黒川あかねのお兄ちゃん   作:マッキー⭐︎

6 / 8
感想欄にとか評価コメントに、たまに文豪がいるのはなんでですかね…?
パクりたいネタがたくさんあったので、容赦なくパクっていきます。


第6話

 

 物心つく時から芸能界にいる。それでも今まで、他人を気にして演技することなどなかった。好き勝手にやって、それでみんな褒めてくれる、喜んでくれる。私もそんな演技が得意で、好きで。そうやって売れていく私を、ママはとっても褒めてくれた。

 

 それでいいと思っていた。これからも今まで通り、忙しくとも充実した毎日が続くのだと、そう信じて疑わなかった。

 そんなわけないのに。

 売れなくなった女優を見た。権力に溺れた俳優を見た。志半ばで消えていく人を見た。諦め切れず醜くしがみつく人を見た。この業界、そんな人たちばかり見てきたのに、自分だけは違うのだと、都合よく考えて生きてきた。私の代わりはいない。淘汰されたのは、いくらでも替えのきく有象無象で、天才子役の私には関係のない話だと思っていた。

 

 そんな中、出会いが2回あった。

 

 1つは星野アクアとかいう、新人子役。本読みの段階では影もなかった人間が出てきたから、コネの子だと思っていた。

 その時の私は、それがとても汚らわしいものに感じたのだ。純粋な演技力ではなく、大人の付き合いや権力で役を獲得する。正々堂々と勝負してる私がバカみたいではないかと、心の底から思っていた。

 

 彼の演技を見るまでは。

 

 天才などと持て囃されていた私が霞むほど、彼の演技は異質だ。与えられた役にピタリとハマる演技。監督の意図を読み切るという、私にもできなかったことを平然とやってのけた。

 悔しさと同時に、恥ずかしさが込み上げてきたのを覚えている。演技以外で泣いたのは久しぶりだった。何が天才だ、年下の、演技初経験の子に負ける天才がどこにいる。

 

 彼の演技が、今でも目に焼き付いている。星野アクアという名前を、私が忘れることはないだろう。

 

 そしてもう1つ。黒川あおい(偽名)

 彼の演技が再び、目の前で始まろうとしていた。傍には彼の妹のあかねもいる。今回の役は兄妹だ。実の兄妹である彼らにはピッタリの役だろう。そして彼なら、この程度の演技難なくこなしてみせるはず。心配なのは妹の方だ。

 

 彼らと出会って、1つ気づけたことがある。私は天才かもしれないが、唯一無二のものではないのだ。天才など日の目をみないだけでいくらでも埋もれている。それに天才でなくとも、代替できる程度のレベルなら殊更溢れかえっているだろう。扱いづらい天才よりも、扱いやすい秀才。それが大人の世界の常識だった。

 

 ゆえに、私も変わらなければならない。自分勝手な演技だけでなく、周りを活かすような演技をできるように。

 

 既に遅いのかもしれない。成長に伴い少しずつ減っていく仕事。ただそれでも、この道を諦めるわけにはいかなかった。売れっ子でない有馬かな(こども)に価値など無いのだから。

 

 この作品には悪いが、実験台になってもらう。私が輝くのではなく、周りを輝かせる演技の。あかねという初撮影の子がいるのも好都合だ。その程度合わせられなくて何が天才か。

 私がいる以上、どんな失敗をしたって構わないわ。セリフが飛ぼうが、フリーズしようがどうってことない。あなたたちには、この有馬かながついてるんだから!

