これは絶望の時代と世界の中で繰り広げられる出会いと別れの物語。
※サブあられ様の漫画に感化されての三次創作…になるのでしょうか?サブあられ様の創作指揮官様の若き日の頃と、その恋人も名前は付いておりませんが登場しております。とはいえ果たしてこれは【#量産型ちゃんと指揮官さん】に含まれるのか…(´ε`;)ウーン…
「──奥さん!早く立って!」
「──うちの子が!この子が立たないんです!手伝って下さい!!」
まだ7歳か8歳の少年を母親が胸に掻き抱きつつ、駆け寄って来た突撃銃を携えた男性へ懇願する。
柔らかい茶色の髪は少し癖っ毛だ。愛嬌のある顔立ちの少年は──腰から下が消え失せていた。
成長途中の脆弱な肉体は両断され、行き場を失った血液がヒビ割れた舗装道路へ流れ落ち、まだ新鮮な内臓を垂れ流す少年は最早、息絶えている。
「──奥さん!手を離し…クソが!!」
「──嫌!嫌!離して!下ろして!!嫌ァァァ!!」
問答をしている暇はない。ボディアーマーや戦闘服を纏う男性は腕から少年の半分となった遺骸を引き離し、母親である女性を肩へ担ぎ上げる。
腹を痛めて産んだ我が子と無理矢理引き離された母親の絶望を否応なしに滲ませる叫びすら掻き消す勢いで、男性が握る大振りの突撃銃がけたたましい銃声を奏で上げた。
「──損害報告」
「──戦死1名、負傷4名」
「──負傷3名」
「──戦死2名、負傷2名」
少人数になった各隊からの報告を受ける将校──青年の年齢の彼は差し出された血染めの
手の平に乗ったそれらが擦れ合う金属音を奏でる中、青年将校は溜め息を吐き出す。
「…御苦労だった。1時間、休んでくれ」
先任下士官だろう軍曹が「気を付け、敬礼」と疲労を滲ませた声で発する。それに下士官や兵卒達が青年へ向かって敬礼。青年も軽く答礼を返しながら血染めの認識票をボディアーマーのポーチへ仕舞い込み、作られた輪の中心から抜け出た。
──戦死3名。
これを果たして多いと見れば良いのか、それとも少ないと見れば良いのか。
見渡せば、周囲には避難民の一団が一様に生気を喪失させた表情のまま倒壊したビルや建物の破片へ腰を下ろしている。シェルターまで残り数km──そこで遭遇したラプチャーの群れに襲われていたところを青年将校が指揮を執る部隊が偶然通り掛かり、彼等は辛くも難を脱した。
とはいえ、犠牲は少なくない。
彼が肩に担いで救い出した母親の姿も認めるが──アレは元に戻るのに時間が掛かるだろう。或いは二度と元には、かもしれない。
喪った息子の名をブツブツと口にしつつ、時折、ハッと顔を上げては左右へ視線を送る。亡き少年の声でも聞こえたのだろうか。
それが幻聴だと気付けば──再び顔を伏せ、息子の名を延々と呟いては静かに涙を流し続けていた。
──末期も末期だ
ボディアーマーのポーチから抜き取ったソフトパックを振り出した青年将校は煙草を銜え、細かい傷が表面を覆う銀無垢のオイルライターで火を点ける。
ヘルメットを被りながら紫煙を燻らせ、戦闘後の昂揚感や興奮を落ち着かせようとする。
とはいえ──あまり役に立ちそうにもなかったが。
「──あの…兵隊さん…ごめんなさい…」
少しだけでも物思いに耽りたいというのに、状況はそれを許そうとしない。
声を掛けてきたのは赤ん坊を抱いた少女だ。歳は──14か15だろう。
「…お水を頂けませんか?」
縋る眼差しを受け、彼は頷きを返しつつ火を点けたばかりの煙草を携帯灰皿へ放り込む。副流煙は女子供に吸わせるべきではない。
「──あまり残っていませんが…どうぞ」
