休暇を貰った祥鳳は、艦娘として徴兵される以前に住んでいた町へ単身帰省していた。
 軽空母祥鳳としての名前を一時忘れ、『飛鳥恭子』という一人の女性として故郷の土を踏む。
 以前からの知り合い達との再会や新たな出会いを経験し、安らかなひと時を満喫する恭子。
 しかしそんな彼女の町へ、黒い影が忍び寄る……!

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 この作品は、pixivに投稿した作品を投稿者自身が転載した物です。

【注意】
・地の文が書けないので、台本型式で書きました。人によっては読みづらいかもしれません。

・作中に登場する艦娘達は『民間人だった少女が適合者として選ばれ、艦娘としての力を授かった』という設定になっています。

・祥鳳さんの名前が時折艦娘になる以前の名前(飛鳥恭子)に変わるシーンがあるので少々ややこしいですが、ご了承頂けますと幸いです。

・戦闘シーンがありますので、暴力描写や残酷なシーンが少しだけあります。


~護る力~【台本型式注意】

【簡単な登場キャラ説明】

 

祥鳳:

このお話の主人公ポジション。

本名、飛鳥恭子(アスカキョウコ)。

休暇を使い、とある町を訪れる。

艦娘としては古参で、自身の高いとは言えない性能を経験値でカバーする。

 

隼鷹:

祥鳳とは同期で古い付き合い。

第三艦隊の旗艦として、哨戒任務に当たる。

 

漣:

隼鷹率いる第三艦隊メンバーの一人。

祥鳳と隼鷹の後輩で、祥鳳を『姉貴』と呼び慕う。

休暇を貰った祥鳳がうらやましいとぼやく。

 

提督:

言うまでも無く、祥鳳達の上官。

出番は少ない。

 

秘書艦:

その名の通り、提督の秘書艦。

提督同様出番は少ない。

 

店主:

五十代くらいの快活な女性。

花屋を経営し、祥鳳とは旧知の間柄。

祥鳳を『恭子ちゃん』と呼んで可愛がっている。

 

店主の夫:

店主の女性と共に花屋を経営する。

気の良いおじさん。

 

今井:

祥鳳が町で出会った女子高生。

口数が少なく、暗い雰囲気の少女。

祥鳳と共に町を歩いて回る事となるが……。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

~ 護る力 ~

 

 

深海棲艦と人類の戦いが始まって数年が経つ。

以前は敵の攻撃から身を守るだけで精一杯な状況であったが戦力が整い、艦娘を運用する為のノウハウが確立されて来た現在では敵に占領された海域を奪還する作戦を展開するなど、徐々に巻き返しを見せつつある。

彼女達が海を二十四時間体制で監視している事もあって、敵が陸に攻めて来る頻度も大幅に減少。

依然として油断が出来ない状況は続いているものの、民間人達の生活にも少しずつ余裕が出始めていた。

艦娘達も休暇を取って外出する事が許されるようになり、彼女達が私服を着た状態で街中を歩く光景も珍しく無くなっていた。

そんな時期に起きた出来事である――。

 

 

〇海上(昼)

 

時は2015年4月。

艦娘が実戦投入されるようになった2013年から、二年が経過していた――。

 

哨戒任務に励む第三艦隊、海上を滑走する。

水しぶきを上げ、六人の艦娘グングンと進み続ける。

旗艦の隼鷹、通信機能を使って鎮守府へ定時連絡を行う。

 

隼鷹「(鎮守府へ)こちら第三艦隊。(砕けた口調で)え~本日は晴天なり、敵影も確認できず海はとても穏やかであります☆」

 

通信機からの提督の声「それは大変結構だが、油断はするなよ?敵はいつどこから攻めて来るか分からないからな」

 

隼鷹「はっ、分かっているであります。これでもあたしゃ、ドが付くほどの勤勉で真面目な女ですからね」

 

通信機からの提督の声「ははっ、今のところは君の言葉を信じよう。くれぐれも用心して行けよ?」

 

隼鷹「了解了解、それでは定時連絡を終わりに致します(通信を切る)」

 

第三艦隊、尚も海上を進み続ける。

 

漣「(空お仰ぎ)あ~ぁ、私も祥鳳姉貴と一緒にお出かけしたかったなぁ……」

 

隼鷹「ハイハイ文句言わんの。他の子達が見てんだからシャキッとしなよシャキッとォ」

 

漣「言われなくてもシャキッと歯ごたえはありますとも。でもね、先輩同様まじめ君な私でもたまにはパーッと街にでも繰り出して、羽を伸ばしたくなる時があるんです。あぁ、祥鳳姉貴が羨ましい……」

 

隼鷹「まったく……アイツはここ最近ずっと働きづめだったから、特別に休暇が出たのを忘れたのかい?それに、出掛けたのは大事な目的があっての事だ、遊びに行ったんじゃないよ」

 

漣「マジレス乙、場の空気を和らげる為に冗談で言っただけっすよ飲兵衛先輩。それにしても姉貴、今頃どうしてるかな……」

 

隼鷹「何事も無けりゃ、そろそろ目的地に到着してる頃だろうねぇ……」

 

隼鷹達、会話を止め哨戒任務に集中する。

静かな海。

波の音と、艦娘達が移動する音だけが響き渡る――。

 

 

〇海に面した町・波打ち際(昼)

 

 

波の音が心地よい静かな場所。

海に面した道を私服の祥鳳が歩く。

長く美しい黒髪が、潮風に煽られふわりと浮き上がる。

頭上をカモメが鳴きながら旋回する。

祥鳳、ふと立ち止まり海を一瞥する。

穏やかな青い海、太陽の光を反射して白く輝く。

戦いの無い、穏やかな風景――。

 

祥鳳「……(ふっと微笑む)」

 

祥鳳、再び前を向いて歩き出す。

 

 

〇同・街中(昼)

 

 

人通りの少ない、傷付いた街――。

瓦礫が至る所に散乱し、街路樹は倒れ、道路はひび割れ所々に穴が開いている。

瓦礫を撤去しようと、作業員と彼らの操る重機が、せっせと働き続ける。

祥鳳、それを眺めながらデコボコした道を歩く。

人が歩けるよう、ある程度整備が成され復旧作業が行われている形跡は見られるものの、街には深い傷跡が刻み込まれていた。

 

祥鳳「……(迷わずまっすぐに歩く)」

 

祥鳳の歩く先に、一軒の花屋が見えた。

窓ガラスには所々ガムテープが貼られ、扉の上の看板が剥がれ落ちているボロボロの店。

しかし、他の倒壊した建物に比べれば奇跡と呼べる程にその原型を留めており、傾きや歪みも無くしっかりとその場に立っている。

 

 

〇花屋・店内(昼)

 

 

カランカランとベルの音を立てながら開く扉。

屈んだ姿勢で店内を整理整頓する50代の女性(店主)が、はっと顔を上げ扉の方へ向く。

店内へ入って来る祥鳳を見るや否や、パァッと笑顔になる。

 

店主「まぁ……まぁまぁ!恭子ちゃんじゃないの……久し振りねぇ!(祥鳳に駆け寄る)」

 

中年女性の明るく快活な姿。

祥鳳、それを見て自然と頬が緩む。

 

祥鳳「お久しぶりです。休暇を頂いたので、また来ちゃいました。あっ、これ最近評判の限定ひよこ饅頭です。お二人で召し上がってください」

 

祥鳳、『ひよこ饅頭』の入った黄色い紙袋を差し出す。

 

店主「(土産を受け取り)まぁまぁ、いつも悪いわねぇ。そんなに気ィ遣わなくたって大丈夫っていつも言ってるのに」

 

祥鳳「ふふっ……好きでやってる事ですから、お気になさらず」

 

店主「ちょっと待っときんしゃい、今お茶用意するから!(店の奥に向かって大声で)あんたぁ!恭子ちゃんが来たよーーッ!」

 

店の奥から男性の声「分かってる分かってる!この前もらったヨウカン出すから、お前達はそっちで待ってなさい!」

 

店主の夫、バタバタと祥鳳をもてなす準備を始める。

 

 

〇街中(昼)

 

 

一人の少女が道を歩いている。

セーラー服を着た、十六、七歳程の女子高生。

トートバッグを右肩にかけ、左手には花束を持っている。

俯き加減で生気のない顔。

目的地へ真っ直ぐ歩き続けるその足取りは、非常に重い。

 

少女「……(苦悶の表情を浮かべ、歯を食いしばる)」

 

 

〇花屋・店内(昼)

 

 

話を終え、レジで会計を済ませる祥鳳。

カウンターにはお線香と花束が置かれている。

おつりの小銭をレジ内から取り出す店主。

 

店主「はい、おつりとレシート……いつもありがとねぇ」

 

祥鳳「(おつりとレシートを受け取り)こちらこそ、今日はお茶菓子までご馳走になってしまって……。久し振りにお話が出来て楽しかったです」

 

店主「あたしも恭子ちゃんの元気そうな姿が見れて、嬉しかったよ」

 

店主の夫「うむ、またいつでもいらっしゃいな。こっちは話し相手が少なくて困ってるくらいなんだから(豪快に笑う)」

 

祥鳳「ええ、きっとまた来ます。それで……これからもこの町でお店を続けて行こうという気持ちは、変わらないですか?」

 

店主「そうだねぇ……人も建物も随分減ってすっかり寂しくなっちまった町だけどさ、やっぱアタシらは捨てらんないんだよ、この町を……」

 

店主の夫「ずっとここでやって来たからなぁ……奇跡的に残ったこの命と店を、最後まで町の為に使いたいと思ってるよ。君のように、花を買いに来てくれる人が居る限りね」

 

祥鳳「そうですか、それを聞いて何だかほっとしました。(苦笑し)艦娘として働く者なら、安全な場所に引っ越すよう促す方が正しい筈なんですけどね……」

 

店主「ははっ、それで良いんだよ。恭子ちゃんはこれからも、またこの町にやって来る。その時あなたを迎え入れる人間は、一人でも多い方が良いじゃない?」

 

祥鳳「ふふっ、そうですね。お二人のお陰でまたここへ来る時が楽しみです」

 

店主「(真剣な表情になり)私達はいつでもあなたを待っているわ。だからきっと、またここへ来て頂戴……!」

 

店主、祥鳳の手をしっかりと握る。

祥鳳、突然の事に少々驚くも、すぐに笑顔で相手の手を握り返す。

 

祥鳳「(しっかり相手の目を見て)来ますよ……絶対。この町には、私をこうして待ってくれている人達が居るんですから――」

 

固い握手を交わす二人を眺め、ゆっくりと頷く夫。

時計は午後二時を回っていた。

 

 

〇海底(昼)

 

 

祥鳳の居る港町からそう遠くない海域。

その海底で、複数の黒い物体が蠢いている。

鮫のような影、人型の影……多種多様なシルエット。

それらの眼がそれぞれ、不気味に発光している。

誰も知らない、漆黒の世界での出来事――。

 

 

〇花屋・外の玄関前(昼)

 

 

祥鳳、二人へお辞儀をする。

 

祥鳳「それじゃあ、私はこれで」

 

店主の夫「ああ、お父さんとお母さんによろしくな……ってあれ?あいつは一体どこへ……?」

 

先程まで居た店主が居ない。

キョロキョロと辺りを見回す祥鳳と店主の夫。

そこへ、店内から出て来た店主が、何かの袋を持って祥鳳達に駆け寄る。

 

店主「(息を切らせ)そうそう、これを渡すのすっかり忘れてたわよ」

 

スッと祥鳳に差し出される透明なビニールの小袋。

中には、小さく可愛らしい植物の種と、折りたたまれたメモ用紙が入っている。

 

祥鳳「これは……」

 

店主「スミレの種。この前採れたんだけど、あなたに育てて貰えたらなと思ってね。育て方を簡単に書いたメモも一緒に入れておいたよ」

 

店主の夫「おぉ、そう言えば恭子ちゃんにあげようと、この前話したっけなぁ……すっかり忘れとったよ」

 

祥鳳「いいんですか?頂いてしまって」

 

店主の夫「(おどけた口調で)いいともいいとも、笑っていいとも!」

 

店主「(ジト目)何言ってんだいこの人は……若い子の前なんだから、おバカなこと言ってないでシャンとしんしゃい!」

 

祥鳳、二人のやり取りを見て、思わず吹き出してしまう。

それにつられて笑う夫妻。

 

祥鳳「何から何までありがとうございます。それじゃ、遠慮なく頂きますね……花が咲いたら写真を送ります」

 

店主「ええ、楽しみに待ってるわよ」

 

店主の夫「さぁて、どう育ててくれるかな……?」

 

  ×  ×  ×

 

別れを済ませ、目的地を目指し出発する祥鳳。

去り行く彼女の背中を見守る二人。

 

店主の夫「(小さくため息)恭子ちゃん、前よりも逞しくなったなぁ」

 

店主「(物憂げな表情で)こんなご時世だもの、逞しくならなきゃ生きていけないのよ……」

 

店主の夫「強くなる事は良い事なのかも知れんが、しかしこんな形で強くなる必要なんて無い筈だ……」

 

店主「そうだねぇ……。こんな事が無ければ、あの子ももっと自由に生きる事が出来たかも知れないのに……運命は残酷だよ」

 

店主の夫「(溜め息交じりに)“力に選ばれてしまった”ばっかりに……いつの時代も被害を被るのは若者達だ――」

 

店主「……(唇を噛み締め、ゆっくり頷く)」

 

 

〇街はずれ(昼)

 

 

山へと続く道。

石やコンクリートで舗装されつつも、デコボコと荒れている。

祥鳳、歩みを止め、進行方向にある山を見上げる。

 

祥鳳「(微かに目を細める)」

 

花屋の夫妻と話した時と打って変わって、悲し気な表情。

小さく溜め息を吐き、山へと向かって再び歩き出す。

 

 

〇山道(昼)

 

 

頂上へと続く、石畳の階段。

草や苔が生え、湿った土の香りが漂う静かな場所。

時折、鳥の鳴き声や木の葉のざわめく音が聞こえて来る。

祥鳳、一歩一歩階段を踏みしめ、グングンと昇ってゆく。

 

  ×  ×  ×

 

祥鳳、あっと言う間に頂上付近へ辿り着く。

息一つ乱す事無く、慣れた足取り。

目的地目指し、更に踏み込んでゆく。

 

 

〇同・墓地(昼)

 

 

墓石が敷き詰められ、静まり返った墓地――。

ここは“新しめの墓標”が大半を占めている。

祥鳳、迷う事無く歩みを進め、一つの墓の前に立った。

『飛鳥家之墓』と刻まれた、質素だが綺麗な墓石。

墓の周辺に至るまで手入れが施されている。

 

祥鳳「(愁いを帯びた微笑み)お父さん、お母さん……今年も来たよ――」

 

祥鳳、墓地に設置された箒とチリ取りを借りて、墓とその周辺を掃除してゆく。

持って来た花とお線香を供え、神妙な面持ちで目を閉じ、手を合わせる。

祥鳳、心の中で両親に語り掛ける――。

 

祥鳳「(モノローグ)早いもので、あれからもう三年が経とうとしてるね。最初は成り行きで就いた仕事だったけど、今はある種の使命感……みたいな物を感じるまでにはなったかなぁ。色々しんどい事は沢山あった……正直挫けそうになる事は今もある。けれど、仲間の艦娘達と一緒に何とか頑張ってるよ。お父さんとお母さんみたいな人を一人でも減らす為に――」

 

遠く離れた親子の間で、ゆっくりと流れる穏やかな時間。

 

  ×  ×  ×

 

祥鳳、暫くして目を開け、合掌を解く。

 

祥鳳「(空を仰ぎ)それにしても、今日はいい天気でよかった。お陰でこうしてゆったりとお話が出来るんだものね……」

 

視線を墓地に戻し、周辺の墓石を見回す。

それぞれ、両親の墓同様に手入れが施され、花やお菓子がお供えとして置かれている。

他の被害者遺族達がやってくれたのだろう。

墓の数だけ失われた命と、残された者達の悲しみがあるのだ。

 

