愛を探す愛久愛海   作:天凪

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鷲見ゆき編

 

 

 

「そうだね。俺も、最後に君にキスができたら嬉しいかな」

 

 そう言って、頬に顔を近づける。自分が把握しているカメラの目線からしてみれば、星野アクアが自分の頬にキスしているように見えるだろう。もっとも、実際には近づけただけで、触れてはいないのだが、視聴者からはそうは見えないだろう。それはアクアからのいきなりの先制攻撃だった。先に牽制気味に印象に残すつもりが逆になってしまった。思わず、触れられていないのに、意味ありげに頬を押さえながら、去っていくアクアの背中を見送れば、それは視聴者からも意味深に見えることだろう。もっとも、アクアが、そこまで計算していたかは分からないが。

 

 思えば、星野アクアは不思議だ。最初の「恋愛に興味ないの?」という質問から、微笑んでいた表情から影を見せるようにして、未だに引きずっている初恋をぽつぽつと語る様は陰のあるイケメンとして映えていた。そこから態度を変えて、ゆきの口説きにカウンターを返すのだから。微笑むアクアと、陰のあるように初恋を語るアクア。一体どちらが本性か、付き合いの浅いゆきには分からなかった。

 

 それが初回の撮影で鷲見ゆきが一番印象に残った場面。初回の撮影も無事に終わり、帰宅したゆきは自室で頭を抱えていた。

 

「どうするのよ? これ」

 

 ノートに書かれた名前を見る。『MEMちょ』『黒川あかね』『熊野ノブユキ』『森本ケンゴ』『星野アクア』。『今からガチ恋始めます』のメンバーの名前が並んでおり、その横に記号がつけられていた。記号の種類は〇、×、△だ。〇は『星野アクア』に、△は『熊野ノブユキ』『MEMちょ』に、×は『黒川あかね』『森本ケンゴ』につけられていた。

 

「恋愛リアリティショーなのに、恋愛に積極的なのがアクアくんだけってどういうことなのよ?」

 

 それぞれの記号は、恋愛への積極性、ひいては異性への積極性についてゆきが感じたものを記号化したものだった。つまり、〇が積極的、△が普通、×が壊滅的だ。しかも、普通のノブユキはともかく、MEMちょは、自分のチャンネルへの導線としてしか考えてなさそうだった。つまり、恋愛をする予定はない、と。唯一の救いは、『星野アクア』だろうか。初回で、いきなり頬にキスしたように見せるテクニックと言い、ディレクターに逐一助言をもらっていたあかねと二人で会話をおこない、あかねの職業から、女優でもどんな作品に出ていたのか? という切り口から話題を広げて、あかねに気持ちよく話させていたのを見ていた。

 

 少なくとも、これであかねの見せ場は作れただろうと思う。正直、ゆきが一番目立つという目的はあるが、そもそも番組が成立しなければ意味がない。ただの仲良しごっこでは『恋愛リアリティショー』とは言えず、注目も集まらない。つまり、ゆきはゆきで恋愛のエンタメを作るように動く必要がある。なにしろ、女性で積極的なのはゆきしかいないのだから。

 

「こうなると積極的にアクアくんとノブユキくんに絡むのが正解?」

 

 恋愛に積極的なアクアと、それなりに喜怒哀楽の感情がストレートなノブユキに絡んでいって、三角関係の恋愛模様を演出するのが、おそらくこのエンタメを効果的に演出できるだろうとゆきは判断した。

 

 そして、その狙いは功を奏した。アクアとしてもゆきの狙いが分かっているのだろう。積極的とまではいわなくても楽しくお喋りしたり、放課後のイベントという体で行われている内容にも積極的に交流を深め、同時にノブユキにも絡んでいく。ノブユキの場合は、アクアほど恋愛的な絡みに積極的ではないため、ゆきが主体となる必要があるが、それでも比較的、恋愛要素を出しながら絡めている自信がある。なにより、MEMちょもあかねもアクアとノブユキ相手だと片方は遠慮して、片方は委縮して話しかけてこないのだから。

