衛宮君は消極的である   作:寝仔猫

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大変お待たせ致しました。長い間、放置してしまい申し訳ございません。何とか書き上げた続きでございます。
ギリギリまで書いていたので誤字脱字が目立つかもですので、もしありましたらそこは読み流して下さい……(後々修正します)

※今回から書き方を他作品と統一致しました。読みづらいかもしれませんが、ご了承くださいm(_ _)m


泡沫の夢

 アンリに促され、目を開けた先にはこちらを驚いた顔で見つめる遠坂とセイバー、更には訝しげな顔で干将莫耶を構えるアーチャーが居た。それを見て俺は、『あぁ、良かった』と思った。全員揃っているから、ゲームが進められると考えたからだ。

 

「衛宮、君……?」

 

「ん?何だ?遠坂」

 

 名前を呼ばれたから返事をしただけなのに、何故か遠坂に、信じられない、とでも言うような顔で見られてしまった。その理由が分からずに首を傾げる。

 

「遠坂?どうしたんだ?そんな顔をして」

 

「本当に、衛宮君なの……?」

 

「変な事言うなぁ……遠坂。俺は俺だよ。冬木の大火災の生き残り、衛宮切嗣の養子、セイバーのマスター。あ、もしかして姿が違うからそう思ったのか?」

 

 もしそれが正解ならば、姿ってのは余程大切なんだなぁ……と他人事のように思っていると、

 

「違う。貴様は衛宮士郎などではない」

 

 アーチャーに否定の言葉を言われた。

 

「そもそも、貴様が身に纏う魔力は人のソレからは掛け離れている。貴様が語るその肩書きは紛い物だ。貴様自身のものではなかろう。人ならざる貴様は、一体何者だ」

 

 アーチャーの言葉に、胸が締め付けられるかのような心地に陥った。頭の中で警鐘が鳴る。

 

「そんな訳ない。俺は衛宮士郎だ」

 

 けれど俺はソレを無視して自(・)ら(・)の(・)名(・)を名乗る。

 

「では小僧。貴様に一つ問う。貴様にとって、正義の味方とは何だ」

 

「正義の味方……」

 

 俺にとっての正義の味方とはなんだろうか。いや、ど(・)う(・)答(・)え(・)る(・)の(・)が(・)正(・)解(・)だろうか。不特定多数の人を助ける事?一を切り捨て、十を助ける事?それとも、もっと違う何か?それこそ、あの時じいさんに答えたような────

 

「なぁ、お兄様よぉ……。起きてすぐのマスターに、その問い掛けは酷じゃないか?しかもそれはマスターの根幹に関わる事だ。だったら尚更今(・)は(・)ま(・)だ(・)早(・)い(・)って」

 

「何を言ってるアンリマユ!今すぐにシロウから離れなさい!!」

 

 アンリが俺の側に寄って来て、耳を塞ぐ。ただそれだけだと言うのに、思考がぼんやりとし始めた。そんな俺の様子に、セイバーが怒りの表情を浮かべているのが見えた。

 

「ヤーだよ。だってオレが離れたら、そこのアーチャーは別としても、アンタらはマスターを取り戻すのに奮闘するだろ?そりゃあ、困るって話。マスター(■■)はまだやるべき事、やりたい事が残ってるんだから。な?そうだろ?」

 

「そう、だっけ……?」

 

 ぼんやりとし始めた頭でアンリの言葉の意味を思考する。俺のやるべき事、やりたい事って、何だったっけ?やるべき事……切嗣(じいさん)の跡を継いで正義の味方になる事?いや、それは俺のやるべき事じゃなくて、衛宮士郎の成りたいモノ、やりたい事だった筈だ。俺はそんなのには初めから成れやしない事は分かりきってる。

 

「─────ぁ」

 

 ぼんやりとした頭で、今一度セイバーを見て思い出した。それを見て、アンリは耳元から手を離して傍に寄り添うに立つと、ニコニコと嗤いながら俺の動向を見守る姿勢を見せた。

 

「なぁ、セイバー。お前は俺のサーヴァントだよな?」

 

「っ!勿論です、シロウ。私は貴方の剣ですから」

 

「……そう。良かった」

 

 

────それじゃあ、受(・)け(・)入(・)れ(・)て(・)くれるよな?セイバー?

