ぼくのかんがえたさいきょうのせーと   作:秋九

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執筆済みはここまでとなります。ここからは、投稿頻度が落ちると思いますが、最後までお付き合いいただきたいです。
改めて、いつも誤字脱字報告や感想、評価ありがとうございます。


28話 ゲームメイク

 

 1日目のディスカッションが終わり、俺は橋本に電話をかけていた。

 場所は地下二階の休憩スペース。周囲が見渡せて、誰かが近づけばすぐに分かるため、都合のいい場所だった。

 プルルルとスマホは震えて、2コールすれば電話に出てくれる。

 

「やっほー、橋本くん。夕方に頼んだ壁の件ありがとう。急なお願いだったのに完璧にやってくれてたみたいで感謝するよ」

 

 俺の言葉に、電話の向こう側の橋本はため息をついた。それは、俺の言った壁の件に対する不満か、それ以外か。

 けれど、どこか橋本が嬉しそうにしていると感じるのは、彼が自らを必要としてくれる人を無意識に欲しているからだろう。

 

「ほんとにな?人使い荒ぇよキング。……で、これはそのお礼の電話ですかい」

「怒ってるのか?はははっ、悪かったよ。これは感謝の電話さ。でもあのお願いは、君が一番上手くやると思ったんだ」

 

 俺の頼んだ事とは、2回目のディスカッションが始まる前にDクラスのメンバーと話し合いをするから、その周囲をAクラスで囲って欲しいと言ったものだった。

 堂々とカフェで戦略について語っていたのは、橋本に信頼を置いていたから。彼なら、俺たちの会話を聞かれるようなヘマはしないという自信があった。実際彼は人を使い、配置し、上手く壁を作ってくれた。

 

「それで、追加でお願いがあるんだけど、いいかな?」

「ほらみた嫌な予感がしたんだ。けど、無理だって言っても、アンタは喋り出すんだろ?……へいへい、次の命令はなんでしょうか」

「ありがとう橋本くん」

 

 快い返事をもらえたので、俺はすぐに本題に入ることにする。

 

「明日、4回目のディスカッションが始まってすぐに。俺は()()()()()()()()()()()と掲示板で告知する。橋本くんはそれを広めてくれないか?」

「は?」

「ん、聞こえなかった?優待者の販売……」

「いやいや、聞こえたよ!理解ができなかったんだ」

 

 確かに唐突すぎたかもしれない。理解ができなくても仕方がないけど。でも、これ以上説明のしようがないんだよな。

 坂柳と葛城にはすでに話してたけど、二人は頭の回る人間だ。あいつらと同じ説明ではいけないかもしれない。

 

「何がわからなかった?」

「全部だよ、全部。まず優待者の情報の販売ってなんだよ?」

「んー、言葉通りだよ。各グループの優待者が分かった。だから、その情報を売ることに決めたんだ。その告知を掲示板でするつもりだから、橋本くんには噂として広めて欲しい。あっという間に、学年全体に広まるようにね」

 

 そんな説明をした後、得意だろ?と追加して言えば、返ってくるのはやはりため息。失礼なやつだな。あとで締めるか?

 

「どこから突っ込めばいいのか、俺にはわからねぇ」

「ツッコミどころなんて一つもないよ。君ならできるだろ?」

 

 返事はなく、沈黙が流れた。まあ、反応は微妙だけど、どうせ彼ならやってくれる。どうやら、俺のしてほしいことは伝わったようだし、問題ないはずだ。

 じゃあ頼んだよとだけ伝えて電話を終えた。

 

 そしてふと思い出した。そういえば、櫛田にミニゲームの真意について問い詰められていたな。

 電話を終えたスマホを開いてみれば案の定、着信が三件。全て櫛田からだ。こちらから折り返しの電話を入れて、俺は結果1を狙ってることと、櫛田にデメリットは何一つないという約束。あとは適当に喜びそうなことでも言えば櫛田との話は、はい終わり。

 

 今度は坂柳に絡まれた。

 

「どうして手を掴んだんですか?」

「話したくなかったからだよ」

 

 今だに俺の背後に立つ坂柳に座りなよと声をかけてソファから立ち上がる。エスコートするように手を差し出せば手を握ってくれたので、その柔く小さい手を引きながら俺の座っていたソファを譲った。