腰から水筒を引き抜き、その蓋を開けて少女に差し出す。
節約して飲むように努めているが、3日前に給水した水筒の中身も半分を切っている。その軽い水筒を受け取った少女は深く頭を下げた後、水を勢い良く飲み始めた。相当に喉が乾いていたのだろう。
「……お子さん、ですか?」
それにしては
「…捨てられていたんです」
「…なるほど」
この時代、この御時世だ。捨て子は──あまり珍しくない。
返された水筒は空だ。今朝に蓋一杯分の水を口へ含み、口腔全体へ染み渡らせるようにマウスウォッシュ宜しく濯いでから嚥下したのが最後に飲んだ水である。
特に赤ん坊は尚更だ──と、彼は内心で呟きながら空になった水筒を元の位置へ戻した。
赤ん坊は諸々に
甲高い泣き声でラプチャーを引き寄せた事例は枚挙に暇がない。
──母親が泣き声を出させまいと必死に小さな口元を押さえた結果、死なせた事例は耳に蛸が出来るほどだ。
そして──疲労困憊で我慢の限界に達した避難民に赤ん坊が奪われ、地面へ、或いは瓦礫へ頭を強く打ち付けられて殺される事例も。
事実、その状況が推察出来る死体の数々は青年将校も数多く目撃した。それこそ見飽きてしまう程に。
病人は捨て置かれ、足の遅い老人は言うに及ばず、何らかの障がいを持つ人間は敢えてラプチャーを引き寄せる囮に──これが末期の末期でなければ、なんと呼べば正確な表現となるのか。
「…クソな戦争だ」
「え?」
「いえ、なんでもありませ──失礼」
泣き声と言えば──と青年将校は気になった。
少女が胸に抱く赤ん坊が全く
周囲の避難民達が発する剣呑な雰囲気と気配に反応し、泣き喚いていても不思議ではないというのに──全く泣かないのである。
気になった彼がヘルメットを被った頭を傾け、赤ん坊の顔を覗き込む。グローブを脱いで手を小さな、本当に小さな口元へ翳し──嗚呼、と大きな溜め息を吐き出した。
「……もう死んでいます」
「──え!?だ、だってさっきまで…!」
自発的にか、それとも周囲からの視線に耐え兼ねてか。いずれにせよ親に捨てられた生後数ヶ月の赤ん坊は──何の為にこの世へ産まれ落ちたのか。
少女が胸に抱いた小さな身体を一度、二度と大きく揺らす。
ピクリとも動かず、不快な揺れに反応して機嫌を悪くしてむずかる様子はない。
この時代に、この赤ん坊が産まれ落ちた意味など──最初から何一つとして無かったのかもしれない。
墓穴を掘り、墓石を丁寧に拵える余裕はない。散乱する瓦礫を集め、その下へ赤ん坊を埋めた少女が両膝を突き、涙を流しながらも両手を組んで祈りを捧げる姿を眺める青年将校が煙草を銜えてオイルライターの火を点ける。
「──クソな戦争……」
──だが歴史上、
そんなモノは端からありはしない。
今更ながら思い至った彼が銜え煙草のまま皮肉げな苦笑いを微かに浮かべた。
「──あの…」
今日は良く人に声を掛けられる日だ。珍しい日もあるモノだ。
微かな苦笑いを引っ込めた青年将校がヘルメットを被る頭を回し、サングラス越しの視線を向ける。
「──さっきはありがとうございました。助かりました」
「…お気になさらず。これが我々の仕事です」
歳の頃は──おそらく10代後半だろう。いや、この逃避行で髭が目立っていないのを考えるともっと若いのだろうか。とはいえ体格は良い。
チラッと視線を下へ移せば、脚部にレッグホルスターが巻かれ、拳銃を帯びている。逃避行の最中に入手したのかは定かではないが、些末な疑問だろう。
黒髪を持った人物──青年へ応じた彼は無精髭が濃くなりつつある顎をグローブを嵌めた片手で軽く擦った。
