愛を探す愛久愛海   作:天凪

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ジャパンアイドルフェス編①

 

 

 

「はぁ~、今ガチ終わってもうたなぁ」

 

 ルビーの隣に座っている胸がバカでかい寿みなみが、懐かしむように呟いていた。『今ガチ』―――ルビーからしてみれば、思い出したくない番組の名前だった。結局、あの番組は出演したアクアに対して餌を与えたようなものだからだ。アクアが黒川あかねを選び、MEMちょとも関係があった以上、残りの鷲見ゆきも怪しいものだ、とルビーは見立てを立てていた。あの番組に出演した男性陣―――ノブユキとケンゴがかわいそうだった。

 

「なぁなぁ、兄が番組でキスしてたのどういう気持ちなん?」

「う~ん、……今更かなぁ」

 

 みなみの問いに対して、ルビーは遠い目をしながら答えることしかできない。キスなど本当に今更の話なのだから。

 

「い、今更なん?」

 

 てっきり、気まずいという類の回答があると思っていたのだろう。予想に反して諦めたように遠い目をしながら答えられれば、驚きもする。そんな、みなみにアクアがどんな人間か警告を与えなければならない、と思ってキス程度が今さらと思えるエピソードを教えなければ、とある種の使命感に駆られたルビーが口を開く。

 

「私が用事がドタキャンされて、伝えていた時間よりも早く帰宅した時、洗面台に入ったら、風呂場から『アクアくん? もう一回は無理だからね~』って、数時間前に教室で別れた友達の声が聞こえたときの話する?」

「ひゃぁ~!? あっ、でも、それなら、ルビーがいつも言ってるクズやなくて一人だけなんやからまともやない?」

「はっ! その後、一か月、ランダムで帰宅時間をずらして、一人は玄関で顔を合わせて、一人はディープなキスをやってる最中に帰宅して、一人はシーツでアクアの部屋から出てきた話する? ちなみに、全員違う女の子だからね!」

「……ルビーのお兄さん、本当に実在しとる?」

「―――残念ながら」

 

 みなみの言葉を鼻で笑ったルビーはさらにアクアのクズとなり得る事案を話したのだが、どうやらまともに信じてもらえなかったらしい。ルビーとしてもとても信じられないことであるが、事実なのだから仕方ない。いや、信じたくなかった事実というべきだろうか。

 

 それでも妹として世話を焼いているのは、クズなだけではなく、兄として優しい一面もあるからだ。朝食やお弁当をいつも作ってくれたり、定期考査前には勉強を教えてくれたり、率先して重いものは持ってくれたりなど、助けてもらってもいる。だから、こうして苦言を呈して、妹としてやっているのだ。身内の恥だからというのも多々あるのだが。

 

「だから、みなみちゃん、絶対お兄ちゃんに近づいちゃだめだからね」

 

 入学式の日に友人になったみなみだったが、放課後にアクアと待ち合わせしていた時には会わせないためにその日は教室で別れたのだ。もっとも、予期せぬ出会いはあったのだが―――

 

「『今ガチ』の話? ……いや、アクアさんかな?」

「あ、不知火さん。知ってるんだ」

 

 席が近かったこともあって、ルビーとみなみの会話が聞こえていたのだろう。国民的美少女といわれ、ルビーの所属する芸能科の中でも一番の有名人が話しかけてきた。しかも、『今ガチ』とアクアを認識した状態で。

 

「知り合いが出ているわけだし、面白かったよ。イケメン、美女だらけでほんと目の保養だった」

「「目の保養!?」」

 

 トップスターらしからぬ物言いに驚くルビーとみなみ。しかも、そのまま言葉を続けて「視力が0.5ぐらいよくなった」とボケてくるのだから、テレビのキャラクターと実在の人物は分からないものだ、とルビーとみなみは認識を新たにする。

 

「個人的にはMEMちょの時々アクアさんに見せた乙女面が気に入った。最後になんでMEMちょに告白しなかったのか不思議に思うぐらい」

 

 その言葉にぎくっ! となってしまうのはルビーだ。まさか、その時点ですでに男女の関係があり、告白など問題なかったとは言えない。

 

「それに、鷲見ゆきと番組をコントロールしているようにも見えた。……余計に気になる」

「えっ!? 不知火さん。それは……」

 

