「キャ─────ッ⁉︎」
未だ客足はなく比較的静かだった平穏をブチ壊す悲鳴が、STARRY店内に響く。
状況を確認すべく別途作業を行なっていた伊地知虹夏が、慌てて駆けつける。
そこにはあわあわと慌てふためく喜多郁代の姿。そしてその足元に散乱するモノの存在があった。
───足元に散乱するものはその多くがピンク色だ。しかしその中に特徴的な水色や黄色、そして肌色のものまで混じっている。
そしてそれらはどれも─────パズルのピースだった。
「い、伊地知先輩……!ご、後藤さんが……パズルになっちゃいました!」
「どういうこと???」
喜多はその状況を震えた声で伝える。しかし言葉通りの状況であるはず何も関わらず意味不明すぎて虹夏は困惑の声を上げざるを得なかった。
尚、普通の人間ならば先ほどまで異常がなかった(?)人間が突然パズルのピースになって崩壊したという状況を目にしたならば正気度の喪失により一時的発狂を催していても不思議ではないが、この2人がそうはなってないのは後藤ひとりという人間がもうそういう生き物だと受け入れていることに他ならない。
そこに、先程までバイトという立場にも関らずさも当然かの如くサボりを敢行していた山田リョウがこの騒ぎを聞きつけ、好奇心の赴くまま蝶の如く参上した。
「うわ、何これぼっち?」
さも当然かの如く床に転がるパズルのピースがひとりであると看破したリョウは、喜多と虹夏の近くまで行くとしゃがみ、パズルのうちひとつをつまみ、観察し始めた。
リョウに釣られるようにして、喜多と虹夏もしゃがみ、パズルの1ピースではなく、ピースの山を観察する。
……目を凝らしてよ〜く見てみると、ピースの山は蠢いていた。
更に、
「───se…i……syunn…com………plex……」
(((えぇ……)))
なんか喋っていた。そのことに気づいた3人はドン引きするも、それを言外に出すことはなかった。表情にはガッツリ出ていたが。
それは、この状態になっていても聴覚が生きているという確信がある後藤ひとりという同じバンドメンバーに対する配慮の賜物なのだろう。
多分。
「おいそこのバイト3人。さっきからしゃがみながら集まって一体何を─────」
仕事を放棄しドン引きする3人を業務に引き戻すべく、店長である伊地知星歌が様子を見にくる。
地面に散乱する数分前まで後藤ひとりであったもの。それを目にし、幾許かの刹那の静止。
「……お客さん来る前になんとかするぞ」
「「「はーい」」」
静止の末に発せられた言葉は、目の前の常識では測り知れない事態に対し「お皿落として割れたから片付ける」レベルの気軽さで対処するという非常に冷静なものであった。
こうして喜多、虹夏、リョウ、星歌、そしてスマホでインスタのおすすめ美容動画を延々見ていたPAの5人による「ぼっち・ざ・ぱずる!組み立て大作戦」が決行された─────!!
「なんだこれむず……ちゃんとピースの組み合わせしっかりしてんのな……」
「あっ、ねぇ先輩見てください!後藤さんの目ができました!」
「よくやった郁代。後で私にご飯を奢る権利を授ける」
「あぁっ!そんなぁっ!嬉しい!」
「はいはいそこ2人〜。時間ないよ〜。私もぼっちちゃんの口できた〜」
「お肌綺麗……私はお肌に三万使ってるのに……」
5人の力を合わせた結果、ぼっち・ざ・ぱずる!略して「ぼざぱ」の組み立ては順調。既に半分は完成しており、完全勝利はそう遠くない見通しだった。
しかし。突然進捗はソシャゲのデータダウンロードの如く緩慢になる。
その原因は、「ぽざぱ」の『沼』だった。
「これ、ジャージのどこですか〜?」
「というかそれジャージか?髪の毛な気がするんだが」
「ねぇ虹夏。これってそっちの塊と合う?」
「OKちょっと貸して〜。……ん〜、こっちのじゃないかも。喜多ちゃんの側にあるやつは?」
「試してみます!……こっちも合わないみたいですね……」
「えぇ〜??」
完成形が人間大に対してピースが細かいために膨大なピース数。そこにピンクの長髪+ピンクの長袖ジャージというピンクの暴力が合わさる。
後藤ひとりは今、「ぼざぱ」でありピンクのジャングルだった。
(((((後一人……後一人いれば……!))))))
作業が滞り、焦りが見え始めた一同の心がひとつの目標に向かい、心のシャウトが一致する。
そんなときである。会場前であるにもSTARRYの扉が開かれた音が一同の耳に届く。
ある者はそれに救いを感じた。ある者は懐疑の心を抱いた。ある者は非常に嫌な予感を悟った。
「おっ邪魔しま〜〜〜す!!」
「「お出口はあちらになります」」
「えぇ〜〜〜!?先輩も妹ちゃんも酷い〜〜〜〜〜!!」
完全に出来上がった酔っ払い、廣井きくりのクソデカ挨拶に伊地知姉妹は間髪入れずに冷え切った目と声色を以て退店を促した。これもひとりへの対応同様、日々の日常の賜物であった。
「まぁまぁそう言わずに〜〜。んぇ、みんな集まって何してんのぉ???私も混ぜて─────」
そこには7割方完成したものの、未だ周囲にピースが転がる不完全ぼっち・ざ・ぱずる!の姿が。
酔っ払い、目の前の異常事態に緊急フリーズ。思考回路が回っていないが故に飲み込むことは至難の業。
ちゅ〜〜〜!
