主人公が女の子になるのは間違っているだろうか   作:エルフ好き

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63話 対等

 

 

 冷めた炉、吊るされた鉄器。熟練の鍛治師の仕事場だった。その端で休憩用のソファーで座っているのは眼帯をした女神ヘファイストスと、その眷属であるヴェルフ・クロッゾだった。

 

「それで、話って何よ?」

 

「はい、えーと俺がラグナの……【ヘスティア・ファミリア】のパーティーに加わってることは以前報告しましたよね」

 

「ええ、聞いたわ」

 

 ヴェルフは鍛治のアビリティを獲得するために【ヘスティア・ファミリア】のパーティーに一時的に加入している。本来ならば【ヘファイストス・ファミリア】の鍛治師とパーティーを組み、ダンジョンに向かうのがセオリーなのだが。

 

ヴェルフには魔剣の才能がある。しかし、それを使おうとしないことで同じ派閥の鍛治師に省かれてしまった。そこで直接契約を交わしてくれた英雄候補の少年とパーティーを組んだ。その経緯は聞き及んでいた。

 

魔剣じゃなく、自分の防具を欲しがってくれた少年に熱い感情を湧かせていたこともヘファイストスは感じ取っており。そのパーティーを気に入っていることも気づいていた。

 

「まずラグナたち……【ヘスティア・ファミリア】は異常な成長をしてます」

 

「異常な成長?」

 

「はい、俺もなんとなくしかわからなかったですが……今日で確信したことで……」

 

 そう言ってヴェルフはパーティーの小人族(パルゥム)の少女について語った。数日前まではサポーターとして貢献していた少女が2日前に戦闘職に転向、そのままヴェルフを超える力で戦っていたこと。

 

「……その少女が、もともと戦闘職だったってことは?」

 

「それはないです。リリスケは昔からサポーターとして過ごしてきたって言ってましたし、槍を持ったのは昨日からだと話していました」

 

「なるほど、それは異常ね……」

 

 異常な成長といえば、黒髪の少年ラグナもそうだ。一ヶ月未満の異次元の【ランクアップ】。間違いなく成長促進系の【スキル】を発現させているとヘファイストスは考えており、おそらく大多数の神たちが察していることだろう。

 

もしも、もしもそんな【スキル】が仲間……いや同じ眷属に対しても作用するものだったのなら。そのサポーターの少女の成長にも説明が付く。

 

「まさかだとは思うけど、ヴェルフ。あなたは……」

 

「はい。俺は【ヘスティア・ファミリア】に少しの間、お世話になろうと考えています」

 

「……そんなこと許すと思っているの?」

 

 仲間を成長させる【スキル】。そんなものが本当にあるのか確実じゃないというのにも関わらず、改宗(コンバージョン)など許すはずがない。何より【スキル】目当てだったなら、ヘファイストスはヴェルフを軽蔑すらするだろう。

 

「何のために、あなたは……」

 

「──今のパーティーで一番の足手纏いは俺です」

 

「っ」

 

「アイツらは俺よりずっと強い。ラグナもベルもリリスケもエイナ嬢も……全員が凄まじい覚悟を持って戦ってる。このままじゃ俺はアイツらに置いていかれるんです」

 

 ラグナは圧倒的な強さと安心感で。ベル・クラネルは怪物的な才能で。リリルカ・アーデは視野の広さと頭の良さで。エイナ・チュールは支援魔法と攻撃魔法、合計6種の魔法で。それぞれがパーティーに貢献している。

 

対してヴェルフは今まで大きな貢献はできていない。ラグナたちが聞けばそんなことはないと慰めるだろうが、ヴェルフはハッキリと理解していた。彼等と自分では大きな隔たりがあることに。

 

「……武具を作って、アイツらの力になることも考えました。でも俺の武具じゃアイツらを助けてやれない……!」

 

 鍛治師としてあまりにも未熟。仲間のために武具の一つも作れないなど、あのパーティーに相応しくない。そう何度も思ってきた。だが、初めて交わしてくれたラグナに報いるために努力しても、実ることはなく。ヴェルフは苦しみを抱えていた。

 

「ヘファイストス様の作る武具を超える作品を作る。そんな決意をした鍛治師(スミス)が仲間のために一つの武具も作ってやれないんです」

 

