ドラキュラ?いいえ、ドラキュリアです   作:花の右人

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去年の9月の『サイレントヒルf』に続いて今年も9月には『サイレントヒル・タウンフォール』。
そして今月には、『Grimoire of Souls』に続く悪魔城ドラキュラシリーズの最新作に『ベルモンドカース』が出て、KONAMIの気合が感じられます(露骨な話題作り)。

お待たせしました24話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。


24. お母さんの味(意味深)

 悪魔城・闘技場

 

 ローマのコロッセオを彷彿とさせる巨大な闘技場。その砂場に3人の男女と少女が向かい合っていた。

 与一とブルース、ヴァンパイアとなった駆藤。そして、令裡の4人である。

 

「・・・・・・帰ってきて早々、こんなところに呼び出してなんのつもりだ?」

 

 訝しげに問いかける駆藤に令裡は「フン」と鼻を鳴らす。おもむろに右手を前に伸ばすとコウモリが1匹飛んできて、令裡の指先に止まった。

 

「あなたがヴァンパイアになったとこの子たちから聞いて、気になって見に来たのよ」

 

 令裡の言葉に便乗するように、コウモリがキィと鳴く。

 

「・・・・・・それにしてもなかなか、いい体になったのね」

 

 まじまじと駆藤の女体を足から頭までじっくりと、舐め回すように見る令裡。ペットは飼い主(ドラキュリア)に似るとはこのことである。

 

「用がないなら帰るぞ」

 

 見透かすような目線に顔をしかめ、思わず胸を腕で隠す駆藤。令裡はそんな駆藤の様子を見てクスクスと笑う。

 

「用ならあるわよ。あなた、弧里板区で勇敢に暴れたそうじゃない」

 

 笑いながら言う令裡に対し、駆藤の表情が固まる。

 

「ドラキュリア様からも聞いたわよ。200人以上殺したそうね。意識が曖昧な状態だったにも関わらず、大したものね」

 

「・・・・・・何が言いたい?」

 

 駆藤が眉間にしわを寄せて問うと、令裡は笑顔から真顔になる。身に纏う気配が鋭利なものへと変わった。コウモリが怯えたような悲鳴を上げて飛び立つ。

 

「組手よ。その力がどれほどのものか、見せてみなさい」

 

 1歩片足を引き、前傾姿勢に構える令裡。

 

「急に何を言ってる!そんなこと「いいだろう」えっ?」

 

 与一の言葉を遮り、駆藤は前に出た。

 

「俺は今の自分の力ががどれほどのものか、把握できていない。胸を貸すと言うなら、試させてもらおう」

 

 身構える駆藤を見て令裡はニヤリと笑い、両手を広げる。

 

「来なさい。先手は譲ってあげるわ」

 

 おいでおいでと手招きする令裡。バカにしたような笑みを口元に浮かべてるが、目はジッと駆藤を捉えたままだ。その目は獲物に狙いを定め、飛びかかろうとする肉食獣を彷彿とさせる。

 

 駆藤は拳を固く握り、開く。数cmほど爪が伸びる。歯を食いしばり、鋭く尖った牙を見せる。

 

「はあああぁぁぁッッッ!!!」

 

 砂を撒き上げる勢いで駆け出した。オリンピック選手をあっという間に置き去りにするほどの速さだ。駆藤は一気に距離を詰め、令裡の顔目がけて拳を繰り出した。

 

「遅いわよ」

 

 首を傾けて左ストレートを躱す。半歩足を引いて右フックを避ける。上体を後ろに反らして回し蹴りを通過させる。

 拳に蹴りも加えたコンビネーションをいくつも繰り出すが、どれも最低限の動きで回避された。

 

 令裡は高く舞い上がる。

 

「逃がすかっ!!」

 

 駆藤は地面を蹴って高く跳び、追撃する。拳を振りかぶり、ジャンプの勢いを乗せたアッパーを令裡の顎めがけて繰り出した。

 