廣井は手に持っていた特徴的な鬼の絵が描かれた酒パックのストローに口をつけ、一気に吸い上げる。
非現実的な状態に対し理解しようとするのではなく、酔いを加速することで理解を放棄するという非常に推奨のできない荒技で状況を受け入れた(?)
「おもしろそ〜〜〜!!私も混ぜて〜〜〜!!」
その酔いの勢いのまま、廣井もぼっち・ざ・ぱずる!攻略に加わった。
例えどれだけ酒に酔い判断能力が下がろうとも、人手は人手。少しずつ、しかし確実に後藤ひとりの完成へと向かっていた。
そして─────!
「これで、最後の1ピースですね〜……」
「飽きた。早く終わらせよ」
「せんぱぁ〜い!お酒ない〜〜〜???」
「黙ってろクズ共」
ついに、パズルは完成を眼前に控えた。クズベーシストが最早興味を喪失していたが、最後の1ピースをはめるべく郁代がその腕を動かす。
「じゃあ、いきますね……!後藤さん、生き返ってー!!」
「いやぼっちちゃん死んでないからね⁉︎」
郁代が最後の1ピースをぽっかりと空いた隙間に叩き込むようにして嵌め込まれる。
するとどうだろうか。パズルという都合上カクカクとしていた後藤ひとりの姿が崩れ始め、ふにゃふにゃと一度もはや人とは思えない様相を経て元の姿になったではないか。
「後藤さん!」
元の姿に戻り、目を閉じているひとりに郁代が声をかける。するとその声に反応してか、ひとりは一度、二度三度パチパチと瞬きをする。
一同がひとりを注視する中で、ひとりは顔を俯きながらむくりとその上半身を起こした。
次の瞬間、頬を風がふわりと撫でたと思うと同時にひとりの姿が消えたことに気づく。
一同は風が流れた方向へと一斉に顔を向ける。
そこには、ゴミ箱を宿とした状態で6人に土下座をするピンク色のヤドカリがいた。
「こ、この度は誠に申し訳ありませんでしたァァァァァァッ!!」
『ヤドカリにしては態度がでかいんじゃないか〜?』
『体がパズル状に崩壊していいのは小学生までだよね〜』
ひとりなりの誠意の形態、ドゲザヤドカリの状態で6人に対し謝罪の言葉を述べる。そしてそんな日陰者の精一杯の誠意を見せる後藤に対し、2体のイマジナリーなギターがヤジを飛ばしていた。
「ぼっち、誠意を見せるなら金額で示してもらわないと」
「やめんか!」
ついでにベーシストも野次を飛ばしていた。
すると、そんなひとりの姿を見た郁代はフッと微笑みをこぼしたのちに星歌にアイコンタクトを送る。星歌は店長として目を閉じ腕を組んだ状態で静かに頷く。それを確認した郁代は、
「よいしょっと」
『『⁉︎』』
ドゲザヤドカリを軽い掛け声と共に持ち上げた。
後藤ひとりという人間がそのままドゲザヤドカリと化しているのでそこそこな重量のはずだが、喜多郁代という乙女はそれをいとも簡単に成し遂げた。恐ろしきフィジカルである。目の前のイマジナリーな存在たちも驚愕している。
「うんしょっと」
再び軽い掛け声と共にドゲザヤドカリは地に降ろされた。ドリンクのカウンターの隣という場所に。
カウンターに添えられたピンクのドゲザヤドカリは足元の暗さに異様にマッチしており、なんとも言えない新鮮な風景を作り出していた。
「……はい、作業再開」
少しの静寂の後、星歌がパンパンと手を叩くと共に言葉を紡ぐ。そして、STARRY店内は少しの騒ぎの後に、いつも通りの作業を再開したのであった。
「イェーイ!みんな頑張れ〜!」
「クソ部外者様。お出口はあちらですのでとっとと出て行け」
「えぇ〜??私も頑張ったのに〜!」
こうして、「ぼっち・ざ・ぱずる!組み立て大作戦」は幕を閉じた。
なお、ドゲザヤドカリはそこそこお客さんにウケ、後藤ひとりも無事承認欲求を満たすことが出来たのだった。
◆
業務時間終了後の閉店作業中にて。
「あっそうだ。ぼっちちゃん」
「あっハイ!な、何?虹夏ちゃん…」
「いや、なんでパズルになったのかな〜って思ってさ」
「え、えっと……作業してたら暑くて汗かいて夏だな〜って思ってたら海で陽キャがパリってるのを想像して青春コンプレックスが刺激されて…」
「あー、うん。知ってた」
ご閲覧いただいて本当にありがとうございます。
当初は投稿予定がありませんでしたが、#ぼざひこ の発行が中止となったために投稿させていただきました。
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