勇者と召喚された男によって魔王は倒され、救われた世界
その裏側で何があったのか
50年後、勇者のもとに古株の記者が呼ばれたことから物語は始まる

1 / 1
異世界に現れた殺人鬼

 

 

人類と魔王軍との戦いにおいて、人類はおよそ一千万人もの犠牲を出しながらも、辛くも勝利を収めた

その勝利の立役者となった者は、当時若干16歳の少女である勇者と、勇者により異世界から召喚された男である

いや、その二人であると言われている、と言い直すべきだろうか

なぜなら魔王や魔将軍たちとの戦いを終えた時、異世界の男は消え、勇者はどのような戦いだったのかを口にすることは無かったのである

 

不思議なことはまだいくつもある

戦いを終えたとて魔物が消えてなくなるわけではなく、その討滅に勇者が何度か駆り出されたことがある

その戦いぶりは、城を出立したときに比べとても強くなっている

しかし、魔王や魔将軍を相手取ったとして勝てそうか?と聞かれれば、正直なところ難しいだろうと答えざるを得ないものであった

 

そして、これは魔王が討滅された後に分かった事だが、魔王は殺した人間の魂を集め、地獄より破壊神を呼び出そうとしていたのだ

その生贄として必要な魂の数は、かっきり一千万

しかし破壊神は姿を現すことはなく、地下に収められていた破壊神の祭壇に捧げられていた魂は、およそ999万

ここで調査団は首を傾げることとなる

人類の犠牲は一千万をわずかに超えているのだ

魔王や魔物が殺した人間の魂は自動的に祭壇に捧げられるよう細工が施されている

そして、人類は魔王軍との戦いに疲弊しており、同胞同士で戦争など起こすことのできる体力のある国家など存在はしていないのだ

ならば、この一万人の犠牲の差は一体何なのか

それに答えることのできる者は誰一人としていなかった

 

しかし人類は勝利した

ならばそれでいいではないか、という意見が主流を占め、勝戦ムードの中にいくつもの疑問は消えていったのだった

 

 

 

 

……………それから50年

昔と変わらぬ勇者の生家に、古株の記者である私が呼ばれることとなったところから、この話は始まる

 

 

 

 

「すみませんねぇ、こんなおばあちゃんのわがままで来てもらいまして」

「いえ、勇者様の頼みとなれば当然のことです」

 

品の良いおばあちゃん、というのが最もしっくりくるであろう女性

かつて勇者と呼ばれていた頃の面影は、恰幅のよい姿からは失礼とは思うが全く見られず、その痕跡も暖炉の上に飾られた剣以外にはどこにもなかった

 

「しかし、私のような新聞記者になんの御用でしょうか?

勇者様から私を指名されたと伺いましたが、思い当たる節が無いのですが……」 

「あら、私が初めて魔王軍から村を開放したときのあなたの記事、私まだ持っているのよ

あなたの記事を読んで、逃げ出した村人たちも帰ってきてくれたのだから、もっと自信を持ちなさい」

 

あれは私が記者になって初めて書いた記事だったか

“勇者様、湖の畔(ほとり)村に住み着いた魔物を壊滅させる!”

今思えばとてもつたない文章で、よくよく見れば誤字もあるようなお粗末な記事

それに畔村という言葉も今にして思えばおかしい

そんな記事を当の勇者様が覚えていてくださったと言うことが嬉しく、また気恥ずかしくもあった

 

「恐縮です

あれは初めて我々が魔物へ一矢報いたことが同じ人間として誇らしく、興奮して書き上げたことを今でも覚えています」

「ええ、だからあなたに話しておこうと思うの

私の、最期の懺悔をね」

 

最期の懺悔?

急に不穏な言葉が彼女の口から飛び出す

 

「私もそろそろ神様のところに逝く日も近くなってきたし、このことを言わずにいるのも疲れてきたの

だからあなたにすべてを話したいのよ

私が今まで、ずっと隠し続けてきた秘密

私が異世界から喚び出してしまった男の正体

 

あの男は [殺人鬼]なのよ」

 

 

 

………殺人鬼、だって?

