「「っ!!」」
「遠坂、今の……」
「悲鳴、よね?」
周りを確認する遠坂を置いて、俺は一目散に悲鳴が聞こえた方向へ駆け出した。
「ちょっと!?衛宮君!」
それに気付いた遠坂も後について走ってくる。
そして渡り廊下にて倒れている女子生徒の姿を見つけた。彼女の元へと近づき脈や呼吸を確認する。
「っ……。(呼吸が……)」
女子生徒の呼吸は止まっていた。遠坂が原作で言っていた中身が無いというのはこういうことだったのか。そう思い、悪足掻きではあるが心肺蘇生を試みる。二、三度胸骨を圧迫をしていると、遅れて遠坂がやって来た。
「っ、衛宮君!」
「遠坂!この子、様子が変なんだ。どうにかならないか?!」
そう言われ遠坂は女子生徒を見ると驚いた顔をした。
「この子、中身が無いわ」
「中身?」
「魔力。もっと言えば生命力ね。それが全然足りていないの。この子、放っておいたら死ぬわ」
「そんな!?何とかならないのか?」
俺がそう言うと遠坂はポケットから宝石を取り出し、女子生徒の胸元へ掲げた。掲げた宝石が淡い光を放ち始めた後、女子生徒は息が戻ったのか何度か咳き込んだ。
そのことに安心していると、ふと左方面から何か妙な気配を感じた。その方面を見ているとこちらの方に向かって何か鋭利なものが投げ込まれるのが見えた。
「遠坂!危ない!!」
俺は咄嗟に右腕を突き出して遠坂を庇う体勢を取った。次の瞬間俺の右腕からグジュリと肉が抉られる嫌な音が響いた。そして辺りには肉が抉られたことによって流れた俺の血液が飛び散る。
「ァ゙……?!ぐ………ぁ、」
痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいイタイイタイ!!何で俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ、何で何でなんで!
肉を思いっきり削られたことによって激痛が走ってきたが、何とか
「な、何よ……それ……」
「っ、ぅ゙……」
遠坂を庇った俺の右腕には細長い釘のような短剣が深々と刺さっており、さらにはその短剣と結び付いているであろう鎖が何重にも巻き付けられていた。暫くすると襲撃者の武器であろう物は幻であったかのように消えていったが、傷口を塞ぐものが無くなった影響による流血と今も尚続く痛みが幻ではないと強く物語っていた。
「何で、そんな……いや、そんなことじゃなくてっ!血!血がそんなに出てるのに……!い、痛くないの?!」
「いや、痛い。とんでもなく痛い」
遠坂が酷い流血をしている俺を心配して怪我の事を聞いてきてくれるが、今の俺は襲撃者であるライダーにどう立ち向かうかを考えるので精一杯だった。故に遠坂の心配を余所に武器の飛んできた方向を見据えながら俺は立ち上がった。
「……悪い、遠坂。その子を頼む」
「え?!ちょ、ちょっと!」
そして遠坂の返事を聞かないままに俺はライダーが居るであろう場所へと向かった。
ーーーーーーーー
気配の感じる方向へと向かうと木々が生い茂る雑木林のような場所へとやって来た。遮蔽物が多い空間なので注意深く周りを探っていた時、遠くから人影が高速でこちらの方に迫って来ていた。間一髪の所で武器を用いて直撃を避けることには成功させた。
迫って来た人影が居るであろう場所に目線を向けるとそこには、とても長い紫色の髪を持つ女性の姿があった。瞬時に認識出来たのはそれだけであったが、事前情報を持つ俺には十分なものであった。やはり攻撃してきたのはライダーで間違いないだろう。
「サーヴァント……!」
なので状況からサーヴァントと推測した声を挙げる。するとライダーはすぐに気配を周りの雑木林に隠してきた。そして死角から鎖の付いた短剣と速さを活かした攻撃を繰り出してくる。
「ぐっ……!!」
…………駄目だ。昼間は囮になるだ何だと考えはしたが、そんな悠長なことを言っていられるような相手ではない。辛うじて殺気や気配を感じて直撃を避けるので精一杯だった。かといって、令呪を使ってセイバーを喚ぶだなんてことはしない。使おうとすれば殺されることを知っているからだ。
ひとまずはライダーと同じく木の影に隠れ、背後からの攻撃は避けれるように移動する。辺りの警戒も忘れない。
「驚いた。令呪を使わないのですね、貴方」
「こっちにはまだ奥の手が残っているのでね。令呪はそれが通じなかった時に使うつもりなのさ」
