S.H.I.E.L.D.長官のボディーガードは魔女 作:LemoИ
話の冒頭に宝具シーン直前の様子をイメージした画像をAIで生成し、載せました。
あくまで参考までにお願いします。
◇◇◇
その日、ワシントンDCは夜の空と神秘の輝きに包まれた。
先程まで晴天だったはずのワシントンDCは一気に静まり返り、空は暗い鉛色の水面へと変貌した。
本来、アメリカでは見れない薄いオーロラの様なベールが空を包み込む。
◇◇◇
『暗き湖よ、来たれ。』
私の身体と内にある全ての魔力が応え、その術式が起動しました。
そして、ゆっくりと右手に握る魔槍を天に掲げた。
これは所謂〝切り札〟
私が魔女として生を受けてしまった時から備わっていたもの。
それは至ってシンプル。
私の魔力を対価に数多の蒼白の槍を天から解き放つもの。
『それは絶えず見た滅びの夢。』
この言葉も、誰かに教えられたものではありません。
そのため、私はこの切り札を解き放つために必要なプロセスだと認識しています。
ですが、それはただの言葉の羅列ではなく、不思議とこの身体に非常に馴染むものでした。
『報いはなく、救いはない。』
…マスターは、この私に帰ってくるように命じました。
私の帰りを待っている人がいること
そして、それはマスター1人ではないのでしょう。
そこまで察しが悪くはありません。
人間の範疇を逸脱したこんな私のことを受け入れてくれた人たちがいました。
マスター、マリア、ナターシャ、フィル、ウィザードチーム、キャプテンやアベンジャーズのメンバー……
それは、私自身が直接願ったことではありません。
でも、気付いたらいつの間にか近くにいました。
いつの間にか、孤独ではなくなっていました。
確かに、始まりは独りでした。
でも、今では隣に誰かが居るのが当たり前になっていました。
この槍を放つのは、力を持つ者としての責任を果たすためです。
ですが同時に、彼らとまだ一緒に居たいという我儘な願いの具現化でもありました。
今更手離したくないなんて、こんな私には贅沢な願望でしかないと思います。
『最果てにありながら、鳥は明日を歌うでしょう。』
それでも…
『どうか標に。』
…もう少しだけ、一緒に生きていたいです。
『
私が最後に見たのは、巨大な蒼白い槍が流星群の様に降り注ぎ、空中に浮かぶ3機のヘリキャリアを刺し貫く神秘的な光景でした。
◇◇◇
「私と一緒に来ないか?」
「私の右腕として、時には盾として支えて欲しい。」
「お願い…ここに居ない私の代わりにフューリーのことを守ってあげて。」
「あなたは、怪物じゃないわ。」
初めに聞こえたのは、小刻みな規則正しい電子音でした。
意識が浮上してきて、ゆっくりと、瞳を開くと真っ白な光景が視界に入ってきました。
どこ……
ヘリキャリアは……?
インサイト計画は?
ヒドラは?
ぼんやりしていた頭が覚醒して段々考えがまとまっていく感覚がしました
「マ、スタ……」
慌てて真っ白なベッドから起き上がると、胸部と腕に貼られていた電極が外れたのと同時に、左腕が引っ張られる感覚と鋭い痛みが走りました。
視線を左に向けると、半透明な管が私の腕に突き刺さっていました。
何、が私の中に入っている…?
