衛宮君は消極的である   作:寝仔猫

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蜃気楼(1)

 

愁いの色を帯びた表情をした遠坂に何か声を掛けようとしたが、何も言葉が出ず、結局その日はもう時間が遅いということで一旦お開きとなった。俺的には一人で帰れるから大丈夫だと遠坂には言ったのだが、危ないの一点張りで護衛にアーチャーを付けると言って譲らなかった。

 

遠坂は自身のサーヴァントが俺に殺気立っているのに気が付いていないのだろうか?それともコイツがそれを上手いこと主人の前で出していないのか?真意は定かではないがとにかく後ろから殺気を感じる護衛モドキを付けて帰るというのはとても居心地の良いものでは無かった。

 

 「……………………ここまでで良い」

 

少し早いが、居心地の悪さから家から一キロ程遠い所でアーチャーの護衛を遠慮した。

 

 「ほぅ?目的地に着いてもいないのに護衛は要らないと?」

 

すると霊体化を解いたアーチャーが腕を組みながらこちらを嘲笑うかのようにそう言ってきた。いや、かのように、ではなく実際こちらを下に見ているのだろう。

 

 「そんな殺気立った護衛が居るかよ」

 

故にそちらがこっちを分かっている気で居るのならこっちだってお前を分かっているのだぞという意味合いを込めて殺気がだだ漏れだと伝える。

 

 「見直したよ。殺気を感じる程度には心得があるらしい。見送るまでは手を出すなという、凛の指示には従うさ」

 

仄暗い街灯の下、今にも鼻で笑いそうな雰囲気を出しながらアーチャーはそう言う。

 

コイツ、本当に嫌味な言い方しかしないな。本当に衛宮士郎の成れの果てなのか?いや、スレたからこそこの態度か。スレていても遠坂の命令をちゃんと聞く辺りが根が真面目だとかツンデレだとか言われるんだよ。あぁ、いや令呪でそうするように行使されてんのか。

 

そんな事を考えながら目の前のアーチャーをジッと見ているとアーチャーは訝しげな顔をして

 

 「何だ。言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

と言ってきたので、原作の言葉を借りながら流れ通りに言おうと思う。本音を言うのはキャスターとの対峙の時にでも嫌という程するだろうからな。

 

 「遠坂がマスターで良かったな。アイツは優秀な魔術師なんだろ?聖杯を手に入れやすくて良かったじゃないか」

 

 「……人間の望みを叶える悪質な宝箱か。私はそんなモノは要らん」

 

案の定聖杯についての話題を口にするとアーチャーの声色がほんの少し嫌悪を込めたようなものになった。

 

 「要らんって……サーヴァントは大抵、叶えられなかった望みを叶えるために聖杯を望んで……だから戦っているんだろ?」

 

 「まさか。成り行き上仕方無くだ。私達サーヴァントに自由意志など無い。自らの意志で召喚に応じる奴なんぞ、お前のセイバーくらいだろうよ」

 

 「セイバーだけ?」

 

俺が驚いた様子を見せるとアーチャーは続けざまに語る。

 

 「そうだ。英霊は他者の意志によって喚び出される。使い捨ての道具と同じだ。そんなサーヴァントが心の底から人間の助けになりたいと思っていると、本気で信じているのかね?」

 

 「それは……」

 

 「良いか、英霊とは装置に過ぎない。不都合があれば喚び出され、その後始末をして消えるだけのな。意志を剥奪され、永遠に人間の為に働き続ける掃除屋……。それが英霊。守護者と呼ばれる都合のいい存在だ」

 

自身が摩耗してしまう程、アラヤに使役されてしまった彼が言う言葉には並々ならぬ重みがあった。全てのサーヴァントがそうではないと分かってはいるが、そうなのではないかと考えてしまうような、そんな言葉だった。

 

 「装置って……少なくともセイバーはあんなにも自分の意志で行動していて、自分のやりたいことも自分でやっているっていうのに、アンタはそれでも彼女がただの装置だって言うのか?違うだろ。セイバーはちゃんと一人の人間だ!」

 