祥鳳「(噛み締めるように、墓石達を見つめる)」

 

その時、遠くに人影が見えた。

先程街中を歩いていた、あのセーラー服の少女。

墓の前で座っている。

 

祥鳳「……」

 

少女、徐に立ち上がり歩き出す。

祥鳳、それをじっと眺める。

 

祥鳳「……ッ!(何かに気付く)」

 

少女の進行方向には、柵でガードされている崖がある。

少女、吸い寄せられるように崖の方向へフラフラと歩いてゆく。

 

少女「……」

 

柵の前まで来た少女、手すりに手を掛ける。

足を上げ、その先へと踏み込もうとする。

しかしそこで迷いが生じる。

やめる様子は無いが、葛藤したまま動きが止まった。

 

少女「……!(口惜しそうに歯ぎしりをする)」

 

震えたまま動けない少女。

そんな彼女に、祥鳳が声を掛ける。

 

祥鳳「(少女の背後から)晴れの日にここから眺める景色は、とても綺麗ですよね――」

 

少女、体がビクッと跳ね、素早く振り返る。

目が合う二人。

 

少女「ぁ……(硬直する)」

 

祥鳳「(明るい口調で)あぁよかった!私意外に人が居てくれて。一人でお墓参りをするのはちょっと心細いんですもの……」

 

祥鳳、少女にゆっくりと接近。

少女、我に返り、慌てて柵から下りる。

 

少女「あ……あの……」

 

祥鳳「あっ、ごめんなさい……申し遅れました。私、飛鳥恭子と言います。今日は休暇を使ってお墓参りにやって来た、20代前半のピチピチな独身女性で~す」

 

祥鳳、わざとらしくキャピキャピ振舞う。

少女、痛い物を見るような視線を送る。

 

少女「(引き気味に)あっ……そう、なんですか。私は今井と言います……(以降、今井と呼称)」

 

戸惑う今井。

それに対し、グイグイと距離を詰めて行く祥鳳。

 

祥鳳「今井さんはこの町のお住まいなんですか?」

 

今井「いえ、生まれた時からずっと千葉の方に住んでいて……今日は、お墓参りの為にここへ……」

 

祥鳳「あら、千葉から……それじゃあここまで結構遠かったでしょう?私は数年前まで両親とここに住んでいましたが、今は色々あって“別の場所”に住んでいるんです」

 

今井「は、はぁ……」

 

祥鳳「あの、今井さん今日はこれからのご予定は……?」

 

今井「あ……いえ、特には決めてなくて……」

 

祥鳳「そうですか。ここで会ったが百年目……じゃなくて、ここで会ったのも何かの縁。もし良ければなんですけど、ちょっと私に付き合って欲しいなぁと思ってたりなんかしちゃって……。アハハッ、独身の一人旅はやっぱり寂しくて――」

 

今井「……(黙り込む)」

 

俯き、考え込む今井。

暫しの沈黙の後、小さく溜め息を吐いて返答する。

 

今井「(俯いたまま投げやり気味に)いいですよ……どこへでも連れて行って下さい……」

 

祥鳳「ホントですか、ありがとうございます!あっ、ちょっと待ってて下さいね?(両親の墓を指さし)お線香やライターを向こうに出しッパにして来ちゃったので……すぐ片付けて来ますから!(駆け出す)」

 

飛鳥家之墓へ一時戻って行く祥鳳。

無関心そうに祥鳳を眺める今井。

 

 

〇海に面した町・街中(昼)

 

 

町の内陸側。

あまり荒れておらず、原型を留めた建物が多い場所。

祥鳳と今井が、雑談しながら町を歩く。

 

祥鳳「ね、こっちの方は比較的街並が綺麗に残ってるでしょう?」

 

今井「(無関心そうに)ええ……まぁ……」

 

祥鳳「あっ、あそこでちょっとお茶していきませんか?最近やっと営業再開したみたいで、また行ってみたかったんです!」

 

 

〇喫茶店内(昼)

 

 

祥鳳と今井、向かい合わせの席に座って話をしている。

祥鳳の手元にはクリームソーダ、今井の方にはアイスコーヒーが置かれている。

 

祥鳳「以前は自販機やコンビニが使えなくて、この町に来る際には隣町で飲み物を買わなくちゃいけなかったんです。……いやぁ、本当に便利になったなぁ」

 

祥鳳、店内をぐるっと見回す。

客の数はあまり多くなく、静かな店内。

内装はレトロな家具が並べられ、カウンターで初老の男性が作業をしている。

昔からある店のようだ。

 

祥鳳「(安心したように)ここも変わってなくて安心しました」

 

今井「そうですね、久しぶりにきたけど……変わらないです……」

 

祥鳳「今井さんも時々来るんですね、この町へ」

 

今井「あっ、はい……家族が生きていた頃は、よく祖父母に会いに来ていました……今は“お墓参りの為”にしか来なくなりましたけど……」

 

祥鳳「そう……ごめんなさいね、良くない質問をしてしまって……」

 

今井「い、いえ……」

 

祥鳳「(少し間を置き)……私の父親も、この町で生まれ育ったんです。父は一度、都会に出て就職したそうなんですが、そこで母と出会って……結婚すると同時にこの町へ帰って来た翌年に、私が生まれたんです。それからずーっと家族三人で一緒に暮らして来ました――」

 

祥鳳、少し表情が暗くなり、黙り込む。

 

祥鳳「(モノローグ)そんな生活が、ずっと続いて行くんだと思っていた――」

 

 

○(回想)荒れ果てた町

 

 

学生時代の祥鳳(恭子)、息を切らしながら走り続ける。

あたり一面に瓦礫が散乱し、足場は劣悪。

時々瓦礫に躓いて転びながらも、彼女は歩みを止めない。

泣き出しそうになるのを堪え、必死に走る……走る……。

 

 

○避難所

 

 

人でごった返す避難所。

苛立ち、叫ぶ者。

軽症だが包帯を頭に巻き、ぐったりしている者。

担架で運ばれる重傷者と、その重傷者に付き添う者。

泣き叫ぶ者と、それを宥めようと肩をさする者――。

そんな中で、人をかき分けながら進む恭子(祥鳳)。

避難所の職員達に家族の事を訊ねるも、皆首を横に振る。

誰も彼女の両親の安否を知らない。

それでも諦めず、施設をしらみつぶしに探す。

時折人にぶつかり怒鳴られ、謝りながら探す。

生きた心地がしない中で、諦めずに探し続ける……。

 

 

〇同・避難所出入口前

 

 

恭子「(モノローグ)これだけ探しても居ないなんて……もしかすると、どこか別の所に居るんじゃ……!」

 

施設を飛び出そうとする祥鳳。

が、そこで――

 

店主「(背後から)恭子ちゃん!?恭子ちゃん待って!」

 

恭子、立ち止まって振り返る。

そこには表情が強張った花屋の夫妻。

慌てて二人に駆け寄る恭子。

 

恭子「(安堵し)二人とも、無事だったんですね……よかったぁ……」

 

店主の夫「恭子ちゃん、大学からここまでよく帰って来れたねぇ……大変だったでしょう?」

 

恭子「はい。途中、交通機関がストップして時間は掛かってしまいましたが、何とかここまで帰って来ました……それで、父と母を知りませんか?どこを探してもここには居ないみたいで……!」

 

店主「……」

 

沈黙する夫妻。

その様子を訝しむ恭子。

 

恭子「あの……」

 

店主「それはね、恭子ちゃん……(口ごもる)」

 

店主の夫「(代わりに重い口を開き)恭子ちゃん。静雄達は……君のお父さんとお母さんはね……」

 

恭子「ぇ……?」

 

これから恭子は、残酷な現実を目の当たりにする事となる――。

 

 

〇同・遺体安置所

 

 

遺体安置所は意外にも静かだった。

地べたに横たわる家族の亡骸に寄り添う者達は皆、

絶望し、うなだれている。

聞こえて来るのは残された者達の嗚咽……。

そこへ駆けこんで来る恭子。

死人のように顔面蒼白だ。

作業中の看護師が恭子に気付く。

 

恭子「わたっ、私、飛鳥と言います!両親は静雄と由香って言います!どこですかッ!?」

 

看護師「(淡々とした口調)落ち着いて下さい、他の方のご迷惑になるので……」

 

恭子「どこですッ!一体どこに――」

 

尚もまくし立てる恭子。

看護師、恭子の両肩をガシリと掴む。

厳しい目でしっかりと恭子の目を見据える。

 

看護師「(ピシャリと)落ち着きなさいと言っているでしょうッ!!」

 

恭子「……ッ!す、すみません……」

 

恭子、周囲の人々にも会釈して謝る。

遅れて部屋に入って来る花屋の夫妻。

夫妻、がっくりと肩を落とす恭子に寄り添う。

 

看護師「では、場所を確認して来ますので二人の名前をもう一度――」

 

店主の夫「いえ、私達が先程場所を確認しましたので大丈夫です……」

 

店主「(恭子に向かって)さ、こっちよ……」

 

店主、恭子の肩をそっと抱きながら案内する……。

 

  ×  ×  ×

 

目的の場所にやって来る三人。

眼の前には、布を被せられた二つの人型。

他の物に比べ、白い布が不自然に大きく盛り上がっている。

立ち尽くす三人。

恭子、恐る恐る布に手を掛ける。

店主、すかさず恭子の手を優しく抑えた。

 

店主「……(唇を噛み締め、首を横に振る)」

 

店主の夫「……」

 

その時、部屋に三、四歳くらいの小さな男の子AとBが侵入する。

追いかけっこをしているらしく、ドタドタと部屋を駆け回る。

 

男の子A・B「――!(騒ぎ立てる二人)」

 

看護師「静かにしなさいッ!ここをどこだと思ってんのよ!ったくどいつもこいつも……こっちは忙しいってのに!!」

 

看護師の金切声に怯む事無く、走る男の子A・B。

傷付いた者達に目もくれず、奇声を上げながら爆走する。

男の子A・B、暫くして恭子達の近くを通過する。

男の子Aが通り過ぎ、続いて男の子Bが進もうとした

その時――。

 

男の子B「あっ……!」

 

男の子B、恭子の両親を覆っていた白い布が足に引っかかり、勢いよく転倒。

その影響で布が引っぺがされ、両親の姿が露わとなる――。

 

恭子「ぁ……」

 

恭子、無表情のまま目を見開き、現実を直視する。

元の容姿が判別出来なくなるまでに黒く“炭化”した、父・母の変わり果てた姿……。

焼死体特有の体を丸め、まるでファイティングポーズを取ったかのような姿勢で横たわる二人。

先程被さっていた布が異常に盛り上がっていたのはこの為だ。

 

店主「ぃいやぁあああああああああ!!」

 

顔を覆い、その場にうずくまる店主。

夫、即座に行動に出る。

 

店主の夫「いかん……!(急いで遺体に布をかけ直す)」

 

一方、男の子B、転んだので遺体を見なかったものの、痛みから泣き出す。

男の子A、振り返って泣いている男の子Bをからかう。

 

看護師「チッ……ったく面倒事増やしやがって……!」

 

男の子A・Bを制止しようとする看護師。

そこへ、男の子達の母親が入って来る。

 

男の子達の母「あっ、ここに居た……アンタ達なにこんな所で遊んでんの!さっさと行くよ!」

 

男の子A「(笑いながら)やだーっ!」

 

男の子B「イギャァアアアアアアア!(泣き叫ぶ)」

 

男の子達の母「口答えしないの!……ってかウソ、ここ死体置き場じゃん!気持ち悪いッ!(看護師に詰め寄り)ちょっとアンタ、どうして子供達をこんな所に入れたりしたの!死体見ちゃったらどう責任取ってくれんの!」

 

看護師「勝手に入って来たんですよあの子達が……人に文句を言う前に、まず自分のガキどもの教育を何とかして欲しいですね!」

 

男の子達の母「はぁ?アンタここの職員でしょ、その態度は何なの?アンタこそ上司から一体どんな教育を受けてんのよ?」

 

看護師「とにかく、早くあの子達をさっさと連れ出してくれませんか?こっちも忙しいので……」

 

男の子達の母「話をすり替えるなッ!今はアンタの怠慢について話してんだよ!どう責任取るのかって聞いてるんだけど!?」

 

看護師「んな事知った事じゃねぇよ!テメェらバカ親子どもを中心に世界が回ってると思ったら大間違いだ!とっととあの子猿どもを連れて失せろッ!」

 

男の子達の母「はぁ!?子猿とか……ウチの子を悪く言う権利はお前に無いんだけど!?」

 

男の子A「(男の子Bへ)お前転んで泣いてやんの、ダッセー!キモーッ!」

 

男の子B「イギャアアアアアアア!」

 

恭子と花屋の夫妻をよそに展開される大人二人の口論と子供のキンキン声。

周囲の人々が、看護師と母親を静かに睨みつける。

騒音が飛び交う遺体安置所は、死者達に安らかな眠りさえ与えてはくれない。

 

店主の夫「おい、しっかりしろ……!」

 

夫、店主の背中をさする。

ギリギリの所で踏みとどまり、徐々に落ち着きを取り戻そうとする店主。

 

店主「ごめん……また取り乱しちゃって……大丈夫、何とか……き、恭子ちゃんは……」

 

夫妻、恭子に目をやる。

直立不動のまま動かない恭子。

まるで魂が抜けたかのように無表情だ。

 

店主の夫「恭子ちゃん、恭子ちゃん!(肩をゆする)」

 

店主「一旦、外に出ましょう……どこか静かな所へ……」

 

調子が悪い中、恭子を気遣う店主。

夫も彼女の提案に従い、茫然自失な恭子を連れ出す。

 

店主の夫「さあ、肩につかまって……外へ出て休もう」

 

恭子を慎重に運んで霊安室を後にする夫。

部屋を出る前、遺体を済まなそうな表情で一瞥する店主。

 

 

〇避難所周辺の木陰

 

 

人気の少ない静かな場所。

三人同様に休んでいる人間の姿がちらほら見受けられる。

夫妻、恭子を労わる。

無反応の恭子。

 

恭子「……」

 

人形のように静かな恭子。

不安げな表情で顔を見合わせる夫妻。

 

恭子「……ッ!」

 

恭子の脳裏に、先程の光景が繰り返しフラッシュバックする。

 

  ×  ×  ×

 

(フラッシュバック)

両親の焼死体。

店主の悲鳴。

男の子A・Bの奇声。

飛び交う看護師と母親の怒号。

 

両親の焼死体。

店主の悲鳴。

男の子A・Bの奇声。

飛び交う看護師と母親の怒号。

 

両親の焼死体。

店主の悲鳴。

男の子A・Bの奇声。

飛び交う看護師と母親の怒号。

 

両親の焼死体。

店主の悲鳴。

男の子A・Bの奇声。

飛び交う看護師と母親の怒号。

 

両親の焼死体。

店主の悲鳴。

男の子A・Bの奇声。

飛び交う看護師と母親の怒号。

 

両親の焼死体。

店主の悲鳴。

男の子A・Bの奇声。

飛び交う看護師と母親の怒号。

 

  ×  ×  ×

 

恭子、胃から熱い物が込み上げて来る。

 

恭子「ヴゥッ!?(口を押える)」

 

抑えきれぬ吐き気。

指の間から漏れ出す胃液。

 

恭子「ヴゲェエエッ!!」

 

パシャパシャと水音を立て、まき散らされる吐瀉物。

その場にうずくまる恭子。

 

店主「恭子ちゃん!?」

 

店主の夫「大丈夫か……!」

 

背中をさする店主。

恭子、精神に負荷が掛かり過呼吸を起こす。

 

恭子「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、カヒュッ、カヒュッ、カヒュッ――」

 

店主の夫「いかん、過呼吸を起こしている!人を呼んで来るから、恭子ちゃんを頼んだぞ!」

 

店主「分かったわ……!」

 

