黒川あかねのお兄ちゃん   作:マッキー⭐︎

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また、高評価が…… 反応したいので、あとがきに返信らしきもの書いときます。わかる人はニヤリとしてみてください。


第3話 有馬かな

 

「何着てこうかな~! せっかくなら帽子お揃いにしたいし、この前買ったやつに合う服あるかな?」

 

 

 翌日に収録を控えた夜。憧れの有馬かなに会えるとのことで、妹のテンションは有頂天に達していていた。それはもう、部屋の中でファッションショーを開催するレベルだ。多種多様なあかねの姿を見れて眼福ではあるのだが、時刻は既にてっぺんへ差しかかろうとしている。大人ならまだしも、成長期真っ只中の俺達にはつらい時間帯だ。

 

 

「いいねいいねェ最ッッ高だねェェェェ!!(パシャパシャ)」

 

「おにーちゃん! このワンピースどう?」

 

「くかきけこかかきくえききこかかきくここくけけけこきくこくくけこかきくこけくけくきくきこきかかか――ッ!!!!」

 

 

 カメラを構える俺に、くるりと回って見せるあかね。ふわりと舞った白いワンピースが、あまりにも似合いすぎている。圧倒的な透明感に思わず浄化されてしまいそうになった。お前は天使? 堕天は俺だ。

 

 この幸せが永遠に続いてほしいのだが、どたどたと階段を上る足跡が聞こえてきた。

 

 

「いつまで起きてるの!!」

 

 

 普段あまり怒らない母親が、今回ばかりは声を荒げていた。一応、明日は息子の晴れ舞台だからな。寝不足は失敗に直結しやすいし、母として心配しているのだろう。

 

 

「お兄ちゃんはともかく、あかねは寝ないとダメでしょ!」

 

「はぁーい……」

 

 

 おいおかしいだろ。明日のメインは一応俺だろうが。

 母の一喝が効いたのか、あかねはすぐさまパジャマに着替えてベッドに入った。それを見た母親が、満足そうに頷き、おやすみ、と言い残して部屋を去っていった。

 おーい、1番重要な息子が寝てないけどいいんですかー?

 

 

「さて、俺も寝るか。あかね、もうちょっと詰められるか?」

 

「うん……」

 

 

 あれだけはしゃぎまわっていたあかねも、ベッドに入るとすぐに眠くなってしまったみたいだ。もそもそと移動するあかねに申し訳なくなりながらも、身を寄せるようにして横になる。するとすぐさま、腕を絡めとられた。どうやら何かに抱き着く癖があるようで、一緒に寝るときはいつもこうだ。

 これまたいつものように、さらさらの髪を撫でてやる。手櫛に一切かからないそれは、日ごろのメンテナンスの賜物だろう。

 

 いつの日か、こうして一緒に寝ることもなくなるんだろうなぁ。幼児から少女、少女から女性へ成長するにつれて、兄妹の関りも薄くなっていくものらしい。

 来るとわかっていても、心の準備はできそうにない。お兄ちゃんと言われなくなった日には、冗談抜きで立ち直れないかもしれない。

 それでも、いくら必要とされなくても、いくら拒絶されたとしても、俺はあかねのお兄ちゃんなのだ。

 

 

「お兄ちゃんは、何があってもあかねの味方だぞ」

 

 

 聞こえていないはずの声。それでも確かに、互いの熱が高まっていく。

 幼年期特有の高い体温が、寝息を立てるあかねから伝わってきた。その心地よさに導かれるまま、或いは、見たくないものを見ないよう、ゆっくりと瞼を降ろした。

 

 

 

 

******************************************

 

 

 そして、当日の朝。

 

 

「うーん、うーん」

 

「38度まではいってないけど…… 今日はお休みね」

 

 

 あかねが熱を出した。何のことはない、おとなしいあかねが、あれだけ遅くにはしゃぎまわっていたのだ。慣れないことをしたツケが、翌日に回ってきただけのこと。

 

 

「そんなぁ…… かなちゃんは?」

 

 

 熱のせいもあってか、既に涙が溜まっていた。あれだけ楽しみにしていたのだから当然だが、行けないものは仕方ない。母も無言で首を横に振った。それだけで答えとしては十分だ。布団に潜り込んでしまい、すすり泣く声が部屋に響く。

 幾ばくかした後、母と目が合った。

 

 

「そろそろ準備しなきゃね。1人でできる?」

 

「勿論。あと母さんは、今日はあかねの傍に居てやってくれ」

 

「そう…… じゃあ事務所の人に連絡しておくわね」

 

 

 さすがにこの状態のあかねを、家に1人にするわけにはいかないだろう。兄より妹を優先するのは当然のことだ。母も少し迷った素振りを見せたが、俺の意を汲んでくれたみたいだ。

 手早く着替えを済ませ、台本などを鞄に詰め込む。そこまで荷物も多くないし、あっという間に身支度は終わった。

 

 

「おにーちゃん、がんばってね」

 

 

 声をしたほうを見やると、あかねがひょこっと顔を出していた。自分がつらくても、他人を気遣えるのがあかねのいいところなのだ。

 どれだけ気乗りがしなくても、妹のその言葉だけで頑張れてしまう。それがお兄ちゃんだ。

 

 

「うん。代わりにはならないかもしれないけど、サインをお願いしてみるよ」

 

「ほんとぉ……? うれしくて、しんじゃう……」

 

 

 限界だったようで、安心したように眠ってしまった。その様子がなんだか微笑ましくて、母と一緒に笑ってしまった。

 

