Side:遠坂凛
人ともサーヴァントとも異なる禍々しい魔力を纏いながら部屋の中心に佇む、人ならざるモノ。
「な、んなの……?コイツがアーチャーが会ったヤツなの?」
私はこの人ならざるモノが昨夜アーチャーの目撃したと思われる人物なのだろうかと思い、彼に尋ねてみた。
「いや、違う。ヤツと同じ気配だが、昨夜のヤツは衛宮士郎の身体を使っていた。これはどちらかと言うとヤツが攻撃に用いていた影と帯に近い。故にコイツはヤツの分霊か使い魔の類に近いのだろう」
どうやらコレはアーチャーの会った人物とは少し違うらしい。
「じゃあ、コイツは倒しちゃっても構わないってことね?」
「喧嘩っ早いのはどうかと思うが……まぁ、倒しても構わんだろう。見た限り話せる口を持っていないようだ」
「オッケー、アーチャーはマスターの方を!」
「了解した!」
アーチャーがこの結界を仕掛けたマスターの元へと駆け出すのと同時に、私はソイツに向けてガンドを放った。視覚外と思われる箇所から放ったガンドは不意打ちでソイツに当たるかと思われたが、寸の所で帯のようなもので弾かれてしまった。
「うそっ……!あの帯、そんな硬度を持っているの?!」
ユラユラと動く割にとんでもない硬度を持つ帯に、心底驚かされた。流石に攻撃されれば動かざるを得ないと感じたのか、こちらを捕捉する動きが見られた。
『■■■■■■■?』
「え……?」
コイツ、まさか何か喋った?気の所為かしら。音声にならない何かを話したように聞こえたのだけど……
「避けろっ!凛!!」
「えっ?きゃあ!!?」
人ならざるモノが何かを言った気がして、その事に気を取られているとアーチャーが焦ったように私の事を呼ぶのが聞こえた。驚きにそちらの方に意識を向けた時、ソイツの足元の影が急激に溢れ出して来た。幸いにも影が溢れ出して来た衝撃によって生じた風に吹き飛ばされる形で影に呑まれることは無かった。
「な、何なの……?暴走?」
「凛、無事か!」
いきなりの出来事に唖然としていると心配したアーチャーが駆け寄って来てくれた。
「吹き飛ばされはしたけれど大丈夫よ。あの影にだって触れてない」
「そうか。なら良かったが……」
「アーチャー、マスターは?」
「何分、ソイツが急に暴れてくれたもんでね。簡易ではあるが捕らえて廊下に投げておいた」
「そう。捕らえているのなら良いわ。まずはこっちの対応が先よね」
そう言って私は未だに影を溢れさせる様子を見せる人ならざるモノに目線を向ける。
「分霊だか使い魔だか分からないけど……このまま暴走されると困るのよね。何とかして近付けないかしら」
「いや、近付くのは控えた方が良い。ソイツのその影や周りを漂う帯は人が触れて良いものじゃない。サーヴァントですら触るのは危うい代物だからな」
「じゃあ、どうするってのよ」
「私が相手をしよう。遠距離からならば直接影に触れることは少ない筈だからな」
「分かったわ」
流石に際限無く影を生成するコイツに近付くのは危ういということでアーチャーが遠距離で相手をすることになった。そして、アーチャーが遠距離戦に移るべく弓を取り出して標的に矢先を構えた時、
『スーぐに戦オウとするとハ勇敢だねェ〜、お二方?』
何処からか衛宮君に似ているような片言な声が聞こえてきた。
「っ!?誰?一体、何処から話してるの!」
『コッち、コッチ。目の前にイルぜ〜?』
「なっ?!」
まさかの声の出処は先程まで暴走した様子を見せていた人ならざるモノからだった。声の主の緩い雰囲気に合わせて周りの帯が手を振るかのように揺れている。溢れ出ていた影はいつの間にか収まっていた。
「貴様……」
『おォ〜、コワい怖い。そんな睨まないでくれヨ、アーチャー?お宅のマスターにはまだ手を出してないだろう?』
睨みを効かせるアーチャーに怯むこと無く影は話し続ける。その道中で人ならざるモノから段々と人型を取っていき、発音も片言から滑らかになっていく。
『よっと……、調整完了〜。やっほ~、この間ぶりだなぁ?アーチャー。元気にしてたか?』
人型を取った影はまるで旧友にでも語り掛けるかのようにアーチャーに手を振りながら挨拶をしていた。