「ヴェルフ……」

 

「変わらないといけない。俺もアイツらと同じような『覚悟』を刻みたい。そうしないと俺は貴方を超えられない!」

 

 だからこそ【ヘスティア・ファミリア】に入団することを許してほしい。ヴェルフは綺麗に腰を曲げて、敬愛するヘファイストスにお願いをした。

 

他の団員からは裏切りと蔑まれる行為。もしかしたら愛する主神を傷つけることになるかもしれない。何より上級鍛治師(ハイ・スミス)となれば武器に刻める『ヘファイストス』のサイン。それが間近だというのに、それを放棄する。

 

その覚悟にヘファイストスは止めることはできないと悟った。

 

「明日、ヘスティアと話してみるわ。その後、許可するか決める」

 

「ヘファイストス様……」

 

「ただ、貴方が覚悟を刻みたいというなら、まずは──魔剣を打つ覚悟を決めなさい」

 

「魔剣を打つ、覚悟……」

 

 ヘファイストスの言葉にヴェルフは心臓が跳ねたのを感じた。

 

「貴方が忌み嫌うそれは他の冒険者にはない、絶対の武器よ」

 

「……ですが、俺は」

 

「全てを駆使しなければ、私を超える武具なんて一生打てない。私の言った言葉を覚えてるかしら?」

 

「……槌と鉄、そして燃えたぎる情熱(ほのお)さえあれば、武器はどこでも打てると」

 

「ええ。その情熱(ほのお)を燃やすには、何が必要かわかるわね?」

 

 言わんとしてること、それをヴェルフは理解して顔を伏せた。いずれ向き合うことになると予感していた。それと向き合えと敬愛する主神は話す。

 

「それができないなら、私はヘスティアの所に預ける気なんてさらさらないわ」

 

「っ」

 

「だから考えなさい」

 

 ヘファイストスはそう言って、ソファーから立ち上がりどこかに消えていった。崩れた着流しを直し、ヴェルフは静かに自身の掌を見つめた。

 

 

⬛︎

 

 

 教会地下。そこでは手狭であるが、【ヘスティア・ファミリア】の全員が集まっていた。

 

「それで、エイナさんが精神摩耗(マインドダウン)で気絶して……」

 

 今日の出来事についてラグナが主神に報告する。その報告にベルたちも耳を傾けながら話し合いを行っていた。

 

「そのまま、ホームに連れてきたんだね……質問なんだけど、一回の魔法行使で精神力(マインド)が無くなるなんてことありえるのかい?」

 

「ある程度精神力(マインド)が減ってる状態なら、あると思いますけど……あの時は精神力回復薬(マジックポーション)も飲んでいたので……正直ありえないと思います」

 

 いくら万全だったとは言えないとはいえ、一度の魔法行使で精神力が枯渇するなんて聞いたことはなかった。

 

「よほど燃費が悪いのか……それともあまりにも威力が強すぎるからなのか……」

 

「うーん、とりあえずしばらくは第三階位に関しては使用はしない方が良さそうだね」

 

「はい」

 

 ヘスティアの言葉にエイナは頷いた。一回の魔法使用で気絶などしていたら、仲間を危険に晒すことになる。しかし、第三階位の攻撃魔法。その威力はエイナとしても知っておきたい。精神力が増強すれば、安全な階層で検証のために使用しなければならない。そうエイナは思考を巡らせる。

 

「エイナ君とサポーター君の魔法はどうだった?」

 

「……まず、エイナさんですけど凄いの一言でした。第一階位の【リヒトレイン】に関しては殲滅力も詠唱の短さも、パーティーの援護役としても火力としても頼もしいです!」

 

 詠唱の短さ。それは魔法において重要だとラグナは考えている。突如として襲い掛かる怪物、常に戦況が変わる状況ですぐに発動できる魔法があるのは心強い。

 

その脳裏にあるのはベルの【サタナス・ヴェーリオン】とアイズの【テンペスト】がある。単射魔法と付与魔法と効果は違うものの、どちらもラグナが知る魔法の中で一番優秀だと断言できるもの。

 

そんな魔法に近しいものを持っている魔導士が背後にいるだけで、戦闘はとても楽になる。間違いなく、今後の戦いでエイナの主武器(メインウェポン)となるだろう。

 