 ちょっと、いや、かなりまずいとルビーは思う。アクアに興味を持つこと自体をやめてほしいと思うぐらいである。

 

「どちらにしても、あの黒川あかねと鷲見ゆきのアクアさんがどちらに転ぶかは最後まで分からなかったから、超ドキドキした。多分、皆もそうなんじゃないかな」

 

 確かに、ネットなどの評判を見てみれば、陽キャのアクアが同じく陽キャと見られる鷲見ゆきに惹かれる様と、演劇オタクとして顔はよくとも陰キャのようなイメージを持たれた黒川あかねがアピールする様は、どちらにアクアが惹かれるかで胸を高鳴らせただろう。最後にあかねがアクアの好みのタイプとして上げられた『アイ』の演技をするまでは。陰キャのイメージを一気に払拭した黒川あかねが最後のアピールで成功した形で『今ガチ』は幕を閉じた印象となってしまった。

 

「アクア兄さん、普通科のほうでもかなりモテてるそうやよ」

「芸能科でも何人か気になる子がいるみたい。まあ、表向き彼女持ちだからしばらく静観するだろうけど」

 

 二人の噂で拾った情報を基にして、それが事実かどうかを確認するかのようにルビーのほうに視線を向けてきた。

 

「……た、多分、一般生徒は大丈夫……だと思いたい」

 

 正直、ルビーにも予想ができなかった。少なくとも、確定しているのは、かなとメムとあかね、あと予備として鷲見ゆきとした場合、これで関係があるのは四人だ。一度アクアに聞いたところ、さすがに管理できるのは五人が限界だと言っていた。ならば、あと一人はこの学校から犠牲者がでもおかしくない。

 

「あ、あの……二人とも、本当にお兄ちゃんは危険だから、近づいちゃだめだからね!」

 

 一般科なのに芸能科の女に手を出す男の妹として目立ちたくないルビーとしては、少なくとも友人と言えるほど近いみなみ、芸能科の一年生で一番有名なフリルが近づいた際にどうなるか分からない懸念から忠告する。

 

 だが、ルビーは気づいていなかった。二人の目に宿っていたのは好奇心という名のどうにもできない毒であることに。アクアの評判とルビーが語る彼の姿。どちらが本当なのか、あるいは、彼に触れた際に本当にルビーが危惧するような状態になってしまうのか。怖いもの見たさにも近い好奇心が彼女たちに宿るのも無理もないことだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 ルビーにとってはメムが加入した経緯は非常に複雑なものがあるが、それでもメムの加入によって、今までは素人のような―――実際素人なのだが―――動画だったB小町のチャンネルに投稿される動画のクオリティが上がり、さらにメムのチャンネルから導線を作成したことで、登録者数も一万人を超えた。自己紹介動画やユニットで雑談しているものしかないのにだ。

 

 このままPVなどを投稿したいというメムの希望だったが、残念ながら新曲は未だ作成中である。もっとも、ルビーたちのユニット名が『B小町』である以上、裏技が存在しているのだが。かなは、分かっていながら黙っていたが、メムはそれを見逃さず、今日も今日とて、B小町の曲を使ったダンスの振り入れをダンススタジオで練習するのだった。

 

「お疲れ様、アンタたちもしっかりケアして帰りなさいよ」

 

 そう言い残して颯爽とダンススタジオを後にするかな。その声色からも上機嫌だということが手に取るように分かる。

 

「なんか、先輩、機嫌よかったね」

「……まぁ、理由は分かるけどね」

 

 もはやこのメンバーでは隠す必要もないと思っているのだろう。かなが上機嫌な理由は言葉にせずともわかる。間違いなくアクアがかなの家に行くのだろう。何をしに? とは考えないようにする。いや、メンタルケアと考えよう。それでルビーの心労は少なくとも収まる。

 

「あれ? でも、お兄ちゃん来てなくない?」

 

 いつもであれば、アクアがダンススタジオで待ち合わせてスポーツドリンクなどの差し入れを持ってきて、一緒に帰宅していた―――マンションに入る際は時間差で入る―――のだが、今日に限ってアクアの姿が見えない。何気に、終わった後のアイスやスポーツドリンクの差し入れは楽しみにしていたのだが。