 

 

「まずは兄が妹を起こすシーンから撮るぞ。3、2、1、スタート」

 

「おはよう、マイプリンセス(チュッ)」

 

「カットォォォォッ!!! 兄妹でなにやってんだッ!?」

 

「兄妹でキスくらい普通では? な?あかね?」

 

「うん、毎朝してるよね」

 

「おとなしい顔してすげえことやってんな!?」

 

 

 あ、これ無理かも。

 

 

****************

 

 

 変なガキがきた。年は早熟(アクア)の2つ上だが、こいつも中々の早熟ぶりだ。監督歴もそこそこ長いが、こんな子役が立て続けに生まれるところなど見たことがない。

 企画段階では名前すら挙がっていなかったが、お偉いさんにこいつのファンがいたらしい。大層な入れ込み具合のようで、妹がいることを聞きおよび、大胆にも兄妹でのキャスティングとなった。

 

 ……確かに、黒川あおいの持つ魅力は独特だ。幼い顔立ちでありながら、男ならば無視できない妖艶さを纏っている。これが男であることを、実物を見るまでは信じられなかった程だ。

 

 ルックスは抜群。さらに演技力も申し分ない。

 方向性としては早熟と同じだろう。監督・脚本家の非言語イメージを読み取り、素人にもわかりやすいように出力する。大人でも難しいこれらを、この年でこなせるのは素直に驚いた。

 

 聞けば演技のレッスンなど、ほぼ受けてないではないか。精々が発声練習程度で、大手事務所と比べるのもバカバカしいほどの練習量。それでここまでのレベルになるのならば、才能というものは残酷なのだと思い知らされる。

 

 間違いなく、今後の芸能界を牽引しうる逸材だ。

 

 

「それに引き換え……」

 

 

 妹の黒川あかねは、なんというか普通だった。

 いや、本来この年齢ならば、普通に台本が読めて、普通に演技ができれば御の字だ。むしろ優秀な部類であると言っていい。

 

 だが、黒川あおいの妹、という肩書きのせいで、どうしても違和感を拭えないでいる。この子にも何かがあるのではないかと、そう思ってしまうのだ。

 

 

「かんとくー、片付け終わりました」

 

「おう、お疲れさん」

 

 

 タバコをぷかぷかふかしていると、件の兄妹+有馬が戻ってきた。

 

 

「子供に片付けさせて吸うタバコはうまいか?」

 

「ぐっ……悪かったよ。てかなんでお前らまで片付けしてんだ」

 

 

 あおいの指摘はもっともだ。バツが悪くなり、半分くらい残っているタバコをもみ消した。

 こいつらの特徴というかなんというか、裏方の仕事を手伝おうとするのだ。それが意外にも、裏方の人間にも好評だった。

 

 痒いところに手が届くというべきか、やらなきゃいけないが優先度が低く後回しになりがちなことを手伝ってくれている。何より、ビジュアル抜群の子供が一生懸命何かをしている姿が、かなり心に来るらしい。

 そんなわけで裏方の人間、主に女性陣からは絶大な支持を得ていた。

 

子供ばかりに苦労はかけられないと皆が奮起していて、現場の士気も高い。こういった役者はかなり貴重だ。

 

 

「こうやってれば裏方からの支持得られるでしょ。小癪な生存戦略ですよ」

 

「かわいくねえガキだな……」

 

 

 まさに俺が考えていたことと同じことをあおいは言った。事実、効果は抜群だ。今すぐどうこうとはならないが、数年先の活動に大いに関わってくるだろう。

 俺としても現場の士気が上がっている以上、文句を言うつもりはない。やってることは単なる人助けだし、責められるいわれもないだろう。

 などと考えていると、有馬が露骨に顔をしかめていた。見ると顔が汚れている。よほどのことがあったんだろうか。

 

 

「ゲホッゲホッ…… うぇぇ、埃っぽい」

 

「おら、頭が埃かぶってるぞ」

 

 

 髪に付いた埃を払ってやる。正直、こいつがここまで献身的になるとは夢にも思わなかった。あれだけクソガキだったこいつが、無理矢理とはいえ手伝いなんかするとはな。

 

 

「かなちゃん、頭大丈夫?」

 

「頭大丈夫か有馬?」

 

「悪口にしか聞こえないんだけど!?」

 

 

 最初はぎこちなかったこいつらも、今ではすっかり仲良し?だ。志を同じくする仲間が増えて、さぞ嬉しいだろう。

 辛い時、1番の支えになるのが仲間だと思う。これから辛いこともあるだらうが、みんな一緒なら乗り越えられるさ。

 ガキどもの言い争いを眺めていると、ふと、あおいが思い出したように顔を上げた。

 

