日本の南西に位置する島に、遠征ついでに遊びに来た遠征隊(天龍 青葉 川内 那珂 あと神通と朧)と二人の提督。
 お隣の提督の故郷でもあるこの島で、彼の言われるがままに島でのバカンスを満喫していた。寝る間も惜しんで遊び尽くし、夜は港で釣りをしようとということになったのだが・・・。

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キャラ崩壊警報!

オリジナル提督!

セリフの文字起こし!

なんとなく深夜のハイな感じだけ汲み取ってくれると助かります

※シリーズから単品にするため再投稿しています


巡洋どうでしょう 夜釣り編 【艦隊これくしょん×水曜どうでしょう】

――夜。

 そこにはヘッドライトを装着した三人の少女がいた。一人は首にタオルをかけた半袖の天龍、真ん中には目を瞑ったままの赤ジャージ・那珂、もう一人は頭にタオルを巻いた緑ジャージ夕張。時刻はフタフタヨンマル。南西のとある島の港で、過酷な戦いが始まろうとしていた。

 

「――えー時刻は午後十時四十分となっております」

 

という映像の外にいる川内の言葉で改めて時間を確認する。

 

「またたらふく食って、しこたま飲みましたが、これからね、”夜釣り”をね。ミセス、やりたいと思っています」

 

川内の企画発表に天龍は、自身が「ミセス」と呼ばれていることに指摘すらせず、ただ頷いていた。

 

「いやー、この島でのバカンスってのは、夜も眠らせない楽しませ方をするよね」

 

と川内が誰宛でもないように言うと、

 

「別に島が眠らせないわけじゃない」

 

と天龍が川内に反発し、

 

「川内、お前が眠らせない」

 

そう事実を言い放ち、言われた川内は思わず苦笑いしてしまった。その横で、カメラで三人を映している青葉は楽しそうに笑っていた。

 

「だからオレは寝てたから」

 

こうなることを想定していたのか、天龍は予め仮眠を取ることで川内の思惑通りにならないように手を打ったようだ。

 川内は話を変え、今回の企画の概要を説明する。

 

「この夜釣りはポイント制で競うから。魚の種類・大きさ・希少価値を基準にポイントを与えるよ。勝負が終わった段階で一番多くポイントをゲットした人が優勝、でプラス300ポイント付与。二番が200、ビリケツが100ポイント。ちなみにこのポイントは給料とボーナスに加算されるから」

「おい、待て」

 

と再び天龍が川内の言葉を止めた。

 

「それ本気かよ」

 

 どうやら疑っているようである。それもそう、釣りをするだけでお金が貰えるのだ。そんなことなら出撃せずに釣りバカやってる方がいいに決まっている、恐らく天龍はそう思っている。しかし、それはこの夜釣りの過酷さを知らないからそう思えるだけなのだ。こんなんなら遠征する方がマシ、終わるころには出場者三人はそう思っていることだろう。

 

「本気だよ。提督がそうした方がいいんじゃないかってね」

 

 川内は「ねっ」と言いながら振り向き、後方で準備をしている提督に確認を取る。提督は一言「うん」とだけ返事をした。川内は天龍らに向き直り、

 

「ほら、提督公認」

 

川内は何故か誇らしげに言った。提督がそう言うのならそれでいいか、と納得と呆れ半々で天龍も引いた。

 

「――ということでいいかな。ところで那珂ちゃん、さっきから全然、一っ言も喋ってないけど、大丈夫」

 

 中央の那珂に視線が集まり、両脇の二人は笑いながら那珂を覗いた。すると那珂は重たそうな瞼をわずかに開け、おもむろに腕を組んだ。何か言うのかと皆が静まり、沈黙を包んだ後、

 

「寝かしてもらっていいですか」

 

という、夜闇に消える様な囁く言葉が那珂から発せられた。

 

「ハァ?」

 

と、川内が間髪入れずに吠えるように反発し、その傍らにいる二人は笑っていた。

 

「チャンピオンになりたくないの?」

 

と川内は高圧的に那珂に問うと、那珂は首を横に振った。

 

「そうでしょ」

 

川内の嬉しそうな声、続けて、

 

「改二になりたくないの?」

 

その問いに那珂はさっきと同様に首を横に振って、サムズアップをしてみせた。しかし依然変わらず、顔は眠そうである。

 

「言っとくけど時間長いからね」

 

川内の言葉の後、那珂の両隣の二人は笑っていたが、その笑いもすぐに消え、ある一つの疑問が浮かび上がった。そこで天龍が川内に尋ねたのだ。

 

「長丁場?」

「長丁場だよ、ミセス」

「敢えて制限時間は言わない?」

「制限時間ねぇ、あたしは今敢えて言いません!」

 

と、強く言い切った。三人に顔から明らかに笑みが消え失せた。

 

「――つーか、なんで言い出しっぺがいないんだよ」

 

そう天龍が若干怒り混じりに川内に尋ねた。

 

「碇屋さん(隣の司令室の提督)ねぇ、もう眠たいってさ」

 

その川内の返答に二人の顔は破顔した。しかし一人だけ表情が変わらない者がいた。

 

「・・・なんで、なんで言い出しっぺがいないんだよ」

 

那珂の不満に川内はさっきの返答と同様の言葉で返した。

 

「あの人差し置いて、私たちが釣りしなきゃなんないのよ」

 

しかしその不満を物ともせず、川内は、

 

「じゃじゃ、もう碇屋さんがエサとかたくさん作ってくれたから。やりましょう、やりましょう」

 

その言葉に両脇の二人は動き始めた。しかし那珂は相変わらずこの状況に納得いかない模様。

 

「ちょっと、まだ話は終わってないよ」

 

カメラの青葉さえも那珂の前から離れ、天龍や川内らのもとへと行ってしまった。闇に一人残された那珂は、同じく闇の中で作業をする提督の下へと足を進めた。

 

「ねぇ提督、私帰って寝ていいかな」

 

そんな那珂の我儘に提督は怒ることはなく、手伝いで来てもらった朧に道具を渡して川内らのところへ向かわせた後、ゆっくり立ち上がり、那珂の肩に手を置いた。

 

「那珂ちゃん、釣りバカなアイドルもいいと思うよ」

「いや、別に私釣りバカじゃないからね。何よそもそも釣りバカアイドルってさ。船に揺られて歌えばいいの?マグロを一本釣りすればいいの?」

 

反発する那珂を無理矢理川内らの方へと向き直らせ、提督は肩を押しながら強制的に進ませた。

 

「ほらほら、皆待ッてんだから。期待に応えてあげるのもアイドルの仕事ッしょ?」

「だから私はこんな遅くに釣りなんてしたくないって・・・、ていうか提督、肩痛い!痛いよ!」

 

 文句を垂れる那珂が再び青葉カメラの映像に戻ってきたのは、十時五十五分。ライトが照らすのは選手三人。一番手前に嫌々釣竿を手にし、海に向かってしゃがんでいる那珂。同様に夕張、天龍と続いてスタンバイしていた。

 

「それじゃあ釣り対決、ミッドナイト・トローリング。プレイボーイ!!」

「ただの夜釣りじゃん」

 

名前に突っ込む那珂をよそに、三人は漆黒の海へと釣り糸を垂らした。すると早速、

 

「!?来てる、来てるよ!」

 

と那珂がヒット。カメラ脇で待機していた朧がタモを手に取り立上がった。その間にも那珂の釣り竿は水面に垂直になってしまうほど撓っていた。

 

「来てる来てる来てる!!すっげぇ!」

 

と夜間というのと相まって、テンション上がりまくりの川内。リールをゆっくりと回す那珂に川内は、

 

「那珂ちゃん立って、立って。それで岸に近づけちゃヤバいんだって」

 

その言葉通り那珂は立ち上がった。川内のレクチャーは続いた。

 

「それで、沖に行かせる感じで・・・」

「あぁバレた・・・・・・」

 

那珂の残念そうな声が闇へと溶けた。

 

「全然デカいけど。あんなもの引ける気しないけど」

 

川内の笑い声が静かな港に響いた。那珂の証言によるとかなりな大物のようだ。

 糸を巻き終え、エサを付け替えるために竿を置いた那珂は、

 