「甘い」

 

 令裡はわずかに首を傾けて拳を避けると、手首と伸びた肘を掴んで駆藤の体ごと全身を縦に回転させた。

 

「うおおおぉぉぉッッッ!!??」

 

 駆藤が腕を取られたと認識した瞬間、凄まじい風圧が襲いかかった。

 

「落ちなさい」

 

 令裡は腕を放した。重力に加え、遠心力による加速。駆藤の体は隕石のように地面に叩きつけられる。駆藤を中心に地面が割れ、砂煙が辺り一面に広がった。

 

「ぐふぅ・・・・・・っ!!」

 

 大の字でうめく駆藤。全身の骨にヒビが入ったかと思うほどの衝撃だ。ヴァンパイアになる以前の肉体だったら、赤いシミになって地面に広がっていただろう。

 それでも軋む体に鞭を打ち、追撃を回避しようと起き上がった。すると、視界を覆っていた砂煙が一瞬で吹き飛ばされた。

 

「なっ!!」

 

 ヴァンパイアになって超人的な動体視力を得た駆藤の目は、何が起きたのか捉えた。まず、見えたのは黒いレースのパンツ。次に、シミ1つない白魚のような肌の扇情的な長い足。そして、迫りくる靴の裏。

 

「くッ!」

 

 駆藤はすぐさま体を横に転がす。令裡が駆藤の頭があった位置に着地すると、爆発が起きたかのような衝撃が巻き起こる。その余波に駆藤は闘技場の壁に背中から叩きつけられた。

 

「リーダー!!前ッ!!」

 

 うめく暇もなくブルースの声で反射的に顔を上げると、令裡が砂煙を巻き上げながら迫ってくる。弓を引くように腕を引くと勢いを乗せて、鋭い爪が伸びた指で貫手で繰り出した。

 

「まだだッ!!」

 

 首目がけて迫る貫手をとっさに掴み、爪を突き立てる。凄まじい衝突音を響かせ、駆藤と令裡を中心に闘技場の壁に亀裂が走り、クレーターが形成された。駆藤の体がめり込む。しかし、それでも令裡は止まらない。

 

「ぐぅっ!このバカ力が・・・・・・!!」

 

 両手で掴み、爪を突き立てているにも関わらず、令裡は涼しい顔でゆっくりと首に向けて腕を、爪を押し進める。

 同じヴァンパイアでも力の差は大きい。令裡は余裕を見せつけたいのか、使っているのは片手の腕力だけだ。

 

「あなた、弱いわね」

 

「期待はずれね」と言わんばかりの顔で令裡は腕に力を込める。遂にその爪が喉に触れ、プツリと皮膚が切れて血が流れた。

 

 

「はいはい、そこまでどす」

 

 

 闘技場にはんなり言葉が響いた。

 令裡と駆藤の横から白魚のような細腕が伸び、令裡の手首を掴んで駆藤から引き離した。

 

「望月・・・・・・さん?」

 

 そこには白いマタニティパジャマに身を包み、空いてる左手に大きなバスケットを持った妊婦が立っていた

 額を出した茶色がかったミディアムボブ。細く短い眉。赤い瞳の吊り目。外現年齢は20代後半から30代前半。今の駆藤より少し年下に見える美しい女性────第2の眷属、望月桐だ。

 

「令裡ちゃんは元気があってええなぁ。でも、そのへんにしとき。これ以上はあかんよ」

 

 望月はニコニコと笑っているが、有無を言わせない圧が滲み出ていた。

 

「・・・・・・・・・わかりました」

 

 令裡は渋々と爪が縮める。望月は令裡を解放して前に出ると、駆藤に手を差し伸べた。

 

「さ、手ぇ出し」

 

「・・・・・・お構いなく。1人で立てる」

 

 壁にもたれかかりながら立ち上がる。

 

「ああもう、フラフラやないの。しっかりし」

 