あの男が?

私も勇者様の召喚した男と話したことこそ無いが、その姿は何度か見ている

あまり特徴がなく、ぱっとしない、中肉中背のどこにでもいそうな平凡な男

どうしてこんな男が魔王討伐の旅に同行できているのか疑問に思ったことも何度もあった

その男が、殺人鬼?

 

「あなた、今こう思ったでしょう?

あんな平凡そうな男が殺人鬼だなんて信じられない、って」

 

今の私は、とてもわかりやすい表情をしていたのだろう

だが、いかに勇者様の言葉とはいえどなかなか信じられるような現実味を帯びているとは思えなかった

 

「もっと言ってしまえば、あの男は普通の人間ですらない

[異世界の殺人鬼という概念]なのよ」

「……異世界の殺人鬼という概念?」

 

なんのことなのか、正直なところまったくわからない

これを話しているのが勇者様でなければ、狂人の戯言として流していただろう

しかし、勇者様の言葉には、淡々とした事実のみを語ると言った響きがあった

 

「あなたが書いた記事の村、どんな魔物がいたのか知っているかしら」

「えっ? それは記事に書いたとおりゴブリンが十数匹と聞いていますが……」

 

それを聞いた勇者様はふっと笑い、王国の機密保持部隊は優秀ね、とつぶやく

 

「あのね、あそこにいたのはただのゴブリンじゃないの

8匹のオーガ(人食い鬼)、そしてそれを率いていたゴブリンロードがいたのよ」

「!?」

 

2m以上の巨体を持ち剛力で暴れまわるオーガを狡猾なゴブリンロードが率いているとすれば、王都から討伐軍が組まれてもおかしくはない脅威である

ましてや、その当時の勇者様の実力では手も足も出ない相手

だが、事実あの村は開放され、今も帰ってきた村人たちが生活している

これはどういうことなのか

 

「もう1つ、あの村の近くに、魔物に滅ぼされた集落があるのは知っている?」

 

それにはすぐに思い当たる場所があった

あの村から2kmほど、住人20人ほどが住んでいた集落

 

「ええ、いたましいことでした

あの村に住み着いた魔物たちは、まずその集落を襲い進軍してきたのでしょう

住人たちは皆、首や体をナタのようなもので斬りつけられ殺さ----」

 

そこまで言い、私は違和感を覚えた

ゴブリンならば分かる

我々人間の使う道具を奪い、武器にする習性がゴブリンにあるためだ

しかし勇者様は、あの村にいたのはオーガであると言ったばかりではないか

オーガは戦闘時も基本的に素手、武器を使うことがあってもせいぜい太い木の棒を振り回すくらいだ

住民の殺戮にナタを使うとは考えにくい

またゴブリンロードも自分の手下がいるうちは戦闘や殺戮に加わることはほとんど無い

ならばあの集落の惨状を作り上げたのは

まさか

 

まさか

 

「最後の1つ

力を失っている殺人鬼に力を取り戻させるためには、どうすればいいと思う?」

 

----ああ、やはり、そういうことなのか

 

信じたくはなかった

敬愛する勇者様がそのようなことに加担しているなど

しかし勇者様の言葉を否定する材料を、私は何一つ持っていなかった

絶句した私の表情から、勇者様も私がすべてを悟ったことを理解したのだろう

どこか遠くを見るような目で話を続ける

 

「あの男は、薄笑いを浮かべて言ったの

 

[君は何もしなくていい

ただ待っていれば、明日の朝にはすべてが終わっている

私に明日の朝まで、自由に動いてもいいと許可をくれるのならばね]

 

私はあいつがどんな男なのかよく分かっていたから、もちろんそんな許可を出したくはなかった

でも、ゴブリンロードが率いるオーガなんて黙っていれば、日増しに犠牲が増えることも分かっていた

だから、あの男が好きに動くことを許した」

「……そして、何が起きたのですか」

 

勇者様は、はぁ、と大きなため息をつく

 

「あの男は、妙な仮面をつけて夜闇に消えた

次に私が知っているのは、翌日になって全てが終わってから

集落の人々が何者かに殺され、村の魔物が全滅して、私の召喚した男は満足げな顔で戻ってきた

 

……後日、罪の意識に耐えられなくなった私は王様にすべてを告白したわ

結局王様と、すぐに結成された機密保持部隊の隊員以外には知られることもなく、時は過ぎていったのだけれどね……」

 

 

 

·

·

·

·

·

·

 

 

クソ、クソクソクソクソクソッ!!!

