衛宮君は消極的である   作:寝仔猫

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何だか頭がぼんやりしている。

目の前に映るのは広大な海?見慣れた街の交差点?それとも炎に呑まれた街?

瞬時に移り行く景色にどれを見ているのかはっきりしない。

俺は今、何をしている?ナイフを持っている?夜の街を歩いてる?ただ立っているだけ?

分からない解らない判らない。

夢、なのだろうか。先程とは打って変わってなんだか身体が水に沈んでいる感覚がある。

いや水じゃない。これは…………■?

でも■にしては妙な感触だ。水のように冷たい気がするのに人肌くらいに温かくて、それでいて火傷しそうに熱い。

その摩訶不思議な感触を俺は嫌だとは思わなかった。

それどころか心地良く感じていた。

それにこの■には何だか懐かしさのようなモノも感じる。

そんな心地良さに俺は─────

 『おいおい。こっちに堕ちるにゃ、まだ早いぜ?■■』




死闘の報酬

 

 「ハっ……!こ、ここは……柳洞寺?」

 

何者かに声を掛けられた気がして意識がハッキリすると、目の前に広がるのは鍛錬を行っていた土蔵ではなく柳洞寺の参道であった。

 

どういう事だ?俺は土蔵で日課の鍛錬を行っていた筈なのにどうして柳洞寺の参道に……

 

そこまで考えた所であることに思い当たった。そういえばセイバーに強化の魔術について語る日と同日にキャスターによる襲撃もなかったか?と。いや正確に言えば魔術を使っての誘導か。自分の対魔力が塵のように無い為に生じた魔術師にとって決定的な致命傷だった。

 

あ、待って。自分で言ってて凄く傷付いた。事実なんだけどもすっごく穴に潜りたい。いや、動けないんだけどもさ……。

 

そんな思考が読める人物が居たら何してやがんだコイツと言われるような支離滅裂な思考をしていると、何処からか声が聞こえてきた。

 

 「ふふ……。漸く起きたのね」

 

 「っ、誰だ!」

 

俺がそう言うと黒いモヤのようなものが目の前に集まり始め、暫くするとそれは人の形を成した。それは黒を基調としたフードを被る人影であった。フードから僅かに見える口元と先程聞こえてきた声から女性だと辛うじて推測出来た。

 

 「キャスターのサーヴァントか……」

 

 「えぇ、そうよ。セイバーのマスター」

 

 「・・・・。」

 

霊体化とは異なる出現の仕方にキャスターだと推測した声を出すと、彼女はあっさりとそれを認めた。そして俺のことをセイバーのマスターと呼んだのだった。

 

もう情報が漏れているのか……。いや、召喚順的に俺が一番最後だった。それはつまり残ったクラスが一体何であるかも必然的に漏れているわけで、バレても仕方のない事だったんだ。

 

そう考えながら駄目元でキャスターに張り巡らされた糸のようなモノを剥がせないか試してみるが、

 

 「無駄よ。一度成立した魔術は魔力という水では洗い流せない。まして貴方のような魔術回路の弱々しい流れでは尚更ね」

 

と言われ無駄な足掻きだと言われてしまった。

 

 「だから俺を狙ったって訳か……」

 

 「マスターの中でも貴方は特に力不足でしたからね」

 

 「……俺を殺す気か」

 

 「安心なさい。そんなことはしないわ。殺してしまったら魔力を吸い上げることが出来ないもの。最初は中々加減が出来なくて殺してしまったけれど、今は程度良く加減して集められる」

 

まるで俺の前に何人もの実験体が居たかのような言い回しに、俺の脳裏には連日放送されていた事件の事が過った。

 

 「まさか、街で起きている事件はお前が?」

 

 「あら?知らなかったのかしら?キャスターのサーヴァントには陣地を作る権利があるの。私はこの場所に神殿を作って貴方達から身を守る……。ほら?視えるでしょう?この街の人間から奪った魔力の貯蔵が、有象無象の欠片と共にね」

 

僅かに動く視線の先には確かに素人目でも分かるほどの魔力の塊のようなものが視えた。

 

 「キャスター、お前……一般人を巻き込んだのか」

 

 「あら、おかしなことを言うわね坊や。“この街の人間は全て”私のモノよ?私の所有物を私の好きなようにするのは当たり前の事じゃない」

 

 「キャスター!!」

 