 令裡にバスケットを押しつけると望月は駆藤を支え、体についた砂埃をはたき落とす。

 

「とりあえず、客席に上がって食事にしましょか。そこのお2人さんもいっしょに来てや」

 

 突然声をかけられで身構えた与一とブルースを見て望月はクスクスと笑い、駆藤に肩を貸して客席へフワリと舞い上がった。

 

 

 

 ──────────────────────────

 

 

 

「はい。おしぼりどす」

 

 観客席に座ると妊婦────望月は俺達に手を拭くように促し、バスケットからスプーンと紙ボウル、ラップに包まれたサンドイッチを取り出して全員に配る。

 

「ええお時間にぎょうさん動いておなかが空いたやろ?おあがりやす」

 

 バスケットからお玉と大きなスープジャーを取り出し、ボウルに湯気が立つ赤い液体が注いだ。一瞬、血かと思ったが違う。大量の具が入ったトマトスープだった。そしてラップの包みには、卵とツナのサンドイッチが2切れずつ入っている。

 

「さ、おあがり」

 

 全員の紙ボウルにスープを注いで、望月はほほ笑みながら促す。

 

「・・・・・・いただきます」

 

 最初に口をつけたのは与一だった。卵サンドを一口かじり、咀嚼して飲み込むと花が開いたような笑顔を見せた。

 

「おいしい・・・・・・2人も食べてみてよ」

 

 勧められるまま恐る恐るサンドイッチを手に取り、強化された鼻で匂いを嗅ぐ。パンとマヨネーズと卵と玉ねぎのうまそうな匂い。

 一口かじると、バランスのいい味が口の中に広がった。柔らかい食パンの香り、シャキシャキの玉ねぎの辛味、歯ごたえのあるきゅうりの爽やかな味、卵の濃厚なうま味、マヨネーズの酸味と隠し味に入れたのか仄かに感じる醤油の香りがマッチしている。

 

「うまい・・・・・・」

 

 毒が入っているのかと警戒したのがバカバカしいくらいだ。安全だとわかったブルースも一口食べて表情を少し緩めた。

 トマトスープも絶品で、鶏肉の旨味とトマトの酸味と他の野菜の甘味が絶妙にマッチしている、癖もなくいくらでも飲める味付けだ。与一も気に入ったのか、おかわりして3杯も飲んだ。病弱で食が細いからいいことだ。

 

 黙々とサンドイッチとトマトスープに舌鼓を打つ。令裡はよほど腹が減ってたのか、すぐに受け取ったサンドイッチを平らげて4つも包みを空にし、スープを7杯おかわりした。見かけによらず大食いだ。

 サンドイッチを2つ、スープを6杯もおかわりした俺が言えたことではないがな。

 

 サンドイッチを頬張りながらちらりと望月を見る。手に持ったサンドイッチは縦向きで、歯形が目立たないように食べる姿はとても品がある。おそらく、四ノ森さんと同じ弧里板区のどこかいい家の出身なのだろう。

 

「望月さん、ごちそう様でした。わざわざ俺たちの分まで用意してくれたこと、心より感謝する」

 

「とてもおいしかったです。ごちそう様でした 」

 

「ごちそう様です。ありがとう」

 

 ほどよく腹が膨れて、俺たちはゴミをビニール袋にまとめる妊婦に頭を下げる。身重の女性に食事を作ってもらって申し訳ない。そんな俺たちに望月さんは「よしてや」と手を向ける。

 

「気軽に「桐先生」って呼んでええよ。それに、お礼ならドラキュリア様に言うて。お弁当作ったんはドラキュリア様どす」

 

「私は運んだだけや」と望月さん、いや、桐先生は言う。

 それよりも、ドラキュリアがこの弁当を?とても家庭的なタイプに見えないし、包丁を片手にエプロン姿でキッチンに立つ姿が想像できない。与一とブルースも同じことを思ったのか、ポカンと口を開けている。

 

