綾小路以外記憶ありの場合   作:味噌汁豆腐

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思った以上に伸びててびっくりしました。急遽書き上げた続きです。どうぞ。


自己紹介

 

 

 

オレはどうやらDクラスらしい。今は自分のクラスを目指して廊下を歩いている。辺りは流石、財力を余すことなく使われているようだ。至る所まで小綺麗で手入れされている。その様は文化財の宮殿のようだ。

 

「ここか」

 

教室の中を見るとほとんどが集まっている。入学式故の緊張からか口数も数える程度だ。そんな顔触れが揃って硬い。国立の難関校に受かってここに居るのだからもう少し年相応の浮足立つものがあっても不思議ではないのでは?とは思うがそこは進学校。高き壁を超えてきた選りすぐりだけあってか緊張感は崩さないのか。だとしたらかなりレベルは高い。これなら確かに人材育成に莫大な費用を費やすのも理解できる。ただ、それとは別に少し過剰、いや安全管理においては重要かもしれないな。それ以外の用途でないことを祈るばかりだ。

 

幾度か訪れる不安要素を右から左へといなし、自分の席を確認する。指定された席は窓際の最奥。席の良し悪しはよく分からないがクラスを一望できることに関しては有難いことこの上ない。これからの学校生活で行動するにあたって周りの反応を観察できるのは強い利点となる。

 

そしてオレは、席に着き、横を見て、頭を抱えた。勿論、心の中で。勘弁してほしい。何故いる。そしてなんで隣なんだ。

 

「よく分からないけれどその嫌そうな顔はやめてもらえるかしら?不愉快よ」

 

「い、いや、別にそんなことはないぞ。これがデフォルトなんだ。それにオレは顔に出ないタイプらしくてな」

 

「確かにそうだけれど、世の中の女性は異性の視線に対しては敏感、とだけ言っておくわ」

 

所謂、女の勘というやつなのだろう。一見、それは人知を超えているかのように思えてしまう。しかし実際は、異性の微細な変化や違いを察することができるというだけの動物的本能に基づいた能力というだけだ。動物が本能で優秀なつがいを判断するように、本能で異性を見るという点において女の勘は、相関性があり、現実的だ。だからこそ、女の勘は当たりやすいと言われる由縁となる。つまり何が言いたいかというと、女の勘マジヤバイ、ということである。

 

「そうなのか。ところでオレと友達になってくれないか?」

 

「嫌よ。私、そういうことに興味はないの」

 

だろうな。見れば分かる。断られるのは目に見えていたが、堀北は隣の席。少しは仲良くなっておかなければ心地が良くない日々を過ごすことになる。まぁ実際そうなる気がしてならない。しかもオレの聞き方が悪かったかもしれない。二度目とはいえ、ほぼ初対面で、友達にならないか。と問いかけるのはあまりにも踏み込み過ぎだった。分かってはいたが自分のコミュニケーション能力の低さをあらためて実感した。

 

「そんなことより」

 

そんなこと呼ばわりか。酷くね?

 

「あなたはこのクラスどう思う?」

 

「どう、って言われても。...。初日から緊張感があっていいクラスなんじゃないか?」

 

実際、うるさい私語が飛び交っているよりかは幾分居心地がいい。疑心暗鬼すぎるようにも見えるが。良く言えば礼儀正しいが、悪く言えば他人行儀。場面に応じて対応できなければそれは欠点になる。正確に判断できるのはしばらく時間をおかなければ分からない。これこそ、人は見かけでは判断できないということだ。

 

「そう。あなたにはそう見えるのね」

 

「そう言う、...えっと名前、なんて言うんだ?」

 

「堀北、堀北鈴音よ」

 

「そうか、じゃあ堀北はどうなんだ?」

 

「そうね、おおむねあなたと同意見よ。今の時点では、だけれど」

 

「これから変わるとでも言いたいのか?」

 

「ええ、そうよ。下手したら取り返しがつかないくらいに、ね」

 