 

 小悪魔のように二人を誘惑しながら渡り歩く。それが鷲見ゆきのキャラクターとなった。ただ、そのターゲットとなった星野アクアも大したもので、ゆきのターゲットとなった後も、未だに黒川あかね、MEMちょとも交流を持っている。

 

 最近、特に面白いのは、あかねとアクアが話している最中にアクアを誘惑することだ。アクアに話しかけて、アクアが反応すると同時に今まで話していたのに話題を中断し、下を向くあかね。そして、アクアを別の場所に誘いだそうとするゆき。ゆきの誘いを受けようとすると悲しそうな顔をし、アクアが「今、あかねと話しているから」と断れば嬉しそうな顔をする。いやいや、もう少し隠しなさいよ、とゆきは思うが、その引っ込み思案な姿勢が受けているのだからエンタメとは分からない。ゆきとしては「そう、じゃ、後で来てね!」と笑顔で手を振って去るしかない。

 

 もっとも、あかねの気持ちもゆきには理解できる。アクアは基本的に女の子の話に話題を合わせてくる。気持ちよくお喋りできるというべきだろうか。ゆきとの会話の中でもアクアがバイト感覚でやっているファッションモデルの話で、男女の違いについて話すことができるし、最近、発刊したファッション誌に載っていれば、「見たよ。綺麗に撮れてたね」と言ってくれるのが嬉しい。

 

 そんな収録のある日、溜めていたネタをゆきは投下した。

 

「私……もう『今ガチ』辞めたい」

 

 その時、全員に浮かんでいたのは驚愕の表情。こういう時、素直なのは『今ガチ』のメンバーの特徴だと思う。メムのリアクションは、映えるような自らのキャラクターを加味して言葉を選んでくるし、ノブユキは感情任せに言葉を選ばないから視聴者に真っすぐ刺さるようなことを口にする。あかね、ケンゴは、もう少しリアクションを考えてほしいと思う。そして、アクアは―――

 

「そうだね、俺もゆきみたいな可愛い子がいなくなるのは悲しいかな」

 

 当初からの浮いたようなセリフを口にする。もっとも、このレベルであれば、あかねにもメムにも言っているので問題ない。むしろ、顔の良さもあり、アクアの浮いたセリフだけをまとめた切り抜き動画さえも存在しているぐらいだ。

 

「私は――――」

 

 そして、ゆきの態度は想定通り、配信直後から話題となり、ネットニュースの一部も飾った。視聴者の反応は分かりやすい。「ゆきが本当に『今ガチ』をやめるのか?」「やめたら、アクア、ノブユキとの関係はどうなるのか?」などだ。つまり、ゆきの『今ガチ』の戦略は功を奏していることが分かった。

 

 結局、ゆきが辞めるという発言は、メンバー内では感情を誇張したものと説明し、番組上もアクアとノブユキの言葉に説得されて続けるという演出でゆきの出演は継続することになった。

 

 その後も『今ガチ』の撮影は続いていくが、大体の方向性は珍しく夜の撮影となった花火イベントで決まった。

 

 今ガチの中でも比較的大きめのイベントだからだろう。女性陣も男性陣もいつもの制服ではなく浴衣に着替えることになった。着替えは、普通にテレビ番組でメイク担当によって行われ、着飾ったといっても過言ではないだろう。なぜか『今ガチ』の中で、気苦労が多いゆきは、男性陣がいい反応をしてくれればいいのだが、と思いながら着替えのために用意された場所から男性陣が待っている場所へと移動した。

 

 そこには呑気におしゃべりしている三人の男性陣が並んでいた。そして、一番最初に女性陣に気づいたのは、やはりアクアだった。

 

