綾小路以外記憶ありの場合   作:味噌汁豆腐

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高評価なら長く続けようかなって感じです。気に入ってもらえたら嬉しいです。


事実は小説より奇なり

 

事実は小説より奇なり。

 

これは、小説というフィクションでさえ現実の事象の複雑さには敵わないという意味だ。現実は想像を超える。その事象には観測者である各々、己にしか理解はできない。だからこそ、オレはこの言葉を発した英国の詩人バイロンに拍手を送りたい。人々が理解できているにも関わらず、他人のそれを観測することすら許されない。そんな言葉に表せない、いわば形のない人々の想いを言葉としてこの世に表したのだから。

 

さて、この場でオレを観測者とするならば、このバスで起こっている事象をどう表現すればいいだろうか。偶然?否、これは必然と言わざるを得ない。それぞれがオレを一度視界に入れた。あるものはオレを見つめ続け、あるものは逸らしながらも幾度となく視線を紡ぐ。 あるものは怪しい笑みを浮かべ、あるものは目を見開いている。

 

だからオレは言おう。

 

やはり、偉人は偉大なのだと。そして、この場においては間違いなく、事実は小説より奇なりだと。

 

 

 

オレ、綾小路清隆はバスに乗っていた。今日は入学式。誰のかは言うまでもないだろう。オレは今日、高度育成高等学校という高校に入学する。ところで、「バスに乗る」という文章を英語で表す時にはどう訳すか知っているだろうか。

 

「バスに乗る」の英訳は大抵が「I get on the bus」だ。しかし考えたことはないだろうか?なぜ前置詞[on]を使うのだろう、と。軽乗用車ならば、[in]を使うのが一般的だ。それなのにバスや電車では[on]を使う。先に答えを言うならば、バスや電車では中に居るという感覚より広い空間に接しているというイメージが強いところにあるからである。車ならば空間が狭いが故に乗っているというイメージで間違いない。しかし、電車やバスでは空間が広すぎるが故に、乗っているというよりかは動く床に接しているというイメージが強くなる。仕切られた空間という[in]のイメージが払拭されるのだ。それ故にそれは空間というよりは、際限ない世界という言葉が似合う。

 

そんなオレはバスという世界にいるということだが、そんな世界にとってオレは注目の的、いわば視線にとって格好の餌食であるらしい。

 

(四人か...)

 

一人は金髪のいかにも自意識をこよなく溺愛していそうな男、一人は人当たりが良さそうな女子、一人は赤い縁の眼鏡を掛けた社交性に欠けていそうな女子、そして隣に居る長髪ストレートの女子。それぞれオレと同じ制服を着ているので同級生と断定することが出来る。先輩である線は薄い。何故なら高度育成高等学校は完全寮生活であるためだ。高校の敷地内に併設されているらしい。なんとも裕福な私立学校だろうか。ところがびっくり、なんと国営である。大事な税金をこんな贅沢に使って良いものなのだろうか?いくら優秀な人材の育成を目的としているからといって学校内に商業施設等が完備なのはあまりにも優遇されていると言わざるを得ない。国の考えることはいつの時代も分かりえないものだ。少し話が逸れた。戻そう。

 

前述の通り、見られているがそんな注目を集めるほど奇怪な顔をしているとは思わない。いや、その観点において他と比べられることは生きてきて全くなかったので断言はできないが。流石に自信をなくしてしまうほどには、横からの視線が一向に逸らされることがない。

 

仕方がない。現状が変わらないというのなら、ここは一つ社会経験といこう。

 

「な、なぁ」

 

「!な、何かしら?」

 

「そんなに見つめられると落ち着かないんだが...オレの顔に何か付いているのか?」

 

話しかけは正直、微妙としか言いようがない。だが質問の仕方としては及第点だろう。相手の言葉を受け、それに答えながらも問い返す。会話としては上等な筈。

 