「ちょっと怖いなぁ。釣りが怖いってのは何よ、これ?」

 

と声を漏らした。

 エサを針につけ、コマセを多少撒いた那珂は再び釣り糸を垂らした。その態勢のまま、那珂は全く動かない。

 

「那珂ちゃんはねぇ、あれ寝てるんじゃないんだよ」

 

青葉が吹き出した。川内の那珂レポートは続く。

 

「あれは一心に竿先に集中してんだよ?だってまだ一匹も釣れてないんだから。そこで寝られるか!ってね」

 

それから数分後、那珂は態勢を変え、竿は海に向けたまま仰向けになった。虫の鳴き声が耳に心地よく感じられるほどの静寂に包まれた。その時、

 

 プッ。

 

という軽い音が那珂の近辺から聞こえた。その直後、天龍が小さな声で、

 

「来た来た来た来た!!」

 

と立ち上がり、それに朧もタモを持って向かう。少し騒ぎ立てた所為か、那珂も起き上がって天龍に顔を向けた。

 

「ああぁっ」

 

と天龍が竿ごと引っ張られそうになるほど、竿は海へと引き寄せられていた。激闘を繰り広げ、姿が見えたころ、朧がタモで豪快に掬い上げた。

 

「おぉやったっ!」

 

川内の声を皮切りに、天龍と朧から感嘆の声が自然と発せられた。釣り上げたのは三十センチから四十センチの鯛。その後釣り上げた鯛と満面の笑みの天龍のツーショットが撮られた。

 

「すごいねぇ、これは碇屋さんだったら、軽く50くらいかな」

 

 天龍、50ポイント獲得。そしてこの鯛を掬い上げた朧も「力持ち」と賞賛された。

 

「ありがとうございます」

 

と天龍は小さな声で述べた。

 

「やったー・・・!」

 

再び釣り上げた鯛とともに、天龍はツーショットを撮った。コイツこんな顔出来るんだ、と川内・青葉・朧・さらには提督までも思ってしまうほど、可愛らしい笑顔だった。

 鯛をクーラーボックスに入れて、那珂も竿を上げて準備をしていると、彼女らの背後から忍び寄る影が。

 

「あ、碇屋さん!やっぱり来た?」

 

 懐中電灯片手にやってきた、お隣の司令官。そしてこれの言い出しっぺこと碇屋提督が乱入。来るや否やクーラーボックスを開け、中を照らした。

 

「お、鯛釣った?やるねぇ」

 

と褒めている碇屋の前で、那珂がコマセを撒くと、

 

「ダメだよ!そんな遠くにやっちゃ、もっと手前に撒かないと!」

 

といきなり熱血指導を始めた。

 

「時々手洗いの水取り替えないと。汚い水で洗っちゃ意味ないだろ?」

 

三人に否応なしにとにかく指導する。すると、

 

「心配で眠れないんだよ」

 

とここに来た動機を言った。心配なのは彼女らの身の安全ではない。ちゃんと釣りができているか、だ。

 

「気になっちゃってしょうがねぇんだよ。眠いんだけどさ」

 

 眠いならそのまま寝てればいいのに、と碇屋を除いたその場にいる全員が思っていた。

 

「あんまり向こう照らしちゃダメ」

「は、はい」

 

突然矛先が向いたことに驚いた川内は、なぜこっちに?と不服そうであった。

 

「警戒心強いんだからあんなに照らしちゃダメ」

「はい」

 

返事をした川内の声は、かつて夜戦禁止令が下された時のそれと全く同じだった。そして指導に従った結果、画面は遠くに映る街灯を除き、光のない暗闇と化してしまった。

 

「今十二時・・・マルマルマルゴー」

 

川内の時報のあと、碇屋の指導が再開された。

 

「時々コマセ撒くんよ。なんか・・・コマセ全然やってないもんね」

 

どこか残念そうであった。

 

「コマセ、やって下さいよ。たまに」

 

見るに見かねた青葉の発言である。言い終えると川内が笑い出した。

 

「真剣なのは分かりますけど、コマセもね、やってくださいね」

 

青葉の言葉の間にも笑いが混じっていた。

 

「暗くてよく分からないけど・・・」

「ミセスは今コマセ撒いてんの?それ」

 

と川内が聞くと、静かにピチャンという何かが海に落ちた音が聞こえた。

 

「音がしました、ミセス撒いてます」

 

と青葉が報告した。

 

「ていうかもう・・・。明かりが四個しか見えないんですけど」

 

青葉が肩を震わせて告げた。その言葉の通り現在確認できるのは四個のみ。上部横に離れた二つと、その下に右斜めに狭い間隔で並んだ二つだけ。何も知らなければこれを星座と言われても、そう納得してしまいそうである。

 

「これは、上の二つは街灯だよ。下の二つはミセスとバリちゃんの懐中電灯だね」

 

川内の説明が終わったが、何せ暗闇であるため本当にそうなのかは分からない。勘違いの恐れもあるだろう。だが、そんなことはこの企画に何の影響も齎さないため、気にする必要な無し。

 

「コマセ撒いてくださいね」

 

とまた青葉が三人に言った。

 

「寄らないからね」

 

川内が続いた。すると撒く前に、

 

「来ました、来ました」

 

と那珂が動く。

 

「那珂ちゃん来た!?ライト!ライト!ライトオン!ライトオン!」

 

川内が持参した(照明用の)探照灯を青葉が点けると、そこにはリールを回し、果敢に立ち向かう那珂の姿があった。

 

「来てる来てる!」

 

朧も那珂に寄り、タモで海面の銀色の影を掬い上げた。釣り上げたのは天龍が釣ったものと同様の鯛。大きさは同じくらい。

 

「来ました!」

 

拍手喝采が巻き起こり、那珂にポイントが加算される。公平に天龍の時と同じポイントが入れられた。那珂が夜空に向け拳を掲げた。あれだけ嫌々言っていたのに、やはり釣れると嬉しいのだ。

 

「開始から一時間二十分経過、まだまだ序盤戦」

 

川内の報告のあと、

 

「はいそれじゃ頑張ってくださいね。ライトオフ」

 

と流れるように青葉は明かりを消した。辺りは再び闇へと帰っていく。と思いきや那珂の懐中電灯が点く。

 

「私がねぇ、飽きてきたなぁと思って寝ると来るんだよ」

 

次の準備をしながら言った。川内が反応して笑いだす。準備を終えると明かりは消えた。青葉が何となく自前の懐中電灯で那珂を照らすと、そこにはアスファルトに仰向けになり、手に竿を握った那珂の姿。

 

「「これがねぇ、新しい夜釣りのスタイル。その名も・・・・・・寝釣り!!」」

 

那珂と川内の息ぴったりの言葉に、珍しく青葉が声を高らかに笑った。

 

 

「現在、零時二十五分。マルマルニーゴー」

「日付が変って少し経ちました」

「三人のチャンピオンを目指す者たちは、寝釣りというのを!いよいよ完成させまして、寝そうになると、魚が来てビッと起きるという」

「無欲ですね」

「うん、無欲だね。ちょっと見てみようか、寝釣り」

 

 明かりが灯されると、そこには岸壁のアスファルトにそれぞれ違う方向へ頭を向けて寝そべっている三人。この長丁場、常に欲全開では身体が持たない。そこで編み出された、欲を釣りではない方へ向けることで、本来の目的など忘れて魚を寄せる無我の境地。これが寝釣りスタイル。

 

「まさに無の境地!!」

「無ですね」

「そうだよ、でもあれ寝てないよ?」

「寝てないんですか?」

「那珂ちゃん寝てないよね?」

 

 那珂は顔だけ起こして、こちらを見た。それと同時に天龍も手を動かした。しかし・・・。

 

「バリちゃんは、あれは半分寝てるね」

 

 青葉の息を殺した笑いが漏れた。

 

「これで、掛かった瞬間に皆バッと起きるから」

「そうですよね」

「だからこれは、ライトが点いた!=釣れた!ってことだから」

「そうです、そうです。・・・一端ライト消しますか」

「消そうかな」

 

