シャンフロホラーSS企画の為に書いたものですが、題材に怪談白物語を選んだ時点でホラーは浜で死にました。
これを許容してくださった主催者に感謝を。
※小説家になろうで硬梨菜氏が連載中の小説「シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」の二次創作作品です。
VR上で形成された蝋燭が居並ぶ四畳半の和室に、俺、カッツォ、ペンシルゴンの3人が集っていた。照明は無く、蝋燭のゆれる火だけがかろうじて互いの顔を視認できる程度に照らしている。元々は100個灯っていたであろう無数の蝋燭は、今やペンシルゴンの手元の1つしか残っていない。
……あいつが蝋燭持ってると『お前の命を握っている』と宣言してるみたいだな。
「怪談白物語をするよぉー!」
「「イェーイ」」
俺とカッツォの若干気の抜けた歓声が暗く狭い部屋に溶けていく。これがガチの怪談なら多少は気構えもあるのだが、これはそれとは毛色が違う。
ゲーム的には怪談の中に設定された10のキーワードをすり替え出来ればプレイヤーの勝利。全プレイヤーが既定の体力を使い果たし全滅する、もしくは最後まで怖い話であり続けられればゲームマスターの勝利。そのどちらでもない場合は引き分けとなる。
「ルールはシンプルにプレイヤー、ゲームマスター共に
「なあこれ出てくる単語片っ端から潰していけば確定勝利なんじゃねえの?」
「俺も思った。数撃ちゃ当たるで必勝じゃない?」
「やだこの人たちパーティーゲームにガチの戦法持ち込んでるー、大人げなーい」
「この中で唯一の成人が言う『大人げ』は言葉の重み変わってくるなあ」
「言ってやるなよサンラク、いかにもキーワードじゃなさそうな単語をキーワード化する戦法を潰されたくないんだろうさ」
HAHAHAカッツォお前も中々言うじゃないか。その戦法は折を見て使わせてもらおう。
「じゃあ体力を使い果たしたプレイヤーは罰ゲームね。狂気に陥ったっていう設定でどじょうすくいの踊りでもしてもらおうかな。勿論ちゃんと鼻と口に割り箸差し込んで」
「「………(すっ)」」
俺とカッツォは浮かせた腰を座布団の上に静かに落とした。別に罰ゲームそのものにビビった訳では無いが、ペンシルゴンはこういうその場の失態を後に繋げてきかねないので警戒は欠かせない。
「では無事にプレイヤー達の同意も得られたところで、早速やっていくよ。あと私はそんなみみっちい戦法は立てないから。怪談話すだけのゲームにマジになるだけバカでしょ」
「今GMにあるまじき発言が出たぞ」
「制作者に申し訳ないと思わないのかな」
「『これは私の友達が実際に体験した話なんだけど』」
こいつ話をぶった切っていきなり始めやがった。
……だがペンシルゴンの考えそうな事は(多少は)わかる。俺は奴ほど心の中の悪魔を肥大化させてないから全ては無理だが。まあおおよそ小悪魔程度のものだろうな。
「待てペンシルゴン。『私の友達』じゃなくて『私』……つまりお前自身の話じゃないのか?」
「さてどうだったかな? ほらダイス振りなよ」
VR空間内で俺はサイコロを1個手に取り、滑らせて落とす。事前の取り決めでは俺は4の出目を、カッツォは2の出目以外なら成功となるが……。
「4だねえ」
「さすが
「おのれ乱数の女神……ッ!」
判定失敗により俺は1点のダメージを受ける。俺の初期体力は5のため、残り4だ。
「じゃあ不甲斐ないサンラクに代わろうか。ペンシルゴン、それは『私の友達』じゃなくて『私の家族』なんじゃないかな?」
「……まあ振ってみてよ」
「はい3で成功。ま、これがリアルラック強者のダイスロールってもんだよ」
「リアルラックをゲームに持ち込めればもっと良かったですね」
「うるさいよ出オチ」
チッ、この状況では俺の分が悪い。ここは奴が判定にミスって体力を落とすのを待つか……?