 

「う~ん、多分だけど……合鍵渡したんじゃないかな?」

「へ?」

「この間、アクたんと帰る日に事務所で鍵を見てにやにやしてたし……」

 

 それを渡したとなれば、納得できる。合鍵を渡すなど何を考えているのだ? とルビーは思ったが、高校生で合鍵を持っているという常識を除けば、まさか直接家に上がりこむとも考えないし、そこのマンションの住人であるとも否定はできない。なによりもミヤコのアイドルの彼氏を作った際の注意事項に同じマンションに住むなどもあった以上、間違った対応とも言えないのが口惜しい。

 

「先輩、嵌ってるなぁ」

 

 ルビーとしては、その沼から引きずり出そうとしているのに、当の本人は嬉々として沈んでいくのだからやるせない。

 

「メムちょは、これでいいの?」

「ん? なにが?」

「その……お兄ちゃんと先輩があからさまに会ってるの見て」

 

 認めるのは癪だが、アクアがかなとメムの両方と関係があるのは分かっている。

 

 あのメムを勧誘した後、わざと三人が揃っているところで呼び出した際のまだ残っていたかなとメムを見て、珍しく引きつるような笑みでひどく動揺した表情は滑稽だった。三人で笑ってやったが。そして、その後、ルビーは当然のようにアクアを正座させ、説教した。なお、現状が二人だけなのか確信は持てなかった。

 

「う~ん、そうだね」

 

 顎に人差し指を当てて考えるメム。ただ、反射的に何かを言い返さないところを見ると単純に嫉妬しているようには見えなかった。もっとも、それは、あのメンバー紹介の後で、キャットファイトに陥らずに、一緒にご飯を食べに行って平和だったことからも分かる。

 

 だが、それがルビーにとっては謎なのだ。普通であれば、付き合っている男に別の女がいれば、嫉妬もするだろうし、問い詰めるだろう、とルビーは思っている。というか、中学生時代は酷かった。何度勘弁してくれ、と思ったことか。とはいえ、女癖の悪さを除けば優しく、頼りになる双子の兄ともなれば見捨てられないのも事実だったのだが。

 

「そりゃね、アクたんにはお世話になってるよ。動画の編集手伝ってもらったり、晩御飯作ってもらったり、部屋の掃除や洗濯もしてくれたりしてさ」

「がっつり依存してんな」

 

 お世話されてるのレベルが段違いに世話を焼かれていて、いつもの溺愛のドロドロコースか、と呆れるルビー。だが、アクアとの生活を思い出しているメムはルビーの表情には気づいていなかった。

 

「それに、最近は、マッサージもしてくれるし」

「マッサージ?」

 

 メムの言葉に不思議そうに問い返すルビー。その言葉からは自分はそんなことやっていないのに、なんで? というのが正直な感想だ。だが、ルビーのその問いにメムは真剣な表情をして回答する。

 

「ルビー、25の女が16、17と同じ体力で動いたら、体にガタがでるの。若いころの身体とは全然違うんだよ」

「あっ、はい」

 

 あまりの迫力に頷くしかないルビー。

 

「まあ、色々言ったけど、やっぱり私は大人の女だからね。割り切れてるのさ」

 

 ふふん、とドヤ顔で言うメムにルビーは一縷の望みを見た。

 

「やった! だったら、お兄ちゃんがメムちょのところに行かなくても大丈夫だよね! 動画の編集だって苺プロでやればいいし、料理だって食べていけばいいよ。あっ、部屋の片づけは自分でやってね? 大丈夫! 寂しさなんてアイドルやってたらすぐ忘れられるから!」

 

 先日の話だと、結局、メムは一人が寂しいところにアクアに付け込まれたのだ。つまり、アイドルをやって、ファンに囲まれて、その寂しさを感じさせないぐらいに忙しくなれば、メムがアクアに構う必要はなくなる。つまり、メムはアクアから離れられ、ルビーは心労が一つ減ることになる。そう思っていた。

 

「えっと……え? いや、その……」

「なに? その煮え切らない感じ……?」

 

 嫌な予感がした。「割り切れてるのさ」と宣言した大人の女性はそこにはいなかった。余計なこと言ったな、と気まずさを覚えている女だけがそこにいた。

 

