結局、俺はセイバーの学校について行くという意志を取り下げられなくて彼女と共に外に出ていた。
「なぁ、セイバー。マスターってのは人目に付くのを避けるんだろう?昨夜みたいなことは無いって……」
そうセイバーに言い聞かせてみるのだが、彼女は何かを警戒するかのように辺りを見回す行為を止めることはしなかった。
「ですが、万が一ということもあります。シロウ一人で外を歩かせるなど危険です」
更には俺が気にすることは無いと述べても危険だからの一点張りで譲ることもしなかった。
「はぁ……」
そのことに俺は思わず溜め息をついてしまう。セイバーの警戒心はありがたいのだが、どうにもちょっとまだ堅苦しい気もするんだよなぁ。いざとなれば令呪での呼び出しもあるっていうのに。いや、それでは遅いと考えての行動なのだろうか。どっちにしても周りに何も説明出来てない状況で出歩かれるというのは少し困るんだよなぁ。藤ねぇ達にどう説明すれば良いんだろか……
色々考えたがやっぱり面倒事が増えるばかりだったので、せめてカモフラージュでも出来ないかとセイバーにこんなことを提案した。
「セイバー。もし誰かに遭遇したら、何も言わずに首を振ってくれ。出来れば日本語は分かりませんって顔をしてくれるとありがたい」
そう言いながら校門近くまで来た時、セイバーが急に立ち止まった。
「セイバー?」
「魔力の残滓が感じられます。気になる違和感はありますが、取り敢えず身に差し迫る危険は無いようです」
「だから、危険なんて無いって言っただろ?」
「……………はい」
え、そんな凄い渋々に言うことある?顔は見えない筈なのに嫌そうな顔してるのが凄い分かるんですけど?何で?
といった具合に何か両者腑に落ちないまま俺達は弓道場へ向かった。
「それじゃ、セイバー。ここで待っててくれ」
「・・・・。」
返事は無かったが、取り敢えずは大丈夫だろうと弓道場の扉を開けた。
「あ、先輩。来てくれたん、です………ね」
扉を開けた音に桜がいち早く反応してくれて出迎えてくれたのだが、後ろに居るセイバーの存在に気が付いたのか語尾が殆ど聞けないくらいに小さくなっていた。
「よ、桜。藤ねぇに弁当を届けに来たんだ。悪いけど呼んできてくれないか?」
「えっと……それは、良いんですけど……」
そう言う桜は返事はすれども意識は俺の方には殆ど向かず、後ろに居るセイバーが気になって仕方がないといった様子であった。
「桜?」
「あ、はい。呼んで来ますね」
俺が呼び掛けると桜はハッとしたのか奥の方へ小走りで行ってしまった。その後、奥の方からは美綴が出てきた。
「いやぁ〜、助かったわ〜。弁当持ってきてくれたんだって?藤村先生、空腹でテンション高くて困ってたのよ」
「お前も朝のうちに藤ねぇの弁当くらい確認してくれよ」
「いやぁ…それがさ、私もちょっと疲れててさ」
そう言う美綴の顔には確かに少し疲労の色が見られた。これは流石にちょっと言い過ぎたかもしれないな、と少し反省した。
「間桐のことか?今日、アイツは?」
「アンタ、相変わらず慎二のことは間桐呼びなのね。あぁ、アイツはサボり。大方、新しい女でも出来たんじゃない?」
美綴は呆れを隠さずそう言った。それはそれとして、相も変わらず間桐は好き勝手しているようだな。まぁ、
「それより、衛宮。表に
「あ〜……説明すると複雑なんだが…………ん?」
ちょっと待ってくれ。今、居たって言ったよな?まさか……!
「あぁ?!」
セイバーに待機させていた筈の外へ目線を向けるとそこに居るはずのセイバーが居なくなっていた。俺は驚きにすぐに立ち上がり、
「ごめん、美綴!後でいつか説明するからコレを藤ねぇに届けといてくれ!」
半ば美綴に弁当を押し付ける形でセイバーを追いかけて弓道場を後にした。
ーーーーーーーー
全速力でセイバーの居るであろう靴箱辺りに向かうと、知識通りセイバーと葛木先生が只事じゃない雰囲気で対峙している様子が見られた。
「っ!葛木先生っ!はぁっ、はぁ……!」
急いでセイバーの元へと駆け寄り、彼女を庇う体勢を取る。
「衛宮……」
葛木先生が相変わらず生気があまり感じられない瞳でこちらを見ていた。
「あ、えっと……この子は……その、見学に来たっていうか……」
「外国からの入学者は初めてだな」
「え?」
どうやら葛木先生はセイバーのことを新しく学校に入学する生徒だと勘違いしたようだった。それはそれで説明の手間が省けたのでありがたいのだが、こんな上手いこと行くものなのだろうか?