 いつもと変わらない表情は、口元が緩やかに弧を描いているけど、黒いモヤが見えてきそうだ。

 向かい側のソファに再び腰を下ろし、坂柳を見る。

 

「どうしてこんなところに?神室も連れてないなんて珍しいな」

「あら、私だってたまには一人で散歩を楽しむんですよ」

「そうか、でもおすすめはしないな。君は側に誰かを付けているのが似合ってる」

 

 俺は坂柳の頭脳については認めているけど、身体能力については贔屓目で見ても最低評価を下している。

 もちろん本人も、それは分かっているだろう。坂柳自身が、誰彼構わず喧嘩を吹きかけるような性格じゃないにしても、どこで恨みを買うかなんて分からないものだ。一人でいるところを襲われでもしたらどうするつもりだったんだろうか。

 まあ、坂柳がどんな()()()()()()ここに来たかは知らないけど、忠告くらいはしても悪いことじゃないだろう。

 

「じゃあ、君には用事がありそうだし。俺はもういくよ」

「はい、お気をつけて」

 

 これ以上の会話はない。この場を去ろうとソファから腰を浮かして坂柳の横を通る。その瞬間に、坂柳が不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「女の子の恨みは怖いですからね」

 

 それは坂柳のことなのか、それとも櫛田のことなのか。

 そろそろ櫛田も扱いづらくなってきた。まだ切りはしないが、確かにそうだな、最後まで丁寧には対応させてもらおう。坂柳に関しては知らねえ。

 

「忠告ありがとう。心に留めておくよ」

 

 横目で坂柳を見下ろす。そして、それ以上の会話もなく、俺はこの場を去った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 試験開始2日目。3回目のディスカッションが始まった。

 今日までの間に、クラスメイトからどう立ち回ればいいかの質問こそされたが、特筆すべきとこもなく……いや、唯一面白いことがあった。昨日の夜に猿グループの試験が終了した。猿グループのメンバーを考えた時におそらく高円寺六助が独自に動いたと思われ、櫛田に確認してみればその通りだと返事がもらえた。しかし別に問題はない。猿グループの優待者はBクラスなのが()()()()がまあ終わったことは仕方がないからね。

 

 竜グループでは今日も、例に倣って各クラスで固まるように座り、開始の合図が出て少しの間を置いてから、一之瀬が口を開いた。

 

「今日もミニゲームをするってことで大丈夫かな?」

 

 周囲を見て返事がないことを確認した一之瀬がじゃあ始めよっと短く言って、再びミニゲームが始まった。

 

 俺は龍園に、2日目と伝えている。2日目に行動を起こすよって宣言してると言うわけだ。

 彼は今頃ソワソワしてるんだろうか。冷ました顔で、コイツは優待者だったぜなんて宣言してる様子からは想像もできないけど、そんな彼の内心を考えてみれば面白い。

 俺が行動をするのは4回目のディスカッションの時。つまり、今日の午後。

 ミニゲームも俺の想像通りの展開ばかりであまり面白くないし、正直暇だ。このミニゲームで頭を使ってるのは、俺のアドバイスを素直に受けとめた一切気の抜けない優待者の所属するDクラスと、何も知らない何事にも全力なBクラスくらいだ。

 一之瀬は賢い人間だから、このミニゲームが何の意味もない暇つぶしになりつつあることを察しているようだけど、今はまだこれ以上何もできない事実を踏まえて、何も言うことはない。

 

 まあ、本当に最低限くらいの暇つぶしにはなったな。

 

 そして、4回目のディスカッションが始まった。それから10分もしなかった頃だろう。

 

「ごめん、ミニゲームを中断してもいい?獅峯くん、これって何かな?」

 

 一之瀬がゲームを中断させて、俺に向けたスマホの画面に映っていたのは、さっき俺が投稿した掲示板だ。

 

『優待者情報の販売を試験3日目6回目のディスカッション終了後30分間に行う。

・Aクラス 90万pr

・Bクラス 70万pr

・Cクラス 50万pr

・Dクラス 20万pr

優待者の情報が間違っていた場合、プライベートポイントは倍で返済する。

なお、6回目のディスカッション時に予約を開始する。』

 