避難所に駆けてゆく店主の夫。

店主、恭子の背中をさすりながら呼び掛ける。

 

店主「恭子ちゃん……恭子ちゃん!」

 

恭子、まだ目の焦点が合わない。

店主、恭子の顔を自分の方へ向ける。

 

店主「恭子ちゃん、私の目を見て……!」

 

両者の目が合う。

店主の呼び掛けが、微かに恭子に届く。

過呼吸のままだが、店主の目をしっかりと見ている。

 

店主「落ち着いて……私の言う通りに息をしなさい。私が十数える間、吸った息をゆっくりと吐いて――」

 

息を整える為に恭子に指示する店主。

意識が途切れそうになる中、指示に従い呼吸を整えようとする恭子。

現実に打ちのめされ、両親の死に涙を流す余裕さえ無い……。

人は時として、余りの悲しみに泣く事さえ忘れてしまうのだ――。

(回想終わり)

 

 

〇(戻って)喫茶店内(昼)

 

 

祥鳳、過去を振り返り考え込む。

彼女の頼んだクリームソーダの上に乗ったアイスは溶け始めていた。

 

祥鳳「……(俯き、重苦しい表情)」

 

祥鳳、我に返ると顔を上げ、今井の方を見る。

今井、黙り込んでいる祥鳳を訝し気に眺めている。

 

祥鳳「あっ、ごめんなさい急に……ちょっと、考え事をしちゃって。……っと、いけない。アイス溶け始めてる!?」

 

スプーンを使い、慌ててアイスを食べ始める祥鳳。

今井、無表情でそれを眺める。

 

 

〇喫茶店外(昼)

 

 

二人、店を後にする。

祥鳳、会計を済ませ財布を鞄にしまっている。

 

今井「あの……ごちそうさまでした……お金払って頂いて……」

 

祥鳳「いいんですよ。付き合って頂いたほんのお礼です」

 

と、そこに二人の男が通りかかる。

不機嫌なレポーター、気まずそうなカメラマン。

 

レポーター「ったく、こんな街を撮ったって仕方ねぇってのに……。ホント、なんもありゃしねぇじゃねぇか……この貧乏集落がよぉ!(落ちていた石を蹴とばす)」

 

カメラマン「まあそう腐らずに……一応ボスからの命令なんスから……」

 

 

恐る恐る宥めるカメラマン。

しかし気持ちは晴れないレポーター、タバコを一服。

煙と共に文句を吐き出す。

 

 

レポーター「だがなぁ、ボロボロの町映して化け物の脅威を伝えるネタなんて他の局でも腐る程やってるし。かと言って町復興の感動ドラマみたいなモンもこれと言って無さそうだしよぉ……」

 

カメラマン「ハハ……まぁそうっスね……。じゃあ深海棲艦の襲撃で家族を亡くした人でも探してみませんかね?それ使えば視聴者の涙腺に訴えかける物を作れるんじゃ……」

 

近くで話を聞いていた今井、ビクッと体を震わせる。祥鳳、レポーター達を哀れむような冷たい視線。

 

レポーター「あぁ~それも良いけど、そういったモノ、最近じゃ一般のネット配信者も作ってるしなぁ……。いや待てよ、ネットを見ないジジババどもならきっと見る。奴ら涙もろいからこういうネタには喰いつくぞ!」

 

カメラマン「えっ、マジでやるんスか?冗談で言ったのに……それに、撮影するテーマを勝手に変えたらボスに怒られるんじゃ……」

 

レポーター「心配ねぇよ、ブツを見せて説得すりゃぁ考えてくれるだろ。いや、お前冴えてるよ……段々一人前のテレビマンになって来たじゃねぇか!」

 

嬉しそうに相手の肩を叩くレポーター。

カメラマン、困惑気味に頭を掻いて笑う。

 

カメラマン「えっ……ははっ、そうっスかね?」

 

今井、会話を聞いて俯く。

歯を食いしばり、拳を固く握って震わせている。

祥鳳、今井の手をそっと握る。

 

今井「……?」

 

祥鳳「(努めて明るく)私、もう一ヶ所行っておきたい所があるんです。さ……行きましょ行きましょ!」

 

祥鳳、今井を引きずるように歩き出す。

今井、ポカンとした表情で成すがままの状態。

そんな二人をよそに、盛り上がるレポーターとカメラマン。

 

レポーター「よし、そうと決まれば遺族探しだ!ソイツらから聞き出した話にパンチが欠けてても、色々と尾ひれはひれ付けて捏造すりゃ何とかなるだろ!うん、イケるイケる!」

 

カメラマン「テレビマンの心得。取るに足らない話でも、大げさかつ感動的に視聴者へお届け……ですね」

 

レポーター「そうとも、その意気だぜ!針小棒大の精神ってね……ん?」

 

レポーター、去り行く祥鳳達に目を付ける。

タバコを道に捨て、早速接触を試みる。

 

レポーター「あっ、ちょっと君達!お話良いかな?」

 

ふてぶてしい態度はどこへやら……。

レポーター、爽やかな雰囲気で二人に語り掛ける。

祥鳳、振り返る。

 

レポーター「君達この町のヒト?もし良ければちょっと色々聞きたい事が――」

 

祥鳳「(遮るように)ごめんなさい、私達この町に来たのは“初めて”なんです。(語気を強め)あなた方が満足するような“ネタ”は持っておりませんので。……それでは」

 

有無を言わせず話を切り上げ、足早にその場を去る祥鳳と今井。

呆気に取られ、黙って見送るしかないレポーター。

 

レポーター「……ちぇっ、外れかよ……(唾を吐く)」

 

カメラマン「(レポーターの肩に手を置き)大丈夫っスよ先輩、次があります」

 

レポーター「しかしあの二人、中々可愛かったな……。はぁ~あ、久し振りに女とヤリてぇなぁ……自分でマスかくだけじゃ物足りねぇよ……ったく」

 

カメラマン「いいお店知ってますから、このお仕事成功させたら一緒に行きましょうよ。……さあ、元気を出して」

 

カメラマンに励まされ、レポーターは獲物を求め町を彷徨う――。

 

 

○防波堤(昼)

 

 

防波堤に立ち、海を眺める二人――。

波は穏やかで、心地良い波音が聞こえてくる。

祥鳳、目を閉じて風を感じる。

 

祥鳳「(深呼吸をして)丁度海が穏やかな日で良かったです。こうして落ち着いて眺められる日は案外ありませんから……」

 

今井「……」

 

今井、黙りこくる。

奥歯を噛み締め、海を恨めしそうに睨む。

 

祥鳳「(海を眺めながら)私も苦手なんです、ああいうタイプの人達……あの手のお仕事をなさってる人が皆あんな風では無いと信じたいけれど……」

 

今井、やはり黙ったまま。

祥鳳、心配そうに今井の顔を覗き込む。

 

祥鳳「今井さん、もしかして海……あまり好きではなかったですか?」

 

今井「(声をつまらせながら)嫌いよ……家族みんなを奪ったこの海が……私は憎い……ッ!」

 

ほんの数秒の沈黙。

しかし永遠とも思える静けさ――。

 

祥鳳「……ごめんなさい。戻りましょうか、街へ――」

 

今井「(海の方を向いたまま)いえ、大丈夫です……もう少しこのまま……」

 

祥鳳「……ええ」

 

祥鳳も海の方へ向き直る。

再び沈黙。

海を眺める二人……。

 

今井「(小さな声)でも、本当に綺麗。憎らしい程に……」

 

悲しそうに微笑む今井。

 

祥鳳「……」

 

祥鳳、徐に鞄の中に手を入れる。

花屋の店主から貰った、スミレの種が入った小袋を取り出す。

そこから半分程の量の種を取り出し、線香の入った箱の中へしまう。

そして残り半分の種が入った小袋を、今井に差し出した。

 

今井「これは……?」

 

祥鳳「スミレの種です。知り合いの方から頂いたんですけど、半分今井さんにあげます」

 

今井「でもそれ、大切な物じゃ……どうして私なんかに……?」

 

祥鳳「私に付き合ってくれたお礼と、ちょっとした記念……みたいな?」

 

今井「は、はぁ……」

 

相手の意図が読めず、困惑す今井。

祥鳳、今井の手に小袋を握らせる。

 

祥鳳「スミレの花ってね――」

 

そこで言葉が中断される。

祥鳳、並外れた艦娘の聴覚で何かを感じ取る。

 

祥鳳「……!(耳を澄ます)」

 

祥鳳を不思議そうに見る今井。

 

今井「あの……」

 

祥鳳、口に人差し指を立てる。

“静かに”とジェスチャー。

彼女の耳に、かすかに声が届く。

 

遠くからの声「誰か来て下さい!誰かーッ!」

 

祥鳳「……!」

 

救いを求める声に向け、すぐさま駆け出す祥鳳。

風のように早い。

その場にポツンと取り残される今井。

 

 

○船着場(昼)

 

 

小学生A、オロオロとした様子で立ち尽くす。

そこへ、祥鳳が疾風のように現れる。

 

祥鳳「ねえ、さっき助けを呼んでいたのは君かしら?」

 

突然の声を掛けられ、驚いて黙ってしまう小学生A。

祥鳳、しゃがんで小学生Aの目線に合わせ、そっと肩に手を置いた。

 

祥鳳「大丈夫、落ち着いてお姉さんに話してごらん?」

 

小学生A「とっ、友達が海に……溺れて……」

 

小学生A、海を指差す。

水面から気泡が微かに浮かんでくる。

が、次の瞬間には気泡が止んでしまう。

 

祥鳳「わかったわ、あなたはここで待ってて!」

 

祥鳳、立ち上がってすぐに海に降り立つ。

気泡が止んだ場所まで駆けてゆくと、海中に身を沈めた。

 

小学生A「歩いた……海の上を……!?」

 

暫くして、水面が波立ち、気泡が上がる。

 

小学生A「あっ……!」

 

祥鳳、小学生Bを抱えて水面に上がって来た。

咳き込んで水を吐き出す小学生B。

 

小学生B「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」

 

祥鳳「よかった、意識はあるみたいね……!」

 

小学生B、海水だけでなく涙と鼻水で顔がグシャグシャだ。

そこに、祥鳳を追いかけて来た今井がやって来る。

今井、水面を歩き船着き場に上がって来る祥鳳を見る。

 

今井「……ッ!?(目を見開く)」

 

祥鳳の水面を歩く姿に驚く今井。

しかし、次第に顔には怒りの表情が浮かんでくる。

 

今井「……」

 

祥鳳、小学生Bを地面に座らせる。

駆け寄って来る小学生A。

 

小学生A「(小学生Bへ)おい、大丈夫か!?」

 

小学生B「(息を切らしながら)あ……あぁ、何とかね……だいじょうぶ」

 

祥鳳「命に別条が無くて何よりだわ。でも、念のために救急車を呼びましょう。親御さんに連絡も取らなくちゃね……」

 

 

〇鎮守府・執務室(昼)

 

 

執務室で仕事を続けていた提督とその秘書艦。

提督、受話器を右手に持ち、電話越しの相手と会話をする。

堅苦しい表情。

 

提督「はっ、承知しました……こちらでも警戒を厳重に……はっ、それでは――」

 

電話が切れ、受話器を置く。

小さく溜め息。

 

秘書艦「提督、第四鎮守府は何と……?」

 

提督「うん……伊豆大島近海で輸送任務に就いていた艦隊が深海棲艦と戦闘になったらしい。しかし敵艦隊に逃げられてしまったようでな……その後、相模湾を航行中だった漁船から取り逃がした敵艦隊と思われる影を見たという情報が入った」

 

秘書艦「相模湾……丁度第五鎮守府の管轄内ですね」

 

提督「ああ、第五の方にも連絡は行っているようだが、我々も十分警戒しておく必要がある。敵がルートを変えてこちら側にやって来るかも知れんからな」

 

秘書官「哨戒任務中の第三艦隊にも連絡し、警備を厳重にするよう呼び掛けましょう」

 

提督「あぁ……!」

 

秘書官、通信機を取り出して早速隼鷹の第三艦隊へ連絡を入れる。それを見ながら提督、考え込む。

 

提督「(モノローグ)伊豆大島……相模湾……そこからそう遠くない距離に祥鳳くんの町がある筈だ。念の為彼女にも連絡を入れておく必要があるか……」

 

 

〇町・船着き場(昼)

 

 

祥鳳の連絡を受けた小学生達の保護者と救急車が到着。

小学生Bの母親、祥鳳に頭を下げる。

救急車に収容される小学生B。

それに付き添って救急車に乗る小学生A。

 

母親「本当にありがとうございました。息子にはよく言って聞かせておきますから……」

 

祥鳳「(苦笑しながら)あまり息子さんを叱らないであげて下さい。まだショックから立ち直れてないみたいで落ち込んでるようですから」

 

母親「……ええ、それもそうですね……それじゃあ、私はこれで……」

 

祥鳳「はい、お大事になさって下さい」

 

一礼をし、救急車に乗り込む母親。祥鳳、微笑んで見送る。

 

  ×  ×  ×

 

救急車が去ってゆくのを見届ける祥鳳。祥鳳、近くに居る今井に気付く。

 

祥鳳「あっ、今井さんごめんなさい!ほったらかしにしてしまって――」

 

今井「(言葉を遮り)艦娘だったんですね、あなた……」

 

氷のように冷たい口調。

相手を射抜かんばかりの鋭い眼差し。

 

祥鳳「えっ……?」

 

今井「なんで、なんであなたはそんな風に明るく生きて居られるの……なんで笑っていられるの?私の家族はもう二度と笑う事は出来ないのに……ねぇ、何故“あなた達”は生きているの……!?」

 

今井、フラフラと祥鳳に近づき、胸倉を掴む。

戸惑う祥鳳。

 

今井「(俯きながら)そうよ……あんた達がちゃんと守ってくれなかったから家族がみんな死んだのよ。お陰で私は全てを失って親戚をたらい回しにされて……どこへ行っても友達が出来ずに虐められて……おまけにさっきみたいなデリカシーの無いマスコミどもに追い回される毎日……!」

 

今井の恨み節。

祥鳳、黙ってそれを聴く。

 

今井「アンタ達艦娘なんでしょうッ!バケモノから私達一般人を守んのが仕事なんでしょうッ!だったらちゃんと仕事やってよッ!分かってんのかよこのボンクラどもがッ!」

 

祥鳳「……」

 

祥鳳の胸を何度も殴りながら叫ぶ今井。

祥鳳、微動だにせず叩きつけられる拳を受け止める。

 

今井「何も知らないフリして私に近づいて来たのもムカつくんだよ……『死にたがってるカワイソーなガキを助けてやる』とか思って、どうせ心の中で私を見下してたんでしょ……。そういうヒロイズム全開で上から目線のおせっかい、一番不愉快なんだよッ!」

 

今井、近くに落ちていたテニスボールサイズの石を右手で拾い、天高く振り上げる。

 

今井「お前達艦娘が死ねば良かったんだ!家族の代わりにィィィ!!」

 

目を血走らせ、祥鳳の額目掛けて思い切り右手を振り下ろした。

ゴンッ、と鈍い音。

額に石がクリーンヒットする。

しかし祥鳳にはまったく効いておらず、額も無傷に等しい。

 

祥鳳「……(真っ直ぐな眼差しで今井を見つめる)」

 

今井「なんで……なんで血が一滴も出ないのよ……」

 

怯え、ポロリと石を落として後ずさる今井。

祥鳳、歩み寄ろうとする。

 

今井「あぁ……来るなッ!このバケモノォ!来るなァァ……!!」

 

錯乱し、逃走を図る今井。

しかし足がもつれ、その場に尻もちをつく。

 

今井「うっ……くぅっ……」

 

祥鳳、屈んだ姿勢で今井に手を差し伸べる。

悲しそうな表情……。

しかし今井、尚も拒絶する。

 

祥鳳「(重い口を開き)今井さん。私はね、だからこそこの仕事を――」

 

その時、彼女の声を遮るが如く、町中にけたたましいサイレン音が鳴り響く。

町の近海に深海棲艦が出現した事を知らせる警報――!

