書けないなりに詰め込みました、よろしくお願いします。
ーー8月。
「あっつい!!!」
学生のみんなはもう夏休みかな?
かくいう俺もそうだ。
なのに、何故。
「何でこんなあっつい部屋で夏期講習受けてんだ俺は!!!」
「はいそこうるさーい」
暑い、とにかく暑い。
もうおかしいよ、最高気温39℃だって。
何なの?バカなの?
お天道様元気良すぎるだろ。
「ダメ、無理死ぬ」
見かけたコンビニに入り、空調の恩恵を最大限浴びながらスポドリと炭酸を手に取る。
炭酸は家に帰ってからスナック菓子をつまむ用。
「シールで大丈夫です」
カバンを開け、飲料を仕舞う。
「ありがとうございましたー」
という声を背中に受けながら、蒸し暑い世界に俺は再び舞い戻る。
「増して暑いだろバカか」
まぁ家に帰れば、クリアア〇ヒが家で冷えてる的な感じで部屋はキンキンになってると思うので、それを楽しみにしながら帰路に着いた。
「ただいまぁ……暑くね?」
おかしい。
俺は確かに家を出る前エアコンの電源を2時間後に入れるようにタイマーをセットしたはずだ。
その記憶もある。
荷物を玄関先に置いて、エアコンのリモコンを探す。
「……ついてることになってる?」
リモコンの液晶には「26.5℃」の表示。
つまりエアコンは今稼働しているという訳で、しかし現状この暑さは外と何ら変わりない。
「このタイミングで壊れた?」
いくらなんでもそれはないだろうと思い、再起動をかけ2分ほど待ってみても、冷風が出る気配はない。
では暖房25℃稼働で、とやってみても、結局変わらない。
そもそも風が出てきてないのだから冷やすも温めるもないわけで。
「……どーしよ」
とりあえず扇風機を引っ張り出し、家中の窓を開け、換気と熱を追い出すことにした。
とりあえず全身ベッタベタで気持ち悪いので、シャワーを浴びよう。
即興水風呂でも入って、ちょっと体を冷やそうかな。
さて、全身を冷やしきったおかげで、風呂に行く前とさほど変わらない室内温度でも割と快適に過ごせている。
服を着て頭を拭きながら出ると、微かな物音。
「……誰だ?」
丁度風呂場から出た位置からは死角になる冷蔵庫。
そこで何か音がする。
「いや、一人しかいないわ」
鍵を閉めたのにも関わらず、この家に入ってこれる人物は俺の両親と、もう一人いる。
しかし俺の親は風呂場にいても聞こえるほどの音量でただいまと言う。
水風呂で時間の大半を過ごした俺が聞き逃したわけはない。
ということは、答えは一つ。
「ましろ、何してんの?」
「わぁ!?お兄ちゃん!?」
近所に住む昔からの妹分、倉田ましろ。
月ノ森学園に通う2年生で、Morfonicaというバンドのボーカルもやってる。
「人んちの冷蔵庫漁るのが趣味だったのか?」
「ち、違うよ。その、アイスとか、ないかなぁって」
「あったとしてお前は人のやつ食うのか?」
「うぅ、ごめんなさい」
分かればよしと頭を撫でながら、冷凍庫を閉める。
「んで、ましろはなんでこっち来たの?」
「エアコン、壊れちゃったみたいで」
「奇遇だな、俺もだ。生憎涼まれないよ」
偶然じゃなくて呪いかなんかだろと心の中で呟いてから、扇風機の前を陣取る。
「あっ、ずるいお兄ちゃん!」
「部屋主特権だ、欲しけりゃジャンケンしろ」
「むぅ……」
ジャンケン勝負を挑んでこないのは、俺がましろに対してのみめっぽう強いことを知ってるからだ。
「首振りにすれば、ましろも風当たるか?」
「……うん!ありがとう」
とことんましろには甘いなぁって思いつつ、特に何をするでもなくだらーんと寝そべる。
隣にましろも寝そべってきて、溶けるーなんて言いながら扇風機の風を浴びる。
「なんでこのタイミングでぶっ壊れっかなぁ」
「ほんとにね……」
同じタイミングで壊れるのは作為的なものを感じるよ、ほんとに。
「ねぇ、お兄ちゃん」
寝転びながら仰向けでスマホを弄ってたましろが俺を呼ぶ。
「ん?」
「これ、知ってる?」