何処からかライダーの声が聞こえてきた。ここからは姿を視認することは出来ないが、声が聞こえてきたということは近くには居るのだろう。様々な場所に目線を向けながら俺はライダーに令呪を今使うつもりは無いと述べる。
勿論これはハッタリなのだが、少しでも警戒心を持ってもらう事と、令呪を今すぐには使わないことが伝われば万々歳だと思っての行動だ。
「そう……貴方は私のマスターとは違って勇敢なのですね」
「・・・・。」
違う。俺は、ちっとも勇敢なんかじゃない。今だって痛みや恐怖で足が竦みそうで逃げ出したいのをただ必死に我慢しているようなもんだ。本気で逃げたいけど、逃げたことによって死ぬ方が嫌だからこういった戦闘では原作の最適ルートを辿ることで最悪は避けられると考えてここに居るだけだ。
そうとは言い出せず黙って相手の動きを探っていると、
「では、私もやり方を変えましょう。貴方は……優しく殺してあげます」
そういうライダーの声と右手側の木が鈍く軋む音が聞こえてきた。咄嗟にそちら側へ武器を構えると金属同士がぶつかり合う音と火花が舞った。
縦横無尽に雑木林を駆け巡るライダーは武器のリーチの差、付属する鎖、はたまたその先に付く短剣を用いて様々な方法でこちらに攻撃を繰り出してくる。それに対して俺は相手の姿を視認することが出来ず、勘だけでなんとかライダーが攻撃してくる方向を予測して咄嗟に武器を構えて防戦一方となる状態に持っていくので精一杯であった。
「ぐ、ぅぅぅ………!はぁっ!!」
「!?」
何度目かの防戦の末、俺はライダーの攻撃を押し返すことに成功した。ただの人間に攻撃を押し返されることはないと考えていたのか、ライダーの口から驚きの声が漏れた。そこで俺は改めてライダーの姿を確認する。
瞳は目隠しがされている為確認することは出来ないが、それでも美人であることは間違いないであろう顔立ちをしている。日本人離れしたスタイルやすらりと整ったプロポーション、紫色の長い髪も彼女の良さを引き立てているように思う。まぁ、ボディコンのような服を着ているのは少々年頃の男にとっては目に毒というか何と言うかといった感じだが……
油断されているとはいえサーヴァント相手に力押しで一度勝ったことに安堵し、思考が少々ズレてしまったようだ。急いで目の前のライダーに思考を集中させる。
「どうしました?怖気づきでもしましたか」
ライダーの攻撃に押し勝った後、特に行動を起こさない俺を不審に思ってかライダーは挑発を仕掛けて来た。しかし俺はこれに乗ることはせず、あえて逆に挑発を仕掛けた。
「ハハっ、そんなまさか。ただ、いくらサーヴァントと言えども他の奴らよりも些か迫力は負けるから俺にも戦えそうだと思ってた所だよ」
「へぇ……そうですか。それは良い心意気ですが、気付いていますか?貴方は初めから私に捕らわれているということに」
「っ!?ぅ゙わ……!」
そう言うとライダーは右手を前に突き出した後に後ろへ勢いよく引く動作を見せた。次の瞬間チャリ…と鎖の音が聞こえ、それを認識した時には既に遅く、俺の身体はその鎖によって真後ろにあった木の枝に強制的に宙にぶら下がる形にさせられてしまう。
「ァ゙、ガぁぁ……!!!」
まともな治療が出来ていない右腕に身体の全体重が急激に掛かった為、激痛が走る。あまりの痛さに宙でのた打ち回りそうになっていると、ライダーがゆっくりと歩きながら近づいて来た。
「そう言えば、先程は何か興味深いことを言ってらしたようですが……。確か、私は他のサーヴァントよりも些か迫力は負ける、でしたか。それは困りものです」
そう言いながら近づいてくるライダーにせめてもの抵抗で武器を振るうが、すぐに弾かれて無力化させられてしまった。さらには後ろから顔に手が回され、ゆっくりと力が込められていくのを嫌という程感じさせられた。
「まずはその誤った眼からいただきます。残った手足はその後にでも……」
「──っ!!?」
このままでは本当に殺される……!と思ったその瞬間、どこからか黒い何かが撃ち込まれるのが僅かに見える視界から確認することが出来た。原作を参考にするならばこれはおそらく遠坂の放ったガンドだろう。
