提督になった青年の話。

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艦これ

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 だっぱん、だっぱん。

波を砕きながら、小さな船が海を進む。

太陽はじりじりと肌を焦がして、日差しを遮る雲たちは水平線に集まっている。その下の波は光を反射して、キラキラと輝いていた。

 船は海を割り白い荒波を作ると、船首が空を向きまた水中へ潜る。そのたびに体は浮き、甲板に押さえつけられる。

 

「うぇぷ、きもちわる…」デッキの手すりにもたれ海を覗き、胃の中のものを吐き出す。浮遊感と共にお腹がギュッと締まって、口に酸っぱいものが広がる。間近で見る海はとても蒼く、かかる飛沫はしょっぱかった。

 

「ふはは、だーいじょーぶか!もーすぐだからなー!」粗暴で優しそうな爺さんが、操舵室から叫んでる。気遣いは嬉しかったが、その声すら頭痛を酷させた。エンジン音や、心臓の音すら音が頭に響く。

 

 だっぱん、だっぱん。

波が船を揺らす。重さを持ち始めた頭痛に、力なく膝をついた。耳の奥から脳に広がる痛みに、ついにデッキにへたり込んだ。滑り止めに肘をついて、体を支える。海水に濡れたざらつきに素肌が引っ張られ痛い。

 

「おーい、提督さん!島が見えるぞ、もう直ぐだぞ!」

 

 爺さんの鍛えられた肩が、狭い扉から見える。

窮屈そうに身を乗り出して、何か言っている気がする。起きあがろうにも、骨がなくなったように力が入らない。重力が数倍になったように、逆らえないでいる。思考がまとまらず、意識が溶け出していく。

 

 だっぱん、だっぱん。

デッキの上で横になってから、波の音が遠い。薄れていく視界の最後に、タブノキのような島が波間の中に見えた気がした。

 

2

 

 アルコールの匂いがした。鼻をすっと通る消毒液の匂いに、微かにそよぐ風に乗った塩の香り。安心する、落ち着く匂いだ。体を起こせば、するすると体に沿ってシーツが落ちていく。

 

 肌触りのいい真っ白なシーツと、パイプのベットを囲うカーテン。学校の保健室のような場所。白いカーテンが揺れると、海の匂いが増した。海が近いらしい。

 

 軽く痛む頭を抑え、気だるげにカーテンを開れば、レールを伝う小さな滑車がシャッと転がった。

 

「目、覚めたんだ」

 

 冷たそう、というのが第一印象だった。

革張りのソファに背中を預けた、セーラー服もどきの少女の気怠げな瞳と目が合った。髪色と同じ、輝くようなオリーブ色の瞳。視線が吸い込まれる端正な顔は、冷たくも美しかった。

 

「鳳翔さん呼んでくるから待ってて」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 一度、チラリとこちらを伺うと直ぐに立ち上がる。さらさらとした黒髪のツインテールがその動きを追う。扉の前でくると、足を止めて彼女が振り返った。髪質の良さそうなテールが二つ、ふわりと舞った。顔がいいだけに、それすら絵になった。

 

「あなた提督でしょ、しっかりしてよ」

「うっす」

「だらしない」

 

 言うだけ言って、彼女は行ってしまった。誰もいなくなった保健室で、立ち尽くす。何か変だったのだろうか、叱られてしまった。頭痛も忘れて、惚けてしまった。可愛かったな。恥ずかしさと共に、ふと思う。

 

 カーテンが揺れた。半開きになった勝手口に、海が見える。島に向かっていて、その道中船酔いで気絶したことを思い出した。

そういえば、船で爺さんも言っていた。

 

「提督ってなんだよ」

 

 静かな保健室で、一人ごちた。

 

3

 

「体の方は大丈夫?」

 

 改造セーラー服の次は和服、そして完璧な幸薄そうな美人。ここの人間は顔採用で選ばれているらしい、服装もその人の趣味だろうか。たいへん趣味がよろしいみたいだ。仲良くなれそうな気がする。

 

「はい、なんとか」

「あの子、何か言ってなかった?」

 

 あの子。改造セーラー服の子だろう。ツインテールの。確かに小言を貰ったが、気にする程のものでもない。それに、可愛かったし。

 

「ええまぁ、特になんとも」

 

 すると、女性は柔らかく微笑んだ。そして膝あたりに視線を落とし、微笑んだままに顔を傾けて、困ったように落とした。優しく、労わる様に。

 

「あの子も悪気はないんです」

 

 少し俯く彼女は何気なく、髪を掻き上げて耳にかける。自然と綺麗な指先から形のいい耳、そして妖艶なうなじへと視線が流れる。綺麗だった。

 

「鳳翔です」

 

 ハッとして、慌てて目を逸らす。黒曜石の瞳に、次は釘付けになった。しっとりと重みのある、繊細な瞳。姿勢や表情、仕草までが彼女の精神的な強さを示している。自然と反骨心が溶ける、優しい強さを感じる。

 

「名前です、鳳翔って言うんです」

「え、あ。名前」

「そうです。変わってるでしょう?」

 

 鳳翔。口の中で反芻して、馴染ませていく。確かに、変わった名前だ。初めて聞く。ただ、彼女に似合う、淀みのない名前だ。何度でも呼びたくなる。

 

「ここの人は皆、変わった名前が多いですから」

「なぎさです。望月渚」

「では、望月提督ですね」

 

 鳳翔さんは、また柔らかい笑みを作った。釣られて、笑顔で返した。

提督、それは自分を差して言った。提督に、自分はなったらしい。しかし、提督がどのような存在で何をする者なのかを知らない。それが心に引っかかっていた。


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