 

今井「えっ……?」

 

祥鳳「……ッ!」

 

祥鳳、今井を立ち上がらせ両肩を掴む。

 

祥鳳「今井さん、深海棲艦です。(西側を指さし)ここから向こうへ丁度まっすぐ歩いて行けば、避難所に辿り着ける筈です。一人で行けますね……?」

 

今井、渋々頷く。

祥鳳、微笑むと肩に掛けていた鞄を差し出した。

 

祥鳳「これ、預かっていてもらえますか?私は行かなければならないから……後でちゃんと受け取りに来ますね」

 

少々強引だが、今井の手に鞄を握らせる。

祥鳳、小さく頷くと走り出し、再び海面へ降り立つ。

そのまま海面を走って行こうとする。

 

今井「ねぇッ……!」

 

祥鳳、足を止める。

躊躇い気味に今井、口を開く。

 

今井「行くの……一人で?」

 

祥鳳「(今井に背を向けたまま)ええ、それが私達の仕事ですもの……!」

 

そう言い残し、海の上を走り出す。

祥鳳、突然体が発光し、その光は強くなってゆく。

一瞬目が眩む程に光ったかと思うと発光が止み、いつの間にか彼女の服装が艦娘の制服へと変化していた。

手にはどこから出て来たのか弓が握られ、背中には矢筒を背負っている。

海面を進む速さは先程とは比べ物にならない程速く、滑走している状態。

祥鳳、素早く矢を番え、天に向けて放つ。

空気を裂きながら矢は飛んで行き、光となる。

矢の中に封じ込められていた艦載機が実体化し、飛び立つ。

祥鳳、その動作が終わると左手を耳に当て、通信機能を使い鎮守府に連絡を取る。

 

 

〇鎮守府・司令室(昼)

 

 

提督、祥鳳から通信を受け、事情を説明されていた。

 

提督「そうか……しかしまさか、君に連絡しようとしていたタイミングで敵が現れようとは……!」

 

無線からの祥鳳の声「レーダーで進行方向を確認しましたが、このまま行けば約十分後には町への到達を許してしまうでしょう……。応援が来るまで私が時間を稼ぎます」

 

提督「分かった。第五鎮守府には私から応援を頼んでおく。くれぐれも無茶をするんじゃないぞ!」

 

祥鳳の声「了解……!」

 

 

〇海上(昼)

 

 

通信を終えた祥鳳。

偵察に向かわせた艦載機達から送られて来る映像を受信する。

 

 

〇艦載機からの映像

 

 

旗艦の戦艦タ級(Flagship)を中心とし、重巡リ級(Elite)一体、軽母ヌ級二体、駆逐ロ級二体の六体で構成された艦隊。

二体の軽母ヌ級が艦載機を射出。

敵艦載機、町へ向かって飛んで行く。

 

 

〇海上(昼)

 

 

祥鳳「(モノローグ)やっぱり町を狙ってる。編成から見て第四鎮守府の艦娘達が取り逃がした連中に違いない……!」

 

祥鳳、再び矢を番え、天に向けて狙いを定める。

 

祥鳳「攻撃隊……発艦始めッ!」

 

矢が放たれ実体化する艦載機。

今度は偵察ではない、目的は敵の進行を防ぐ事にある……!

 

祥鳳「(空を見ながら)来たわね……!」

 

 

〇同・上空(昼)

 

 

少し曇り始めた空に、無数の黒い点が浮かび上がる。

敵空母の放った艦載機が祥鳳のすぐそばにまで接近したのだ。

敵艦載機、祥鳳の艦載機へ攻撃を開始。

祥鳳も艦載機へ指示を出し、応戦させる。

灰色の空を背景に展開されるドッグファイト!

 

 

〇海上(昼)

 

 

祥鳳「向こうの練度も中々の物ね……でも!」

 

 

〇同・上空(昼)

 

 

祥鳳の指示によって零式艦戦21型が確実に敵機を仕留めてゆく。

弾がかすって少し傷付く者もあったが、一機も落ちる事は無い。

撃ち落とされた敵機、炎を上げながらボトボトと海面へ叩きつけられる。

空から次々と数を減らしてゆく黒い点。

 

 

〇船着き場(昼)

 

 

レポーター&カメラマン、船着き場へ走って来る。

レポーター、周囲を見回し誰も居ない事を確認。

停めてあった一台のクルーザーへ乗り込み、エンジンを掛けようとしている。

カメラマン、青ざめた表情でクルーザーに乗ったレポーターを見上げている。

 

カメラマン「やめましょうよ先輩、流石にこれは無茶ですって!非常時の盗みは重罪って言うじゃないっスかァ!」

 

レポーター「艦娘と深海棲艦の戦闘シーンを間近で撮れるチャンスなんて滅多にあるもんじゃねぇ!いいか、これはチャンスだ!リスクを冒さなきゃ勝利は得られねぇんだよ……!」

 

カメラマン「でっ、でも……」

 

レポーター、躊躇するカメラマンと中々掛からないエンジンに苛立つ。

諦めずエンジンを掛け続ける。

 

レポーター「くそっ、動けこのガラクタ!(カメラマンの方を向いて)お前にゃテレビマン魂ってモンがねぇのかッ!誰も見た事のねぇ、ド迫力のバトル映像……それをテレビの前のみんなが待ってるんだよ!それを届けられんのは、選ばれし存在である俺達テレビマンだけだッ!」

 

カメラマン「……」

 

レポーターの鬼気迫る説得。

それでも躊躇うカメラマン。

睨み合って動かない両者。

痺れを切らしたレポーター、カメラマンを鼻で嗤って舌打ちする。

 

レポーター「チッ、軟弱もんがよぉ……。嫌ならいいんだぜ?撮影くらい俺でも出来る。そのまま俺が出世する姿を、指くわえて見てるがいいさ!」

 

カメラマン、ムッとした表情。

溜め息を吐いて口を開く。

 

カメラマン「ぁ……あぁもう!行きますよ……行きゃ良いんでしょう……!」

 

歯ぎしりをして乱暴にクルーザーへ乗船するカメラマン。

それを横目で見て、にやりと笑うレポーター。

と同時にようやく掛かるエンジン。

 

レポーター「おっ……イケたぜ!よ~し、目指すは決戦の地……この特ダネは俺達の物だ!」

 

カメラマン「(ぶつぶつ呟き)大丈夫だ、そうだ、俺達には報道の義務がある……。何も悪くない……俺達は間違ってないんだ……」

 

出発しようとしたその時、今井が二人の乗るクルーザーに近づき声を掛ける。

 

今井「(大声で)あのっ……!」

 

男二人、今井の存在に気付く。

 

カメラマン「君は……さっきの……?」

 

今井「あのっ……私も乗せてって貰えませんか!」

 

必死に訴えかける今井。

レポーターとカメラマン、顔を見合わせる。

 

レポーター「あのね、俺達避難するんじゃなくて、これから深海棲艦の近くまで行こうとしてんの。大事な仕事の為にね」

 

カメラマン「そ、そうだよ……だから危ないよ?」

 

今井「分かってます……だから行きたいんです!(努めて明るく)私も見てみたいな、深海棲艦!」

 

今井の貼り付けたような笑顔。

それに対し訝し気な表情の男達。

 

カメラマン「で、でも――」

 

レポーター「(遮り)いいじゃん、その勇気気に入った!ただし、仕事の邪魔だけはしない事……いいね?」

 

爽やかなレポーター。

一瞬躊躇うも、笑顔で頷く今井。

 

レポーター「さ、早く乗りな!」

 

今井「……はいっ!」

 

今井、少々手こずりながらもクルーザーに飛び乗る。

それを確認し、クルーザーを発進させるレポーター。

 

レポーター「よぉ~しっ、出発!」

 

得意げに慣れた手つきで舵を切るレポーター。

乗り気じゃないカメラマン。

思い通りになったにも関わらず、何故か顔色の悪い今井。

 

今井「……」

 

クルーザーゆっくりと動き出し、徐々にスピードを上げて船着き場から遠ざかってゆく。

目指すは深海棲艦……そして、特ダネ――。

 

 

〇海上(昼)

 

 

祥鳳、空の様子を伺う。

 

祥鳳「だいぶ減った……けれど、問題は……!」

 

海上に目を落とし、数キロ先をじっと見据える祥鳳。

遠く離れた場所から、徐々に大きくなって来る六つの影。

敵艦隊、祥鳳へ向かって一直線に突っ込んで来る。

 

祥鳳「第二次攻撃隊、発艦始めッ!」

 

祥鳳、追加の艦載機を実体化させ休む事無く応戦する。

敵艦隊、射程圏内に入った祥鳳に向けて砲弾の雨を浴びせかける。

祥鳳、軽空母の機動力を活かして素早く砲撃を躱してゆく。

艦載機に指示を出し、敵艦隊に攻撃を仕掛けようとしたその時――。

 

戦艦タ級「……!」

 

タ級、不気味な笑みを浮かべたかと思うと、右腕を覆い隠している長いマントの中から無数の艦載機を放つ。

タ級の艦載機、迫り来る祥鳳の艦載機に応戦する。

祥鳳の艦載機、タ級の艦載機と闘うのに精いっぱいで、敵艦に攻撃を仕掛ける事が出来ない。

 

祥鳳「馬鹿な……タ級が艦載機を……!?」

 

一瞬驚く祥鳳。

が、驚く余裕さえ与える事無く敵艦隊は祥鳳に砲撃を加えて来る。

艦載機に頼れない今、己の力のみで海上の敵を相手にしなければならない。

 

祥鳳「なら……これでどう!」

 

祥鳳、サブウェポンの機銃を取り出し発砲。

軽母ヌ級の口部から発艦しようとした艦載機を撃ち抜き、他の発艦を待っていた艦載機達にも誘爆。

体内から爆発を起こした軽母ヌ級、頭部が丸ごと吹き飛んで絶命。

力無く海中へ沈む。

そしてもう一体の軽母ヌ級にも機銃は命中。

眼球に被弾し、失明する。

 

軽母ヌ級「ギャッ……!?」

 

軽母ヌ級、視力を失った事と激痛で、パニックになり暴れ狂う。

隣に居た重巡リ級と衝突しそうになるも、リ級がそれを回避。

 

重巡リ級「……ッ」

 

重巡リ級、苛立たし気に瞼をヒクつかせ、容赦なくヌ級に砲撃を加え粛清。

 

軽母ヌ級「イギャァアアアア!?」

 

断末魔の叫びと共に消え去る軽母ヌ級。

しかし、誰もヌ級の死を悼む事は無い。

深海棲艦に取って、戦えぬ同胞など邪魔者でしかないのだ。

 

重巡リ級「……ッ!」

 

重巡リ級、祥鳳目掛けて魚雷を発射。

海中を無数の線が走り抜ける。

祥鳳、それに気づき警戒する。

 

祥鳳「(モノローグ)でも、アレくらいなら全部避けられ――」

 

が、その時。突如として魚雷の本数が倍近くにまで膨れ上がった。

追加された魚雷の発生源……それはまたしてもあの戦艦タ級――!

 

祥鳳「……!?」

 

リ級の魚雷とタ級の魚雷、それぞれ時間差で祥鳳に向かって飛んで行く。

この本数を避け切るのは至難の業。

 

祥鳳「くッ……!」

 

祥鳳、臆す事無く回避行動に移る。

時に身を翻し、時に宙を舞い、艦娘の身体能力をフルに活かして魚雷を躱し続けてゆく。

避け切れない物には矢をぶつけて何とか凌ぐ。

 

祥鳳「(モノローグ)艦載機の次は魚雷……あのタ級、普通じゃない……!」

 

そんな時、防御で精一杯の祥鳳に迫り来る二つの敵影。

 

駆逐ロ級「キシャァアアアアアア!」

 

二体の駆逐ロ級、祥鳳の隙を突いて急接近。

軽空母の祥鳳に白兵戦は無理だと踏み、顎をバックリと開いて二体同時に飛び掛かる!

 

祥鳳「……ッ!」

 

その瞬間、祥鳳の弓が変形した。

丁度、姫反りの箇所から刃が『ジャコン!』と音を立てながら生え、そのまま薙刀の要領でロ級二体を一刀のもとに斬り伏せる。

時間差で切り口から青いしぶきが上がった。

 

駆逐ロ級×2「……!?」

 

どちらも急所を一撃。

ロ級達、一体何が起きたか分からぬまま絶命する。

祥鳳、その場から瞬時に離れると同時に、立っていた場所へ砲弾が降り注いだ。

沈みかけて居たロ級二体の死骸に流れ弾が命中。

燃料タンクに引火して大爆発を起こす。

残すは旗艦タ級と、重巡リ級を残すのみ。

だが……。

 

祥鳳「(モノローグ)妙ね……敵の数は確実に減っているのに……」

 

味方を四体失ったにも関わらず、落ち着き払った状態の敵艦二体。

無表情で眼球を黄色く発光させる重巡リ級。

落ち着くどころか、微笑すら浮かべている戦艦タ級。

 

祥鳳「(モノローグ)私が遊ばれてるとでもいうの……?」

 

祥鳳の艦載機、尚も敵機に阻まれてタ級達に攻撃を加える事が出来ない。

機銃のみで応戦するしか無い祥鳳。

そんな彼女へ戦艦タ級、重巡リ級は容赦無く砲撃を見舞う。

一杯一杯な祥鳳に対し、タ級、リ級は余裕綽綽。

時折敵の攻撃がかすり、小破状態となる祥鳳。

ジリ貧状態――。

 

祥鳳「(モノローグ)まずい、このままじゃ……!」

 

戦いながら考える。

この場をどう切り抜けるか――。

 

祥鳳「(モノローグ)艦載機は皆、敵機と交戦中で手が離せない。敵に接近する余裕は無いから白兵戦は無理……この機銃も決定打には欠ける……艦載機の入っていない予備の矢はあるけれど、二体の装甲をぶち抜くのはまず不可能……。打つ手は――」

 

万事休すか……?

 

祥鳳「いいや、手段が無いなら作れば良い……私は“この手”で行くッ!」

 

水面を滑走する祥鳳。

機銃で応戦し、砲撃を躱しながら突き進む。

目指すは艦載機同士がドッグファイトを続ける空の真下。

 

祥鳳「(モノローグ)忙しいところ悪いけど、手を貸して頂戴……難しい事はしなくて良い。私の欲しい物を落としてくれるだけで十分――!」

 

忙しなく飛び回る、無数の冷たい鋼の翼。

その中の二機が、敵機と戦いながらもほぼ同時のタイミングで爆弾を真下に投下する。

狙いは己の主人である祥鳳……黒い塊が重力に引っ張られ、真っ直ぐターゲットへ降下。

このまま行けば親殺しも良い所だが――。

 

祥鳳「(思い切りしゃがみ)……ッ!」

 

祥鳳、あらん限りの筋力を使い、水面に向けて力を入れながら足をバネのようにピンと伸ばす。

 

祥鳳「たぁあああああああッッ!!」

 

宙へ舞い上がる祥鳳。

敵の弾を回避しながら迫り来る爆弾へ両手を伸ばす。

 

祥鳳「(モノローグ)無茶は承知……。でも、時々馬鹿やらなきゃこの仕事やってらんないのよッ……!」

 

祥鳳と爆弾、空中で接触。

上手く衝撃を逃がしながら、二個の爆弾を両手でキャッチ!

