衛宮君は消極的である   作:寝仔猫

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赤は影を目撃する

 

Side:遠坂凛

 

一人の男性が墓標のように剣が突き刺さる砂の丘の上で佇む夢を見た。

 

 「アーチャー……?」

 

きっとこれはアーチャーの記憶なのだろう。確証は無いが、サーヴァントと契約したマスターはサーヴァントの記憶を夢として見ることがある、と聞いたことはあったからだ。

 

言いようのない不安を感じて起き上がる。自らのサーヴァントを呼ぶが、返事は無かった。何かあったのだろうか?

 

 「……アーチャー、聞こえる?ねぇ、アーチャー……!」

 

それとも声の聞こえない所にでも居るのだろうかと念話を試みるもやはりアーチャーからの返事は無い。やはり彼の身に何か……

 

 『すまない、凛。少々トラブルに巻き込まれて応答が遅れた』

 

そこまで考えた時、ようやくアーチャーから返答があった。

 

 「え?!トラブルですって?」

 

想定外の返答に夜中にも関わらず、驚きの声が漏れてしまった。

 

 『落ち着け。事情は帰ってからすぐに詳しく話す』

 

 「わ、分かったわ……」

 

つい気が動転してしまい、遠坂家の人間にあるまじき行為をしてしまったわ。流石に気を付けないと。

 

そう思い、一度深呼吸をして心の中で家訓を復唱する。駄目ね、ふとした出来事に動揺して声を荒げてしまうだなんてまだまだ未熟だわ。こんなんじゃ、聖杯戦争に勝ち残れない。気合いを入れ直さないと。

 

 「今戻った。状況の説明をさせてくれ」

 

気合いを入れ直す為に両頬を叩いた時、アーチャーが戻って来たようだった。

 

 「あら、早かったわねアーチャー。何処へ行ってたの?」

 

 「柳洞寺だ」

 

 「柳洞寺に?ここ最近の事件での現場の跡から柳洞寺に流れがあるのは分かっていたけれど、何か他に情報でもあったの?」

 

 「いや、ちょっと野暮用があってね」

 

 「野暮用ですって?」

 

アーチャーの言う野暮用が分からなくて私は尋ねた。ここ最近は彼に単独行動させることが多かったけれど、野暮用と言う程の出来事なんてあったかしら?

 

 「衛宮士郎が不用意にも夜中に一人で歩いていたものだからな、少々後をつけた」

 

 「衛宮君が?!」

 

嘘でしょう?!アレだけ夜中に不用意に一人で出歩いちゃ駄目だって伝えたのに!聖杯戦争が殺し合いに近い自覚は持ってないわけ?

 

 「待て。一応、衛宮士郎に非は無い。奴は対魔力の低さ故にキャスターの術に嵌められたのだからな」

 

 「キャスター?貴方今、キャスターって言った?」

 

 「あぁ、そうだ」

 

 「もしかして、キャスターは柳洞寺を根城にしてたりする?」

 

 「察しが良いな。そうだ。奴は柳洞寺に神殿を築き、この街の人間から生気を吸い上げていたと自ら吐いた」

 

 「やっぱりそうだったのね……」

 

遠距離からこのようなことが出来るのは陣地を作成できるキャスターだけだと予測はしていたが、こうも早い内に分かるだなんて。被害を最小限に留めることが出来るからそれは嬉しい誤算だったかしら。

 

 「それで、衛宮君は?どうして狙われたのか分かる?出来ればアーチャーが戻ってくる前までの事も詳しく知りたいのだけど」

 

キャスターがここ最近新都にて事件を起こしていた理由はこれで分かった。けれど、どうして今になって衛宮君を狙ったのかしら。与えられた情報だけではキャスターの意図が分からず、アーチャーに尋ねる。

 

 「奴は小僧の令呪を引き抜いてマスターに移植すると言っていた。対魔力の低い小僧は狙いやすかったともな。今になって行動に移したのは一般人から吸い上げた魔力がある程度溜まったからだろう」

 

 「なるほどね……」

 

迂闊だったわ。確かに衛宮君は魔術に疎いからそれを知ったキャスターがそういった手段に移るのは当たり前よね。その辺りをきちんと言ってセイバーを側に置くように言っておくべきだったわ……。

 

少し自己嫌悪に陥ったが、話はそれだけではないと気持ちを一旦切り替える。

 

 「キャスターは勿論退散させたんでしょうね?」

 

 「いいや、寸の所で逃げられてしまった」

 

 「何やってるのよ!」

 