「入学すれば周りから注目される。……衛宮。知り合いなら気を使ってやれ」
困惑する俺を余所に葛木先生はそう言うともう用はないとばかりにこちらに背を向けるとそのまま歩き出す。
「あ、あぁ……はい」
困惑のまま取り敢えず返事すると歩いていた筈の彼が急に立ち止まった。
「……所で衛宮」
「はい」
そして振り返ってただ一言、
「校内は土足厳禁だぞ」
と言って今度こそこの場から去ってしまった。
「え……あ!すみません!」
葛木先生に言われたことについ自分も土足で、更にはセイバーに校内は土足厳禁であることを伝え忘れていたのを思い出す。取り敢えずはセイバーに靴を脱いでもらって、来客用のスリッパを取りに俺達は応接室へ向かった。
「シロウ、先程の教師のことですが……」
スリッパを履き終えた後、セイバーは葛木先生に何か感じたことがあったらしく、先生のことを話題に出した。
「葛木先生がどうかしたのか?」
「いえ……初めは只者ではないと感じたのですが、彼は魔術師でもないし、血の匂いもしませんでした」
「葛木先生が魔術師だったら、俺もびっくりだよ。けど、只者じゃないってのはどういうことだよ」
俺の問いにセイバーはこう答えた。
「彼の呼吸はあまりに自然で整っていました。正直に感心していたのです。歩みも全く無駄が無い。彼が教師であるのならば、教え子達は安心ですね」
なるほど。映像越しでも現実で見ていてもそのようなことはあまりよく分からなかったのだが流石はサーヴァント、いや、英霊ってことなのだろうか。一分にも満たないであろう時間にそれだけのことが分かるだなんて。
「さて。次の場所に向かいましょうか」
「ちょっと待て。学校中を回る気か?!」
そのことに感心しているとセイバーがまさかの他の場所へ行くと言い出し、驚きの声が漏れた。
「ええ。そのつもりですが」
「いやいやいや!もう大丈夫だろう?別に危険は見られなかったんだし」
「何を言いますか、シロウ!もしかしたらもっと別の場所に他のマスターが仕掛けた罠があるかもしれないのです。でしたら危険ではない今日中に全て回るべきです!」
「えぇ……?はぁ……まぁ、セイバーの気がそれで済むのなら。でも、手早く回るぞ。他の奴らに見つかると説明が面倒だ。夕方頃までには絶対に帰るからな」
「はい。安全と分かるまで」
その後セイバーと共に校内を歩き回り、彼女が校内は安全だと判断する頃にはもう日が傾き始める時間帯となっていた。そろそろ桜達が帰る時間と重なってしまいそうだなと思いながら靴を履き、外で待っているセイバーの元へ向かおうとした時、美綴に声を掛けられた。
「あれ?衛宮?まだ学校に居たんだ」
振り向いた先には弓道衣を脱いで制服に着替えた美綴が居た。
「もう終わりか?」
「そっ。今日は早めのお開き」
早めのお開きか、なるほど……。それはちょっと急がないと桜達と鉢合わせするかもしれないな。
「そっか。じゃ、お疲れ」
そう思い美綴に別れを告げると、美綴に呼び止められた。
「ねぇ、衛宮」
「ん?」
何だろうかと俺は立ち止まった。
「もう、弓道部には戻らないの?藤村先生がアンタを説得しているみたいだけど……本音はどうなの?」
「そうだな…………」
その質問にどう答えようかと俺は少し口にするのを戸惑ってしまった。戻る気が完全に無いかと言われたら嘘になる。けれども今すぐに戻る訳にもいかないし、何より俺は何だかんだ放課後に一成の手伝いをしていたりする今の生活を気に入っているのだ。
取り敢えずは戻る気が無い訳ではない為、取り敢えず今のゴタゴタが済めば戻る気はあるということを言うことにした。
「いろいろ落ち着いたら、戻ろうかなとは思ってる」
「そうなんだ。ちょっと意外ね」
「意外?」
どういう事だと俺が聞き返すと美綴は、
「来た時からバケモノみたいに上手かったけど、的に当てることに
と言ってきた。俺は彼女が言ったその言葉に心当たりがあった。俺にとって矢を射るという行為はどうにも的の中心に矢を当てるというよりも