と、同時に感じる体の落下……空中では体の制御が

効かず、恰好の的となってしまう。

戦艦タ級、重巡リ級、それを見逃す筈も無く砲口を祥鳳へと向けた。

 

祥鳳「(歯を食いしばる)……ッ!!」

 

祥鳳からの目線、スローモーションで時が流れる。

戦闘中における一瞬……それは雌雄を決する永遠の瞬間(とき)――。

背中の矢筒から流れるように矢を二本取り出す。

矢が艦載機をエネルギー体に変換・収納する能力を利用し、手にした爆弾を矢の中へ封じ込める。

そのまま矢を二本同時に番え、落下しながら敵艦の主砲へ狙いを定めた。

 

祥鳳「……!」

 

カッと見開かれた眼がターゲットを捉えた時、矢は放たれた。

飛び出した二本の矢、猛禽類の叫びが如き風切り音を上げ、獲物目掛けて突進する。

重巡リ級、驚愕の表情。

 

重巡リ級「……!?」

 

タ級とリ級が砲撃するよりもほんの一瞬だけ素早く、矢がそれぞれ砲口を通じて内部に入り込む。

一秒のタイムラグ……。

その後、二体の主砲が内部から大爆発を起こす!

広がる爆炎!弾ける血肉!

早打ち勝負は軽空母祥鳳に軍配が上がった。

まさにそれは、必殺の0.1秒……!

 

祥鳳「……!」

 

祥鳳、海面に降り立ち爆煙の方向をじっと睨む。

徐々に晴れてゆく煙……。

 

重巡リ級「……」

 

戦艦タ級「……」

 

重巡リ級、上半身が丸ごと吹き飛び下半身のみで直立不動。

それに対しタ級、主砲を失いながらも生きている。

 

祥鳳「仕留め損ねたッ……!」

 

主砲は壊れた。

しかし、タ級の艦載機達は未だ健在。

魚雷を発射する能力もまだ残っているかも知れない。

祥鳳、苦虫を噛み潰したかのような表情。

 

戦艦タ級「……」

 

無表情の戦艦タ級。

しかし、徐々に口角が吊り上がり、再びあのいやらしい笑みが浮かぶ。

そしてマントを広げ、隠されていた右手が、ついにその姿を現した。

それを見た祥鳳、息を飲んで目を見開く。

 

祥鳳「……ッ!」

 

 

〇鎮守府(昼)

 

 

提督、第五鎮守府と連絡を取る。

眉間に皺が寄り、険しい表情。

 

提督「それでは、どうやっても到着には一時間以上掛かると……いや、しかし――」

 

ブツリと切られる電話。

提督、目を閉じ、溜め息交じりに受話器を置く。

隣に居た秘書官も顔色が良くない。

 

秘書艦「提督……!」

 

提督「ダメだ……第五鎮守府は戦える艦娘達が皆、別件で出払ってしまっているらしい……到着するのに時間が掛かりすぎる」

 

秘書艦「そんな……!」

 

提督「隼鷹くん達に向かわせているとは言え、果たして間に合うか……」

 

重苦しい空気が司令室に流れる。

これ以上出来る事が無い。

提督、拳で額を叩きながら、後は部下達を信じるしか無い――。

 

提督「(モノローグ)頼む、間に合ってくれ――!」

 

 

〇海上(昼)

 

 

ベールを脱ぎ捨てた戦艦タ級の右腕。

それは、通常種のタ級が持つ右腕とは全く異なる形状をしていた。

腕の付け根から、まるで大蛇の様に伸びる『戦艦レ級の尻尾』――。

サイズはレ級の物より一回り小さいが、サイズ以外はオリジナルの物と遜色ない、禍々しい形状をしている。

 

祥鳳「なるほど、アレが手品の正体って訳ね……!」

 

敵はまだ本気を出していなかった……。

祥鳳、口惜しそうに弓をギリギリと握りしめる。

 

祥鳳「(モノローグ)聞いた事がある……深海棲艦は傷を素早く治したい時、仲間の肉を喰らう場合がある。そしてごく稀に、喰った相手の体や能力を一部コピーした状態で、肉体を再構築する事があるのだと――!」

 

これ見よがしに右腕を天高く振り上げる戦艦タ級。

タ級、見下すような視線を祥鳳へ送り続ける。

勝利を確信した絶対の自信。

 

祥鳳「(悔し気に)成る程、そのオモチャを使って私〝で〟遊びたいのね……」

 

戦力差をまざまざと見せつけられ、脳裏に『敗北』の文字が浮かび上がる。

祥鳳、相手を睨んだまま唇を噛み締める。

 

祥鳳「(モノローグ)勝てるか……いや、勝てるかどうかなんて問題じゃない。ここで私が退けば、町があの時の様に――!」

 

  ×  ×  ×

 

(フラッシュバック)

数年前、一度は廃墟と化した町。

両親の焼死体。

何も出来ず、打ちのめされる事しか出来なかった不甲斐ない自分。

そんな状態から町を必死に蘇らせようと、力強く生きて来た人々――。

 

  ×  ×  ×

 

祥鳳、神経質に右瞼をヒクつかせ、歯ぎしりをする。

 

祥鳳「冗談じゃない!ここは私達の町だ、もう誰にも荒させやしない――!」

 

激しい感情が体の奥から湧き上がる。

大事な物を汚されようとしている恐怖、そしてそれ以上の怒り――。

息を荒くし、ギョロッとした眼で相手を見据える。

だが、そんな状態であるにも関わらず、祥鳳の思考は不思議と冷静であった。

 

祥鳳「(冷たく抑揚の無い声)いいわ、遊んであげる。だからたっぷり遊びましょう。時間を掛けてね……?」

 

機銃を構え、相手を誘う。

戦艦タ級、お言葉に甘えてと言わんばかりに右腕を突き出し、主砲を祥鳳へ向ける。

これまで以上に苛烈な攻撃が祥鳳を襲う。

空中からは砲弾、海中からは魚雷が雨あられと降り注ぎ、祥鳳を追い詰める。

死に物狂いで攻撃を躱し続ける祥鳳、防戦一方だ。

 

祥鳳「(モノローグ)一発でも……一発でも当たったらおしまいだ……!」

 

更に上空の勝負も、徐々に押され始める。

 

 

〇同・上空(昼)

 

 

性能差を練度とテクニックでカバーしていた祥鳳の艦載機。

だが、燃料も弾薬も尽き、敵機に追い回される機体も増え始める。

遂に一機、尾翼を撃ち抜かれ墜落する物が出てしまう……。

それを皮切りに、徐々に数を減らしてゆく祥鳳の艦載機。

 

 

〇海上(昼)

 

 

祥鳳の艦載機を落とし、手の空いた敵艦載機達が祥鳳への攻撃に加わる。

タ級の砲撃、雷撃に加え敵艦載機の機銃が祥鳳に地獄を見せる。

 

祥鳳「ぐっ……!」

 

銃弾がかすり、傷付いてゆく祥鳳。

しかしそれでも目は死んでおらず、諦める事無く喰らい付いてゆく。

 

祥鳳「(モノローグ)そうだ、時間を稼げ……稼げ……応援が来てくれるまで……そこまで耐え抜けば私達の勝ち――」

 

その時、何処からともなく聞こえるエンジン音。

レポーターの操るクルーザーがこちらに接近する。

 

レポーター「ご覧ください!艦娘がボロボロになりながらも私達を守る為、深海棲艦に敢然と立ち向かっております!」

 

運転しながら、声を張り上げ解説するレポーター。

怯えながらカメラを回すカメラマン。

座席にしがみついている今井。

 

祥鳳「な……に……ッ!?」

 

呆気に取られる祥鳳。

戦艦タ級でさえ連中の奇行に驚き、一瞬手を止めた。

 

レポーター「どうですかっ!?こんなに近くでド迫力の映像を見れるのは、ウチの局だけです!」

 

解説を続けるレポーターの怒鳴り声が木霊する。

 

祥鳳「(青ざめ)何してるのよ、あの人たちッ……!?」

 

レポーターの暴走は止まらない。

クルーザー、祥鳳達の周りをグルグル旋回し戦場の風景をカメラに収めてゆく。

祥鳳、そのクルーザーに今井の姿を確認した。

 

祥鳳「今井さんまで……どうしてッ……!」

 

祥鳳、通信機能を使ってクルーザーに無線を送る。

クルーザー内のレポーター、通信に出る。

 

祥鳳「ここは危険です、すぐに立ち去ってください!」

 

レポーター「オウ、あの時のネェちゃん!あんた艦娘だったのか!まぁカッコよく撮ってやるから心配すんなって!」

 

必死に訴えかける祥鳳。

それに対し、場違いとも呼べる能天気なレポーター。

 

祥鳳「何を言ってるんです!死にたくなければ今すぐここから離れて!」

 

レポーター「てやんでぇ、危険は承知だっての!こちとら長い事この仕事やってんだ!リスクを冒さなきゃ撮れないスクープだってあるんだッ!」

 

祥鳳「ふざけないで下さい!自分達のやってる事が分かってるんですかッ!早く逃げなさいッ!」

 

レポーター「うるせぇッ!テレビマン魂を舐めんじゃねぇぞ小娘がッ!」

 

無線で飛び交う祥鳳の怒号。

それをものともせず、あくまでも撮影を続けようとするレポーター。

戦艦タ級、うっとおしそうに溜め息を吐き、主砲をクルーザーへ向けた。

 

戦艦タ級「……」

 

今井「(小声で)そう、そのまま撃って……」

 

体を小さく震わせながら、今井が呟く。

 

カメラマン「(今井の声を掻き消すように)ひぃいいいいいいっ!?」

 

祥鳳「チィッ……!」

 

祥鳳、全速力でクルーザーの元へ滑走。

その速さは島風のスピードに追い付く勢いだ。

 

祥鳳「さぁせるかぁあああああッ!!」

 

クルーザーと戦艦タ級の間に割って入る。

両手を広げ、『大』の字の体制でクルーザーの盾となる祥鳳。

 

祥鳳「……ッ!」

 

次の瞬間、タ級の主砲から放たれる砲弾。

激しい光と衝撃が祥鳳を包み込む。

 

祥鳳「ガァアアアアアアアアッッ!?」

 

戦艦レ級クラスの火力が、祥鳳の小さな体に襲い掛かる!

クルーザー、直撃は免れたものの余波によって吹き飛ばされる。

レポーター達の悲鳴が上がる。

 

 

〇同・上空(昼)

 

 

祥鳳がダメージを受けた事で、彼女が行っていた艦載機達へのコントロールが一時途絶える。

瞬く間に動きが鈍る祥鳳の艦載機。

その瞬間を突き、敵機達が一斉にとどめを刺しに掛かる。

全滅する祥鳳の艦載機。

 

 

〇海上(海)

 

 

艦載機の残骸が降り注ぐ海。

爆煙が晴れ、ボロボロの祥鳳が徐々に見えて来る。

服は破れ、全身血まみれ。

立っているのがやっとの状態。

 

祥鳳「……」

 

俯いたまま、立ち尽くす祥鳳。

クルーザーを守る体制は依然として崩れていなかったが、息も絶え絶えで膝が震えている。

最早、気力だけで繋ぎ留めている有様だ。

それを見て呆気に取られるレポーター達。

得意げに鼻で笑う戦艦タ級。

 

カメラマン「あ、あの人……俺達を守って……」

 

今井「ぁ……ぁぁ……」

 

心配そうなカメラマン。

今井、異次元の光景にすっかり怯え切っている。

レポーター、ヤレヤレといった雰囲気で鼻を鳴らす。

 

レポーター「ケッ、小娘が……余計なお世話――」

 

その時、通信で祥鳳の声がクルーザー内に届く。

 

祥鳳「(かすれ声)テレビマン魂が何よ……」

 

レポーター「……?」

 

祥鳳「仕事が何よ……スクープが何よ……冗談じゃない。テレビマンの前に、あなた達大人でしょうッ!?こんな危険な場所に子供を連れて来るなんて恥ずかしくないのッ!?」

 

祥鳳の激しい怒り。

レポーター、わずかに怯む。

 

祥鳳「私達は大人……大人なら、子供を護らなきゃ……人として、最低限のラインは守らなきゃ……。どんなに追い詰められていても、一線を越えないようしっかり踏み止まらなきゃッ……!」

 

カメラを下ろし、俯くカメラマン。

不服そうなレポーター。

 

祥鳳「お願いだからちゃんとして。私も命を懸けて艦娘としての務めを果たす……。だからこんな、命を粗末にするような事はもうやめて……!」

 

今井、はっとなる。

祥鳳の言葉が、自分に向けられているように感じた。

 

祥鳳「私が時間を稼ぎます……二人は、その子を安全な場所まで連れて行って……はやくッ……!」

 

レポーター「なんだお前!あのなぁ!」

 

反論しようとするレポーター。

その肩を、カメラマンの大きな手がガッチリと掴む。

 

カメラマン「逃げましょう、彼女の覚悟を無駄にしちゃダメです……!」

 

まっすぐレポーターの目を見るカメラマン。

レポーター、舌打ちをして肩に置かれた手を払いのけようとする。

 

レポーター「てめぇ!いつから俺に反抗出来る立場になりやがっ――」

 

それでもカメラマンの手は離れない。

レポーターの肩をしっかり掴み、踏み止まる。

カメラマンの気迫に押されるレポーター。

 

カメラマン「(語気を強め)逃げましょう、先輩……!」

 

レポーターを押しのけ、クルーザーのハンドルを奪い取る。

クルーザー、来た道を引き返してゆく。

祥鳳、背後に居たクルーザーの気配が遠のいてゆくのを感じ、ひとまず安心する。

 

戦艦タ級「(退屈そうに欠伸をする)」

 

タ級、『もう茶番は終わったか?』と言わんばかりに、大げさな溜め息を一つ。

タ級、主砲を逃げ行くクルーザーへ向ける。

祥鳳、機銃を発砲し、タ級の注意を自身へ向ける。

 

祥鳳「よそ見しないでよ……まだ私は遊び足りないんだからさ……!」

 

体も艤装もボロボロ。

気丈に振舞うが、それも所詮は空元気……。

その姿を嘲笑う戦艦タ級。

素手で祥鳳にトドメを刺さんと、高速で急接近。

戦艦とは思えぬ相手の速度に驚く祥鳳。

 

祥鳳「……ッ!(即座にタ級へ発砲する)」

 

戦艦タ級、弾丸の雨を物ともせず突っ込んで来る。

祥鳳、弓から再び刃を出し接近戦に対応する。

が、タ級の右腕によって弓を粉々に噛み砕かれる。

 

祥鳳「……ッ!」

 

苦し紛れに機銃をゼロ距離で撃つも、傷一つ付けられない。

タ級、そのまま右腕の大顎で、祥鳳の胴体に喰い付いた。

 

祥鳳「グガッ……!?」

 

祥鳳、離れようともがくが大顎の力は緩まない。

それどころか、万力の如く祥鳳をギリギリを締め上げてゆく。

簡単に殺さぬよう、じっくりと――!

 

戦艦タ級「……」

 

タ級、子供が小さな虫をいたぶるかように、遊びを楽しむ。

祥鳳の胴に牙が喰い込み、地獄のような激痛が身体を駆け巡る!

