「さいあく~、マジさいあく~」
言っていることとは裏腹にかなの声色から不機嫌な色は見えない。むしろ、上機嫌というか、楽しんでいる様子さえうかがえる。
「学校さぼって彼氏の家でヤるって、大学生でもこんな爛れた生活してないわよ」
「じゃあ、来なきゃよかったじゃん」
「それはいや」
部屋に入って、キスをして、押し倒されて、いつもの行為の後、一糸まとわぬ姿のままかなは、先にシャワーを浴びて、着替えて自室の椅子に座っているアクアの言葉を真っ向から否定した。
実に我儘だとは思う。だが、朝からアクアが参加している『今ガチ』の話が聞こえてきて、その中で『アクあか』やら『アクゆき』やらが聞こえてきて不安になっていたこと、誘われた先が珍しくアクアの部屋だったため、何をするかを薄々悟っていながらもついていってしまったのだった。
「それで、こんなことしたのは、『今ガチ』のせい?」
いつものアクアなら自分から誘うことはない。常に受け身なのが星野アクアという男だ。それが、今日に限ってはアクアから誘い、しかも、その先が自分の領域である自室だった。何か、そうする原因があると考えたのだが、そんなものは考えなくても直近の『今ガチ』―――その中でも、あの黒川あかねの所為だ、ということぐらいは容易に想像できた。
かなの言葉を聞いて、アクアは少しキョトンとした表情をして、困惑した表情で尋ねる。
「俺って、そんなに分かりやすいか?」
「もう、バレバレね」
いつもならかなを悦ばせようとしているのに、今日に限っては何かを確かめるように自分本位なこともあった。それが別に嫌というわけではない。特にいつもなら少ない甘い囁きも多く、満足感で言えば、今日のほうが大きいとさえいえる。
ただ、問題があるとすれば、他にアクアに対して今ガチのイベントで黒川あかねを気にしていることを指摘した女がいることを匂わせたことだろうか。今まで、アクアが、ほかに女がいることを匂わせたことはなかった。ここに来て明確な隙を見せたことが意外だった。いや、それほどまでに黒川あかねに対して動揺した、と見るべきだろうか。
アクアもそれに気づいたのか、気まずそうに視線をそらしながら、頭をかいていた。
幸い、かなにとってはほかに女がいる点についてはどうでもいい。自分だけの時間があれば、それでいいと満足しているからだ。もっとも、考え始めると鬱になりそうだから、というのもあるが、アクアに嫌われたくないかなとしてはその点は無視するに限るという結論に落ち着いていた。
「そんなに黒川あかねの『アイ』が気になるの?」
「……まあ」
短い返事だったが、そこに複雑な感情が見て取れた。嬉しいとも、悲しいとも、信じたくないともいえない複雑な感情。おそらく、今日の事もアクアの中の何かを整理するための時間だったのだろう。それに少しでも役立てれば、それはそれで嬉しいと思っている自分は重傷だとも思った。
「まぁ、さすが、天才役者『黒川あかね』といったところかしら」
「かなが認めるぐらいの役者なのか?」
素朴な疑問を持ったように尋ねてきたアクアにかなは驚いた。『今ガチ』の中でも黒川あかねについてそれなりに調べていたアクアだ。だから、知っていると思っていたが、そもそも調べられることは出演作品や受賞した賞についてである。だから、演劇界隈の噂については知らないのだろう。それにアクアが得意としているのはカメラ演技であり、舞台演技ではないことを思い出した。
「そう、一流の役者しか所属しないと言われる劇団ララライ。黒川あかねは若きエースと呼ばれる天才役者よ」
悔しいことにね、という言葉は口にしなかった。子供のころに共演したこともあるが、二次性徴の頃から明確に差が出てきてしまった。片や演劇の世界で天才役者と呼ばれるような存在となり、片や事務所も退所してフリーとなり『元天才子役』の肩書だけでかろうじて生き残っている存在だ。だから、相手を格上と認める言葉を口にしたら惨めになる。
「大丈夫。俺の保証だけじゃ弱いかもしれないが、かななら出来る。そのためにアイドルやるんだろ?」
「アクア……」
こうして弱ったところに寄り添って、抱きしめてくれるところがとてもずるいと思う。だが、アクアの言葉がかなの気持ちを浮上させるのは確かなのだ。自分を見ていてくれると言ってくれるような気がして、アクアの抱き寄せられる温かみが感じられることが、傍にいてくれることを実感させてくれて、だから、かなはアクアが好きだった。もう、離れることを考えられないぐらいに。