流石にこれは放っておける所業ではなかった。キャスターはこの街の人間全てと言った。それはつまり放っておけば何も知らない藤ねぇや一成達も巻き込まれるということだ。目に見える全ての人間を救えなくても良い。けれど俺の身内にだけは“絶対に”手出しはさせたくない。

 

 「さぁ、それでは話を済ませてしまいましょうか。その令呪をもらってあげるわ」

 

そんな俺の怒りを尻目にキャスターが手の届く至近距離まで近づいて来て話を済ませると言ってきた。そして耳元で令呪を奪うと宣言する。

 

 「令呪を奪う、だと?」

 

 「そうよ。令呪を私のマスターに移植するの」

 

そう言ってキャスターは指先で令呪をワザと俺に意識させるように指でなぞる。

 

 「そして目障りなバーサーカーをセイバーに倒してもらうとしましょう。あぁ、そうそう。令呪を引き抜くということは貴方から魔術回路を引き抜くということでもあるのよ」

 

俺がキャスターの言葉の意味を理解する前に、彼女は自身の方へ糸を引き抜く動作をすると俺の左腕が勝手に彼女の方へと令呪を引き剥がしやすい体勢へと動いた。その後、キャスターは指先から淡い紫色の光を放ちながら俺の令呪へ触れる。

 

 「っ!?」

 

次の瞬間、左手の甲から激痛が走ってきた。すぐさまこれが令呪を引き抜かれることによる痛みだと理解し、何とか引き抜かれないように足掻いてみる。

 

 「あら、良い子ね。そういう頑張りは嫌いではありません。でも無駄ね」

 

 「ァ゙、がっ……!あぁぁぁァ゙ァ゙ァ゙!!!!??」

 

抵抗虚しく令呪が剥がされるかと思われた瞬間、背後から大量の赤い矢が降り注いだ。

 

 「っ!?」

 

突然の襲撃にキャスターは令呪を引き抜くのを中断し、距離を取った。

 

 「フン。とうに命は無いのだと思ったが、存外にしぶといのだな」

 

声の聞こえた方向へ目線を向けるとそこには屋根の上で弓を構えたアーチャーが居た。

 

 「お前、何で……」

 

 「何、ただの通りがかりだよ」

 

俺の出した疑問に、アーチャーは屋根の上から飛び降りながらそう答えた。

 

 「んで、身体の調子はどうだ?キャスターの糸なら、今の攻撃で断ったはずだが……」

 

アーチャーにそう言われ俺は身体を動かしてみた。すると彼の主張は本当のようで先程までは自由に動かなかった身体が嘘のように動いた。

 

 「っ!動く……」

 

 「それは結構。後は好きにしろ、と言いたい所だが……。暫くそこから動かぬことだ。あまり考え無しに動くと……」

 

 「クッ……!アーチャーですって?!ええい!アサシンめ、何をしていたの!!」

 

突然の襲撃者の登場にキャスターは先程とは打って変わって声を荒げ、アサシンが居るであろう方向を見て怒りを露わにしていた。

 

 「それ。見ての通り八つ当たりを食らうことになる。女の激情というのは中々に度し難い。全く、少しばかり手荒いことになりそうだ」

 

この怒りを露わにしていたキャスターの行動を八つ当たりと評するアーチャー。そして彼は『手荒いことになりそうだ』と言いながら数瞬、好戦的な笑みを浮かべた。その後は平常時の顔に戻るとアサシンのことについて述べた。

 

 「アサシンのことなら責めるな。奴はセイバーと対峙している。あの侍、何者かは知らんがセイバーを押し止めるとは大したものだ。むしろ褒めてやるべきではないか?」

 

 「ふん……、ふざけたことを。貴方を止められないようでは英雄などとは呼べない。あの男、剣豪を名乗らせるには実力不足です」

 

 「・・・・。(セイバーも来てくれたのか……)」

 

アーチャーの賛称をキャスターは『彼を止められなければ英雄などとは呼べない』といって切り捨てた。それと同時に俺は自宅にて寝ていた筈のセイバーが柳洞寺に訪れていることを把握した。

 

 「なるほど。君達のマスターは協力しあっているのか」

 

 「協力しあっている?」

 

 「あぁ。門の外を守っているアサシンと門の内に潜むキャスター。この両者が協力しあっているのは明白だろう。別段珍しいことではない。現にお前と凛とて、手を結んでいる」

 

