衛宮君は消極的である   作:寝仔猫

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歪んだ正義

 

ギルガメッシュを喰らい一時的な腹ごしらえを済ませた俺は、アンリに言ったように一度自宅に戻っていた。連絡も無しに急に行方不明となったため自宅には誰も居ないだろうと思っていたが、玄関の鍵は開いており、さらには驚いた表情をした藤ねぇが居たのだった。

 

 「士郎……?」

 

 「あー……ただいま。藤ねぇ」

 

驚いた表情をしていた彼女が次の瞬間、とても泣きそうな表情を浮かべるものだから連絡しなかった罪悪感とこの先も暫くは帰れないだろうことをどうやって伝えようか迷い、口に出せたのは帰りの挨拶だけだった。言葉を出し終えた瞬間、左頬に痛みが走った。言わずもがな藤ねぇに平手打ちをされてしまったのだ。突然の出来事に思わずポカンとしてしまう。

 

 「藤ねぇ……?」

 

 「馬鹿……っ!!私や桜ちゃんにも連絡もしないで一体何処に行ってたの!昨日は学校にも来てないし……!知り合いも誰も士郎の事を見てないって言われて……!!私や桜ちゃんがどれだけ心配したか!!」

 

 「それは、その……ごめん……」

 

大粒の涙を流しながらこちらの服を強く握り締めて心配していたという藤ねぇに、俺は酷い罪悪感で何も言うことが出来ずにただ謝罪の言葉を口にするのが精一杯だった。

 

 「っ……!!でも、本当に……()()()良かった」

 

 「・・・・・。」

 

藤ねぇに顔が見られない体勢で良かったと心底思う。だってきっと、今の俺の顔は他人が見ればゾッとするほど表情が抜け落ちているだろうから。

 

無事に、か。……うん、そうだな。外傷が無いという点ならば無事だと言えるだろう。でも実際はどうだ?多くの人間とサーヴァントを喰らい血に塗れた俺は本当に人間だと言えるのか?初めから人間ですらなかった俺にそんな常識が当て嵌まるのか?そもそも衛宮士郎という人間は────

 

 「藤村先生?どうかしまし…………先輩?」

 

 「っ……!?」

 

顔を伏せ、マイナス方面の思考を巡らせていたが、桜の声が聞こえてきたことでそれは中断となった。声のした方向へ目線を向けるとそこにはやはり桜が居り、彼女は俺の存在を確認すると藤ねぇと同じように今にも泣きそうな顔で涙を浮かべていた。さらに彼女の後ろには目を見開いて驚きの表情を全面に出したセイバーも居た。

 

 「桜……、それにセイバーも……」

 

 「っ、本当に……先輩なんですよね……?」

 

 「あぁ、そうだよ。心配掛けたな、桜」

 

 「あぁ……!!っ、先輩……!」

 

桜は、俺がそう言うとまるでダムが決壊したかのようにポロポロと本格的に泣き出してしまった。その表情に俺は、何とも言えない気持ちに陥ってしまう。数日とは言えまさかこんな風に二人に泣かれるとは思っていなかったからだ。どうしようかと一旦セイバーの方へ目線を向けてみて、俺はギョっとした。

 

 「セ、セイバー?」

 

驚きの表情を浮かべていた筈の彼女の顔は表情が読み取れないくらいに真顔になっていたのだ。いつもの騎士を思わせるようなキリッとした表情ではない。本当に何を考えているのかこちらに決して読み取らせない表情を彼女は浮かべていた。まさか俺が泥に染まっていることがバレたのだろうか?

 

そう考え恐る恐る彼女を呼ぶと、今度はニッコリと寒気がするくらいの笑顔を浮かべてこう言った。

 

 「……シロウ、話があります。付いて来てくれますね?」

 

 「ア、ハイ」

 

泥に染まっているのはバレなかったようではあるが、別件はあったようで、そのあまりの気迫に思わず片言の返事をしてしまった。流石にこれは下手に言い訳するよりも素直に付いて行った方が良いかと考え、俺はセイバーの元へと行こうとした。

 

あ、でもその前に藤ねぇには暫く家を空けることや桜に()()()()から帰るのは少し待っててもらいたいことも言わないとな。

 

 「あ、ちょっと待ってくれセイバー」

 

 「何ですか、シロウ。言い訳ならば後で……」

 

 「いや、そういう事じゃなくて。藤ねぇと桜に伝えたいことがあるんだ」

 

 「伝えたいことですか?…………分かりました。私は先に居間に居りますので伝え終わったら後で来てもらえますか?」

 

 「分かった。ありがとう、セイバー」

 