 うん、噂はしっかりと広まってくれたみたいだ。橋本に頼んで正解だったな。

 一度、一之瀬に向けられたスマホの画面を見て、何事もなかったかのようないつも通りの表情を作る。

 

「あぁ、それのことか。焦った様子だったから、何かあったのかと驚いちゃった」

「ごめんね、今クラスメイトから連絡があってさ。どういうことかな?」

 

 一之瀬の様子から興味を惹かれたグループのメンバーが、各々スマホを取り出した。Bクラスのメンバーは一之瀬からスマホを見せてもらっている。

 俺は軽く全員を見回しながら再び話を始めた。

 

「そのままの意味だよ。深読みなんてしなくていい、()()優待者の情報を売ることにしたって話さ」

 

 龍園は面白そうに、堀北たちDクラスは焦ったように、全員の視線が俺に集まる。

 Dクラスに関しては、俺に裏切られたと感じただろう。共にCクラスを陥れようと結託したばかりだ。この状況が理解できてないことに間違いない。さっきまでのミニゲームでも、Aクラスは櫛田桔梗を隠すように動いていたのは事実なのだから。

 

「貴方の持っている優待者の情報が正しいとは限らないわ」

 

 堀北の冷静を装った指摘に応えようとすれば、口を開いたのは龍園。浅く座り、全員を見下すように言った。

 

「信じたい奴だけが信じればいいだろ?クククッ、俺は買うぜ?情報が間違ってても補償があんのなら買わない理由はないからな」

「あぁ。だって掲示板記載したんだ、反故にできないしするつもりもないよ。買う側のメリットは大きいと思う」

「……Aクラスのメリットは何?優待者に気付いたのなら、裏切るのが最もメリットが多いはずよ」

「Aクラスじゃない。俺にメリットがたくさんあるんだ。大量のプライベートポイントゲットで大金持ちー、みたいな」

 

 はははと笑えば、沈黙だけが響いた。

 俺たちAクラスは実力主義を掲げている。俺がクラスメイトに義務付けているのは支給されたプライベートポイントの5割だけで、つまり裏切ったことにより得たプライベートポイントの貯蓄は義務付けていないということ。

 俺が独断によって行う情報の販売で得たプライベートポイントは、Aクラスの貯蓄に回るのではなく、俺の個人のポイントにできる。

 その大きなメリットが、俺の独断行動だという裏付けだ。

 

「じゃあこの販売は、獅峯くんの個人的なことって認識でいいのかな?その割には、同じクラスの坂柳さんも葛城くんも落ち着いてるみたいだけど」

 

 そう、この戦略については坂柳と葛城、ついでに言えば橋本に伝えていた。でもこれは俺の独断、そう、見せなければならない。

 もちろん、この販売によって得られたプライベートポイントはしっかり貯蓄に回すことを、坂柳も葛城も知っている。知らないのはAクラスの庶民だけだ。

 

 鋭い一之瀬の指摘には、目を伏せて腕を組んでいた葛城が答えた。

 

「俺と坂柳は事前に聞いていた。ただ、優待者の情報を得たのは獅峯だ。それをクラスに貢献するために使うも、使わないも獅峯の自由。なにより、獅峯が販売することに俺たちのデメリットはないからな」

 

 葛城その言葉に同調するように、坂柳は微笑んだ。

 その通り、Aクラスの優待者情報の価格は最も高い90万prで、個人では手の出しにくい金額だ。クラスで出し合って購入してもいい。けど、Aクラスの優待者情報を一人買うより、Dクラスの3人を買った方がメリットは大きい。

 つまりAクラスは売れにくく、売れたとしても俺の得るリターンが大きい。葛城の言った、デメリットがない、というのは間違いじゃない。

 

「俺は全生徒に等しく販売をするつもりだよ。それは、Aクラスにも売るってこと。俺の立場はそうだな、ゲームマスターとでも言おうかな。クラス関係なく誰に対しても平等に販売をする。一つの情報は一人にしか売らないし、売れなかった情報で俺が裏切ることもない」

「つまり、プライベートポイントを得るために、クラスの利を捨てるというわけか」

「はははっ、そんな酷い言い方するなよ、神崎くん。リーダーにだって我が儘を言いたい日くらいあるさ」

 

