半径200m、気軽に書いたけどこれ宿儺の領域の最大射程なんですよね…
階段の踊り場にて名乗りをあげた慈愛の怪盗は堂々たる姿を見せている。
「慈愛の……?」
「……怪盗?」
「あの人が……」
「緊急クエスト発生です!」
想像以上に早い出現だな、直前まで気配も感じさせなかった辺り相当の場数を踏んでる、だが表面で感じ取れる威圧感だけで測るなら正直に言って平時のアスナと同等レベル……はっきり言うならネルやマコラは勿論、アリスよりも弱い。
だからこそのあの自信……マコラ言うには七囚人は各々が術式を持っていて更に鍛え上げられているらしく、曰く強いより面倒が勝るとのこと、マコラがそこまで言うということは余程の術式を持ってんだろうな……
──迂闊に攻めて来ない……良い判断ですね、C&Cを雇ったと聞いていましたがどうやら本人の勘違い、あの可愛らしいメイドさん達もミレニアムの生徒なのでしょうが別の部活の生徒とみて間違いないでしょう、その中でも異質な雰囲気を放つ
「ではご機嫌よう」
姿を晒したと思ったら即座に消えた……恐らく戦力分析だろうな、仮面越しだから確信はないがまず間違いなくこちらを見ていた、これはこの子達がC&Cのメンツじゃ無いってことがバレたな?
「消えた⁉︎まさか逃げたのでは……皆さん、お願いします‼︎」
んな訳ねえだろ、奥の通路からダダ漏れの気配、明らかに誘ってんじゃねえか、まだどんな術式持ってるかわかんねえっていうのに、無闇矢鱈に突っ込んでも返り討ちに会うのは目に見えてる、それはこの子達も同じ考えなんだが、目配せして行く意を伝える、本当に不本意ではあるのだが仕事はしなくっちゃならんよな。
“御依頼通りに、ゲスト達の退避をお願いします”
その言葉を皮切りに四人が怪盗の気配がする通路に突貫して行く、明らかに罠ではあるのだがそれでも向かわざるを得ないだろう、それにアリスを主軸にした四人の連携ならネルにだって喰らいつく、危険である事に変わりはないが最悪手はこの子達の何れかが単独にさせられる事、それが一番まずい、ならば4人纏めて行動させた方が全滅のリスクはまだ低い筈、そう思いつつ私は彼女達を追いかけて行った。
──あれがシャーレの先生か……組織人ではあるようだが生徒の事を優先して動ける人間、それに慈愛の怪盗と相対して即座に攻撃しなかったのも良い判断と言える、既に彼女の術式は二段階目まで進行している……大事にならないと良いのだが……
『隊長、場所が分かったわ、やっぱり地下で行われるみたいね』
「了解、いつでも動けるようにしておくように、既に慈愛の怪盗の姿を目視したが今回のオークションの内容を考えるならば“五塵の獼猴”が直々に来ていてもおかしく無い、流石に他の面々は来ないだろうが……警戒しておけ」
『うへぇ、最悪の場合七囚人二人の相手する羽目になるとか早々に気が滅入るんだけど……マコラさん呼んじゃダメなの?』
「本人曰く“別件”なんだそうだ、と言うよりは不在を知ったが故にあの二人が動いたとみるべきだろう」
『まぁ今回の私たちの任務に七囚人との戦闘は含まれてないけどね、あくまでも目的は例の物の回収だからね?』
──最悪先生の力を借りることになるだろう、その場合あの人が認めたと言う大人の力を存分に見せて欲しい物だ。
──悉く‼︎私の攻撃が回避される‼︎
“モモイ、アリス前出過ぎないようにね”
「オッケー‼︎付かず離れず、だね!」
「作戦:いのちだいじにですね!アリス、後退します‼︎」
──各々の実力はまだまだですがそれを補う程の連携力とあの大人の高度な指揮能力‼︎これらが合わさり容易に崩せなくなっている‼︎肝はやはり
自己強化の術式?否、他の子達も同様に先程見たより大きくパワーアップしている、それに先程から他の子の傷を即座に修復している所から一見反転術式の外部出力による治療……かの様に思える、しかし反転術式は対象に触れる必要があったり完治するのに時間を要する場合もある、しかし彼女のそれは離れている味方全員を一度に纏めて全快にさせる程強力な物、従って反転術式ではない。
自他共に巻き込む広範囲型の発動術式?有り得なくは無いですね、まだまだ手札が未知数過ぎて恐ろしいですが……それはあちらも同じことでしょう、
「どうやら貴女達には、多少本気を出した方がよさそうだ」
雰囲気が変わった、ここからが本番か、恐らく術式も併用して攻めてくるだろう、さっきからのらりくらりとこっちの攻撃をいなされている、C&Cの皆とはまた別の意味で戦い方が巧い。
「私の術式は皆様が想像する怪盗道具……トランプやフックショットと言った物を自由に取り出し扱えるという物でして、平たく言えば怪盗らしい事が出来る術式と認識していただければ宜しいかと」
“術式の開示か、ご丁寧にどうも”
「あら、ご存じだったのですね、あなたはキヴォトスの外から来たと聞いていたのですが……」
“伊達に場数は踏んで無いよ”
あれ……ワカモと同じ七囚人と聞いてたから身構えてたけど、思ってたより話が通じるかも……ていうかこの子、結構会話とか好きな子じゃねえ?