「……メムちょ? 大丈夫だよね。このままB小町やってれば、お兄ちゃんから卒業できるよね!?」

「あ~、いや、その……」

 

 つんつんと両手の人差し指を突いていたメムだったが、やがて自棄になったのか、ルビーに改めて向き直った。

 

「仕方ないんだよ! 確かにアイドルやってたら寂しさとかは減るかもしれないけど、男―――しかも、アクたんみたいなイケメンから愛を囁かれたり、求められることでしか感じられないものがあるんだよ! もう私、アラサーだよ!? 今のこの時間を逃したら、もう人生で二度とないかもしれないんだよ!」

 

 ―――ああ、うん、似たようなこと聞いたことあるよ。ってか、べた惚れじゃん。

 

 アクアが中学生時代に口説いたのは同級生だけではない。当然のように大人も含まれる。だから、尾行して、別れさせるのに苦労したものだ。もっとも、最後は『通報しますよ』の一言でトドメをさせたのだが。その中で、最後はアクアが説得して、別れまで持って行ったのは未だに納得していない。まるで自分が悪者になったようで。

 

 だが、今回は、同じユニットのメンバーだ。簡単に通報しますよ、とは言えない。むしろ、それを言った瞬間に折角結成したアイドルユニットは解散してしまう。だから、ルビーから言えることはこれだけだった。

 

「お願いだから、絶対に捕まらないでね」

「あっ、はい。分かってます」

 

 ぽん、と肩に手を置いて真剣に忠告したルビーに対して、メムは恐縮した態度で頷くしかないのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 黒川あかねは、人生初めてのデートに半分浮かれながら、半分緊張しながら待ち合わせ場所に向かっていた。ぎりぎりまで、今日着ていく服を選びながら髪型を調整していたのがまずかったのか、待ち合わせの時間ギリギリになりそうだった。だが、何とか遅刻せずに待ち合わせ場所につきそうだ、と安堵した途端に目にしたのは、待ち合わせ場所で女性と話すアクアの姿だった。

 

「(え? その人誰?)」

 

 そう思いながら、固まってしまったが、足を止めたあかねにアクアが気づいたのか、あかねに視線を合わせた後、一言、二言、話していた女性に何かを告げて、笑顔で別れを告げていた。そのまま、アクアがあかねのほうへ近づいてきた。

 

「あかね! よかった。ぎりぎりだったから、何かあったのかと思った」

「う、うん。ごめんなさい。準備してたらギリギリになっちゃった」

「そっか、俺とのデート、楽しみにしてくれてたんだな。うん、良く似合ってると思う」

 

 上から下まで見られた後に、笑顔で告げられた言葉は、初デートで不安に思っていたあかねの心を払拭させた。だからだろう、いつもなら聞けずに流していただろう先ほどの女性について聞けたのは。

 

「あっ、あれは―――まあ、逆ナンってやつだな。俺が時計ばかり見てたから、すっぽかされたと勘違いしたみたいだ」

「あっ、ご、ごめんなさい。私がもっと早く来ていたら」

 

 まさかそんな理由とは思わなかったあかねは思わず頭を下げる。ある程度で妥協して、早めに家を出ていれば、アクアを問い詰めるようなことはなかったと思うと心苦しかった。だが、そんなあかねを見てアクアはクスリと苦笑した。

 

「真面目だな。そんなこともある。それに、今日はあかねとデートの約束だからな。待ち合わせの時間に来なくても何時間だって待ったさ」

 

 まるで少女漫画のような言葉。だが、それが似合うほどにアクアの顔は整っていて、デートの経験がないあかねからしてみれば、猛毒に近かった。

 

「それじゃ行くか」

「う、うん」

 

 基本的に誰かと遊びに行くという経験が少ないあかねからしてみれば、こうしてデートで歩調を合わせるということが難しかった。だから、行くぞと言われても後ろから付いていくことしかできない。そんな不器用なあかねを見てアクアが、やや呆れたような表情をしてあかねの手を取った。

 

「え?」

 

 突然の行動に驚いたあかねが声を上げるが、隣には苦笑するアクアがいて口を開いた。

 

「デートなんだ。手を握るぐらいは許してくれるだろう?」

 