 「フッ……まぁ、会って一週間にも満たない者ならそう見えるだろうよ。だがな、サーヴァントという殻を与えられた英霊はその時点で元の人間性を取り戻せる。嘗ての無念と共にな」

 

 「無念?」

 

 「想像してみろ。自身の思いを遂げられず死んで行き、死してなお人間どもの良いように喚び出される者の感情を。それもコレも、聖杯を求めるが故にだろうがな」

 

 「そこまでのものを何でお前は要らないっていうんだ」

 

俺がそう尋ねるとアーチャーは先程までの嫌悪を含めた声色から一変して、ただ淡々と自分のことをまるで他人が語るかのように話し始めた。

 

 「私には叶えられない願いなど無かった」

 

 「え……?」

 

 「私は望みを叶えて死に、英霊となった。故に叶えるべき望みは無い。あったとしてもそれは、私が自分で叶える」

 

そう言うとアーチャーはこちらに背を向け、霊体化をした。俺は暫くの間彼の消えた方面を見ていたが、気配が無くなったのを察知して自宅の方へと歩き出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 「ただいま……」

 

 「お帰りなさい、先輩」

 

 「やっ、おかえり士郎。セイバーちゃんが怒ってたよ〜?」

 

 「あー……」

 

かなり遅い帰宅に俺は皆に何か言われるかと思ったが、藤ねぇと桜は殆どいつもと変わりない態度で出迎えてくれた。みかんを食べている藤ねぇ曰く、セイバーは怒っているらしいのでこれはすぐに事情を話しに行った方が良いなと思った。

 

そう思いながら返事を考えあぐねていると藤ねぇが急に立ち上がり、

 

 「美綴さんはね……さっき保護されたわよ」

 

美綴の無事を教えてくれた。昼間にその話を聞いたばっかりだったので安否を確認出来てホッとした。

 

 「美綴、見つかったのか。良かった……。って、何で藤ねぇが?」

 

 「あー、柳洞君がね、伝えておいてくれって。ちょっと記憶が混乱してるらしいけど、外傷は無いし命に別状も無いって」

 

 「良かったですね、先輩」

 

 「あぁ」

 

美綴が見つかった件にホッとしている時、脳裏にライダーのことが過った。それを踏まえ俺は、ちょっと急ではあるが桜に今夜も泊まっていって欲しいことを伝えることにした。

 

 「桜。急で悪いんだが、最近夜は物騒だろ?だから騒動が収まるまでは出来ればうちに泊まり続けて欲しいんだ」

 

本当はライダーのことは心配する必要はないとは分かってはいるのだが、桜に何かあったらと考えるとどうしても心配になるのだ。急な俺の提案に桜はキョトンとしていた。

 

 「あ、悪い……急にこんな事を言って……」

 

 「いえ!あの……お言葉に甘えます」

 

 「何々士郎?桜ちゃんに気があるの?」

 

いつもは言わないことを言い出した俺を物珍しく思ってか、藤ねぇがニヤニヤとした顔でそんな事を言い出した。

 

 「ちょ、藤ねぇ!そんなんじゃないってば!俺はただ桜が心配で……」

 

 「は~い、そうねぇ♪」

 

 「藤ねぇ……!!」

 

俺は必死に違うと弁明するが、藤ねぇはどこ吹く風でちっとも俺の言い分を聞き入れてくれなかった。結局藤ねぇの誤解は解くことは出来ずに俺は、多分誤解しているのは藤ねぇだけだろうしそのままにしておくかと諦めるしかなかった。

 

その後俺は軽食だけ取り、セイバーに謝りに行く為に道場へ向かった。道場に入ると、いつぞやと時と同じく正座をして精神統一をしているセイバーが居た。入って来た俺の気配を察知して彼女はすぐにこちらに目を向けた。

 

 「随分と遅い帰りですね、シロウ。夕方頃には帰ってくると聞いていた筈なのですが」

 

彼女の放つ声色は誰から見てもセイバーが怒っているのが明らかに分かる声色だった。当然だ。俺はセイバーの信用を裏切る行為をしたのだから。これで言い訳なんて言おうものなら逆効果どころか火に油を注ぐ行為だ。