 

 

「え……?─────ぁ」

 

 俺のやりたい事、やるべき事の一つ。それは、セイバーと共に聖(・)杯(・)を(・)手(・)に(・)す(・)る(・)事(・)だ。その為には使えるモノは何でも使わないと。目的を思い出した俺は左手に宿る令呪を掲げて、セイバーに問い掛けた(命令する)。そして令呪と契約の繋がりを通じて、魔力(泥)がセイバーの元へ流れて行った。

 

「あ、ぁ……、うあぁあぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ァァァァ゙?!?!!?!」

 

「セイバー!!」

 

「凛!近付いては駄目だ!!」

 

 泥の汚染によって苦しみの声を上げるセイバーを心配して、遠坂がいち早く駆け寄ろうとしたが、それをアーチャーが彼女の腕を掴んで阻止していた。その間にもセイバーの反(・)転(・)化(・)は進んでおり、彼女の凪いだ心を表すように吹いていた剣を隠す為の風王結界(インビジブル・エア)は何人も寄せ付けぬ荒れ狂う嵐のように吹き荒れた。更に足元の影が不自然に揺れ動くとそこから触手のような黒い帯が生え、彼女の身体を覆い始めた。

 

「衛宮君!貴方、セイバーに一体何を命じたの!」

 

「何を命じたって、俺はただ聞いただけだぞ。俺の剣だと言うのならば、俺(泥)を受け入れてくれるよな?って」

 

「違うわ!貴方は確かに令呪を使用している。ならばそれは問い掛けじゃなくて命令になる。セイバーに最初から拒否権が無い。そんなのはあまりにも貴(・)方(・)ら(・)し(・)く(・)な(・)い(・)!貴方はセイバー自身の意思を尊重していた筈でしょ?!」

 

「・・・・・。」

 

 遠坂の言葉に俺は心当たりが無く、キョトンとしてしまう。

 

「俺らしくない?」

 

 それは一体俺の何を見て言っているのだろうか。学校での俺?それとも聖杯戦争への参加を決めた後の俺だろうか?

 

「…………ははっ」

 

 だとしたら見当違いも甚だしいなぁ。その事が可笑しくって、込み上げてきた笑みを手で隠したが、笑い声が少し漏れてしまった。

 

「遠坂は何を見て言っているんだ?俺は使えるモノは全部使うぞ?投影……は使ってないか。遠坂の前で、強化の魔術や切嗣の固有時制御(Time Alter)とかは使っただろ?セイバーは今さっき、自分を俺の剣だと言ったんだ。なら別に俺が好きにしたって良いって事だろ?俺のものなんだからさ」

 

「そこまで堕ちたか衛宮士郎」

 

「アハハハハッ!『そこまで堕ちたか』だってさ!今のマスターに何言ったって意味無いのにアーチャーの奴、必死になってやがるぜ?」

 

 何か言いたげに眉を顰め、こちらを見定めるような瞳をしていたアーチャーが冷ややかな目でそう吐き捨ててきた。まぁお生憎様、堕ちただなんて言われる筋合いは無いので、何もダメージにはなっていないのだが。それに対してアンリは腹を抱えてゲラゲラ嗤っていた。

 

「あれは必死なのか?」

 

「そりゃそうだろ。だって、心が読めなくったって分かるくらいに普段の鉄面皮は何処へやら、眉間に皺寄せちゃって、更には漸く喋ったかと思えばマスター(■■)と衛宮士郎をいまいち区別出来てない発言をしたんだぜ?これを必死と言わずして何なんだよ」

 

 そう言われれば確かに?アンリの発言には納得はいかないが、理解は出来るような気がする。いや、やっぱり納得いかないから無し。

 

「ぐ……、ぁ゙……!あァぁ゙ぁ!?!?」

 

「っ!セイバー!!しっかり!」

 