 すると那珂が他二人を見た後、

 

「みんな寝てるの?」

 

川内たちに尋ねた。川内は「皆寝釣りしてる」と答えた。

 

「これはあれだね・・・」

 

と那珂が何か言いたそうであるため、川内は「何?」と訊いた。

 

「『来た!』って瞬間にパッと電気が点いてその人は良いんだけど、照らされちゃって来てもいないのに寝てる人たちはかわいそうだね」

 

川内と青葉が失笑した。その後那珂は「寝てる人たちかわいそうだな」ともう一度言った。そしてライトが急に消された。

 

「消されちゃって」

 

川内の笑い声の後、

 

「まだ喋ってたでしょ?」

 

という那珂の言葉に川内の笑い声は大きくなった。

 

「どうして消しちゃうの」

 

那珂の嘆きの横で、天龍は懐中電灯で水面を照らした。

 

「でっかいの、でっかいのいた!」

 

と興奮していた。バックヤードの神通も照らされたところを見て、

 

「わぁ、おっきい・・・」

 

と感想を述べていた。しかし、

 

「照らしちゃダメだよ」

 

碇屋の注意により明かりは消された。

 

「今叱られたのミセスさんですよ。軽く怒られました」

 

青葉が暗闇のため、念のために説明を加えた。

 

「今この三人よりも、バックヤードで釣りをしている、あたしらの提督である月潟さん。碇屋さんと友達だから色々頑張っちゃって」

「わぁ、あそこにいるよ。大きいの」

 

川内や神通らが騒いでいると、川内たちの提督・月潟が、

 

「みんなちょッと静かにしてくれ!集中してるから」

 

と周囲に注意を呼びかけた。

 

「真っ暗でも見えるぞ、あそこに」

 

しかし天龍は聞こえなかったのか、さっきの魚をまだ追いかけているようである。だが彼も話が届いているかはあまり気にしていないようであり、

 

「来てるぞコレ」

「来てるの?提督」

 

と何気なく発される言葉に、川内が何となく話を合わしていると、

 

「なんで提督が釣ってんのよ」

 

と那珂が突っ込み、それに川内が失笑した。

 

「提督が『静かにしてくれ』『集中してるんだ』何て言ったら本末転倒だよ。私たちは喋らなきゃいけないんだから、そうしなきゃおもしろくないんだから」

 

核心を言い切った那珂に月潟は、

 

「静かにしてくれ。集中してるんだ。きてるぞ・・・ッ」

 

と全く反省の色がない。しかし那珂も退かなかった。

 

「いいんだよ月潟さんは、私たちが釣ってんだから」

「きてるなぁ・・・」

「『きてるなぁ』じゃないって」

 

那珂も遂に失笑した。この男には何を言っても意味がないのである。

 

「予感がするね」

「予感が?」

 

とまた川内が月潟に合わせていると、

 

「今は夜間だけど」

 

と、横から碇屋がかましてきた。

 

「おぉ、碇屋さんのダジャレも冴える深夜零時半!」

 

川内が適当に世辞を言った。すると碇屋は、

 

「帰って寝ようかな。それじゃ頑張ってね」

 

と告げて帰っていった。

 

「碇屋提督ありがとう!」

 

那珂は去って行く男の背中にお礼を言った。碇屋が退場した後、何事もなかったかのように対決は再開される。川内はふと三人よりも、後ろで頑張っている月潟の方が気になって、少し眺めていた。闇になれた目は海面に浮かぶ彼のウキを捉える。しかしそれは波に揺られるばかりで、沈むことはない。

 

「・・・・・・・・・・・・提督。微動だにしないね。そのウキ・・・・・・」

 

川内はついそのようなことを口にした。

 

「かすりもしねぇなぁ」

 

とモチベーションの低下が目に見える提督をよそに、

 

「食べてるよ」

 

と那珂はヒットの予測を報告した。だが、

 

「あれ、バレたかな・・・。あぁっバレた!」

「ライト点かず!」

 

と川内と青葉は笑った。川内に至っては自分の言葉で笑っていた。

 

「お会いしたかったなぁ。視聴者の皆さんに」

 

と那珂は悔しがっていた。

 

「来てたんだけどなぁ」

「残念!ライトオフのまま!」

「しかしどうなんだろう、釣れないと・・・顔を見れないっていうのは視聴者にとっても、いいことなのかな。さすがに視聴者戸惑わないかな、この画面ずっと続くのは」

 

事実画面は真っ暗なまま、碇屋が去った後も彼の予期せぬ奇襲に備え、消したままなのだ。

 

「釣れないと!」

「釣れなくなっちゃうから」

「それが一番問題ですよね。別にこのままでも前代未聞で面白いですよ」

「おもしろいっつったって青葉ちゃんさぁ・・・」

「ミセス立ってる?」

「おう」

「何かあった?」

「魚に対するちゃんとした誠意を・・・」

 

 思わぬ行動に川内は笑わざる得なかった。

 

「こっちはやる気なんだぞって?」

「そう。こっちの気持ちも汲んでくれって」

「そういうことなのね」

 

川内は言いながらも声は震えていた。

 

「寝たままだといけないと思ってな」

「そうだね。ただね、那珂ちゃんは無の境地になってるからか、那珂ちゃんのとこには来るよ」

「そうだね、来るね。でも私にしてみたら・・・気持ちよくなったらくるもんだから、ちょっと鬱陶しいくらいだよ」

 

 人によってはこうも差が出てしまうのも釣りの楽しみであり、嫌なところである。

 

「ただ皆も魚はそういう意地悪なところあるから・・・。いっその事もう・・・、

 マジ寝してみたらどうですか」

 

那珂も自分でバカなこと言ってると自覚済みなのか、笑いを含めそう言った。

 

「『マジ寝釣り』ってのは」

 

川内の笑い声が夜空に木霊した。

 

 

そろそろ深夜一時になろうかという頃。

 

「また随分みんなと会ってないよ。真っ暗な画で進行してるよ。日本中が注目してるよ!皆さんの釣果を!」

 

 川内のその発言に、那珂は「そりゃあもう」と返した。

 

「日本中の釣りバカたちが見てるわけだもん。やっぱりね、釣れた姿をお目にしたい」

 

 那珂は深呼吸して、「よし」と静かにながらも力強く言うと、

 

「さて、私ちょっと真剣に・・・」

「真剣に?」

「マジ寝釣り入るから」

「皆静かに!集中!ということで。

零時四十五分。マルマルヨンゴー。那珂ちゃんがマジ寝釣りに入りました。

――提督はどう?」

「全く来ねぇなぁ」

 

 

 午前一時。

 

「青葉ちゃん、大丈夫?」

「・・・・・・・・・・・・ん、だいじょうぶです」

「青葉ちゃん、今ちょっとマジ寝に入ってた」

「何言ってんですか。ビンビンに起きてますよ青葉は」

「あっはっはっは!いやいや寝てたじゃん」

「そんなことないですよ。もうビンビンでギンギンですよ。朝方の提督のナニのように」

「来た来た来た!!」

「来た!?ライトオン?ライトオン!?」

「早く点けて!!」

「ライトオン!ライトオン!」

「朧ちゃん!網、網!」

 

 立ち上がった那珂の竿は明らかに撓っていた。それも不規則にピクピクと動いていたため、これは確実だ。

 

「おぉ来た来た!ちょっと小さいけど」

 

岸壁に寄せたところをすかさず朧が掬い上げ、見事那珂、二匹目を釣り上げた。さっきより小ぶりのため、30ポイント獲得。

 次の準備を整えると、那珂はおもむろに仰向けになった。そして光が差したこの場も、また闇へと戻っていく。

 

「真っ暗になるんだよなぁ」

 

川内が笑いながら呟くと、

 

「どうやって魚に影響を与えずに明るく撮るか?ってのを必死に考えてくるはずだよ?普通はさぁ。

『ライト点けたら魚捕れないよ』

『おおぉ!じゃあ消そう』

なんてさ、出演者が映んないってのは・・・。この決断は易々できることじゃないよ」

「普通はしないよね」

「うん、普通はしないよね。やっぱり人を映しちゃう」

「だから釣れない!」

「そう、大事なのは何か?『釣る』ってことだから」

 

