───夢を見た。
その夢は父親のような存在だった
月明かりに照らされらながらいつものように酒を飲んでいた彼はポツリと独り言を漏らしたのだ。
「僕はね……子供の頃、
いつもは俺が話し掛けても何も言わなかった筈のじいさんが急に自身の罪を吐き出すかのように話していたのはこの日が初めてだったので、驚きにその場を離れようとした足が止まったのを覚えている。
「正義の味方?それに、憧れてたって?今は?」
大火災から時間が経ち日に日に窶れていったじいさんだけど、瞳の奥に宿る意思は衰えてはいなかった。だが、この日の彼はその影が欠片もなく行場を失った人間のように弱々しかった。
だから放っておけなくて俺は聞き返した。
「……諦めちゃったんだ。ヒーローは期間限定でね、大人になると名乗るのが難しくなるんだ」
そう言うじいさんの顔は本当に諦めを含んだ笑みを浮かべていた。
「そのことにもっと早く気付けば良かった……」
そんな自虐的な言い方に何だか無性にイラッとしてつい原作には無い事まで言い出してしまった。
「何だよその言い方。ヒーローが期間限定なのは確かにそうかもしれない。でも無期限じゃないって気付けたんだろ?難しいってだけで不可能じゃないんだろ?なのになんで諦めたなんて簡単に言ってそんな自虐的になるんだよ。それにじいさんまだ若いだろ。本当にやれること全部やったのかよ。やってもいないのに出来ないだなんて自己完結して勝手に決め付けるなよ。そんな奴が正義の味方になんてなれるわけないだろ!」
怒涛の勢いで俺がそう言うとじいさんは目を見開いてこちらを見てきた。俺はというと、つい子供らしからぬ発言をしたことにハッとしたが、何でも無いように振る舞うことでじいさんが口を開くのを待った。
「士郎は、ヒーローになりたいって思う僕を馬鹿にしないのかい?」
「何で?人の夢を馬鹿にするのは最低な奴のすることだろ?俺は絶対にそんなことはしない」
キッパリと言い切ると、じいさんはまた驚きの表情を浮かべた。何だか今日のじいさんはやけに表情豊かだなと思っていると
「そうか……」
今度は泣きそうなのを堪えるかのような顔を浮かべた。そんな辛そうな顔なんて見たくなくて俺は、
「そんな顔するなよ、じいさん。あんな事言ったけどさ、じいさんならなれるって俺は信じてる。もし道半ばでじいさんが成れなかったのなら、俺がその夢を
内容は違えど
「士郎……。そうか、それは安心した」
それを聞いたじいさんはキョトンとした顔を浮かべた後に、俺の頭を撫でながら笑みを浮かべた。
「ちょっ、撫でるなよ。それに、俺一人に押し付けたりしないよな?」
「え?」
「さっき言っただろ?やれること全部やってんのかって」
「え、いや…僕は」
「文句言うな!何でもやってみないと分からないじゃんか!」
何か言いそうになったじいさんの言葉を無理矢理遮って俺は、彼の手を引いた。
「それに、じいさんはもうとっくに
「それは、どういう……」
「
俺がそう言うとじいさんは俺を抱きしめ、声を押し殺しながら泣いていた。
「っわ、何だよ。じいさんは泣き虫だなぁ」
まさか泣かれるとは思っていなかったので少しギョッとしたが、彼が落ち着くまではこのままで居ようと思った。その時にからかうように泣き虫とも言ってみたが、何も言われなかった。
暫くしてじいさんはこんな事を聞いてきた。
「士郎はさ、正義の味方ってどんなものだと思う?」
「え?うーん、悪さしてる奴を倒すとか?」
ありきたりではあったが、質問の意図と正義の味方の意味をあまり理解していない俺にはこう答えるのが限界だった。
「そうかそうか、士郎にとって正義の味方ってのはそういう人なんだね」
「そう言われると何か違う気もするけど……まぁ、多分そう!だってカッコイイし。じいさんは?」