遠坂の放ったガンドはライダーを俺から強制的引き離させ、更には鎖にぶつかったことで右腕の拘束も解いた。幸い吊るされては居たがそれほど高くなかったので、自由になった俺は重力に従いその場に着地した。ライダーは二対一は分が悪いと反対したのか、この場から立ち去っていた。
「衛宮君!無事!?」
俺を心配し後を追ってきてくれた遠坂が駆け寄りながら無事かどうかを問い掛ける。
「あぁ……何とかな」
俺は取り敢えずは命は何とも無いことを遠坂に告げた。
「……っ!右腕の処置がまだでしょう?今、血止めを行うわ。衛宮君、何か巻くもの持ってない?」
俺の返事に遠坂は一瞬ホッとした顔をしたが、まだ流血している右腕を見た途端に血相を変えて治療に取り掛かろうとしていた。
「えぇーっと……あ、ハンカチ発見。いつも桜が用意してくれるんだ」
何か巻くものは無いかと言われポケットを探すとハンカチを発見した。そのハンカチは桜がいつも用意してくれるのだというと、
「似たもの同士か……けど、無いよりマシよ。私のタオルとコレで何とか格好くらいは付けれるから」
聞こえるか聞こえないか絶妙な声で似たもの同士と呟き、そしてハンカチとタオルを手に取って応急処置を施してくれた。
「それで……さっきのはサーヴァントね?」
「あぁ。突然襲われた」
遠坂の言葉に肯定を示し、襲われたと言うと遠坂はとても心配そうな顔をしていた。
「なっ、そんな顔をするなよ。正体は分からなかったが、学校に俺達以外のマスターが居るっていう情報は得られただろう?」
「……………ようやく尻尾を出したってわけね」
俺の言葉に少々納得のいっていない様子を見えていた遠坂だが、取り敢えずは話と治療を進めることにしたようだ。遠坂は手慣れた手つきでタオルを俺の腕に巻き付けて行き、最後にハンカチで解けないように結び付けてくれた。
「よし……。応急処置はこんなところね」
応急処置はこれで済んだらしいので俺は女子生徒の安否について聞いてみることにした。
「遠坂、さっきの子はどうなった?」
「もち直したわ。もう大事は無いと思う」
「そうか……それは良かった」
女子生徒の安否を確認しホッとした俺はゆっくりと立ち上がり、遠坂との距離を取って彼女の動向を伺う。
「え、な、何よ。人の顔をジッと見て。い、言っておくけど!私はあんな事はしないからね!」
俺の行動の意図が分からずキョドる様子を見せ、更にこちらが魔術師とはこういう事をするのかと無言で責めているように見えたのかそんな事はしないと弁明もしていた。
「そんなことは分かっているさ。俺がこうしているのはさっきの続きをやるかどうかを伺っていたからだよ。んで?どうなんだ。やるのか?」
そう言うと遠坂は一瞬キョトンとした表情を見せたが、すぐに呆れた表情になり溜め息をつきながら顔を伏せた。
「遠坂?その……どうするんだよ」
「……やらない。今日はここまでにする。借りが出来ちゃったからね」
そう言って遠坂はスカートについた土を払いながら立ち上がった。
「じゃあ、行くわよ。その傷、ちゃんと治療しないと。私の家に着くまで我慢して?」
「え、遠坂の……家?」
ーーーーーーーー
俺の困惑を余所に遠坂は自分の家に躊躇うことなく招待してくれた。そして、彼女は家に着くなり屋敷の奥から救急箱を取り出してこれまた手慣れた手つきで傷口の消毒や包帯を巻くなどの治療を施してくれた。
「相変わらず
「え……」
遠坂のその言葉に困惑したが、埋め込まれた
「率直に言うとね、学校には私と貴方以外のもう一人のマスターが居て、さっきみたいな事を繰り返しているのよ」
「何でそんな事をするんだ?」
「きっと、聖杯戦争に勝つ為でしょうね。生徒皆を生贄にして、自分のサーヴァントを強化するつもりなんでしょうね」
「正気か!ソイツは!」
この場合の正気かの意味合いは俺と原作の彼とは少し違う。彼は無関係な人間を巻き込むことに対しての怒りだろうが、俺は人目に付く昼間に自分以外のマスターが居ると分かっていてそれを実行しようとする愚かさに対してだ。
何故ここまで違うのかは俺が基本的に臆病者で、身内が無事なら良いという考えを持ってしまっているからだろう。勿論目の前で行われるというのなら全力で助けに行くようにはしたいと思っている。だってそれはじいさんとの誓いにも繋がるから。
そんな意味合いを多分に含めてそう言うと、
「さぁ……。けど、学校には既に結界が張られてる。一度発動すればあの範囲にいる人間は、全て衰弱死するでしょうね」
「・・・・。」
