黒川あかねのお兄ちゃん   作:マッキー⭐︎

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ここすき欄見るの好きです。


第7話

 由々しき事態だ。

 共演後、有馬とあかねの仲が急接近している。LINEも交換して、遅くまでメッセージのやり取りをしていたり。最近では俺に黙って(もちろん位置は把握している)2人で遊んでいるみたいだった。クソッ、最近仕事が減って暇になったからって、遊んでばっかいるんじゃねえ!

 

 あかねにとって、有馬かなは憧れの人だ。いくら中身がクズでも、あかねにとって大した問題ではないのだろう。

 食事中や寝る前などは、やれ有馬がどうとか、有馬が何しただとか、その話で持ちきりだ。あかねたんに罪はないのだが、歯ぎしりしながら聞いているこちらの身がもたなくなる。

 自室で処理方法を考えているのだが、中々浮かんでこない。やはり証拠隠滅の仕方が難しい。どうしても人の目や監視カメラがある以上、現代社会で存在ごと抹消するのは難しいだろう。

 うんうん唸っていると、あかねが忙しなくしている。一体どうしたものかと尋ねてみた。

 

 

「有馬がウチに?」

 

「うん! がんばって誘ってみたら、来てくれるって!!」

 

 

 なんと、敵将・有馬かなが本陣に攻めてくるようだった。これはチャンスだ。家の中なら何が起きても揉み消せる……!

 ようやくアイツを始末するチャンスがやってきたのだ。

 

 

「そうか! 楽しみだな!」

 

「うん! そろそろ来ると思うんだけど……」

 

 

 あかねの言葉通り、ピンポーンとチャイムがなった。先ほどまでの勢いのまま駆けていくあかねに付き添い、玄関を開けてやる。

 

 

「……来たわよ」

 

 

 予想通り、本日のメインターゲットが姿を表した。帽子を目深に被り目を合わせようともしていない。

 I'LL KILL YOU(いらっしゃい)と声をかけようとしたが、ふと有馬の背後に立つ人影に気づいた。

 

 

「こんにちは。かなの母です〜」

 

「ということは、そちらはお父様ですか?」

 

 

 無言の首肯。有馬の送迎だろう。両親揃って送迎とは随分と愛されてるな。家の場所は知らないが、子供だけで向かうには遠すぎたのかもな。

 

 

「あら、あなたは……」

 

 

 有馬母がハッとしたような顔をした。そうか、俺も曲がりなりにも芸能人なわけで、ある程度知名度もあるのだ。同じ子役だし、記憶にも残りやすいだろう。社会人として挨拶はしっかりしないとな。

 

 

「かなちゃんの本当の兄です」

 

「おいコラァァァァァァッ!!!」

 

 

 言ったと同時、有馬に胸ぐらを掴まれた。おいどうした、更年期か?

 

 

「なぜ我が家に不和をもたらす!?」

 

「そんなつもりは一切ないが」

 

「悪意がないならなおタチが悪いわ!」

 

「……あなた?」

 

「大丈夫だ、認知はしない」

 

 

 はっはっはっ。裏で修羅場が起きているがいいのかい? 半泣きになる有馬を見ているととても心地よい気分になる。

 

 

「……お兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

「お兄ちゃんは、私だけのお兄ちゃんだよね? ね?」

 

「当たり前じゃないか。世界で唯一ただ1人、俺の妹はあかねだけさ」

 

「ふーーーーん」

 

 

 ん?なんだかあかねの様子がおかしい気がする。俺の妹はあかねで、あかねの兄は俺。そんなことわかりきっている事だろうに。

 仮に新しく弟ができるとしたら、それはあかねに彼氏ができた時だが、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ない。あかねに近づく男は全て始末するからな。

 

 さて、どうやら有馬家も佳境のようだ。

 

 

「さようなら。次会うときは絞首台ね」

 

「せめて法廷では!?」

 

 

 それだけを言い残して、有馬夫妻は去っていった。全く、家の前で痴話喧嘩とかやめてほしいよな!