「ふむ──ここまでの能力がありながら銅田に強力とは……そこだけが理解に及びませんね」
“そういう依頼でね、アレの挙動不審っぷりには私も怪しさしか見出してないけど、まだ本人が尻尾を出してないし、無理に藪を突く事はしないさ、ここにいるのは私だけじゃ無いんでね”
「ふむ、成程そう言う……あなたはこのキヴォトスに蔓延る“大人”とは異なるようだ」
“こちらからも一つ良いかな?”
「どうぞ?」
“どうして美術品を盗もうと思ったの?”
「そうですね、今は“それが私の使命だから”ということにしておきましょうか」
“なるほどね”
「慈愛の怪盗め!この屋敷に飛び込んだが最後、そう簡単には抜け出せんぞ‼︎」
おいおいおい冗談だろ?射線上にモロ俺たちが居るじゃねえか、確認不足か若しくは故意か、なんにせよこの位置はまずい!
“ユズ‼︎”
「は、はい!」
咄嗟にユズに不義遊戯を発動させ退避させる、不味いな、今のでこっちの手札が割れた、いや、生徒の身が最優先だ、履き違えるな。
「ふむ、目的よりも生徒の身を案じますか……益々他の大人とは違いますね、今宵の舞台は面白くなりそうだ──一つ、貴方達に伝えておきましょう、表面の事象に囚われていては、本質を見極める事など夢のまた夢ですよ──それでは、これにて失礼……そう遠からず、またお会いする事になるでしょうけれど、その時まで良い夢を、bye!」
そう言い残し慈愛の怪盗は霞のように消えて居なくなった、恐らくあれも術式の効果なんだろうな。
怪盗らしい事ができる術式……誰にも悟られず潜入し且つ脱出は鮮やかに、豊富な手札におそらく未だ見せてない数々の術式効果、そしてそれはおそらく文字通り“盗み”だ、問題は盗みの対象が何処までなのかって所なんだが……今の所は不確定要素が多くて断定できないな。
“ふぅ、マコラが面倒って言う訳だな、納得”
「皆、見てこれ!」
思案する私を他所にミドリが先程怪盗が立ち去った所から一枚の紙を見つけ出す、内容は……予告は実行されておりません、か。
「今回は謎解き要素が無いね……というか、毎回いろんなパターンのヤツを持ち歩いてるのかな……」
“凝り性なんじゃない?”
「皆様‼︎ご無事ですか⁉︎」
ふぅ、一息付く暇すらないな、というか敵味方関係なくぶっ放した奴のセリフじゃねえよそれ。
“一応、なんとか、それと申し訳ありません、取り逃しました”
「謝らないでください、何も盗まれてなどいないのですから……それに、あの【慈愛の怪盗】を撤退まで追い込んだその手腕、流石と言わざるを得ません、取り逃がしこそしましたが……皆様の実力は怪盗に伝わったはずらもう二度と現れないかもしれません」
「そ、それは流石に無いと思いますが……」
同感だね。
「あの、明太郎さん、これは一体どういうことなんですか?」
「まさか、【慈愛の怪盗】が現れるなんて、事前に知っていたら、断っていたのに……」
「さあさ皆様、落ち着いてください、【慈愛の怪盗】が来て、何か問題は発生しましたか?ご覧の通り、私達は怪盗を退けました、そうですよね?それもそのはずこの屋敷を警備しているのは、かの有名なC&Cなのですから!」
「C&C……噂に聞いた事がある、ミレニアム最強のエージェントだとか」
「それが本当なら、怪盗を追い払えたのも納得がいく」
あの子達が対処したら追い払うんじゃなくて即確保まで繋げれると思うんだけどねぇ、極秘エージェントってのはこういう時便利だな、正体が悟られにくい。
「皆様、ご納得くださり、お礼を申し上げます、ひとまず今日のパーティーは、一度お開きにした方が良さそうですね、ゲストの方々はお部屋までご案内いたしますので、こちらへ……では、C&Cの皆様もお疲れでしょうし、今日のところはごゆるりと、今後の計画はそれからでも構いません」
濃厚な1日目だったな、いや、まだ終わってないか、そろそろコンタクトを取った方がいいかな……気配には疎い私でもこれだけ熱い視線を向けられてたらいやでも分かる。
“皆は先に部屋に戻っておいて、私はもう少し矢先を見て回ってるから”
「はい、お疲れ様でした、先生」
私はゲーム開発部の皆を部屋に送り、屋敷内から裏庭に移動していた、少なくとも周りには誰もいないし発信機の類もついてないはずだ。
“えっと、もう良いかな、こっちとしても考えを纏める時間が欲しいから手早く済ませて欲しいんだけど”
「済まない、私たちの姿はあまり公に晒してはいけないんです、これでも極秘任務な物でね」
そう言って姿を表したのは白地に紺色の襟、袖に赤いスカーフと典型的なセーラー服を着用した一人の生徒、極秘任務と言っていた所からどこかの組織の……それこそミレニアムのC&Cの様な存在に近いのかも知れない、ただ確実に言えるのは一つ、この子はかなり強いという事。
“それで、何者?生徒……なんだよね?あと無理に敬語使わなくて良いよ、こっちとしてもその方が話しやすい”
「む、ならば遠慮なくそうさせてもらうが……貴方まさか、マコラさんから何も知らされていないのか?