「僕?僕にとっては……」
不自然に言葉を途切れさせたじいさんは一度、月を仰ぎ見ると何処か虚ろに視線を下ろした。暫くの沈黙の後にじいさんは口を開いた。
「…………困っている人を助け、誰もが救われる世界を創っていける人、かな?」
「正義の味方が世界を創るの?」
「まぁ、そうだね。創るってのは言い過ぎかもだけど困っている人を全て助けられたら、それはきっと誰もが救われる世界になると思うんだ」
「本当に?」
じいさんの考えに口出しするのはろくな事にならないだなんて知っていた筈なのに、俺はそんなことを口にしていた。
「え……?」
案の定、じいさんの顔は困惑の表情をしていた。
「本当に困っている人を全て助けられたら、なんてことをたった一人で出来ると思ってんのか?」
今思えばきっとこれが俺にとっての運命の別れ目で、俺が衛宮士郎と成ったが故の歪みだったのかもしれない。いや、そもそも俺自身が持つ歪みだったのかも。だからこんな子供らしからぬ発言をして、じいさんを追い詰めているのだろう。
「大多数を助ける為には小を切り捨てることを良しとしなければならない場面があるかもしれないのに?」
「っ!!」
「悲壮感込めて憧れてたって言わなければならないくらいに正義の味方になることを諦めて、絶望して、でも個人のヒーローになれたことに安心したのに。じいさんが本当になりたいのは万人の為の正義の味方なんだな?」
「そ、れは……」
普段はあまり表情を変えないじいさんが俺の言葉に動揺し、過呼吸気味にハクハクと苦しそうにしているのを見て俺は過ちに気付いた。
何をやっているんだ自分は。彼には彼なりの苦労や災難があってこの結論に至ったというのにそれに追い打ちを掛けるだなんて。そもそも、その夢は
「あ……ご、ごめん、じいさん。こんな事を言って……」
下手に知識を持つが故に引き起こした事態に酷く後悔した俺は咄嗟に謝罪の言葉を口にする。
「あ、いや士郎のせいじゃないよ!」
そう言ってじいさんはまた俺の頭を撫でた。今夜はやけに露骨な子供扱いされることが多いように感じる……。そう思うと少し小っ恥ずかしい気持ちになった。
「ちょっと!子供扱いやめろよな」
「ははっ、ごめんごめん。でも、士郎のお陰で正義の味方について考える良い機会にはなったよ」
「そうなのか?え、じゃあ、正義の味方になるのは諦めちゃった?」
「いいや、それは違うよ」
「?」
まさか俺の不用意な発言のせいで、彼に酷な選択を強いてしまったのではないかと不安に思ってビビリながら聞くと、彼からは違うと否定されてしまった。どういう意味なのか分からず首を傾げるとじいさんはこう言った。
「僕自身が正義の味方になるのは難しいだろうけど、その意志を次の世代、つまり士郎に託してみるってのも悪くはないかなって。勿論士郎だけに全てを押し付けたりはしないよ。僕に出来ることはまだまだあるから。それに、同じ正義の味方っていってもその在り方は沢山あるしね」
そう言ってじいさんはここ最近浮かべていた無理をしている笑みではない心からの笑みを浮かべていた。そして、彼は俺にこんな質問を投げかけた。
「士郎は正義の味方になるのならどんな人になりたい?」
「俺は───────」
────あの時、俺は何て答えたのだろうか。
ハッキリと覚えているのは、と考えた所で俺は目が覚めた。
今回はオリジナル要素多めの過去話でした。
正義の味方やヒーローの解釈が全然違うだろと思われるかもしれませんが、そこはどうか見逃してください…(流石に違い過ぎるという指摘があれば変更します)
あと、『初戦、不穏な声(1)』にてちょっとした訂正をさせていただきました。(後書きにて記述)