「い、いえ、少し昔馴染みの顔に似ていただけよ。失礼したわね」

 

「そ、そうなのか...。...。」

 

「ええ。...。」

 

会話続かねぇ...。長く一人で居た弊害がここで発揮されるとは思っても見なかった。とある時までは三人まで残っていたんだがな。過ぎたことは言っていても仕方がない。今は、この気まずい雰囲気を教訓に学校生活へと昇華できるよう消化しよう。

 

「...。」

 

断じてふざけているわけではないとだけ言っておこう。偶然だ。偶然。

 

そんなことを考えているうちにバスは停留所に停まった。どうやら一人の老婆が乗ってきたようだ。しかし、空いている席など朝の通学、通勤ラッシュの蔓延る日本において存在するわけもなく、老婆は辺りを見回すと仕方がないと肩を落としながら静かに立ち止まった。

 

周りが空気を察し、些か不穏な空気が流れる。ここから始まるのは譲り合いか、果てしない偽善の押し付け合いか。もっとも、座っている一員であるオレは立つ気は微塵もありはしないが。

 

「あ、あの...よかったら、どうぞ」

 

声の先には、先程の赤い縁の眼鏡をした女子。どうやら席を譲るようだった。正直、そのような行動をするに至る性格ではないように見えたので、存外人は見かけに寄らないのだと感心してしまう。少なくともその優しさは偽善であれど人としては正しいのだ。

 

老婆は少しの遠慮を含みながらも最後はお礼を発しながら席に座った。辺りは静まり、出来事は終息する。辺りは、良かったと言わんばかりに空気が緩む。

 

しかし、オレに限り、例外だった。その女子はわざわざオレの目の前に立っていた。他に空いている場所があるにも関わらず。ぴったりと俺の前に。それだけなら偶然で片づけられるのだろう。その女子は隣同様にオレを凝視している。

 

「現実だ...これ」

 

ぼそぼそと何かを呟いていたがオレの耳には届かない。仕方がない。社会経験はいくつあっても良いものだ。

 

「あ、あの...何か用か?」

 

「いっ!いえ!幼馴染に顔が似てて!」

 

お前もか。どれだけいるんだよ、オレの空似。それにそんなに驚かれると少しは傷つく。

 

そして案の定、それっきり会話は途切れてしまった。ただ、その静寂で気づく。残りの二人や、隣の一人が揃いも揃って何かを互いに悟ったような顔をしていた。いや、本当にどんな状況なのか分からなくなってきた。まさか...全員にオレの空似である幼馴染がいるのか?そんな馬鹿な...。もはやあり得るとまで思えてしまうあたり、この空気に毒されているのは確実だった。もういい、寝たふりでやり過ごそう。

 

そうしてオレは、ふて寝を覚えた。

 

そして駅に着くまで間にも四つの視線は変わらずそこにあり続けた。

 

 

 

目的地のバス停に着く。やっと、あの居心地の悪い空間から解放された。前を見るとそこには右から左まで仕切られた塀とそびえ立つ門。その大きさにはやはり、財力を感じざるを得ない。

 

そんな軽くも闇が深そうな感想を心の中で呟いていると、前から先程のロングのストレート女子が話しかけてきた。

 

「あなた、本当に覚えていないの?」

 

「何の話だ?悪いがオレはお前の幼馴染ではないぞ?」

 

「え、ええ。それは分かっているのだけれど…。分かったわ。変なこと言って悪かったわね」

 

そう言って踵を返すと、何かを忘れたかのようにこちらに振り向いた。

 

「またよろしく頼むわね」

 

「お、おう?」

 

それだけ言うと、さっさと行ってしまった。[また]ってどういうことだ?でもまぁ、考えても無駄か、とオレも校舎へと足を進めた。

 

 

 

一話間の長さについて

  • いつも通り短くあっさりとした文量で
  • 一万文字程度でがっつりとした文量で
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