それだけ言うと堀北はまた、本に視線を戻してしまった。取り返しがつかない、か。まだ高校生活は始まったばかりだというのに、堀北は何を見据えているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、少しいいかな?」

 

沈黙を破ったのは顔が良い、それこそリーダーシップがありそうな生徒だった。そして表情を崩さず辺りを見回すと沈黙を合意と受け取ったのかまた口を開いた。

 

「少し時間もあるし自己紹介をしたいんだけど、どうかな?」

 

「...さんせー!しようよ!」

 

「ありがとう。まずは言い出しっぺの僕から。僕は平田洋介。~」

 

近くに居た生徒が賛成したのを皮切りにその波は波紋のように広がっているのを確認すると平田は進め始めた。それだけ見ればごく普通の出来事だが、今回の場合少し違う。この状況は意図的に作られているんだ。その証拠に平田が辺りを見回した際、近くに居た一人一人にアイコンタクトをとっていたんだ。その意図を組んだかのように近くの一人が大声で賛成を表明した。そんなことをした理由はひとえにこの硬い硬いクラスの流れを掴むため。正直、わざわざそこまでする必要があるのか、とも思ってしまうが、意外と学校のカーストというのは馬鹿にできない。それに対する対価なのであれば、ここまでするのも納得だ。

 

「次は俺だな!俺は山内春樹だ!小学校の頃は卓球で地区大会に、中学では野球部でエースだった。けど怪我をして今はリハビリ中だ!よろしくぅ!」

 

オレは普通に良いのでは?とは思ったが周りはそうではないらしく、全員の顔がどこかひきつっている。そして、どこからか乾いた作り笑いと、やる気のない拍手が送られるばかりだった。これは駄目なのか。興味深いな。

 

「次は私だね?私は櫛田桔梗って言います。中学は~」

 

これは男女ともに人気が出そうな性格なのだろう。櫛田の場合はそれに加えてルックスまである。これならすぐにカースト上位になれるだろう。

 

「しつも~ん!櫛田ちゃんは彼氏とかいるの?」

 

山内が引かれてしまう理由がよく分かってしまった。悪いやつではないのだろう。だがこれは...。

 

「えーと、そ、その...彼氏募集中ですっ!」

 

これはすごいな。山内を最大限庇ったうえで最終的に好印象を与えることが出来ているのだ。ただ、なんでこっちを見たのかはまで分からないが。

 

「こんなことやってられるか。俺はこんなことするためにこの学校にきたんじゃねぇ!自己紹介ごっこなら勝手にやってろ!」

 

痺れを切らしたのか、一連の流れに嫌気がさしたのか。一人の生徒が有無を言わさずに出て行ってしまった。こんなやつもいるのが学校と言う社会であり、集団なのだ。その様はまさに働きアリの法則だ。

 

「えーと、次は...ま、窓際の君。いいかな?」

 

「え?俺?」

 

急に来たせいでなにも考えてなかった。仕方ない。ここは少し気張って自己紹介するとしよう。

 

「えー、えっと、綾小路清隆です。えー、よろしくお願いします。得意なことはとくにはありませんが、仲良くなれるよう頑張ります」

 

終わった。言い終わってしばらくした後、櫛田含め、数人の女子が顔を机に突っ伏して肩を小刻みに震わせている。唯一の救いは平田が万遍の笑みで拍手してくれているところか。

 

自己紹介は碌なことにならないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堀北、本当にこれで良かったのかよ」

 

須藤が堀北に問いかける。堀北はそんな須藤に顔を向けることなく、本を閉じた。

 

「ええ、もちろんよ。あなたや平田君には感謝しないといけないわね。今回はなるべく前回と同じように演じることが大事だったから」

 

「あぁ?そりゃなんでだよ。別にみんな戻ってんだとしたらいち早く共有してポイント確保に動いた方がいいんじゃねぇのか?」

 

頭を傾げる須藤。須藤の言っていることは至極真っ当だ。だが、それには大きな不安要素が混じる。悲しきことかな、それは高校生活を長く過ごしているであろう堀北たちにしか、分からないことだった。

