Side:アンリマユ
聖杯の欠片を取り込んだ
突然の事だった。何の予兆もなく周りの人間から、見知らぬ人間から、はたまた身内であった者からでさえ『悪であれ』と望まれたのだ。全ての良くない出来事、物事が上手く運ばないのはオレのせいだと、何もしていない筈なのに、『全てお前が居るからだ』そう言われたのだ。そうして山の頂に幽閉された。呪術で名前を剥奪され、叫ぶことが出来ぬよう喉を潰され、片目を抉られ、鎖で繋がれ、決して逃げる事がないよう四肢を、指を、全て斬り落とされた。残った瞳は二度と閉じることがないよう、目蓋を固定させられた。そうしてお世辞にも人とは呼べぬナニカになってもなお、蔑まれ、貶される日々は続いた。もはやそれだけの事をされてもなお“生きている”というのが
そこまで思い返してオレは、次にこの後のことを考え衛宮士郎らしからぬ笑みを浮かべる。
いやぁ~、長かった。本当に、ここまで長かったぜ。死して亡霊となってもなお、あの地に縛られ続けていた筈のオレが、英雄でも英霊でも神霊でも神でも何でもない、ただの一般人Aの名前も無い亡霊風情だったこのオレが、聖杯戦争だなんていう茶番に巻き込まれてどれくらいの年月が経った?半世紀とちょっとか?いや、この際年月なんぞどうでもいいか。
まさかイレギュラーもイレギュラーで“並行世界の記憶”が大聖杯に保存されているだなんて誰が予想つく?そして、なんの因果かその記憶は『この世の全ての悪であれ』と望まれたオレが保有することになったなんてな。まぁ、そのおかげでこうやってこの舞台が成立しているわけなんだが。
さぁて、ネタバラシはいつにするかねぇ。特に守護者やってるお兄様には是非ともコレは知ってもらいたいものだ。自分殺しを目標に冬木の聖杯戦争に参加したはずなのに、肝心の本物の衛宮士郎は冬木大火災でもうすでに
そうして
ニヤリと笑みを浮かべながら想定されうる結末を考えていると、セイバーの居る居間にまで辿り着いた。彼女にバレぬよう浮かべていた笑みを引っ込め、衛宮士郎の皮を被る。そうして、何事も無かったかのように彼女の前で“演じる”のだ。
「悪い、セイバー。待たせちまった」
「いや。問題はない、シロウ。貴方が居ない間、二人は貴方の事をとても心配していた。沢山語る事があったのだろう」
どうやらセイバーは兄弟が連絡もなく居なくなった事に不機嫌なようで、口調が少し強くなっていた。
「あー……セイバー?怒って、るのか?」
あからさまではあるが、聞かずというのもアレなのでとりあえず申し訳なさを全面に出しながら聞いてみる。
「そう尋ねるということは、自覚はあるのですね」
「まぁ、うん……流石にな」
そりゃ、キャスターの思惑にハマってその後に行方不明になれば誰でも怒るわな。鈍い兄弟でも分かっていた当たり前のことだ。
「……そうですか。なら良いです。…………では、
あらら……?二人称が変わったぞ?
「不遜にもシロウの皮を被る貴様は何者だ」
へぇ……?もう分かっちまったって訳か?いやぁ、これだから直感力の高い王様はよぉ……。ま、簡単にネタバラシするわけにはいかねぇからもう少しこの茶番を引き伸ばしさせてもらいますけどね。
「なっ……何を言っているんだよ、セイバー」
「まだ白を切るつもりか?」
「いやいや、白を切るも何も俺は……」
衛宮士郎だ、という言葉は続かなかった。マスターの顔でとぼけるオレに堪忍袋の緒が切れたであろうセイバーがオレを押し倒し、不可視の剣の切先を向けていたからだ。因みに本当に切先を向けられているかどうかは知らない。ただ、セイバーが武装して剣を握っているかのような動作をしているからそう判断しただけである。
「ぁ、危ないじゃないか、セイバー……!」
「下手な演技はその辺にして私の質問に答えろ。貴様は一体何者だ。何故マスターの身体を使っている」
「だから、俺は衛宮────」
「次に巫山戯た事を抜かせばその首、斬り落とす」
