はい? インタビューですか?
はぁ、あたしの走った菊花賞について聞きたい、と。うーん……まあいいですよ。あ、座りますね。
えーと、まず何から話しましょうか……
そうですね、まずはクラシック戦線というものから。
毎年やってるもんで皆さんにはピンと来ないかもしれませんが、ウマ娘って地方を含めれば一世代にだいたい三千人いると言われてるんですよ。
クラシック戦線に出走できるのはその1%ほどの上澄みなわけです。
天下のトレセン学園においても、やっぱりクラシック戦線を戦うウマ娘って言うのは優等生って言うかエリートって言うか……。
まあそりゃ普段は学生らしくじゃれあったり遊んだりもしてるんですけど、そうでない子との間には、どこか壁みたいなものはありまして。
で、そんななかであたしは……まあ、トレーナーもあっさりついて、デビューで負けてからちょっとずるずる行きかけたけど、どうにか一勝して、そこからは昇り調子で年内に重賞も取れた。まず間違いなくクラス内ではトップ集団って感じでしたね。
うちのトレーナーは良く言ってました。お前達はクラシックに出てこれない同世代のウマ娘達の思いを背負ってるんだ、それに恥じない走りを、レースをする義務がある、って。
で、そう思って出た皐月賞で思い知らされたわけです。
3000人の同世代ウマ娘たちの頂点、このクラシック戦線においても、一段上の娘というのは存在するんだって。
ノーリーズンとタニノギムレット。あの娘達は別格でしたよ。ええ。先団からものすごい勢いで伸びてレコードで走りきったノーリーズン、そんなノーリーズンをわけのわからない末脚でギリギリまで追い詰めたタニノギムレット。あんな大外を回してたのに……あり得ませんよ。
出走した子たちのなかには、もう無理だってクラシック戦線から抜けたり、あるいは長い距離は無理らしいと割りきって短距離に行く子もいました。
でも、あたしは諦めませんでした。まだ一戦目、まだまだやれることはある、って。
能力と、意思と、幸運と、それから才能。自分はそれなりの物を持っていると思っていましたし。
そう思って出走したダービーで、また一人段違いの子が参戦してきたんですが。はい、シンボリクリスエスです。
いやーわけのわからん末脚が世代に二人とか勘弁してほしいと思いましたよ、ええ。
でも、ノーリーズンには先着できて、それは大きな自信になりました。
ライブの後トレーナーとも話して、次は菊花賞に出ると二人で決めて、スタミナ強化メニューを組んでもらって寮に帰ったんですよ。
そしたら、談話室でポテチとコーラでささやかなお祝いをしてるクラスメイトに会ったんです。真ん中に座らされてる葦毛の子が初勝利したんだー、って。
その娘達は、まあクラスメイトなんですけど、なんかなかなか未勝利から抜けられなかった子たちで、あたしもなかなか初勝利できなかったころに少し話した事があった、ってくらいですね。
あ、でも初勝利したときにはおめでとう、って言ってくれたっけ。
あたしが笑ってお祝いを言ったら、紙コップにあたしの分のコーラを注いでくれようとしたんです。
トレーナーにこれから菊花賞に向けて体を絞ると言われてたんで、一口分だけにしてもらいました。
おおー、流石はクラシック組ー! とか笑って持ち上げられて、あなたはオープン入り、あたしは菊花賞制覇! 目指してお互い頑張りましょう! おー! って乾杯しました。
そこからは夏合宿で菊向けのトレーニングでしたけど、一言で言えば地獄でしたね。
ウマ娘の距離適性ってある程度は練習とか精神力でなんとかなるんですが、あくまでもある程度で。
皐月賞2000mの時点でも距離が向かないって止めてく子も結構いたんですが、3000mになるとどうにもならない子も多いんです。
あたしはどうにかなる側でした。けどキツいもんはキツいんです。
トレーナーは言いました。
3000mを走るのは誰もがキツい。しかも京都レース場は終盤に坂がある。登り降りした後に最後のスパートをかけるのは地獄の苦しみだが、それに耐えないと菊の冠は得られない、と。
合宿が終わって久しぶりに学園に戻ったら、あの葦毛の子もそこそこ走って負けたり勝ったり負けたりしてたと聞いて。がんばってるなー、なんて思いました。