 そんな風に言われれば、初めてで何も分からないあかねとしては何も言えず、アクアに従うしかなく、そのまま今日のデートの目的である演劇の舞台へと足を進めるのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「ど、どうだったかな?」

「うん、想像の10倍は面白かったな」

 

 演劇の舞台が終わって、お互いに静かに話せるように喫茶店に足を運んだ。そこで半分ドキドキ、半分ワクワクしながらあかねはアクアに演劇舞台の感想を聞いたのだが、思った通りの感想が返ってきて上機嫌になっていた。『今ガチ』で話を聞いたときは、アクアは映像演技の人だとは聞いていた。だから、舞台演技を楽しめるか不安だったのだ。

 

「でしょ~! アクアくんなら、演劇の良さ分かってくれると思ってた! よかったな~!」

 

 自分が好きな物が受け入れられるという感覚は初めてだった。いや、確かに『今ガチ』の中でも演劇についてはアクアとも共感できていたが、あくまでもそれはあかねの演技についてだ。こうして、演劇という舞台についてではない。もともと、あまり不安には思っていなかったが実際にこうして受け入れられると喜びもひとしおだった。

 

 そこから思わず『今ガチ』の演劇オタクと称された人物像にそん色ない程度にアクアに今の舞台の凄いところについて語ってしまう。『今ガチ』のときから思っていたが、アクアにはうまく相手を乗せて気持ちよく話をさせるスキルがあるのだと改めて思った。自分が好きなものについて嫌な顔せずに、笑顔で聞いてくれる、それだけでも充足感はあるものだとあかねは改めて思った。

 

「それにしても、意外だったな」

「え? 何が?」

 

 一通りあかねが語った後、アクアが今度は逆にあかねに聞くように口を開いた。

 

「あかねと見るなら、てっきり劇団ララライの舞台を選ぶと思っていた」

「あ~、そうだね。でも、そうするとアクアくんと見られないよ」

「そうだな、劇団ララライの若きエースだもんな」

 

 揶揄うように笑うアクア。もう! と膨れて答えるが、アクアの言葉が正解なのだ。劇団ララライの舞台を見るとなれば、間違いなくあかねが出演する。ならば、観客席からアクアと一緒に見ることはないだろう。

 

「劇団ララライの団員を見たんだが、団員は意外と若いんだな」

「う、うん、そうだね。やっぱり、演劇はお金にならない部分もあるから……」

 

 言いながら口に苦いものがあった。劇団ララライのメンバーは30歳以下が多い。それ以上になると演劇から足を洗って本業一本になるパターンも多い。今後、30歳を超えて続けられる団員は、おそらく映像演技と二足の草鞋を履くことになるだろう。

 

「30歳以上の団員はいないのか?」

「う~ん、演出の金田一さんぐらいかな……」

「辞めた団員がどうなってるのか分かるか?」

「う~ん、やっぱり金田一さんなら分かると思うけど……え? アクアくん、もしかして、演劇に興味があるの?」

 

 アクアも映像演技で仕事としてやっている。そこで演劇に興味があるとすれば、確かに人生設計として情報は必要だろう。だから、あかねはアクアが演劇に興味があると勘違いした。

 

「……そうだな、あかねと同じ舞台に立てるのも面白いと思った。それに映像演技と違って、一発勝負なところがあるからな。また違う演技が磨けるとも思う」

「そうなんだよ! 演劇って毎回、同じ演技じゃなくてアドリブがあってね―――」

 

 そこから、また演劇の魅力について語るあかね。結局、演劇の魅力について語りつくしたあかねは、アクアの劇団ララライへの新規加入について金田一に聞いてみるとして、話を終わらせた。

 

 そして、デートからの帰り道、あかねは、アクアと恋人つなぎで指を絡ませ、手を繋いで帰宅するのが本日の最大の成果だった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「はははは! 自分で口説いた女をアイドルにするなんて!」

「言うな……」

 

 いつものデートの後のラブホテルで行為の後、アクアから話を聞いたゆきが爆笑していた。

 