「そんな下らない話をしに出てきた訳では無いのだろう。さっさと要件を済ましたらどうだ」
『ちえー、お堅いねぇ。ちょっとくらいおしゃべりさせてくんない?この前言ったじゃん?オレ、おしゃべりだってさ』
「おしゃべりをしたいのなら別の奴としてくれ。生憎と私は貴様と話すつもりは毛頭ない。貴様はこの手で……殺す」
『うへぇ?マジぃ?もう殺すって決めちゃったの?早いねー。もうちょっと考えてみねぇ?短気は損気だぜ、アーチャー』
「貴様は放置すれば世界を滅ぼす害悪にしかならん。ならば葬れる今の内に殺すのが最善だ」
そう言ってアーチャーは弓を構えた。
「マスター、離れていろ。近付けば巻き込むぞ」
「ちょっと?!アーチャー!もう少し情報を炙り出しなさいよ!何でそんなに殺気立ってるのよ」
「どの道コイツは本体ではない。本体は未だ小僧の身体の中に居る筈だ」
「な!?」
本人(本体?)に会った事のあるアーチャーが言うのなら間違いは無いのだろうが、目の前の影にとてつもなく殺気立てているのに本体ではないと断言する勘の良さには驚いた。
『んー、本体ではないってのはあってるけどもちょっとだけ違うんだよな〜』
「何だと?」
『
「小僧がお前だと?」
アーチャーが述べられた言葉に訝しげな顔をして弓を下げると、影は無い筈の口を歪に歪めたように感じた。
『イヒヒッ、そうさ!だってアイツはもう……おっと、これはまだ秘密にしとく方が面白いか!』
「やはり殺すか」
「アーチャー!!今殺しちゃったら情報が何も得られないじゃないの!」
そう言うとアーチャーは渋々といった感じで構えようとした弓を完全に仕舞った。
『ヒュ〜♪すげぇね、嬢ちゃん。赤い猛犬を飼い慣らしちまってんじゃん?』
「煽てても何も出ないわよ。とっとと有益な情報を吐くか、衛宮君を返しなさい」
『アッハッハ!悪ぃけどそりゃ出来ねぇ相談だなぁ。そこの弓兵には言ったけど、まだもうちぃと馴染んでねぇんだ。情報は吐いてやっても良いけど、あの身体を返す訳にはいかねぇなぁ?』
やっぱり、衛宮君をすぐに返してもらうのは無理だったわね。なら、その分たっぷりと情報を絞り取ってやるわ。と考えながら私は影から情報を得るべく、質問をしていく。
「そう……。なら、貴方の目的は何なの」
『えー?いきなりそれ行く?もうちょっと違う質問無かったの?いつからアイツの中に居たのか、とかさぁ?』
「つまり答える気は無いってことね。ならその疑問に答えなさい。いつから衛宮君の中に居たの」
『んー、いつからだっけなぁ?つい最近からだった気もするし、聖杯戦争が始まってからだったかもしれねぇし、それこそ衛宮士郎が
やっぱりアーチャーが言っていた通りだわ。コイツ、情報を吐きはするけど核心に触れることは全然言わない。今の質問だって自分から出しておきながら曖昧なよく分らない回答しか言わないもの。
「本当に明確なことを言わない面倒な性格をしているのね、貴方」
『あははっ!そりゃ嬉しい言葉だわ〜。そうそう、オレってば結構面倒な性格してんのよ。でもそれ以上に気分屋でもあるからさぁ〜、やっぱりさっきの質問に答えてやるよ』
「何ですって?」
あれだけ明確に答えようとしなかったクセにいきなり答えるだなんて言われると何かしら企んでいるのではないかと警戒心が募る。
『アッハ!良いねぇ……その顔。別に信じられないなら信じなくったってイイんだぜ?ま、とりあえずはオレの目的を言ってやるさ。オレの目的は聖杯を手に入れることだ』
「聖杯を……?いや、無理よ!だって貴方はマスターなんかじゃ────まさか!」
『勘が良いねぇ……あぁ、そのまさかさ!確かにオレはマスターなんかじゃない。オレは……』
「サーヴァント……」
影の言葉を予測したアーチャーが唖然とした様子で答えを口に出す。
『大正解!この身は
「嘘よ!だってもう既に七人のサーヴァントは召喚されてるわ!八人目が召喚されるだなんてありえない!」
『おいおい、誰が今回ので召喚されたって言ったよ?』
「っ!?」
なんてこと!?それじゃあ、このサーヴァントは前回の生き残りなの?!サーヴァントが今も生き残るだなんてイレギュラー、そんな事がありえるの?
