短編1話完結。
果心居士アンソロジー参加作品。
【参加要領】
・果心居士が指定キャラに憑依するSSを書く。結果的に憑依されなくともよい。
・キャラを指定して参加表明。作品完成後であれば再び指定して参加表明可。
・ゲーム内ですでに憑依されたキャラは指定禁止。他参加者が先に指定したキャラは選択禁止。
・ゲームに直接登場していないキャラも指定可能。
・果心居士の憑依能力については独自解釈してよい。
・そのような企画は開催されていない。やるかどうかもわからない。
舶来品を集めた宝物庫。南蛮寺の中で、厳重に管理されている。
織田信長は海外との交流を進めていた。より強くなるために、新しい力を求めた。海を越えた先にある神秘。今まで奪い合ってきた力とは異質だった。
部屋の奥にある箱を開ける。霊石が姿を見せた。記録に残らない、存在しない取り引き。この一箱に、新しく南蛮寺を建てられるほどの費用を投じた。不気味な光が部屋に満ちる。
霊石を使う者がいる。
美濃では斎藤義龍。近江では浅井長政。いずれも霊石の力で妖怪を率いた。織田の勝利で終わりはしたものの、人ならざる力に苦戦した。武田信玄も霊石を使っていた可能性がある。
霊石をどこで知り、どこから集めたのか。流通については藤吉郎が調べている。
信長は異国とのつながりを強化。政治や経済、信仰などが流れてくる中で、秘密裏に霊石を集めた。
箱の中から霊石を手に取り、その光と目を合わせた。生きているかのようだった。誘い、奪う、いびつな思念。入り込もうとしてくる。
「気に入らぬ」
鉄砲は使う。これからの織田に欠かせない武器になる。霊石は、鉄砲を上回る力を秘めてはいるが、信長の野望には邪魔とすら感じた。
天下布武。信長の行く道に、霊石は受け入れられない。
「余は……気に入った」
霊石から声が聴こえた。箱に収められた霊石が一斉に輝く。光の粒が放出され、部屋を渦巻き、信長を包んだ。
光が収まる。
南蛮寺の階下だった。交渉その他の対談に用いる広間。先日は家中の半妖を呼び寄せ、力試しの立ち合いをさせた。
「ここ。は」
宝物庫で霊石を見ていたはずが広間にいる。灯りが並べられ、今すぐ何事か始まるかのようだった。
錫杖の音が響く。
「ここは汝が夢」
果心居士。傘の下にある三重の赤目が信長を見る。
「第六天魔王、織田信長。人の身に生まれながら、よくぞそこまで辿り着いた」
全身から荒魂が立ち昇る。
「魔王の身、余に献じよ」
信長は果心居士の黒衣を見た。傘を見て、錫杖を見て、赤目を見た。
刀を抜く。
「そうか……夢か」
果心居士は足を踏み出す。影が揺らぎ、わずか一歩で信長の眼前に来た。錫杖を槍に持ち突き刺す。
火と水と雷。同時に巻き上がり、錫杖が弾かれた。天眼孔雀の羽ばたき。信長の守護霊が現れる。
「誰の許しを得て信長の夢に入り込んだ!」
一喝。
天眼孔雀が舞う。突風に押され、果心居士が後ずさる。
果心居士は荒魂が集まって生まれた。人間ではないが、妖怪とも違う。現世の依り代を探していた。人間に取り憑き、力を与え、心を蝕む。やがて依り代は死に、捨て去られる。
信長は目を閉じた。
刀を下ろす。立ったまま、まるで寝ているかのように脱力した。人間の感情を持たない果心居士が、思わず身構える。
「夢の中ならば、目を開けずともよかろう」
歩き出す。
果心居士は錫杖で薙ぎ払う。胴体を両断する一閃に、信長は動じることなく歩を進める。何者にも止められない。夢想のまま刀を振り上げた。
斬り落とす。受け止めた錫杖ごと吹き飛ばす。果心居士は床に叩き伏せられた。荒魂が四散する。
信長は目を開いた。宝物庫。手にした霊石が砕けていた。
霊石については、藤吉郎や、研究する陰陽師に、たびたび報告させていた。
夢を叶える石。願いに応じて力を与える。手にして念じれば、人は鬼になる。あやかしの兵士に殺され、器をなくした命から、また霊石が生まれる。
戦争に用いれば、強力な武器であることは、間違いない。
「石は意思にあらず」
箱に輝く霊石を諭すように言う。霊石の光が、暗くなったかに見えた。
信長の夢、天下布武は、人が作る人の世。魔王を称する信長も、乱世に生きる一人の人間だった。
「無粋……なれど有用」
織田の戦いは続く。戦場には今までよりさらに多くの妖怪が現れる。勝ち抜かなくてはならない。信長の夢は、霊石と妖怪、さらには神仏を御した先にある。
信長は箱を閉じた。霊石の光がわずかに漏れる。