首の左下ら辺にピリッとした痛みが走った。恐らくはギリギリの辺りに向けられたセイバーの剣で薄皮が切れた為だろう。そして明らかな兄弟に向けていた口調や態度とはかけ離れたソレで、下手に出れば本当に首を斬り落としかねないと悟る。
「ふ……ハハッ、アハハハハハハ……!」
「何故この状況で笑う。気でも狂ったか」
絶体絶命の癖にいきなり笑い始めたオレを不審に思ってか、セイバーの顔が訝しげに歪む。その顔を見てオレは更に上機嫌になる。気でも狂ったか、ねぇ……?そんなもん、とうに狂ってるに決まってるじゃないか。それに……
「騎士王様よぉ……。押し倒したからってアンタだけが有利だとは思うなよ?オレにだって攻撃手段はあるんだからよぉ……!」
「ッ!!」
影をうねらせ、中から
「貴様、アーチャーと同じ攻撃を……」
「当たらずしも遠からずって所かねぇ……。アイツのとはまたちょびっと違うんだなぁ~これが」
セイバーの指摘にオレは少し訂正を入れる。オレのコレはあくまでも肩透かし程度の効力しかない。この身体でオレが出来る攻撃は泥と帯を使うのが精一杯ですからね〜。投影魔術を本当の意味で上手いこと扱えるのは兄弟とお兄様だけだからな。
「……何者なんだ、貴様は」
「おいおい、また同じ質問か?今は役者が足らねぇんだ。もっと違う質問をしてくれよ」
「役者だと?」
セイバーの放つ疑問に待ってましたと言わんばかりに大袈裟に両腕を伸ばし、クルリとその場で回転する。さながら舞台役者の注目を集める為の演技のように。
「あぁ、そうさ!この聖杯戦争と言う名の
「貴様、巫山戯ているのか」
「巫山戯てなんかないさ。オレは大真面目に言っているんだぜ?だってこの戦争は
「ある目的を達成するだと?一体何なのだ、それは」
ホント、この世界の住人にすぐに答えを知りたがる。急いては事を仕損じるってことわざを知らないのかねぇ?いや、セイバーはブリテン人で過去の人だ。知らなくても仕方ないか。
「オレが教えてやるのも良いが、少しは自分達で考えるって事もやってみなよ、騎士王様?」
「貴様……」
ニヤリと衛宮士郎がやらない笑みを浮かべながら、あえて挑発するように発言する。普段であれば乗ってこないであろうが、今のオレは兄弟の身体を扱う不届き者として彼女の目に写っている。故に少し冷静さを欠いている為、こんな安い挑発にも乗ってくるのだ。怒りにあの高貴さを感じさせていた顔が見事に歪んでいる。あ~
────だからこそ
「お綺麗な顔が台無しだぜぇ?もっとリラックスして笑いなよ。いや、んなこたぁ出来ねぇか!アハハハハッ!」
そんな事を考えながらケラケラと笑っていると、玄関方面から気配を感じた。恐らくは赤主従のものだろう。
「おっとぉ?!ついに強行突破の策に出たか?騎士王様よぉ」
「口を慎め!!」
「イッヒヒ!やーなこった!」
外に気を向けた一瞬の隙にセイバーの剣が振るわれたが、オレは寸の所で右に飛ぶ事で回避する。余程激昂しているのか彼女は部屋の被害お構い無しに剣を振るってくる。ここまで冷静さを欠いてもらう予定は無かったが、玄関に居る奴らをこちらに呼ぶという意味では好都合か。
このまま狭い場所で辺りが原型が無くなるまで戦うってのは、影が多い場所ってことでオレ的には有利でアリなのだが、兄弟の事を考えるのなら外に出るのが一番なんだよなぁ……。さて、どうするか。
バーサーカーの如く剣を振り回すセイバーの剣をのらりくらりと避けながら、外へ出るか否か思考する。ていうか、セイバーってこんな奴だったけ?もう少し聡明で冷静な奴だと思ってたんだけどなぁ?と違和感を抱き、彼女を注意深く観察すると澄んでいる筈の魔力が若干聖杯の汚染を受けているのを目撃した。
うっわ、マジぃ?流石にもう汚染済みは想定外ですよ?いつ汚染された?って、アレしか無いわな、オレが魔力送った時。あの時は自他共に認める完璧な魔力制御で汚染は無いと思ったんだけどなぁ……。いや、まぁ良いか。どうせセイバーにはこっち陣営に堕ちてもらう訳だから問題無いな!