「と、ところで、そんな風に黒川あかねを意識してるってことは、『今ガチ』は黒川あかね狙いにするの?」
「……おまえなぁ」
いや、自分でも雰囲気をぶち壊したことは分かっている。だが、このまま流されると、また抱かれそうで怖かったからだ。小柄なかなにとっては連戦はつらいものがあった。いや、翌日が休みなどなら問題ないのだが、昼間からはきつかった。
アクアは気持ちを落ち着けるようにふぅ、と溜息を吐いた後で、かなから視線を外して口を開いた。
「まあ、そうだな」
「ふぅ~ん」
番組上の演出ということは理解できている。だが、理解できることと感情で納得できることは別だということを初めて知った。
「だったら、最後に……その、キスとかしたりするの?」
「流れによってはあり得る話だ」
流れによっては、などと言っているが、かなには間違いなくするという確信めいたものがあった。なにしろ、目の前にいるのはスケコマシ三太夫なのだから。黒川あかねは恋愛リアリティショー映えするような性格ではなかったが、アクアに引き上げられて目立った存在だ。しかも、鏑木が斡旋しているだけあって、顔は美人といえる。これだけの条件が整っていて乗らない男ではないことぐらいは知っている。
かなとてあのモデルをプッシュするためだけに作られた『今日あま』で主演級の役どころが貰えるほどに顔が整っている自覚があるが、どちらかというとあかねとは方向性が違う可愛い系だ。対抗ぐらいはできるだろう。
そもそも、よくよく考えれば、恋リアの番組の最終回くらいのキスがどうしたというのだろうか。かなにとってはそれはアクアを呼んだ時のあいさつ程度の話で、それよりも深いキスだって経験している。何を恐れているのか、と思うが、やはり別の女とキスしているということを見せられるというのは感情が納得できない。とはいえ、これからアクアが役者を続けるのであれば、ドラマでもキスシーンぐらいはあるかもしれないし、そもそも、それはかなとて例外ではなく―――と、半ば憂鬱になりながら考えていると、不意に顎に手をかけられ顔を持ち上げられた。
「えっ? ―――んっ」
不意打ちのキス。犯人は隣で寄り添っていたアクアしかいないのだが。キスについて考えている最中の意表をつかれたキスは痺れるような感覚がした。だが、その感覚も一瞬だ。目の前に広がっていたアクアの顔が離れると、真っすぐ見つめられていた。
「キスぐらい、いつでもしてやるよ」
「――――っ!?」
アクアの本気とも思える言葉に、顔が紅潮するのが分かったかなは、ついに耐えきれなくなって、アクアから顔を隠すように俯いたあと、シーツで身体を隠して、ベットから降り、部屋の出口に向けて駆けだした。
「シャ、シャワー借りるから!」
それだけ告げて、あらかじめ教えられていたお風呂場へと向かうのだった。その背後でアクアが呟いた「可愛い奴」という言葉は聞こえない振りをして。
※ ※ ※
黒川あかねは上機嫌だった。あのアクアの好みを聞いて、アイの演技をするようになってから、アクアが積極的にあかねと絡むようになってきたからだ。当初の目的は達しているように感じる。未だにアクアの本命としてはゆきも残っているだろうが、それでも一歩リードというところだろうか? でも、その撮影ももう少しで終了となる。少し、寂しいと思っていると撮影外でアクアが話しかけてきた。
「アイの演技―――いや、役作りか。まるで夢を、本物を見ているみたいだった」
それはあかねにとって最大の賛辞といっていい。与えられた役を理解して、咀嚼して、演技に当てはめるのはあかねの得意分野だ。実在の人物に行うのは初めてだった。だが、それが一番のターゲットであるアクアに効果的だったのだから、やはりあかねの解釈は間違っていなかった、と自信が持てる。
「あれって、どうやってるんだ?」
「えっと……大層なものじゃないんだけど」
ほかの演者が聞けば仰天するようなことを軽く口にするあかね。だが、それにツッコミを入れられる役者はここにはいなかった。
「いっぱい調べて、自分なりに解釈しているだけ。それに、独自の設定も足しちゃってるし」
「独自の設定?」