「さすがファッションモデルだな、良く似合ってる。綺麗だ」

 

 アクアにしては珍しく、飾り気のない誉め言葉だったが、素直な言葉のほうが嬉しい場合もある。今回はそのパターンだった。

 

「あはは、ありがとう。アクアくんの浴衣も似合ってて、いいと思うよ」

 

 というか、男のくせに妙に色気があるのがおかしいと思う。ノブユキとケンゴを見ても普通なのに、アクアと違いが出るのだから驚きである。

 

 アクアから褒められた後、気づいたノブユキとケンゴが、ほおぉ~、と感心したような声を上げ、それぞれが誉め言葉を口にしていた。様式美で、アクアほど響かないのは、やはり最初に気づいて、いの一番に褒めてくれたからだろうか。そのアクアは、ゆきの浴衣姿を褒めた後、メムとあかねのほうに向かっていたが、これがアクアのキャラクターなので仕方ないと言える。

 

 それからは、『今ガチ』のメンバーで花火を行った。といっても、手持ち花火で遊ぶだけの大学のサークルとほぼ変わらないような小規模なものだったが、それでもいつもとは異なる雰囲気もあってか楽しめるイベントではあった。

 

 この後、番組は『熊野ノブユキ』『鷲見ゆき』のカップリングと『星野アクア』『鷲見ゆき』のカップリングでどうなるか、が中心となった。ノブユキとアクアの間で揺れ動くゆき。そして、ゆきの心情を気にするノブユキとあかねとメムにも気がある素振りを見せるアクア。ノブユキとアクアの積極性にも違いがあり、また、ゆきもどちらにも心を寄せているようにも見え、青春ドラマのような恋愛模様が、中高生を中心に番組を盛り上げていった。

 

 なお、あかねは、アクアから話しかけられている場面だけを見ると、大人しい女の子が軽い男に騙されているような、友人に誘われて初めて行ったホストクラブで口説かれているような場面にも見えるため、『騙されるなあかね』などのコメントが飛び交う奇妙な空間になっていた。それでも、『星野アクア』『黒川あかね』のカップリングとして次点となり、『鷲見ゆき』と『黒川あかね』のどちらとくっつくかで毎週盛り上がっていた。

 

 

 

 

「ごめん、待った?」

「5分くらい」

 

 待ち合わせ場所が分からず迷ったため、少しだけ遅れて到着すると目的の相手が先に待っていた。少し帽子と眼鏡で変装しているが、目印にしていたブックカバーですぐにわかった。そして、相手もゆきの声に合わせて、本に落としていた眼を上げて、小さく微笑んで、読んでいた本を閉じながら、待っていた時間を口にする。

 

「え~、そこは『今来たばかり』じゃないの?」

「今どきは変化球が流行りらしい。それに、それは先週やった」

「それもそうか」

 

 少女としては一度は体験したいドラマのようなやり取りだが、アクアが言うように、それは先週の待ち合わせでやったやり取りだ。今回の待った時間を告げるのも、マンネリ化した今としては斬新なのかもしれない。もっとも、それだけ気心知れている、という仲でもあるのだろうが。

 

「行くか」

 

 そう言って歩き出すアクアの腕に自分の腕を絡めて歩き出す。アクアはこちらを気遣って足幅を合わせてくれたり、車道側に立ってくれたりと細かいところに気づくから、そういうところがゆきは好きだった。

 

 さて、普通のデートのように見えるが、そもそも、二人は『今ガチ』の恋愛リアリティショーに出ているため、おかしい話ではある。もっとも、これは二人で出歩くためのカモフラージュである。似ているといっても、あの番組に出ている二人が堂々とデートのような格好で歩くわけはないだろう、という死角を突いたものだ、とゆきは言い訳している。もっとも、このくらいに体をくっつけてじゃれあう程度は、『今ガチ』でもやっているのだが。

 