 川内は那珂が語りながらも皮肉言ったことに気付いているのか、それは分からない。

 

 

「えー、午前一時二十六分。マルヒトニーマル。遂に那珂ちゃんがマジ寝釣りに入って」

「あれは寝息でしたね」

「うん。完全にね」

「当たりが全く来ないですもんね」

「うーん、やっぱり時間帯ってのもあるのかもね」

「そうかもしれませんねぇ」

「早くね、ミセスとバリちゃんの声が聞きたい。元気な声が聞きたい」

「どうしているんでしょう」

「今どうしてるのか?視聴者の皆さんも気になるところ」

「――おい青葉。今更なんだけど」

 

 唐突に月潟が割り込んできた。

 

「なんですか」

「お前最後に那珂が釣れる直前にさ、思いッきり下ネタ言わなかッたか」

「・・・・・・・・・・・・何の話ですか?」

「いや、覚えてないなら別にいいんだけどさ」

 

 

 

「えー、午前一時三十二分、マルヒトサンニー。現在の状況はこのように・・・」

 

そう言って川内が懐中電灯で照らしたのは、那珂、夕張、天龍の三人。オールマジ寝である。

 

「全滅してるじゃないですか」

「これはひどいなぁ」

「ひどいですね」

「バリちゃんは竿持ってないね。竿と懐中電灯間違えてるねアレ」

 

 夕張にズームすると、確かに手に握っているのは釣竿ではなく、懐中電灯であった。竿は据え置きされていた。

 

「竿握んなくちゃいけないのに・・・。アレまた碇屋さんに怒られるね」

「これこういうキャンプなんですか?」

「違うよこれは熱戦だよ。せっかく離島まで来てるんだから。

 ――まぁ定時報告ということで、ライトオフ」

 

 

 午前二時十分。

 ついに当たりが途絶えた。那珂もエサを取り替え、新しいエサを点けて海に放る。

 

「さぁー那珂ちゃんがまたもや寝釣りの態勢に入りましたよ」

 

と、自ら実況し始めた。

 

「これは長期の待ち時間を想定した釣りスタイルだよね」

「そうだね。今頃ファンは

『おーっと那珂ちゃん、入ったかぁ』

と唸りましたね」

「ファンが唸ったね」

「『入ったぞ、那珂ちゃんが寝釣りだ』」

 

 これまでとは一変して楽しそうでもある。深夜特有のハイになっているのか、しかしこうでもしなければ楽しめないのだろう。

 

「靴を、枕にしてるんだよね」

「靴を?」

 

川内が笑って聞き返した。

 

「枕・・・靴しかないんだもん。あとは全部コンクリに寝てるからね。

『硬いぜアレ』

『でもあれで那珂ちゃんは何時間でも待つんだぜ』

寝釣りファンと私のファンは言うんだよ」

 

ここからしばらく那珂と川内の実況が始まる。

 

「果敢に攻めてますね、那珂ちゃん」

「これ攻めのポーズなんだ?」

「明らかに攻めだね」

「もう二時十分。那珂ちゃん二度目の寝釣りに入りました!」

「入りましたね」

「おーっと、バリちゃんも寝釣りに入った」

「バリちゃんも入った?」

「奥のミセス天龍もさっきから寝釣りの態勢に」

 

 那珂が「あー」と小さく唸った。

 

「これで、三人三つ巴で寝釣りの態勢に入りました。日本を代表する、寝釣りの三人衆ですね」

「そうだね。 寝釣り御三家 だね」

「長期戦に強いこの三人、トーナメントに勝ち残りましていよいよ!この決勝戦。巴戦になりますのでね」

「そうですね。まだ二時半」

「那珂ちゃんの仕掛けはほかの二人は『まだ早い!』と見てますね」

「なるほど、那珂ちゃんは午前一時の段階で一回マジ寝釣りに入ったからね」

 

 那珂が失笑した。

 

「マジ寝釣りに入って、足を引っ張られる夢を見たと」

「夢で・・・目覚めてるからね」

「そして改めて寝釣りと」

「そうだね。若きホープ・夕張は途中マジ寝釣りに入りまして、竿と間違えて懐中電灯を掴む!という・・・。これは寝釣りの中でもかなりトリッキーな荒業、寝ボケ釣りを」

 

と、川内と楽しそうに歓談していると、那珂の竿が撓りだした。

 

「おっと来た来た!」

「来た!?ライトオン!」

 

約一時間ぶりのライトオン。

 

「おっと、バラしたか?」

「バレちゃったかぁ?」

「久々だったなぁ」

 

苦汁をなめたような顔をしていると、伸びた竿がまた水面に向かう。

 

「来てるよ那珂ちゃん!」

「おっ!おっとこれは何?」

「ミノカサゴじゃない?これ」

 

朧が躊躇なくタモで掬い上げると、網の中のそれは花びらのような色と鰭を持つ魚だった。

 

「これやっぱりミノカサゴだよ。毒だよ毒」

「えぇ?ほんとに?」

「えらいもん釣ったね那珂ちゃん」

「ヤバいもの釣っちゃったよ・・・」

「これ、珍しいかな?60くらいいっちゃおうか」

「おぉ、やった!」

 

 那珂、現在140ポイント。ダントツ一位。

 釣り上げたミノカサゴをとりあえず陸にあげ、どうするのか迷っていると、川内が、

 

「提督・・・」

「何」

「これの毒をさ、兵装に使うってのはどうよ」

「使えたらとッくにほかの毒で採用されてるはずだろ?いいから逃がしてやれ」

「ちぇ、つまんないの。提督のご飯に入れてやろうかな」

「川内が捌いて唐揚げにでもしてくれるならいいが」

 

 従わないと面倒な作業と、また夜戦禁止令を下されるかもしれないと危惧した川内は、素直に従うことにした。ミノカサゴは針を切ってリリースすることになり、那珂の「バイビー」という言葉で海に放られた。水を得たミノカサゴは、しばらく水面近くから離れず、彼女らを下から睨んでいるようであった。

 

「怒ッてるなぁ」

 

と月潟が呟いた。

 

「あーっとまた那珂ちゃんが寝釣りの態勢に入った!」

「えぇ那珂ちゃん、入ったよ」

「ミセス天龍も寝釣りの態勢に入った!」

「入りました、入りました。

『寝―釣―り!寝―釣―り!寝―釣―り!』」

「寝釣りファンからの、寝釣りコールが起こってるね」

 

 その後も那珂が一人で寝釣りコールをしていた。

 

「さぁバリちゃんも寝釣りに入った」

「『またも三人、寝釣りの態勢。深夜二時を回りましても攻めの態勢を崩しません!巴戦となりました、この戦い。優勝するのは一体誰なのか』」

「じゃあ、そろそろライト・・・オフにしても」

「ライト消せー!ライトを消せー!」

 

 寝―釣―り!寝―釣―り!寝―釣―り!