「人は見た目に寄らんのよ。私も同じ顔した」

 

 桐先生はクスクスと笑う。顔に出てたか。

 

「ドラキュリア様は令裡ちゃんと駆藤はん達がここ来るとわかってたみたいや。運動の後でおなかも空くしええ時間やと、持っていっていっしょにお食べ言うてました」

 

「ドラキュリア様に隠し事はできないわね」

 

 あっけらかんと語る桐先生に令裡は苦笑いを浮かべる。

 監視の目玉のバケモノは見当たらなかった。バケモノを抜きにしても、あの女はどこまでお見通しなんだ?

 

「あの、桐先生。1つ聞いてもいいかな?」

 

「ん?」

 

 与一が恐る恐る桐先生に声をかけた。

 

「あなたはヴァンパイアになって、今はどう思っている?」

 

 真っ直ぐ桐先生を見つめながら与一は問いかける。

 令裡はため息をついた。ブルースは「マジか」と言わんばかりの顔だ。おそらく、俺も同じ顔をしてるだろう。

 

「・・・・・・心の整理はつけてます」

 

 ストレート過ぎる質問に対し、少し間を置いて桐先生はビニールの口をきつく締めながら答えた。

 

 彼女が目を覚まして今日で5日目になる。目覚めた直後の彼女は寝ぼけてるかのように心ここにあらずの状態だった。

 声をかけると「ええ」、「はい」、と空返事するだけで、意識がハッキリするようになったのは次の日からだった。ちなみに、ヴァンパイアになった直後の俺も似たような状態だったらしい。

 

 意識がハッキリすると、自己紹介も兼ねてドラキュリアが事情を説明した。死にかけの彼女と腹の中の子供達に『ヴァンパイア』という異能を与えて救ったこと、そして自分達が「魔王」と戦うための準備をしていて、血液内科医の彼女の知識と腕を必要としていること、すべて事細かに説明した。

 ドラキュリアの説明に目を見開いて驚きはしたが、時折質問して考え込み、時間が欲しいと言って話はとりあえず保留。落ち着いてから答えを出すことにしたのだ。

 

「ドラキュリア様に事を聞いて驚いたけど、もう受け入れました」

 

 桐先生はおもむろに人差し指の先を唇に当てる。

 

「刺されて気を失う前のこと、しっかり覚えているんよ。どえらいべっぴんさんが自分の手首を引き裂いている姿。傷口の血を私の口に流す瞬間。全部な」

 

 どこか恍惚とした様子で唇から喉、胸、そして腹に指を這わせる。その表情と動きは妊婦とは思えないほど官能的で、その場にいる全員が指先を目で追う。俺も思わず唾を飲み込んでしまった。

 

「このご時世、何も力がなかったら生きていきひん。ドラキュリア様が与えてくれたこの力は『異能』がない私に、そして生まれてくるこの子達には最高のプレゼントどす」

 

 母性に満ちた笑顔を浮かべて腹を撫でる桐先生。妖女から慈母に変わるギャップが凄まじい。

 

「貴女は『異能』を持っていなかったのか?」

 

 与一の2つ目の質問に「ええ」と返す。

 

「「発光する赤子」がニュースに出たのは、私がまだ13の時や」

 

「発光する赤子」。世界初の『異能』。

 “異能”が存在しない時代に生まれた人間。四ノ森さんが言っていた第0世代というワードが頭に浮かんだ。

 

「私、血液を通して『異能』の正体を探すお仕事をしてたんや。せやけど、ヴィランに襲われて夫は死んで、逃げ出した私達も刺されて死にかけたところをドラキュリア様に救っていただいたんや」

 

「旦那さんを・・・・・・お悔やみ申しあげます」

 

「あ、ええよ。別に気にしてへんし」

 

「「「「え?」」」」

 

 桐先生を除き、全員の目が点になった。今、なんて言った?