 そして、二人が向かったのは芸能人たちも使っている、入口が分かりにくく、個室のある喫茶店だった。すでにいつものようにアクアが『雨宮』の名前で予約しており、スムーズに中に入ることが出来た。

 

「それじゃ、今回分の『今ガチ』から見直すか」

 

 アクアが持っていたタブレットで二人並んで今回配信分の『今ガチ』を見る。この『秘密のデート』が始まってからのお決まりの流れだった。

 

 そもそも、この『秘密のデート』が始まったのは、何度目かの収録後にゆき個人にアクアからメッセージが来たことが始まりだった。『次の収録について話がしたい。どこかで会えないか?』という簡易なメッセージだった。ゆきとしてもアクアの狙いは分かった。僅か数回ではあるが、恋愛リアリティーショーの名を借りたこのエンタメ番組はすでに『鷲見ゆき』が誰と絡むか、『星野アクア』が誰と絡むか、で演出が構成されていることに気づいていた。

 

 つまり、ある程度の意思疎通を行うことで番組自体をコントロールしようという、リアリティーとは? と疑問を投げかけたくなるような八百長への誘いだった。ただ、この番組の参加者のキャラクターを考えると、ある程度示し合わせておかないとエンタメ要素も見られないのも確かだ。だから、掟破りということは分かっていながらも、ゆきはその誘いを承諾してしまったのだった。

 

 最初の内はデートなどと称していても、番組を見返して、そこから番組の編集側の意図を汲み取り、予告されている次回の撮影時のイベントでアクアが誰と絡むか、ゆきが誰と絡むかの大まかな台本を話し合っていた。そして、ある程度先の収録でアクアが誰と、ゆきが誰と、という話し合いが終われば、ゆきとしては、後は解散のつもりだったのだが、「せっかくだから遊んでいかないか?」というアクアの言葉に揺れてしまった。

 

 個室のある喫茶店というのは、そこそこ隠れたところにあり、なかなか遠出もしている。ただ、次の番組の話をして帰るだけ、というには少々勿体ない。ついでに時間的には帰宅したとしても中途半端な時間になっており、ちょっとしたデートの相手もアクアだ。そこに拒否感はなく、気が付けば頷いていた。

 

 こうして、ずるずると関係が続き、慣れてくるとだんだん遠慮もなくなる。ただでさえ、アクアは手慣れており、待ち合わせ場所となっていた喫茶店周囲のデートに向いた場所を熟知しており、つまらない、ということはなかった。そして、なにより、アクアとの関係をほかのメンバーには秘密にしている、という背徳感が絶妙なスパイスになっていた。

 

「よしっ! それじゃ、次の流れは完成! じゃ、行こう! アクアくん。今日はどこ行くの?」

「もうすっかり慣れたな。まあ、いいけど。この近くだと小さなアクセの店があるが、そこでいいか?」

「アクアくんのお勧めなら間違いないからいいよ」

「まあ、楽しんでもらえればいい」

 

 案内された先はアクセサリーを中心とした小さな店だった。値段的にも高校生のゆきでも買えるような金額で、センスのいいものが並んでいた。穴場と言えばいいのだろうか。よくこんなお店を知っているな、と毎度のことながら思っていた。

 

「ゆき、これよくないか?」

「え? どれどれ」

 

 アクアが持ってきたのは二つのブレスレット。ワンポイントに雪の結晶と水の文様がそれぞれついている。つまり、アクアとゆきである。いやいや、攻めすぎだから、とゆきも思うが、だからと言ってほしくないわけではない。秘密にしなければならないが、このバレても仕方ない、という緊張感は癖になりそうだった。

 

「いくらなんでも攻めすぎじゃない?」

「だからいい、と思わないか?」

 

 そのアクアの返しが素敵すぎて、思わず二人して笑ってしまい、結局、そのブレスレットを購入してしまった。当然、アクアには雪の結晶の付いたものを、ゆきには水の文様が付いたものを渡して。お互いにつけるのは秘密の逢瀬の時だけにしようとして。次の収録でつけたら面白くないかな、と思ったが、さすがにそれは自重した。

