「行くぞ。真昼」
「…(コクリ)」
俺は玄関の扉に手をかける。体を反転させると靴を履いている真昼がそこにいる。真昼の服装は俺の家で普段着ているようなものではなく学校指定の制服だ。
どうして俺たちがこのように一緒に登校しようとしているのかを知るには昨日まで遡らなければならない。
昨日の夜のこと。真昼に作ってもらった夕食にありつき、皿洗いまで終わらせてようやく落ち着いた…と言う時だった。
俺の横に座っていた真昼が俺の服の袖を引っ張っぱてきていたので何か用があるのか?と真昼へと視線を向けた。真昼は俺の目をじっと見つめ、どこかいつもより真剣な顔持ちだ。
俺はそこで真昼が次に俺に伝えようとすることがわかった。きっと真昼は明日学校へ行くと言うつもりだろう。なぜなら真昼は俺の家を出て行った時と同じ、何かを決めた女の顔をしていたからだ。
真昼は操作していたスマホを俺へと見せてくる。そのスマホには俺の予想通り『明日学校へ行く』、『向き合わなければならない』と言う趣の言葉が打たれていた。
「…俺にそれを止める資格はない。お前が考えたことだ、それを尊重する」
「…『ありがとうございます』」
「…礼をされることでもないだろ。別に何もしてねえ」
「…『いえ、私はあなたに助けられていますから。お礼は必要だと思うんです』」
「……そうかい」
コイツの助けになれたのなら良かったと俺は少し思った。そして改めて真昼を見るとどこかそわそわしたような、何かを伝えたそうな雰囲気が出ていた。
「…どうしたんだ?なんか伝えたいことでもあんの?」
「……『迷惑じゃなければ…なんですけど』」
「なんだよ?言ってみろ」
「…『明日、一緒に学校へ行ってくれませんか』」
「………はあ?」
「……(シュン)」
突然のお願いに思わず疑問の声が漏れてしまった。真昼はそれを嫌だという意思表示と思ってしまったようで肩を下げて落ち込んだ様子を見せている。
「待て待て…。断ってねえだろ」
「………『じゃあ一緒に行っていただけるんですか?』」
「…別に良いが、他の生徒に見つからねえようにしねえと噂が立つぞ?」
「……『大丈夫です。龍也さんの迷惑になるようなことはしませんから。対策はバッチリ考えています』」
「……俺のことじゃないんだが」
「?」
わかっていなさそうな真昼に俺は説明する。
「あのなあ…俺の隣にいるって噂が立つと避けられる事になるんだぞ?俺は基本的に畏怖の対象なんだよ」
「……『そんな事で離れていく友人ならこっちから願い下げです。噂に振り回されて本人を見ようともしないなら尚更です』」
「──じゃあお前はさあ」
俺は真昼の腕を掴んでソファに押し倒す。真昼は瞳を見開いて突然の出来事に驚愕しているようだ。
「俺の何を知ってんの?」
「……」
俺がそういうと真昼は俺を見つめる。そのまま沈黙が俺たちの間に流れていく。すると何を思ったのか、真昼は俺の顔に自身の顔を近づけ…潤いに満ちた唇は耳元で掠れたような声を紡いだ。
「─やさしいとこ」
「…!」
今度は俺が目を見開く番だった。かなり久々に聴いた真昼の声。今にも途切れそうなほどに掠れていたものの確かにそれは言葉として俺に伝わっていた。真昼はイタズラが成功した子供のようにクスクスと笑っている。それを見て拍子抜けした俺は少し息を吐いて真昼を解放する。
「……あー、なんだ。アイスでも食うか?」
俺はさっきの出来事を誤魔化すようにそう提案した。だが真昼はそれをわかっているかのように笑いながらスマホを見せてくる。
「…『ではハーゲンダッツを』」
「…。はいよ」
…………………………。
……………。
…。
俺は来ているパーカーのフードを目深に被りながら真昼の隣を歩いていた。時間がちょうど良い時間に出たせいか部活の朝練の生徒や普通に登校してくる生徒ともあまり接触せずに歩けている。
「お前はいつもこの時間に登校してるのか?」
「…『そうですね。大体は』」
「…こんな早くに学校に行って何すんだ?話す奴も居ねえだろ」
「…『勉強ですかね。クラスの人と話すと言っても私から話しかける事自体そこまでありませんし』」
「はー、出たな優等生」
「………『もう慣れましたよ』」
「…そうなのか」
…俺はなんとなく真昼が隠し事をしたことを察した。真昼は表情に結構出やすい。本人は隠してるのかもしれないがそういう隠し事をする女は“何度も見てきた”。
だが俺はそれを聞き出すつもりは今のところない。真昼から話してくるっていうならまた話は別だが…それまでは何もしないつもりだ。
なんだかんだと話しているうちに俺たちは正面校門前まで来ていたようだ。
「どうすんだ?俺は職員室まで着いて行けばいいのか」
「…(コクリ)」