「何か衛宮って欲が無さそうに見えてね~……」
「そうか?」
人並みには欲を持っているつもりなんだけどな。どうにも自覚が無くてその言葉にピンとこなかった。
「慎二とまでとは言わないけどさ、少しは楽しいことでもやったら?」
流石にそこまで言われるだなんて、どうやら俺の欲は他人にとっては分かりにくいものらしい。
「参ったな……同級生に心配される程深刻だったとは」
美綴から視線を反らして左手で頭を少し掻きながら、もうちょい分かりやすいアピールでもしてみるべきか?と少し思った。そんな時だった。
「だって、衛宮…………
「ぇ……?」
美綴が言った言葉に全身が凍り付くかのような感覚がした。この台詞は原作でも言われていたモノだ。だから気にすることは無い筈なのに何故俺がここまで反応したのか。
それは、俺は原作の彼のように生きていることに無自覚な罪悪感なんて抱いていないし、外では普通の学生並みに笑えているだろうと思っていたからだ。だって俺は彼とは違って人並みの幸せを享受出来る、出来ているのだから、とそんな根拠のない
「だからぁ、合宿の話」
そこまで考えていた所で、美綴は合宿での話だと言った。
「皆で騒いでた時、衛宮だけ笑ってはいたけど皆みたいに騒ぐって感じではなかったじゃない?」
「あー、そうだっけ?」
「そうよ。それを今でも根に持ってるってわけ。じゃ、私職員室に寄ってくから。また明日」
そう言って美綴は職員室の方角へと歩いていった。美綴が居なくなったのを確認し、俺はつい溜め息をつく。
「はぁ…………笑ってはいたけど笑ってない、か……」
自分の感性は一般人のそれと別に大差ないと思っていたんだけどもな。結局、
その事を痛感した俺は何とも言えない気持ちになりながら、外で待つセイバーの元へと向かった。
『お前の魂がいくら一般人であると言っても結局は同じ穴の狢ってヤツなんだよなぁ。アハハッ!』
ーーーーーーーー
「・・・・・。(どうしよう……)」
あの後桜達との遭遇を避けるため出来るだけ早く学校を後にしようとしたのだが、運の悪さか世界の意思か校門を少し出た辺りで声を掛けられてしまい、結局は一緒に帰ることとなってしまったのだ。
「あの子……ずっと着いてくるわよ?」
「先輩の知り合いの方ですか?」
俺がセイバーのことについてどうするか考えあぐねていると二人からそう声を掛けられ、誤魔化すのは難しそうだと思い、聖杯戦争については話さないようにしながら出来るだけ納得してもらえるようにすることにした。
「あ~……親父の知り合いなんだ」
「切嗣さんの?!じゃあ……あの子、切嗣さんを訪ねて来たの?」
「えっと、そういう事。今日から暫くうちで暮らすからよろしくしてやってくれ」
「「えぇ??!!」」
流石にいきなりの来訪者がうちの家で暫く暮らすことになったということを何の連絡も無しに聞かされたことで驚いたのか、二人の驚く声が重なって聞こえてきた。
そしてその後、『バタンッ!』と何かが倒れる音が聞え何事かと後ろに向いた瞬間、慌ただしく走ってきた藤ねぇに胸倉を掴まれた。桜も藤ねぇに続いてこちらに走ってきていた。
「ちょっとそれって!あの子と同居ってこと?!!」
「っ、同居じゃない。セイバーが滞在するのはほんのちょっとの間だけだよ」
「あの人、セイバーさんって言うんですか?」
あ、しまった。つい同じ流れでセイバーと呼んでしまった。直接聖杯戦争に関わっていないとはいえ間桐の人間である桜はサーヴァントのクラス名は知っているだろうに迂闊だった。
それに一般人である藤ねぇにもこの名前を言ってしまった以上、今更偽名を言うというのも難しいだろう。原作通りではあるとはいえ、あまりにも軽すぎる自分の口に少々嫌気が差した。
「あぁ、桜も仲良くしてくれると助かる」
取り敢えずセイバーには申し訳ないと思いつつもここまで来てしまった以上は流れ通りに行くとしよう。
「っ……!はい……それは良いですけど……」
突然の来訪者に桜は戸惑ってしまっているのか視線を色んな所へ彷徨わせていた。