 

 そこから、さらに数店舗、冷やかしのように巡り、時間も遅くなってきた頃、そろそろかな? と思っていると、やはりその施設が目に入った。そして、その施設の前でアクアが立ち止まり、こちらを覗き込むようにして聞いてくる。

 

「―――今日は行く?」

「………行く」

 

 おそらく、決定権をゆきに委ねてくれているのはアクアの優しさなのかもしれないが、偶には強引に誘ってほしいとも思う。だが、そんなゆきの感情に気づいているのか、気づいていないのかアクアはゆきの肩を抱くと、そのままその施設―――ラブホテルへと向かうのだった。

 

 

 

 

 最初はただの興味本位だった。数度目の内緒のデートの後で、ふと目に入ったラブホテルの看板。今まで、ゆきは仕事一筋で異性には興味がなかった。それでも、同性の友達付き合いはあり、その中でも高校生ともなれば、恋愛事がメインになることもある。その中には何度目のデートでキスをして、どのくらいの期間でえっちなことをするか、などの先輩から聞きかじったこと、実体験などが入り乱れる話題もあった。だから、こうして『今からガチ恋始めます』という恋愛リアリティショーに出演して、こうしてアクアとデートして、だんだんと異性との絡みが出てきた自覚があって、このまま付き合いを続けたらいずれ自分も──と思ってしまったのだ。

 

 そして、思わずラブホテルの看板を見て、足を止めてしまったことにアクアに気づかれたのも悪かった。「興味あるの?」と聞かれて、思わず恥ずかしくて俯いてしまい、揶揄うように「入るだけ入ってみる?」という言葉が続けられた時はどうしよう? と本気で悩んだものだ。ただ、これまでの経験からアクアなら無体なことはしないだろうという信頼はあり、興味がないわけではなかった。いや、むしろ、意識してしまっただけに、より興味は強くなっていた。

 

 結局、その興味を持った心には逆らえず、最初はラブホテルに入るだけのつもりでアクアと共に目に入ったラブホテルに入ってしまった。その時は、初めて入る施設に興奮して気づいていなかったが、手慣れた様子で部屋を選ぶアクアに気づくべきだったとゆきは後で思った。その日は、ラブホテルの部屋の中を探索して、備え付けられたカラオケやゲームで休憩時間の範囲で遊ぶだけだったのだ。だが、慣れとは怖いもので、気づいたら、その手の施設というのものに慣れてしまえば、次に興味が出てくるのは行為そのものであった。

 

 すでにデートも何度か行い、でもはっきりとした関係性はない。それでもラブホテルに入る仲。そんな状態で、アクアに雰囲気を作られてしまえば、もはや自重する空気は微塵もなかった。それは、ゲームで勝った時にアクアに抱き着いて、バランスを崩して押し倒してしまった時か、カラオケでデュエットを歌って雰囲気的にカップルになってしまった時か。もはや始まりは覚えていないが、気がつけば、ラブホテルを本来の意味で使う関係になっていた。

 

 今日も、いつものラブホテルで、いつもの行為のあとで、ゆきは常々疑問に思っていたことを口にした。

 

「ねぇ、アクアくんって結構遊んでるでしょ」

「人並みかな」

 

 お互いに一糸まとわぬ中、すぐ隣で横になっているアクアに今まで疑問に思っていたことを問いかけてみる。アクアの答えには、どこかで「嘘つき!」と罵るような声が聞こえたような気がするが、その声には、ゆきも概ね同意だ。いろいろと異性と遊ぶうえでスマートすぎた。おそらく同年代の異性と遊べばもっとあたふたしているだろう。

 

「だったら、なんで『今ガチ』に出演しようと思ったの?」

 