“生憎だけどマコラは超スパルタでね、基本的にあの子からキヴォトスの内情的な物はあんまり教えてもらってないよ、というかマコラの知り合い?”
「知り合いというよりは……教え子?」
“年齢そんな違わないでしょ”
「いや、戦闘技術を教わったという点ではその関係で間違ってない筈だ、そういう貴方もあの人から手解きを?」
その一言で全てを察する、この子もアレ以上のスパルタ訓練を施されたのか……
“指揮能力向上の為にワンツーマンで訓練をやりました……”
「あぁ……そう、か……貴方も苦労したんだな」
遠い目で虚空を見つめる私たちの間になんとも言えない空気感に包まれる、どうやら私たちは共にアレから厳しいなんて言葉じゃ足りない手解きを受けた者同士らしい、出会って数秒足らずだがお互いにシンパシーの様な物を感じ取っていた。
「何も知らされていないなら改めて自己紹介をしておこう、私は連邦生徒会の管轄下であるSRT特殊学園に配属し、その中にあるチームの一つ【FOX小隊】を率いている
“……なんで私はそういう大事な情報知らされてないの?”
「
“まぁいいや、今知れたから、後でアイツにはキツく言っておくとして……なんの目的で来たの?極秘任務とか言ってたけど”
「これはマコラさんが認めた貴方だから答えるんだが……この屋敷の主人については何処まで?」
“あの子達をC&Cと勘違いした情報不足の滅茶苦茶怪しい奴”
「……まぁ、大方合っている、銅田明太郎は表向きは美術品を掻き集めてオークションで販売するという一見クリーンな住民に見えるでしょうが実態は少し異なる」
やっぱりなんか裏があんのか、いよいよ面倒事になってきたな。
“その実態は?”
「不当な入手経路で得た代物を違法取引で売り捌く子悪党だ、問題なのが子悪党ではあってもその蒐集能力は確かな物であると言う事、そして今回のオークションには行方不明届が出ている美術品だけでなく、マコラさんが言う術式が籠った道具や忌み物……つまり呪具や呪物が競りに出るという情報を掴んだ」
“……続けて?”
「私達の目的はそのオークション会場にある呪具や呪物の回収……特に最優先で回収しなくてはならない物がある」
“それは?”
“またヤバそうな名前の物だねぇ、その効力は聞き及んでるかい?”
「あぁ、曰くあらゆるものを封印する事が出来る呪物なんだそうだ、これだけは最優先で回収しろと命令が降っている、その為には貴方の力が必要だ、先生」
“何故私なのかな?君が率いる部隊がどれだけ出来るかは知らないけど少なくともマコラが鍛え上げた以上相当な物の筈”
「先程の慈愛の怪盗とのやりとりを一部始終見ていた、貴方は信頼に値する大人であると判断し、協力を仰いだ、この任務は失敗が許されないんだ」
“いいよ、但し条件がある”
「あぁ、此方としても無理を言っている自覚はある、ある程度の要望なら通して見せよう」
“私としてはこっちの引率の子達の安全を最優先にして動きたいからあんまりそっちの援護とかは出来ないと思う、それでも良い?”
「……それだけでいいのか?、いやこちらとしてもありがたいし、敵対行動さえ取ってくれなければ良いのだけど」
“寧ろこっちとしてはあの子達の身の安全を保証してくれるだけでありがたいんだよね”
「分かった、こちらとしても可能な限り其方の安全は確保すると約束しよう、何かあったらこの端末に連絡して欲しい」
“ご丁寧にどうも、お互いに最善を尽くそう”
「あぁ、健闘を祈る」
あらゆる物を封印する獄門疆、ねぇ?そんなものあれば誰だって欲しがるに決まってる、これは争奪戦になりそうだな。
獄門疆争奪戦スタート