 寝釣りコール(那珂の自演)は夜空に溶け込んでいく。

 

「那珂ちゃん、久しぶりのライトオンだったね」

「そうだね、観客のボルテージも一気に上がったね。ライトを点けた瞬間に、

『誰なんだ!』

『那珂ちゃんだァーッ!!』」

「そして今再びライトオフ!しかし鳴りやまぬ寝釣りコール!まーじー寝!まーじー寝!」

「『おっと、マジ寝コールだ!最初にマジ寝できるのは誰なのか?』」

 

 その時だった。

 

ブッ ブゥ。

 

パンドラの音を我々は聞いてしまった。

 

「ちょ、那珂ちゃん。アイドル以前に女の子の自覚持って」

 

川内が笑いながら那珂に訴えた。

「今のは聞き間違いであります。アイドルはオナラなどいたしません」

「じゃあ今の闇をつんざく爆裂音は何なのよ」

「・・・・・・それは、その」

「寝―っ屁!寝―っ屁!」

 

と川内が寝っ屁コールをすると、もう那珂もどうでもよくなったのか、

 

「『決してマジ寝はさせないぞ!と相手二人を牽制した那珂ちゃん。この時間にマジ寝されたら厳しいからね。攻撃的な、非常に攻撃的な釣りを展開しております。

 本大会の厳しい所は”小さな椅子すらない”。那珂ちゃんは先ほどから寝釣りしてますけれども、彼女はこれ短パンですから、ふくらはぎに小さな砂利が当たってましてですね。実に先ほどからチクチクとするなかでの・・・、それでも那珂ちゃん何度かマジ寝を決めてますからね』」

 

 川内・青葉・那珂の三人の笑い声が暗闇の静寂を壊す。

 

「『高いレベルの技術が必要なんですね』」

「バリちゃんもマジ寝釣り一回決めてるけどね」

「『えぇバリちゃんも決めてました』」

「ただそのマジ寝釣りをやってる最中に握っていたのは、釣竿ではなく懐中電灯だったと」

「『あそこは非常にトリッキーな技でしたね』」

「ミセス天龍は・・・ポジションを変えたね」

「変えたの?」

「腰の下にね、竿を入れて。ある意味足技を使っていると」

「『ミセス天龍の足技は気を付けなきゃいけませんね』」

「彼女、手の方はフリーだから、マウントポジションを取ってね、那珂ちゃんに乗っかって、連打!連打!なんてことも彼女できるから」

「『ミセス天龍の技は、もう那珂ちゃん研究済みですから、足技には気を付けてるはずですね』」

「ていうかさ、何の競技なの?」

 

 突如那珂を電灯が照らした。

 

「おっと、予期せぬライトオンですよ」

 

と照らされた那珂が川内らに顔を向ける。

 

「サブライトが光っております」

「釣りファンには目が離せないよね。このミセス天龍と那珂ちゃんの接近戦!まんじりともせず眺めていると」

「息詰まる肉弾戦に観客からはため息が漏れてますね」

「寝―釣―り!寝―釣―り!」

 

 川内の寝釣りコールでサブライトは消灯した。

 

「サブライトタイムは終了しまして、再びライトオフですね」

 

 闇に包まれたところで、テープを替えるために青葉はカメラを止めた。

 

 

 時刻は午前二時四十分。テープを交換し、撮影を再開するも、画は依然として暗闇のまま激闘は続いていた。

 

「昨晩のこの時間は、もうカエル探しも終わってたかな」

「あー・・・そうですねぇ」

「それを今、超えようとしていると」

 

川内と青葉が昨日を思い返しつつ、現在と対比していた。

 

「これは厳しい戦いになってきたねぇ、離島決戦は」

 

川内らが敢えて口にしなかった言葉を那珂が代弁し、改めて昨日を含めて、この離島での数日間を思い返していた。

 

「那珂ちゃんさぁ『甘い!』『ゆるい!』とこの決戦を前に吐いていたけど」

 

 そうねぇ、と一言漏らした後、

 

「まぁ、過酷ではあるけど。これ、しかし画はゆるい!」

 

と大きく言い切った。その後も、「あまりにも画はゆるいね」と重ねて言った。それに川内も笑いつつ、「ゆるいね」と彼女の言葉に同意を示した。

 食らいつくのを待つ間、寝釣りスタイルの那珂はただ、闇夜の星空を眺めていた。真っ黒い絨毯に宝石を散りばめたかのような美しい空。もう星座を結ぶ星がどれなのかさえさっぱり分からないほどの星々が煌めいていた。夜間の出撃の際に「星を読む」というような用途で夜空を見ることはあっても、こうじっくり見ることなど全く無かった彼女にとって、これだけの星空を観賞するというのはとても貴重なことであった。

 

「――!!おっと那珂ちゃん今流れ星を見たよ!」

 

那珂はいきなり大声でそう発言した。

 

「那珂ちゃんに吉兆が!?」

 

と川内が反応すると、

 

「短い間に『お金が欲しい!』と心で願った那珂ちゃんであります!」

 

那珂のお願いは、”願い”というよりかは”欲望”であった。アイドルだってお金は欲しいのである。恐らく提督は少し複雑な心境になった・・・いや、そんなことより竿先に集中していて、那珂の願い事は彼の耳を右から左へ抜けていったに違いない。

 

 午前二時五十分。

 

「相変わらず私たちの過酷さは伝わってないんだろうなぁ」

 

 那珂は暗闇の中で星空を眺めながら呟いた。その傍ら、川内の少し抑えた笑い声が覆う。

 

「どのくらい伝わるんだろう・・・・・・。この・・・コンクリートでもうかれこれ・・・。もうかれこれ二~三時間は寝釣りの態勢に入ってるよね」

 

 入ってるねと川内は返答した。

 

「ちょっとお金に困っている学生でも、もうちょっといい寝方をしてると思うよ」

「まさかコンクリに寝かせられるとは思っていなかった?」

「そうだね・・・。コンク・・・漁港一泊だからね、これ」

 

 川内・青葉だけでなく、カメラ後方の神通の笑い声も混じった。

 

「那珂ちゃん。ずいぶんと、この島に来る途中に寄った、別の島での八畳の和室に文句を言っていたけど。今となっては天国のような八畳間!!」

 

 そうだねぇ、という小さく弱弱しい那珂の声が闇に浮かぶ。

 

「今や・・・離島の漁港に一泊!!」

 

 那珂は笑いで途切れ途切れながらに、川内の言葉を繰り返していた。すると夜空を一筋の光が細く、長く闇を裂いていった。それを目撃した那珂は、

 

「!!?おっと流れ星がまた流れた!!」

「あはははっ!那珂ちゃんに吉兆だ!」

「あーまたもや流れ星が・・・」

 

 闇夜に呟くその声はどこか寂しそうであった。

 

「油断したなぁ・・・。『布団で寝たい』と願えばよかった・・・」

 

 那珂の切なる願いであった。しかしそれは叶わない。

 

「時すでに遅し・・・!願い叶わず・・・。那珂ちゃん、漁港一泊!」

 

 那珂のその悲しい宣言に川内の笑い声は大きく響く。星空を揺るがさんとばかりであった。そして追撃を加えんと言わんばかりに、

 

「まーじー寝!まーじー寝!」

 

という川内のコールもまた、静かに響くのであった。

 一方、川内や那珂らの司令官こと、月潟提督はというと。

 

「――この戦いに直接は参加していないんだけど、特別参加のヘンタイ・・・月潟提督。未だにね、微動だにしないウキ釣りを、さっきから場所を変えつつ・・・」

 

自身の上官を嘲笑し、笑いを堪え切れなかった川内は最後まで言い切らずに高らかに笑った。少し落ち着かせてから、川内の実況は再開した。

 

「ただ提督は寝ていないね」

「月潟提督ともなると、漁港一泊だけは避けたいところ」

 

という那珂の割り込んだ実況に川内らは失笑した。

 

「提督はまだ漁港一泊ではない!座ってるね・・・。ただもうウチの神通の方はもう既にマジ寝に・・・」

「おっと我らが次女も漁港一泊!」

 

 遂に艦娘も落ちてしまった。笑いながら川内は、

 

「ピンピンに伸びて寝てるよ・・・、コンクリの上でさ」

「ギャラリーでの宿泊者は初めてじゃないかな?『ここにきて次女・神通ちゃんも、漁港一泊を決めてかかったぁ。次々宿泊客が増えていくこの港!』」

「あ、よく見れば朧も寝ちゃってるね」

 

 那珂もう寝たまま朧を確認すると、タモを持ってはいるが、舟を漕いでいた。コンクリートに座してタモを持って寝ている彼女の姿はまるで・・・。

 

「朧ちゃんは・・・用心棒みたいだね、あれ」

 

 笑いっぱなしの川内は、神通と朧を眺めていると、あることに気付く。

 

「これ、朧はまだ近いからいいけど。このまま朝まで寝てたら神通は轢かれるよ。観客席でのマジ寝!」

「観客席にもマジ寝している者がいるぞ。朝になるまでにはチェックアウトしたいとこ果たして神通ちゃんは日の出までに起きるのか!?」

 

 神通から目を逸らした川内は、提督の動きを察知した。

 

「おっと、提督が・・・。またあれポイント変えるんかな?」

 