「あ……」
刺さっていた点滴な管を、湧き上がった不快感と一緒に引き抜き、布団を跳ね除けて扉の方へ向かいました。
ですが、数歩歩いただけで何も履いてない足は縺れ、そのまま床に転がってしまいました。
「うぐ……っ」
身体が床に転がり、鈍い痛みが…特に右腕に走りました。
何とか、左腕に力を入れて立ち上がろうとすると、扉の向こうからドタバタとした足音がしました。
私は咄嗟に転がっていたイスの足を左手で掴んで、誰かが入ってくるのに対処しようとしました。
そして、扉が開いた瞬間にそれを投げつけました。
ですが、自分でも驚くくらい力が入りませんでした。
「あっ……」
投げた距離は全く扉に届かず、イスは鈍い金属音を立てながら部屋の端に転がりました。
「モルガン!!!」
扉が開き、聞き慣れたその声に反応すると、いつの間にか抱きしめられていました。
「大丈夫だから、病院よ。」
「な、なたぁ……しゃ?」
「えぇ、そうよ……大丈夫。少なくともここは安全よ。」
何度も聞いたことのあるその声は、私の奥底にある恐怖を拭い去るのに十分でした。
…ですから、きっとこの手の震えは気の所為なはずです。
◇◇◇
看護師にも助けられてベッドに戻った私は、改めて自身の状態を確認しました。
まず目に入ったのは右腕でした。
何故か硬いもので固定されて包帯でグルグル巻きにされています。
「こっ……折?」
色んな怪我をした気はしますが、骨折までしていたとは……
骨折した箇所は右前腕部。
そして、全身打撲や裂傷と、左足の銃創。
それに加えて重度の栄養失調、血液不足。
後半に関しては、おそらく魔力が枯渇したのが原因と思われますが、それを医学的に説明するのは難しいのでしょう。
右腕の骨折はおそらく、最後の攻撃による反動だと思います。
あの槍は、それだけの代償を支払ったものでした。
怪我は、静養していれば常人よりも早く治せます。
だけど……
その後、私が目を覚ましたと聞いてやって来たマスターと、ナターシャが事の顛末を教えてくれました。
マスターは、シールド長官として今まで身に纏っていた服装ではなく、ニューヨークの街角に座り込んでいそうな見窄らしい格好をしていました。
シールドの機密は全てリークされ、これまで公にしてこなかったものが全て明るみとなりました。
私はあの攻撃の後、力を使い果たしたことで意識を失い、そのまま川に沈んで溺れそうなところをウィザードに救助されたそうです。
「他の人たちは……ヘリキャリアに残っていたキャプテンは?」
「大丈夫よ、キャプテンも隣の隣の病室にいるわ。」
「お前より少し先に目を覚ました。今はウィルソンが一緒に居る。」
「……そう、ですか。良かったです。」
ポツリと呟いた私の言葉にマスターは溜息をつきながら、頭を撫でてきました。
「今はとにかく休め。」
「…はい。」
時々マスターが自分の子どものように私のことを扱うのは一体何なのでしょうか…
あの、普通に考えて年齢的には逆のはずでは?
◇◇◇
2人が帰って暇になったのでテレビをつけるとニュース番組がやっており、その内容は案の定シールドについてのものでした。
トリスケリオンからかなり離れた距離から撮影されたものが映り、その裏でアナウンサーの解説する声が聞こえてきます。
専門家らしき男性が、第二次大戦の時のことや、今後の治安維持について憂うコメントを発しています。
また、私の槍がヘリキャリアを堕とす映像が鮮明とは言えないものの、確かに撮影されていました。
柔らかいケーキに入刀されるかのように、あっさりと金属の塊が刺し貫かれる様子は、改めて見ると非常にインパクトのあるものでした。
以前ならシールドの情報統制によって隠匿されたでしょう。
ですが、ヒドラも含めシールドの情報は全てが白日の元に晒され、これまで平和を維持するために尽力してきた組織は終わりを迎えました。
ただ、幸いなことに私のことについてはシールドのデータベースには最低限しか載っていません。
そして、シールドの長官のボディーガードであったとしても、アベンジャーズ程有名ではありません。
ニュースでも取り上げられているのは、キャプテン・アメリカとブラックウィドウ、そしてヒドラのことでした。
あの槍は、確かに映像として世に流れてしまいました。
ですが、マスターが死んだことになっている今、それが何なのかを知っている人は居ません。
いつまでも秘密にすることは難しいでしょう。
ですが、今だけはまだ普通の人の中に紛れていたいです。
◇◇◇
その夜、静寂に包まれた病室の窓から、まだ明るい外の街並みを眺めていました。
日中休みすぎたせいか、或いは普段の私がほとんど寝ていないせいか、中々寝付くことが出来ませんでした。
そして、この静かな空間のせいで、無意識のうちに思考が傾いていきました。
…数日前に私がしたことを。
「……」
直ぐにネガティブになる。
昔からの良くない癖です。
「私だけが、生きている…」
私の中に渦巻くのは、久しぶりに噛み締めているこの感情でした。
一体どれだけのシールドエージェントが志半ばその人生の幕を閉じたのでしょうか。
