「前衛、タンク役が必要です」
戦車は戦力確保のため、次の目的地へと向かっていた。
ツルギやヒナを相手取るには、真っ当な編成が必須条件だ。
現在のメンバーに不足しているタンク役で、色彩の影響を受けていない可能性があり、できれば戦力として期待できる人物。
アコの問いを受け、ハナコが思案する。
「と言ってもタンク役はほぼ2択ですね。どちらも影響を受けていない可能性がありますが……」
元からそうである者、分割思考に慣れている者、理性が尋常でなく強い者、正気でない者、そういった知識が皆無であるもの、欲求が皆無である者。あるいは、
「どんな前提であろうとまず壊す者――と言うと大げさですけれど。影響を受けていてもなんとかなりそうな方に心当たりがあります」
◇ ◇ ◇ ◇
「ようこそお越しくださいました。救護ですね」
救護騎士団に居たのは、堂々と起立するミネと、気絶し倒れ伏す救護騎士団のメンバーだった。
「あの……騎士団の皆さんはいったい……」
「救護しました。ハナエや他の皆さんには救護が必要そうでしたので」
ヒフミは倒れ伏すメンバーを心配そうに見つめ、アコはゲヘナでもかくやの凶行に目を丸くした。
「他校の内部事情に首を突っ込むのもアレですが……これは流石に、他にやり方があったのではないでしょうか?」
「ええ、確かに。軽度の拘束や空き教室への軟禁といった手は考えました」
「なら、どうして……」
「想像になりますが――これは嚮導者と同様に色彩が関わる案件なのでは? 影響を受け拘束すら引き千切るなどの想定外の事態を考え、気絶させるのが最善と考えたのですよ」
「なる……ほど……?」
仮にもトリニティでティーパーティーに比肩する地位を持った集団の長、確かな知性と戦略眼を備えている。それはそれとして結論が物騒でもある。
「それで、ええと、その……ミネ団長は、大丈夫なのでしょうか?」
「色彩の影響ですか。理性で多少は抵抗していますが、抑えきれるものではありませんね。しかし――重要なのは、原因を取り除くことなのです」
大盾を勢いよく床に叩きつけ、騎士団長は宣誓する。
「この滾りは全て、元凶の打倒にぶつければいいのです!」
◇ ◇ ◇ ◇
「中に誰も居ないのは確認しましたけど……本当に大丈夫ですか? 念のため近くに居なくていいですか?」
”大丈夫だよ。救護騎士団の部屋からでも、誰が通ったか分かるでしょ?”
「それはそうなのですが……」
救護騎士団で少し休憩している中、私はトイレに行きたくなってしまった。
しかし男性トイレが近くにないため、救護騎士団の部屋の先、突き当りの女子トイレを使わせてもらうことにしたのだ。
このトイレは廊下の突き当りにある。突き当りに非常階段はないため、ここに来るには救護騎士団の前を必ず通る。また、トイレの窓から侵入することも不可能だ。ここは上層階であるうえ、仮に窓まで来れたとしても人が通り抜けられる大きさではない。
つまり、誰にも気づかれずトイレに侵入する方法はない。絶対・確実・安全に、用を足すことができるのだ!
トイレの個室に入り、女子トイレで立ちションは気が引けるので、ズボンとパンツを下ろし便座に座る。
天井を見上げながら、ひと時の自由を楽しむ感覚と共に黄金の水流を解き放つ。
仕事も、日々の喧騒も、今回の騒動からも解放されたほんの数十秒、その余韻を楽しみつつ顔を下に戻すと――両ひざの間に、人の顔があった。
何者か? 決まっている。どうやっても侵入できないはずの場所に出現できる存在は、キヴォトス広しと言えど1名しか該当しない。
ああ、どうして彼女の存在を失念していたのだろう。肩につく程度の桃髪が揺れる。
天使のような笑顔を浮かべ、侵入者は語りかける。
「先生のここ、色々と悪いものが溜まっているみたいです……治してあげますね」