 

「嫌いだったから清々しました」

 

 あっけらかんとした笑顔で桐先生は語り出した。

 

「愛のない政略結婚どす。ぶっちゃけ、私は男に興味ないし、夫も「どうして行き遅れのババアと結婚しなきゃいけないんだ」って不満が滲み出てたし、外面はええけど家の中では冷めきった仮面夫婦。それが前までの私なんよ」

 

 家族間にどんな確執があったか知らないが、かなりドライな反応だった。

 

「夫も死んで身内はこの子達だけ。実家とも冷めきっていたから、しがらみがのうなって良かった思うてます」

 

「でも!家族なんでしょう!?」

 

 反論する与一に桐先生は目を細めた。

 

「兄と決別して、兄を殺そうとしている連中とつるんでるあんたが言えること?」

 

 与一は声を詰まらせた。

 桐先生の声は穏やかだが、圧があった。ニッコリと笑っているが、柔らかく細めた目は全く笑っていない。

 

「まあ、嫌な過去はもうどうでもええ。今はこのお城で、ドラキュリア様の下で生きていきます。この子達のためにも、ね」

 

 優しい表情と温かい声に戻り、桐先生は愛しそうに腹を撫でた。

 

「せや、話は変わるんやけど、与一はん。サンドイッチと野菜スープは口にか?」

 

 顔を上げてスープジャーをポンポンと叩いて、桐先生は与一に話を振った。

 

「え?お代わりするほどおいしかったけど、それがどうかしたのかい?」

 

「そら良かったわあ。このサンドイッチと野菜スープ、ドラキュリア様が与一はんの体を気遣って、体にええスパイスを隠し味を入れてはるんよ」

 

 スパイス?確かにスープは不思議とうまかった。サンドイッチも全員が少なくとも2切れは食べたくらいだ。

 

「そう言えば与一もおかわりしていたな」

 

 ブルースが珍しそうにつぶやいた。

 

「うん、なんだかここに来てから体の調子が少しずつ良くなってるんだ」

 

 そう笑う与一の顔は、初めて出会った時と比べてかなり血色が良くなっている。パサついた髪は潤いのある艷やかな髪になった。咳も減って悪魔城を散歩できるくらいだ。

 眠る前にドラキュリアが飲ませる謎の青い薬も合わせて、与一の体調が改善されている。

 

 この城に来た当日は散々だったが、健康になりつつある与一を見てこの城に来て良かったと思える。

 

「お母はんの味やね。私も人の手料理を久しぶりに食べれてよかったどす。この子達も喜んではります」

 

 桐先生は「ホホホ」と上品に笑いながら腹を優しく撫でた。

 

 お袋の味か。ドラキュリアはあのなりで家庭的なことに驚いたし、いい意味で人間臭いところもあるんだと思えた。

 

 あまり声に出したくないが、またいつかドラキュリアの手料理を食ってみたいものだ。

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 こんばんは、ドラキュリアです。

 前世ぶりに手料理を作るところです。

 

 いい時間だし腹が空いたし久しぶりに自分で作ってみようと厨房に入った。そこで同じくアイリとバッタリ。

 いっしょに作ろうかと言うとアイリは慌てて、「それはメイドのお仕事です、どうかお掛けになってお待ちになってください」とか、「城主であらせられるドラキュリア様にそのようなことをさせたと知られれば、小町様に叱られてしまいます」と断ってきたけど、2人でやればすぐ終わるし、前世からやってないし久しぶりに作りたいし、小町にバレても俺が庇うと言うと、渋々と従ってくれた。

 

 悪魔城での食事は基本、小町とアイリが作ってくれる。小町に俺も作ると言ったら「城主の沽券に関わりますよ」とアイリと同じようなことを言われた。

 言いたいことはわかるけどさ、今は俺含めて10人も人がいない魔物の巣窟で沽券もクソもないだろうに。

 