 すると那珂は、思い出したように語り始めた。

 

「月潟提督といえばね、一昨日に三年間連れ添った携帯電話と別れ、新しい携帯電話を購入しまして。新しい機能がどうとか、画素がいいだの散々ウザったいほど自慢をして回っていました」

「確かにウザかった。意味もなく写真撮ったりしてキモかったって鈴谷が言ってた」

「勿論ここへも所持してきて、昨日の夜に夜道を照らすためにライト代わりにしていました。しかしその時お酒が入っていたこともあって手が滑ったんだね。落としたんだよ、そして咄嗟に蹴っぽったんだ。したらそのまま歩道を超えて道路へ飛び出し、たまたま通りがかった大型トラックに潰され、その携帯が壊れてしまいました!」

「見事だったね。みんなで『あ』なんて揃っちゃって。次の瞬間には『ペキョ』なんて弱っちい音と共に潰されたもんね」

「”愛しの秘書”に連絡を取ることもできず、離島で人知れずパニックに陥った月潟提督。しかし今見つめるのは艦隊や日本の将来よりも、目の前にあるウキ一つ!!目の前のウキが『ちょっとでもいい、動いてくれッ!』」

「月々の給与は上下しても、ウキは動かないぞーッ!!」

 

 楽しそうな笑い声が夜空を覆う。川内と那珂による、シンクロ率120%越えの実況という名の嘲笑。それに月潟提督は耐え切れなくなったのか、

 

「うるさいッて」

 

と、注意するも、その声にはわずかに笑みが混じっていた。

 

 

 午前三時。草木も眠る丑三つ時。

 

「――やっと、三時。激闘四時間」

「四時間も経ちましたかぁ」

「バリちゃんは二度目のマジ寝に入ったね。さっき鼾のような寝息が聞こえたから」

 

 草木も眠るように、人もまた眠るのである。たとえ釣り、激闘の最中にあっても。

 

「ちょっとバリちゃんの様子を・・・見てみようか」

 

 川内の言葉に青葉も断る理由もないため、提案に乗った。川内による寝釣りレポート開始。

 

「こちらが釣りバカアイドルこと、那珂ちゃん(16)」

 

 仰向けの態勢で両手にしっかりと竿を握っている。しかし握っているように見えるだけで、実際に握力がかかっているのかどうかは不明。午前三時の段階では当たりなし。

 

「こちらが遠征総隊長、天龍(20)」

 

 横向きの態勢で、竿をあろうことか股の間に挟むという足技の使い手。だがグリップにはしっかりと手が捕まっていて、まだ勝負を諦めていないという心意気が伺える。尚、懐中電灯の明かりと、川内と青葉の笑い声で目を覚ました模様。当たりなし。

 

「さぁそしてこちらが・・・。バリちゃん(15)だね」

 

 竿ではなく懐中電灯を掴むという寝ボケ釣りの使い手。今は仰向けになりながらちゃんと竿を握っていた。レポートをしようとしたその時、夕張の足が突然激しく揺れ動いた。その様子を見た川内は思わず吹き出してしまった。

 

「どうしたの!?バリちゃん」

 

 夕張は眠気眼をわずかに開け、明かりの方に顔を向ける。

 

「今、完全に寝てたよね」

「――今、ちょっと意識が飛んでましたね」

 

 敢えて”寝ていた”と言わないのには何か理由でもあるのだろうか。

 

「遠くからでもね、バリちゃんの鼾っぽい寝息が聞こえてたんだけど。今、顔を照らされた瞬間、ビクッとしたけど何だったの」

「――いやぁ、不意を突かれましたね」

 

どうやら川内らの懐中電灯の明かりが顔に当たったため、ジャーキングを起こしたらしい。

 

「寝ている時にあまり照らされることがないもんだから・・・、びっくりしたんでしょうね」

「そうだよね、全身の神経が過敏に反応してたもんね」

 

 夕張のジャーキングへの感想は程々にして切り上げた。あまりいじると拗ねてまた引き籠りかねない。夕張は意外とデリケートな心の持ち主である。

 

「今ね、午前三時」

「あら、もう?でもまだ諦めませんよ!」

「じゃあ、頑張ってね」

 

 そういうと夕張から引いた。そして、

 

「厳しい戦いが続いております」

 

と、青葉が総括して一言述べた。その直後、

 

「バリちゃんは完璧もう漁港一泊!」

 

 レポートを終え、二人が定位置に戻って間もなく、

 

「来た!」

 

という小さくも力強い天龍の声が闇を穿つ。

 

「来た?ライトオン?ライトオン?」

 

と川内が焦りながらも確認を急ぐと、那珂も、

 

「ライトオン!」

 

と言ったため、青葉はスイッチを入れる。するとそこには蹲踞で竿先に集中する天龍の姿。しかし、彼女は竿先を見つめたまま微動だにしない。見かねた川内は、

 

「バレた?」

 

と尋ねるが、天龍の竿先は小さく震えた。

 

「来てる」

 

そう一言言って立ち上がった。久々に朧も出動し、タモを持って背後に詰め寄った。何のアクシデントもなく、順調に竿を引いて朧がタモで掬う。釣れたのは以前と同様の鯛であった。

 

「ミセス、50ポイント獲得!」

 

カメラが映した釣果の後ろで、那珂がミセスの追い上げに唸っていた。

 

「ミセス、これあと70ポイント取れば逆転できるよ」

「あー・・・」

 

逆転の可能性を示唆するも、天龍はあまり希望に満ちてはいないようであった。

 

 

 午前三時三十分。

 手持ちの懐中電灯が那珂と天龍を照らす。波の音も静かで、虫の声が心地よく耳に入ってくる。

 

「――厳しい戦いですねぇ」

 

そう呟いた青葉の言葉を、那珂は繰り返しながら笑った。

 

「まだ釣りを止めないのかー!」

 

という川内の芝居が入ると那珂も乗じ、

 

「視聴者からはね、『もうやめさしてやってくれ!』と、只今抗議の電話が殺到しております。どうぞ深夜ですのでお間違えの無い様に!」

 

 実際はそんな電話はありません。

 更に川内の芝居は続く。

 

「『彼女らは全く釣る気なんかないじゃないか!』『港に一泊ってないじゃないかぁ!』」

 

川内が吹き出して止まった隙に、

 

「『彼女らは竿を押さえてるだけじゃないか!』『釣りでもなんでもないじゃないか!』『引けばあげてるだけじゃないか!』『彼女らは竿を押さえてるだけだ―!放すと落ちちゃうから・・・』」

 

という那珂の追撃が川内らを襲い、それに耐えられなかった那珂・川内・青葉は笑っていた。

 

「『碇屋提督に怒られるから持ってるだけじゃないか!』」

 

川内もまだ笑い声がなくならないままで、芝居を続けた。それに那珂は、

 

「『碇屋提督にもう返してこーい!』抗議の電話が殺到しております。どうぞお間違えの無い様に!深夜です!かけ間違えの無い様に」

 

また架空の抗議に対して注意を促していた。言い終えて静寂が戻った束の間、天龍が寝がえりをうつと同時に竿を股に挟んだ。それを見逃さなかった那珂が口を開く。

 

「『またも・・・二本の足に竿を挟みまして・・・。碇屋提督は言っていた・・・、汚い手で触ると竿が臭くなる』」

 

 例の三人が失笑した。しかし那珂はそれでも続ける。

 

「『しかし天龍ちゃんは・・・、その竿を股間で挟んでいます!碇屋提督には見せられない!』」

 

 那珂は一息ついて今度は、

 

「『ダメだよそんなとこで挟んじゃ!それ臭いが付きやすいグリップだからさぁ』」

 

と、低音を効かせたどことなく碇屋提督に似ているような声色で、那珂は天龍に注意した。

 

「碇屋提督からの注意が聞こえてくるようであります」

 

その那珂の言葉が終わると同時に、ライトは消され闇が支配した。その時、

 

「布団で寝かせてやってくれー!」

 

と川内が視聴者のフリをして抗議すると、

 

「視聴者からの抗議が続いております。どうぞお間違えの無い様に!深夜です!おかけ間違えの無い様に」

 