『あぁ、そうそう。オレが召喚されたのは
「なら尚の事ありえないわ!半世紀以上も現代に残るだなんて!」
今回を除いて聖杯戦争は基本、六十年周期で行なわれる筈。あのサーヴァントの言う事を信じるのなら六十年以上は現代に現界していたということになる。そんな事がありえるはずが無い。一体どんな手を使ったっていうの?!
『これがまぁ〜出来る抜け道があったんだなぁ。イヒヒッ!』
「なら、第三次から喚ばれたっていうのならどうして前回で聖杯を手に入れられなかったのよ。そもそも前回で無理だったのなら今回でも無理な筈よね?」
『前回は……まぁ色々あったのさ。ま、前回の“
「アレ?アレって一体、何の事よ」
『えー?そこまで教えてやる程親切じゃねぇんだよな〜、オレ。そっちの陣営に詳しい奴居るんだし、ソイツに聞けば?』
「詳しい?そんな人居な……っ!セイバーのことね?」
『そうそう!いやぁ、察しが良いと話が早くて助かるねぇ』
一瞬、自分の陣営にそんな人は居なかった筈では?と思ったけれど、そういえばセイバーが前回の聖杯戦争に参加していたと言っていたことを思い出した。その事を口に出せば目の前の影はわざとらしく拍手をして楽しさを乗せた声色で話す。
「どうして貴方の口からじゃなくてセイバーに尋ねさせるの」
『ん?だってアンタら、オレがペラペラ言うだけじゃアンタらだけで解決させようとするじゃない?ならあえて疑問を残す形にして仲間を増やしてもらいたいじゃん?……
「役者……ね」
『何だ?役者扱いは不満か?』
「当たり前よ。私はアンタの道具じゃないもの」
『アッハハ!良いねぇ、屈強なその精神───』
────へし折ってやりてぇナァ?
「!!」
口など無かった筈の影にいきなり獰猛な獣のような口が表れ、それは影のこちらを嘲笑う心情を如実に表すかのように弧を描いた。瞬間、背筋にゾワリと寒気が走った。これだけ会話していても尚、得体の知れない存在に一步後退してしまう。
「そうは言うが私がマスターに指一本でも触れされるとでも思ったのか?」
『えー?ないないwだってこちとら
「最弱だと?」
『そうだぜ?オレ様ちょ~弱っちぃからさぁ、すぐに死んじゃうのよ。ま、条件さえ揃えば下剋上はするけどな』
「条件……?」
またもや情報を得たかと思えば新たな疑問を投下され、疑問が無くなる傾向は一向に見られない。
『教えてやりてぇけど、悪ぃけど時間なんだわ。じゃあな、赤コンビ♪』
「なっ!?ちょっと待ちなさい!何よそのセンスのないあだ名は!」
ここは一旦戦闘に移って今度は攻撃の情報を得た方が良いかしらと考えていると、影は時間だと言って己の出す影の中に沈むようにしてこの場から立ち去ってしまった。去り際に赤コンビ等というセンスのないあだ名を呼んで。
「…………アーチャー予定変更よ。今夜は衛宮君の家に行ってセイバーに前回の聖杯戦争がどうだったのかを聞くわ」
「了解した、凛。それと、倒れている生徒・教職員達はどうする」
「とりあえずは教会に連絡するわ。後処理は綺礼がやってくれるから。それより……」
「ーー!!ーーー!」
廊下方面からくぐもった声で何かを叫んでいる声が聞こえてきた。十中八九、アーチャーが廊下に投げたといったマスターの声だろう。
「貴方が廊下に投げたマスターに尋問するわ」
そう言って様子を見に行くと思ってた以上に人質に近いような形で縄に縛られ口にタオルを噛ませられている慎二が居た。
「・・・・・・。アーチャー?ここまでやる必要あった?」
それに、そんなに時間掛かって無かったわよね?というと、彼はこれまたわざとらしく視線を反らした。