一体何が起きてやがる、オーガが八匹だぞ!

ニンゲンどもの街を襲ったってツリが来る戦力じゃねぇか!

しかもそこに俺様、ゴブリンロードまでいるんだぞ!

だったらなんで、今俺様は逃げ出すようなことになってんだ!

だが八匹のオークはもう全員殺されちまった

一体何でこんな事になりやがったんだ!

 

分からねぇが、とりあえずは休憩だ

湖の畔のニンゲンが作った小屋、おあつらえ向きに水瓶と干し魚もある、ありがてぇ

藁束の上に腰掛けて、今夜何が起きたのか思い返すことにするか

 

まずは山からまっすぐこの村へ降りたときだ

あん時はニンゲンどもが泡を食ったように逃げていきやがって、なかなか面白い見世物だったな

 

だが、事はその後、暗くなってから起き始めた

 

まず殺られたのはいい仲になってたオス、メスオークの二匹だ

ニンゲンの飼っていた牛を焼いて食ってた頃から盛ってたんで、村奥の小屋を指差しあそこでヤッてこいと言うと、待ってましたとばかりにおっ始めやがった

しばらくはメシが不味くなるような声が響いてたが、四半刻もすると静かになった

あいつらヤリ疲れて寝ちまったのかとおちょくりに行った若オークが、緑の顔を真っ青にして戻ってきやがった

 

ヤツらは殺られていた

 

メスは後ろから頭にナタのような刃物をブチ込まれて、オスは顔面を踏み潰されて床に転がってた

ニンゲンの仕業じゃない

オークの頭蓋骨を、ナタを持ったニンゲンの細腕で刃を頭頂部から首まで埋めることも、足で顔面を潰すこともできるはずがねぇ

魔物が殺ったとも思えない

だいたい俺様たちを襲ってなんの得があるってんだ

獣にしては殺り口が鮮やかすぎる

考えても考えても分からねぇ

 

その時、村の中心部からバカ、アホ、マヌケ3兄弟の絶叫が聞こえてきた

肉食ってたいとぬかしやがって、異変にも関わらず火の周りから動かなかった筋金入りのボケどもめ、今度はなんだと駆けつけると、マヌケ野郎がこっちを向いて立っていた

おいどうした、さっきの悲鳴はなんだ

と近づいた俺様たちが今度は悲鳴を上げることになった

 

マヌケ野郎はこっちを向いて立っていた

だが、体はそっぽを向いていた

首を折られても数秒は生きていたのか、近くで見るとものすげぇ形相じゃねぇか

バカ、アホ野郎も牛を焼いていた炎に全身を押し付けられ、肉も内蔵も焼けただれて死んでいやがる

2mはある2匹のオーガを、それぞれ片手で死ぬまで炎に押し付けて殺したことは間違いねぇ

だが、何ならそんな事ができる

10mもあるような魔獣なら可能だろう

だがマヌケ野郎には外傷が無く、首だけをへし折られていた

だいいち、それじゃさっきのナタ野郎の説明がつかねぇじゃねぇか

 

呪いだ、呪いだと叫びだした臆病者二匹が村の出口へ向けて走り出した

待ちやがれ!バラバラに動くな!