確かに傍目から見ればそう考えるのが妥当だろう。しかし、実際には────

 

 「ふふ……アハハハハ!私があの犬と協力ですって?()()()()()()()()()アサシンと?」

 

 「手駒だと?」

 

 「ええ。そもそもあの犬にはマスターなんて存在しないのですからね」

 

 「何?キャスター、貴様……ルールを破ったな!」

 

アーチャーの目論見通り、キャスターはルールを破り自分でサーヴァントを召喚していたのだ。

 

 「ふふ……魔術師である私がサーヴァントを呼び出して何の不都合があると言うのです?」

 

 「サーヴァントがサーヴァントを喚び出したってのか?」

 

俺がそう言うとアーチャーがこの状況についてとキャスターが今まで何を行っていたかを説明し始めた。

 

 「真っ当なマスターに喚び出されなかったあの門番は本来のアサシンではない。ルールを破り、自らの手でアサシンを喚ぶ。そしてこの街に居を構え、街の人間から魂を収集する。自らは戦わず街中に張った目で戦況を把握する。セイバー等の三騎士には魔術が効きにくい。魔術師のクラスである君が策略に走るのも当然だという訳だ」

 

その説明にキャスターは否定も肯定もせず、ただ笑みを浮かべた。

 

 「だが、それは貴様の独断ではないのか?キャスター」

 

 「何の根拠があるのかしら?」

 

 「マスターとて魔術師だ。自分より強力な魔術師を召喚したのなら、例え令呪があろうと警戒する。その状況で貴様だけの手足となるサーヴァントを召喚することを認めるとは考えづらい。となればこの間抜けなマスターのようにとっくに操り人形になっていると考えるのが妥当だ」

 

 「……聖杯戦争に勝つことは簡単ですもの。私が手を尽くしているのは単に、その後に備えているだけ」

 

 「ほぉ?我々を倒すのは容易いと?逃げ回るだけが取り柄の()()がよく言うものだ」

 

魔女、というアーチャーが放った言葉に反応してフードの下のキャスターの顔が分かりやすく歪んだ。が、すぐにその顔も元に戻った。

 

 「えぇ。ここでなら私にかすり傷さえ負わせられない。私を魔女と呼んだものには相応の罰を与えます」

 

 「ほう?かすり傷さえ、と言ったな?では一撃だけ……それでも良いが後はセイバーに任せよう」

 

アーチャーがそう言った瞬間、戦いの火蓋が切って落とされた。アーチャーは何処からともなく両手に短剣を投影しキャスターへ斬り掛かる。少し遅れてキャスターは反応して魔法陣を展開するが、背後に回り込んだアーチャーによって斬り伏せられた。妙に呆気ないなと思っていると斬られたキャスターは偽物だったようで彼女の身体は紫色の粒子となり、空気中に溶け込むかのように消えていった。

 

 「残念ね、アーチャー」

 

 「っ!?(展開されてる魔法陣が多い……!)」

 

消えたキャスターを探していると上から彼女の声が聞こえてきた。すぐに顔をそちらへ向けるとそこには空中でローブを翼のように開き、数多の魔法陣を展開してこちらへ攻撃しようとしているキャスターが居た。

 

その中の一つから紫色の光線のようなものが彼女の真下辺りに放たれた。

 

 「ぅわっ……!!?」

 

その後の爆発に巻き込まれ俺の身体は後ろの方へ吹き飛ばされた。同じ規模のものがアーチャーにも放たれていたが、彼はこれを両手に持つ短剣にて難無く受け止めた後、力を分散させていた。

 

 「空間転移か、固有時制御か……。この境内であれば魔法の真似事も可能という訳か。見直したよキャスター」

 

 「私は見下げ果てたわ、アーチャー。使えると思って試してみたけどこれではアサシン以下よ」

 

 「いや耳に痛いな。次があるのなら少し気を利かせるとするよ」

 

そう言ったアーチャーの元に複数の光線が放たれた。アーチャーは身軽にそれをまるで空中で舞うかのように躱していった。

 

 「女狐め……余程魔力を溜め込んだな」

 

通常であれば一度放たれればチャージ、または魔力切れで展開されなくなる筈だが、アーチャーの言う通りキャスターはかなりの魔力を街中の人から巻き上げたらしい。魔法陣から放たれる光線は絶えるとこなく雨のように放たれ続けていた。状況的に不利と判断してかアーチャーは境内の外へ出ることを試みるもキャスターの攻撃によってそれは阻止されてしまっていた。