「…………放っておけば逃げそうだったのでな」
「はぁ……、まぁ良いわ。思ってたより時間は掛かってたし、その間に逃げられるよりかはマシよね」
わざとらしく視線を反らした件については後々しっかりと話してもらう事にして、今は居なくなった慎二のサーヴァントについての詳細等を聞き出す方が先決だわ。と、心を切り替えて廊下に居る慎二の元へと向かった。
「さぁ、慎二。知っている事を全て話しなさい。この学校に結界を仕掛けた貴方のサーヴァントの居場所を」
縄の拘束はそのままに、タオルだけを外して慎二にサーヴァントの居場所を尋ねる。
「っ、し……知らない!」
「知らない?しらばっくれないでくれるかしら?」
「ほほほ本当に知らないんだっ……!だ、だって、いきなりよ、よく分らない奴が出……出てきやがったし!」
マスターでありながら知らないと答える慎二にしらばっくれるのかと思ったが、いつもの高飛車な態度でいる彼とはまるで変わってビクビクと吃る様子に正気ではないと悟る。
「そう。なら、最後にこれだけ聞かせなさい。貴方がサーヴァントを感知出来なくなる前にあの影は何かしなかったかしら?」
「だから知らないって!アイツはろくに役に立たないまま、あの変な
「影に呑まれた?」
私達が来た時点で影は溢れ出ている様子はあれど、こちらを襲う様子は無かった。けれど、慎二はサーヴァントが影に呑まれたと言った。つまりアイツの情報を一つ得れたのだ。これはとても大きい。
「そ、そうだ!」
「ふーん……?ならとりあえずは用は無いわ。逃げるでも何でもしなさい。まぁ精々、他のマスターに殺されないように気を付けなさい」
「は……?何でだよ?俺はもうマスターじゃないんだぞ?」
「ええ、そうね。でもね、これはただの争いじゃないの。聖杯戦争という名の殺し合いよ。サーヴァントの居ないマスターなんて他の奴らにとっては格好の的じゃない」
そう言うと慎二は顔を青ざめたが、その後少し冷静になったのか今度はこちらに八つ当たりをし始めた。
「ふ、ふざけるな!この僕が殺されるだって?冗談じゃない!!次に狙われるのはお前の方なんだからな!遠坂!!断じて僕なんかじゃない!!」
そう言って慎二はこちらに激情を示してはいるが、情けなく何処かへ走り去って行った。
「・・・・。」
慎二が逃亡した後、廊下の方へ目を向けるとアーチャーが一人づつ丁寧に意識が無い生徒を運び出す様子が見えた。その様子を見て聖杯戦争に巻き込んだ罪悪感からか、それとも未だに動けないでいる自分に対する情けさからか手に力が入る。
「……凛」
「何?」
そんな時、作業をしていた筈のアーチャーから声を掛けられた。
「幸い、結界が解けるのが早かったのか死亡者は誰一人居ない。君が気を病む事は無い」
「本当?」
「あぁ、本当だ」
「そう……。それは良かったわ」
アーチャーの言葉に私はホッとした時、校庭方面から救急車のサイレンが聞こえてきた。
「うそ、誰かが通報したの?」
「かもしれないな。しかし……想定より早いな。どうする、凛」
「見つからないように裏口から出ましょう」
「了解した」
そう言ってアーチャーは霊体化をしたので私はすぐに裏口方面へ校庭方面からは見つからないように走り、裏口から出た。
計画性の無さが祟って思ってたよりも影と遠坂陣営の会話が長引いてしまった……。こんなペラペラ喋る予定無かったのにな??
セイバーの代わりにアーチャーを登場させたのは良いけど何か違くね?となって本当に大丈夫なのか?ってなる………