「…皆さんはこれから何処に?」
「──
顎をしゃくり、青年将校はあろうことか避難民である彼等が逃げて来た方角を指し示す。
これには名も知らぬ青年もギョッとした。
「向こうにはラプチャーが…!」
「橋を爆破せよ、と命令を受けまして」
少しでもラプチャーの進撃を遅滞せしめようと橋を落とす、と青年将校が告げる。
──まぁ、嘘ではないが、事実でもないのだが。
就いている仕事は常に秘密が付き纏う。嘘を織り混ぜて説明する青年将校へ避難民の青年は沈痛な表情を浮かべた。
「…ご武運を」
「ありがとうございます」
「──あ、あの!」
するとまた見知らぬ人影が駆け寄って来た。若い女性である。避難民である青年と同じ黒髪を持った女性、或いは少女は歳頃が近くも見えた。
とはいえ、不用意に近付かないで欲しい──と青年将校は考えつつ、また火を点けたばかりの煙草を携帯灰皿へ投げ込んだ。
「どうかしましたか?」
「私達、
白く、新雪のような──その形容に青年将校の頬が一瞬だけピクリと痙攣する。
「私、あの時はお礼が言えなかったから…もし会ったら伝えて欲しいんです!ありがとう、って!」
「お、おい…!」
何を急に──と言わんばかりに青年が狼狽える。任務の内容を分かっていて無茶を頼んでいるのか──青年が恋人であろう彼女を諌めようとするも、それよりも早く青年将校が小さな頷きを返した。
「──会えるかは約束出来ませんが…もし会えたら必ずお伝えします」
「あ、ありがとうございます!」
「お気になさらず。──そろそろ行った方が良い。シェルターまで4km程です。どうか無事で」
お似合いのカップルだ。
サングラスのレンズの向こうで双眸を細めた青年将校が並び立つ二人へ背を向けて歩き出そうとする瞬間──
「あ、あの…せめて名前だけでも!」
──名乗って欲しいと懇願された時、青年将校は動きを止め、肩越しに女性へ振り返る。
「──
──誰かの犠牲の上に立つ生を甘んじて受け入れられる性格には見えない。
青年や女性の為人が不思議と察せられた彼はそれだけを述べると、改めて彼等に背を向けて進み出した。
避難民が重い腰を上げ、遅々とした避難を再開する。
散乱する瓦礫──かつて栄華を誇り、この惑星の頂点に君臨した種族が発展させた文明の残り香たる残骸を踏み締める一団が進み出したのを青年将校や指揮下の者達は静かに見送る。
先程の青年と女性──良くお似合いのカップルと青年将校はサングラス越しに偶然だが視線が合った。
カップルが揃って頭を下げる。それへ青年将校は微かな会釈を返し、遠くなっていく彼等の後ろ姿を見届けると、指揮下の下士官や兵卒達に前進を命じた途端だ。
〈──
「…あぁ、
青年将校の両耳を覆うヘッドセットに一瞬の雑音が走り、続けて聞き慣れた部下──或いは
エブラ粒子が濃く、通信に支障を来たしていたがなんとかそれが可能となる距離まで近付けたらしい。
〈──そこまで離れていた訳ではないだろう。懐かしがる程か?〉
「
〈──あぁ、近くにいる。──済まない、報告を忘れていた。捜索中に避難民の一団を発見。ラプチャーに襲われていた為、これを撃破した〉
「…さっきのか」
〈──どうした?〉
「…キミが助けた少女からの伝言だ。──ありがとう、だそうだ」
〈──そうか〉
思考転換を経て、
とはいえ、ぶっきらぼうな返答の中に喜色が微かでも混ざっているのを青年将校は聞き逃さなかった。
「…そちらに合流する。 次の作戦があるそうだ」
〈次の作戦?〉
「防衛の任務だ。作戦名は確か──」
アークガーディアン作戦。作戦開始まであと──