 

 「逃げ切れると思って?」

 

キャスターの注意がアーチャーに向いている今の内に何処か彼女の視界から外れる場所に移動しようとした時、彼女の視線がこちらへ向いた。そして攻撃を放っているのと同じ魔法陣をこちら側へ展開して光線を撃ってきた。

 

 「やべっ!!?」

 

攻撃の餌食にされてしまう!と思った刹那、アーチャーが少々乱暴ではあるが俺の服を掴むことでキャスターの攻撃から守ってくれた。が、それはそうと服が伸びるし明らかな荷物扱いは癪に障るので抗議させてもらう。

 

 「おいっ!服伸びるだろうが!下ろせ馬鹿!」

 

 「知るものか。お前に言われると自分の馬鹿さ加減に頭が痛くなるわ、馬鹿!」

 

あ、コイツ、サラッと重要なこと漏らしたぞ。“自分の”って言ってるじゃねえか。いや、この場合は俺を放っておいた事に関してか?だがまぁそれはそれとして真正面から馬鹿と言われるのは腹が立つな。

 

 「はぁ?!馬鹿は無いだろ馬鹿は!」

 

 「ならばこう言ってやろうかこのたわけ!」

 

 「あぁ゙?ふざけんじゃ────おわっ?!」

 

キャスターをそっちのけにアーチャーと言い合っていると、これを好機と見てかキャスターは先程の攻撃を繰り出してきた。アーチャーはその攻撃を避ける為に左右に移動して上手いことやっているのだが、如何せん服を掴まれているせいか身体も左右に揺れ動く為非常に居心地が悪い。

 

 「これくらい一人で何とかするから離せよ!」

 

 「そうか」

 

避けるくらい不意打ちが来なければ出来るだろうと思って提案すると、アーチャーは素っ気無く返事をしたかと思うとこちらを思いっ切り腹蹴りして地面に吹き飛ばしてきた。

 

 「ぃ゙っ……!テメェ、何しや…………っ!?」

 

いきなり吹き飛ばしてきた事に抗議しようと目線を向けると、アーチャーがキャスターが展開したであろう結界に捕らわれているのが見えた。

 

 「気分はどうかしら?アーチャー。いかに三騎士とは言え、空間そのものを固定されては動けないのではなくって?どうやらこれで詰めのようね。どこの英雄だったのかは知らないけど、これでお別れね」

 

 「──────」

 

 「何?命乞いなら聞いてあげても……」

 

結界の中でアーチャーが何か呟く様子が見えた。キャスターの言うように命乞いの線も考えられるが、彼の目はどう見ても諦めた目をしていないからその線はないだろう。

 

 「たわけ!避けろといったのだ、キャスター!」

 

空間が固定され顔を上げるのも難しいだろうにアーチャーは顔を上げ、声を張り上げてキャスターにそう言った。次の瞬間、キャスターの目の前にアーチャーの持つ双剣が向かってきていた。

 

ガキンッという金属音が鳴り響くと共にキャスターの展開していた魔法陣や結界が解かれた。キャスターの元に放たれていた双剣がアーチャーの手元へ戻る。再びキャスターは魔法陣を展開し、アーチャーに向け攻撃を放つが、彼はそれを華麗に避けてある武器を投影していた。

 

 「っ!アレは……」

 

それはバーサーカーとの戦闘の際に用いられたであろう矢だった。彼はそれを黒い弓に装填し、糸を引く。

 

 「I am the bone of my sword───」

 

 「うっ……!」

 

力の奔流によってアーチャーの周りに目も開けられない程の土埃が舞い上がる。

 

 「偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

真名開放と共にそれはキャスターの元へと放たれた。キャスターはすぐさま防御の魔法陣を展開するが間に合わず、悲鳴をあげて光に呑まれていった。





次回からオリジナル展開増やしてくので今回の題名には(1)は無しです。

あと、今更ながら気付いた。
劇場版UBWを参考にすれば前後編に分けること無くもう少し早めに書けたのでは?と。まぁ、矛盾も増えるだろうけどここまでグダグダすることは無かったんじゃないかなー、とも思ったけど。(ほんと今更)

すみません、ストックが全然貯まらないので書けたら投稿スタイルに変更します。m(_ _;)m
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