 話の始まりは、ピロートークでゆきがメムのアイドルデビューとして動画に出ていたことを聞いたことから始まる。そこから、妹ではないもう一人のメンバーも口説いたんでしょ? と冗談半分にゆきが尋ねたところから様子がおかしくなった。まさか、顔を背けてゆきの問いに答えずに、口説いた後にアイドルになったんだ、と言い訳が返ってくるなど予想できるはずもない。

 

「う~ん、メムも大変だね。こんな姉妹ユニットでアイドルデビューなんて」

「いや、だからなんでそれを知ってる?」

 

 これも冗談だったのだが、まさか、双子の妹にバレた後に焦点が合わない目で乾いた笑みで「あはは、お兄ちゃんのおかげで姉妹ユニットでアイドルデビューできそうだよ」と言われたとは夢にも思わなかった。同じような感性を持っているとは!? と驚愕したものだが、発案者はメムと知って納得した。実に配信者らしい冗談だ、と。ちなみに、この手の下ネタは女の子の中では嗜みだ。芸能科となれば、誰が誰と遊んだなど日常茶飯事なのだから。

 

「いや~、だったら、私もB小町でアイドルデビューできるのかな?」

「勘弁してくれ……」

 

 最初からアイドルなどになる理由はないが、ここでアクアに口説かれたものとして手を上げないのは、間違っていると思って口にしたのだが、心底これ以上の混乱―――いや、妹からの侮蔑がきついのか、本当に嫌そうな顔をしてアクアが答えた。

 

「(いや、むやみに口説くアクアくんが悪いんじゃない?)」

 

 もしも、アクアに口説かれなければ、ゆきはおそらくノブユキと交際していたかもしれない。もっとも現状では全く想像もできないことであるが。

 

 アイドルデビューしたメムと有馬かなと『今ガチ』で公的に結ばれたあかねの三名を出し抜いてアクアからの寵愛を受けないといけない。いや、現状でも愛してもらっている自覚はあるのだが、一番であるとの自覚はない。それは、誰もを平等に愛していると言えるが、同時に優劣つけられるほどの魅力がないともいえる。

 

 そんな中で、アイドルデビューするメムとかな、『今ガチ』で同じ現場にいたあかねを出し抜いて愛されている今が、非常に興奮できるのだが。

 

「ねぇ、前にも聞いたと思うけど、アクア君は、どうしてそんなに女の子を愛してるの?」

 

 以前のように初恋の人を忘れるためならば、一人一人試していけばいいだけだ。だが、アクアはあくまで効率的に何かを確かめるように誰かを愛している。ならば、前回のは理由の一部で何か別の理由があるのではないか、と考えてしまう。

 

「……アイを知りたい」

「愛? それは、女の子を好きになるだけじゃダメなの?」

 

 まるで心のないロボットのような返事をするアクアに対して疑問に思う。行為の最中に囁かれる「愛している」という言葉は空虚ではなく、デートの最中も気遣ってもらっており、単純な好きよりも愛を感じている。一昔前の言葉ではないが、愛は真心だという言葉を信じるのであれば、アクアはゆきを愛していると言えるし、ゆきはアクアを愛していると言えるだろう。たとえ、アクアから何番目だとしても。

 

「いや、俺が知りたいのは―――殺したくなるような愛だ」

「あはは、変なこと知りたいんだね。死んじゃったらおしまいじゃない」

 

 笑いながら答えるゆきに対して、苦笑しながらそうだよな、と諦めたような笑みを浮かべるアクア。だが、その一方でゆきは思っていた。

 

 ―――ああ、アクアくんに分かるわけないじゃん。

 

 アクアが探す愛についてゆきは一つの答えを持っていた。

 

 ―――愛している人を奪えないから殺すんだよ、アクアくん。

 

 おそらく、今まで狙った獲物を奪えなかったことはないのだろう。だから、その答えにたどり着かない。アクアがその答えに気づくのはいつになるのだろうな? とゆきは思うのだった。

 

 

 

 





ルビー余計な一言で、フリルとみなみにアクアへの興味を持たせる。
かなちゃん、合鍵を渡して、メム、意外とべた惚れ疑惑。
あかねは鏑木からの情報で劇団ララライの情報源にする気満々・・・
ゆきちゃん、物騒な愛を知っている。

以上が今回の情報でした! 次回はJIF準備編でしょうかね?

 感想などありましたら、いただけると非常に嬉しいです。
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