 

「そうだ、俺たちの演技どうでした?プロとしてアドバイスくださいよ」

 

 

 あおいがそう言うと、周りの奴らも期待を込めた目で俺を見る。ったく、気持ちはわかるが、そんな目で俺をみないで欲しい。

 

 

「そうだなあ、まずあおい。お前は妹のことを気にしすぎだ。それがなけりゃもっといい演技ができるぞ」

 

「くっ…… 監督も無理難題をおっしゃる……っ!」

 

 

 いやそんなに難しく無いと思うんだが…… 要は演技に集中しろということだ。別に今日の演技が下手というわけでは無い。並の子役とは比べ物にならないレベルだ。それでも、俺が以前見た演技とはかけ離れていた。

 そりゃ目線が常にあかねに向かっているのだから、集中力もクソも無いだろう。

 

 

「次にあかね、お前は————」

 

「貶したら殺す。悲しませたら殺す。褒めなくても殺す。わかったらゆっくりと口を開け」

 

「最高の演技だ。次もよろしく頼む」

 

 

 首筋に冷たいものが当たっている気がする。俺の命は背後のシスコンバカに握られてしまっているみたいだ。

 

 

「冗談はともかく、あかねはもっと役に入り込んでもいいと思うぞ。今日の演技も及第点ではあるが、まだ上を狙えるはずだ」

 

「は、はいっ」

 

 

 元気よく返事をするあかね。本当にこいつら兄妹か……?

 もしかすると、あかねには酷な事を言ったかもしれない。これから先、兄という壁は立ちはだかり続けるだろう。現状に甘える事なく、挑み続けろと俺は言ったのだ。やはり黒川家の血には期待してしまっているな。

 

 

「そして最後に有馬……は、今日新しいことを試してたな?」

 

「監督には気付かれちゃったのね」

 

 

 今日の有馬は、普段と方向性を変えてきていた。自分を輝かせる演技でなく、他人を輝かせる演技。今までの彼女からは想像もできないような、全く新しい演技だ。身も蓋もない言い方をすれば、主役でなく脇役の演技。つい先日まで大御所気取りだったこいつが、一体どんな風の吹き回しだと思ったものだ。

 

 だがそれは、有馬の成長でもあった。

 

 

「かなり助かった。今日のお前は、監督からすれば理想的な動きだったよ」

 

「……そう。誰かさんを参考にしたのが良かったのかしら」

 

 俺の言葉に嘘はない。セリフを間違えたあかねをフォローして、アドリブを入れた時なんかは素直に驚いた。正直言って、現場に1人はいて欲しいタイプの人間だ。

 

 

「ただ、その演技一辺倒になるなよ。お前のメインはあくまで別のところにある。使い分けるようになれ」

 

 

 有馬はこくりと頷いた。うーむ、前まではひとのアドバイスなんざ聞かなかったはずだが…… こうも人は変わるのだろうか。

 今日は有意義な1日だった。しっかりと育っている若い芽を見れて、今日は気分がいい。

 

 いつか、早熟とも会わせてやりたいものだ。

 

 

「さーて帰るか! ご褒美になんか買ってやるから、好きなの言ってけ!」

 

「いらね」

 

「大紅袍茶」

 

「りんごジュース!」

 

 

あかねだけだ、おっさんの気持ちを汲んでくれるのは。妹を溺愛するあおいの気持ちが、少しだけわかった気がした。

 

 




以下、評価返信欄

⭐︎10
いがちゃん 様
最高評価ありがとうございます!
これからも物語は続いていきますよ!

あぃすたそ 様
最高評価助かります。
やっぱ重曹ちゃんは最高のキャラですね!

ツナよし 様
最高評価感謝です!
ぐぐぐらんぶる??? 知らない子ですね……(すっとぼけ)

⭐︎9
想像 様
sizuku 様
ぬべべ 様
ミルヒト 様
ざいざる嬢 様
くりすけ 様
涅槃寂静・終曲 様
一時停止違反 様
ペカチュウmk2 様

ありがとうございました!
今後ともよろしくお願いいたします!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。