オールマイトが怪我してることをデクに明かしたくらいまでしか読んでない人間が、トガヒミコに憑依転生した
オールマイトに"みんなのヒーロー"を辞めて"トガヒミコだけのヒーロー"になってもらいたい
そんな感じ
私には前世の記憶がある。
昔の"私"はきっと幸せだった。
ぼんやりと顔が浮かぶ両親。人数は朧げな友達。それでも"私"はいつだって誰かと一緒に居た。今ならわかるけど、それはとっても幸せなこと。
そして今の私は違う。私のそばには誰もいない。
「この……化け物ォ!! アンタなんか産むんじゃなかった!!!」
この世界のお母さんは私が嫌い。だから家には帰れない。でも、お母さんは悪くないの。普通にできない私が悪いんだ。
「なんで他の子と仲良くできないの!? なんでいつも変なことばっかり言うの!? なんで……なんで人を傷付けてまで血を吸うの!? 我慢してよ!! どうして言うことが聞けないの!!! アンタなんか人間じゃない!!!!」
お母さんが怒るのは私が悪いから。ごめんなさい。
でも、私は化け物じゃない。
ほとんど覚えてないけど前世の記憶があって、そのせいでたまに頭が混乱しちゃうから他の子達に馴染めないけど。人の血を吸うために怪我させちゃうこともあるけど。
私は化け物なんかじゃない。それだけは認められない。だって私はただ血が吸いたいだけなの。
チゥチゥしたいの。理由なんてない。お母さんにどれだけやっちゃいけないって言われても、したいの。
「もう顔を見せないで……! 怖いのよ!!」
でも、お母さんから怖がられるのは嫌だな。
どうして私は他の皆と違って血を吸いたくなるんだろう。どうして私だけ違うんだろう。
寂しいな。つらいな。死んじゃおっかな。
「でも……でも、私はまだ死ねない。アナタのために生きなきゃ」
行く宛の無い私が辿り着いたのは、駅前の大きなビル。
その壁面には"彼"の勇姿が映し出されている。道に面した本屋の棚には彼が表紙を飾る雑誌が所狭しと並べられていて。私はその一つを手に取る。
オールマイト。私の大好きなヒーロー。
ほんとはすっごく酷い怪我をしてるのに、みんなのために頑張ってる人。私が微かに覚えている記憶の中でも、彼のボロボロの体は特に忘れられない。
前世の私はそうでもなかったけど、今の私ならあんなにボロボロな体を見せられたらときめかずにはいられない。
ここはきっとあの漫画の中の世界。それに気付いてからは、もう薄れてしまった前世の記憶を必死に呼び起こそうとしたけど、思い出せたのはオールマイトというヒーローがいて、大怪我を隠していることだけ。
あぁ、オールマイト。私は今もアナタのことばかり考えてる。
列車事故も。大規模森林火災も。地震だってアナタの敵じゃない。真のヒーロー。現実になったアナタは紙の上のアナタより輝いてる。
でも、それはオールマイトのほんとうの姿? ボロボロの体を隠してるみたいに、私みたいに人に言えないコトがあったりしない?
「……ほんとは滅茶苦茶に暴れたかったりしない?」
この世界には'"個性"がある。私の"変身"もその一つ。血を吸えばその人の姿に変身できる。身長も体重も血液型も、ぜーんぶ同じ。
でも個性には副作用がある。翼がある鳥が当たり前のように空を飛びたがるように。吸血で姿を変えられる私が血をチゥチゥしたくなるみたいに。
だから、すっごいパワーのオールマイトは実はヒーローなんかやりたくなくて、ほんとうは色んなものを壊したいって思ってたりして。
聞いてみたいな。会いたいな。でも、オールマイトが私のことを化け物って言うのは嫌だな。
「……あの漫画もっと読みたかったな」
そうしたらオールマイトのことももっとよく知れたのに。漫画が始まったばかりなのに私が死んじゃったから、全然彼のことがわからない。
知りたいな。雑誌には載ってない、テレビにも映らないほんとのアナタ。
好きなものは? 家族は大事にしてる? ヒーローって楽しい? 体、痛くない? つらくないの?
「……私って化け物?」
聞きたいこと、いっぱいあるんだ。
私がアナタのことを助けるから、お礼にいっぱい教えてね。惚れ惚れするくらいのボロボロの体じゃなくなっちゃうのは残念だけど、ぜーんぶ私が治してあげる。
「嫌われ者の私が、あの人の助けになれる。それってとっても素敵」
きっとこれが私が産まれた意味。
オールマイトはボロボロの体が本当に壊れるまで頑張っちゃう。でも私なら助けてあげられるの。私の個性があればオールマイトは助かる。
「だから……オールマイト。チゥチゥさせて? それで私がオールマイトになって、私の体をアナタにあげる。アナタの体の足りないパーツを私で全部埋めて……そしたらオールマイトの体は元通り」
ヒーローは完全復活。私はチゥチゥできるし、何より最高のヒーローの役に立てる。私が死ねばきっとお母さんも喜ぶ。とっても素敵。
あぁ、早く会いたいな。
「私が!! 来た!!!」
「オールマイトだ!!」
だから、その声が聞こえた時。私は居ても立っても居られなくなって、カバンから取り出した包丁をそのまま首に押し当てた。
血の匂い、好きだな。
「……オールマイト!! はやくきて!! 私があなたを治してあげる!!!」
その時の私はきっと酷い顔をしていた。
だってそう、私を止めようとする人たちはみんな私の顔を見て怖がっていた。でも良いの。他の誰に嫌われたって良い。あの人が来てくれたらそれで良い。
「私が呼ばれて来た!! 話なら聞こう!!! 自分を傷付けるのはやめるんだ!!!!」
ほら、来てくれた。
ねぇ、チゥチゥさせて? オールマイト。