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俺が出演した映画は、意外にもそこそこヒットしたらしい。自宅に送られてきたパイロット版を家族で見たときは、メッセージ性が強すぎてつまらない、と感じていたが、俺の感性がおかしかったようだ。あかねだけは、有馬かなが出ていることもあって食い入るように見ていたが。
時代の流れというべきか、扱いづらいテーマではあったが世間にはそれが受けたようだ。何かの賞にもノミネートされたらしく、大ヒットとは言えないが、駄作ではない程度に落ち着いたようだ。
結果、一瞬だけ出演した俺も評価されたようで。端役ではあるが、ドラマや映画に何本か出させてもらうようになった。
レッスン、レッスン、撮影、レッスンと、そこそこ過密なスケジュールが続いた、ある日、
「あかねと一緒に映画に?」
「そう。君に妹がいるって聞いた人が、ぜひ姉妹で、と」
「兄妹の間違いでは?」
いつものようにレッスンをこなしていると、スーツのおじさんがそう言った。
デビュー作がデビュー作だったので、役のオファーは6:4で少女役が多い。非常に不本意ではあるが、求められている以上は、女装するしかないのだ。どうせ成長期に入ればやりたくてもできなくなるのだから、一時の恥は我慢しよう。
「姉妹でという話だったんだが……残念ながら君は男役になりそうだ」
「本来の性別で安心しました。あかね? 出れそうか?」
「う、うん。おにーちゃんと一緒ならがんばるよ……!」
レッスンは相当積んでいるはずだが、まだ自信がついてきていないようだ。元々引っ込み思案なところがあるので、こればっかりは仕方ない。身内びいきを抜いても、あかねの演技は十分すぎるほどに上手い。地頭がよく素直な性格なので、教えられたことをスポンジのように吸収していくのだ。
この調子だと、俺なんかあっという間に抜かれてしまうだろうな。兄として鼻が高いぜ。
「なんと、またかなちゃんと同じ現場なんだよ」
「かなちゃん!?」
これには素直に驚いた。曲がりなりにも売れっ子なのに、ペーペーの俺と同じ現場になるとはな。そもそも子役自体、限られたパイの奪い合いだ。俺はともかくとして、あかねなんかは役割がもろ被りだろうに。よくキャスティングしてくれたものだ。
「この前は不完全燃焼でしたからね…… 今度こそ確実に葬ってやりますよ」
「おお、その意気だよ!! ぜひとも有馬かなを超えてくれたまえ!!」
俺の返答に満足そうに頷くと、おじさんはるんるんで去っていった。……あの人、男の娘関係以外だとまともなんだよなぁ…… 性癖という
がんばるぞ、と意気込むあかねを横目に、代り映えしないレッスンを終えたのだった。帰ったらナイフを研いでおかないと。
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撮影当日。
「あらあらあらあら? 今日は女装してないのね? あ・お・い・ちゃ・ん??」
「フッ、お前もな」
「私は女よ!!」
予定時刻よりだいぶ早く着いたつもりだったが、通された楽屋には有馬かなが座っていた。さすがプロというべきか、こういうところは見習うべきかもしれない。死んでもごめんだが。
「ったく、腹立つわね。……で、その子は?」
「あの、あの……」
「あかね、挨拶できるか? 嫌なら無視してもいいんだぞ」
「いびるわよ。この業界、ガチガチの縦社会なんだから、挨拶なんてできて当たり前よ」
「黙れ、殺すぞ」
「私正論言ってるわよね!?」
あかねをいじめるやつは必ず始末する。……が、あかねに限ってその心配はないだろう。気が弱そうに見えて、やるべきことはちゃんとできる子なのだ。
「劇団あじさいから来ました、黒川あかねです! よろしくお願いします!」
「……有馬かな。よろしくね」
あかねが元気に挨拶すると、対照的に有馬はそっぽを向いた。一瞬ブチ殺してやろうかと思ったが、あかねの輝きに目を焼かれたのだろう。1回くらいは許してやろうじゃないか。
「その帽子……」
有馬が呟くと、今度はあかねがそっぽを向いた。いやそっぽを向くというより、恥ずかしくて顔を伏せたといった表現が正しい。
今日、有馬とあかねはお揃いの帽子を着けている。数あるバリエーションの中から的中させたのは、あかねの執念によるものだ。髪型も同じにしようとしていたが、さすがにそれはやめてくれと泣いて止めた。醜態のおかげもあって、あかねの絹のような長い髪は健在だ。
「あかね。有馬に渡すものがあったんだったよな?」
「あっ、そうだった! かなちゃん、これ受け取って!」
有馬の
簡易的に封をした小包を渡されると、有馬はさらに怪訝な顔をした。
「なんかカサカサ音するんだけど」
「お兄ちゃんから、かなちゃんの好きなもの教えてもらったの!!」
「ふんっ!!!」
「させるかッ!!