あかねはアイについて独自の解釈を行う際に独自の設定を足していた。なぜなら、相手はもはや死者。現存の映像だけではどうしても空白を埋められないからだ。だから、その空白を埋めるために独自の想像を付け加えていた。
「そう、例えば―――アイには隠し子がいるとか」
あかねにはその時のアクアの表情は見えていなかった。暗く、深淵に沈むような表情を。そして、あかねは意気揚々として自分の演技論を語る。今まで誰にも相手にされていなかったから。いや、そもそも、話す機会すらなかったから。だから、あかねにとっては幸運だったのだろう。アクアの表情を見なかったことは。自分の演技論を語り終えたあと、アクアはあかねを見ながら、苦痛に耐えるような表情をしながら問いかけてきた。
「アイの思考パターンってどのくらい分かるんだ?」
その表情に疑問を覚えながら、それでもアクアが興味を持ってくれたことが嬉しくて、あかねは考えながら回答する。
「えっと、どういう生き方をして、どういう男が好きか、まで、だいたいわかると思う……ケド?」
後で思い返せば、その答えが契機だったのだろうと理解した。
――――『今からガチ恋始めます』の最終回で、黒川あかねは星野アクアと生まれて初めてのキスをした。
※ ※ ※
「あのさ、アクアくん、これからどうする?」
『今ガチ』の打ち上げの会場で、二人きりになったあかねはアクアに問いかけた。
「どうするって? 配信された以上、しばらく彼氏彼女するしかないと思うが………」
「それはもちろん、分かってる」
そう、この仕事を受けて、最終的にカップル成立となったあかねとアクアには番組への義理としてしばらく彼氏彼女として振る舞う必要があることは分かっている。
打ち上げが始まった当初は、メムとゆきから、どうするの!? と問い詰められた時は、演劇の仕事もあるし、どうしたものか、と悩んでいたが、ノブユキの芸能人でも高校生ともなれば、彼氏の一人や二人、という発言で、少し本気になった。なにより、事務所は恋愛禁止ではないし、恋愛リアリティショーで結婚した芸能人もいるのだ。だから、あかねとアクアの組み合わせがその関係にならないとは言えない。もっとも、アクアからあかねへの告白は最後で、今まで誰もカップルが成立していない以上、演出上は受けるしかなかったというのも事実だ。
だから、アクアの心持を確認したかった。
「だから、えっと、その……この交際って、仕事? それとも……ほ、本気のやつ?」
半分、自棄になっていたと思う。言ってやった、という感情が強かった。番組の演出上、男女の関係になることを匂わせることは仕方ない。なにより、後半は半ばアクアとあかねの関係はもちろん暗黙の了解と言えるほどに編集されていた。そして、女の勘とも言うべきだろうか、アクアがあかね自身に興味を持っているような目で見ていたことも分かっている。だからこそ、この関係が仕事なのか、本気なのか確認したかった。もちろん、あかねとしては本気であることは大歓迎だが。
ドキドキと胸を高鳴らせながらアクアの回答を待つ。アクアはあかねの言葉を聞いて、考え込むような仕草をして、改めてあかねに目を合わせて口を開いた。
「どっちなんだろうな?」
「へ?」
まさか明確に回答が返ってこないとは思っていなかった。だが、呆れるあかねに対して、それを弁明するかのようにアクアがさらに言葉を続ける。
「俺があかねに対して興味を持っているのは事実だ。だけど、一方で、仕事としてあかねに告白したのも事実だ。だったら、どっちが正しいと思う?」
「えっと……」
そう言われれば、あかねとしても自信がない。告白シーンでキスを咎めなかったのは、拒めば興醒めになることが分かっていたからだ。だから、仕事として受け入れた。だが、アクアへの好意は、本物だ。ならば、受け入れたあかねの本心は? と言われれば、確かに迷うかもしれない。
「どちらにしても、これから俺たちは彼氏彼女をしなければならない」
「そうだね」
やや納得できない部分もあったが、それは事実だ。番組に参加してカップルが成立したもの同士として義理として彼氏彼女を演じる必要はあるだろう。たとえ、この交際が本物ではなかったとしても。
「だから、しばらくはお互いの気持ちを確かめる期間でいいんじゃないか?」
「お試しってこと?」
「そう」