 

 

「どうしてくれんのよあんた!! これで離婚にでもなったら……っ」

 

「心配すんな」

 

 

 憤慨する有馬を宥めながら、夫婦が去っていった方向を指さした。そこには手をつないで帰る有馬夫婦の姿があったのだ。流石にあの程度の冗談に振り回されるほど、バカな大人じゃないってことだ。

 いくら俺でも、家族と離れ離れにさせるほど鬼ではない。大切な人と引きはがされる苦しみは、計り知れるものではないだろう。

 

 だから何も心配するな、有馬。

 

 

「改めて有馬。ようこそ黒川家へ」

 

「いらっしゃい! かなちゃん!」

 

 

 本当の地獄は、ここから始まるんだからな。

 

 

****************************************************

 

 

 

 

「かなちゃんはバッタのかき揚げの天丼で大丈夫?」

 

「いいわけないでしょ!? そんなんYouTuberでも食べないわよ!!」

 

 

 朝食がまだとのことで、来て早々ちょっと早めの昼食をとることになった。こいつよく人の善意を踏みにじれるな。親の顔が見てみたいぜ。

 

 

「適当でいいわよ。冷蔵庫の中身と相談してちょうだい」

 

「わかった! お兄ちゃんは?」

 

「あー、期限切れかけの卵あったろ? オムライスで頼む」

 

「はーい!」

 

 

 意識して食べないと、卵ってすぐにダメになっちゃうんだよなぁ。そんで期限間際になって、大量の卵で卵焼きやらオムレツやらオムライスやらを作ることになるのだ。

 そんなわけで元気よくキッチンに向かうあかね。もう何度も料理をしているのだから、心配はないだろう。将来はいいお嫁さんになるな。誰にも渡す気はないが。

 

 

「……あの子、料理できるのね」

 

「ああ、少なくとも俺よりはな」

 

「あら意外。何でもそつなくこなすと思ってたけど」

 

「そんなことはないさ。初めてのことは練習しなきゃできやしない。兄として恥ずかしい限りだ」

 

 

 総てにおいてあかねの手本になってあげたいとは思っている。だけどそう上手くいかないのが現実だ。あかねにできて俺にできないことだって星の数ほどある。それでも研鑽をやめるわけにはいかないのだ。みじめったらしくあがく姿を見せるのも、先を進むものの役目なのだから。

 

 

「演技だけは、認めてあげてもいいわよ」

 

 

 短い言葉。有馬の顔を見ようにも、そっぽを向いている。まるで閉じた貝殻のようだ。

 

 

「演技だって、あかねのほうが何倍もすごいさ」

 

「まぁ、筋は悪くないけれど……」

 

 

 言いよどむ姿からは、現場での凛々しさは微塵も感じなかった。傲岸不遜に感じていたが、案外こちらが素なのかもしれない。

 なにおう、と反論する前に、有馬が口を開いた。

 

 

「最近はずっと演技のことばっか聞いてくるのよ。やかましいったらありゃしないわ」

 

 

 心底嫌そうな口ぶりではあるが、反して表情は明るい。まあこいつ友達いなさそうだし、同年代のあかねのことは憎からず想っているのだろう。仮に本心で嫌がっていたら、今日の昼食は有馬焼になるところだった。命拾いしたな。

 

 

「それで、大物芸人様はどんなアドバイスをしてくれたんだ?」

 

「女優だっつの。別に大したことは言ってないわよ。せいぜい役作りの基本とか――そういえば1つだけ気になることがあったわ」

 

「顔が可愛すぎるところか? 性格が天使なところか?」

 

「あの子、分析と再現が異常に得意なのよ」

 

 

 ふむ。よくわからん。それらがどう演技に影響するのだろうか。確かにあかねは賢い子だから、分析はかなり得意な部類だろう。再現だって、分析で得た知識を組み立て、模倣するだけだ。あかねにとって難しい話ではない。

 

 

「要は役に入り込むのが得意ってことよ。実在した人物に限らず、創作のキャラクターでさえも。それこそ、自己と役の境目が曖昧に――」

 

「お待たせ!! オムライスできたよー!」

 

 

 有馬が言い終わる前に、テーブルの上にオムライスが運ばれてきた。ほんのり汗をかいていることからも、どれだけ力(と愛情)を込めて作ってきたかがよくわかる。

 言いかけた言葉が気になるが、今はあかねの料理を堪能しようじゃないか。

 

 

「あら、結構上手じゃない」

 

「えへへ。どうぞ召し上がれ」

 

「悪いが待ちきれん。先に食べるぞ」

 

 

 黄金に輝くオムライスを口に運ぶ。

 

 

「トレ!!! ビアンッ!! なんだこの味は!? 舌の上で深く絡み合う、ハァァァモニィィィィッ!!」

 