いや、そんなチキン戦法じゃゲームがつまらん。ここはバシバシキーワードを当ててその数で優位に立ったほうが楽しくなるだろう。
「えーっと、うん、そうだったね。『これは私の家族が実際に体験した話だった』。あとキーワードじゃないよ」
「ちぇっ、まあいいか」
「じゃあ続けるよ。『その家族はとある全寮制の女学校に住んでいてね』」
「家族で女学校の寮に住んでる状況、考え出すと中々にホラーだな」
「単語のチョイスミスったかな。家族は特定の一人を指すと考えた方が良いヤツ?」
「『何分全寮制なもんだから、三年間で関わる相手もだいぶ限定されちゃうわけよ』」
「おっと、『三年間』じゃなくて『六年間』じゃないの? ……よし成功」
カッツォが立て続けに成功していく。くそ、ツッコんでる場合じゃないな。
「いやあゴメンゴメン。そう、『六年間で関わる相手もだいぶ限定されるんだ』」
「全寮制の女子小学校……?」
「そこに家族で住んでる、と。ペンシルゴンの家族って一家揃ってアレなの?」
「君らのせいだよー? あと私がアレみたいな口ぶりはやめてね? ……こほん。続けるけど、『そうなると必然的に発生するんだよね。女生徒同士で発生する恋愛感情が』」
「一部の人間は大喜びしそうな小学校だね」
「もう序盤の家族で寮に住んでるのなんて霞むレベルの異常性だな」
「私としてはカッツォ君を放り込んで化学反応を見たいところだけど。……さて、『その中で私の家族も予想に漏れず恋愛感情を向けられる側でね?』」
そろそろ仕掛けるか。
「ペンシルゴン、そいつは『恋愛感情』じゃなくて『殺意』じゃないか? ………あっ」
「サンラクはさぁ……クズ運の人?」
「お情けで変更させてあげたくなってきちゃったな。三回回ってワンって鳴いたら考えてもいいけど」
クソ、なぜだ! なぜこんな事に……!
あとペンシルゴンそれは散々笑った後に「やっぱナシで」って言うやつだろ騙されねーぞ。
「またサンラクの尻拭いか、勘弁してよね。えーと……ペンシルゴン、それは『恋愛感情』じゃなくて『食欲』なんじゃ?」
「待てカッツォそれは」
「え? ……あ、成功」
「ほ、ほーうなるほどね。恋愛感情はキーワードだけど……となると『私の家族は予想に漏れず、女子小学生に食欲を向けられる側だった』、と」
「全寮制
「ホラ見ろ。余計に変な意味で怖い話になってきたじゃねーか」
いやまあコレをホラーに分類するとホラー好きにキレられそうだが。常識という軸からのズレがホラーの醍醐味とは聞くが、ここまでくると常識から垂直にぶっ飛んでやがる。虚数の世界に突っ込んだら百歩譲ってもゾンビパニック系だろ。
「『そんな中で訪れたバレンタインデーでは、私の家族は結構沢山のチョコレートを同級生や下級生から貰っててね』」
「これどう思うサンラク?」
「意中の相手を自分好みに染め上げたい……ってところか?」
「日本語って便利だね」
『餌の食いでを良くする』、あるいは『虫の餌にフルーツを与えて風味付け』。適切な表現がコミュニケーションに与える影響を実感できるな。
「あ、そうだペンシルゴン。それは『チョコレート』じゃなくて『金属バット』じゃなかったっけ? ……よし成功!」
「『私の家族はバレンタインデーに結構沢山の金属バットを同級生や下級生から貰っててね』……これ絶対比喩表現だよね? 同級生や下級生に金属バット持って襲いかかられてるよね?」
「サンラク。本来の目的よりパニックホラーな話にすり替える事に注力してない?」
「多分後半入ってるだろうしここからキーワード全当ては厳しそうだからな。これはもう引き分けを狙うしかない」
「よし乗った。この話をめちゃくちゃにしようか」
既にめちゃくちゃでは、などという水を差すつもりはない。この手の悪ふざけはブレーキを考える方が馬鹿らしいからな。
「『大量に貰った金属バットを自室に持ち帰った私の家族は、律儀にも一つ一つ誰から貰ったものかメモを作り始めたんだ』」
「まず逃げない時点で律儀云々の前に常識が壊れてそう。逃げ出さないよう洗脳でもされてる?」
「まあペンシルゴンの家族だし、面の皮で金属バットも受け止めたんだろうな」
「私の度胸を親からの貰い物扱いするのはやめてくれる? これは純然たる私の才覚なんだけど?」
怒る所はそこでいいのか?