そんな関係でいいのだろうか? とは思うが、言われてみれば、それ以上にしっくりくる関係が想像できなかった。嫌いではない、義理でもない、例えるなら友達以上、恋人未満のような曖昧な関係。だが、番組で成立した以上、正しく彼氏彼女になれるか? と問われれば疑問符がつくのは間違いない。だから、今はアクアの言い分を受け入れるしかなかった。
「差し当たっては」
そういいながら、自分のスマホを操作してあかねの前にスケジュール帳を差し出した。
「初デートの日でも決めないか?」
なお、黒川あかねにとって記念すべき初デートは彼女のテリトリーである演劇の鑑賞に決まるのだった。
※ ※ ※
「それで、あかねとは、どこまでいったの? ホテル?」
「いや、俺を何だと思ってるんだ?」
『今ガチ』が終わって、二人で話すことはなくなって、本当にただデートするだけの間柄になってしまったアクアとゆき。だが、ラブホテルでの行為の後に出てきた話題は、最終的に今ガチで恋仲になったという設定のアクアとあかねの話だった。これはゆきとしても気になるのだから仕方ない。
アクアが相当遊んでいることは分かっている。あの打ち上げでノブユキが発言した「芸能人でも彼氏の一人や二人いる」という発言の後で、思わず一人二人じゃないよな、という目でアクアを見たときにメムも同じような目をしているのを気づいたからだ。あ、これは、と察してしまうのも仕方ないだろう。メムが察したかどうかは分からないが。
つまり、『今ガチ』に参加したメンバー全員がアクアに食われたわけだ。唯一、関係がないのはあかねだけだったわけだが、それも最終回で本編で正式に結ばれた。昔の言い方をすれば、正妻と言えばいいのだろうか。だからこそ、ゆきとしてはあかねとの関係の進捗が知りたかった。もっとも、アクアの手の早さからしてみれば、初デートでホテルに誘ってもおかしくはないと思ったのだが、心外だという目で見られれば、ゆきも意外そうな目をするしかない。
「え? 女誑しのクズでしょ?」
「……合ってるが、それでもあかねは無理だ」
「へ~、アクアくんでもダメなんだ」
意外だった。ゆきが特進科に伝のある友人に聞いた限りでは、あかねは芸能科に所属してもおかしくない仕事をしておきながら、学力は特進科でも上位にあり、浮いた存在であると聞いている。つまり、男への免疫もない女ということになる。ならば、アクアにとっては容易に転がせる存在だと思っていたのだが。
「あかねは男慣れしていないから、逆に無理だ。男への警戒心が高いからな。まずは、そこを解していくところからだな」
「……似たような女の子を口説いたことあるんだ?」
「―――ノーコメント」
それが答えだった。
確かにあかねは、そういうタイプであることはゆきからアクアへ情報提供しているが、まさかこんな風に使われるとは思っていなかった。
「ちゃんと口説くんだね。もっと、アクアくんの顔の良さと口八丁で関係に持ち込むと思っていた」
「いや、クズなのは自覚しているが、ちゃんと口説いて、愛するように努力しているぞ?」
分かっている、だから質が悪いのだ、とは口にしなかった。ゆきにしても、ちゃんと口説かれた自覚はあるし、それ以上に囁かれる言葉に愛があることも自覚している。だからこそ、今の正妻であるあかねに秘密にした関係、あかねから奪うということに対してこんなにも興奮しているのだから。
だが、ゆきの沈黙はアクアに悪いように取られたようだった。
「まったく、ゆきがそこまで自覚してないとは思わなかった」
「え? あれ? アクアくん?」
気が付けば、横で寝ていたアクアが、ゆきに覆いかぶさって両手を押さえつけられていた。
「少し、俺が愛していることを分かってもらおうか」
「え? あの――――んっ!」
その日、ゆきはアクアから愛している、とただただ囁かれながら無茶苦茶にされるのだった。
※ ※ ※
「んっ……んっ……」
暗い部屋。光源はタブレットから漏れる光だけの中、かなはアクアの口を貪っていた。先ほどまでアクアとあかねのキスシーンを映していたタブレットは今では、『カップル成立』という文言を残すのみとなっていた。
いつものようにアクアに抱いてもらった後に『今ガチ』を鑑賞していたかな。だが、最後のアクアとあかねとのキスシーンの後は我慢できずにアクアを襲った。今では貪るようにアクアの唇を蹂躙していた。それはアクアに自分から離れないようにしてもらうようなものであり、自分を見て、と訴えかけるようなディープキスであった。そのかなの行動に対して、アクアは受け入れるようになされるままだった。