 遠坂達を差し置いてアンリとそんなやり取りをしていると、セイバーの方で動きがあったようだ。泥による侵食が遂には心臓部辺りにまで進行したようで、セイバーが初めの頃よりも一層苦しみの声を漏らしていた。そんな彼女に、遠坂は必死に声を掛ける。その声に反応してセイバーは閉じていた目を開けて目線を向けようとしたのだがその瞬間、影が彼女を呑み込んだ。その様子に口角が上がるのを感じた。

 

「サーヴァントを呑み込む影……!アンリマユ!これは貴方の仕業なの?!」

 

 影がセイバーを取り込んだ様子を見て、いち早く遠坂がアンリの元へと詰め寄る。その際にアーチャーも武器を構えて、周りを警戒しながら遠坂を守る素振りを見せていた。二人はアンリとセイバーの事に夢中になっていたようで、俺の変化には気が付いていないようだった。

 

「おいおい。疑いたくなるのは分かるけどさぁ、んなすぐに俺を疑うなよ〜」

 

 そんな遠坂達に対してアンリは何も臆する事無くケラケラと嗤っていた。

 

「それにさぁ……確かにオレは影を操れるが、それが出来るのはもうひとり居るだろ?なぁ、マスター?」

 

「う、そ……それじゃあ、本当に衛宮君が……?」

 

「俺以外に誰が居ると?」

 

 その問いに俺は肯定すると、遠坂は何故か絶望したような表情を見せた。そんなに意外だっただろうか?あ、でも遠坂の前では影を操れる素振りなんて一切見せてなかったから当たり前と言えば当たり前だろうか。

 

「益々度し難いな衛宮士郎。お前は正義の味方になる事を志していた筈だ。だと言うのにお前の行なった行為は貴様の語った理想論からは掛け離れている。お前を放っておけば、その力は間違いなくお前が大切にしている者達にも害を成すだろう。お前は一体、何がしたいのだ」

 

「藤ねぇや一成達に?そんな訳無いだろ。だって俺は力の振る舞い方は弁えているつもりだぜ?セイバーに対する行いが該当するって言うつもりならそれは勘違いだって言いたいんだけど……」

 

 アーチャーの主張に、俺は心底疑問を抱いた。アーチャーの主張としては、このままだと俺が目的を見失って俺自身で大切な人達を傷付けると言いたいのだろう。だけど本当にそうだろうか?確かに影や泥の扱いはまだ慣れてないからアンリに手伝ってもらっている節はあるけど、それでも誰に振るうのかはきちんと弁えているつもりだ。セイバーの件はあくまでも明確に自分のモノとする為に魔力を流しただけなのだ。これはアーチャーの言う害に当たるのだろうか?

 

「やはりあの時に確実に殺すべきだったか」

 

「ちょっとアーチャー!何言ってんのよ?!いくらこの状況だからってそんな事、私は許さないから!!」

 

 首を傾げる俺に、アーチャーは嫌悪感を隠すこと無くやはり殺すべきだったと宣言する。それに対して遠坂は今にも令呪を使用しそうな勢いでアーチャーを止めていた。

 

「な〜あ〜マスター。いつまでここに居るつもりなワケ?そろそろ次の事やらないと時間無いんじゃない?夜も明けるぜ?」

 

 殺す気満々のアーチャーに対してそれを制止する遠坂に俺は『やっぱり遠坂は優しいなぁ』と思っていると、傍に居たアンリが俺の首に腕を回して少し拗ねたような声色で早く次の事をやろうと催促して来た。

 

「あれ。もうそんなに経ってた?」

 

 感覚的にはまだ夜明けには程遠い時間だと思ってたんだけどな。それだけ寝てしまっていたって事だろうか。

 

「マスター(■■)は寝坊助だもんな〜。アンタが思っているよりだいぶ寝てたんだぜ?おかげさまでオレはそりゃあ、もう大変だったんだぜ。だから時間稼いだオレに感謝しろよ?」

 

「そうだったのか……。それはごめん。セイバーは俺の下に来てくれたし……今はここを離れて、また今夜、次の事をやろうか」

 

「応よ。次のやる事は大仕事だからな。早く準備しようぜ」

 