 「そうは言うが、流石の私にもあの未熟者を庇いながら戦闘は無理だ」

 

 「あ、そうよね。ごめんなさい」

 

キャスターを退散出来なかった事に一瞬腹を立ててしまったが、人を庇いながら戦闘なんて高度なことをしたのだ。これに腹を立てるというのは筋違いというもの。私はすぐに謝罪の言葉を述べた。

 

 「いや、謝る程ではないさ。それだけ私はマスターに期待してもらえてるという事だしな」

 

 「んなっ!!?」

 

アーチャーの発言に無意識にも彼を全面的に期待を寄せていたということを自覚されられた。顔に熱が集まっていくのが分かる。そんな私の様子を見て彼は目を細めてニヤニヤとするものだから、恥ずかしくて顔を反らす。

 

 「そ、それで?衛宮君を庇いながら戦闘したってことは衛宮君は無事なんでしょうね?」

 

苦し紛れだけれど私は顔を反らしたまま続きを促した。

 

 「・・・・・。」

 

 「アーチャー?」

 

いつもは口煩いくらいに喋る彼が黙ったままなので不思議に思い、反らした顔を戻して彼を見つめた。

 

 「………………アレはもはや衛宮士郎ではない」

 

 「え……?どういう、こと……?」

 

アーチャーに言われたことが理解出来なかった。衛宮君が衛宮君じゃないですって?

 

 「ねぇ、アーチャー。どういうことよ」

 

 「・・・・。」

 

 「ねぇ、アーチャー!!」

 

詳細を頑なに話そうとしないアーチャーの元に私は詰め寄る。

 

 「答えなさいアーチャー。衛宮君の身に何があったのか。貴方は柳洞寺で、一体何を見てきたのかを」

 

令呪を使いかねない気迫で問い詰める私に流石のアーチャーも観念したのか、暫くの見つめ合いの後にその口を開いた。

 

 「ヤツ曰く、アレのトリガーを引いたのは私らしい」

 

 「トリガー?一体何をしたのよ」

 

 「……無謀にもキャスターを追おうとしたのでな、その背中を斬り付けた」

 

 「はぁ?!!」

 

まさかのトンデモ発言に近所迷惑なんて考えは吹き飛び、再び大声で叫んでしまった。

 

 「何てことしてくれてるのよ!この馬鹿!!協定結んでいるのに襲うだなんて私がサーヴァントをきちんと制御出来てない間抜けだって思われるじゃないの!!」

 

 「気にするのはそこか?!」

 

 「当たり前よ!」

 

魔術師としてそこは譲れないわ。他のマスターになめられる訳にはいかないんだから。

 

 「・・・・・。ゴホン、話を戻しても良いかね」

 

 「勿論よ。今の所、貴方の勝手な行動で私の評価が下がりそうになったことしか分らないんだから」

 

私の言葉に何やら言いたげな顔をしたアーチャーだったが、ポツポツと事の詳細を話し出した。

 

 「正直な所、私にも小僧の身に何が起きたのかはよく分からん」

 

 「はぁ?」

 

 「最後まで話を聞け。ヤツは多くの情報を吐きはしたが、答えになることは全く言わなかったのだ。故に今言えるのはヤツが吐いた情報とヤツの出す影に直接触れることは人間もサーヴァントも危険が伴うことだけだ」

 

 「吐いた情報ってのは?」

 

 「ヤツは衛宮士郎ではないという私の投げ掛けた問いに肯定した。だが己が何であるかは頑なに話そうとしなかった。ヤツの現段階の攻撃手段は触れることは憚られる影と無数の影から伸びる帯。そしてヤツは表に出るのは久しぶりだと言い、馴染んでないと述べた。主に並べるのならこの四つだろうな」

 

 「主に?まだあるっていうの?」

 

思いの外次々と吐き出される情報の多さに驚いた。それと同時に核心に触れる情報の無さに相手の質の悪さを実感した。

 

 「勿論だとも。ヤツは自分はおしゃべりだと自称していた。故にこれだけの情報を得られたのだ。だが、核心を突く情報を意地でも吐かなかったのはヤツの質の悪さが表れているな」

 

やはり彼も同じく相手の質の悪さを実感していたらしい。

 

 「そう。でも、待って?貴方の言うヤツってのは衛宮君ではないのでしょう?なら彼は一体何処へ?」

 

 「先程も言ったが、小僧の身に何が起きたのかは分らない。ヤツは己の出す影の中に小僧の身体ごと消えていったからな。分かるのは馴染んでないという発言からヤツは“まだ”小僧の身体を“使っている”という状態であることだ」