言いながらましろが見せてきたのは、明日開催だという花火大会のポスター。
「お兄ちゃん、行かない?」
「モニカは?」
「みんな予定があるんだって」
「ふーん……」
明日の予定は特にない。
「……じゃあ行くか」
「ホント!?」
「あぁ、寝坊すんなよ」
言うと同時にはね起きて、玄関に向かう。
「寝坊……?って、お兄ちゃん?どこ行くの?」
「ちょっと出かけてくる。夕方までには戻るよ」
サンダルを引っ掛けて、俺は外に出た。
翌日。
「ん~……まじか」
「8時に行ければいいか、なんて言ってたのにね……」
お兄ちゃんと私は、揃って寝坊した。
明日に備えて早寝したし、何ならお兄ちゃんは昨日の夜、場所取り用の荷物まで買ってたのに。
「揃って寝坊はさすがに笑うわ、あっはは」
「顔が死んでるよお兄ちゃん」
今の時間は11時。
今から行こうと思っても、たぶんいい場所はとられてるんだろうな。
「さて、どうする?今から言ってもいい場所ないけど」
「お昼過ぎてからゆっくり行こうよ。疲れちゃうし」
「よし、そうしよう」
お兄ちゃんも今から行くなんてことは言わないみたいで、ご飯作ってくるーなんて言いながら呑気にキッチンに向かった。
その背中を見送りながら、私は携帯の通知を見る。
モニカのメッセージグループには、『浴衣ちょー似合ってるっしょ!!』なんていうメッセージと一緒に自撮り写真をあげてる透子ちゃん。
『似合ってるね~』なんて返信する七深ちゃんと、『気合入り過ぎじゃない?』なんて返してるつくしちゃん。
瑠唯さんは相変わらずなにも返してないみたい。
私も、とりあえず『似合ってる、透子ちゃん可愛い』と返すと、すぐに既読が一つついた。
そして、『シロも家きなよ、着付けてあげる』と帰ってくる。
「えっ、と」
「飯出来たぞー……と、どうしたましろ」
「透子ちゃんが、その、浴衣着付けてくれるって」
「いいじゃん。してもらいなよ」
軽く言うお兄ちゃん。
隠れて『お金とか……』なんて打ってみたけど、『大丈夫!友達だし!』って帰ってきた。
「その、お兄ちゃんは、見たい?」
「なにが?」
「その……私の、浴衣」
「ん、めっちゃ見たい」
すごい食い気味で答えが返ってきた。
『じゃあ、お願いしてもいい?』と打てば『オッケー!じゃあ2時。時ぐらいによろしく!』とすぐ帰ってくる。
「じゃあ、後で連絡するね」
「了解」
そんなことを話しながら、お兄ちゃんのご飯を食べた。
午後3時半。
ましろから『着付け終わった、今から出るね』という連絡を受け、ましろの友人の家付近で待機している。
とりあえず浴衣の人間をエスコートする術は調べたけど、たぶん本人を目の前にしたらきっと何もかも吹っ飛ぶだろうな。
「お、お待たせ……」
「今来たとこだしだいじょ……めっちゃ似合ってんじゃん」
青空のような背景に、桜の花の柄。
青い花の髪飾りを付けたましろが緊張した面持ちでそこに居る。
「似合ってる……?良かった……」
「めちゃめちゃ似合ってる。ましろチョイス?」
「……うん!」
選んでもらったのか、と言うのは良くないなと自制したが、やっぱりあってたようだ。
対して俺は普段着だが、まぁ別に悪くはないだろう。
人通りがまばらなこの道でたまに歩いてくる男女も、普段着と浴衣っていう組み合わせだし、まぁ浮きはしないと信じている。
「よし、ゆっくり行くか」
「うん。楽しみだな」
少し歩くと、人がいっぱいいて。
今はまだあんまり人がいない所を選んで歩いてるけど、そのうちいっぱいの人で揉まれちゃう。
「ましろ、手」
言いながら、お兄ちゃんが左手を出してくる。
言われるがまま右手を出すと、それがお兄ちゃんの手に捕まって、握られる。
「はぐれたら大変だからな、離すなよ」
「……うん」
こういうことをサラッとできるのが、本当にずるいなぁって思う。
ちょっと抜けてるお兄ちゃんだけど、こういう時は本当にかっこよく見えて。
「えへへ……」
「どうした?」