と那珂が例の注意をまたしても繰り返した。

 

 一方その頃、月潟提督は依然として孤独な戦いを続けていた。一人ウキ釣りを続ける彼は、場所を変えつつ行うあまり、港の端まで行ってしまっていた。端とは言ってもそんなに広い所でもないため、彼の状況は川内たちのところからでも十分伺える。川内は彼の様子を何度か見ているが、やはり・・・。

 

「――やっぱり提督のウキは、微動だにしてないね」

「もう一人孤独な戦いを繰り広げている、我らが月潟提督」

 

那珂の実況芝居が始まる。

 

「月潟提督に激励のFAX・メールが届いております。

――頑張って下さい!月潟さん!――

――ウキが沈むことを願っています。――」

「激励のFAXをお待ちしております」

 

という川内の言葉の後には、やはり、

 

「深夜です!おかけ間違いの無い様に!」

 

那珂の注意が入った。

 

「もうかれこれ三~四時間。ウキは微動だにしていません」

「っくっしゅ!」

「おっと!くしゃみだ!」

 

 天龍の突然のくしゃみに若干ざわついた。

 

「風邪かな?」

 

と那珂が嘲笑うかのように言うと、天龍はゆっくりと立ち上がった。その様子を川内は手持ちの懐中電灯で照らす。

 

「おっと!上着を取りだしたぞ!」

「おっと寝冷えだ」

 

川内と夕張による実況で、この場の天龍を除く四人は声を高らかに笑った。上着を着た天龍を照らすと、場所を変えた夕張は那珂と天龍の間で寝釣りをしていた。その横で那珂の実況が再開される。

 

「観客席から悲鳴が聞こえております。彼女だけは歳が違うじゃないかー!」

 

そんな実況をよそに天龍は、再び仰向けに寝そべる。

 

「そして・・・寝釣りに入った!」

「観客席からは拍手が起きております!」

 

川内は拍手をして観客を演じていた。拍手を止めると、

 

「ミーセース!ミーセース!」

 

寝釣り・寝っ屁に続いてミセスコールが巻き起こる。・・・とは言っても言っているのは川内一人。

 天龍の寝冷えの件が一息つくと、那珂は言った。

 

「やめさせろー!せっかく碇屋提督がいないんだ!」

 

那珂による抗議が起こる。それに夕張が思わず吹き出していた。抗議は続いて、

 

「碇屋提督だって寝てるんだぞー!」

 

という文句も空しく闇に響くだけであった。

 

 

 午前四時。

 

「――お!?ニワトリが鳴いた」

 

 一番鶏が鳴き、長かった夜釣りも佳境に近づきつつあった。

 

「おっと、ついに青葉ちゃんも寝釣りに入った!午前四時!マルヨンマルマル。」

「『この時間から寝釣りに入ったら、即!マジ寝の可能性ありますよ』」

 

と那珂が指摘した。

 

「”寝釣り”から”マジ寝”と?」

「半袖で寝るのは危ないよ?大丈夫?」

「青葉ちゃん・・・、完全に半袖だね」

「あーこれはいけない」

「寝冷えの可能性あるね」

「カメラマンは重要だからね、ウチにはまだ代わり務められる子いないから」

「青葉ちゃんくらい寝かせろー!カメラなんか据え置きじゃねーかー!」

 

と川内が再び観客を演じ、抗議をすると、

 

「ライトぐらい川内が点けろー!」

 

と那珂は尤もなことを言った。

 

 

 午前四時三十四分。

 

「――えー、那珂ちゃんが二度目のマジ寝をして、『夢の中でアタリがあった』という報告が」

「ありましたか」

「うん」

 

 以上定時連絡終了。

 午前四時四十五分。

 

「――ちょっと」

 

そういうと川内はコンクリートに寝そべった。夜戦バカで有名な、典型的夜型少女の川内もさすがに明け方が近くなってくると疲れるのである。

 

「これは気持ちいいねぇー。仄かにコンクリートが・・・」

「あったかいですよね」

「うーん、いいねぇ」

「あ!また流れましたよ」

 

コンクリートの温もりに浸っていると、青葉が星空に指をさす。

 

「流れ星を見るねぇ・・・」

 

彼女、川内も夜型生活を送っているため、星を見ることなど日常的。だが思えば艦娘になってからというもの、民間人として生活していた時のように観賞するという意味合いで星空を見上げることなど、極稀にしかしたことがなかった。彼女の上を星は一つ、また一つと黒地に白線を描き消えていった。

 

「うわあぁ~」

 

 欠伸をしながら近づいてきたのは竿を持った、月潟提督。どうやら結局釣れなかった模様。

 

「おっ、提督もどうよ、寝ない?」

 

一見すると誤解を招きそうな誘いに彼は乗って、川内と少し間をあけ、釣り糸を垂らして寝そべった。遂に提督までも寝釣りに突入。

 

「すげぇなぁ・・・」

「星空すごいよね」

 

感想を呟く提督に話を合わせるも、彼もまた夜空に魅了されていて、会話はすぐに途切れた。

 

「――いったいいつになったら朝になるんだろう」

「どうしたよ、川内らしからぬ発言だぞ」

「だってさ、もう四時・・・ていうか五時近いよ。それでもまだ真っ暗じゃん」

「お前の大好きな夜だぞ」

「いつものあたしなら仕事終わらせてもう寝る準備済ませてるし、あわよくば寝てるよ」

「案外、日の出前に寝てるんだな」

「そりゃあ朝になったら、周りがうるさいからね」

「夜に喧しいのは川内ですけどね」

「青葉ちゃん、うるさいよ」

 

 何気ない一言で少し続いた会話もまた途切れ、再び静寂がこの場を包む。

 

「おッ」

「あ!」

 

青葉の声に反応し、月潟は起き上がる。竿を見ると震えながら撓っていた。思わず勢いよく引いてしまい、

 

「ああ・・・、食べられたぁ」

「食っちゃった!?」

「今来たんだけどなぁ」

「来たの?やったじゃん提督」

「来たけど、迂闊にも寝てたわ。俺・・・」

 

 川内が笑っている横で、竿をあげると月潟の仕掛けが丸々持っていかれていた。

 

「迂闊にも・・・」

「切れるっつったら相当なもんじゃない?」

「すげぇ強かッたんだよ。かなり強烈な」

「強烈だったんだ」

 

 そして・・・、

 

「午前四時四十五分、提督無念!」

「無念!」

「終了!」

「試合終了!」

 

川内の言葉を反復させ、三人とは別に孤独な戦いを繰り広げた男の戦いは、釣果無しの挙句、仕掛けを持っていかれるという最後で締めくくられた。

 

 

 午前五時。

 久々のライトオン。そこには寝釣りをする那珂と、起き上がった天龍、胡坐の夕張がいた。

 

「えー釣りバカの皆様。午前五時になりました。この決戦の終了時間を、午前六時といたします!」

 

ようやっと終わりの時間を告げた川内は、

 

「みんな焦りの色が見えてきているけど、もっとやれ!もっとやれ!という声も聞こえるけど、ごめんなさい!午前六時にて終了とさせていただきます!」

 

誰がそう望んでいるのか分からないことを言った。すると那珂は、

 

「充分だよ」

 

と吐き捨てた。

 

「じゃあ、あと一時間頑張って!いくぞ!夜釣りよ今夜もありがとう!ライトオフ!」

 

暗闇に戻った。・・・と思いきや、川内は懐中電灯を取りだして、

 

「こちら、那珂ちゃん。こちらやる気十分ミセス!そして・・・・・・・・・・・・あ、いたいたバリちゃん!」

 

と一人一人照らして報告をしていた。

 

「息詰まる熱戦!・・・・・・・・・・・・ライトオフ!」

 

と付け足してまた闇へと戻った。

 

「戦いに入ると電気が消えちゃうってのが・・・何とも・・・・・・。『いきましょう!ライトオフ!』見えなくなっちゃうってのは、何とも矛盾を抱えた企画だねぇ。歯がゆい」

 

 過酷にして歯がゆい。これこそこの戦いに相応しい言葉であった。

 

「来た!?」

「お!?来た?」

 