今回の一件で大勢のエージェントが命を落としました。
この手で大勢の命を刈り取りました。
ですが、それだけだったら、今まで通り時間をかけて自分の感情と折り合いをつけることが出来たかもしれません。
ですが今回は少し違いました……
私が〝彼女〟を殺した。
同じ道を辿らされた彼女を、よりにもよって私が殺した。
確かに引き金を引いたのは私ではありません。
ですが、あのチョーカーが爆発したのは私のせいです。
あの時飛び散った血はまだ忘れられていません。
私が居なければ───私というあの実験の成功個体が居なければ、計画が水面下で再始動することは無かったでしょう。
本当なら、きっとこんな血塗られた人生ではなく、1人の女性としての幸せを享受する歩みが出来たはず…
「なのに、何がもう少しだけ生きていたいだ。」
大事な人達と一緒にいるために、彼らを悲しませないためにまだ生きていたい気持ち自体は嘘偽りないものの……はずです。
ですが、私という怪物が、普通の人と同じ生活を享受する…
「そんな資格あるわけ。」
あるわけない。
あっていいはずがない。
「う゛っ……?!」
突然、胃のあたりに不快感が走り、暖かいものが本来とは逆向きに流れる感覚がしました。
まっ、ず…い
初めてでは無いこの感覚が何を意味するのかは明白でした。
私は急いでベッドから抜け出して口を抑えながら、病室にあった洗面所向かいました。
そして流しに顔を埋めた瞬間、酸っぱい液体が逆流し、焼けるような痛みが喉に走りました。
「……お゛ぇ、ゲボッゴボッ……はぁ、はぁ、ゲホッゴホッ。…う゛ぇ、」
夕食は半分も食べれなかったので、ボトボトと吐き出されたのは、ほとんどが胃液でした。
「ヴぁ……あぁ、」
いつの間にか、口から溢れたものと一緒に、目から涙も滴っていました。
一通り胃の中にあったものを吐き出して、口を濯いでから顔を上げると、もう長い付き合いになる己の顔が鏡に写りました。
そこにあったのは濁りきった青い瞳と、生きた人間とは思えない程白い顔でした。
「はぁ、はぁ……」
その後よろけながらもなんとかベッドに戻った私は、蹲るように身体を丸めて己を抱きしめながら眠りに着きました。
◇◇◇
頭の無い死体が、私の足首を掴んでくる。
『何で……お前だけ、』
いつも、私は血溜まりの上に独り佇んでいる。
でもここで私が生きるのを諦めるのは、その数多の死を冒涜し、踏みにじる行いでしかない。
きっとこれは、いつ終わるのかも分からないこの先の人生で私が背負い続ける十字架なのでしょう。
◇◇◇
翌日、部屋を訪れた看護師と入れ違いで、またナターシャが病室を訪れました。
「…ナターシャ、おはようございます。」
「えぇ、おはよう。」
彼女は、私のベッドのすぐ近くに置かれた椅子に腰を下ろしました。
ナターシャは、若干疲れているような、草臥れているような様子でした。
戦いの後はいつも後処理という問題が待ち構えています。
例え勝利した側であったとしてもです。
「ナターシャ、大丈…あっ」
その問いかけをした瞬間、ナターシャは私の左頬を優しく触ってきました。
「目元、赤いわよ……後、顔色も悪いし。」
流石、スパイといったところでしょうか。
直ぐにバレてしまいました。
一応今朝顔は洗ったのですが、それでも直ぐに見抜かれてしまいました。
「……このくらい、大丈夫です。後、ちょっと擽ったいです。」
「そいつの大丈夫は信用するな。」
「っ……マスター?」
病室の入り口には全身が黒のマスターが立っていました。
ですが、服装はいつもとは違って見窄らしい格好でした。
恐らく変装のつもりなのでしょう。
「こいつは昔から変わらない。どれだけしんどくても、他に迷惑かけたくないからって隠す。」
「それは……難儀ね。」
「あぁ、全くだ。」
「あの、2人して酷くないですか?」
◇◇◇
「で?何がお前をそんなにまで追い詰めてる?」
ナターシャには大丈夫だと伝えてなんとか納得させられましたが(まだ何か言いたげでしたが…)、マスターに対してはそう上手くはいきません。
ナターシャが退室してから、マスターは私の様子がおかしい理由を尋ねてきました。
「……。」
「言いたくないなら、無理強いはしない。私は…カウンセラーの経験は無いが、流石に長い付き合いだ。お前のことは分かる。」
マスターの瞳には、エージェントとして対象を決して逃さない冷徹さがまだ残っています。
ですが、その中には確かに私のことを心配している優しさもありました。
「………あの日、私のことを成功者と呼ぶ敵と戦いました。ヒドラの首がまだ残っていたのと同時に私を作った計画も人知れず残っていたのでしょう。」
「……そうか。」
「彼女は、自分のことを失敗作と評し、私に刃を向けました。」
「私は彼女を殺すのではなく。武装を解除し、降伏を要求しました。」
「かつての自分の姿と重なった彼女を、他のヒドラメンバーと同じように扱うことが出来ませんでした。」
「そして、私は彼女に手を差し伸べました。ですが、その瞬間彼女のチョーカーに仕掛けられていた爆弾が……」