「第二階位の【リヒトデウス】は第一階位と違って殲滅力こそないですけど、単発の威力が高い。強敵、それこそ階層主なんて怪物と戦う時に間違いなく役に立ちます」

 

「それにプラスして、第三階位か……エイナくんもラグナくんに負けず劣らず、規格外というか……」

 

「化け物です、合計6つの魔法を操れるなんて……【九魔姫(ナインヘル)】じゃないんですから……」

 

「でも、私なんて魔法だけだよ。高速詠唱もできないし……リヴェリア様みたいな技術とか経験が足りないから」

 

「エイナ君は魔法を発現させて間もないんだ、焦ることはないと思うよ」

 

 ヘスティアの言葉にエイナの首を横に振る。

 

「ラグナくんも、ベルちゃんもリリちゃんも……私よりずっと早い速度で成長してる……私も焦らないといけないんです」

 

 それは『ステイタス』でも『精神面』でも。エイナは三人に遅れを取っている。それに焦りを感じずに自身の速度で成長することもできるのだろう。だが、それをしたら黒髪の少年を失うかもしれない状況にエイナはいる。

 

一刻も早く強く。傲慢だとしても、第一級冒険者であるリヴェリア・リヨス・アールヴのようにならなければならない。そんな想いをエイナはエメラルドの瞳に秘めていた。

 

その覚悟を感じ取ったヘスティアは何も言わずに、ただ静かに頷いた。

 

「エイナくんの魔法についてはわかった。サポーターくんの魔法はどんな感じだったのかい?」

 

「リリの魔法ですが……正直、わからないことばかりです。槍と鎧を召喚する魔法だと思ったのですが……瞳が真っ赤になって、全能力が向上、いや激上して……」

 

 リリは自分の掌を見つめて、自身の【魔法】について話した。それにヘスティアが怪訝そうな表情で口を開く。

 

「目が赤くなって、能力が激上……副次効果があったのかい?」

 

「おそらくですが……魔法に関しては検証しないといけません」

 

 もう一度使用して、あの真っ赤な瞳はもう一度発動されるのか。それがわからないと今後の魔法行使に支障をきたす。しかし、24時間の待機時間(インターバル)のせいで簡単に行使することもできない。なんとも難儀な魔法だとリリは溜息を吐いた。

 

魔法について話し終わって、ラグナたちは『インファントドラゴン』とリリとエイナ、そしてヴェルフが戦ったこと。そして中層に進出したことを報告する。

 

「だから……あんなに能力が上昇してたんだね」

 

「あ、そういえば『ステイタス』更新をしてたんでしたね」

 

「うん、これがベルちゃんたちの『ステイタス』だよ」

 

『ベル・クラネル』

Lv1

力 B:734→A:868

耐久D:382→C:425

器用A:875→S:954

敏捷B:710→A802

魔力A:890→S:986

『魔法』【サタナス・ヴェーリオン】

    ・詠唱式【福音(ゴスペル)

    ・単射魔法。

    ・音属性。

『スキル』【運命廻継(アルメー)

     ・病弱発症。

     ・身体能力低下。

     ・耐久力低下。

     ・魔力に高補正。

     ・精神力に高補正。

     【英雄一途(リアリスフレーゼ)

     ・能動的行動時、蓄積(チャージ)実行権。

     ・魔導の一時発現

     ・覇光の一時発現。

     ・想いの丈により効果上昇。

 

『リリルカ・アーデ』

力 E:410→B709

耐久G:240→E:420

器用E:419→C:686

敏捷C:610→B765

魔力G:299→E:406

『魔法』【シンダー・エラ】

    ・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】

    ・解呪式【響く十二時のお告げ】

    ・変身魔法。

    【フィアナ】

    ・詠唱式【(あらた)なる願いを此処(ここ)に。砕かれた宿命、呪われし瞳、光槍は馬蹄と共に。この身は聖女、駆け抜ける小人の守護者。この身は光、勇気を司る女神。刻まれし誓約(ゲッシュ)を破り、もう一度凶猛なる槍を。もし許されるならば、今ここに女神の一装を】