突然の俺の言い分にどこか納得のいかないといった様子を見せていたセイバーだったが、俺が引くことはないと悟ってか暫く黙り込んだ後に許可を出してくれた。セイバーが居間に行ったことを確認し、俺は藤ねぇ達に伝えたい事をなるべく手短に話すことにした。

 

 「……あのさ、藤ねぇ」

 

 「なぁに?士郎」

 

 「俺、暫く家を空けるつもりなんだ」

 

俺の言葉を聞いて二人の表情が驚きに染まった。

 

 「何で?家を空けるって、学校はどうするつもりなの」

 

 「………………休む」

 

 「士郎。貴方、言ってる事の意味をちゃんと分かってるの?義務教育ではないとは言え、貴方は学生なのよ?それにいつまで空けるつもり?本当は駄目だけど、もし数日程度ならある程度の処遇は考えるわ。でも、そうじゃないのでしょう?」

 

 「・・・・・。」

 

藤ねぇの的確な指摘に咄嗟に反応することが出来なかった。確かに藤ねぇの言う通りなのだ。俺は“暫く”家を空けるつもりだと言った。数日じゃない。嘘は吐いてはいないがまさかそこに気付かれて指摘をもらうとは思っていなかった。黙り続ける俺に藤ねぇは言葉を続ける。

 

 「士郎。私はね、今ここで貴方が抱えてる全てを話してもらえるとは思っていないわ。でもね、だからと言って何も聞かないまま帰るわけにもいかない。それにね、気付いてる?今の貴方、()()()と同じ瞳をしてるってことに」

 

 「あの頃……?」

 

 「士郎が養子に来たばかりの頃よ。何もかもを失って、生きることを諦めて、決して一人では抱えきれない何かを持って、それなのに誰にも言わずに、独りで何かをすることを決意した。そんな矛盾した瞳」

 

 「っ!!」

 

まさかの指摘に再び言葉を失ってしまう。そんな俺の様子を見て藤ねぇは小さく溜め息をつく。

 

 「本当は独りで抱えないで私のような大人を頼って欲しいのだけど……そうはいかないのよね?」

 

 「…………あぁ、ごめん。藤ねぇ」

 

 「そう…………分かったわ」

 

 「そんな……っ!藤村先生!」

 

どういう事かと桜は藤ねぇに詰め寄ろうとしてきたが、藤ねぇは彼女の言葉を遮って、こう言った。

 

 「ただし!私が知らぬふりをして関わらないであげるのは一週間だけよ。それ以上行方不明になるならば私は問答無用で貴方の事情に首を突っ込みます。良いわね?」

 

 「ありがとう、藤ねぇ」

 

 「礼には及ばないわ。助けてあげられない私に出来る最大の譲歩がこれだっただけよ」

 

藤ねぇは顔を少し歪めて力無く首を左右に振って否定するが、俺にとってはありがたい事だった。

 

 「いや、それでもだよ。藤ねぇ、ありがとう」

 

俺は再び礼の言葉を口にする。本当は何をするのか聞きたいだろうに、そんな事をせずに待っててくれる判断をした藤ねぇには本当に頭が上がらない。こんな俺にも気を遣ってくれる貴重な人間。益々俺は、自分の身勝手な行動に巻き込んではならないと決意を固めた。

 

 「……それじゃ、今日はもう遅いから帰るわね。桜ちゃんとはもう少し話すのでしょう?私はもう帰らないといけないから桜ちゃんを家まで送ってあげることが出来ないの。だから、士郎がしっかりやりなさい。分かった?」

 

 「あぁ、勿論だよ」

 

俺の返事を聞いて、藤ねぇは安心したように笑うと玄関の戸を閉じた。藤ねぇが居なくなった事により、玄関で桜と二人きりとなる。困惑を隠しきれていない桜にどう話そうかと考えあぐねて居た時、桜の方が先に口を開いた。

 

 「先輩……っ、あの……先程の話は、どういう事でしょうか」

 

 「そのままだよ、桜」

 

桜にこれ以上不要な不安を与えない為笑みを浮かべたが、どうやら逆効果だったようで、彼女の顔が悲しそうに歪んだ。

 

 「そのままって……。どうして今、家を空けると言うのですか。先輩は一体、何をしようとしているのですか……!」

 

 「ごめん、さっきも言ったように言えない事なんだ」

 

俺のことを心配してくれて、何をしようとしているのか聞いてくる桜に、こんな突き放すような言い方しか出来ないような自分に心底嫌気が差してくる。しかし、こうするしか方法が無いのだと自分に言い聞かせる。突き放された桜はというと、俺の帰宅に安心した時以上に泣きそうな表情をしていた。

