綾小路以外記憶ありの場合   作:味噌汁豆腐

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遅くなりました。とりあえず、見通しがたったので書き始めます。ただ、今月の最新刊まで一之瀬の動向について予想できないので登場はしばらく後になるかもしれません。アンケートも立てるのでご協力お願いいたします


買い物

放課後、オレは学校の敷地内にある物販店へと足を向けていた。というのも、寮には最低限の家具が備え付けられているだけで日用必需品は一つたりとも支給されていなかったのだ。新入生に不安の色は見えない。有名進学校故の落ち着きか?否。スマホを見る。そこには確かに100,000の表示がある。これがそのすべてを消し飛ばしてしまっているのだ。不安も不信感さえもかき消されて悦に浸っている。そんな状況があまりにも異様だとしか思えないのはただの勘違いだろうか。

 

そんなことを考えているうちに店の前に立つ。膨らんでいく思考の空気をフッと抜く。少なくとも今は何も起こらないことは分かっている。少しの不安感には目を瞑るしかないだろう。それにここにはコンビニもあるんだ。この後寄っていくのも良いかもしれないな。

 

疑り深い心をため息と一緒に飲み込むと不意に後ろから声を掛けられた。

 

「き、清隆君!」

 

名前を呼ばれたことにドキッとしつつ、声へと視線を向ける。長い髪に大人しく眼鏡っ子な女子だったはずだよな?自分の目を疑いたくなる。そこにいるのは朝、オレを幼馴染に似ていると言った、佐倉愛里...のはず。しかし、眼鏡は外され、結われた髪。見違えるほどに纏うオーラは朝の雰囲気とは違い、どこかキラキラした...それこそ自己紹介の時の櫛田の様な、自然と話したくなる人懐っこいオーラを纏っている。

 

「佐倉だったよな。どうしたんだ?」

 

目の前に現れた美少女に戸惑いつつ、顔だけは持ち前の無表情で取り繕う。佐倉は名前を呼ばれたことに少し嬉しそうにしつつ、軽く頷く。どうすれば好印象を持たれるのか、そんな考え抜かれた所作の一つ一つが洗練されている、気がする。

 

「ちょっと見かけたから話しかけちゃった。歩きながらでいいから少しお話しない?」

 

オレに用事がある、というわけではなさそうだ。初めてのクラスメイト、それも女子からの誘い。オレからすれば断る理由もない。快く了承すると、佐倉はスッとオレの横に並んだ。

 

 

 

 

そこから数分、俺たちの間に会話という会話はない。どうしてこうなった。ふと横を見ると佐倉は遠い目をしたまま、前を向き続けている。これはあれか?クラスメイトだから話しかけてあげたのに、こいつ何にも話しかけて来ないな。って呆れられているやつか?

 

気づいても時すでに遅し。今更、話し出すというのは些か不自然だ。かといって、このままであったとしても評価は変わらない。どうするべきなんだ、これ。

 

思考を右往左往させても案は浮かんでは儚く消えていく。そんな気まずさを持て余すオレを案じてか、しばらくのお互い無言で歩いた後、佐倉は申し訳なさそうに笑った。

 

「今朝はごめんね?ジロジロ見られて嫌だったよね?」

 

軽く手を合わせて謝罪する佐倉。これが佐倉からの助け船だとしたら乗るしかないな、この船に。

 

「いや、大丈夫だ。それに仕方ないと思うぞ。オレが幼馴染ににていたんだろ?」

 

「うん。あまりにも似てたから、ついつい見入っちゃった」

 

「そうなのか。ところで一つ聞いてもいいか?」

 

「なにかな?」

 

佐倉が首を傾げる。はっきり言ってあざとい。だが、それがいい。一瞬、逸れた思考を戻し意識を会話に戻す。

 

「佐倉はどんなやつにも最初から名前呼びなのか?話しかけられたとき、名前呼びだっただろ?」

 

そう聞くと、佐倉はあー、と相槌を打ちながら顎に指を当てる。

 

「いや、そんなことはない、かな。みんな最初は苗字呼びだよ。清隆君を名前で呼ぶのは、...なんでだろう?」

 

本人は不思議そうな顔でチラリとこちらを見る。そして目でニコッと笑ってまた、視線を前に戻す。だからあざとい。

 

「特に意味はないってことだな」

 

「うん。そうかも。でも、一つだけ思い当たる節があるんだ」

 

そう、言うと佐倉は小悪魔のような悪戯な笑みを浮かべるとオレの耳元にこそっと囁いた。

 

「君が特別だからだよっ」

 

あまりにも突然の出来事に言葉も出ないオレを余所に、ササっと元の位置に戻っていた佐倉が赤らめた頬でウインクしてきた。これって...?