「分かった、もういい。大丈夫だ。」
掠れ声になっていた私の言葉を遮ったマスターは、爪がくい込んでいた私の掌を優しく広げました。
「……ひ、人殺しはいつまで経っても慣れませんね。」
もちろん、その殺人の殆どは自分が意図的に引き起こしたものではありませんが…他責にするのは違うでしょう。
一緒に生きたいという我儘な願いと、生きる資格など存在しない怪物的な人殺しという重荷……その2つが心の中に同居していました。
「こ、こんな感情を味わうくらいならば、私は人としてではなく兵器として、冷酷に……」
感情を優先しない、ただの
必要なことを命じられ、実行するだけのロボットのように。
人との関わることの暖かさを享受することがなければ……躊躇うこともなく、冷酷に脅威を排除することが出来たでしょう。
ですが、これはマスターの優しさを踏み躙り、傷つける。
「それは、ヒドラと何ら変わらない。それはお前にも分かるだろう?私は、理不尽な世界で今日も懸命に生きてる連中のことを知り、1人のエージェントとして自分の意志で戦って欲しい。そんな風に思ったんだ。」
「……はい。」
「確かに、最初お前を見つけた時、その力に対して何も思わなかったと言ったら嘘だろう。だが、俺はそれ以上に、迷い猫みたいだったお前を放っておけなかった。シールドのエージェントとして、いつも通り人を助けるのと同じようにな。だから、形式上、お前のことをインデックスに登録はしたが、私が直々に形だけの監視だけで、それ以上の拘束や収容まではしなかった。」
「……。」
知っていました。
マスターが私のことをシールドに迎えた時、全員が良い顔をしなかったこと。
影で幾つもの根回しをし、理事や幹部を納得させたこと。
アカデミーも出ていないぽっと出のエージェントなのですから当然です。
今日までの私は、その優しさと期待に応えれていたのでしょうか。
マスターの役に立てていたのでしょうか?
「すみま、せん。」
私の口から無意識のうちにこぼれ落ちた言葉は、感謝ではなく謝罪でした。
「はぁ…」
私の謝罪を聞いた瞬間、マスターは大袈裟に溜息をつきました。
「その謝り癖はどうにかならんのか。」
「もう、直すのは手遅れな気がします。あと、結局私は〝彼女〟のような誇りや勇気を持ち合わせてはいません。シールドエージェントになってもしかしたらと思いました。ですが、それでも良いのでしょうか?」
「別に私も、
「……はい。ありがとう、ございます、マスター。」
マスターは、人間を逸脱し、もう後戻り出来ない人数の生命をこの世から消してきた私が、生き続けることを肯定してくれました。
その言葉は、私の胸の奥深くに染み込みました。
これ以上心配かけたいない…
もう泣くまいと…決めていたのに、体は言うことを聞くつもりはないみたいです。
視界がぼやけ、瞬きをすると、熱い雫が頬を伝い、手の甲へ滴り落ちました。
「……ありがとうございます。」
◇◇◇
「他に何か気になることはあるか?」
他に、気になること…
何も無いことはありません。
ですが、私の頭に真っ先に浮かんだのは…
「マスターはこれからどうされるのですか?」
「…私は、来週ヨーロッパに渡る予定だ。」
「ヨーロッパですか…?」
「あぁ、まだ残ってる奴らを相手しているエージェント達が居る。だから顔を出しに行く。」
「……ではそれまでには退院します。」
「あぁ、ちゃんと休め。」
「はい。」
そう言って私の頭を一撫でしてからマスターはパイプ椅子から立ち上がり、病室を後にしました。
全てがスッキリしたとは言い難いです。
ですが、それでもほんの少しだけ氷のように冷たかった心が、人の暖かさで溶けていくような感覚がしました。
誰かに打ち明けるのも大事だと、以前なにかの本で読んだのはこういう事だったのかもしれません。
その後、夢見が悪い日はあったものの、似たような嘔吐等の体調不良が起きることはなく、翌週私は退院しました。
◇◇◇
更に数日後、私たちはマスターの名前が刻まれた墓の前に集まりました。
マスターと一緒に。
まだ顔には絆創膏が貼られ、足や右腕にも包帯が巻かれていますが、日常生活を送るのには、問題ない状態にまでは回復していました。
「こういうのは初めてじゃないだろう?」
「……慣れてきたよ。」
「…複雑ですか?」
「まぁ、最初はな。」
「ヒドラのデータを分析して分かったが…全ての鼠が沈んだ訳じゃない。今夜、ヨーロッパへ飛ぶ。どうする?来るか?」
「その前にやることがある?」
「ウィルソンは?君の能力は買ってる。」
「俺は、スパイっていうより兵士だ。」
「……分かった。」
「ふっ、フラれちゃいましたねマスター。」
「……最初からダメ元だ。」
「失礼しました。残念そうにしているのが余りにも分かりやすかったので……」
「はぁ……まぁ、なんだ?私のことを聞かれたら、ここに来れば会えると言ってくれ。」
◇◇◇
「モルガン……ありがとう。」
2人に握手をしたマスターが歩き去った後、キャプテンは今度は私に話しかけてきました。
「……?」
あり…がとう?