 

 「どうして……どうしてなんですか……」

 

 「藤ねぇを……桜を、巻き込みたくないんだ」

 

 「巻き込みたくないって……一体、何にですか」

 

 「桜は、もう知ってるだろう?」

 

泣きそうな表情をしながら知らぬふりを続ける彼女に、俺はあえて笑みを浮かべて問い掛ける。すると彼女の顔は理解出来ないモノに遭遇したかのような表情を浮かべていた。

 

 「せ……先輩……?」

 

 「聖杯戦争、令呪、マスター、サーヴァント。桜には心当たりがあるんじゃないか?間桐は、いや、慎二は間桐の家系は長男にしか秘儀を伝えないとは言っていたが、そうにしても義妹の桜が一つも知らない、だなんて事は無いと思うが?」

 

 「そ、れは……」

 

 「まぁ、知ってるかどうかは今はどうだって良いよ。さっきも言ったように、俺は桜達を巻き込みたくないんだ。桜や藤ねぇには危険と程遠い生活をして欲しい。そのために、俺は今動いている」

 

 「先輩は、何を()()()()()んですか……?」

 

 「何をって……全部だよ、桜。前回の聖杯戦争の結末も、この聖杯戦争の行く末も、間桐の家の真実も、桜の過去も、遠坂の聖杯戦争に参加した理由も、アーチャーやイリヤの正体だって。全部を俺は“ずっと前”から知ってる」

 

ついでに、この世界が創作の世界であることもな。という言葉は飲み込んでそう言うと、口には出さないが彼女の顔は信じられないとでも言っているかのように驚愕の表情に染まった。心做しか顔色もどんどんと悪くなっているようにも見える。

 

まずいな。アンリに影響されたのか言うつもりの無かったこともペラペラと話すし、彼女の表情をもっと歪めたいと思ってしまう。そんなつもりはないし、早いこと苦しみから開放させてあげたかっただけだってのに。

 

なんてことをぼんやりと考えながら、俺は言葉を続ける。

 

 「だけど、まぁ……やっぱり桜には関係が無いよ。これからは魔術師の家の事なんて考えなくても良いようになるんだからさ」

 

 「それは、どういう……」

 

 「こういうことだよ、桜」

 

彼女の疑問に、俺は行動で示す。

 

 「え……、ぁ……?せん、ぱ……ぃ?」

 

桜の心臓部目掛け手を伸ばす。そしてそのまま俺の腕は彼女の身体を貫いた。握り締めた拳の中には、彼女の心臓部に寄生していた間桐臓硯の本体である蟲と穢れた黒い聖杯の欠片が存在していた。桜は自分の身に起きたことが理解出来ずに目をパチクリとさせ、唖然とした表情で貫かれた自分の身体を見ていた。

 

勿論だが血は出ていない。俺が桜を傷付けるだなんて()()()()()話だからな。これはアンリの扱う泥の応用のようなもので、彼女の体内に聖杯の欠片があったから出来た事である。HFにて桜が臓硯に対して行っていた事の流血無しバージョンといった所か。まぁ、そうでなくても後遺症が残らないように治療はしたのだが。

 

そんな事を考えながら、状況が理解出来ていない桜に見せつけるようにしてズルズルとゆっくり腕を引き抜いていく。桜は状況を理解したのかそれとも突然の出来事に処理が追い付かなくなったのか、俺の腕が完全に引き抜かれた直後に気絶してしまったようだ。

 

 「おっと……」

 

グラリ、と傾いた桜の身体を空いている左腕と影を用いて支える。そしてゆっくりと壁沿いに彼女の身体を降ろして、寒さで風邪を引かないようにブランケットを投影した。

 

 「相変わらず身内には甘えよな〜♪」

 

桜が気絶したことで誰も目撃者が居なくなった為か、アンリが俺の影の中から現れてからかうようにそう言ってきた。

 

 「何だよ、何か文句でも?」

 

 「いんや?無ぇよ。それで?その手に握り締めた蟲爺さんはどうするんだ?喰うか?」

 

アンリがそう言うと手の中の蟲が危機を察知して逃げるためかギィギィと鳴きながら気持ち悪く反応した。

 

 「喰わねぇよ。何されるか分かったもんじゃないし」

 

 「アッハハ!そりゃそうだ。そんなゲテモノ、流石の兄弟でも喰いたくは無いわな」

 

 「何だよ……アンリから振ってきた癖に……」

 

自分から話を振ってきた癖にケラケラと笑うアンリに少しイラッとした。が、しかしこのまま握り締めておくというのも気分が悪いので、どうしたものかと目線を向ける。

 