 

祥鳳「ウッ……アッ……アガァァッ……!」

 

白目を剥き、弓なりになった状態で苦しみ悶える祥鳳。

 

 

〇緊急避難所(昼)

 

 

町の住人を収容し終えた地下に存在する避難所。

そこには花屋の夫妻の姿もあった。

周囲をキョロキョロと見回す二人。

 

店主「やっぱり恭子ちゃん、ここには来てないようだね……」

 

床に敷かれたシートの上に、座り込む店主。

 

店主の夫「(周囲を見ながら)そのようだな……もしかして、町を守るために戦いに行ったんじゃ――」

 

店主「そんな……だってあの子、今は休暇中なんだよ?武器だって持ってないみたいだったし……そんな子に戦えだなんて――!」

 

店主の夫「だとしたら、何故ここに居ないんだろう……避難所の場所はちゃんと分かってる筈だろうに」

 

不安がる夫妻。

店主、突然立ち上がる。

 

店主「私、あの子を探して来る……!」

 

店主、焦燥感から出入り口に向かって歩き出そうとする。

夫、店主の肩を掴んで制止する。

 

店主の夫「やめるんだ、我々は外に出る事を禁止されてるんだぞ!」

 

店主「でも、もしかしたらどこかで怪我して動けなくなっているかも……だとしたら静雄さんや由香ちゃんと同じ運命を辿るかも知れない……!」

 

ワナワナと震え、俯く店主。

言葉に詰まる夫。

 

店主の夫「大丈夫だ、警察も逃げ遅れた人が居ないか調べに行ってくれている。それに素人の我々が不用意に外へ出てみろ、最悪命を落とす事になる。そうなってしまえば、それこそあの子を悲しませる結果となるんだよ?」

 

店主「……(ゆっくり顔を上げる)」

 

店主の夫「大丈夫だ、あの子はそう簡単に参るような子じゃない。今はそう信じて待とう……な?」

 

店主の肩をさすりながら、必死に宥める夫。

店主、少し落ち着きを取り戻し、静かに頷く。

祥鳳の無事をただ祈る事しか出来ない二人。

 

店主「(モノローグ)恭子ちゃん、どうか無事で居てッ――!」

 

 

〇海上(昼)

 

 

ジワジワと戦艦タ級に痛めつけられる祥鳳。

上半身と下半身が泣き別れするのも時間の問題だ。

 

祥鳳「(モノローグ)クッ……こんな所で……ッ!」

 

体が軋み、吐血をする。

いよいよ肉体が限界を迎えようとしている。

 

祥鳳「ガ……ァァアア……アアア……ッッ!?」

 

最早これまで……。

そう思った時だった――。

上空から一機の戦闘機が急降下爆撃を行う。

投下された爆弾が、タ級の顔面にクリーンヒット。

爆発を起こす。

 

戦艦タ級「……ッ!?」

 

油断していた戦艦タ級、不意打ちに一瞬怯む。

同時に右腕の顎の力が緩み、祥鳳が解放される。

祥鳳、水面に落ちる。

タ級、すぐに体制を立て直すも、新たに急降下して来た戦闘機の攻撃を受ける。

翻弄されながら上空を見上げる。

 

 

〇同・上空(昼)

 

 

そこには、隼鷹が操る艦載機達が、タ級の艦載機に

襲い掛かっている光景が広がっていた。

祥鳳の艦載機との戦闘で燃料を消耗していた敵機が

徐々に追い詰められる。

 

 

〇海上(昼)

 

 

苛立たし気に爆煙を振り払う戦艦タ級。

その視線の先に、六つの影が浮かび上がる。

隼鷹率いる第三艦隊がようやく到着したのだ。

仲間達が祥鳳に向かって通信で呼び掛ける。

 

通信機からの隼鷹の声「祥鳳!生きてるんなら返事しな!死んでても応答しろォ!」

 

祥鳳、隼鷹の怒声に叩き起こされる。

遠のいていた意識が戻り、重たい瞼を開く。

 

祥鳳「(モノローグ)隼……鷹……?」

 

尚も朦朧とする意識の中、通信に耳を傾ける。

 

通信機からの漣の声「姉貴!眠るにはまだ早い時間帯ですよッ!」

 

他のメンバーも口々に祥鳳の安否を気遣う言葉を投げかける。

 

祥鳳「(モノローグ)夢じゃない……来てくれた――!」

 

一気に意識が覚醒する祥鳳。

戦艦タ級から距離を取る為、這って移動を始める。

 

漣「それじゃ隼鷹先輩、敵の御守りは任せましたよ!」

 

隼鷹「よし、引き受けた!」

 

隼鷹と他四人の艦娘達が敵の注意を逸らす。

その隙に漣が弾幕を掻い潜りながら、素早く祥鳳のもとへ駆けつける。

 

漣「姉貴、お迎えに上がりましたよ!」

 

祥鳳を担ぎ、速やかにその場から離れる。

戦艦タ級、逃がすまいと漣と祥鳳へ魚雷を発射。

それに気付いた漣、滑走しながらグルっとタ級へ振り返り、高速で後退する状態になる。

 

漣「ざけんじゃねぇよオイ!誰が感動の救出劇に水差して良いつったオイオラァ!(魚雷を発射)」

 

漣の魚雷、タ級の魚雷を次々と相殺。

撃ち漏らした魚雷は主砲を使って一本残さず処理してゆく。

 

漣「(遠くに居るタ級へ)そんなんじゃ虫も殺せねぇぞお前」

 

漣、祥鳳と共に隼鷹達のもとへ戻ってゆく。

 

漣「お待たせ☆」

 

隼鷹「(艦載機を操作しながら)よし、上出来だよ漣。そのまま祥鳳を連れて安全な場所まで退避しな!」

 

漣「かしこまりッ!」

 

祥鳳「みんな……来てくれてありがとう……!」

 

隼鷹「祥鳳もよく頑張ったね。ここからはあたしらに任しときな!」

 

祥鳳「ええ……頼んだわ……でも気を付けて。あのタ級、レ級とほぼ同等の戦力を有しているの……!」

 

隼鷹「あぁ、見た所そのようだね。まったく、右腕からあんなぶっとい蛇さん生やしちゃってからに……。けど安心しな、あんなキメラなんかにアンタの町をやらせはしないよ……!」

 

隼鷹、ニッと笑ってサムズアップ。

その様子に、頬が微かに緩む祥鳳。

 

祥鳳「必ずまた後で……会いましょう……!」

 

隼鷹達、静かに頷く。

 

漣「さ、姉貴。行きましょう……!」

 

漣、祥鳳を連れてその場を離れる。

 

隼鷹「よし、行ったようだね……さあ、そろそろ大掃除を始めようかッ!」

 

 

〇同・上空(昼)

 

 

隼鷹の艦載機、弱体化した敵機へ一気に襲い掛かる。

全滅してゆくタ級の艦載機達……。

 

 

〇海上(昼)

 

 

海上の艦娘達、戦艦タ級に総攻撃を掛ける。

次々とタ級に命中する砲弾。

しかしタ級、ダメージを殆ど受ける事無く、右腕の主砲と魚雷で反撃する。

練度の高い隼鷹は攻撃を上手く回避するが、他の艦娘達は攻撃がかすって小破、中破する者が出る。

 

隼鷹「くそッ!」

 

隼鷹、艦載機を使ってタ級に急降下爆撃を繰り返す。

しかし、レ級の能力を得た戦艦タ級はうっとおしがるだけで、その装甲が破られる事は無い。

 

艦娘A「なんて固さなの……!」

 

艦娘B「これだけ喰らわせれば、いい加減大破状態になったっていいのに……!」

 

艦娘C「チィッ……隼鷹さんの攻撃でもダメだなんて!」

 

必死に戦う艦娘に対し、余裕の表情を崩さない戦艦タ級。

その表情が余計に艦娘達を焦らせる。

 

艦娘D「余裕かましやがって……二軍、三軍の私達じゃ相手にならないってか!?」

 

艦娘A・B・C・D、四人とも弱気になり始める。

隼鷹、それを感じ取り、焦りながらも打開策を必死で考える。

 

隼鷹「(モノローグ)どうすれば、どうすればあの厚い装甲をぶち抜ける……?どこかに奴の弱みさえあれば……!」

 

 

〇同・少し離れた地点(昼)

 

 

漣、祥鳳を抱えたまま安全な場所まで移動を完了。

 

祥鳳「ありがとう、ここまで来ればもう大丈夫よ……」

 

漣から離れ、ふらつきながらも一人で立つ祥鳳。

 

漣「まだ町まで距離がありますよ、一人で退避するのはキツいんじゃありませんかい?」

 

祥鳳「平気……私の事は良いから、みんなの所へ行ってあげて……」」

 

通信機を通して仲間達の状況が聞こえて来る。

 

漣「確かに、この様子だと今すぐ加勢に行った方が良さそうですな……」

 

漣、眉間にしわを寄せ、頷く。

 

祥鳳「皆の事、お願いね……?」

 

漣「了解です、姉貴の頼みとあらば……それじゃ、また後で!」

 

祥鳳「ええ、きっと――!」

 

祥鳳を残し、高速で戻ってゆく漣。

祥鳳、不安げにそれを見送る。

 

祥鳳「(小声で)奴の弱点さえ見つける事が出来れば……」

 

祥鳳、先程のタ級との戦闘を思い出す。

 

  ×  ×  ×

 

(フラッシュバック)

戦艦タ級の右腕から生えた、レ級の尾。

しかしその大蛇は、レ級が持つ物よりも一回り小さいサイズ。

その強力な右腕の力を見せつけるかのように、ジワジワと攻撃して来る。

子供が新しい玩具の性能を試すかのような、遊び半分の戦闘スタイル――。

 

  ×  ×  ×

 

祥鳳「(モノローグ)あのタ級の戦い方……今思えばFlagship級とは思えない程に遊び過ぎている。性能の低い私を相手にしていた事を考えても、あの慢心ぶりは異常だ。まるで、自分の新しいオモチャの性能を試しているかのような戦い方――」

 

その時、何かに気付きハッとなる。

すぐさま通信機を使って隼鷹達に連絡を入れる。

 

 

〇同・隼鷹達の居る地点(昼)

 

 

第三艦隊、未だ戦艦タ級に効果的なダメージを与えられずに居る。

苛立ち、歯を食いしばる隼鷹……。

 

隼鷹「くそっ、どうすれば……ッ!」

 

そこに、祥鳳の通信が入って来る。

隼鷹、通信に出る。

 

通信機からの祥鳳の声「(大声で)隼鷹聞こえる!?敵の弱点は右腕の付け根かも知れないッ!」

 

祥鳳の大声に耳がキーンとなり、顔をしかめる隼鷹。

 

隼鷹「イッ、いきなりなんだい……で、腕が何だって?」

 

通信機からの祥鳳の声「タ級の右腕の付け根を集中的に攻撃すれば、無力化させられるかも……。確証は無いけれど、可能性があるとすればそこしか無い!」

 

隼鷹「(一瞬考え)……わかったよ、根拠は後で聞く。今はアンタの閃きに賭けてみるよ……!」

 

通信を切り、仲間の艦娘達へ指示を出す。

 

隼鷹「みんな聞こえたかい、祥鳳のアイデアを採用だ!あたしが奴の右腕に攻撃を仕掛ける、援護を頼んだよッ!」

 

艦娘A・B・C・D「了解!」

 

艦娘A・B・C・D、撃って撃って撃ちまくる。

隼鷹、艦載機に指示を出し、戦艦タ級の右腕付け根に攻撃を仕掛ける。

 

隼鷹「さぁ、者共……かかれッ!」

 

一機の艦載機、上空からタ級へ一気に接近。

銃弾の雨を降らせ、そのまま回避。

他の艦載機達もそれに続き、ヒットアンドアウェイを繰り返す。

どの機体も、全く同じ箇所にピンポイントで射撃を続ける。

まさに針に糸を通すような作業……。

しかしそれでも、これと言った変化は見られない。

 

艦娘A「ダメ……効いてない……!」

 

艦娘B「チックショォ、固すぎんだろあのアマ!」

 

隼鷹の艦載機、攻撃の手を緩める事は無い。

ターゲットへ愚直に弾を撃ち込み続ける。

その間にも、タ級の対空射撃によって一機、また一機と艦載機は撃ち落とされてゆく。

隼鷹、苦虫を噛み潰したような顔。

 

隼鷹「(モノローグ)流石はFlagship級。射撃の精度は中々のモンだ……!あたしの艦載機が全滅するのが先か、奴の右腕に穴が開くのが先か……」

 

隼鷹、最後の式神を構え、空へ解き放つ。

 

隼鷹「さあ、最後の勝負だッ……!」

 

式神から実体化した艦載機、タ級へ攻撃を加える。

何度でも、何度でも、何度でも撃ち続ける!

 

隼鷹「……ッ」

 

戦艦タ級、艦載機を無力化しようと、司令塔である隼鷹に狙いを定める。

 

戦艦タ級「……?」

 

が、何故か主砲が作動しない。

よく見ると、攻撃し続けて来た箇所にヒビが入っている。

 

戦艦タ級「……!?」

 

もう一度砲弾を放とうとするが、やはり弾が出ない。

動揺を隠せないタ級。

それを隼鷹は見逃さなかった。

 

隼鷹「(指を鳴らし)ビンゴッ!大当たりだよ祥鳳……後でキスしてやる!」

 

隼鷹、休む事無く艦載機に急降下爆撃の指示を送る。

ヒビの入った戦艦タ級の右腕に、爆弾が降り注ぐ。

 

戦艦タ級「……ッ!!」

 

ペースを乱され、怒り狂う戦艦タ級。

怒りに任せ、ありったけの魚雷を発射。

 

漣「そうはいかんざき!」

 

  そこへ、戻って来た漣が隼鷹達と合流する。

 

漣「よし、じゃあブチ込んでやろうぜ!」

 

艦娘A・B・C・D「……ッ!」

 

漣の合図と同時に、五人一斉に魚雷を発射する。

士気が上がった事により、一人一人狙いの制度が上がる。

タ級の放った魚雷、大半が相殺されてしまった。

残った魚雷も、第三艦隊に命中する事無く悉く躱される。

……と思いきや、大破状態の艦娘Dに一本の魚雷が迫る……!

 

艦娘D「しまっ――!」

 

魚雷、艦娘Dに命中――

 

漣「と思っていたのか!」

 

漣、艦娘Dを庇って被弾。

クリティカルヒットし、大破状態となる。

 

漣「グガァッ……!?」

 

艦娘D「漣さんッ……!?」

 

動揺し、攻撃の手が緩む艦娘D。

漣、ボロボロの状態で爆煙の中から飛び出し、怯む事無く攻撃を続ける。

 

漣「(艦娘Dへ)止まるんじゃない、バーサーカーのように戦い続けるんだッ!」

 

艦娘D「ぅ……ウッス!」

 

砲撃を続ける漣達。

銃弾と爆弾の雨を降らせる隼鷹の艦載機。

いつの間にか立場が逆転し、戦艦タ級が追い詰められる。

 

戦艦タ級「……ッ!」

 

タ級、それでも諦めない。

己の力の象徴である右腕を突き出し、砲撃を試みる。

しかし主砲、うんともすんとも言わない。

その時、一発の爆弾が右腕に落ち、爆発する。

付け根の罅が広がり、青い血がドクドクと流れ出る。

ダメージはゆっくりだが、確実に蓄積されていたのだ……!