「藤村先生!」
「おっと……!」
「藤村先生はセイバーさんの滞在を許可するんですか?!」
そして普段は見られない気迫で藤ねぇの元へと詰め寄っていた。
「えーっと……教師としては当然アウトなんだけどぉ……。切嗣さんを頼って来た子を無下には出来ないし……。うーん……」
藤ねぇは教師としての立場を取るか切嗣の知り合いとしての立場を取るか考えあぐねている様子を見せていた。しかし、その後倒してしまったスクーターの元へと向かい、こちらへ向かってくる時にこんなことを言い出した。
「ま、良いんじゃない?ホームステイだと思えば♪」
その言葉にひとまず俺は安心した。桜の方はまさか許可が降りるとは思っていなかったようで、驚いた様子だった。いきなりのことで桜には本当に申し訳ないのだが、この後は藤ねぇから泊まることを提案され、話し合う機会があるだろうからその時まで少しの我慢を強いてしまうのを許して欲しい。
そう思いながら俺は少し先を行く藤ねぇの元へと駆け出した。
ーーーーーーーー
帰宅後の夕食にて少しは話が出来るかなと期待していたのだが現実はそう上手く行かず、誰一人口を開こうとはせず食器を置く音や少しの咀嚼音が食卓に鳴り響くだけであった。心なしか雰囲気もピリついているようにも感じる。
「・・・・。(あはは……。凄い気まずいなぁ……)」
セイバーがうちに泊まるという歓迎会という意味も含めていつもより少し張り切って作ってはみたのだが、どうやらタイミングがよろしくなかったらしい。
また明日にでも別のを作ってみるかぁ……。と、現実逃避に明日のことを考えながら、ひとまずは夕食を終えた。
桜は何も聞かされずに急にセイバーがこの家で短期間の間暮らすということに怒っているのか、いつもはしてくれている夕食の用意の手伝いもその後の皿洗いもしてくれなかった。
「・・・・。(そろそろ見送りの話を持ち出す方が良いかな)」
本当は皿洗い後が時間的に好ましいだろうが、四人が同じ空間に居るはずなのに誰も口を開こうとはしないという、この何とも言えない気まずさを早く何とかしたいと思ったので話を持ち出すことにした。
「藤ねぇ。そろそろ桜の見送りを頼む」
テレビを見ている藤ねぇに見送りを頼んでみるのだが、案の定無視された。
「藤ねぇ?もしもーし?」
やはり反応すらしてもらえず、一度皿洗いを中止して藤ねぇの近くまで近づくことにした。
「聞こえなかったんですか?藤村先生」
「悪いけど却下ぁ。暫くは桜ちゃんを送ってあげられないから」
藤ねぇの後ろ辺りにまで行った時、こちらに顔を向けられることもなく素っ気無い声でそう言われた。
「なんでさ」
やっぱりそう来るかぁ……と、口では疑問を発しながら心の中では妥当だよなと思っていた。
「今日から私もここに泊まるからぁ~」
俺の疑問に対して藤ねぇは立ち上がると当たり前のことであるさのように泊まることを宣言した。
「はい?」
「あ、そうだ。桜ちゃんもどう?お家の人には私の方から連絡を入れておくから安心だよ?」
そしてそのまま名案だと言わんばかりに桜へうちに泊まることを提案してきた。
「あ、はい!是非!藤村先生頼もしいです!」
桜はというと藤ねぇの提案にとても嬉しそうにしていた。分かっていたとはいえ、流石にここまで露骨に嬉しそうな反応をされたり当たり前かのように泊まる宣言されると素で驚いてしまった。
「え……えぇ??!」
「よぉーっし!それじゃあ、奥の座敷を使おう。布団ならいっぱいあるし。セイバーちゃんも良いわよね?」
俺の困惑を余所にそう言い放つ藤ねぇに聞かれたセイバーは一度視線をこちらへ向けてきた。その視線に俺は、
「悪い、セイバー……。藤ねぇはこう言ったら全然折れない性格なんだ」
と言って、藤ねぇ達に合わせてもらうことしか出来なかった。
こうして一応家主である俺の意見はほぼガン無視でお泊り会が決定したのであった。
元々ちょくちょく変更点はあったけど次回から露骨に増えていくと思います。