放り投げられたプレゼントを素早くキャッチ。中身が潰れたら大変だからな。
「ほら有馬。もう落とすなよ?」
「……かなちゃん、これいらない……? 好きだって、言ってたのに……っ」
「ぐっ……なんて純粋な目を……!」
観念したのか、有馬は手荒に包装を破いた。中から出てきたのは、
「……かまきり?」
さっき原っぱで捕まえた新鮮ものだ。少し弱弱しくなってしまっているが、立派な成虫だった。
ちなみに捕まえたのは俺だ。あかねにそんな危ない真似させるわけないだろう。
「あのね、こんなことしたらかわいそうでしょ? 自然に返してきなさい」
「食え」
「――は?」
「かなちゃんって、かまきりの踊り食いが好きなんだよね?」
「おとなしい顔して何言ってんのこの子!?」
あかねが出したものが食えねえわけねえよなぁ?
俺? 火を通してもらえれば問題ないよ多分。
「ちょ、やめ…… やめろぉ!!」
「何騒いでんだガキども!!」
ちぃぃっ!! あと少しで口に放り込めたというのに……! ガラガラと楽屋のドアを開けたのは、今作監督を務める五反田さんだった。子供ながらにかなり怖い顔だ。あかねの様子をちらりと見ると、顔と怒鳴り声のせいで既に涙目だった。よし、始末するか。
「ったく、最近のガキは。なんて残酷なことしやがる」
そういうと、監督はかまきりを窓から逃がした。あぁ……有馬のご飯が……
「こんにちは監督。今日はよろしくお願いします」
「おう有馬。……こないだぶりだが、ちゃんと挨拶できるようになったんだな」
「うっ」
「有馬? 挨拶は? 常識? だよな?」
「くぅぅ…… かまきりを食べさせようとする奴に常識の有無を問われる日が来ようとは……!」
散々偉そうにしといて、自分ができなかったとかとんだお笑い種だな。
しかし口ぶりから察するに、2人は初めましてではなさそうだ。有馬は超売れっ子、監督も中堅以上の実力らしいし、現場が被ることもあったのかもしれない。
「さて、お前らが黒川兄妹だな」
「はい、私が兄の黒川あおいです。こちらが妹のあかね」
「く、黒川あかねです。よろしくお願いします……」
一応監督なので、形式上かしこまった挨拶をした。あかねを泣かせた罪は重いぞ、監督。
「兄のほうは見たことある。いい演技だった」
「感謝の極み」
「妹のほうは…… お前ら、似てないって言われないか?」
「あ、それ私も思った。妹のほうが賢そうね」
監督の言葉に、有馬が便乗する。有馬のほうはだいぶバイアスがかかっている気がするが……
と、監督が俺の顔をまじまじと見ていた。
「妹と比べるとあれだな…… 知性の欠片もない顔してるな」
「バカと天才は紙一重と言いますし」
「悪い、恥性もなかったのか」
後ろで有馬が爆笑していた。はじめてですよ…… このわたしをここまでコケにしたおバカさん達は……
続いて、あかねのほうを眺める監督。ひとしきり眺めて、うんうんと首を縦に振った。
「確かに賢そうだ。本当にお前の妹か?」
「失敬な。こうして並ぶとそっくりでしょう?」
あかねの隣に立った。
「そうだな目の数とか似てるな」
「指の本数とかも瓜二つね」
「もっと他にありませんかね?」
顔とか声とか髪とかさぁ!!
まぁ言われてみれば、俺とあかねはあまり似ていない気はする。特に目が違うな。男女の違いかもしれないが、あかねのくりくりした目は俺とは似ても似つかない。別に気にしていないが。
「とまあ冗談はこれくらいにして、そろそろ準備頼む。お前ら3人同時に映るから様子を見に来たが、この様子じゃ心配なさそうだな」
「当たり前よ。私がいるんだから」
「へいへい、そりゃ頼もしいこって」
そう言い残して、監督は楽屋を出て行った。散々バカにしてくれたが、なんだかんだ面倒見のいい人なのだろう。監督自ら楽屋に赴くなど、あまり聞く話ではない。わざわざそんな手間をかける程度には、俺たちのことを心配してくれていたんだろうな。
さて、曲がりなりにもあかねの初舞台だ。絶対に失敗しないようにしないと。
「有馬」
そのためには、こいつに頭を下げても構わない。
「よろしく頼む」
「ええ、私に任せておきなさい」
俺の言葉に、
以下、評価返信。
心当たりのある方はにやりとしてみてください。
・全米……? 否、世界中が涙できるように頑張ります!
・星9&5文字ですげぇ元気もらえます。これからもよろしくお願いします!
・面白い、と言ってもらえるのがとても嬉しいです!
・ぐらんぶる……? いいえ、知らない子ですね(すっとぼけ)
・爆笑しまくってもらえるようがんばります!(お兄ちゃんが)
次回以降、あとがきに高評価くれた方の名前出すかもしれません。名前出されたくないけど評価してやるぜ!って方は、一言「名出禁」と書いてもらえれば出しません!