 ゆきが見る限り、アクアはゆきのように仕事がなくてあがく様に恋愛リアリティショーに出演したとは思えない。ならば、むしろ『恋愛』の部分に重きをおいているのか、と思ったが、ここまで遊び慣れている以上、女の子に困ったことはないだろう。だから、なぜこの番組に出演したのか気になった。

 

「出演しようと思った理由は、最初にゆきに話したことで間違いない」

「ああ、あの初恋の人?」

 

 最初に聞いた話は、初恋を拗らせたという話だ。それに対してゆきは「克服しないとね」と返したはずだ。

 

「俺は、あの人について知りたい」

「ふぅ~ん、私と何か共通点があったの?」

 

 自分とラブホテルでえっちをするような仲になったのだ、アクアの目的になるような何かがあるとゆきは思っていた。そして、やや考えてアクアは口を開いた。

 

「黒髪のロングヘア」

「はぁ、髪型だけじゃん。それで、私を抱いて何か分かったの?」

「まだ分からない。こればかりは、しばらく関係を続けないと分からないものだから」

 

 その言葉にびくっ、とした。つまり、アクアはこの関係をしばらく続けるつもりであると分かったから。てっきり、ゆきとしては『今ガチ』の決着がついた後は、別れるものだとばかり思っていた。なぜなら――――

 

「『今ガチ』、アクアくんは、誰に告白するの?」

「………あかね、かな?」

「うっわ、最悪」

 

 隣で裸で寝ている女とは別の女の名前を口にするアクアが信じられなかった。しかも、先ほど言っていた「しばらく関係を続けないと」とは一体何だったのか? とさえ思う。

 

「だったら、ゆきは誰に告白されるつもりだったんだ?」

 

 これまた答えにくいことを、と思いながら、『今ガチ』という恋愛リアリティショーの性質上、男性から女性への告白がメインとなっており、アクアが告白する側、ゆきはされる側なのは間違いない。そして、だいたいは複数人に告白されることはない。

 

「……ノブ、かな」

「だろ?」

 

 まるで一矢報いた、とばかりに笑うアクア。そんな自分たちのやり取りに思わず笑いがこみあげてきた。

 

「ふっ、ははははは」

「ど、どうした?」

 

 さすがに急に笑い過ぎたのか、心配そうにアクアが覗き込んでくる。

 

「本当ならピロートークなのに、お互いに別の男女の名前を言い合ってるのが不思議で」

「まあ……確かに」

 

 特殊といえば、特殊な状況なのだろう。いや、それを言えば、そもそも、関係性がはっきりしない中、関係を持っているアクアとゆきも不思議なのだが。

 

「あかねはどうするかな?」

「どうだろうな?」

 

 はっきり言えば、告白するのがアクアで、その答えを持っているのはあかねだ。だから、アクアにはあかねの反応が分からない。配信される動画での告白でYESと答えるのか、NOと断るのか。引っ込み思案のあかねであれば、NOである可能性もあるが、雰囲気に流されてYESという可能性も十分に考えられる。

 

「番組で成立したカップルでも、体裁だけ整えて、数か月で別れるパターンもあるらしいよ」

「ビジネス上のカップルってやつか」

「そうそう、だから、あかねがYESっていったら、あかねとは『ビジネス上のカップル』で、私とは『内緒のカップル』っていうのはどう?」

 

 我ながら大胆な提案をしたな、と思っていた。二股を前提とした関係性だからだ。それでも、一時的に関係がなくなるよりは良いと思った。時々、世間を騒がせる不倫や浮気がなくならない理由が今では少しだけ理解できた。この火遊びのような背徳感が与える快楽はすさまじいものがある。世間一般に認められた相手がいるのに、自分が割り込むように、愛している。ダメだとは理性で分かっていても、引き返せない何かがそこにはあった。

 

「……それやると、俺って相当なクズじゃね?」

「今更でしょ?」

 