 

 「つまり、衛宮君は捕らわれているってことね」

 

 「ヤツの発言を真に受けるのならそうなるな。私としてはその線はほぼ無いとは思うがね」

 

いつも何処か衛宮君に冷たい彼だが、今日はやけにその傾向が強い気がする。

 

 「何故貴方はそこまで衛宮君を嫌うの?」

 

 「……むしろ何故、と問いたいのは私の方だがね。たかが数日の付き合いなのに君は彼を助けたいとでも思っているのか?」

 

 「当たり前よ。私は彼と協定を結んでいるし、彼を助けるって言っているのよ?それを裏切る訳にはいかないじゃない」

 

……いいえ、違うわね。協定を結んでいなくても多分、私は彼を助けると言っていると思う。たかが数日の付き合いでもそう思ってしまうくらいには、私は彼に好意を抱いてしまったのだ。

 

 「・・・・。そうか。マスターがそういうのなら協力しよう」

 

そんな私の思いを知ってか知らずか彼は深い溜め息の後に協力すると口にしてくれた。

 

 「ありがとう、アーチャー」

 

 「いや、サーヴァントとして当たり前の事だ」

 

そう言って彼は霊体化して消えてしまった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

今朝は早めに起き、ほんの少しの期待を胸に衛宮君の家を訪ねてみたのだけれど、やはり彼の姿は無くセイバーと昨日の情報を少し交換しただけに終わってしまった。セイバー曰く、衛宮君とのパスは依然として繋がっているようではあるが、何処へ繋がっているのかが全く分からないらしい。

 

また、セイバーと話す時に桜とも会えたのだけれども、彼女も今朝は衛宮君の姿は見ていないようでとても心配している様子だった。行方不明となってしまった彼をどうやって探し出し、どう助けるのか考えながら登校している時、慎二の方から声を掛けられた。

 

 「おはよう、遠坂。ちょっと良いかい?」

 

 「……おはよう、間桐君。どうかしたのかしら?」

 

 「実はね、僕も最近マスターになったんだ。だからさぁ、二人で手を組まないか?」

 

 「あら、そうなの?でもごめんなさい。私は間桐君と組むつもりは無いわ」

 

慎二の発言にはとても驚いた。魔術師の家系ではあるけれども魔術師としての血脈は今は無いと父から聞いていたので間桐の人間がマスターになることはないと思っていたから。

 

けれどそれを考慮に入れたとしても彼と手を組むつもりは初めから無かった。故にここは丁重にお断りすることにした。

 

 「なっ……!何故だい?御三家に数えられている間桐と遠坂が手を組めば敵なしじゃないか。君にとっても悪くない話だと思うけど?」

 

 「確かに私と貴方が手を組めば敵なしでしょうね」

 

 「だったら……!」

 

 「申し訳ないけれど、私もう既に衛宮君と手を組んでいるのよね。だから間桐君と組むつもりは無いわ。ごめんなさいね」

 

 「な?!え、衛宮とだって?」

 

私が衛宮君と手を組んでいるのが余程意外だったのか、慎二の顔が酷く歪んだ。

 

 「あら?私が衛宮君と手を組んだのは意外かしら?」

 

 「あ、当たり前だろ!?だって、あのただのお人好しの衛宮に遠坂がつくだって?何でだよ!僕の方が衛宮なんかよりずっと優秀だ!なのにどうして……」

 

 「えぇ。確かに衛宮君は呆れるほどのお人好しよ。でもね、私はそれが彼の良さで、好ましく思っているからこそ組んだのよ。だからもう一度言うわね。ごめんなさい、私は貴方とは組むことは出来ないわ」

 

 「っ〜〜!!!今に後悔するぞ!良いのか!」

 

 「別に構わないわ。それじゃあね、間桐君」

 

悔しさから滲み出る声が負け犬の遠吠えにしか聞こえなくて私は少し面白く感じながらも慎二に別れを告げた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それからはお昼までは普段通りに学校生活を過ごし、誰も居ない屋上にてアーチャーと今後について話していた。誰かが来る可能性を避けるため、一限だけ無断欠席させてもらっている。

 

 「これからどうするつもりだ、凛」

 

 「今夜、柳洞寺へ向かうわ。そこでキャスターを叩く」

 

 「了解した。しかし門の外に居るアサシンについてはどうする」

 

 「え?キャスターは他のマスターと手を組んでいるの?」

 

まさかの柳洞寺にサーヴァントが二人居るという事実を急に振られ、驚きの声が漏れた。

 