そう俺様が言い終わる前に、二匹はその場に倒れ込む

よく見るとニンゲンが猟にでも使ってたトラバサミが、二匹の足に噛み付いていた

まあそれはいい

筋肉の発達したオークの足からすれば、痛みはあれど大した問題にはならないし、腕力で簡単に外すことができる

 

だが、痛みに身悶える二匹の側の小屋

そこから、ヤツが現れた

 

そいつは大柄な体だが、ただのニンゲンに見えた

ボロボロの服、まばらな髪、小屋にあったのか錆びついた斧

何より目を引いたのはその顔

いや、顔に張り付いた、穴だらけの妙な仮面

こいつが犯人だ

そうは思うが、まだ俺様は自信を持てなかった

だってそうだろ? ニンゲンだぞ?

ニンゲンがオークの頭をナタでかち割り、頭を踏み潰し、首をへし折り、片手で炎に押し付けて殺しただ?

そんなわけねぇだろ、冗談も大概にしやがれ

ならばこいつはなんだ、村人か、いやそんなわけ----

俺様の思考はそこで止まった

あとは目の前で起きたことを受け入れることしかできねぇ

 

ヤツはまず、ゆっくりと臆病者二匹の後ろに周り、斧を振り上げる

おい、後ろだ!

俺様がそう叫んだときには、すでに斧は一匹の頭をザクロのように潰していた

すげぇ力で叩きつけられた斧は、一発でひしゃげ、折れちまっていた

だがそれで気がついたもう一匹がヤツの両腕を掴む

勝った

あとは腕をへし折ってなぶり殺せばいい

 

この期に及んで俺様はまだ、そんなことを思ってた

 

ヤツは止まらねぇ

オークに掴まれていることを意にも介さず動かし、両親指を、臆病者の両目に突っ込みやがった

悲鳴

潰した右目に、無理矢理右腕を突っ込む

悲鳴 悲鳴

右手を抉るように動かす

悲鳴 悲鳴 悲鳴!!

……そして、悲鳴が止んだ

俺様も、最後に残った若オークも、助けることも動くこともできず、バカみてぇにただその場に突っ立っていた

ヤツが、俺様たちを見た

次はお前らだ

それはやつの言葉だったのか、俺様の妄想だったのか、今でも分からねぇ

 

殺らなきゃ殺られる

その恐怖に駆られた若オークは、その場に落ちていた倒木をつかみ、ヤツに向かって走った

ヤツは動かない

ゴン、と鈍い音が響く

それはヤツの頭に倒木が叩きつけられた音

それから立て続けに鈍い音が続く

腕、体、足に倒木が叩きつけられた音

それは俺様からすれば勝利のファンファーレにも聞こえた

力は強いかもしれねぇが、動きは鈍いニンゲンに似たナニカ

だがその正体なんぞもうどうだっていい

ここでヤツを殺して、この村の物資を奪って、いったん山に戻る

またオークを引き入れてニンゲンの村や町を襲撃する

なぁに、これは負けじゃねぇ、戦略的撤退ってやつだ

勝利のファンファーレの最終楽章、殴りつけすぎた倒木が折れる音が響き渡る

そしてヤツはミンチに………

は? どういうことだ?

血は流れ、ボロの服はさらにボロボロになってるが、五体満足のヤツが立っている

腰から、剣みてぇな長さのナタを抜いた 

おい、待てよ

オークがあれだけ殴りつけたんだぞ

死ねよ

死んでくれよ

死んでなきゃおかしいじゃねぇかよぉ!

 

俺様は逃げ出した

あの若オークがどうなるのか見るまでもねぇ

助けに行く? それこそバカな話だ

俺様は頭脳労働、オークどもは肉体労働担当

そしてオークが手も足も出ない相手に、俺様が立ち向かってなにができる

後ろから、若オークの絶叫が聞こえるが足を止めない

死にたくねぇ

その一念だけが俺様の足を動かしてた

 

 

 

 

 

 

-----ああ、そうだ

あの恐ろしい、ニンゲンでも魔物でもないナニカから逃げ出して、俺様はここに隠れてるんだ

外からスズメの鳴き声が聞こえてくる

そろそろ朝だ

すっかり明るくなってからこの小屋を出て、全速力で湖を離れる

あとはそこらのゴブリンの巣穴に飛び込めばいい

なにせ俺はゴブリンロードだ

どの巣穴でも歓迎されるに決まってる

そうだ、そこからまた再起をはかればいい

今度はオーガだけじゃねぇ、ドラゴンなんかも連れてきてやろうか

小屋の窓から光が差し込んできた

俺様は登ってきた太陽を見ようと窓に近づき

 