なんて余裕ぶっこいてたら、オレとセイバーの間に見覚えのある黒い玉が飛んできた。
「うおっ、あっぶねぇ〜」
「セイバー!平気?」
案の定それは遠坂凛の放ったガンドだった。
「……えぇ、平気です」
遠坂凛の乱入によって、セイバーは落ち着きを取り戻したようだった。ちぇ……、もう少し時間があれば汚染を活かした違うことも出来ただろうになぁ〜。
「あーあ、残念」
「衛宮君……じゃ、ないわよね。貴方、一体何者?」
「んー?誰だと思う?特別大ヒントだ、コレ見て当ててみな」
役者もある程度揃い、そろそろオレの真名を開示しても良いかと考え、オレは影をうねらせ帯を見せつける。
「「っ!?」」
するとすぐに答えに辿り着いたのか、驚きで目を見開いていた。
「アハハッ!分かったか?」
「……えぇ、ハッキリとね」
優雅たれを家訓として掲げる遠坂凛が親の仇を見つけたかのように顔を歪める様を見て、オレは優越感に口が弧を描く。まぁ、これは衛宮士郎が絶対にやらない顔をしているからだろうが。
「そっかそっか。そりゃ良かった。そんで?こんな夜更けに何の用です?アーチャーのマスターさんよぉ?」
「そんなの、貴方を倒す為に決まってるじゃない」
「へぇ?言ってくれるじゃねぇか。二対一だから勝てるとでも?」
随分と甘く見られてるなぁ……と思い、少し本気を出してやるかと考え攻撃の構えを取ろうとした時、足元に矢が放たれた。
「いや、三対一だ」
矢が放たれた方向に目線を向けると案の定、外に気配があった筈のアーチャーが居た。まさかの援軍に遠坂凛が驚いた反応を見せた。
「アーチャー!貴方、外で待機してなさいって言ったのに!」
「済まない、マスター。身に覚えのある気配がしたのでね、居ても立っても居られなくなった。安心したまえ、桜は未だ無事だ」
「げぇぇ……アーチャーまで来んのかよ。オレに対して過剰戦力だっつうのー……」
こちとら最弱英霊ですぜ?というと、全員が揃いも揃って『なわけあるか』という顔をしてきた。
「いやいや、マジっすよ?マジ。オレは
辺りを巻き込む泥を展開し、オレは再び弱いことをアピールする。オレは大聖杯に繋がっている故に泥を展開出来るというアドバンテージはあるが、あくまでもその程度だ。第三次聖杯戦争四日で敗退は伊達じゃないってな。
「ありゃ、信じてないって顔をしやがって。オレ嘘は吐いて無いぜ」
「だとしても敵の言葉を鵜呑みにするほど馬鹿ではないわ」
「あー、それもそうか」
「何よ、やけに素直ね。三対一じゃ敵わないからって諦める気にでもなったのかしら?」
「違う違う。あー……なぁ、場所移動しね?オレ的には中庭辺りが望ましいかな~なんてな?」
「はぁ?」
オレの何の脈絡もない提案に一同『何言ってんだコイツ』という顔をする。ま、そりゃそうだわな。いきなりこんなこと提案すりゃ、誰でもそんな顔する。けどなぁー、急に面白いアイデアが思い浮かんだから実行してみてぇんだよなぁ〜。そして何より、一度
「あ、言っとくけど拒否権は無ぇから。先に中庭で待ってるぜ?」
そんな事を考えながらオレは場所を移動することを予告し、影に溶け込む形で戦線を一時離脱する。逃走を図られたと思ったサーヴァント組がこちらに攻撃を加えようと動き出したが、泥の壁をドーム状に展開することで近付かれるのを回避する。
離脱した先は周りには何も無い真っ暗な空間が広がっていた。ここは
「ようやっとここまで堕ちて来てくれたなぁ?」
彼が眠る硝子玉の縁をなぞりながらポツリと歓喜の声色を隠すことなく呟く。
魔術なぞ存在しない、極々当たり前の生活が出来る世界からオレ達を高次の壁の先からこの世界を
「カワイソウになぁ……?
この世界から消えた衛宮士郎の代役として世界に目をつけられただけでなく、オレからも目をつけられただなんて憐れな奴だぜ。ま、目を付けただけで役割を押し付ける世界とは違って、オレは最期まで面倒みてやるよ。だから……
「早く堕ちて来い、■■」
そんなオレの声に呼応するかのように、■■を取り囲む硝子玉の中の泥がドロリ、と増えた。
何か書いてたらまた予定より伸びて(設定の盛りすぎが原因)一万字超えたんで、流石に分けましたわ。ごめんよ、主人公君。君のパートはまたその次になっちゃった……(;^ω^)
アンリマユ君が全部知ってる設定にしちゃったから彼のパート、説明ばっかりになるなぁ……申し訳ない(自業自得)
続きは一時間後に投稿しますね。