 「それで、コイツをどうするかだけど……気持ち悪いし、生かしておいても何の特も無いから潰すわ」

 

 「ヒュ~♪やるねぇ〜!景気良く潰してくれよ〜?あ、そーれ、イッキ♪イッキ♪」

 

 「いや、それ飲み会のコール……。まぁ、良いけどさ……」

 

空気が読めてるのかあえて読んでないのか分からない妙にテンションが高いアンリに少し引きながら、ツッコミをした後に臓硯を握り潰す。

 

 『■■■■■■!!??!!』

 

ヒトか蟲か分からぬ悲鳴をあげながら、プチッと存外軽い音を立てて手の中にいた臓硯はその命を散らしたのだった。五百年を生きた魔術師にしては随分と呆気ない最後であった。

 

 「…………こんなちっぽけなヤツに桜はずっと苦しめられてたんだな」

 

手の中に残った穢れた黒い聖杯の欠片と、ポタポタと零れ落ちる蟲の体液を見ながら、ぽつりと呟く。

 

本当に呆気ないとしか言い様のないくらいに情けない最後だった。こんな、男子高生の手のひらサイズもないただの蟲風情で。今までずっと桜の心臓部に擬態するなどという卑怯な手を使って、桜を苦しめ続けたというのに!こんなあっさりと……!!

 

 「おーい、兄弟?嬢ちゃんの心臓に住む蟲爺さんを殺して、欠片を手に入れて彼女を救ったってのに、なぁーに上の空になってんですかー?セイバーを待たせてるんだろ?早く行かねぇとまた怒られちまうぞ〜?」

 

もうこの世に居ない臓硯の最期に怒りを募らせていると、アンリから声を掛けられ、俺はハッとした。そうだった。セイバーを待たせてるんだった。早く行かないとアンリの言う通りまた怒られてしまう。

 

 「分かってる、けど……コレはどうするんだ?コレをそのまま持っていったらセイバーにバレるだろ」

 

俺がそう言うと、アンリは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべてこう言った。

 

 「どうするって、そりゃあ……()()んだよ。ソレは元々兄弟の一部だし」

 

 「は…………?」

 

理解が及ばなかった。呑む?俺の一部?どういう事なんだよ。そんな俺の困惑を他所に、アンリは俺の手の中にあった聖杯の欠片を奪うとそのまま俺の口の中に突っ込んできたのだった。

 

 「!!??!」

 

突然の出来事に驚き、さらには何の抵抗もなく聖杯の欠片を飲み込んでしまった。そして、他人事のように自分の喉が欠片をゴクリと呑んでいく音を聞いていた。

 

 「なっ、何すん───ぁ、れ……?」

 

なんてことをしてくれたんだと文句を言おうとアンリの方へ向こうとした時、身体がグラリと揺れた。それに加えて鈍痛のような頭痛や酷い眠気がする。しかし倒れるわけにはいかない為、踏ん張ろうとしていると突然、アンリに身体の支配権を奪われた。

 

 「大人しくしてなって。()()()()()()から身体がビックリして休眠状態に入ろうとしてるのさ。下手に起きようとするともっと痛えから、寝ておいたほうがマシだと思うぜ?』

 

一体どういうことだ!欠損を補ったって、何の事だ!と声に出そうとするも、支配権を奪われた身体ではそれを口にすることも、指一本動かすことさえも出来なかった。

 

 「だ〜いじょうぶだって!セイバーへの対応も、赤主従の対応も、アンタがアンタ(オレ)になるまで俺がしっかりと“役目は”果たしてやるからさ?もう一度寝てなよ、マスター?』

 

ケラケラと俺のにもアンリのにも聞こえる声でアンリが笑う声聞いたのを最後に、俺の意識は再び闇の中へと落ちてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒヒヒッ♪これにて準備は整った。さぁ、始めよう……“歪んだ正義”を抱く泥人形が演じる聖杯戦争を舞台にした今世紀最大の────喜劇(悲劇)をなぁ?」

 





ストック全然作れないから二週間に一度の投稿ペースが今の自分にあってることが最近ようやく理解出来ましたわ……。となると、月に二話ずつしか進めれないのか……んー、これは遅いというべきか、それとも早めな方なんだろうか……

次はまた別Sideで進めるから主人公君はもう一度お休みです。ごめんね!次が終われば君Sideに戻る筈だから……!

あ、今更ですが、この小説の表紙絵的なものを描いてみました〜↓

【挿絵表示】


え、タイトルと後ろに変な黒塗りがある?さぁ?どうしてでしょうねぇ……(すっとぼけ)
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