今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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大学二年生 九回目 三周目

「来い……3-8(サンハチ)、来い……」

 

馬券を握りしめて、私は祈るようにそれなりに冷えるベンチでゲートに入っていく馬たちを見る。防寒をしてきたとはいえ、吹いてくる風は体温を奪っていく。

 

「そんな祈ってどうするの」

 

「これには私の昼飯代がかかってるんだよ」

 

ちなみに真山くんは当たりだとわかっている3連単に二万円突っ込んでいる。こんな事したら疑われるんじゃないかと思ったが、実際にはこれぐらいのことをする狂人が競馬場にはいっぱいいるらしい。

 

ここで私が勝てればお昼は私の奢りになる。さもないと泡銭でご飯を食べることになる。いやいいんだけどね。

 

ちなみに今日の予定は儲けたお金で高めの服を買っていい感じのレストランでデートである。なんか大人っぽいよね。我々はファミレスで最近味変わったねとか言って満足するカップルなので純粋に未知への挑戦という側面が大きいが。

 

「何買ったのか教えてよ、ねえ」

 

「秘密」

 

周りで聞いている人がいたとしたらいけずな彼氏だと思うことだろう。まあ実際そうだけど裏を知ったら真山くんの馬券を狙って争いが起こるよな。あと真山くんは私が当てるか外すか知っていてこの態度なんだよな。許せない。

 

ゲートが開く。喚声に包まれる競馬場。ああ、これは呑まれる人は呑まれてしまうよな。カラフルな色が流れるように私達の前を過ぎていく。

 

「来い、来い……」

 

遠いので詳しいところは見えないが、私も狙っている一番人気の馬はまだ後ろの方にいるらしい。追い上げってやつだっけ。声が思考を邪魔して、高揚感で心が塗りつぶされていく。

 

ただ、前の方はかなり距離を取ってしまっている。大丈夫だろうか。一応競馬情報とかを確認してそれなりに半日ほど頑張って分析したのだが、なんかもう良くわからなくなってしまった。でもそんな事は眼の前の興奮に比べれば大したことじゃない。

 

左の方でくるりと曲がり、最後の直線。一気に速度を上げる後ろの方の馬たち。来い。来い。

 

「来い!」

 

脳が緊張感で満たされる。全部は確認できないが、たぶんいい感じのはず。三頭が前のほうで固まっている。耳に入る声に困惑みたいなものが混じってきている。予想されてなかった馬が来たとかだろうか。よくわからない。

 

私達の前を通過して、レースが終わる。掲示板に表示された数字と、手元の紙を見比べて、私はがっくりと肩を落とした。思わず抜けた手から滑り落ちる馬券。

 

「大丈夫?」

 

「……これをどうやったら予想できるのよ」

 

一応目を通した出馬表ではあまり注目されていなかったものが二着。番狂わせというほどではないが、もしこれを当てれていたら絶対楽しいだろうな。まあ外した人は何を言っても無意味です。結果だけが全て。

 

ちなみに一着から三着までを正確に当てた当人はそこまで嬉しそうではない。二周目では外したらしい。確かにそんな毎日競馬のニュースとか見ないから当然といえば当然か。その時は自然なデートだったのかな。

 

「どのくらいの倍率なの?」

 

「万馬券とまではいかない」

 

へえ、そんなものなのか。それでもかなりの額である。少なくとも今周が終わるまで大学生基準で豪遊しても普通に余る額だ。学費に突っ込んでもいい。まあそういう事は最終周ではしない、というルールを真山くんは決めているらしいが。

 

「嬉しそうじゃないね」

 

「手続きとかあるから」

 

「なるほど」

 

「……まあ、悪銭ではあるだろうから、しっかり使わないと」

 

「そういう経験を覚えていられるのは真山くんだけなんだから、ちゃんと楽しみなよ?」

 

社会経験というやつだ。大学をサボって競馬に行って、恋人にいい格好をするために着飾る青年って言うとなんか別れたほうが良くなってくるな。いやそんな事ないから。私のことを想ってくれるいい人なんですって。

 

「……リベンジさせて!次こそは外さないから!」

 

「もうダメ、服買うのに間に合わなくなるから」

 

「そんな……」

 

なので今周は全部真山くんに奢られて私は着飾る事になるわけだ。まあいいんだけどね。そういうプロにやってもらうとどういう感じになるのかはかなり気になる。

 

「そういえばさ、私が美容院に行った周があったって言ってたよね」

 

席を立ちながら言う。その時のお店は覚えているので今度行ってみようかな。真山くんに内緒で。少なくとも真山くんにとってはいい感じになれるとわかっているので怖さはない。

 

「うん」

 

「あれで私が綺麗になってたとのことだけど、なんで普段の私にそういうの求めないの?」

 

「そういうふうにすれば綺麗になる、って、僕だけが知っていればいい……から」

 

「なるほど」

 

納得してしまう私がいる。まあそういうところっていうのはあまり他人に見せびらかすのも良くないですからね。それはそれとして綺麗になると私の気分は良い。難しいところだ。

 

まあいいや、今周は真山くんに楽しませてもらおう。この借りは終わったら返すからな。もう私達もいい大人になったので、色々と阻んでくる法律はないのだ。まあそれは高校三年生で十八になった時には阻まれなかったんだけど。




活動報告にあとがきというか今まで書いて思ったこととかをメモみたいにしておいたので気になった方はどうぞ。

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