 

 「結果的に嘘を吐くようなことになってしまったのは本当に申し訳ないと思っている。説教は後でちゃんと聞く。だからまずは今日あったことと今後の方針について話させてくれないか?」

 

 「…………分かりました、シロウ。一体何があったのですか」

 

俺はセイバーの正面に座る形でセイバーと同じく正座をして今日あったことを話す。

 

 「学校に三人目のマスターが居ると分かった。それでその三人目を探し出すまで遠坂とは休戦協定を結ぶことにしたんだ」

 

 「・・・・。」

 

俺の言葉にセイバーは何も言わなかった。

 

 「……遠坂と組むのは、反対か?」

 

 「いえ。ただ、事前に相談して欲しかっただけです」

 

 「それもすまない……」

 

 「確認しますが、学校に居る三人目のマスターを倒した後はリンとの休戦協定は白紙に戻る。間違いはありませんね?」

 

 「あぁ、勿論だ」

 

それを抜きにしても今後遠坂と対立する気は無いのだが、そうなると別問題が出てくるので今は特に言わないでおく。俺が肯定の言葉を口にすると、眉を寄せるなどの険しい表情をしていたセイバーの表情が柔らかくなった。

 

 「それを理解しているのならば私からは何もありません」

 

どうやら取り敢えずは許してもらえたらしい。罪悪感で胸がいっぱいだったのでキチンと話すことで許してもらえるのはとてもありがたかった。まぁ、それは別としてちゃんと説教も聞くつもりだが。

 

 「リンと協力し、シロウの戦闘経験を増やすとしましょう」

 

話が一段落ついた所で俺は聖杯の話を持ち出す。

 

 「セイバー。お前は、聖杯が必要なんだよな?」

 

 「はい」

 

 「それは、何の為なんだ?」

 

 「その質問は今後の方針に関わることなのでしょうか」

 

 「あ、いや、その……」

 

今後の方針に関わることであるのは確かにそうなのだが、すぐに『そうだ』と言うことが出来なかった。何でだろうな。俺には()()()()()()()()()()()()筈なのに。

 

 『いやいやあるだろ?立派な願いが。アンタが自覚してないだけさ』

 

 「何かあったのですか?」

 

 「あー……、その、アーチャーとちょっとな……」

 

何とか絞り出したのはそんな明確な答えにならない残念なものだった。

 

 「そうですか……。シロウ、私からも提案があります」

 

そう言うとセイバーは竹刀を持って立ち上がった。

 

 「これからは、実戦形式で経験を積むべきです」

 

 「あぁ、そうだな」

 

セイバーの出した提案に断る理由なんて無い。今の俺には実戦経験が乏しいのは事実であったし、何より模擬形式よりも実際の聖杯戦争の戦闘場面で活かせることは多いと思ったからだ。

 

 「よろしく頼む、セイバー」

 

竹刀を手に持ち、セイバーに礼をする。

 

 「では行きます、シロウ」

 

その後はお互いに竹刀を構い合い、実戦形式での戦闘稽古を日が変わる頃まで続けた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 「やぁ、衛宮」

 

次の日の朝いつも通り学校へ通うと、間桐から声を掛けられた。間桐の方へと視線を向けると、彼は聞いてもいないのにペラペラと馬鹿にするかのように美綴のことを話し出した。

 

 「美綴のことは聞いたかい?僕も今朝、道場で聞いたんだけどさぁ……。美綴の奴、新都で見つかったんだってさ。しかも路地裏で。目もイッてて、制服もボロボロだって話?何があったか知らないけど、普段偉ぶってるアイツがどんな風に捨てられたのか……ちょっとばかり親友として興味が湧かないかい?」

 

あたかも自分は聞いただけ、関係無いです、といった態度を全面に出して人の不幸を嘲笑うかのような言い方に少し頭に来るものがあった。間桐の性格上、本気で言っているのかは定かではないが何にしてもその言い方は無いだろうと思った。

 

 「……間桐」

 

