転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか   作:サンドフード

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A.D.2056 マヤとの遭遇

 

「お?」

「どうしたのマヤ?」

 

 刑部蒔絵はそう問いかける。

 彼女が今、霧の重巡マヤに乗艦している経緯は複雑極まりないものだ。

 

 刑部蒔絵はデザインチャイルドであり、幼いながら何を隠そう振動弾頭を開発した張本人である。

 そして401に敗れメンタルモデルのみとなったハルナと、互いの正体を知らぬまま偶然出会い、友人となった。コアのみとなっていたキリシマが、クマのぬいぐるみと化したのも、この時である。

 だが強硬策に出た中央管区陸軍の襲撃によって、蒔絵は北管区に逃れた。手を回した北管区首相である刑部眞もまた、デザインチャイルドであり、蒔絵の兄と呼べなくもない間柄だったからだ。

 そしてハルナ達も追って北管区に上陸し、紆余曲折あって蒔絵と合流したハルナ達は、眞の依頼で第四施設を調査することになったのだ。

 

 マヤはもともと横須賀を襲撃したハルナ達の別隊として、横須賀港を封鎖する任務を帯びていた重巡である。

 だがハルナ達が破れ、その回収役としてマヤだけが横須賀沖に残された。

 その後、感情を暴走させたハルナと同調して対地殲滅攻撃を実行しかけたり、それをアドミラリティ・コードらしき存在に制止させられたりと、キーパーソンならぬキー艦艇のような一面もある。

 そしてハルナ達派遣艦隊の中で唯一、艦体を保持している者として、移動役兼戦力として便利に使われている。現在は、ハルナ達はメンタルモデルで学園に潜入しており、留守役兼イ400らへの牽制として横須賀沖に滞在していた。

 

 そんな間接的な間柄のマヤと蒔絵だったが、この二人はやたらと気が合った。あるいは気の合いようでは直接の友人であるハルナ以上と言っていいほどに。

 時にはノリが良すぎて、ある意味暴走しがちでもある。

 

「何か潜航して近づいてきてる、かな」

「またタカオやイ400?」

 

 音楽を愛するマヤは、それを反映してか音響関係の機能に優れる。ソナー系も例外ではない。

 マヤが再び横須賀沖で待機し始めて以降、第四施設の調査を拒もうとするイ400や艦体を取り戻したタカオが、牽制のために定期的に接近してくることを繰り返していた。

 だがこの時は、それらとは異なっていた。

 

「ううん、これは外海の方から近づいてきているね。音紋も聞いたことない感じだし…」

「外海から? うーん、増援なのかな。今更って感じもするけど…」

「やっちゃう? やっちゃう?」

「人類の潜水艦ではないんだよね?」

「聞いたことない音紋だけど、重力子エンジンなのは間違いないかなー」

 

 普段同行している蒔絵の護衛であるサイボーグ女性の立夏は、間もなく開催される学園祭への打ち合わせに向けて近く予定されている、ハルナ達との一時的な合流を目撃されないようにするため地上側の調整に出かけていて、不在である。

 つまり今、この二人を止めるものはいない。

 

「やっちゃおう! 音響魚雷発射!」

「いえっさー!」

 

 音響魚雷が発射され、不明艦の近傍で炸裂する。

 いきなり侵食魚雷を打ち込まなかったのは、せめてもの自制か。

 

「これで浮上してくるならよし…こなかったら…どうしてくれようか?」

「反響音解析中…けっこう小さいね。あ! 不明艦、魚雷発射!」

「タナトニウム反応は!?」

「なし!」

 

 予期せぬ交戦に、海上と海中はにわかに騒がしくなる。

 

「こっちも通常弾頭魚雷で応射! 回避運動も!」

「ふぁいやー!」

 

 何発かは相殺して撃墜されるが、少なくない数の魚雷がすり抜けて向かってくる。

 さらに、音響魚雷で海中がかき回されているにもかかわらず、終端誘導も有効に効いている。こちらの回避運動を読んでいたと言わんばかりに。

 

 何発かの通常弾頭魚雷が直撃し、船体を揺らす。エネルギーを吸収してクラインフィールドが輝いた。

 

「うわわ!? 思った以上にやる相手だよ?」

「やばいのに喧嘩売っちゃったかなー」

「侵食魚雷に切り替える?」

「それはなし!」

 

 こちらの魚雷も炸裂しているが、命中しているかどうかは判然としない。

 海中音が大いに乱れて状況の把握が難しくなっていた。

 

「お、不明艦増速! それとまた魚雷発射! 今度は一発だけ!」

「一発だけ? あ! 音響魚雷だそれ!」

「およよ」

 

 ドギイィィィィィ

 

 蒔絵の推測通り、相手の音響魚雷が海中で炸裂し、海中感度がほぼ失われる。自分の撃ったものなら音響パターンが既知なので解析可能だが、相手の撃ったものではそうはいかない。

 やがて音響が収まる頃には、海中からは一切の音が失われていた。

 

「不明艦、ロスト。ぐぬぬ」

「無音航行で海流に入ったのか…このへんの海流パターンも知り尽くしているわけだ」

 

 ブリッジの蒔絵は熊耳のヘッドホンを外し、ため息をつく。

 マヤも戦闘態勢を解除し、ブリッジに顔を出した。

 

「逃がしちゃったねー。何だったんだろうね」

「正体は分からないけど、こっちも霧の船だって解った上で通常弾頭魚雷しか撃ってこなかったでしょう? 浮上するつもりはないけど、本格的にやり合う意思はないっていうメッセージだよ」

「ほー、なるほど」

 

 通常弾頭魚雷では、霧の艦艇のクラインフィールドを突破することはできない。こちらもその意思を汲み取り、侵食弾頭を使わなかった。

 魚雷の制御の上手さを見るに、相手がその気で侵食弾頭を使っていたなら最悪沈められていた可能性さえある。

 

「だたこれ、通常の霧の思考ルーチンとは思えないよね。ひょっとしたら、相手も乗っているのかも」

「乗っている? 何が?」

「人間」

 

 すでに分かっているだけで千早群像と、自分たちという二例があるのだ。二度あることは三度あるともいうし、人間を乗せた霧の船が他にもいても不思議ではない。

 そして頭も切れる。こちらがさほど本気でやり合うつもりがないことを瞬時に見抜き、このようなメッセージを送ってきた。さらには、こちらがそのメッセージを読み取れることさえも、読んでいなければこのようなことはできない。

 油断ならない相手だった。

 

「それよりも私達は、考えなきゃいけないことがあるかもしれない」

「なあに?」

「勝手に交戦したから、ハルハルたちに怒られるかも。どうやって言い訳しよう?」

「あっ……」

 

 急な交戦情報に慌てて連絡してきたハルナに概念伝達でこっぴどく怒られたのは、この後間もなくのことである。

 




主人公の初実戦がこれってマ?

引き続き更新が若干不安定になってしまいそうですが、なにとぞご寛恕願います。

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