「ぷはっ………」
ようやく満足したのか、唇を離すかな。お互い呼吸が覚束ない中のキスで、はぁはぁ、と息を切らせながら、アクアは可愛いものを見るような目で苦笑しながらかなに問いかけた。
「満足したか?」
「……まだ」
挑発するように言われてしまえば、かなとしてはそう答えるしかない。都合、二度目のキスを敢行した。キスぐらいいつでもしてやる、と宣言したのはアクアなのだ。だから、責任は取ってもらわないといけない。
分かっている。黒川あかねとのキスなど所詮、番組の演出上の物であることは。だが、やはり感情が納得することはない。もしかしたら、あかねに靡くかもしれない。かなよりもあかねを優先することがあるかもしれない。そう考えるだけで胸が締め付けられるような気持ちになる。だから、アクアを繋ぎとめるように、あかねとのキスを上書きするように唇を重ねるのだ。自分の身体が女性として魅力が薄いこと―――もしかしたら、一部の嗜好を持つ人間にはストライクかもしれないが―――は知っている。だから、積極的に行くしかなかった。
二度目のディープキスは何秒続いただろうか。だが、アクアに一方的に唇を弄ぶのが気持ちよくて、いくらでも続けられそうだが、そのうち酸欠にもなりそうだった。だから、やや満足できたところで、名残惜しいが、口を離した。
「もういいだろう?」
「そうね」
アクアを感じることができて満足したかなは、おとなしくアクアの隣で横になる。もちろん、行為の後なのでお互いに裸だ。だが、もはや羞恥という段階は過ぎ去っていた。もっとも、かなとしてはお互いの体温を感じられるこの瞬間は好きだった。
「黒川あかねとは、付き合うの?」
「まあ、しばらくは、番組の義理もあるし、彼氏彼女するしかないだろうな」
「そう……」
かなとしても芸能人だ。番組へのしがらみがあることは理解している。もっとも、それが納得できるか、というと別の話だが。だから、言葉少なに納得するような返事を返すしかない。だが、それが分かっているのか、アクアはぎゅっとかなの身体を抱きしめる。こういうところがずるいと思った。
「大丈夫、かなとの時間は作るから」
あかねとは仕事上の関係だ、とは言わないんだな、と思った。下手に嘘を付かないところを潔く思うべきか。あるいは誤魔化しているだけのスケコマシと思うべきか。もっとも、かなから離れるという選択肢がない以上、アクアの言葉は歓迎するしかないのだろう。だから、返事としてアクアを逆にぎゅっと抱きしめた。そして、半分眠気に支配されている思考で思わずアクアに聞いてしまった。
「あんたは、そんなに女を口説いて何がしたいの?」
自分以外に女がいることは知っている。ルビーからも懇々と過去の所業を聞かされて、愛想をつかす様に説得されているし、今ガチを見ても黒川あかねと関係を義理が終わってからすぐに清算するようにも見えない。だが、一方で、ただの女を弄ぶような性根のようにも見えない。アクアの口から語られる「愛してる」という言葉に薄っぺらい嘘は感じないからだ。少なくともかなを愛していると口にする言葉に真実味は感じる。だからこそ、見捨てられないのだが。
その時、かなにとって幸運だったのか、あるいは不運だったのか分からない。だが、アクアもかなと同じく半分眠気に意識を支配されていたのだろう。寝入る直前のうわ言のように言葉が呟かれた。
「――――殺したくなるほどの愛ってなんだろうな?」
それだけ呟いてアクアは目をつむって、眠ってしまう。それに続く様にかなも眠りに就こうとしていた。だが、意識が落ちる直前、アクアの問いについて思った。
―――なんだ、簡単じゃない。その愛を永遠にしたいからよ。
原作を読んでいるとゆきとあかねは同じ学校で芸能科と進学科で異なる感じなので、情報源としてます。
あと、最後のかなちゃんの答えは、まあ、愛に飢えている人間だからこその答えでしょうか? 愛しているの絶頂で思い出を止める、みたいな感じです。
思い出は永遠に、のような感想だと思ってください。
……ここのアクアくん刺されないといいですが。
次回は、アクア君の女漁りから外れてルビーちゃんの苦労物語になります。
感想などありましたら、いただけると非常に嬉しいです。