そこは真っ白な空間だった。
華鏡よさりは今日も今日とて悪夢を見る。
こんな相対するはマーモット、一体どうなることやら……

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マーモットは叫ぶ、叫ぶのである

 Vtuber華鏡よさりは悪夢を見ていた。

 

 今回ばかりは確信をもって言えるだろう。何せ、目の前に、マーモットが直立不動で佇んでいるのだ。

 

 マーモットとは、リス科の動物で、絶妙にふくよかな体をした動物で、某動画で絶叫していて、ビーバーと誤認されている奴の事だ。そう、景色のいい場所で叫んでいる、奴だ。

 

 そんなマーモットが、テーブルの上で直立不動でいる。

 

 かく言う華鏡よさりはと言えば、丸テーブルと一緒に置かれた丸椅子に腰かけている状態で夢を見ている。

 

 なぜわかるか? この手の悪夢のたびに、手抜き感満載の白塗りの背景と必要最低限のセットを置かれては、さすがに分かるというものだ。

 

 華鏡よさりは天を仰いだ。ああ、なぜ今回はコレなのかと。無論、天井は白い訳で……いや、それが天井なのか、青天井なのかはわからない。青ではなく、白ではあるが。

 

 マーモットはと言えば、ソワソワしている。居場所なさげというより、彼女に目線を向けては、目線を外し、何もない場所を見ているような気がする。

 

 そんなところを見ても何もないだろうと、彼女も自身の背後を見てみるが、何かがあるわけでも―――

 

「いや、なにやってんの」

 

 そこにいたのは、例の奴だった。

 

 そう、この手の悪夢で頻繁に見かける頭部がエビフライの黒服だ。毎度毎度ビシッとスーツを着こなしている上、こんがりと揚がっているエビフライのアイツだ。

 

 これを所謂エキストラと扱うにしても、今回は感じが違う。

 

 何せ、手に持っているのはカンペだ。

 

 そう、カンペ、スケッチブックにデカデカと達筆な字でモーマットに指示出ししている。

 

 そこには「チラチラとこっち見て‼」と書かれており、名演技をしていたモーマットはもしかすると、主演男優賞か主演女優賞のどちらかを取れるかもしれない。

 

 そして、このエビフライ頭の黒服はおもむろにカンペをめくる。

 

 次のカンペはと言えば「そこでウィッグ‼」と書かれており、この黒服は少し自信ありげにバシバシとカンペを叩いた。

 

 嫌な予感出した。いや、大抵の場合、この悪夢は禄でもない事にしかならないのだが、とあることを思い返してみれば、本当に禄でもない事しか思い至らなかった。

 

 振り返りってテーブルの方を見てやれば、そこにはカンペ通りにウィッグを付けたモーマットが佇んでいた。

 

「……ッスゥ―――」

 

 モーマットはこの時を待っていたとばかりに息を吸った。

 

 そう、華鏡よさりのウィッグを付けたモーマットが今まさに叫ぼうとしている。なぜ、そんなウィッグを? などというのは、この華鏡よさりにとっては愚問だった。

 

 何せ、散々配信中でモーマットの真似をして叫び倒した挙句、シュート動画まで投稿したではないか。

 

「あ゛あ゛ああああああああああああ‼」

 

 野太い叫び声……ではなく、華鏡よさりその人の声で叫ばれた。

 

 驚異の再限度、というより、本人の前でそういう叫びを披露されるというのは予想外ではあった。

 

 そして、モーマットはしばしの沈黙の後、向きを少しだけ変える。

 

「あ゛あ゛ああああああああああああ‼」

 

 見事な叫びっぷりであろう。

 

 なお、声は華鏡よさりその人の声で完全再生されているのだが。

 

 叫び終わったマーモットは何とも誇らしげに、ウィッグを取り去って、彼女を見る。

 

 勝ち誇った、というより、どうだ、上手かろうと言いたげな雰囲気を纏っており、心なしか得意げな顔をしている。

 

 そして、後ろからパチパチパチ、と拍手の音が聞こえた。

 

 振り返ってみれば、大勢の黒服が万雷の拍手を……送っているわけではなく、その拍手の音声をラジカセで再生していた。

 

 音声一つ、スマホで再生できるであろう現代で、どういう訳か、ここの悪夢はラジカセから音を流しがちだ。一体、どういう予算配分で悪夢を見せているのだろうか。

 

「ホント、何やってんの?」

 

 なお、そう問いかけても黒服は首を傾げることしかしてくれない。

 

 首を傾げるとカラリと揚がったエビフライの衣が少しこぼれるため、絶妙に腹が立つ。

 

 エビフライ頭にしても、よさちモーマットにしても、うっかり発生してしまったこの謎概念を悪夢にまで持ち出されるというのは、微妙な心持にさせてくれる。

 

 一方、サクサクという音が後ろで響いた。

 

 またテーブルの方を振り返ってみると、何処から取り出したのか分からない生きの良いエビフライをマーモットが食していた。

 

 両手でがっしりと握りしめ、右へ左へとこんがりとした赤い尻尾を振り回すエビフライを頭からむしゃむしゃと食べていた。

 

 生きの良いエビフライという謎概念もそうだが、モーマットが齧るたびに動きが鈍くなっていくのは妙なリアル感を演出している。

 

 一体、どういう調理をすれば、こうなるのだろうか。

 

「……おいしかった?」

 

 エビフライを丸々一尾食べ終わったモーマットに問うてみれば、素直にもこくりと頷いた。

 

 そして、手に付いた衣を人間臭くパンパンと手を叩いてはたき落とし、手を背中に回して、何かを取り出すような仕草をしだす。

 

 そして、取り出されたのは、どう見てもモーマットよりも大きな鏡だった。

 

「あ゛あ゛あ゛あああああ‼」

 

 そこに映っていたのはウィッグを付けたマーモットだった。

 

 そして、華鏡よさりは目覚める、マーモットの如く叫びながら。


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