何か礼を言われるようなことをしたでしょうか?
「いや、その一緒に戦ってくれたからさ。」
あ、そういう……
「…キャプテンに比べたら、全然ですよ。」
「いや、自分過小評価し過ぎだろ。」
キャプテンの後ろにいるウィルソンさんが、苦笑いしながら私のことを指摘してきました。
「サム。」
「え?、あぁ、悪ぃ。」
「いえ、その節があることはマスターやナターシャから何度も言われてますので…」
「サムのことはどうでもいいとして「おい!!」……モルガン、君は確かにそう思っているかもしれないが僕は確かに君に助けられた。最初、本部から脱出した時、車で回収してくれたのは?君だ。」
「あっ……」
私は、キャプテンが最初トリスケリオン内で襲撃された時のことを思い出しました。
「君の存在は、間違いなく僕らの助けになっている。ナターシャも同じこと思っているはずだ。」
そう言われたので自然とナターシャの方を向くと、彼女はいつもの通りの表情で頷きました。
「キャプテンの役に立てたなら…良かったです。」
「スティーブ。」
「??」
「任務中はともかく、プライベートではそろそろ名前で呼んでくれないか?」
「え?あっ……」
私は咄嗟にナターシャの方を向き、視線で救援を求めました。
ですが、彼女は肩を竦めるだけで助けてくれる様子はありません。
私が自分で決めろということですか。
最初は同業者くらいのイメージでした。
年齢が私と同じで特殊なので若干親近感があるだけでした。
ですが、今回の一連の出来事を経て背中を預けても怖くない存在にはなっていました。
彼は、私の生まれがヒドラに属すると知っても尚、変わりなく関わってくれました。
「…分かり、ました。ではこれからはスティーブと。」
そう言って私が軽く首を傾げてほんの少し微笑むと、それが余りにも意外だったのか、男性陣は目を見開いていました。
「え……あぁ、ありがとう。モルガン。」
そう言ってスティーブは、そのがっしりとした左手を差し出してきました。
「こちらこそ……ありがとうございました。」
その握手を求める手を、私は自然に握り返しました。
きっと彼は、これからヒドラの被害者である幼なじみを追うのでしょう。
その過程でヒドラと相対することもあるはずです。
その時は…微力ながらも助けたい、ですね。
◇◇◇
そして、次に私は彼を挟んで反対側に佇むナターシャの方を向きました。
「本当にあざといわよね……それで、あなたはこれからどうするの?」
「?まだ後始末があるので、とりあえずはマスターと行動を共にするつもりです。」
「そう…」
「ナターシャは?」
「仮初の姿はバレちゃったから…再出発しないと。」
そう言った彼女の表情はどこか切なそうなものでした。
「そう、ですか……何か手伝えることがあれば、連絡してください。」
「うん、ありがとう。」
私が感謝の言葉を口にしたタイミングで、ナターシャはゆっくりと近寄り、その両腕で抱きしめてきました。
胸が当たったことで、服越しでしたが、彼女の心臓の鼓動が私の方へ伝わってくる感覚がしました。
「一緒に戦ってくれてありがとう。」
「…それはこちらのセリフです。」
◇◇◇
「では、マスターを待たせるのもあれなので、私はこれで……」
「あ、その前に!」
私が行こうとすると、若干慌てた様子で二の腕を軽く掴んで引き止めてきました。
振り返った時視界に飛び込んできたのは、若干真剣な表情のナターシャでした。
「ちゃんと寝て、ちゃんとご飯を食べなさい?私たちみたいなのは、必要なことよ。」
「そう、ですね……善処します。」
「約束よ?」
「……はい。」
若干濁した返事をした私は、パーカーのポケットに手を仕舞い、通りに路駐した車の方へ向かいました。
私の姉にでもなったつもりなのでしょうか。
まぁ、でも……
「彼女と家族というのも悪くはなさそうですね。」
私が誰かと家族として暮らす日は、もうこの先訪れることは無さそうですが。