 

ヤツと目が合った

 

 

反射的に逃げようとするも、ヤツの手が俺様の首を掴む方が早かった

そのまま俺様の体は窓から引きずり出され、ヤツと数センチほどの距離まで顔が近づく

仮面の下の目はニンゲンのようだったが、その目はニンゲンとは思えないほどに濁りきっていた

きっと、生きている者を殺すことにしか興味がない、目を見ただけでそう核心できた

そしてヤツは、俺様の首を掴んだまま、もう片手で頭を鷲掴みにする

 

痛い 痛い 痛い 痛い!!

 

こいつは、俺様の頭を、抜く気だ

 

痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 

頭と体の境目が広がる

首からブチブチと肉が離れようとしている音が聞こえる

 

痛い痛い痛い痛い痛いいた

 

 

とれた

 

おれさまのかおを

ヤツがもちあげて

からだは

じめんに

 

 

ヤツはもりにきえてった

おれさまのあたまはころがって、すきとおったみずうみがよくみえた

さいごにきれいなものがみえてよかったなぁ

そういえば、にんげんがこのみずうみをうまいなまえでよんでたなぁ

そうだ、このみずうみのなまえは

 

 

 

 

 

水晶湖(クリスタルレイク)

 

 

 

 

·

·

·

·

·

·

 

 

 

 

 

 

13日の金曜日(ジェイソン・ボーヒーズ)

その日取り戻した姿を、あの男はそう呼んでいた

それはこの世界に現れた、最初の異世界の殺人鬼なのよ」

「待ってください、最初のとは?

その姿で魔王軍を倒していったのではないのですか?」

 

どこかできの悪い生徒に言いきかせる先生のように、勇者様は私の質問に答えた

 

「今はもう壊されて跡形もないけれど、破壊神の祭壇、一万人の誤差の理由

あなたは疑問に思ったことがないかしら?」

「………まさか」

「もちろん一万人すべてが、と言うつもりはないわ

魔物ではない獣に食べられた人、人同士の諍いや強盗、他にも考えればいくらでも理由は見つかる

でもね、あの男の一番近くにいた私は分かる

その半分以上を殺したのは、間違いなくあの男よ

 

力を失った殺人鬼が再起するためには人を殺さなければならない

逆に言えば、人を殺せば殺すほど力を増していく

そしてあの男は、異世界の殺人鬼という概念

概念の姿が1つだけなんて、あなたは信じられるかしら?」

「あなたは、それを許したのですか」

「ええ」

 

私の中で、勇者様への心が大きく揺らいでいた

勇者様とその男は、虐殺と言っても過言ではない数の人間を殺し、それを黙認した

でもその虐殺がなければ、我々人間は地上から一掃されていた可能性すらあるのだ

彼女の行動を是か非か、この場で決めることはどうしてもできなかった

 

「人々の死を喰らい、あの男はどんどん強くなっていった

殺した人の皮の仮面をつけ、高速で動くノコギリを振り回して魔物の砦を襲撃

不気味な道化師のような仮面をつけ、どうやったのかわからないけれど魔将軍の一人を誘拐して[ゲーム]に参加させた事もあった

もちろんその魔将軍は[ゲーム]の中で死んだわ

ついには魔物でも、人間でない姿になったことすらあったわね

あの男は魔物も人も食い殺すその姿をエイリアン(ゼノモーフ)と呼んでいたわ

 

そして、あの男は最後に、私に最悪の選択をさせた」

 

もうやめてくれ

これ以上、私に幻滅させないでくれ

あなたを心から信じていた私を返してくれ

そう心で叫んでも、耳は彼女の言葉を一言も聞き逃さないように集中していた

 

「魔王城に入る前、あの男は契約を迫った

 