「ううん、何でもない」
「そうか」
表情を変えないように頑張ってるけど、ちょっとほっぺたが緩んでるお兄ちゃん。
こんな時間、ずっと続けばいいな、なんてわがままは、ちょっとしまっとこう。
「お兄ちゃん、たこ焼き食べようよ」
丁度少し遠くに見えたたこ焼きの屋台を見ながら言うと、
「並んでるけど……まぁそんなでもないし、行くか」
と、お兄ちゃんも乗り気で、ちょっと歩くスピードが速くなって。
無理矢理誘っちゃったけど、お兄ちゃんも喜んでるみたいで良かったなって、そう思った。
「あ、そういえば、ましろ、足平気?」
「え?……うん、大丈夫」
……自分の服には無頓着なのに、私のことには人一倍敏感なの、本当になんでなんだろう。
たこ焼きだの焼きそばだの、祭りの定番の食べ物と言えばって感じのやつを買った俺たちは、何故か知らんが人が少ない場所を見つけた。
花火の上がる位置的に、そこまで場所は悪くないと思うんだけどな。
「割とスカスカで助かったな」
「そうだね、異様にぽっかりと開いてたけど」
「別にここはダメって書いてなかったしいいだろ。さてシート敷くぞー」
見上げる高さに障害物もないので、シートを敷いて腰を下ろす。
そこまで歩いてないけど、人波と熱気に揉まれたので疲労感がすごい。
「今何時だ?」
「えっと……6時」
「じゃあ後1時間か。飯食いながら待つか」
祭りの醍醐味の半分ぐらいはこれだと思ってる。
屋台で買った飯を食いながら花火を待つ、あるいは食いながら花火を見る。
もう半分は……まぁ、色々。
「……お兄ちゃん?」
「ん?」
「たこ焼き冷めちゃうよ?」
「アツアツを食えるほど俺の口は分厚くないからな」
焼きそばを食べようしてるましろを見てたらバレた。
一口が大きくて可愛かったからね、仕方ない仕方ない。
そんな事を考えながら、たこ焼きを一口。
「あっつ……」
ちょっと冷めたはずのものとはいえ、丸々一個行くんじゃなかった。
噛めば噛むほど熱いが、まぁここは長男だから我慢できるってやつだ、一人っ子だけど。
「大丈夫?」
「大丈夫、問題ない」
どっかの装備不足の人間の言葉を借りながら、お茶を呷る。
常温+2度ぐらいのお茶であっても、微妙に火傷した口内を冷やしていく。
「んー」
「……そんなに見られると、恥ずかしいよ?」
「いや、絵になるなぁって」
「そう、かな?……ピース」
焼きそば片手にピースする人間、見たことねえけど。
「……撮るぞ」
「1枚、だけね?」
お言葉に甘えて、1枚パシャリ。
「……なんかさ、ましろってよく可愛いって言われるけど」
「そうなの?」
「割と聞くぞ。ってそうじゃなくて、こうやって静止画で見るとかっこいいっていうか、美人だよな」
「……お兄ちゃんに褒められちゃった」
えへへと言いながら、また焼きそばを一口。
心なしか、さっきよりも大きめの一口に見えて、照れてるのかな、なんて思ったりもして。
そう考えてるのもちょっと恥ずかしくて、たこ焼きをもう一個。
と、そんなときにアナウンス。
「ん、始まるみたいだな」
「ようやくだね」
それぞれ食べ物のパックを置き、視線を空に向ける。
どこの会社の花火で、どういう会社なのか、という説明の後、花火が上がる。
2色の花火が同時に上がったり、細かいのがたくさん上がって、黄色い花を咲かせたり。
時には会社のロゴマークの花火も上がったりして。
写真だの動画だの撮りながら楽しんだ。
まぁ、その数倍、隣ではしゃいでたかわいいのがいたけど。
「すごいねお兄ちゃん!」
「あぁ、圧巻だな」
拍手をしたり、「すごい……!」って言いながら笑ったり。
年相応、もしくはそれより幼くはしゃぐ彼女を見ながら、着いてきてよかったと、そう思った。
「ねぇお兄ちゃん!」
「ん?」
「来年も一緒に来ようね!」
満開の笑顔を浮かべる彼女を見て、一番の大玉花火はこの笑顔だな、とかいう感想を抱いた俺の感性は。
ちょっと、いやかなり、ましろに毒されてるのかもしれない。