 

戦艦タ級「……!?」

 

タ級、己が置かれている状況にようやく気付く。

『そんな馬鹿な……』といった、驚愕の表情。

癇癪を起し、左手でガンガンと右腕を殴り付ける。

歯を食いしばり、残った攻撃手段である魚雷を放とうとしたその時――。

戦艦タ級の右腕を中心として、凄まじい光と爆音が炸裂。

閃光に目が眩む艦娘達。

光が消えた次の瞬間、タ級の首が宙を舞っていた。

 

戦艦タ級「……?」

 

タ級、状況が呑み込めず放心状態。

海面に倒れ伏す己の体をボーっと眺めている。

スローモーションで流れる光景。

 

漣「あっ……!」

 

隼鷹「……!」

 

タ級の首、そのまま海面に叩きつけられ、気泡を立てて沈んでゆく。

敗北を認識する事さえ出来ぬまま、絶命する戦艦タ級。

体の方もいつの間にか海中に消えていた。

その光景を、じっと見守る艦娘達。

漣、息を止めて見守る。

 

艦娘A「やった……の?」

 

艦娘B「そうらしい、もう反応が無い」

 

艦娘C「何だかよく分かんないけど……助かったんだね、私達……」

 

艦娘D「はぁ……(その場に座り込む)」

 

艦娘達、一気に緊張が解ける。

隼鷹、鎮守府の提督に連絡を入れる。

 

隼鷹「こちら第三艦隊、たった今大掃除を完了しました……ええ、全員無事です――」

 

漣、それまで止めていた息をゆっくりと吐き出す。

空は少しずつ晴れ始め、雲の隙間から日差しが差し込んでいた。

 

 

〇数分後・船着き場(夕方)

 

 

空が橙色に変わり始めた頃――。

第三艦隊、船着き場へ上陸する。

そこには祥鳳が待っていた。

仲間の一人が、祥鳳に上着を貸して着せる。

 

隼鷹「祥鳳、傷は大丈夫かい……!」

 

祥鳳「ええ、私は大丈夫……。(隼鷹達を見回し)みんな無事で居てくれたのね……!」

 

隼鷹「ああ、全員バッチリ足は付いてるよ。敵も倒した事だし、取り敢えずはめでたしって事だね」

 

祥鳳「本当にありがとう、私の町を守ってくれて……!」

 

祥鳳、皆に向かって深々と頭を下げる。

 

隼鷹「(笑いながら)アンタがあらかじめ敵の数を減らしてくれてたから、思ったより仕事は楽だった……と言いたいところだけど、正直肝が冷えたよ。あの時アンタの閃きが無けりゃ、全員お空の上だった……こちらこそ礼を言うよ」

 

漣「そうですよ。この町は私達七人で守り抜いたんですからね」

 

隼鷹、漣の言葉に相槌を打ちながら、祥鳳の肩を優しく叩く。

祥鳳、頭を上げ、微笑む。

 

艦娘A「そう言えば祥鳳さん、どうして敵の弱点が右腕の付け根だって分かったんですか?」

 

隼鷹「そう、それだ。あたしも気になってたんだよ」

 

祥鳳「ええ……あのタ級、右腕が生えてからそこまで時間が経っていなかったんじゃないかと思ったの」

 

祥鳳、タ級との戦いを思い出しながら話を続ける。

 

祥鳳「タ級は明らかに手を抜いて戦ってた。本来なら私一人、一分もしないうちに葬り去る事が出来た筈……でも奴はそうする事なく、わざと私をジワジワといたぶってからから殺そうとしてたわ」

 

漣「舐めプとはゲスいですねぇ……」

 

祥鳳「そうね……歴戦の個体であるFlagship級なら、本来そんな馬鹿な事は絶対しない。経験豊富が故の余裕とも考えられるけど、それにしても不自然な程に遊び過ぎていたように感じたの」

 

隼鷹「そう言えばアイツ、やたらと自分の腕を見せびらかしてニタニタしてやがったな……」

 

祥鳳「そう、まるで新しい玩具を買い与えられた子供のようにね……だから思ったの、もしかすると彼女はあの力を手にして間もなかったから、あそこまで増長していたのではないか……ってね」

 

隼鷹「つまりこういう事かい……?あのタ級はレ級の死骸か何かを喰ってあの力を手にした……けどあの尻尾は生えてからまだ日が浅くて、体にまだ馴染んでいない。だから本体との接合が緩い状態だった――」

 

祥鳳「ええ、その接合部だけは他の部位に比べて装甲は薄くなっているとしたら、責めるならそこしか無いと思ったの。一か八かの懸けではあったけれど……」

 

漣「なるへそ。じゃあ私達は、奴がまだ完全体になっていなかった事で助かったって訳ですなぁ」

 

艦娘B「マジか……あんなに苦労して倒したのに中ボスレベルかよ……」

 

艦娘C「それじゃあ本物のレ級は、アレ以上に強いって訳かぁ……」

 

隼鷹「ま、今回の勝利に酔う事無く、これからも精進しろって事だね。上には上がウジャウジャ居るのさ――」

 

その時、遠くから祥鳳(恭子)を呼ぶ声が聞こえた。

 

店主「恭子ちゃん――!」

 

祥鳳、声がした方向へ振り返る。

こちらへ駆けて来る店主。

 

祥鳳「えっ……おばちゃん!?」

 

漣「知り合いですかい?」

 

祥鳳「ええ、前に話したお花屋さんの……!」

 

祥鳳、店主の居る方へ駆けてゆく。

 

祥鳳「どうしてここへ……?」

 

店主「警報が解除されたから、あなたを探しに来たの。海の近くに居るかも知れないと思って……それにしても酷い怪我じゃない、はやく治療しないと!」

 

祥鳳「あははっ、これくらいならまだ大丈夫ですよ。私、タフなんです!」

 

祥鳳、ガッツポーズで大丈夫だとアピールする。

しかし店主、それでも心配そうな表情。

 

祥鳳「鎮守府へ戻って治療すれば、すぐ治りますよ。だから心配しないで」

 

店主「そう……なの?それなら良いんだけど……とにかく、生きてくれていて何よりだよ」

 

祥鳳「町にも被害は出ていないようですし、言う事無しです」

 

店主「ありがとねぇ……あたしらの町を救ってくれて……本当に、ありがとう」

 

目に涙を浮かべながら、感謝の言葉を述べる店主。

祥鳳、照れくさそうに笑う。

 

祥鳳「私だけではここを守り切る事は出来ませんでした。仲間達の力があってこそですよ」

 

祥鳳、微笑みながら隼鷹達の方へ視線を向ける。

店主も隼鷹達の方を見る。

祥鳳同様、ボロボロな仲間達――。

 

店主「(深々とお辞儀する)」

 

それに対し隼鷹達、ピシッと敬礼する。

 

店主の夫「お~い、そこに居たのか~!」

 

今度は店主の夫が、カメラマンと今井を連れてやって来た。

 

店主「(手を振りながら)あんたぁ!恭子ちゃん無事だったよ……ん、その人達は?」

 

店主の夫「ああ、実はな――」

 

店主の夫、事情を話す――。

 

  ×  ×  ×

 

店主「それじゃあこの人達は、あんたのクルーザーを勝手に使って深海棲艦を撮影しに行ったって訳なのかい?」

 

店主の夫「(肩をすくめ)まあ、そう言う事だね……」

 

カメラマン、今井、周囲の人々に頭を下げる。

 

カメラマン「大変ご迷惑をお掛けしました……!」

 

今井「申し訳、ありませんでした……」

 

心からの謝罪。

隼鷹、やれやれといった感じで頬を掻く。

 

隼鷹「事情は大体わかった。しっかし、あたしらが到着するまでにそんな事があったとはねぇ……」

 

カメラマン「でも、この子は悪くないんです。俺が乗せたせいで巻き込まれたようなものですから……悪いのは俺なんです!」

 

祥鳳「それで、同乗していたもう一人は……?」

 

カメラマン「先輩は、その……一人で逃げて行きました……」

 

祥鳳「まぁ……」

 

漣「何だそれは、たまげたなぁ……」

 

店主の夫「(ため息交じりに)全く呆れたもんだ、この二人を置いて自分だけ逃げるだなんて……」

 

店主「やっぱり、その逃げた人に関しては警察に相談した方が良いかも知れないねぇ」

 

店主の夫「そうだな。それで、この二人に関しては……」

 

店主の夫、カメラマンと今井に視線を向ける。

身をすくめる二人。

 

店主の夫「逃げた人を警察に捕まえてもらうには、この二人の証言も必要になって来る訳だからな。どの道私と一緒に警察署まで行ってもらう必要はあるなぁ……」

 

カメラマン「はい……」

 

今井「……」

 

店主の夫「しかしまぁ、十分反省しているようだしな……二人は何とか厳重注意で済むように私から頼み込んでおくとしよう。クルーザーも無事に帰って来た事だしな」

 

カメラマン「もうこんな馬鹿な真似は絶対にしません。きちんと仕事も辞めます……!」

 

店主の夫「おっ、おいおい……何もそこまでしろとは言っとらんよ……」

 

カメラマン「(目を閉じ、首を横に振りながら)いいえ、こんな仕事を続けていたら俺、きっとまた同じ過ちを繰り返しちまいます……」

 

カメラマン、目を開き、相手の目をしっかり見据える。

 

カメラマン「上司や先輩の機嫌を取る為に、人として大事な事を失くして行くばかりの毎日……仕事だと自分に言い聞かせながらも、本当は心の奥で『これで良いのか』とずっと迷っていました……」

 

カメラマン、祥鳳に視線を移す。

 

カメラマン「けれど、そこの女性に言われてようやく気付けました。人として越えちゃいけない一線がある、大人としてしっかり踏み止まらないといけない……って。だから俺、自分なりにケジメを付けなくちゃいけないんです……!」

 

カメラマンの真剣な眼差し。

それを見て、祥鳳が『分かってくれたならそれで良い』と、優しく頷いた。

すると今度は、今井が気まずそうに祥鳳へ近付いて来た。

目を伏せ、祥鳳から預かっていた鞄を差し出す。

 

今井「あの……これを……」

 

祥鳳「(鞄を受け取り)あっ、そう言えば預かってもらってたんだっけ……。ありがとうございます、ちゃんと持ってくれていたんですね」

 

にこやかに対応する祥鳳。

対して表情の暗い今井。

 

今井「あの……」

 

祥鳳「……?」

 

今井、何か言いたげな様子。

しかし言い出す事が出来ず、口ごもったまま俯く。

二人の間に気まずい空気が流れる……。

 

祥鳳「……」

 

祥鳳、何を思ったか今井の手をそっと掴む。

突然の事に驚く今井。

 

祥鳳「隼鷹、この場はあなたに任せても良いかしら?」

 

隼鷹「ん、どうする気だい……?」

 

祥鳳「(今井の手を引き)ん~ちょっとね……この子とお散歩♪」

 

隼鷹「(何かを察し)まあ、よく分かんないけど好きにしな。第五鎮守府への引継ぎはこっちでやっとくから……あぁ、でも暗くなる前には戻るんだよ?」

 

祥鳳「ええ、ありがと。(今井の手を引き)それじゃ、行きましょうか!」

 

祥鳳、今井を連れて歩き出す。

 

今井「あっ、あの……」

 

今井、戸惑いながら祥鳳に引っ張られて行く。

 

 

〇少し離れた波止場(夕方)

 

 

祥鳳・今井、黙って歩く。

祥鳳が前を歩き、今井がそれに着いてゆく。

 

祥鳳「……」

 

今井「……」

 

波の音だけが聞こえる静かな場所。

今井、居心地悪そうに唇を噛み締める。

そんな状況の中、不意に立ち止まる祥鳳。

今井、ビクッと固まる。

祥鳳、振り返る事無く、今井に背を向けたまま話し掛ける。

 

祥鳳「今井さん、まだ下のお名前を聞いていませんでしたね……今更ですけど、教えて頂けますか?」

 

いきなり聞かれ、目を丸くして固まる今井。

二、三秒間を置いてから、重い口を開く。

 

今井「マナ……愛美(マナミ)……です……」

 

祥鳳「愛美さん……良いお名前ですね」

 

祥鳳、振り向いて愛美の方を見る。

傷だらけの顔は、どこか悲しそうだ。

 

祥鳳「私、あなたに謝らなければならない事が二つあり

  ます」

 

今井「えっ……?」

 

祥鳳「一つ目は、何も知らないフリをしてあなたに近付いた事。さっき愛美さんが言っていたように、本当は知っていたんです。あなたが崖から飛び降りようとしていた事……」

 

今井「……」

 

祥鳳「そんなあなたを放っておけず、気分転換させようと無理やり色々な場所へ連れ回した訳ですが……完全に私の思い上がりでした。逆に辛い思いをさせてしまいましたね……」

 

今井「……」

 

祥鳳「それともう一つ。これは私が直接関わった事では無いのかも知れない……けれど、艦娘を代表して言わせて下さい。あなたのご家族を守る事が出来なくて本当にごめんなさい――!」

 

祥鳳、深々と頭を下げる。

その姿に驚き、動揺しながら祥鳳を見下ろす。

 

祥鳳「謝った所であなたの家族が生き返る訳じゃない。でも今の私には、こうする事しか出来ないから……」

 

尚も頭を下げ続ける祥鳳。

今井、歯を食いしばって目をつむり、その場に跪いた。

 

今井「あ……謝るのは私の方です。飛鳥さんは何も悪くないのに八つ当たりして、元気づけようとしてくれていたあなたを石で殴った……。化け物呼ばわりもした……ごめん……なさい……本当に――。」

 

頭を抱えて蹲る今井。

今度は祥鳳の方が驚き、今井を見下ろしている。

 

今井「こんなだから駄目なんだ……人の優しさを踏みにじって……だから見放されるんだ――」

 

  ×  ×  ×

 

(フラッシュバック)

家族が居なくなってからのみじめな生活が、今井の脳裏を駆け巡る……。

今井を引き取り、最初は優しくしてくれた親戚。

しかし暗いままの彼女を、親戚たちは徐々に疎ましく感じ、関係は冷え切ってゆく――。

転校先の学校でも同じ事。

心を開くのが難しい今井に周囲は反感を持つようになり、いじめが始まる。

家にも学校にも、居場所が無くなる今井――。

 

  ×  ×  ×

 

肩を震わせ、地面に拳を叩きつける今井。

自分の不甲斐無さに絶望する。

 

今井「飛鳥さん、海で『命を粗末にするな』って言ってくれた……。でも、やっぱり無理……何をやってもダメ……もう全部……全部“終わり”にしたい――」

 

生きる気力が失われてゆく……。

祥鳳、どう声を掛けて良いか分からず、唇を噛み締める。

 

祥鳳「……(暫く考え込む)」

 

が、何かを決心したような様子で今井に近付き、静かにしゃがむと、今井の背中にそっと手を置く。

今井、触れられて微かにビクッと体が跳ねる。

 

祥鳳「私も昔ね……死にたかったんだ……」

 

今井「……?」

 

祥鳳、一呼吸置いてから話を続ける。

 

祥鳳「数年前この町が深海棲艦に襲われた時、親が二人とも死んじゃってね……その時、丁度町を出ていた私だけが生き残ったの。大学から急いで帰って来たら、家も両親も、みんな焼けちゃってた……」

 

今井「……」

 

祥鳳「祖父母は大分前に亡くなっていたし、親戚も深海棲艦騒ぎで余裕の無い状態で頼れなくて……居場所を失くした私は一人で生きて行くしか無かった――」

 

いつの間にか、遠くの物陰から花屋の夫妻が祥鳳の話を聞いていた。

 

店主「……」

 

店主の夫「……」

 

それを知ってか知らずか、尚も話し続ける祥鳳。

 

祥鳳「そんな時、私に艦娘としての適正がある事を知った軍人さん達から『艦娘になってお国の為に働け~』って、ほぼ強制的に連れてかれちゃってね……それで体を色々いじくり回されて、艦娘の『祥鳳』として生まれ変わったの。行く当ても無かったし、あの時は従う以外選択肢は残されていなかった。それに艦娘って、死と隣り合わせのお仕事でしょう?そのまま戦って死んじゃうのも良いかな~って、半分ヤケクソになって自分から戦う道を選んでた――」

 

自嘲気味に笑う祥鳳。

今井、いつの間にか顔を上げ、祥鳳の方を向いて話を聞いている。

 

祥鳳「最初は『死んで救われたい』みたいな事を考えながら戦ってた……けれど艦娘やってるとね、嫌でも人の死を沢山見る事になるの。戦闘中敵に討たれた味方や、助ける事が出来なかった民間人……小さい子供であっても容赦ない、みんな血祭りに上げられて行く。そして残された人達は理不尽な現実に打ちのめされ、己の無力感を呪う事しか出来ない……そんな光景を見てようやく気付けた。死が救いなんてまやかし、結局は苦しくて怖い事に変わりは無いんだって……」

 

祥鳳、すっくと立ちあがり、橙色に染まった海の方を向く。

 

祥鳳「そこで決めたの。生きて戦い続ける事で、死という名の最悪な“運命”に絶望する人間を一人でも減らしてやろう……私の両親を奪ったその“運命”って奴に復讐してやろう……ってね。それが、私の死ねなくなった理由――」

 

話が終わり、再び沈黙――。

その沈黙を、今度は今井が破る。

 

今井「……私には、無理です。飛鳥さんのように強くなるなんて……私には出来ない……」

 

祥鳳「今は、それで良いんだと思う……。無理に自分の中にこびり付いた『死』を取り除く必要なんて無いよ。他人からの“ありがたいお説教”程度で簡単に『ポジティブに生きるぞ!』ってなれるなら、私も艦娘になんてならなかったもの……」