 

「あっ、嫌だったらごめんね?」

 

「...そういうわけじゃない。少し気になっただけだからな」

 

とんだ悪女がクラスメイトになったものだ。本当に厄介極まりない。佐倉の恐ろしいところはその行動故ではない。本心ではないことで、ここまで動けてしまうことにあるのだ。

 

「なら良かったよ。じゃあ、これからも清隆君って呼ばせてもらうね」

 

悪戯っぽく笑う佐倉。こういう人間を世渡り上手、コミュニケ―ション強者と呼ぶのだろう。実際、佐倉は人気を集めるであろうタイプだし、勘違いする男子も多そうだ。というか、"させる"が正解だろう。うちのクラスの池や山内という生徒は、特に危なそうだ。

 

「佐倉はこれから大変そうだな」

 

遠い目をしながらそう問いかける。この言葉だけにオレがどれだけの意味を込めたかなど佐倉には伝わらないかもしれないが。

 

「そうだね。友達頑張って作らなきゃ」

 

笑う佐倉には似つかわしくない言葉がどこか引っかかった。

 

「佐倉は友達作りとか得意そうだし、大丈夫なんじゃないか?」

 

佐倉はあはは...と苦笑いしながら頬をかく。

 

「私、友達作りは苦手なんだよね。昔から」

 

「意外だな。そうは見えない」

 

「かもね。実際、最近は人には囲まれてたから。良くも悪くも、だけど」

 

「そうなのか」

 

なるほど。佐倉はその性格故に、心から友達と言える人間はそう多くはなかったのだろう。何とも生きづらい性格だ。

 

「そういえば、オレに似ている幼馴染ってどんな奴なんだ?そっくりなんだろ?」

 

「ああ、それ聞いちゃう?」

 

ニヤニヤしながら質問に質問で返してくる佐倉。別に良いだろ。そういう軽い弄りともいえる挑発がコミュニケーションにおいて大切なのだろうか。どう返せばいいか分からないオレにとっては悪手この上ないが。

 

「えっと、顔は本当にそっくりだよ。身長も同じだし、髪型も大して変わらないかな」

 

「それは、ほぼオレじゃないのか?」

 

ドッペルゲンガーというやつだろうか。勿論、オレはそういう類は信じていないが。

 

「ううん。でも今の清隆君とは全然違うところがあるんだ」

 

「そうなのか。どんなところなんだ?」

 

「性格、かな」

 

そう言う佐倉の顔は暗い。

 

「その人は常に冷静で驚くほど頭がよくて、それでいて冷徹で驚くほど合理的なんだよ」

 

佐倉は目を伏せてしまったため、その真意を読み取ることはできない。仲が良い幼馴染なのかと思っていたがどうやらそうでもないらしい。冷徹で驚くほど合理的、まるで...。いや、やめよう。世の中に該当する人物が数多であることは言うまでもないはずだ。

 

オレと同じ性格なんて、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

「みたいだね」

 

店に入ると、右も左も同じ制服を着た生徒ばかり。本当にここは学校の敷地内なんだと思い知らされる。本当にどれだけ優遇されているんだこの学校は。外とは隔離されているとはいえ、充実しすぎている。

 

「すごい人だね。しかもこれほとんどが一年生みたいだし」

 

「どうして一年生って分かるんだ?」

 

佐倉は迷うことなく一年生と言い切った。少し気になる言い方ではある。

 

「ほらあの人は、私服でしょ?私たちは学校から寮を経由してほぼ直線的にここに来た筈だから着替える暇なんてないと思うんだよ。私たちは服も買わなきゃいけないし」

 