「……こいつ、いつもこんななの?」

 

「うん? 私が料理を作るときだけだよ?」

 

「ほんとにキモイシスコンね」

 

 

 なんちゃって女優が何か言っている気がするが、今の俺には気にならなかった。あかねの手料理を食べるこの瞬間。この時だけは、何人たりとも邪魔させない。

 

 

「おい有馬、食わないなら俺がもらうぞ」

 

「今食べるわよ。いただきます」

 

 

 行儀よく手を合わせる有馬。こういうところに育ちの良さってでるよな。

 控えめな量を口に運んだ。

 

 

「オェェェェェ!!」

 

「はっはっは、こぼれてるぞ? はい、あーん」

 

「やめっ、ほんとにやめ」

 

 

 全くあわてんぼうだなぁ。口から溢すほどかきこむなんて。

 食事中に喋るのは行儀が悪いので、何か言いたげな有馬の口にどんどん運んで行ってやる。ほれ、うまいか? うまいよな? うまいって言え。

 

 

「悪いあかね、お兄ちゃんに食べさせてくれるか?」

 

「うん、いいよ」

 

 

 ちなみに有馬の料理に何か細工をしたとか、そういったことは一切ない。あかねは本当に料理が上手だな。真似できない独創的な味付けが特徴だ。恐らくあかねの愛情がふんだんに盛り込まれているせいで、兄以外の人間には消化できないのかもしれない。

 今度料理教室に通い始めるらしいから、これからが更に楽しみだな。

 

 

「どうだ有馬、ケミカルでストロングな味だろ」

 

「味を形容する言葉じゃないのよ……っ」

 

 

 最期の言葉を言い残し、有馬はテーブルに崩れ落ちた。おいおい、食後に寝ると牛になるって教わらなかったのか? 口が寂しそうだから、オムライスを詰めてやろう。

 

 

「さてと、あかねの分は俺が作ってやるからな」

 

「わーい! お兄ちゃんの手料理大好き!」

 

 

 天使の喜ぶ声を聴きながら、キッチンへと向かうのだった。

 有馬は始末できたようなので、とりあえずはミッションコンプリートだな。

 

******************************************************

 

 

 遊んでいると時間が過ぎるのは早いもので、時刻は夕暮れ時に差し掛かろうとしていた。そろそろ迎えの時間かと思ったのも束の間、玄関のチャイムが鳴り響く。

 ドアを開けると、やはりというか有馬夫妻が揃っていた。

 

 

「かな、迎えに来たわよ」

 

「ママ! パパ! ……何かあった?」

 

 

 朝との決定的な違いは、お肌がツルツルな有馬母と、今にも死にそうなほどやつれている有馬父。

 これは、まさか……

 

 

「家族が増えるよ!」

 

「やったねかなちゃん!!」

 

「ちょっと待って。どんな顔すればいいのかわからない……」

 

 

 意味も分からず、俺の言う言葉に続くあかねの頭を撫でてやる。あかね、君だけは穢れないでいてくれよ。

 

 

「またな、有馬」

 

「かなちゃん…… また来てくれる?」

 

 

 あかねの言葉に悩んだ素振りを見せる。それでも確かに、ニヤリと笑ったのを見逃さなかった。

 

 

「またね、あかね、あおい」

 

 

 芸名だっつの、と言い返す間もなく、有馬は母の胸にダイブした。その表情が彼女の素なのだろう。険のとれた、花のような笑顔。本当に家族を愛しているのだと、どうしようもないほど伝わってくる。

 

 

 手をつなぎ幸せそうな親子の形を、俺たちは見えなくなるまで眺めていた。

 




☆10
シャーロック・山田 様
ありがとうございます! ギャグとシリアスとシスコンをちょうどいいあんばいで混ぜてます!

トッシーヨッシー 様
ありがとうございます! 特に原作キャラ同士の掛け合いは慎重に書かせてもらってます!

たんさはか 様
ありがとうございます! これからもお付き合いお願いします~

nanase111122 様
ありがとうございます!
たくさん更新できるように頑張りますね!

むけ 様
ありがとうございます! もっと楽しんでもらえるように精進します!


☆9
イスファハーン 様
ユー@天津風 様
R・P・H 様
そこには愛しかない 様
oti 様
SHIELD9 様
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ありがとうございます! 大変励みになります!!
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