「待ちなさい!まだ話は済んでいないわ!好き勝手やるだけやって、自分達だけ満足して、そのまま逃げるだなんて、そんなの私は許さないんだから!!」

 

 アンリの言葉に頷いて影にて移動しようとした時、遠坂のガンドが頬スレスレを掠り、止まらざるを得なかった。ちょっと薄皮も切れた気がするが、すぐに治るだろうし気にしないでおこう。それより、激怒している遠坂をどう納得させるか考えなければ。

 

「危ないじゃないか遠坂。お前の事だから当てる気はなかったんだろうけどさ」

 

「当てる気だったわよ!!」

 

「そうなのか?」

 

 それにしては軌道が随分とズレていたように思うのだが……。

 

「当たり前でしょ!私は聖杯戦争の一参加者の前に、冬木の管理人なの。放っておけば市民に被害を及ぼしかねない貴方をこのまま逃がすだなんてあり得ない。冬木の管理人として、私は貴方を殺すわ」

 

「……そっか」

 

 何とも遠坂らしい主張だ。元々彼女とは協力関係ではあったが、それ以前には対立していた。現に今に至っては俺がそれを破棄する形でこの場から去ろうとしているのだから、切り替えるのも無理も無い話だ。

 

「────先輩!!」

 

「……桜?」

 

「嘘!?桜?!」

 

 遠坂の切り替えの速さに感心していると、玄関先にて寝させていた筈の桜が飛び込んで来た。急いでここまで来たのか、息が荒くなっていた。というか、まさか起きているだなんて思わなくってびっくりした。

 

「ねぇ先輩!待ってください!一体何処に行くつもりなんですか!」

 

「待ちなさい桜!!近付いては駄目!」

 

「離してください姉さん!私は先輩にあの事を聞かないといけないんです!」

 

「っ!?桜、アンタ私の事、ね……姉さんって……っは!そんな場合じゃなかった。とにかく駄目よ!今の衛宮君は正気じゃないの!それなのに近付くなんて無謀よ!」

 

 桜は気が動転しているのか、遠坂の事をいつもの遠坂先輩呼びではなく姉さんと呼んでいた。それに気が付いて遠坂は一瞬顔を赤く染めていたが、俺がこの混乱の最中に逃げようとした事をいち早く察知してかこちらに目線をやりながらも、桜を何とかこちらに近付けさせないように注意していた。

 

「正気じゃないだなんて心外だぞ遠坂。俺は至って正気だ。あぁ、あと何処に行くんだって話だけど、別に何処にも行かないさ。ちょっと用事を済ませる為に出掛けるだけだよ桜。桜が心配する事なんて何も無いよ」

 

「馬鹿言わないで衛宮君。出掛けるだけって、そもそもここから動く事を私がさせるわけ無いでしょ」

 

「・・・・・。」

 

 いやまぁ、確かに遠坂にとってはそうしないといけない義務感があるから仕方ないんだろうけども……。うーん、どうしたものかな……。

 

「用事って何なのですか」

 

 遠坂の対応に困っていると、桜が用事の内容について尋ねてきた。

 

「それこそ桜は知らなくって良いんだよ。俺は、桜に幸せになって欲しいんだから」

 

「だったらどうして!どうして話してくれないのですか!!私は、何も知らないままなのに!それが幸せだと勝手に押し付けられて!そんなの……!そんな矛盾、私は認めたくありません!」

 

「桜……」

 

 噛み合わぬ会話にどうしようかと迷って居ると、

 

「駄目だぜ、マスター。これ以上の長居は予定が狂っちまう。だから、さっさと行こうぜ?」

 

 真横に居たアンリが拗ねたような声色で次の行動に移る事を催促してきた。そして、足元に人一人は呑み込めそうな穴を展開していた。

 

「あ、ごめん。うん、そうだよな。これ以上は夜が明けるもんな」

 

「ちょ……!衛宮君!!私にはまだ聞きたい事が────」

 

「悪いけどそれは諦めてくれ。まだ俺にはやるべき事があるからさ。────桜の事、よろしくな。遠坂」

 

「だから待ちなさいって!!私は貴方達の言う予定を話しなさいって言ってるの!本当にどうして姿だけじゃなくて、質の悪い性格まで同じなのよ!良いから答えなさい!」

 