「そうだペンシルゴン、それは……『メモ』じゃなくて『写真』なんじゃないか? ……あっ失敗」
「おっと? リアルラック氏のカッツォも陰ってまいりましたなあ」
「常時真夜中がなんか言ってる。夜半に騒ぐの近所迷惑なのでやめてもらっていいですか?」
「じゃあここで華麗に当ててやるよ。……ペンシルゴン、そいつは『メモ』ではなく『魚拓』だったと思うけどな」
サイコロは……6。
成功だ。
「あはは訂正ありがとう。そう、『私の家族は律儀にも一つ一つの金属バットの魚拓を取り始めたんだ』……金属バットの魚拓って何?」
「いったいどこに差が生まれるんだろうな」
「傷や凹みがあれば魚拓……もとい金属バット拓に表れるんじゃない?」
「その場合同級生達が日常的に金属バットを振るってる事になるんだけど」
「カニバリズム持ちで道徳観が未発達の小学生なら日常的に振るっててもおかしくないだろ。校区から大人消えてたりしてな」
「変なところで辻褄合わせてくるのやめてくれないかなあ! あとメモはキーワードだよ」
一応これでキーワード当ては俺とカッツォが1対1で合計2。まあそちらはもうついでなんだが。
「『そしたらその家族は一つの疑問にたどり着いたんだよね。貰った時の人数と、手元にある金属バットの数が合わない……数が多いんだ』」
「二刀流かな。サンラクはお仲間みたいだし会ってきたら?」
「金属バット二刀流はもう蛮族だろ。文明人たる俺と一緒にするなよ」
「あっ、もしかして鏡をご存知無い文化圏の人ですか?」
「こちとら近接武器も銃器も扱う先進的文明人なんだがァ!? カッツォこそ拳とかいう
「俺は半裸鳥頭にボディペイントとかいう部族スタイルと違って、きちんと衣服っていう文明を身に纏ってますけどぉー??」
「ふたりともゲームそっちのけで熱くならないの。どっちも野蛮人なんだから仲良くしなよ」
「「………」」
俺とカッツォはゲームに戻り、同時にヤツへの後々の報復を誓った。
「『確かにバレンタインだからって一人一つという決まりは無い。複数個の金属バットをプレゼントしてきた娘もいたかもしれない。けど、どうにもきな臭い雰囲気を感じた家族は、魚拓を手に金属バットを渡してきた娘達にそれぞれ確認を取っていったんだ』」
「なんかもう場面が混沌としてきて多少のトンチキじゃ驚かなくなってきたな」
「こうなってくると単語一つのすり替えじゃインパクトが出せそうにないね」
「全部君たちの責任なんだけどなぁ。『そうやって確認を取っても、やはり数が合わない。首を傾げる家族に、同級生の一人が声をかけてきたんだ』」
「それは『声をかけてきた』んじゃなくて『殴りかかってきた』じゃないか?」
成功。
「はっはっはそうだったそうだった。『同級生の一人が殴りかかってきたんだよ。彼女との会話の中で、私の家族は自分の寮に伝わる昔話を知ったんだ』」
「肉体言語かぁ」
「女子小学校、随分と治安終わってるね」
カニバリズムの時点でなあ。共食いとか横行してそうだし。
「『そう、この寮には』―――」
恐らくここが結末なのだろう。敢えて言葉を切って溜めを作ったペンシルゴンに、俺とカッツォは黙して続きを待つ。
「『意中の相手への金属バットとして、全身に金属バットを塗りたくって「私を食べて♡」しようとした結果、不注意で死んでしまった女学生の幽霊が彷徨っており、まだ塗りたくるための金属バットを集めて寮の部屋に置いている』、と―――」
ペンシルゴンは、そう言って最後の蝋燭を吹き消す。普通ならここで部屋は真っ暗になるところだが、ゲームなので四畳半の空間は謎の照明によって昼間のように照らされる。
「えー、キーワードは全然残ってるので後は引き分けか君らの負けかなんだけど、この話は………どう思う?」
「正直最後のが意味不明すぎて怖くなくなった」
「そうだね、もうちょい論理性が欲しかったな。引き分けってことで」
「君! 等が! やった! ことなんだけどなあ!!」
―――怪談白物語「私の家族と金属バット」、完。