[魔王を倒した暁には、私を自由にしてほしい

協力するなら、お互いに交換しようじゃないか

私は魔王を倒し世界に自由を与える

君は私に自由を与える

公平な、いや、君たちにとって非常に利のある契約だと思うのだが]

 

魔王城突入の、絶対に嫌とは言えないタイミングでの契約

その時のあの男は、私の心を完全に見透かしていたわ

私は、殺される直前の羊のように沈黙し、そして頷いた

自由にする、言葉に出して言わなかったのは最後のささやかな抵抗だった」

「……そして、魔王は」

「勇者と仲間に魔王は倒され、世界に平和が訪れた

ハッピーエンドよ

少なくとも私は50年間、そう自分に言い聞かせて生きてきた」

 

世界は魔物の手に落ちず、破壊神も現れず、今も人々は生を謳歌している

人が人を殺す、獣に食われる、魔物の残党に襲われる

そんな暗いことだって今も続いている

ならば、その暗部に、もう一人殺人鬼が増えたって大したことじゃないじゃないか

今ならわかる、勇者様はそう自分に言い続けて来たのだろう

 

「これで私の懺悔はおしまい

これを記事にするかどうか、それはすべてあなたの裁量に任せる

きっと聞きたくないであろうことを聞かせてしまって、ごめんなさいね」

「……最後に1つだけ教えてください

その男は、いったい何がしたいのですか

人を殺し、様々な姿と力を手に入れ、また人を殺す

そんなことを繰り返して、その男の本当の望みは何なのですか」

 

ここまでの話の中で、勇者様は一番大きなため息をついた

それはきっと、[理解できない]という意味のため息なのだろう

 

「恐怖を与えたい

あの男はそう言っていた

この世界に来る前の世界でも、たくさんの殺人鬼や怪物が人を殺し、怖がられていた

その恐怖をこの世界でも人々に与える、それが自分の使命であり存在理由なんだ、ってね

恐怖を与えるべき人々を滅ぼそうとする魔王や破壊神は邪魔、だから私に協力しているんだよ

そう説明されたわ、今でも意味はよくわからないけれどね

 

だから、きっと今も、あの男は使命を続けているはずよ」

 

 

 

 

 

 

 

それから1年後、勇者様は亡くなった

多くの人々が涙した英雄の死だった

葬儀には世界中から参列者が集まり、彼女の死を悼んだ

だが、私はどうしても参列する気にはなれなかった

勇者様から教えられた殺人鬼、記事は書き上げたが、その記事はずっと私の机の中で眠っている

きっと世に出そうとしても、王国の機密保持部隊に握りつぶされておしまいだ

私にも危害が及ぶだろう

それに勇者様の名前にも傷が付き、下手をすれば今の世界の平和すらも揺るぎかねない

だったらそんな危険を冒さないほうがいいに決まっている

 

……ああわかっている

そんなのは詭弁だ

本当は怖いんだ

この記事を世に出すことで、私自身が殺人鬼に目をつけられるのが怖いんだ

今もどこかで人を殺し続けている男が、自分の正体を告発しようとする私を見逃すはずがない

それならいつか、私が死んだとき、最初に机から見つけた人にこの記事をどうするかを託そう

我ながら後ろ向きな姿勢だ、それでもジャーナリストかと情けなくなる

だが、これならば私が殺人鬼に目をつけられることなく、真実が世に出る可能性を残すことができる

すでに恐怖に囚われている私にできることはそこまでだ

今日もその恐怖から少しでも逃れるために、勇者様から話を聞いたあの日から日課となってしまった寝る前のウイスキーをあおり、ベッドに入り頭から布団をかぶるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1つ 2つ フレディが来るよ

 

 

3つ 4つ 鍵をかけて

 

 

5つ 6つ 十字架を握って

 

 

7つ 8つ 今日は夜更かし

 

 

9つ 10 眠ったらおしまい

 

 

1つ 2つ………………

 

 

 

 




ホラー映画、スプラッタ映画が大好きでできたお話です
たぶん続かない
楽しんでもらえれば嬉しいです

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。