まあそんな気持ちも、ギムレットの怪我とクリスエスの秋天参戦のニュースの前に吹っ飛んじゃいました。
格上の子はもうダービーで負かしたノーリーズンだけ、これは、なんとかなるかもしれないって。
いざ菊の出走メンバーが発表されたら例の葦毛の子が参戦してたときはビックリしましたね。
なんかトレーナーさんが勝手に申請して、たまたま枠が空いてて、抽選にも勝って出走ということになったとか。
まあ、記念出走気味の子はこれまでもいましたし。特に気にもせず、頑張ってね、いいレースをしましょうなんて社交辞令を投げつけて意識の外に追い出したんです。
菊の当日もまぁピリピリしてましたね、回りのみんなノーリーズンをバリバリ警戒してて。あたしもそうでした。
こいつを出し抜ければクラシックウマ娘だって。
でも、あの葦毛の子はひえーっとんでもないところに来ちゃったなあ、って移動教室の部屋を間違えたみたいな顔でおろおろしてましたね。
のんきな子だなあ……って感じで。誰も警戒はしてなかったと思います。
で、レースが始まって。で、まあ早速大波乱ですよ。ノーリーズンが転んで失格になったんです。
あたしたちクラシック常連組は目がギラッてなりましたよ。大チャンスだ! って。
そっから先はひたすら我慢比べ。もう必死で走りました。何人か脱落して、坂を上って、降りて。ここからが勝負だ……ってときに、外から葦毛のあの娘が上がってきたんです。
そのときのあたしは、何て言うか。
なんだ、あんたも必死なんじゃんって思ったんですよ。
あの坂道をスパートかけながら登って降りるなんて、普通の子は耐えられませんよ。
あの娘、以外と根性あったんだ。よし、どっからでも来い! 同じ舞台で勝負だ! ……
って、顔をチラッと見ました。
あたしや皆と同じく魂を削って走っている、見たことのない必死な彼女の顔があると思ったんですよ。
そこにあったのは見慣れた、ちょっと困ったなー、くらいの顔だったんです。
例えるなら、『うへー二限に英語のテストあるじゃーん』みたいな顔でひーひー走っているその子がいたんです。
そんな顔のままじりじりとあたしたちを抜いていくんです。
いや、頭おかしくなりそうでしたね。今のペースが限界、ゴールまで持たないとわかってるのに、あたしたちはペースを上げざるを得ませんでした。
で、そんなあたしたちをあの娘はやっぱりひーひー言いながら突き放していくんです。
トレーナーの言葉の続きを思い出しましたね。
3000mを耐えられるウマ娘はそうそういない、自信を持て。
ただ時折、3000mを『耐えられる』のではなく『走れる』ウマ娘、所謂『ステイヤー』と呼ばれるウマ娘達がいる。
お前はステイヤーではないが、クラシック戦線や有力ウマを見る限り、同年代にその才能の持ち主はおそらくいない。同年代限定戦なら3000mでも勝機はある。って、そう言ってたんですけど。
いるじゃん……ここに……。って思いました。
で、ゴール前で限界を迎えて、届かない彼女の背中を見るしかないあたしたちの脇を、すごいスピードで抜いてく娘がいまして。葦毛の子に迫ったんです。
もうわけがわからなくて。それでもどうにか前を見てたら、葦毛の子が後ろをチラッと見ました。
それで……やべっ、て顔をして、加速したんです。
やべっ、ですよ。ええほんとに。やべっ。ええ。
笑っちゃいましたね。
追い込んだ子も呆気にとられてましたよ。
結局あたしのクラシック戦線は、三回ともタイプは違いますけどそれぞれ別の怪物に思い知らされる感じで終わりました。
あの子がのちに春天をとった時にもそんなに驚きはなかったですよ。あの子は3000mの向こうに最初からいるウマ娘なんですから。
その次は心底驚かされましたけどね。
……あたしですか? その後ケガもしちゃったりして、なかなか勝てなかったんですが、なんとか重賞をもう一回とって……
ええ。そこはあの子に勝ちましたね。お互い結構長くリハビリしてたんで、一緒にやることも多かったんですよ。
今後は、引退の予定です。大学にいこうと思って。スポーツ推薦でいいところいけそうなんです。
え? 最後に彼女に一言?
うーん、そうですねぇ……
『G1を3つ勝っといて何が普通だ! いい加減諦めろ!』
こんなところですね。それじゃあ。