 全クラスの情報が売れた場合、俺が得られるプライベートポイントは690万pr。裏切り者を出しても、450万pr。その差は歴然だ。

 龍園には100万prを貸しているから、そのポイントを使いきっとたくさんのクラスから買うだろう。まずDクラスが売れることは間違いない。得た情報をもとに裏切れば50万prを貰えるので、確実に利益が出る。

 

 しかし、メリットがあるのは俺だけじゃない。先ほどの通り、Dクラスの情報を買えばすぐにでも利益が。Cクラスを買っても、確実にクラスポイントを得られる。B、Aクラスでも、上のクラスのクラスポイントを確実に減らせることを考慮すれば、高いポイントでも買うことはデメリットばかりじゃない。

 そもそも、優待者の情報を得たのに、問答無用で裏切らないだけで他のクラスにとってはメリットだ。

 買われるリスクを気にするのなら、自らのクラスの情報を買えばいい。そうすれば優待者の情報を守ることができる。

 

 そして、案の定。どのクラスからも優待者情報の販売をするなという声は出なかった。

 

 しかし、不満くらいはあるのだろう。状況を理解した様子の堀北が俺を睨みつけるように見て口を開く。

 

「話はわかった。けれど、Dクラスが安すぎるわ」

 

 Aクラスから20万ずつ低くなっていく価格調整だったが、Dクラスだけはさらに安くして、一人20万prにした。もちろんわざとだ。

 売れてほしい、売れそうなことに焦ってほしい。そんな意図がある。

 

 笑顔を浮かべて堀北を見つめ返し、俺は軽い口調で言葉を返す。

 

「適正価格だと思うけど?それに、安いのはデメリットかな。考えてみなよ、メリットだろ」

「自分のクラスの情報を買えばいいって話ね」

「そう。150クラスポイントを守るのに、60万プライベートポイントしかかからないなんて、安いだろ?」

 

 その60万prを払えるか、今度はそこに焦点が当たる。

 微妙な価格だろう。極端に安ければ、買って守りやすいが、60万prは個人が持っているポイントとは言えない。ましてや、ついこの前まで0clだったDクラスであればね。

 クラスメイト全員から回収できれば、一人15,000pr。しかし、しっかり全員から集められるのだろうか。

 俺は知っている、高円寺六助という男は絶対に払わない。彼を免除にすれば広まる不満の波。そう、Dクラスは決して一枚岩じゃない。金欠のDクラスだ、じゃあ俺私も出したくない。そんな声が出ることは間違い無いだろうな。

 恐怖政治のCクラスや、圧倒的チームワークを持つBクラスであれば、簡単に集まりそうな金額なのにね。

 そう、俺は個人に売ると言いながら、クラスから買われることを想定している。個人が莫大なポイントを払い情報を得ても、自分の所属するグループの優待者情報でなければ裏切れない。

 Dクラスに圧倒的不利な販売ルールだ。

 

 俺はスマホを一瞬確認して、時間を見る。うん、ちょうどいいな。

 

「価格を調節してもらえないかしら?」

「悪いけど、————」

 

 俺が話を終える前に、ディスカッション終了のアナウンスが流れた。強制的に言葉を遮られる。

 そして沈黙が流れて、全員の視線が俺と交差した。やれやれと言った風を装って、俺は再び口を開く。

 

「仕方ないね。この販売について、全員思うところが少なからずありそうだ」

 

 俺はゆっくりとした動作で椅子に浅く座り直す。背もたれに寄り掛かり、足を組んで、全員を威圧するように。

 少し微笑んでから喋り始めることにする。

 

「30分後に、ここ竜部屋で。各クラスで()()()()()()()が一人来てくれ。俺の望む、優れた人物が来てくれたら話し合いをしよう」

 

 俺が待つのは清隆だ。他は誰が来ようとどうでもいい。ここにアイツが来ること、それに意味がある。

 

 なあ清隆。おまえが全力を出せるような環境くらいは俺が作ってやるからさ。

 

 だから、陰でコソコソなんてしてないで、表舞台に出てこいよ。

 

 




『補足説明』
獅峯がやりたかったのは、綾小路を表舞台に引き摺り出すこと。獅峯の行動理念は基本的にこれに繋がる。
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