 アンリの催促に答え、どうにかこちらから情報を聞き出そうと必死になっている遠坂に申し訳ないと思いながらも、俺はアンリが生み出した穴に飛び込んだ。

 

 そうして飛び込んだ先に広がっていたのは、灯りのない洞窟のような場所だった。普通なら知らない場所だろうが、俺にはこの場所に見覚えがあった。

 

「ここ……もしかして、大聖杯のある洞窟の中?」

 

「そそ!よく知ってんじゃん。そんなに印象的だったか?」

 

「知ってるって言うか……」

 

 『何か、この場所を最初から覚(・)え(・)て(・)た(・)って感じだ』とポツリと疑問に思いながら言うと、アンリの口角が三日月型に歪んだのが見えた。

 

「アンリ?何か楽しい事でもあったのか?」

 

「いんや?別に何も無ぇぜ?」

 

「そうか?」

 

「そうそう!マスターは気にしなくて良いんだぜ」

 

「…………そっか」

 

 それにしては随分と上機嫌そうな口だったんだけどな?とは思ったが、彼が何も無いと言うのならばそういう事なのだろう。そう納得させる形で浮かんだ疑問は頭の片隅に追いやった。

 

「それで?お次はバーサーカーを取り込むっつうワケですけども、誰を行かせるんだ?」

 

「うーん……セイバーかな」

 

「お。って事はまた物語通りに進ませるって感じか?」

 

 俺がつい先程仲間に引き入れたセイバーをバーサーカーに当てると言うと、アンリはそれを読んでいたのか、さっき遠坂達を相手にしていた時よりも明るい声色でわくわくしながら聞いてきた。

 

「それもあるけどやっぱりセイバーが一番強いからさ。バーサーカーに当てるのが妥当かなって思ったんだよ」

 

 キャスターじゃバーサーカーに勝つのは難しそうだし、アサシン達も正面からの勝負には向かない。ランサーは良い線は行きそうだけれども、バーサーカーの持つ十二の試練(ゴッド・ハンド)を全て削り切るのは出来ないと思う。ギルガメッシュは消化不良起こすからってアンリが早々に魔力に変換しちゃったから論外。そうなるとやっぱり消去法や原作知識として知っているセイバーが妥当、という形で挙がったという訳だ。

 

「なるほどね〜。確かにアイツ相手じゃ、セイバーが妥当か。せっかく仲間に引き入れたワケですし?使わなきゃ損だわな」

 

「別に損得勘定で選んだ訳じゃないんだけど……まぁ、そういう事だ」

 

「うんうん。そんじゃ決行は今夜だから、それまでは自由にしてて良いぜマスター」

 

「自由時間なのか。分かった。じゃあ、また後でなアンリ」

 

「あ、でも外に出るのは止めとけよ?」

 

 自由にしてていいと言われたから一度見晴らしの良い場所に出てこれまでを振り返ろうとして、別れを告げたのだが、アンリに外に出るのは止めておけと言われてしまった。

 

「ん?何でだ?」

 

 今更何を制限するのだろうかと首を傾げて、俺は素直に疑問を口にした。

 

「ちょっとちょっとマスター?危機感持ってくれない?一応アンタ、厄災を齎す黒聖杯なんだぜ?万が一、アーチャーに見つかっちまったら計画が水の泡だ。だから今は止めとけ。また夜に出れるんだし、その時にな?」

 

「あー……そっか」

 

 そういえばまだアーチャーが居るんだったな。あの時も原作でも相当な執着を見せていたアイツの事だし、見つかったら問答無用で俺を殺しに来るだろう。それだとアンリの言う通り、計画が狂ってしまうのでここは大人しく指示に従う事にした。振り返るくらいなら、別に外じゃなくったって出来るし。

 

「それじゃあ、奥の大聖杯の方に行くよ」

 

「サンキュー、マスター。聞き分け良くて助かるわ〜」

 

 大人しく指示に従う意思を見せると、何を思ったのかアンリが上機嫌で俺の頭を撫でくり回してきた。

 