 ライトオン!遂に夕張にヒット。・・・かと思いきや。

 

「いませんでした」

「は?」

「違いました」

「違った?ふ~ん・・・。ライトオフ」

 

川内のその声はとてもつまらなそうであった。

 

 午前五時十五分。

 遂に闇の世界も終わりを告げる時が来た。黒かった空が瑠璃色に染まってゆき、釣りバカたちの正面の空が明るくなりつつあった。彼誰時である。

 

「うっすらとは・・・見えてきましたね」

「いよいよライトオフでも、三人の様子がうっすらだけど分かるようになってきたよ」

 

 そして黒の支配は終わり、空の大半が蒼くなり、夜明けがやってきた。

 

「さぁ、ミセス、バリちゃん・・・がんばれ」

 

 勝者の余裕というやつなのか、逃げ切ろうとゆう素振りを見せず、那珂はただ寝釣りを続けていた。

 

「――いやぁ綺麗ですねぇ」

「星がいっぱいだったのにね」

「そうですね」

 

 東雲の空を見て、時間の経過を改めて二人は知った。もう戦いも三十分もない。いよいよ佳境である。

 

「ライトオン」

 

突如そう告げたのは夕張。今度は竿先が真下に向くほど撓っていた。夕張も思わず引き上げようと必死である。

 

「これはデカい」

「バリちゃん!無理に引っ張っちゃダメ!」

「無理に引いちゃダメだよ」

 

という川内と那珂の助言通りにするが、それでも全く動かない。もしや・・・と誰もが思った。そしてそれを青葉が口にする。

 

「根掛かりですか?」

 

 すると夕張は一つ嘆息をして、

 

「根掛かりです」

 

と虚しそうに告げたのであった。

 

 

 午前五時五十分。

 日の出も間近で、空はすっかり朝の色。

 

「神通、おはよう」

「・・・おはようございます」

 

ギャラリーで宿泊していた神通がようやくチェックアウトした。そして川内に歩み寄って、背中を指して何か言っているようである。

 

「えー、これだけ頑張っている釣りバカの皆さんに一言の労いもなく!『あせもできちゃった』と吐き捨てるように神通が目覚めたよ」

 

 ふと岸壁に打ち寄せる水面に目を向けると、そこには小魚が大量に寄ってきていた。

 

「これ追って大きいのくるからね、ねぇ神通」

「来る」

 

投げやり感が嫌でも伝わる返答である。

 

「来た!」

 

終わり間際に那珂の竿にヒット。これまでで最大の引きを見せいていた。先ほどの夕張の根掛かりと同等の撓りを見せていた。

 

「動かないの?」

 

と尋ねると、那珂はただ頷いた。睨み合いが続いた後、竿に動きがあった。

 

「来た!動いたら上げる!」

 

と川内も鼓舞していた。その言葉通り、獲物はだんだんと近づいてる。遂にその影が水面に姿を見せる。

 

「おっ!・・・おっ?ちっちぇえなぁ、おい!」

 

朧のタモで掬い上げられたそれは、二十センチにも満たない魚だった。

 

「に、ににに20ポイント!」

「いやぁ、すごい引いたんだけどなぁ。今まで一番引いたよ?この子」

 

やはり誰もがあの引きを見て、大物がかかったと思ったようである。

 

「じゃあ、あの雲間から太陽が出たら終わりかな」

 

と正面の地平線を指さした。現在雲がかかっていて見えないため、あと十分くらいだろう。欠伸をして、マジ寝から目覚めた月潟が、周囲の様子を見て何か気づいたのか、川内に声をかけた。

 

「川内、日焼け止めは?」

「あー、忘れてた。ちょっち塗るわ」

 

 川内は肌が弱く、日焼けしやすいらしい。顔と手足に塗りながら、水面を見ていると、

 

「うわぁあ」

「すっげぇカツオみたいのいる」

 

と、那珂と川内が盛り上がる横で、

 

「おい朧、あのでっけぇの掬え」

「無理ですよ」

 

と天龍が朧に大物を取れと無理難題を押し付けようとしていた。

 

「ミセスダメだよ。それじゃあ種目変わっちゃうから」

 

塗り終えた川内は天龍を注意した。

 

「魚の前に垂らせば釣れるんじゃない?ねぇ神通?」

「釣れる」

 

それこそ無理難題である。だが、藁にも縋る思いなのか、天龍は神通の根拠のない言葉を信じ、実行に移した。

 

「頑張ってください。天龍さん」

 

青葉は苦笑いしながら、応援していた。

 そして地平線の雲間から眩い紅玉が覗かせた。

 

「いやーこれは出たね」

「出ましたね」

「六時十分!マルロクヒトマル、しゅーりょー!!」

 

 試合終了。結果、那珂160ポイント。天龍100ポイント。夕張0。

 選手インタビュー。まずは三位の夕張から。

 

「えー私、この戦いに参加させていただきまして、私もチャンピオンになれるかもしれない。

そう思い、この七時間。やってきましたが、七時間かかって、ゼロ!!今体全体が虚脱感、虚無感に襲われておりまして・・・。残念です。こんな悲しい朝日を見たのは初めて!」

 

 続いて、今回同行しないはずだったが、急きょ予定変更して駆けつけていただいた、天龍。

 

「まぁ終始良い戦いをしたんじゃないかと。これは負け惜しみではないんだけど、やっぱり昔は勝負ごとに負けて、非常に悔しい。何ならば延長だと。言いかねないけど」

「七時八時までしたい?いいよ、する?」

「い・い・か・ね・な・い!な?ただ今は碇屋提督という人との素晴らしい出会いがあって、本当に勉強させてもらって。それは何かというと、『勝った負けたじゃなくて、どれだけ楽しむか』ということ。今回オレは、楽しかった」

「まるで碇屋さんと初対面のように言ったね、じゃあ那珂ちゃん」

 

 そして最後にチャンピオン、もしくはクイーン那珂。総括して一言。

 

「今回の戦いはかなり壮絶でした。この釣り自体を私は『ゆるい』と企画サイドを一喝したことありましたが、行ってみて、実に!過酷で壮絶でした!まさに激闘でした。二人のライバルにもお礼を言いたいと思います。ありがとう、ありがとう」

 

 那珂は隣の二人に、感謝を述べて終了した。最後の最後に川内から。

 

「もう、寝たいね?」

 

その言葉に三人とも何度も頷いて、那珂から言った。

 

「もう厳しいの。決して碇屋提督に連絡を取らないでね。彼は『今日は何もないから大丈夫だぁ』とは言っていたけど」

「このあと、碇屋さんとね、沖合に浮かぶ砂浜の綺麗な島に行くことになってるから」

「え?」

「碇屋さんとの待ち合わせの時間もあるから」

「え?待ち合わせの時間は!?何時?」

「それはまだだけど、ただ、碇屋さんは八時ごろには起きるから。ね、提督」

 

月潟は頷いた。

 

「こうなったら二択だよ。このままか、一度寝るか」

「そりゃあ寝ようよ」

「じゃあ寝ようか」

「急いで撤収しないと、近いから!起きて『やってるかなぁ』なんて見に来られたら、どうなることか!この釣果を見て、興奮して『じゃ行こうか!』なんて言われたら私たち断れないし、バカみたいに川内ちゃんが『あたし賛成!行こうよみんな』なんてことにもなるから」

「じゃあもう取り敢えず急ぎ撤収して、一眠りして行くと」

 

 川内の足がふらついた。何とか倒れはしなかったものの、それを見た周囲はざわついた。

 

「川内ちゃんも眠いんでしょ?」

「さすがにねぇ」

「じゃあ早く帰ろう!それから提督、携帯は切っておいてください!」

「もう携帯使えないから」

 

不幸中の幸いというやつである。

 

「じゃじゃ、取り敢えずみんな今回はバカンス、お疲れさまでした!」

 

 眠気で限界の川内による、空元気の終わりの挨拶が終わり、全員が頭を下げた後、

 

「バカンスでお疲れ様っておかしくない?」

 

という那珂の突っ込みが入ったが、それは間もなく激闘を制した三人と企画終了を称える拍手で埋められたのであった。

 


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