れ込む魔力(・・・・・・・・・)に意識を向けた。繋がった線をたどれば、その根源はライダー。

 その量が膨大なものだったので立香は最初てっきりカルデアからの魔力提供かと思っていたが、たどってみれば、魔力を提供してくれている相手はライダーだったのである。否、マスターの魔力が減るたびに溢れた魔力が流れ込むと言った方が正しいか。

 

 日が暮れてようやく戦闘が落ち着き、マリー・アントワネット王妃――――――マリーさんはバーサーク・セイバーの正体に思い当たるようでその情報を口にした。

 

 フランスの諜報員―――所謂、スパイ。シュヴァリエ・デオン。

 

 敵対サーヴァントをどうするか、その対策をさあ練ろうと意気込んだ瞬間に野生の動物を狩って来たらしいライダーの提案で休むことに。焚火に焼かれた動物の肉が柔らかく解されたのは、おそらくはやや満足げに投影したフライパンを持つエミヤのおかげだろう。

 その横では調理方法を詳しく尋ねるライダーの姿があった。顔見知りらしいし仲良しだね、と微笑ましく思いながら立香は肉を食んだ。食べて、食べて――――――――立香は眠った。

 

■……

 

 

 

―――まるで、御伽の国のようだった。

 

 

 

 白亜の城、理想―――夢に描かれたような騎士らに囲まれた王様、多くの人々の笑顔。そして100をとるか、1をとるか苦難の決意に顔をあげて玉座に戻った王の姿。それを知らずに王を侮辱する人々。

 王は人々の声を聞きながらただひたすらに無言を貫く。無表情に見下ろし、それが、と言わんばかりの様子であった。

 

 そうして数十分。

 人々を落ち着かせるために立ち上がった騎士の鎧は、見慣れた赤銀色をしていた。まずは彼、そして菫色の騎士、赤髪の騎士、盾を持った騎士、紫色の騎士、太陽を思わせる騎士と、一人ずつ、ばらばらに移動し、民がひとたび騎士らの姿を視界におさめると救われなかった者たちからの王への暴言は止んだ。

 救われたような表情も、本当に表情が変わらなかった王に――――赤髪の騎士がつぶやく。愁いを含んだため息のような声で、あきらめの滲んだ言葉だった。

 

 

 

―――――王は、ヒトの心がわからない――――――

 

 

 

 瞬間、臓腑が冷え込んだような感覚に襲われて、ぞわりと、した。

 色の騎士は怒った。

 

 

 

―――――王は、人々の為を思って行動なされているのです―――――

 

 

 

 それが分からないあなたではないでしょう、と訴えかけるような声で、咎めるような言葉だった。同じように、赤銀の騎士は静かに口を開く。

 兜もなく、顔が見えるはずなのに―――――否、見えている(・・・・・)はずなのに全く何も見えない(・・・・・・・・)。霧がかったように記憶にノイズが走る。―――――白髪の魔術師がひそかに立香をみて微笑んだような気がした。

 

 

 

―――――友よ、サー・トリスタン。嗚呼、トリスタン卿よ、それは我が王への侮辱として受け取っても構わんのだろうか―――――

 

 

 

 鎧と同じ赤銀色の剣を引き抜くことはなく、本当にそのつもりなのかと確認するような、どうか違うと言ってくれと懇願するような声だった。見慣れた青緑色の剣が抜かれる様子もなく、ただ張り詰めた糸のように空気が凍てつく。

 

 数十分。

 どれほど見つめ合っただろう。―――赤髪の騎士は肩をすくめ、”場を乱したことへの謝罪”を口にすると頭を垂れて下がる。何かを言いたげに誰もが開閉したのに、王が手で制するとその声が言葉を唱えることはなかった。

 以降、場の空気は戻る。否。戻された。あの赤銀の騎士が殺気だったと言うか、苛立ちを全面に押し出した結果があの空気になった原因のようだ。宥めるように名を呼ばれ、吐き捨てるように「知るかよ。」と言った。騎士たちは肩を震わせ、三白眼の騎士は仕方なさそうに、けれども嬉しそうに笑って肩を叩く。

 

 漆黒の鎧を纏った男性が王へ耳打ちをすると、かの騎士王はマントを翻し立ち去った。また戦か、眉間に刻まれたシワが彼の苦労を表すかのようだ。

 「アグラヴェイン卿。」 呼ばれた男性は赤銀の騎士へ視線を向け、そして頷く。出陣の合図が下された、であらばすることは一つである。玉に向かって一礼し、それを請け負った赤銀の騎士は二人が立ち去ると人々へ向き直って静かに告げた。

 

 

 

―――――我が敬愛せし王は、人々の笑顔を守る為に日々苦渋の決断をなされておいでです―――――

 

 

 

 王は斬り捨てることにお悩みになる時間などないのでしょう、と叫んだ女性へ。抱える苦悩を、痛みを、誰の耳にも届かなくても良いと微笑む顔に、疲労をにじませるまで隠しきることかと言うようだった。

 

 

 

―――――その苦しみを分からぬ者に、王を非難する資格などありません。―――――

 

 

 

 不快だ、と切り捨てるように。王を暗殺せんと企てた若者へ。

 

 

 

―――――ブリテンの地にて、王の庇護を受けし民らよ――――――

 

 

 

 その場の全体に伝わるように、静かな声は不思議と耳の奥にするりと入って心を掴む。逆光に照らされ、まともに彼の姿が見ることが出来ない。

 

 

(―――っあぁ、なんて、まぶしいのだろう……。)

 

 

 太陽に照らされたのは姿だけではなかった。彼の心の一途に一人を想う在り方が素敵だと感じたのだ。

 その為だけに強く生きようとする彼の在り方に、濃く惹かれた。様々なものに手をつけて、ただ一人の為に何もかもを成し遂げようとする強い意志に憧れる。手を伸ばしてもつかめぬそれは、焼き焦がすだけのものではなかった。

 

 

 

―――――どうか、王一人にその責を背負わせることが当たり前などと思わないでください。――――――

 

 

 

 王を労わるように、顔は見えないはずだが、ただ穏やかな表情で。

 

 

 

――――――このブリテンに生きる民。一人一人が導き手なのです。そのことをどうか、努々お忘れなきよう―――――

 

 

 

 そう言うや否やアーサー王の瞳と同じ色のマントを翻し、戦場へと向かうのであった。

 

 結果は言わずもがな。我らが白亜に、未来永劫の幸あれ。赤雷は、望まれなくとも結果的には彼が敬愛する王が望んだ(・・・・・)勝利をもたらした。

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