「ちょ、子ども扱いすんな馬鹿っ!」

 

「ゴメンゴメン」

 

 畜生、同じ身長の筈なのに、アンリは器用に泥を用いて宙に浮いているから擬似的に身長差が出来て余計に子ども扱いされているかのような気になる。それが癪に障って手を振り払うのだが、アンリには全く効果無く、棒読みの謝罪を述べられた。

 

「全然誠意が感じられないんだが」

 

「あっはは!そりゃ、謝る気なんざ初めから無いもんでね!」

 

「アンリ!!」

 

「ヒャ〜!逃っげろ〜♪」

 

 案の定誠意なんて初めから込めてないと言われ、腹が立った俺は投影を使ってアンリに攻撃しようとした。だが、アンリはヒラリと投影した武器を交わすとそのまま影の中に溶け込んで逃げられてしまった。

 

「あ!ちょ、逃げんな卑怯者!お前しか影は操れないんだぞ!」

 

「卑怯で結構。オレは取れる手段は何でも取るんでね〜。それに、マスター(■■)だってオレなんだから、いつか使える様になるさ!自由時間にでも練習しときな」

 

 『じゃあナ〜♪』と言ってアンリは影を使って何処かへ消えて行ってしまったのだった。

 

「逃げられた……。アンリは俺も泥だけじゃなくって、影を使える様になるって言ってたけど、本当なのかな……?」

 

 正直、今の所は全く実感がない。泥はこう、何か泉から溢れ出ているのを引き出しながら操る感じで操ってはいるが、影はいまいち分からない。厳密には操るくらいは出来るが、影自体に実体を持たせたり、その中に潜り込むといった応用的な事が出来ないって感じだ。まぁ話半分くらいに信じて、後で試してみるかな。あー、でも何か夜まで一人なのは嫌だな……。あ、そうだ。セイバーを呼ぼう。そろそろ転化も済んでるだろうし。

 

「セイバー、居るか?」

 

「はい、ここに。どうしましたか?シロウ」

 

 俺がセイバーを呼ぶと、少し離れた場所の影が揺れ動き、そこから転化を終えた黒セイバーが現れた。映画や原作では初登場時には仮面のような物を着けていたが、今ここに居る彼女はソレらしきものを着けている様子は見られない。戦闘用だからかな?まぁ、無かったら無かったで目を見て話せるし表情も読み取りやすくて良いんだけど。

 

「ちょっと一人は嫌で……。迷惑、だったか?」

 

「そんな筈ありません。私は貴方の剣。何なりとお申し付け下さい」

 

 そんな事を考えながらセイバーに迷惑だったかどうかを尋ねると、彼女は首を振って否定してきた。それに加えて、何でも言って良いとの許可も貰えた。

 

「そっか。ありがとう、セイバー」

 

「このくらい当然の事です、シロウ」

 

 どうやら心配は無用だったようだ。その事に俺はホッと安心した。泥に汚染はされようとも、俺に対する彼女の接し方や態度は変わっていなかったようだ。自由意思の無いシャドウサーヴァントじゃなくて本当に良かった。これならば以前と態度を変えなくても話す事が出来るだろうから。桜と俺は違うから、その辺りが一緒になるか分からなかったんだよな。

 

「それじゃ、聞いてくれるか?俺の前(・)世(・)の話と、これからやりたい事」

 

「是非とも聞かせてもらいたい。私も、その辺りの話はとても気になっていましたので」

 

「そっか!じゃあ、あっちの方で話そうぜ、セイバー」

 

 セイバーの返事に満足しつつ、俺は前世の話をしながら、彼女と共に大聖杯へと向かって行った。




次回は早くて年内、遅いと今回のペースみたく半年以上掛かると思います。読んで下さる読者様、楽しみにしてくださる皆様には大変ご迷惑をお掛けしてしまうでしょうが、どうか長い目でお付き合いくだされば幸いです。

現段階での次回の予定としましては、イリヤとの対面、もしくは再び遠坂Sideである人に協力を持ち掛ける話になる予定です。

〜追記(2026/9/4)〜
次回は暫く書けそうにありません。すみません……
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