 「いや違う。奴はルール違反を侵して自らの手でアサシンのサーヴァントを喚んだそうだ。故にアレは正確に言えば本来のアサシンではない」

 

 「そんな?!サーヴァントがサーヴァントを喚ぶだなんて!」

 

キャスターが侵したルール違反に目が眩みそうになった。

 

 「イレギュラーな事態に目が眩みそうになるのは分かるが、一旦頭の片隅に置いてくれ。それで、アサシンはどうする」

 

 「昨日はどうしてたの?」

 

 「セイバーが彼の相手をしていたな」

 

 「なら、もう一度アサシンの相手を頼めないかセイバーに相談してみるわ。彼女には衛宮君を探すための手掛かりを追いに柳洞寺へ向かうといえば、おそらく協力はしてくれる筈よ」

 

言い方的に彼女のマスターを思う気持ちを利用するようになってしまったのは申し訳ないと思う。けれどもやはり人間の身でサーヴァントを相手に戦うというのは無謀にも近いのでこういった形を取らせてもらうわ。

 

 「なるほど。アサシンについてはそれで良しとしよう。では校内に潜む呪刻を仕掛けたマスターについてはどうする?」

 

 「そうねぇ……って、あれ?私、貴方にその話した?」

 

 「……………私はサーヴァントだ。魔力の反応くらいは分かるさ」

 

 「あ、うん、そうよね」

 

かなり間の空いた返答だったが、魔力の反応で分かると言われてしまっては何も言えなかった。魔力反応っていうけれど、衛宮君の魔力感知でやっと分かったくらいなのに分かるものなのかしら?

 

そんな違和感を抱いた時、辺りの景色が一変した。それと同時に魔力が吸い取られる感覚も襲って来た。

 

 「う、そ……これは、結界……?」

 

 「凛、平気か?!」

 

一瞬の油断によってふらついた私の身体をアーチャーがすぐに駆け寄って支えてくれた。

 

 「えぇ。何とか……ね。それよりも一般生徒達の安否も確認しないと……!」

 

一般人に比べれば魔力量が多い筈の私でさえ立ち眩みを覚えるほどの吸収量なのだ。きっと他の生徒達も無事でいる可能性は低いと考えて、私は近くの教室へ急いだ。

 

 「そんな……」

 

目撃した教室内はもはや地獄といっても遜色ない景色が広がっていた。急な気絶によって倒れた為か床に散乱する教材や椅子。中には机ごと倒れている生徒も居た。そのように息があるのかどうかも怪しい、ぐったりと倒れている様子に私はただその場に立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 「……マスター、安心しろ。まだ息はある」

 

 「え、ぁ、そうなの……?」

 

 「あぁ」

 

 「良かった……」

 

彼らの側に寄ったアーチャーから皆の息はまだあると告げられ、私は一安心する。

 

 「だが、事は一刻を争う。このままだと衰弱死する可能性は十分にある。急いでこの結界を張ったマスターとサーヴァントを叩くか結界を解くように促すべきだろうな」

 

 「ええ、分かっているわ。一階の方に結界の起点が感じられるわ。行きましょう」

 

 「了解した」

 

アーチャーに促され、結界の起点に居るであろうマスター達を叩こうと動いた時、背筋がゾッとするような気配と魔力を感じ取った。

 

 「っ!?」

 

 「この気配は……!」

 

今までに感じた事の無い禍々しい魔力。その魔力にアーチャーは覚えがあるようだった。つまりこれは、昨夜アーチャーが会ったという“ヤツ”の魔力だと言えるということ。

 

 「アーチャー、この魔力に覚えある?」

 

 「勿論だ。間違いなくヤツがこの校舎に居るだろうよ」

 

やはり私の推測は合ってたみたい。未知の気配に少し怖気づきそうになりながらも、この元凶を叩きながら衛宮君に関する情報もゲット出来る絶好の機会だわ、と気持ちを切り替えた。

 

道中で今回の犯人が展開したであろう結界がいきなり崩壊した。何故こんなに早くに崩壊したのか不明だったが、目的地に向かえば分かるだろうと速度を更に上げる。

 

そうして目的地の一階まで魔術を用いながら走って向かった先に居たのは、禍々しい魔力を纏うに相応しい()()()()()()()だった。

 





次も遠坂凛視点で行くよ〜。

おかしいな……、予定ではもう少し黒士郎君と絡む筈だったんだけどな?何で目撃だけで終わってしまったんだ?
まぁ、次でそれなりに絡ませる予定だし良いか!((良くない
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