確かに一理ある。上級生なら服を既に持っているから着替えて来るのは容易だが、俺たちは買ってからわざわざ着てくる意味もないわけだ。買うならそのまま持ち歩いた方が断然いいからな。それにこの店に関しては頻繁に来るところでもないだろうし、この広いショッピングモールなかで今日ここに来る上級生はさらに少ない。上級生ならば入学初日の今日は、新入生で混雑することは体験済みのはずだからだ。

 

「それにしても、すごいよね。10万円なんて大金をポイントって形とはいえ、生徒一人一人に渡しちゃうなんて」

 

「ああ、そうだな。生徒の自主性や将来性を考慮したとは言っていたがすこし過剰だと思うよな」

 

地獄の自己紹介の前に遡る。茶柱佐枝と名乗る担任が教鞭に立った。

 

「まずは入学おめでとう。えー新入生諸君。私はDクラスの担任になった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。早速だがこの学校にはクラス替えは存在しない。よろしく頼む。今から一時間後、入学式の行わる体育館へ向かってもらうが、その前にこのパンフレットを配らせてもらう。とはいっても入学前に一度配布しているがな」

 

そうして配られるパンフレット。オレも一度は目を通した。どれも目に付くようなものではない至って普通なのだ。それはこれから話す点を含めなければ、の話ではあるが。

 

主に注目すべき点は三つ。

 

・外部への接触の一切を禁ずる

・Sシステムによるポイント制度

・ポイントで買えないものはない

 

これらだけは他とは一線を画すものだ。普通の高校生に課されるものではない。それは横の堀北も気づいているのか、指を顎に当てて考え込んでいる。

 

周りに目を向けていたので、気づくと茶柱先生の話は先に進んでいた。

 

「この学校に入学した時点で入学者には、平等に10万ポイント支給される。そして、1ポイント1円換算だ。だが、それはこの学校の中でのみ、効力を発揮する。そのため、他人に譲渡するのも君らの自由だ。ただし、カツアゲなどの行為は決してするな。この学校はいじめ問題に敏感だからな」

 

淡々と話し終えた茶柱先生はチラリとこちらを見た。いや、正確にはオレじゃない。隣の堀北か。その真偽を確かめる間もなく、茶柱先生は質問の有無を確認すると即座に教室から退出していった。

 

「始まった...ということね」

 

そう言い残した堀北は入学式を終えた後、平田の自己紹介の誘いを断り出ていった。

 

 

何が始まったのかオレには全く見当もつかないが。(大嘘)

 

「あ、これヨーグルトメーカーだって。清隆君はこういうのどう思u」

 

「買うか」

 

「即答!?決めるの早すぎないかなぁ...」

 

オレの反応に少し引いている佐倉には目もくれず、ヨーグルトメーカーとやらを籠に入れる。このような物は早めに買っておいた方が長期的に見てコスパがいいことは論理的に証明されている。買わない手はない。

 

「こういうことには興味津々なんだね」

 

「実際、気になるからな」

 

今は、Sシステムよりもヨーグルトメーカーや今夜の猫特集の方が大事かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──これで全部かな。清隆君もそれで全部?」

 

カートを押しながらレジへ向かう佐倉。中には洗面用品、日用品、軽いクッションやマットなどが入っていた。

 

「ああ、これで全部だ」

 

対してオレは質素なもので、ヨーグルトメーカー以外は割と基本的なものだけで構成されていた。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

レジすらも生徒証をかざすだけで済まされるため、無駄がない。これぞ金の使いどころというわけだ。

 

「付き合ってくれてありがとう。今日は清隆君のこと、たくさん知れた気がするね」

 

「ああ、オレも佐倉のことを良く知れた気がする。学校でもよろしくな」

 

「うん!こちらこそ。それじゃあ、またn...また、明日!清隆君!」

 

「ああ、またな」

 

良く言えたぞ。グッジョブ、オレ。この調子で関わる人間関係を増やしていかないとな。

 

ちなみにセールでヨーグルトメーカーが安くなる日が来ることを知って絶望するのはまた先の話だ。それに今日、食べたヨーグルトも、特集されていた猫も良かったとだけ言っておこう。




補足
綾小路清隆は感情含め、原作と何ら変わっていません。
佐倉愛里もベースは何も変えておりません。

一話間の長さについて

  • いつも通り短くあっさりとした文量で
  • 一万文字程度でがっつりとした文量で
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