「はいよ」
俺はフードをさらに深く被って歩いていく。たまに刺さる生徒の視線がうざったいが顔を見られるよりかはいい。
「……不安か?」
「…『まあ、少し』」
「…ま、倒れるなら後ろに倒れるんだな」
「…『支えてくれるんですか?』」
「また倒れてボロボロになるよりかはいいだろ」
「……(コクリ)」
そう頷いて真昼は職員室の扉をノックをし、扉を開けて入って行った。しばらく扉にもたれながら真昼を待っているとガラガラと中から扉が開いた。
「─真昼」
「…『待っていてくれたんですか?』」
「…待たなくても良かったのか」
「………『私は嬉しかったですよ?』」
「……まあいいか。それで?なんか言われたのか」
「…『放課後に指導室で少し話をしようって言われました』」
「……そうか。で、お前の教室はどこなんだ。ついでだから送って行ってやるよ」
「…『ありがとうございます』」
「気にすんな」
──数日後。
俺は肩を揺さぶられて目を覚ます。風に乗ってシャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐり思考を覚醒へと導いていく。
「……なんだ、真昼か」
「…『なんだ、じゃありません』」
「…怒ってんのか?」
「…『とても』」
「……そうかい」
俺はもう一度眠ろうと瞼を閉じる…ことはできなかった。それを察知した真昼がまた肩を揺らしたからだ。
俺はため息を吐いて上半身を起き上がらせる。
「それで何のようなんだ?」
「…『授業に出てください』」
「いきなりどうしたんだよ?」
「…『今日気づきました。私と同じクラスなんですよね赤月さん?』」
「……まじかあ」
「…『マジです』」
「だが、その苗字は嫌いだ。龍也に戻してくれ」
「…『それは貴方が授業に出席してからです』」
一歩も引かない様子の真昼に俺はため息を吐く。
「…はあ。………そもそも、俺はもうこの学校を辞めるつもりなんだよ」
「…『はい?』」
「…だからやめる」
「…『なんでですか!?』」
「いや…俺ってもう働いてるし、学校の費用の方が無駄なんだよ。お前が自分の居場所を作れたら俺はもうここにいる必要もない」
「………」
「……もう良いか?お前も早く教室に戻ったらどうだ」
「……『嫌です』」
「…はあ?」
「…『龍也さんが授業を受けるっていうまでここを動きません』」
「…何わがまま言ってんだよ─『わがままを言って良いって言ったのは龍也さんです』……なんでそこまでするんだ?お前が俺を悪くは思っていないとしても“好き”とかではないだろ」
「……『まあ、そうですね』」
「…だろ。じゃあ早く教室に『でも』」
「…『龍也さんは私の友達ですから』」
真昼はまっすぐ俺の目を見つめてくる。
「…ハ。セックスして友達っていうのも面白いがな。セフレってやつか」
「…『…何言ってるんですか』」
「おい。その目をやめろ…友人を見る目じゃねえだろ」
「…『完全に龍也さんが悪いです』」
「……はあ。ほれ…教室、戻るんだろ」
「…!『はい!』」
─教室へ行く途中。
「ほんと、お前変わったよな」
「『龍也さんの影響ですかね?』」
「そりゃあ…良い影響ではなさそうだな」
「…『ですね』」
「…否定しないのか」
「…『否定できますか?』」
「………」
一応言っておきます。彼と真昼の間に恋愛感情は一ミクロンも無いです。
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……学校が始まってしまいます。最後の夏休みは終わってしまいました。
週一投稿になります。あと新しい作品を書くかも。全部不定期になります。私の思考次第で全てが終わります。要するに気分です。
天使様8.5巻楽しみですか? 9/14発売予定。
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楽しみ!!!
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予約した!
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そんなに…
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9巻の方が見たかった!
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そもそも単行本持ってない…
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表紙の真昼可愛すぎだろ!