 こうして、本来であれば、撮影が終わるまでなってはいけない関係になっている。しかも、経緯からして、アクアが誘ったことは間違いない。乗った自分も相当であることも自覚しているが、少しは被害者面してもいいと思っていた。

 

 何を今さら、と不思議そうに言うゆきを後目に、「それでも、俺は──」と小さく呟いたことを聞き逃したゆきは、今しばらく『内緒のカップル』を満喫するために、強くアクアに抱き着くのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「ねぇ、彼女を抱いた後に自分の恋リア見るのってどんな気持ち?」

「いや、かなが見たいって言ったんだろ?」

 

 シーツだけ身にまとって、ベッドの上にタブレット置いて、背後からアクアに抱き着かれるような格好で『今ガチ』を鑑賞する有馬かな。

 

 そこには、一人で見るには心細い、と顔に書いてあった。であれば、見なければいいじゃないか、とアクアは思うのだが、アクアが出演しており、恋愛関係の番組であれば、興味がないわけではない。つまり、見たいが、一人では見られない、という感情が拮抗した結果、アクアを感じられる状態で見るという倒錯した状況になったわけである。

 

「だって、一人でアクアが別の女口説いているの見るの嫌だし、この状態だったらアクアが私のものだって、安心できるから」

 

 ぎゅっと後ろから回している腕を抱くかな。

 

 今までは誰かが離れていくだけだった。ただ、誰かに見てほしくて、そのために仕事がなくなっても、元天才子役と呼ばれてもしがみついてきた芸能界だ。そして、ようやく現れた自分を見てくれる存在。それが身体だけが目的だったとしても、それでも『有馬かな』を見てくれるのであれば、と思っていた頃に、その根幹となる恋愛という要素の番組。これに興味がないわけではない。だが、一方で自分の身体に魅力がないことも分かっている。もしかしたら、前と同じように誰か別の女に惹かれて離れていくかもしれない。そんな恐怖があった。

 

 だから、抱かれることは安心感にもつながっていた。まだ、アクアは自分から離れない、という安心感が。

 

「それに、こうして裸で抱き合っていると、口説いてる黒川あかねに無駄だっていう優越感あるし、鷲見ゆきには、なんだか、もしかしたら、アクアが靡くんじゃないか、っていうドキドキもあるのよね」

 

 そんなかなの言葉に思わず顔が引きつっていることにかなは気づいておらず、アクアは申し訳程度にこう口にするしかなかった。

 

「……頼むから変な性癖に目覚めないでくれよ」

「??? アクア、あんた何言ってるの?」

 

 男女関係の性癖に疎いかなは、アクアの奇妙な物言いにはてなマークを浮かべて疑問の表情をするしかなかった。

 

 

 

 

 





鷲見ゆき(敗因):今ガチのメンバーに恋愛勢がいなかった隙をつかれたこと。『内緒』『秘密』という特別感のある関係性

ピコン! クズアクアになることで黒川あかねを口説いたことで注目度が上がり、炎上フラグが消滅しました。
ピコン! 炎上フラグがなくなったことで黒川あかね自殺未遂フラグがなくなりました。
ピコン! 自殺未遂がなくなったことで、黒川あかねのアイエミュレートフラグがなくなりました。
ピコン! アイエミュレートフラグがなくなったことで、黒川あかねがカミキヒカルへの推理がなくなりました。


クズアクアの二作目です。なんで、書いてるんだろう? と思いながら、ギャグなのか、シリアスなのか分からなくなります。まあ、ギャグがほとんどですが。
とりあえず、今ガチ編はやれそう? あかねちゃんがなんだかかわいそうですね。(いつもの事)
試しにアンケートを作ってみました。参加してみてください。

感想などありましたら、いただけると非常に嬉しいです。

MEMちょの本編での枠

  • 不憫枠
  • 胃痛枠
  • 乙女面枠
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