範囲に居る人間全て、か。それが発動されてしまえば当たり前だが桜や藤ねぇ、それに一成などの身内にも被害が及ぶだろう。どうしたら良いものかと考えると拳に力が入ってしまう。
「衛宮君」
「ん?」
「私から振るのも何だけど……取り敢えず、休戦しない?」
そんな中、遠坂から休戦の話を持ち込まれた。
「休戦って、俺と遠坂で?」
原作通りでありながらも願ってもない話だった。聖杯戦争の立ち回りがいまいちよく分かってない体で立ち回るのには接触機会の多い遠坂の近くに居るのが、台本がある上で一番演じやすい場所でもあったからだ。
「私としては先にあっちを片付けておきたいの。だからそれまで休戦して、二人でさっきのマスターを探さない?どう?悪い条件じゃないと思うけど」
「あぁ。遠坂が力を貸してくれるのなら頼もしい」
断る必要がないのですぐに了承の返事をする。
「別に私は衛宮君に力を貸すんじゃないわ。休戦協定を結んだだけよ。けど、貴方が私を裏切らない限りは私は衛宮君を助けるから」
「何だ。ならずっと一緒じゃないか。よろしくな、遠坂」
理由は違えど遠坂と今後対立するつもりは毛頭ないので、彼と同じ言葉を口にして彼女の前に手を出す。手を出された遠坂はほんの一瞬驚いた顔をしたが、その後少し顔を赤くして、
「……ふんっ!み、短い間だろうけど精々役に立ってよね!」
ツンデレのテンプレのようなセリフを言うと協定締結の印である握手をしてくれた。
その後、俺は遠坂のように正式な後継者ではない事、魔術刻印を受け継ぎはしたがそれは刻印と呼べるかどうかも怪しいことを話した。それと戦闘面においては強化の魔術くらいしか使えないことを言うと、いくら協定を結んだからと言ってそこまでホイホイ話すんじゃないと怒られてしまった。
紆余曲折はあったが、遠坂は俺の話を次のように整理して口に出した。
「なるほどね。つまり衛宮君は魔術刻印の受け継ぎはしたけれど正式な後継者じゃないのね」
「まぁ、そうだな……。親父は俺が魔術師となるのは反対してたしな」
「何か矛盾してない?魔術刻印の受け継ぎはしたのでしょう?」
「そうなんだが……多分これは、俺が小さい頃に親父にはっぱを掛けたからだろうな。強く反対してたのもそれ以来少なくなってたし、親父なりの決意だったんだと思う」
はっぱを掛けたというのは、正義の味方について話してもらったあの日の俺の言葉だ。やれる事を全てやったのかという俺の問いに、じいさんなりに思う所があったのかあの日を境に少しづつ魔術について教えてくれたのだ。
「けど、親父はいつも口癖のように『辞めたかったらいつでも辞めろ』って言ってた」
「何よそれ……ふざけないで。そんな事を口癖のように言うなんて貴方の父親は魔術師なんかじゃないわ!」
自身の知る魔術師の常識とかけ離れた親父の行動に遠坂は一度持っていた紅茶を置き、怒りの言葉を口にした。
「そんな奴に鍛えられた貴方も魔術師なんて認めないから!」
「遠坂?何でそんなに怒るんだ?確かに俺は魔術師なんて名乗れないけどさ……それに、親父は魔術使いだとは言っても魔術師とは言ってなかったぞ?」
「あのねぇ!私が言いたいのはそう言う事じゃないの。私が言いたいのは────」
遠坂は不自然に言葉を途切らすと高揚した気分を抑える為か、置いた紅茶を一口飲んだ。そして先の言葉の続きを述べた。
「魔術っていうのはね、親から子へ何代も何代も受け継がれた命の成果のようなものなの。魔術師の家に生まれた子供は誕生した瞬間に後継者でもあり伝承者でもあるの。私達はその為に生まれて、その為に死ぬ。私が言いたかったのはね、魔術師の家系に生まれておきながら魔術師である前に親としてあることを取って、中途半端に魔術を教えた貴方の父親の愚かさに怒ってるの」
「そんな事言うなよ。それに、親父に魔術を教わるのが中途半端になってしまったのは早くに亡くなったからで……」
「えぇ。それが独り身の魔術師の限界だから、これ以上どうこうは言わないわ。魔術師の世界なんて、いつ死ぬか分からないというのが当たり前なんだから」
そう言った遠坂の顔にはほんの少し愁いの色が見られた。
前回もだけど地の文多めだったり、色んな所をちょくちょく原作から改変したから文字数多くなっちゃった……
今更でございますが、感想や誤字報告ありがとうございます。めちゃめちゃ助かっております。