 

入学式に戻っていると気づいた堀北が最初に確認したこと、それは自分以外に同じ境遇の人物がいるのかどうかだ。そしてそれはバスの中での佐倉の行動により示しがついていた。確信は須藤に話しかけるだけで容易に得ることが出来る。なぜなら入学当初の須藤とは精神面での差により、受け答えが一変してる。そのため、返ってくる反応で有無を把握することが出来たのだ。後は、須藤の様子を見せて反応を見るだけの簡易判別機の完成である。

 

「それは山内君のようなイレギュラーがいなければの話よ」

 

そこまでして堀北が対処しようとした不安要素、それはひとえに未来で退学にまで追い込まれた山内春樹の存在だった。

 

「春樹が?なんでだよ?」

 

「須藤君。もし、あなたが高校で一番最初に受けた期末テスト。クラスに蹴落とされて退学に陥れられていたらどう思ったかしら?」

 

「そりゃ、許せねぇ、とかふざけんな、とかだろ?」

 

「そして、あなたはそんなクラスにしばらくして戻ることが出来たわ。そして周りには自分を直接陥れた時の記憶を持って居るクラスメイト。その時あなたはそのクラスメイトにやり返せずにいられるかしら?」

 

「っ!なるほど。つまり春樹の記憶があった場合、俺たちが復讐されるかもしれないってことか!?」

 

「そうよ」

 

堀北には見えていたことがある。それは山内自身がもし、記憶を持っていた場合最初に考えるとしたら復讐の一択であると。だがもし、全員が初対面の状態だと思わせることが出来たとしたら。そうしたら、山内が学校生活をやり直す方向で物事を進めるであろうことも理解していた。

 

「でもそれって逆恨みじゃねぇか!」

 

「ええ、そうね。だからこそ厄介極まりないのよ。それに...」

 

「それに、なんだよ?」

 

「...いえ、なんでもないわ。忘れて頂戴」

 

「ん?そうか?ならいいけどよ。それで今度はどうすんだよ?指示をくれよ指示を」

 

「そうね。あそこで暴君を演じた今、須藤君にはそのままの印象を持ち続けてもらう必要があるわ。おねがいできるかしら?」

 

「つまりは現状維持で暴君を演じろっつーことだな?分かったぜ。暴れまくってやんよ」

 

「ptを削らないようにだけ気をつけて頂戴。頼んだわよ」

 

「分かってるって!」

 

そう言って離れていく須藤を横目に堀北は大きくため息をつく。堀北は頭をおさえたくなる気持ちを抑えながら今後の不安を整理してみる。

 

(クラスであれだけ記憶持ちがいるとしたら、他クラスにも記憶持ちがいる可能性は非常に高いわ。今後、それを隠されたまま試験が続くとしたら。少なくとも五月のpt発表で1ポイントも落とさないクラスが一つはあるとみていい。最悪の場合、またDクラスだけが出遅れる結果になりかねないわ。それに以前は頼りになった綾小路君はあの様子だと今までのようにはいかない。...考えるだけで気が滅入ってしまうわね。まずは山内君をどうにかしないと。彼の虚言癖を鑑みると今後一切の役に立つとも思えないわ。昔の私なら見捨てていたでしょうけれど今はそうはできない。退学は必要最低限に抑える必要があるわね。今後、今まで通りに行く保証はない。むしろ、そうなる方が少ないでしょう。今まで以上に手厳しい戦いになるわ。つまり退学者を決める回数が増える可能性もある。...どうにしろやるしかないわ)

 

「まずは記憶持ちの特定から、ね」

 

そう結論付けた堀北は重い腰を上げた。

 

 

 

 

 

 




思った以上に、書くために割くリソースの負担が大きくて若干疲れてます。楽しんでもらえたら嬉しいです。感想、評価等頂けるとモチベ維持に繋がります。

一話間の長さについて

  • いつも通り短くあっさりとした文量で
  • 一万文字程度でがっつりとした文量で
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