◇◇◇
ショッピングモールに放置していたのを回収した車に私とマスターは乗り込みました。
そして、助手席に座るマスターの方に向き直りました。
その服装にエージェントらしい面影は残っていません。
ですが、そのサングラスのレンズの奥には、まだシールド長官としての鋭さがありました。
「…コールソンとそのチームが、今極秘に動いている。」
こちらが尋ねる前にマスターの方が話を切り出しました。
「えっ……?」
その情報は、先行きの見えない今の状況において良いニュースと呼べる可能性のあるものでした。
「一応、私は表向きは死んだことになっている。だが、今後を見据えた時、彼は必要な存在だ。失うわけにはいかない。」
彼には、私に無いシールドエージェントとしての気高い志と、素質があります。
「……私は何をすれば?」
シールド内に大勢のヒドラが居た中で、マスターが信用している数少ないエージェントの1人が彼です。
そして、同時に対人能力が壊滅的な私の良き同僚でもあります。
彼のために動くのに躊躇いはありませんでした。
「彼らのチームと合流して欲しい。そのためにも、一旦お前はヒルと動いてくれ。私もすぐに追いつく。まだ病み上がりなのにすまない。」
「いえ、問題ありません。」
動けるようになったとはいえ、まだ魔力は半分も戻っておらず、いつも通りの戦闘が出来るかは怪しいです。
「世間的にシールドへの信用は今や皆無だ。大々的に動くのは中々難しい。だから、ウィザードチームは一旦待機してもらうしかない。だが、いずれ必要になる。」
「承知しました。チームにはセーフハウスでの待機を伝えておきます。」
「頼む。」
ヒドラの1番目立つ頭のピアーズは確かに切り落としました。
ですが、他にも首はまだ幾つも存在しています。
彼らは、その忌々しい首を擡げ、私たちのことを……私の大事な人たちのことを狙っています。
シールドという居場所は確かに崩れてしまいました。
帰る場所は瓦礫の山になりました。
ですが、そこにあった信念は未だ遺っています。
ならば、やるべきことはもう決まりました。
「さて、時間も有限なので行きましょう。先に空港でいいですか?」
Captain America: The Winter Soldier Complete ▷▶▷ Agents of S.H.I.E.L.D. Season 1
・後書きっぽいやつ
というわけで、ウィンターソルジャー編完結です。この駄文をここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
色々拙い部分や、設定や時系列がガバガバな所もあったと思います。申し訳ないです。
特に、モルガン自身の感情描写が難しかったです。
シンプルにまとめると、彼女のルーツがヒドラが造った能力者であるにも関わらず、フューリーや他の人たちは彼女を1人の人間として友人として接するので、兵器としての自分とエージェントとしての自分の感情が整理出来ず、上手く噛み合ってない状態と思っていただけたら…
それが、今回同じ実験の被害者と相対したことで、更にメンタルがぐちゃぐちゃにされたって感じに書いたつもりです…
次回は、このままウィンターソルジャー後のコールソン達の方に進んでいくつもりです。その後主人公の過去編をやって、エイジ・オブ・ウルトロンに行きます。
エージェントオブシールドに上手く絡められるかはちょっと怪しいんですが、ちゃんと全話視聴するくらいには好きなドラマなので……せっかくなのでやります(ちなみに好きなキャラはスカイです)
【挿絵表示】
こちらは、少し前にAIではなく、自分で描いたモルガンです。
ところでなんですが…
キャプテンアメリカ/中村悠一
ブラックウィドウ/米倉涼子
ニック・フューリー/竹中直人
この3人の中に吹き替え版が石川由依ボイスのキャラが投入されるの流石に豪華過ぎないか?と気づきました(今更)