 元々気乗りしない仕事に、有馬かなにサインの依頼。そして女装。やりたくないことのオンパレードだ。

 それでも、俺はお兄ちゃんなのだ。やりたくない、なんて自分だけの理由で、妹をないがしろにすることなどあってはならない。兄として、妹の望みは叶えなくてはならない。

 ならば俺は――

 

 

「行ってきます」

 

 

 ――全力でお兄ちゃんを遂行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハズだった。

 

 

「私は有馬かな! プロの仕事の邪魔はしないでよね!」

 

「オマエさ、もっと言葉を選んだ方がいいんじゃないか?」

 

「? 何言って―」

 

「今際の際だぞ」

 

「何なのあなた!?」

 

 

 はっ、いかんいかん。つい本物を前にすると本音が出てしまうな。今日は屋内での撮影だが、楽屋と銘打った小部屋に通された。部屋とはいうが、簡単なパーテーションで仕切られただけの一角だ。周りはスタッフさんが慌ただしく走り回っていて、喧騒に包まれている。

その中に、すまし顔で佇んでいたのが彼女、有馬かなだ。

 さすが大御所らしく、堂々とした佇まいだ。憎たらしいほどに。

 

 

「失礼。俺は黒川 あおい。もちろん性別は男だ」

 

「女みたいな名前ね」

 

「あおいが男の名前で何が悪いんだ! 俺は男だよ!」

 

「おっきな声出さないで!」

 

 

 落ち着け……心を平静にして考えるんだ……こんな時どうするか……

 落ち着くんだ……素数を数えて落ち着くんだ……素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……わたしに勇気を与えてくれる。

 2……3……5……7……8……ちがう、11……13……

 

 

「たまにいるのよね、あなたみたいなお遊び感覚できちゃう子が。子供だから仕方ない、なんて、この業界じゃ通用しないわよ」

 

 

 こちらを見向きもせずに、有馬かなはそう言ってのけた。とてもじゃないが、テレビで見ていたのと同一人物とは思えない。一般的に想像されている彼女は、いい子ちゃんな面が強いが、実物は天上天下唯我独尊を地で行くような性格だ。

 

 

「サインもらえる?」

 

「あんたよく今の流れでお願いできたわね!? 遊びじゃないって言ってんでしょ!!」

 

 

 これは一筋縄ではいかなそうだ。あかね、俺に力を貸してくれ……!

 どうしたものかと考えていると、たくさんの荷物を抱えたスタッフさんが横を通った。小物が多いのか、ポロポロと落としてしまっている。

 仕方がないので拾い集めて、トテトテと後ろをついていくことにした。若い女性のスタッフのようだが、さすがに落としすぎじゃないか……? 彼女の目的地についた時には、顔が隠れるくらい山盛りになってしまった。

 

 

「はい、どうぞ。落としましたよ」

 

「あら、拾ってくれたの? ありがとう~」

 

「いえいえ。それじゃ僕はこれで」

 

 

 ぺこり、と頭を下げて俺は歩き出した。しかしこうして眺めてみると、色々なところが気になってしょうがない。所々にゴミが落ちているし、照明も切れかかっている部分がある。ぐちゃぐちゃなコード類は、下手をすれば引っかけてしまいそうだ。

 照明は俺にはどうしようもないが、コードくらいまとめても罰は当たらないだろう。

 とりあえず養生テープで固定でもしておくか、とあたりを見渡すと、有馬かながこちらをじーっと眺めていた。

 

 

「何してるの?」

 

「コードに足を引っかけると危ないだろ? せめて固定しとこうと思ってさ」

 

「そんなの、スタッフさんにやらせればいいのに」

 

 

 まあその通りなのだが、気づいたやつがやればいいだろう。低予算の現場なのか、仕事量に対してスタッフの手が足りていないと感じる。最低限準備を整えるのが精いっぱいで、細かいところに気が回っていないのだろう。

 普段あかねがケガをしないよう、周囲の環境に気を付ける癖があるので、俺としては気になって仕方ないのだ。

 それに、もう1つ理由がある。

 

 

「お手伝いする子供なんて珍しいだろ? 大人に気に入られて、次も呼んでもらえるかも」

 

「媚びを売るのは上手みたいね」

 

「はっはっはっ、おだてても中指しか立ちませんよ」

 

 

 ガキが……舐めてると潰すぞ。

 とまあ冗談はさておき、意外とこういう活動が実を結ぶのだ。もし上の人に気に入られれば、次の現場にも呼んでくれるかもしれない。俺自体はどうでもいいのだが、もしかしたらあかねも一緒に呼んでもらえるかも。もし他の子と迷ったときに、こちらを選ぶようになるかもしれない。可能性は低いが、ゼロではない。ならやって損はないだろう。

 

 

「というわけで、お前も手伝え。この袋に落ちてるゴミを入れてけ」

 

「えー? 私かよわい女の子なんですけど……」

 

「安心しろ、俺が立派な男にしてやる」

 

「日本語通じてる?」

 

 

 文句を言っているが関係ない、と、拾ったゴミ袋を押し付けると、渋々と動き始めた。

 なんだ、意外と素直なところもあるんじゃないか。あの性格だと絶対に手伝ってくれないと思ったが、割と真面目にゴミ拾いをしている。仕事につながる、と言われてその気になったのだろうか。

 いや、まさかな。売れっ子子役がそんなこと気にするわけないか。

 

 俺たちのボランティア活動は、出番前のメイクに呼ばれるまで続いたのだった。

 ……絆されてサイン書いてくれたりしねぇかな。

 

 




高評価ありがとうございます。
 早速全力でお兄ちゃんを遂行させてみました。これからもよろしくお願いします。
 
 反応いただけるだけでうれしいです。もっともっと呼んでいただけるように、たくさん投稿しますね!
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