だが、そういった感情はなるべく抑えるようにしている。乗ってしまえばコイツの思うツボだからだ。

 

 「あー、怖いねぇ?冗談だよ、冗談。ただの噂じゃないか。まぁ、昨日から一年の間では有名になってるみたいだけどさぁ?」

 

 「美綴と最後に会ったのはお前だろう?」

 

 「ただ世間話をしただけですけど?」

 

 「……そうか」

 

十中八九、間桐はこの件に何かしらの関わりがあるのだろうが本人はあくまでも知らない振りをするだろうから、俺は嫌悪感を顔に出しはするがそれ以上は踏み込まないようにする。

 

 「何?やっぱり衛宮も気になるかい?なら噂に過ぎないけど僕が知っている情報を教えてあげても……」

 

 「別に良い。そういうのはあくまでも噂に過ぎない。それに、美綴の居ない所でデタラメを話すのは美綴が風評被害を受けるだろ」

 

 「何それ。お前まさか良い子ちゃんブッてるってわけ?そういう相手を気遣っています風に言っておきながら“他人に興味がない”の丸わかりなの気持ち悪いんですけど。本当のこと言ってみろよ、俺は他人に興味がありませんってな!」

 

 「・・・・。」

 

 「ちょっと慎二!流石にそれは……」

 

俺の言葉が間桐の怒りに触れてしまったらしく、間桐は不機嫌さを隠さずこちらに近づくと俺の胸倉を掴んで吐き捨てるかのように先程の言葉を口にしていた。流石に喧嘩にまで発展しそうになりクラスメイトが注意を促した時、始業のチャイムが鳴り響いた。

 

 「ケッ……!」

 

不機嫌そうに胸倉を掴んでいた手を離し、間桐は自分の机へと戻っていった。現場を見ていたクラスメイトは何処か心配そうにしていたが、自分の身が大切なのか間桐を怒らせるのを避けたいのか、チラチラと俺達の様子を伺うだけで特に何かしらの行動を起こすことは無かった。

 

その後はいつも通り授業を受け、三人目のマスターの情報を探す為、人気の少ない放課後に図書室にて遠坂と合流した。

 

 「マスターの識別?」

 

 「遠坂は、近くにマスターが居たら分かるものなのか?」

 

 「そうねぇ……何もしていなければの話だけど、マスターは魔術師がなるものだから魔力を探っていけば見つけられるわ。でも、あくまでも容疑者よ?容疑者」

 

原作と変わりない返事を聞いて、やはり俺が大きな差異を引き起こさなければ今朝のような変化は起きないのだなと思っていると、ふと空間に違和感を覚えた。

 

 「同調開始(トレース・オン)

 

違和感の出処であろう本棚に手を翳して同調を始めてみた。

 

 「衛宮君?」

 

俺のいきなりの行動に遠坂は不思議そうにしていた。不思議そうにしている遠坂を余所に同調範囲を広げていくと、遠坂の居る位置より少し手前の下から二段目辺りに赤い魔法陣のようなものがあるのが見えた。

 

 「遠坂、そこから少し手前の下から二段目辺りに何か変なモノがある」

 

そう言いながら該当箇所の本を退けていくとそこには先程確認した赤い魔法陣のようなものがあった。遠坂も横から覗き込んでその存在を確認した。

 

 「え?……本当にあった。大したものねぇ」

 

 「これが、呪刻?」

 

 「そ。衛宮君、生物の魔力感知は下手なくせに場所の異常には敏感なのね」

 

サラッとこちらをディスりながら遠坂は呪刻に魔力を流してソレを消していった。

 

 「それ、褒めてんのか?」

 

 「…………えぇ、勿論」

 

随分と間の開いた肯定だったが、一応は褒めているらしい。全然褒められた気はしないのだけど。

 

その後は遠坂に魔術師とは何なのかという話をしながら学校中に仕掛けられた呪刻を潰して回った。一通りは潰し終え、最後に屋上にある呪刻を潰した時にはもう日が沈みそうな時間になっていた。





ストックもう無くなっちゃったよ……
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