 

今井「私は……一体どうすれば……飛鳥さんや色んな人を傷つけて来た私には、生きる資格なんて無い……でも、死ぬのは怖い……どうすれば……」

 

今井、すっかり弱り切っている。

祥鳳、再びしゃがみ今井の両肩に手を置く。

 

祥鳳「生きるか死ぬか、それを最終的に決めるのは自分自身……。けどこれだけは覚えておいて頂戴……どんな人間にだって、生まれて来た以上生きる権利があるって事を」

 

祥鳳、今井の頭をそっと撫でる。

慈愛に満ちた表情。

 

今井「(狼狽した様子で)なんで……なんでそんな事が言えるんですか。私はあなたを殺そうとしたのに……。そんなひどい奴、『死ね』って思うのが普通じゃないですか……『消えて無くなれ』って思われて当然じゃないですか……。なんで……分からないよ……」

 

祥鳳「確かに、キツい事を言われた時、平気だったと言えば嘘になる……。(苦笑しながら)腰の入った石パンチも中々効いたよ。でもね――」

 

今井「……?」

 

祥鳳、今井をそっと抱きしめる。

今井、何が起きたか分からず放心状態。

 

祥鳳「死んで欲しいなんて思わないよ、折角こうして出会えたのに……」

 

今井「……!」

 

今井、己が祥鳳に抱きしめられている事に気付く。

祥鳳、今井の後頭部を撫でながら語り掛ける。

 

祥鳳「色んな物を失くしちゃって、一度は自分の命も捨てちゃおうって思った私だから言える……。嫌だよ、今ここにこうして存在してるあなたが、消えて無くなってしまうしまうだなんて……」

 

今井「なんでなの……出会って数時間しか経ってない、どこの馬の骨とも分からないガキだよ……?どうなったって良いじゃん……私なんか……。死のうがどうなろうが、誰も困らないじゃん……!」

 

少女の悲痛な叫び――。

祥鳳がそれを受け止め、優しく包み込もうとする。

 

祥鳳「多分、あなたを昔の自分と重ね合わせているんだと思う……。だから分かるような気がするの、愛美さんの今の気持ち――」

 

今井「何がッ……何が……わかっ……」

 

言葉が詰まり、嗚咽が漏れる。

  

祥鳳「本当に死にたいと思ってる人間なんて居ないよ……私だって怖いもの。ただ、どうして良いか分からなくて、『生きる事が辛い』んだよね……?逃げ出したいのに何処にも逃げ場が無くて、苦しいんだよね……?」

 

祥鳳、撫でる手を休める事無く相手の心に寄り添う。

親が子を慈しむかのような、無償の優しさ――。

 

祥鳳「しんどいよね……心をすり減らしながら頑張って生きているのに、誰も褒めてくれない……。『辛いのはみんな一緒』って周りから蔑ろにされて……笑いたくない時も笑えって強要されて……本当、しんどくなっちゃうね――」

 

いつの間にか、撫でる動作が相手の背中を『トン……トン……』と一定のリズムで優しく叩く動作に変わる。今井の目に、ジワッと涙が滲んで来る……。

 

今井「ぅ……ぁ……ぁ……」

 

蓋をしていた心と目から、感情が溢れ出す。

ダムの決壊を、もう誰も止める事は出来ない――。

 

祥鳳「良いんだよ愛美ちゃん……あなたのせいじゃない、あなたのせいじゃないんだよ。私もあなたの事、全然怒ってなんか無いから……だから償おうだなんて、そんな事考えなくたって良いんだよ――」

 

泣き叫ぶ彼女に声が届いているか分からない。

しかしそれでも、祥鳳は今井に語り掛ける――。

 

店主「……」

 

店主の夫「……」

 

遠くから見守り続ける夫妻。

神妙な面持ちで祥鳳の声に耳を傾け、小さく頷いている。

 

  ×  ×  ×

 

暫く経ち、落ち着きを取り戻す今井。

人前で泣いた事に少し恥ずかしそうだ。

 

今井「あの……すみません、いきなり泣いたりして……」

 

祥鳳「いいのいいの。人生、たまにはワーッと大きな声出して、スッキリしなきゃやってられないよ」

 

今井「こんなにお世話になってしまって、何とお礼を言えば良いか……」

 

祥鳳「ふふっ……気にしなくて大丈夫。子供が大人に気を遣う必要なんて無いんですからね……?」

 

今井「……でも私、やっぱりまだ消す事が出来ないんです。『生きていたくない』って気持ち――」

 

目を伏せる今井。

祥鳳、少し考えると今井に“ある提案”をする事を思いつく。

 

祥鳳「ねえ愛美ちゃん、また私の我儘を聞いて貰いたいんだけど……いいかな?」

 

今井「……?」

 

祥鳳「さっき渡したスミレの種、まだ持ってる?」

 

今井「あっ、はい……鞄の中に……」

 

祥鳳「そっか……それじゃあね、その種を育ててみて欲しいの」

 

今井「(キョトンとした表情)お花を……?」

 

祥鳳「ええ。そして、そのお花が咲いたら私に見せてくれるかな?直接見せるのが難しかったら、写メとかで送ってくれても良いけd……あ、あの、写メってもう死語だっけ……?」

 

青ざめる祥鳳。

今井、申し訳なさそうに答える。

 

今井「その……もうあまり使わないですね……写メ……」

 

祥鳳「(頭を抱え)オ、オォゥ……ワタシ、モウ、オバサンアルカ……ウソダ……ウソダドンタコス……」

 

今井「(困惑気味に)あっ、それで……お花を育てるのは良いんですけど、でもどうして……?」

 

祥鳳「ん……ゴホン……それはね、愛美ちゃんが自分自身に、もう少しだけ時間を与えてあげて欲しいと思ったから――」

 

今井「時間……?」

 

祥鳳「(頷き)まだ色々迷っているのなら、せめて花が咲くまでの間……その時まで留まってみて欲しいの。この世界に……」

 

今井「……」

 

祥鳳「そんな短い期間で何が変わるのか、何が分かるのか……それは分からない。でも、やってみる価値はあると思うの。私もその日が来るまで、絶対に死なないから――」

 

祥鳳、今井の手を握り、しっかりと相手の目を見据える。

吸い込まれるようなまっすぐな瞳――。

 

祥鳳「だからもう少し付き合って貰えるかな?私の我儘に……」

 

今井、一瞬躊躇いながらも口を開く。

 

今井「(消え入りそうな声)私達……また、どこかで会えますか……?」

 

祥鳳「きっと会えるよ、私と愛美ちゃんが諦めない限り……ね?」

 

傷だらけの女が、ニッと少女に笑い掛ける。

夕日に照らされた笑顔は美しくも、どこか儚い。

戦場に身を置き、いつ消えてしまうか分からない命が見せる輝き――。

 

今井「……!」

 

その輝きに、少女は目を奪われていた。

 

祥鳳「そうそう……言い忘れていたけれど、スミレの花言葉ってね――」

 

~スミレの花言葉:『誠実』『謙虚』『小さな幸せ』~

 

 

〇鎮守府・執務室(朝)

 

 

あれから少し時間が経った。

提督と秘書艦、朝食を取りながらテレビを眺める。

 

 

〇テレビ内の映像

 

深海棲艦と戦う艦娘達を生放送で映している。

解説しているのは、カメラマンを置いて逃げた、あのレポーター。

 

テレビ内のレポーター「たった今、東京湾沖に出現した深海棲艦と艦娘達が戦っています!ご覧くださいこの迫力をッ!」

 

至近距離から戦場の風景を撮り続ける。

相変わらず、危険な撮影を続けているようだ。

爆音が響く中、臆する事無く喋り続けるレポーター。

 

 

〇執務室(朝)

 

 

提督「これは、祥鳳くん達が言っていた男じゃないか。確かこの前捕まった筈じゃ……」

 

秘書艦「なんでもこの人、テレビ局の力を使ってほぼお咎め無しの状態で復帰したらしいんです。案の定、まったく反省していないですね……」

 

提督「オォゥ……」

 

秘書艦「前に放送した祥鳳さんの映像が受けた事に味を占めたようで、ネットで大炎上してもお構いなしにやってますよ。寧ろそれを狙って視聴率を稼ごうとしてるのではないかと言われています」

 

提督「(首を横に振りながら)炎上商法か、なんという愚かな事を……。元カメラマンだった青年の方は、自ら罪を償う道を選んだというのに――」

 

その時、テレビの画面が激しく揺れる。

 

 

〇テレビ内の映像

 

 

レポーター、カメラがブレた事に怒り、新人カメラマンを怒鳴りつける。

 

テレビ内のレポーター「テメェ!カメラブレてんじゃねぇか!ちゃんと撮れよな……ったく使えねぇ!」

 

新人カメラマンの声「ひっ、す、すみません……」

 

テレビ内のレポーター「ビビって震えんじゃねぇカス!その臆病は死ななきゃ治らねぇってのか、なぁオイッ!」

 

新人カメラマンの声「すすすっ、すみません……ちゃんとします!ちゃんとしますから……!」

 

必死に踏ん張る新人カメラマン。

何とかカメラのブレが止まる。

 

テレビ内のレポーター「チッ、一回首吊って死ねよカスがよぉ……ハァ、この前辞めた“アイツ”の方がまだマシだったぜ――」

 

レポーター、カメラが回っていた事を思い出し、営業スマイルに戻る。

 

テレビ内のレポーター「あっ、すみません!ちょ~っとカメラマンさんの調子が悪かったみたいで……。(艦娘達の方を見て)おぉっ!見て下さいアレを!魚雷を発射して……命中です!いやぁすごいっ――」

 

 

〇執務室(朝)

 

 

提督、そこでチャンネルを変え、別のニュース番組を映した。

 

提督「やれやれ、せっかくの朝飯がマズくなってしまうなぁ……」

 

秘書艦「彼らはこれからも、あんな事を続けて行くんでしょうか?」

 

提督「ああいうタイプの人間達は、一度痛い目を見ない限り止める事はないだろうね。悲しい事だが……」

 

世の中、全ての人々が己の過ちに気付けるという訳では無い。

何のお咎めも無く、強かに生きてゆく者も沢山存在するのだ。

最後に勝利するのは、器用に立ち回る事が出来る、要領の良い人間なのかも知れない――。

 

 

〇同・花壇(朝)

 

 

花壇の中で元気いっぱいに咲き誇るピンクのスミレ。

傷がすっかり回復した祥鳳、スミレの花に水をやる。

それを眺める隼鷹。

 

隼鷹「あの女の子……マナミちゃんって言ったっけか?元気してるかねぇ……」

 

祥鳳「うーん、どうかなぁ……」

 

水やりの手を止め、少し考え込む。

 

祥鳳「(ため息交じりに)……自分の気持ちに折り合いを付けて生きるのって、大の大人でも難しい事だから……」

 

隼鷹「まぁ確かに、そう簡単にポジティブ人間へチェンジ出来るワケ無いわなぁ……」

 

祥鳳「うん……それでも私は信じてみたいな。あの子の未来――」

 

遠くから聞こえる漣の声「おーい、姉貴~!」

 

祥鳳と隼鷹、漣の声に気付く。

駆け寄って来る漣。

右手には水色の封筒が握られている。

 

漣「やっぱりここに居たんすね。ほい、お手紙ですよ!」

 

祥鳳「あら、ありがとう。これはもしかして――!」

 

祥鳳、封筒を受け取ると差出人を確認する。

そこには、あの花屋の住所と店主の名前が記されていた。

祥鳳、表情が明るくなる。

 

隼鷹「もしかして、例の花屋さんかい?」

 

祥鳳「うん、そろそろ来るんじゃないかと思ってた!」

 

封筒の口を留めている葉っぱの形をしたシールを剥がし、中身を取り出す。

猫のイラストがプリントされた、可愛らしい絵柄の便箋。

 

店主の手紙「お元気にしてるかい!恭子ちゃんが咲かせてくれたスミレの写真、ちゃんと届きました。私達はこの町で今日も元気に暮らしています。カメラマンさんについてなのですが、あの後情状酌量の余地があるという事で、だいぶ罪が軽くなったようです。一日も早く立ち直って、まっとうな人間として歩いて行けるよう祈るばかりですね。ウチの新メンバーとしてやって来た愛美ちゃんの方はと言うと、あれからここでの生活にも慣れて来たようで、前より明るくなったような気がします。まだまだ時間が掛かるとは思いますが、いつかきっと、心から笑ってくれる日が来ると思います。恭子ちゃんも体に気を付けて、いつかまたウチに遊びに来てください。今度はケーキを用意して待ってます!!」

 

大きな文字で豪快に書かれた手紙。

相手側の近況を知り、ほっと安心する祥鳳。

 

祥鳳「よかった、元気そうで……。愛美ちゃんも上手くやってるみたいね」

 

隼鷹「花屋の二人も大したもんだねぇ、赤の他人を引き取って面倒見ちまうなんてさ……」

 

祥鳳「あの二人、ちょっと世話焼き過ぎる所があるけれど、本当に良い人達だから。愛美ちゃんも、それを分かってくれたみたいで……あっ――」

 

と、その時。封筒からもう一枚、紙がヒラヒラと落ちた。

それに気付いた隼鷹、紙を拾い上げる。

 

隼鷹「ん、なんか落ちた……ほぅ、こりゃ中々良い写真だねぇ」

 

隼鷹、拾った写真を祥鳳に手渡す。

祥鳳、受け取った写真を見て驚く。

 

祥鳳「あっ……!」

 

漣、祥鳳の背後に回って彼女の手に持った写真を覗き込む。

 

漣「ん、どれどれ……」

 

そこには、満面の笑みでピースサインをする花屋の夫妻。

そして二人に挟まれ、照れくさそうに笑う今井愛実の姿。

彼女の手に持った植木鉢には、ピンク色のスミレが咲いている。

祥鳳から貰った種を咲かせたのだ。

裏返すと、写真の裏にメッセージが掛かれている。

 

今井からのメッセージ「恭子さんから頂いた種が、立派に花を咲かせました。まだ迷い続ける毎日ですが、もう少しだけ生きてみようと思います。だから恭子さんも、生きて下さい――」

 

祥鳳「……(ふっと笑みがこぼれる)」

 

祥鳳、海の方へ目をやる。

穏やかで青い海。

海の向こうには大切な人達が暮らし、両親の眠る『あの町』がある。

祥鳳、嬉しそうに目を細める。

 

祥鳳「(モノローグ)きっとまた会えるよね……いつか、また――」

 

いつ果てるとも知れない深海棲艦と人類の戦い。

これから先、彼女達は果たして何を見るのか。

戦いの果てにどのような結末を辿るのか。

それを教えてくれるものは何処にも無い……。

しかし、彼女達は決して諦める事無く戦い続けるだろう。

護りたいものがある限り、護る力を持つ限り。

いつか海が、懐かしい静けさを取り戻すその日まで――。

 

~ピンクのスミレの花言葉:『愛』『希望』~

 

 

 

【END】




 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

 二期アニメが終了した時期から書き始めたのですが、文章構成力が無い事やモチベーションが途中低下した事で、このような短編に四ヶ月以上時間が掛かってしまいました。
 コンスタントに良質な作品を連載できる人達がいかに凄いか、改めて思い知らされました……。

 地の文が書けずに台本型式に逃げてしまった点や上手いストーリー展開が考えられなかった点が心残りではありますが、生まれて初めて話の終わりまで書き上げる事が出来た作品なので、私に取っては非常に意味のある物となりました。
 正直「また最後まで書けずに途中で投げ出すのではないか……」と内心ヒヤヒヤしていたので、最後まで作り上げる事が出来て本当によかった……。

 新しい作品を投稿するかどうかは分かりませんが、もしまた作品を投稿する事がありましたらその時も温かい目で見守って下されば幸いです。

 長くなってしまいましたが、いい加減この辺で終わりにしたいと思います。
 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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