 ともかく、今日の晩ごはんはお手軽に、ツナと卵のサンドイッチと野菜とチキンのコンソメスープ。前世でもたまに作った料理である。

 冷蔵庫から必要な食材を取り出します。まずはアイリが用意した沸いた鍋に卵を沈めます。そして待ち時間にじゃがいもをカットして水に沈めます。でんぷん抜きである。

 その後はアイリが皮を剥いた他の野菜と鶏肉を小ぶりにカット。にんじんはレンジに突っ込んで煮込む時間を短縮する。それからトマトと玉ねぎを先に鍋に沈めて煮込み、アクを取っていく。

 

 でんぷんが抜けたじゃがいもを水から出し、にんじんと入れ替わる形でレンジに突っ込む。これも待ち時間を利用して煮込みの時短。そしてつまようじがプスッと刺さるくらい柔らかくなったのを確認してにんじんを鍋に沈める。

 鍋をゆっくりとかき回してる間にできたゆで卵はアイリに任せて、レンジから出したじゃがいもと鶏肉を鍋に沈めて10分ほど余分な脂とアクを取っていく。後は火を落としてコンソメスープの素を入れて、ゆっくりかき回して溶かしたらできあがり。

 

「ドラキュリア様、こちらもできました」

 

 振り返って見ると、アイリが2つの大きなボウルを差し出してきた。卵の具は大きすぎず、小さすぎず、ほどよいサイズでマヨネーズと絡み合ってる。ツナマヨもちょっとした隠し味に入れたのか、微かに醤油の香りがする。醤油をちょっぴり入れるとうま味が出てコクのある味わいになるのだ。

 2つセットでおかわり分も合わせて軽く30人前はある。これだけあれば充分だろう。

 

「よし。仕上げに入る。食パンにバターを塗れ」

 

「かしこまりました」

 

 ボウルを俺の前に置いて、バターナイフを片手に食パンの小山と向かい合うアイリを横目に野菜スープの鍋を開ける。

 

「味見するか?」

 

 小皿を出してスープをよそい、厨房入り口に声をかけると、そこにはマタニティパジャマを着た妊婦さん────桐先生が立っていた。

 

「ええ。いただきます」

 

 歩み寄ってきた桐先生にスープを渡す。桐先生はゆっくり息をかけて冷ましてから飲み干すと、目尻を下げてホッとした表情を見せた。

 

「おいしい・・・・・・野菜の甘味と鶏肉の旨味がぎょうさんや」

 

「せやけど」と鍋を見下ろす。

 

「もう一味、欲しいなあ」

 

 ああ。そうか。仕上げの調味料か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 親指の爪で人さし指の腹を切って隠し味を1滴、鍋とボウル入れてかき混ぜた。

 

「精のつきそうなスパイスやねぇ」

 

 桐先生はホホホと上品に笑った。その視線は俺の指先に向けられ、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 




・望月桐

遂に目覚めた妊婦さん。ドカ食いはしない(させない)。
言いたいことはストレートに言うタイプの京美人。
救われた恩を抜きにしてもドラキュリアに恋してる。
男嫌いなレズに死にかけているところを救ってくれた上に、手厚く世話してくれる耽美系イケメン女子に惚れるなと言うのは無理がある。

・ドラキュリア

前世で1人暮らししていたから料理は人並みにかできる。
「隠し味」は与一達が来た時から食事に入れていた模様。
近いうちに四ノ森達ヴィジランテにも振る舞う予定。
リカバリーガールとランチラッシュが見たら衛生的に怒り狂いそう。



・・・・・・はい。大変お久しぶりです。
気づけば前話から1年近く経ってました。
やる気とアイディアが出ず、ダラダラと過ごしてこんなに時間が経ちました。
お待たせして申し訳ありませんでした。
いい加減、ドラキュリアの「魔王」らしいところや新しいキャラを書きたいし、話を超常黎明期から現代へ進めたいです。
それと今日がハロウィンなのもあって投稿しました。
ハッピー・ハロウィン。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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それではまたお会いしましょう。
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