    ・召喚魔法。

    ・全能力を魔法威力に変換。

    ・使用後、24時間の待機時間(インターバル)

『スキル』【縁下力持(アーテル・アシスト)

     ・一体以上の装備過重時における補正。

     ・能力補正は重量に比例。

     【小人騎士(パルゥム・ミレス)

     ・戦闘時『狩人』『槍士』の一時発現。

     ・戦闘時『力』『器用』『敏捷』の補正。

 

エイナ・チュール。

力 I:53→I:55

耐久I:30→I:52

器用H:146→G:245

敏捷I:42→I:54

魔力F:316→E:490

『魔法』【マギナ・ラグナ】

    ・支援魔法。

    ・詠唱連結。

    ・第一階位『マギマ・レイル』

    ・詠唱式【聖女の涙、霊峰の守護、黒の終末(おわり)、歌い続けろ英雄の歌。我が名はアールヴ】

    ・第二階位『マギガ・リルガ』

    ・詠唱式【黒の意志、黒の死願(ねがい)、黒の地獄(みち)、破滅に向かう英雄に精霊の加護を。壊れゆく魂に聖女の歌を、我が名はアールヴ】

    ・第三階位『マギア・アルヴィス』

    ・詠唱式【偉大なる王血(ちよ)、導き賜え。癒しの手は拒まれ、救いの手は焼き払われる。修羅の道に花は咲けず、地獄の大地に風は吹けず、妖精の歌のみが響き続ける。破滅を退き、駆け抜ける英雄に聖女の加護を与えよ、我が名はアールヴ】

    【ヴァンガーデンヘイム】

    ・攻撃魔法。

    ・詠唱連結。

    ・第一階位『リヒトレイン』

    ・詠唱式【大聖樹の光よ、迫り来る仇敵を撃ち払え、我が名はアールヴ】

    ・第二階位『リヒトデウス』

    ・詠唱式【旅人を導きし森光(ひかり)。咲き誇る光花(こうか)よ。破滅を退き、厄災を撃ち払わん。芽吹け、妖精の魔花(はな)、我が名はアールヴ】

    ・第三階位『アスト・ヴァンヘイム』

    ・詠唱式【裁きの業雷(ひかり)が放たれる。地獄の戦乱、巻き起こる終末。神々の角笛は高らかに鳴り響く。至れ、我が魔杖。無情なる魔女の鉄槌。轟け、汝の雷霆。無慈悲なる王の審判。開け、第三の霊峰、我が名はアールヴ】

 

「……情報量がすごいなぁ」

 

 見てるだけで疲労してしまいそうな能力の羅列。新たな【魔法】や【スキル】の発現はなし。だが一度の探索で能力を大幅に上昇させている。特に今日、一番伸びているのはリリ。

 

やはり『インファントドラゴン』と戦った経験値は高いのか、敏捷もAに近い。このまま成長すれば限界値に達するのはあっという間だろう。

 

エイナも魔力以外は大きく伸びてはいない。魔力特化の魔導士だが、攻撃魔法を発現させたことで、これまでとは違う成長を見せていた。おそらく今後はベルやリリに負けない速度で成長するだろう。

 

そしてベル。もうSに達している能力があり、耐久以外の能力値が高く成長している。

 

「ベルくんに関しては、上質な経験値さえあれば、いつでも【ランクアップ】できるね」

 

「……ラグナ、その上質な経験値ってどうやって手に入れるの?」

 

「格上の敵を倒す……それが一番手っ取り早いけど……」

 

「ベル様にとって格上のモンスターなんて……中層では階層主ぐらいだと思います」

 

 今の白髪の少女はハッキリ言って強すぎた。能力値が上昇したことによる剣の威力の上昇はもちろん、彼女の一番の武器である魔法も魔力が向上したことによって更に威力が向上。近中遠距離……全てにおいて強すぎるの一言に尽きる。

 

それに加えて彼女には切り札である【スキル】まであり、彼女にとって格上の怪物は中層の領域には階層主ぐらいなものだった。だからこそ【ランクアップ】の方法が明確に思いつかない。

 

そんな中でラグナが恐る恐る手を挙げた。全員がラグナに注目する。

 

「……一つだけ、案というか。方法はあるんだけど」

 

 そう言って、ラグナはその方法を口にした。

 

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